JP4016377B2 - 集束剤、それを用いたガラス繊維およびガラスフレーク、ならびにこれらを含有するフェノール樹脂 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ガラス繊維またはガラスフレークに塗布する集束剤に関する。さらには、この集束剤を塗布したガラス繊維およびガラスフレーク、ならびにこれらを強化材として含有するフェノール樹脂に関する。
【0002】
【従来の技術】
フェノール樹脂は、耐熱性、難燃性および寸法安定性に優れるが、一方で非常に剛直で脆い性質がある。そのため、従来から金属フレーク、マイカもしくはガラスフレークなどの粒状粉体またはガラス繊維を始めとする無機繊維もしくは有機繊維を強化材として配合することが行われている。
【0003】
ガラス繊維は白金製ブッシングから熔融ガラスを引き出すことにより成形され、これを数百本〜数千本束ねるために集束剤が用いられる。集束剤は、ガラス繊維を集束するだけでなく、その表面を改質し、フェノール樹脂との接着性を高める機能も果たす。一方、ガラスフレークは粒径が数マイクロメートルの鱗片体であり、その比表面積が極めて大きく、かつ、軽量である。そのため、これらを集束剤を用いて顆粒状に成形しなければ、容易に飛散してしまうなど取扱い性が極めて悪い。そこで、ガラスフレークにも集束剤が塗布され、顆粒状でフェノール樹脂に配合されることが多い。ガラスフレークの組成成分含有率は、ガラス繊維のそれとあまり変わらない。そのため、ガラスフレークもまた集束剤で表面改質されて初めて、フェノール樹脂との接着性が向上する。
【0004】
上記のようなガラス繊維およびガラスフレークに塗布される集束剤は、フェノール樹脂などマトリックス樹脂との接着性を左右する重要な要素であり、従来から種々の含有成分について検討がなされてきた。現在では、酢酸ビニル、アクリル、ウレタンもしくはエポキシ樹脂などからなる被膜形成剤およびシランカップリング剤を主成分とし、さらに潤滑剤および帯電防止剤などを用途に応じて適宜添加したものが一般に利用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の強化材を含有するフェノール樹脂は、自動車のエンジン周りの部品やモーターの整流子(コンミテータ)などの高温環境下で使用する部品に加工されることが多い。この場合、強化材にはガラス繊維またはガラスフレークなどの耐熱性の高い無機酸化物が適している。ところが、近年では高性能化、高耐久化への要求が、より一層大きくなってきている。
【0006】
この発明は、このような課題に着目して完成されたものである。その目的とするところは、フェノール樹脂との接着性を高めたガラス繊維およびガラスフレーク、ならびにこれらの強化材を含有することにより、初期強度のみならず、とくに熱間強度および耐熱衝撃性などの耐熱性が向上したフェノール樹脂を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明の集束剤は、ガラス繊維またはガラスフレークの集束剤であって、被膜形成剤として、ブロックイソシアネートとブタジエン共重合体またはスチレン・ブタジエン共重合体の少なくとも一方とを含有し、集束剤中の全固形分重量を基準として、ブロックイソシアネートとブタジエン共重合体とスチレン・ブタジエン共重合体との合計の含有率が固形分で80重量%以下のものである。
【0008】
請求項2に記載の発明の集束剤は、請求項1に記載の発明において、集束剤中の全固形分重量を基準として、ブロックイソシアネートの含有率が固形分で1〜60重量%、かつ、ブタジエン共重合体およびスチレン・ブタジエン共重合体の合計の含有率が固形分で1〜40重量%のものである。
【0009】
請求項3に記載の発明の集束剤は、請求項1または2に記載の発明において、集束剤中における全固形分の含有率は、3〜20重量%のものである。
【0010】
請求項4に記載の発明の集束剤は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、被膜形成剤として、ケイ酸塩を含有するものである。
【0011】
請求項5に記載の発明の集束剤は、請求項4に記載の発明において、集束剤中の全固形分重量を基準として、ケイ酸塩の含有率が固形分で40重量%以下のものである。
【0012】
請求項6に記載の発明のガラス繊維は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の集束剤を、固形分で0.1〜3重量%含有するものである。
【0013】
請求項7に記載の発明のガラスフレークは、請求項1〜5のいずれか1項に記載の集束剤を、固形分で0.1〜3重量%含有するものである。
【0014】
請求項8に記載の発明のフェノール樹脂は、請求項6に記載のガラス繊維または請求項7に記載のガラスフレークを含有するものである。
【0015】
請求項9に記載の発明のフェノール樹脂は、請求項8に記載の発明において、ガラス繊維およびガラスフレークを合計で3〜80重量%含有するものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の好ましい実施の形態について、詳細に説明する。
この発明のガラス繊維またはガラスフレーク(以下、これらをまとめて「強化材」と称す)は、被膜形成剤としてブロックイソシアネートとブタジエン共重合体またはスチレン・ブタジエン共重合体の少なくとも一方とを含有するものである。ブロックイソシアネートは、反応性に富んだイソシアネート基を公知の保護基で保護して水に分散させたものである。集束剤中では、この保護基によってイソシアネート基の活性が抑制され、安定成分として存在する。集束剤を強化材に塗布し、必要に応じてガラス繊維を適当な長さに切断し、またはガラスフレークを造粒しつつ、この保護基が外れないように慎重に乾燥(溶媒除去)させる。その後、この強化材をフェノール樹脂に混練(含浸)し、硬化させ、キュアを行う。この混練後の一連の処理工程において、前記保護基が解離し、ブロックイソシアネートは集束剤中のその他の成分およびフェノール樹脂と反応して、これらと強固に結合する。また、ブタジエン共重合体は耐摩耗性、反発弾性に優れ、スチレン・ブタジエン共重合体は、耐摩耗性および耐老化性に優れる。これらを集束剤に添加することにより、フェノール樹脂の耐熱衝撃性を改善することができる。
【0017】
集束剤中の全固形分重量を基準として、ブロックイソシアネート、ブタジエン共重合体およびスチレン・ブタジエン共重合体の合計の含有率が80重量%以下であることが好ましい。この含有率が80重量%を超えると、集束剤中のその他の成分たとえばシランカップリング剤もしくはウレタン樹脂などの含有率が相対的に低下するため、強化材の集束性が低下したり、フェノール樹脂の耐熱性が低下したりし易い。
【0018】
集束剤中の全固形分重量を基準として、ブロックイソシアネートの含有率が固形分で1〜60重量%、かつ、ブタジエン共重合体およびスチレン・ブタジエン共重合体の合計の含有率が固形分で1〜40重量%であることが好ましい。ブロックイソシアネートは、反応性が極めて高いため、その含有率が1重量%未満であっても、フェノール樹脂の初期強度を向上させることができる。しかし、フェノール樹脂の耐熱性も向上させるためには、その含有率は1重量%以上であることが好ましい。さらには、3重量%以上が好ましく、10重量%以上が好適である。一方、ブロックイソシアネートの含有率が固形分で60重量%を超えると、集束剤中のウレタン樹脂など他の被膜形成剤の含有率が低くなりすぎて、強化材の集束性が低下し易い。また、ブタジエン共重合体およびスチレン・ブタジエン共重合体の合計の含有率が固形分で1〜40重量%であれば、集束剤中のその他の成分による効果を排斥することなく、上記フェノール樹脂の耐熱衝撃性の改善が達成される。さらに好ましくは、10重量%以上である。なお、スチレン・ブタジエン共重合体は、その一部が変性したもの、あるいはビニルピリジンが共重合したものなどでもよい。また、スチレンの含有率が20〜60重量%のものが好適である。
【0019】
集束剤は、被膜形成剤としてケイ酸塩を含有してもよい。ここでケイ酸塩とは、アモルファスシリカを対になる塩の存在により安定化して、均一に水に溶解させたものをいう。ケイ酸塩は、水ガラスより耐熱・耐水性に優れ、水性シリカゾルよりは劣るが十分な耐熱性と造膜性・接着性を有している。ケイ酸塩が被膜形成剤としてどのように機能しているのか、詳細な機構は不明だが、本発明者は、強化材と、集束剤成分と、フェノール樹脂との間の媒体として関与して、これらの耐熱性をさらに向上させると推測している。ケイ酸塩はシランカップリング剤の機能を補完すると考えられるが、その他の成分を勘案して、集束剤の全固形分重量を基準として、含有率は固形分で40重量%以下であることが好ましい。さらに好ましくは、10〜30重量%である。
【0020】
集束剤の作製方法は、全体として安定に存在する限り、とくに限定されるものではない。
【0021】
集束剤中における全固形分の含有率は、3〜20重量%が好ましい。この含有率が3重量%未満の場合は、集束剤の粘度が低すぎて、強化材に集束剤が付着し難くなり、必要量を付着させるために複数回の塗布作業が必要となるなど、強化材の生産性が低下する。一方、20重量%を超えると、粘度が高くなりすぎて、強化材に均一に付着しなくなる。さらに好ましくは、5〜15重量%である。
【0022】
集束剤を強化材に塗布する方法は、とくに限定されるものではない。たとえば、ガラス繊維の場合は、熔融ガラスを紡糸・成形する段階で、アプリケータを用いて接触塗布する方法が挙げられる。集束剤が塗布された後、それらが数百本〜数千本束ねられて、一本のガラス繊維を構成する。このガラス繊維は、長さが数千メートルあり、フェノール樹脂への配合方法により、長繊維のまま配合されその後適当な長さに切断されることもあれば、適当な長さに切断された後に配合されることもある。通常は、チョップドストランド(以下、「CS」と称す)と呼ばれる長さ数ミリメートルに切断された状態でフェノール樹脂に配合される。また、ガラスフレークに集束剤を塗布する方法として、ガラスフレークに集束剤を噴霧し、その後転がり振動を与えつつ加熱乾燥させる方法が挙げられる。この転がり振動を与えることにより、ガラスフレークは顆粒状に成形される。
【0023】
強化材における集束剤の付着率は、固形分で0.1〜3重量%が好ましい。この付着率が0.1重量%未満では、集束剤が少なすぎて、ガラス繊維の毛羽立ちおよびガラスフレークの飛散による取扱い性の低下が問題となり易い。一方、3重量%を超えると、製造コストの面から好ましくない。なお、この付着率は、JIS R3420に基づいて測定した。すなわち強熱減量の値である。
【0024】
集束剤を塗布した強化材は、公知の手段により、フェノール樹脂に配合される。たとえば、ハンドレイアップ法、スプレーアップ法、レジントランスファ成形、SMC/BMC法、フィラメントワインディング成形または引抜成形法などが挙げられる。これらの方法において、通常はフェノール樹脂を150〜200℃程度で一定時間キュアすることにより、フェノール樹脂を成形固化する。加熱成形またはキュアのときに、上記ブロックイソシアネートの保護基が外れて、シランカップリング剤、被膜形成剤およびフェノール樹脂の間の反応が急速に進行する。なお、常温硬化のレゾール型のフェノール樹脂の場合は、成形後のキュア段階で完全に反応が進行する。
【0025】
フェノール樹脂には、ガラス繊維またはガラスフレークのいずれか一方のみを配合してもよいし、これらを併用して配合してもよい。ガラス繊維は、フェノール樹脂の機械的強度の改善に有効である。一方、ガラスフレークは、フェノール樹脂の寸法安定性および耐水性の改善に有効である。フェノール樹脂の要求特性に応じ、これらを適宜選択して利用することが好ましい。
【0026】
フェノール樹脂は、ガラス繊維およびガラスフレークを合計で3〜80重量%含有することが好ましい。この含有率が3重量%未満であれば、強化材としての機能が不足し易く、一方80重量%を超えると、強化材の含有比率が高くなりすぎて、フェノール樹脂の成形が困難になる。この強化材を含有するフェノール樹脂は、熱間強度および瞬間耐熱性が極めて高いので、トランスミッションまたはエンジン関連部品などの車両用部材、あるいはコンミテータなどの電気・電子部材などに利用することができる。
【0027】
【実施例】
以下、実施例により、この発明をさらに具体的に説明する。
【0028】
(実施例1〜7,9〜14)、(参考例8)および(比較例1)
全固形分重量を基準として、水溶媒中に固形分でアミノシラン10重量%、ウレタン樹脂85重量%およびその他の油剤5重量%となるように各成分を適宜混合・攪拌して、ベース溶液を作製した。このベース溶液に、ブロックイソシアネートと、スチレン・ブタジエン共重合体とを、集束剤の全固形分重量を基準として固形分で下記「表1」の含有率となるように適宜混合・攪拌し、各実施例、参考例および比較例で使用する集束剤を作製した。
【0029】
この集束剤を、紡糸直後のE−ガラス組成のガラス繊維にアプリケータを用いて塗布し、これを3,000本束ねて一本のガラス繊維として巻き取った。その後、このガラス繊維を巻き出しつつ長さ3mmに切断し、CSとした。CSにおける集束剤の固形分付着率(強熱減量)を下記「表1」に記載する。
【0030】
つぎに、ヘキサメチレンテトラミン含有(15%)のノボラック型フェノール樹脂37重量%、クレー20重量%、その他の成分3重量%および上記CS40重量%となるように混合して、その混練物を二軸加熱ロール練り機に投入し、その後取り出して粉砕しタブレット状に固めた。このタブレットをトランスファー成形し、アフターキュアを施して試験片を作製した。
【0031】
この試験片について、ASTM D790に従って曲げ強度(初期強度)を測定した。つづいて、同様にして別途作製した試験片を用いて、250℃雰囲気下に500時間放置した後の曲げ強度(長期耐久性)、160℃雰囲気下での曲げ強度(熱間強度)、ならびに400℃の熔融ハンダに10秒間全面浸漬した後の曲げ強度(耐熱衝撃性)をそれぞれ測定した。さらに、試験片を前記熔融ハンダ中に10秒間全面浸漬する作業を都合3回繰り返した後に、その外観を目視で観察し、さらに切断して内部面の状態を評価した。この評価結果および評価基準を下記「表1」に併せて示す。
【0032】
【表1】
【0033】
(実施例15〜19)上記集束剤において、被膜形成剤としてケイ酸塩を添加し、下記「表2」に記載の含有率(全固形分重量を基準とする固形分含有率)とした以外は実施例1と同様にして、CSおよび試験片を作製した。この試験片に対する各曲げ強度の試験結果およびその評価結果を下記「表2」に併せて示す。
【0034】
【表2】
【0035】
これら実施例および比較例の試験結果を対比することにより、つぎのことが判る。
実施例1と比較例1とを対比することにより、ブロックイソシアネートおよびスチレン・ブタジエン共重合体を含有する集束剤であれば、フェノール樹脂の初期強度および耐熱性を確実に高められることが判る。
【0036】
実施例7および参考例8と比較例1を対比することにより、参考例8ではフェノール樹脂の耐熱性が比較例1のそれを下回る場合もあることから、集束剤におけるブロックイソシアネートの好ましい含有率は、固形分で60重量%以下であることが判る。また、集束剤におけるブロックイソシアネート、ブタジエン共重合体およびスチレン・ブタジエン共重合体の合計の好ましい含有率が、80重量%以下であることも判る。
【0037】
実施例13および14と比較例1とを対比することにより、実施例14では初期強度こそ高いものの、その耐熱性が比較例1より高いとは言い難いことから、集束剤におけるブタジエン共重合体およびスチレン・ブタジエン共重合体の合計の好ましい含有率は、40重量%以下であることが判る。
【0038】
実施例11と実施例18および19とを対比することにより、実施例19の初期強度および総合的な耐熱性が実施例11のそれ以下であることから、集束剤におけるケイ酸塩の好ましい含有率は、40重量%以下であることが判る。また、集束剤におけるブロックイソシアネート、ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体およびケイ酸塩の合計の好ましい含有率が、80重量%以下であることも判る。
【0039】
【発明の効果】
この発明は、以上のように構成されていることから、つぎのような効果を奏する。この集束剤は、ブロックイソシアネートと、ブタジエン共重合体またはスチレン・ブタジエン共重合体の少なくとも一方とを含有するので、強化材の集束性を低下させることなく、フェノール樹脂の初期強度および耐熱性を高めることができる。さらに、集束剤中のこれら成分の含有率を適当な範囲に調整することにより、前記改善機能を確実に発揮させることができる。この集束剤を用いた強化材を含有するフェノール樹脂は、初期強度が高く、熱間強度、長期耐熱性および耐熱衝撃性のいずれにも優れることから、高温環境下で高強度を要求されるコンミテータなどの利用に適している。
Claims (9)
- ガラス繊維またはガラスフレークの集束剤であって、被膜形成剤として、ブロックイソシアネートとブタジエン共重合体またはスチレン・ブタジエン共重合体の少なくとも一方とを含有し、集束剤中の全固形分重量を基準として、ブロックイソシアネートとブタジエン共重合体とスチレン・ブタジエン共重合体との合計の含有率が固形分で80重量%以下である集束剤。
- 集束剤中の全固形分重量を基準として、ブロックイソシアネートの含有率が固形分で1〜60重量%、かつ、ブタジエン共重合体およびスチレン・ブタジエン共重合体の合計の含有率が固形分で1〜40重量%である請求項1に記載の集束剤。
- 集束剤中における全固形分の含有率は、3〜20重量%である請求項1または2に記載の集束剤。
- 被膜形成剤として、ケイ酸塩を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の集束剤。
- 集束剤中の全固形分重量を基準として、ケイ酸塩の含有率が固形分で40重量%以下である請求項4に記載の集束剤。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の集束剤を、固形分で0.1〜3重量%含有するガラス繊維。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の集束剤を、固形分で0.1〜3重量%含有するガラスフレーク。
- 請求項6に記載のガラス繊維または請求項7に記載のガラスフレークを含有するフェノール樹脂。
- 上記ガラス繊維およびガラスフレークを合計で3〜80重量%含有する請求項8に記載のフェノール樹脂。
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