JP4012183B2 - 圧縮成形木材およびその製造方法 - Google Patents
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一般に木材は、細胞壁が木の伸長方向に延びた木質繊維の集合体であるため、繊維方向と繊維方向と直交する方向では、強度に著しい異方性を有している。例えば木材を繊維方向と直交する軸回りに曲げると木質繊維には主として引張力が作用するため比較的高強度となっているが、繊維方向に平行な軸回りに曲げると木質繊維間が引き裂かれやすいので割れなどが生じやすい。
そこで、成形時に木質繊維間に働く引張力により木質繊維が引き裂かれないようにするために、予め木質繊維間を圧縮したブランク板材を用いて圧縮成形を行うことが知られている。
例えば、特許文献1には、角棒状の製材を繊維方向と直交する方向に圧縮してからスライスすることで板状の一次固定品を形成し、その外周を拘束した状態で成型金型に取り付けて、加熱・吸水処理、成型処理を行い、3次元形状を有する二次固定品を得る木材の加工方法が記載されている。
特許文献2には、同じく繊維方向に直交する方向に圧縮してからスライスした板材を繊維方向と平行な軸回りに曲げて、その状態に仮固定し、曲げの凸方向をプレス型の凸方向に合わせて三次元成形を行う木質材の三次元加工方法が記載されている。
特許文献1に記載の技術では、3次元形状に曲げられた外周側において予め横圧縮された木質繊維間が引張力により圧縮解除されることで伸長するので、繊維間の引き裂きは起こらない。一方、3次元形状に曲げられた内周側では、圧縮された状態からさらに圧縮される。ところが、木材は細胞壁が破壊されるまで圧縮されるとそれ以上圧縮できなくなるため、過剰に圧縮されてこのような領域が生じた場合には、その裏面側の引張応力が過大になってしまう。そのため、引張り側の表面が破壊され、ささくれ立ったり、割れが生じたりするという問題がある。
また、破壊に至らない場合でも、肉厚方向に著しい密度差が生じ、表面がいびつになったり、密度差による変色が発生したりするという問題がある。
特許文献2に記載の技術では、特許文献1と同様な作用を有するとともに、曲げた状態で仮固定してから3次元成形を行うことで、成形中の形状変化を低減することができるため、成形時の歪み変化を低減できるものの、板材から3次元形状を得るための絶対的な歪み量が変るわけではない。そのため、成形形状により、木質材の一部が過大に圧縮される場合には、特許文献1と同様の問題が発生するものである。
また、特許文献1、2のいずれの製造方法においても、繊維方向と直交する方向回りの曲げに対しては、特に考慮されていない。したがって、3次元形状の外周側では、木質繊維が引張力を受け、内周側では圧縮力を受けるが、木質繊維がそのような外力に合わせて伸縮できないために、例えば、表面がささくれ立ったり、割れたり、あるいはいびつになることを防止できないという問題がある。
この発明によれば、屈曲部の肉厚方向で凸面側と凹面側との密度が略等しいので、圧縮されるので、肉厚方向の密度分布が略均一となる。そのため、表面がいびつになったり、圧縮率変化によって変色したりしないようにすることができる。
また、屈曲部の凸面側と凹面側との密度が略等しくなるように圧縮されるため、圧縮しても密度変化が起こらないような過大な圧縮が起こらないから、そのような過大な圧縮により、木材の一部が破損して、表面がささくれ立ったり、割れたりすることを防止することができる。
凸面側表面が木材を略平面状に切り出して得られる面であって、肉厚方向の密度を略等しくするには、木材を凸面側表面となる側を略平面状に切り出した板部材をブランク木材とし、圧縮成形により屈曲部を形成することで密度の増大することになる凹面側の木材を、必要量だけ圧縮前のブランク木材から除去加工しておけばよい。
この発明によれば、屈曲部の凹面が形成される金型部位には圧縮逃げ部を有するようにブランク木材が配置されるから、圧縮成形に際し、圧縮逃げ部の大きさの範囲で、凹面側での木材の集中量が補正され、屈曲部において、肉厚方向に密度の不均衡が形成されないようにすることができる。
また、一部に過大な圧縮応力が生じて、密度変化が生じないような領域が形成されないようにすることができるので、そのような過大な圧縮により、木材の一部が破損して、表面がささくれ立ったり、割れたりすることを防止することができる。
なお、本明細書に言う切削とは、刃物工具を用いた除去加工を意味するものであって、刃物を固定した切削加工に限定されるものではなく、例えば刃物が移動するフライスなどの切削であってもよい。
この発明によれば、圧縮逃げ部の切削量を調整することで、木材の屈曲部の密度を制御するので、種々の屈曲部における密度分布を、肉厚方向の密度を略等しくすることを含めて適切な範囲に容易に調整することができる。
本発明の実施形態に係る圧縮成形木材およびその製造方法について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る圧縮成形木材の一例について説明するための斜視説明図およびA−A断面図である。
つまり、底面部1Aと側面部1Bとにより、L字状の2次元的な屈曲部が形成されている。すなわち、函の外側、内側にそれぞれ、凸側屈曲部1b、凹側屈曲部2bが形成されている。
また側面部1B、1B同士により、L字状の2次元的な屈曲部が形成されている。すなわち、函の外側、内側にそれぞれ、凸側屈曲部1a、凹側屈曲部(不図示)が形成されている。
また、底面部1A、側面部1B、1Bにより、三角錐状の3次元的な屈曲部が形成されている。すなわち、函の外側、内側にそれぞれ凸側屈曲部1c、凹側屈曲部(不図示)が形成されている。
函の外側の表面は、木材を切り出した平面を折り曲げて形成されている。そのため、外表面に凹凸を設けてから圧縮した場合のように、部分的に木質繊維の破断面が露出したり、表面の木目模様が不自然に屈曲されたりすることがない。
したがって、凸側屈曲部1b、1a、1cの近傍の密度と、それぞれに対応する凹側屈曲部2b、および不図示の凹側屈曲部近傍の密度は、平均的に略等しくなっている。
図2は、本発明の実施形態に係る圧縮成形木材を形成するためのブランク木材の形状を説明するための平面図、右側面図、裏面図、およびB−B断面図である。図3、4は、本発明の実施形態に係る圧縮成形木材の製造工程について説明するための工程説明図である。
そして、図2に示すように、この平板の一面を、圧縮成形木材1の函の外面を形成する外表面10aとし、その裏面である内表面10bに、切削により、逃げ溝11b…(圧縮逃げ部)、逃げ溝11a…(圧縮逃げ部)、逃げ穴11c…(圧縮逃げ部)を設ける。これら圧縮逃げ部は、圧縮過程で木材が屈曲部の凹面側に集中することで、凹面側が屈曲部の凸面側と比べて高密度になるのを防止するために設けられるものである。
なお、逃げ溝11bの幅、深さなどの形状は、ブランク板材10の繊維方向に平行な場合と、繊維方向に直交する場合とで変えてもよい。そうすることで、より適正な密度の調整を図ることができる場合がある。
ただし、本実施形態のような3次元的な屈曲部では、凸側屈曲部1cの裏面側の凹側屈曲部の方が、2次元的な屈曲部である凹側屈曲部2bおよび凸側屈曲部1aの裏面側の凹部屈曲部(不図示)に比べてより多くの木材が集中する傾向があるので、逃げ穴11cの深さは、逃げ溝11a、11bの深さと同等、もしくはやや深いことが好ましく、逃げ穴11cの平面視の開口径は、逃げ溝11a、11bの幅よりも大きいことが好ましい。
このとき、逃げ溝11b…、逃げ穴11c…は、コア側金型4において、圧縮成形木材1の凹側屈曲部2b…、凸側屈曲部1c…の裏面側の凹側屈曲部の位置に対応する金型凸部6と略対向するように配置する。
このとき、ブランク板材10を軟化させるために、高温高圧水蒸気を噴射しつつ圧縮を行う。例えば、180℃〜200℃程度の高温水蒸気を噴射しつつ圧縮を行う。また、キャビティ側金型3、コア側金型4も同等の温度に加温することが好ましい。このような圧縮工程は、例えば、キャビティ側金型3、コア側金型4を高圧容器内に設置するとより効率的に行うことができる。
そして、肉厚がt1となるまで圧縮し、形状が固定されるまで、型締めを保持する(図4(c)参照)。このまま所定時間、型締めを保持し、水分を乾燥させてから脱型する。
そして、ブランク板材10を圧縮成形木材1の展開寸法より大きくとることで、側面部1Bの先端側に形成された縁部7を除去加工する(図4(d)参照)。
このようにして、図1に示すような形状を有する圧縮成形木材1が製造される。
一般に、2次元または3次元の屈曲部を形成するには、肉厚方向の中央を曲げの中立面として、それより屈曲部の凸側では引張応力、屈曲部の凹側では圧縮応力となる曲げ応力が作用する。一方、本圧縮工程ではさらに全体に圧縮応力が作用するから、屈曲部の凸側では比較的低い圧縮応力、屈曲部の凹側では比較的高い圧縮応力が作用する。
そのため、屈曲部の凹面側では木材の密度が相対的に大きくなる傾向があるが、本実施形態では、屈曲部の凹面に逃げ溝11a、11b、逃げ穴11cなどを設けて木材を除去しておくので、例えば、図3(b)に示すように、逃げ溝11bを設けることで、曲げ圧縮により木材が金型凸部6の近傍に回り込む分を吸収することができる。したがって、屈曲部の凹面側での密度増加を低減することができる。
つまり、圧縮逃げ部の容積を適宜に設定することにより、圧縮後の屈曲部の凹面近傍の密度を制御することができる。例えば、屈曲部の凹面側に集中する木材の量をブランク板材10の体積に換算して圧縮逃げ部の容積を設定することで、屈曲部の凸面近傍および凹面近傍の平均的密度が同等となるようにすることができる。
例えば、逃げ溝11bは、繊維方向と平行に設けられる場合と、繊維方向と直交する方向に設けられる場合では、木材の除去量という点では同一の作用効果を有するが、繊維方向により、引張強度、圧縮強度が大きく異なるものである。
そのため、例えば、屈曲部の凸面側が引張りに弱い前者では圧縮逃げ部の深さを比較的浅くし、屈曲部の凹面側での圧縮率があまり期待できない後者では圧縮逃げ部の深さを比較的深くして、それぞれ同量の木材を除去するような形状とする、といったような差を設けることが考えられる。
また例えば、ブランク板材10が予め繊維方向に直交する方向に圧縮されているような場合には、そのような繊維方向に係る圧縮率差に配慮して、圧縮逃げ部の形状を変えるのが好ましいことは言うまでもない。
図5は、木材の横圧縮変形時の応力歪み曲線の一例を模式的に示すグラフである。
木材の横圧縮、すなわち木材の繊維方向に直交する方向での圧縮、を行うと、図5に示す曲線20のような応力歪み曲線が得られる。
曲線20は、原点Oから直線的に立ち上がり(a部参照)、b部からより緩やかな傾斜で単調増加し、c部から傾斜が急激に増加するような曲線である。
そして、b部から勾配が緩やかな変形が開始される。これは、圧縮荷重方向に配置された細胞壁が圧縮の軸外に曲げ変形を起こすことで、細胞内腔が縮小されるために起こる変化である。
さらに変形が進むと、c部から応力が急激に上昇する。これは、細胞内腔がつぶれることで、圧縮荷重方向の細胞壁同士が接触し始めることが原因である。細胞内腔がつぶれると、変形の余地が少なくなり、細胞壁を厚み方向に圧縮することになる。そして、順次細胞内腔がつぶれていき、d部では、略すべての細胞内腔がつぶれる。
そして、必要に応じて、熱処理や高温水蒸気処理などを行うことにより、その歪み状態が永久固定される。
このような領域が一部に発生して、さらに圧縮が続けられると、他の領域での歪み量が増大する。例えば、屈曲部の凹側にデンシフィケーション領域に達した高圧縮部が生じると、屈曲部の凸側の歪み量が増大し、表面での引張応力が過大となって、引張り強度を超えて部分的な破壊が生じる。そのため、表面がささくれ立ったり、割れたりして、表面性が劣化するものである。
例えば、密度が0.3g/mm3のスギ材の場合、デンシフィケーション領域となる変形量は約76%と言われており、この場合、密度1.25g/mm3に到達するとデンシフィケーション領域に入ることになる。
したがって、屈曲部の凸面側での引張応力により、凸側屈曲部1a、1b、1cの表面性が劣化する。具体的には、繊維間に細かな割れが発生してけばだったり、引張応力のため比較的低密度の部分で表面が凹んだり、金型面との擦れにより変色したり、といった外観上の不良が発生する恐れがある。
本実施形態では、屈曲部の凹面側の密度を低減することができ、c部を超えない密度範囲に収めることができるので、このような屈曲部の凸面での外観不良を防止することができる。
また、本実施形態の圧縮成形木材によれば、圧縮成形により木材の強度が向上され、略均一肉厚、略均一密度の3次元的な形状とされる。そして、木材の持つ強度の異方性が格段に改善される。したがって、例えば、筐体用材料などとして、合成樹脂成形品や金属などの代替部材として好適に用いることができる。
例えば、キャビティ側金型の一部に凸部が形成され、外表面の一部に凹面を有する形状であってもよい。この場合、凹面となる部位のブランク木材の裏面側に圧縮逃げ部を設けることにより、凹面側に集中する木材の密度を裏面側に逃がすことができるから、同様にして圧縮逃げ部の形状を調整することで密度の不均衡を補正することができるものである。
これは、屈曲部以外の板状部は、一般に圧縮を受けても略一様に圧縮されるため、肉厚が変っても、表面側と裏面側との間で密度が変ることはなく、肉厚方向には圧縮逃げ部を設けて密度分布の不均衡を制御する必要がないからである。
例えば、屈曲部の凹面に年輪や節などの局部的な高密度が存在するのが明らかな場合、一様に切削するのではなく、そのような高密度部を選択的に除去加工してもよい。
また例えば、屈曲部の凹面側を、断面がV字状の複数の切込みを、線状またはメッシュ状に設けるような除去加工してもよい。
1a、1b、1c 凸側屈曲部(屈曲部の凸面)
2b 凹側屈曲部(屈曲部の凹面)
3 キャビティ側金型(金型)
4 コア側金型(金型)
10 ブランク板材(ブランク木材)
10a 外表面
10b 内表面(ブランク木材の一方の面)
11a、11b 逃げ溝(圧縮逃げ部)
11c 逃げ穴(圧縮逃げ部)
Claims (3)
- 2次元または3次元の屈曲部を有し、少なくとも該屈曲部近傍が略均一肉厚を有する圧縮成形木材であって、
前記屈曲部の凸面側表面が、木材を略平面状に切り出して得られる面からなり、
前記木材の肉厚方向に圧縮されてなるとともに、前記屈曲部の凸面側と凹面側との肉厚方向の密度が略等しいことを特徴とする圧縮成形木材。 - 略平板状のブランク木材を金型で圧縮して、2次元または3次元の屈曲部を有し、該屈曲部近傍が略均一肉厚を有する形状に成形する圧縮成形木材の製造方法であって、
前記ブランク木材の一方の面を切削して、前記屈曲部の凹面の位置に対応した圧縮逃げ部を形成し、
前記屈曲部の凹面を形成する前記金型部位と前記圧縮逃げ部とが対向するように、前記金型に前記ブランク木材を配置して該ブランク木材の肉厚方向に圧縮成形することを特徴とする圧縮成形木材の製造方法。 - 前記圧縮成形木材が2次元および3次元の屈曲部を有するものであって、前記3次元の屈曲部の凹面の位置に対応した前記圧縮逃げ部の切削量を前記2次元の屈曲部の凹面の位置に対応した前記圧縮逃げ部の切削量よりも大きくすることを特徴とする請求項2に記載の圧縮成形木材の製造方法。
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