JP4011403B2 - イオン散乱分析装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
加速された水素或いはヘリウム等の単一エネルギーのイオンを試料表面に照射して,その試料表面で散乱された散乱イオンのエネルギースペクトルを測定することにより,試料成分元素の同定或いは深さ方向の組成分析を行うイオン散乱分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の半導体開発の分野においては,集積化或いは小型薄型化に伴う素子の微細化によるゲート絶縁膜の等価厚みは極薄化(1nm以下)が避けられず,実膜厚が薄くなると共に,重元素を含む高誘電体の採用が始まりつつある。また,高密度磁気ディスク用の磁気抵抗薄膜ヘッドにおいては,1nm以下の極薄膜を積み上げた極薄多層膜構造を有するGMR或いはTMRの採用が始まりつつある。
これらの材料では,表面層,具体的には1原子層〜数原子層における欠陥(例えば空孔,不純物吸着,或いは異常成長)によりその特性が大きく変動するため,開発プロセス或いは生産管理においては,その表面層の欠陥に関する情報が非常に重要な情報となる。
このような極薄膜の試料の表面層における欠陥に関する情報を分析する方法としては「2次イオン質量分析法:SIMS」,「オージェ電子分光法:AES」のように試料表面の表面スパッタを基本とする破壊的な分析方法では適用に限界があるため,試料表面を非破壊に分析可能な「ラザフォード後方散乱法:RBS法」が注目されている。
しかしながら,一般的に広く知られるRBS法は,加速したイオンビームの照射により試料から散乱する散乱イオンのエネルギースペクトルを表面障壁型の半導体検出器を用いて検出し,その検出されたエネルギースペクトルに基づいて試料表面下の元素組成分布を分析するものである。従って,その深さ方向の分解能は上記半導体検出器のエネルギー分解能によって決定され,高々数十nmに留まっていた。そのため,このようなRBS法では,上述したような極薄膜の試料の表面層における欠陥を分析することは不可能であった。
そこで,従来のRBS法を改良することにより,試料表面の原子層毎の分析が可能な深さ分解能を実現した「高分解能ラザフォード後方散乱法:HRBS法」が木村(京都大学)等により考案され,「Development of a Compact High−Resolution RBS System for monolayer Analysis」(Appl. Phys.Lett.64(1994)2232)においてHRBS法を適用したイオン散乱分析装置として開示されている。(従来技術)
上記イオン散乱分析装置Bは,図2に示す如く,イオンビーム発生装置X(イオンビーム発生手段に該当)と,ウィーンフィルタY及びスリット7(イオン抽出手段に該当)と,四重極レンズ11と,分析対象である試料2を配置する真空容器3と,上記試料2の表面から散乱する散乱イオンのエネルギースペクトルを測定する電磁石スペクトロメータZ(スペクトル測定手段に該当)とを具備して概略構成される。
上記イオンビーム発生装置Xは,ボンベ15より供給されるガス(例えば,ヘリウムガス)を用いてイオン源12によって生成された軽イオンを,コッククロフト型高電圧回路14から供給される高電圧により加速管13内で一定エネルギーに加速した後に照射する。
上記ウィーンフィルタY及び上記スリット7は,上記イオンビーム発生装置Xにより加速され照射されるイオンビーム1から特定のイオン種のみ(例えばヘリウム一価イオン)を抽出する。ここで,該ウィーンフィルタYは,通過するイオンに対して,磁極17,コイル18,及びリターンヨーク19で発生する磁場による偏向作用(イオンの運動量に比例)と,平行電極20で発生する電場による偏向作用(イオンのエネルギーに比例)とが,互いに反対方向に働くように構成されたフィルタであり,上記イオンビーム1のうち特定のイオン種(例えばヘリウム一価イオン)のみを直進させると共に,それ以外のイオン種(例えばヘリウム二価イオン,水素原子イオン等)の軌道を曲げる特性を有するものである。上述した上記ウィーンフィルタYの特性により,分析に利用される特定のイオン種以外のイオン種は,該ウィーンフィルタYのイオンビーム入射方向下流に設けられ,直進するイオンのみが通過できるように設定された上記スリット7を通過できずに除去される。
このようにして特定のイオン種のみが抽出された上記イオンビーム1が,上記スリット7のイオンビーム入射方向下流に設けられた上記四重極レンズ11により集束され,所定のビームスポットにより上記試料2表面に照射される。
上記試料2表面に照射された上記イオンビーム1は上記試料2表面で散乱され,その散乱イオンのうち,一部の散乱イオンが電磁石スペクトロメータZに入射される。ここで,該電磁石スペクトロメータZは,通過する散乱イオンを,コイル4,リターンヨーク5,及び磁極6で発生する磁場により,その散乱イオンのエネルギーに応じて偏向した後に検出素子8に対して導くものである。
これにより,上記検出素子8では,散乱イオンが検出される位置(磁場による偏向量)に基づいて,上記試料2表面から散乱する散乱イオンのエネルギースペクトルを詳細に分析することが可能となる。
このように,上記イオン散乱分析装置Bは,従来のRBS法を適用したイオン散乱分析装置では測定し得なかった試料表面の原子層レベルの分析が可能とするものであり,上述した極薄膜の材料の表面層における欠陥の分析にも適用することができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,上記イオン散乱分析装置Bで用いられる上記電磁石スペクトロメータZは,従来用いられていた表面障壁型の半導体検出器と較べて寸法が大きいことに加え,その構成要素である上記コイル4が発熱するため,該電磁石スペクトロメータZと,上記真空容器3とはある程度距離を有して設置する必要がある。
その結果,上記イオン散乱分析装置Bでは,以下のような問題点があった。
(問題点1)
通常の電子顕微鏡やその他の分析装置(高々1.5m程度に抑えることが可能)と比較して,上記イオン散乱分析装置Bは,装置としての大型化を避けることができない(全長約4mとなっている)。
(問題点2)
ここで,RBS法の散乱現象は,次の弾性散乱過程で記述される。
エネルギーE,質量M1の入射イオンが,分析対象試料の表面近傍の深さτの位置にある質量M2の成分原子によって衝突し,角度θで散乱されたとき,衝突直後のイオンのエネルギーE1は,次式により表される。
1=K(M1,M2,θ)・E 式1
但し,上式1におけるKは,Kinematical Factorと(以下K因子という)呼ばれるものであり,次式の関係を有する係数である。
【数1】
Figure 0004011403
上式2より,M1,M2,θが一定であれば,EとE1の比は常に一定であるため,上記試料から出射するイオンのエネルギーE1から,衝突した上記試料中の成分原子の質量が一意に算出可能となる。
更に,入射イオンが,上記試料2表面の法線に対してθ1で入射するなら,衝突までの間に上記試料2をCOSθ1/τだけ移動し,上記試料2中成分原子との非弾性散乱により一定のエネルギーを失う。これらのエネルギーの損失から,衝突した原子の位置が深い程,検出される散乱イオンのエネルギーE1は低い値を示す。
このような現象が,ラザフォード後方散乱分析法の基本原理である。
ところで,上述したラザフォード後方散乱の原理において,試料表面元素の質量または深さ位置が散乱イオンのエネルギーにどのように反映するか,いわゆる分解能性能を表現するK因子(上式2)の特性に遡って考えてみる。
図5は,K因子の標的元素の質量差に対する変化量:(ΔK/K)/(ΔM2/M2)(但しΔM2=1amu)を種々の標的元素(B,N,S…)に対し,散乱角度(0〜180°)をパラメータとしてグラフ化したものである。
同図より明らかな如く,散乱角度が最後方(散乱角度=180°)に近づくほどK因子の変化は大きく(感受性が高く)なり,標的元素の識別感度は高くなる。
従って,標的元素を感度良く識別するためには,試料表面から散乱される散乱イオンのうち,散乱角度が最後方であるものを分析することが望ましい。
次に,図6は,検出系が捕捉する散乱イオンの散乱角度の幅(検出系の張る立体角)内における角度幅1°あたりのK因子の変化量:(ΔK/K)/Δθ(但しΔθ=1°)を,散乱角度(0〜180°)をパラメータとしてグラフ化したものであり,検出系の有限の立体角内で補足される散乱イオンにおいて,その散乱角度の角度幅により元素識別能力を損なう度合いを表している。
同図より明らかな如く,検出系の有限の立体角内における元素識別能力の損失の度合いは,最前方(散乱角度=0°)若しくは最後方(散乱角度=180°)において最小となり,90°付近で最大を示す。
従って,散乱角度(θ)が90°付近である場合,その分析精度を確保する(K因子の変化を抑える)ためには,必然的に検出系の張る立体角を小さくせざるを得ず,散乱イオンの捕捉効率(検出感度)を低下させる。
このような理由により,その構成上,散乱イオンの散乱角度(θ)を90°付近せざるを得ない従来公知の上記イオン散乱分析装置B(図2参照)では,分解能性能或いは感度の面で最適な分析を行っているとは言えない。
(問題点3)
一方,RBS法における重要な分析手法の一例として,ダブル・チャネリング測定を利用した結晶性評価,軽元素の高精度定量,或いはイオン注入元素の格子間位置同定がある。
ここで,イオン・チャネリング現象の概要について図3(a)〜(c)及び図4を用いて説明する。
結晶基盤である試料2に対して,結晶軸以外の方向からイオンビーム1を入射した場合には,図3(a)に示す如く,表面皮下の原子により多くの散乱が生じ,結果として測定されるエネルギースペクトルは図4中のAのようにノイズの多いものとなり,試料2の表面層に関する情報を正確に把握することができない。
そこで,試料2を適当に傾けることにより,結晶軸の方向とイオンビーム1の入射方向とを揃えると,図3(b)に示す如く,表面格子原子が,表面皮下の原子を隠すため,測定されるエネルギースペクトルは図4中のBとなる。即ち,試料表面ピークが明確となると共に,エネルギースペクトルAでは表面皮下の原子からの散乱によって隠れていた軽元素の信号を検出できる。このような,試料の結晶軸とイオンビームの入射方向とを揃えた条件(チャネリング条件)下での測定はイオン・チャネリング測定と呼ばれ,上述した結晶性評価等において効果的である。
更に,上記イオン・チャネリング測定のうち,散乱イオンを検出する方向についても試料2の結晶軸(図中では,試料2の格子原子の対角線方向)に揃えた図3(c)に示すような条件(ダブル・チャネリング条件)での測定は,ダブル・チャネリング測定と呼ばれる。これによれば,上記イオン・チャネリング測定より更に深部信号が減少するため,より厳密な試料分析が可能となると共に,結晶格子間に存在する不純物による散乱イオンを効果的に検出することも可能となり,イオン注入不純物の格子間位置の同定に対しても効果的である。(測定されるエネルギースペクトルは図4中のC)
このように,RBS法を用いた試料の分析においてダブル・チャネリング測定を利用することは,より多様な分析に応用できると共に,その分析精度を向上させるため,非常に重要である。
ここで,ダブル・チャネリング測定におけるチャネリング条件を満たすためには,イオンビーム入射方向を試料の結晶軸に揃えた状態で,散乱イオンの検出方向を試料の結晶軸に高精度に揃える必要がある。
しかしながら,上記従来のイオン散乱分析装置Bでは,その測定の度に,散乱イオンを検出する上記電磁石スペクトロメータZを,試料の結晶軸に応じて高精度に設置することは困難であり,ダブル・チャネリング測定は事実上不可能とならざるを得なかった。
そこで,本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,イオンビームの照射による散乱イオンを分析するイオン散乱分析装置であって,装置の小型化と共に,高い分解能且つ高感度な分析を実現し,更には容易にダブル・チャネリング測定が可能なものを提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために,本発明は,加速されたイオンビームを照射するイオンビーム発生手段と,加速されたイオンビームから特定のイオン種のみを抽出するイオン抽出手段と,特定のイオン種のみが抽出された上記イオンビームを真空容器内に配置された試料に照射した際に,上記試料から散乱する散乱イオンのエネルギースペクトルを測定するスペクトル測定手段とを具備し,上記イオン抽出手段及び上記スペクトル測定手段が,共通の偏向電磁石を備えて構成されてなるイオン散乱分析装置において,上記試料から散乱する上記散乱イオンが該偏向電磁石に入射する際の入射角と,該偏向電磁石に入射された上記散乱イオンが出射する際の出射角とを調整するために,上記偏向電磁石の磁極境界面の形状を,上記試料からの上記散乱イオンが入射される位置近傍と,上記散乱イオンが上記スペクトル測定手段に向けて出射する位置近傍において,任意に変更可能としたことを特徴とするイオン散乱分析装置として構成される。
このように構成することによって,従来のイオン散乱分析装置において,普及を妨げる大きな要因であった装置の巨大化を抑え,小型化を図ることが可能となる。
また,本発明に係るイオン散乱分析装置では,試料チャンバーに接続された単一のポートだけを使って,イオンビーム(1次ビーム)を入射し,散乱イオンを取り出すことが可能であるため,本分析装置専用に用意された試料チャンバだけでなく,本分析装置に接続できるポートを少なくとも一つ有するチャンバに接続して種々の条件の元での測定を行うことができる。
例えば,分子線エピタキシャル蒸着装置の成膜室を試料チャンバとして共用し,成膜しながら本装置で試料の組成変化を観察したり,試料台にヒータを取り付けた高温用チャンバに接続し,高温化での分析ができる。即ち,成膜過程や表面加工過程のin−situ(その場)観察装置として利用することが可能な装置が構成できる。
更に,上記偏向電磁石が,上記試料から散乱する上記散乱イオンが該偏向電磁石に入射する際の入射角と,該偏向電磁石に入射された上記散乱イオンが出射する際の出射角とを任意に調整可能であるので,上記偏向磁石に入射される上記散乱イオンが,上記スペクトル測定手段上で一点に集束させ得る二重集束条件を満足するような所定の磁場を発生させるように該偏向磁石を調整することが可能となる。
即ち,測定される試料元素が異なり,二重集束条件が異なる場合であっても,その二重集束条件に応じて,上記散乱イオンの上記偏向磁石に対する入射角及び出射角を調整することにより,常に正確なエネルギー分析が可能となる。
また,上記偏向電磁石を,上記試料からの上記散乱イオンが入射される位置近傍と,上記散乱イオンが上記スペクトル測定手段に向けて出射する位置近傍に,機械的に回動可能な可動磁極を有してなる構造としてもよい。
【0005】
また,上記スペクトル測定手段が,上記イオンビームの照射により,上記試料から散乱する上記散乱イオンのうち,最後方(散乱角180°)近傍に散乱する上記散乱イオンのエネルギースペクトルを測定するように設けられることが望ましい。
これにより,RBS法を用いた試料分析のうち,最も高分解能で且つ高感度な分析を実現することが可能となる。
ここで,最後方に散乱する上記散乱イオンによって測定を行う場合には,イオンビームの入射方向を上記試料の結晶軸に揃えることで,同時に上記散乱イオンを検出する方向も上記試料の結晶軸に揃う(ダブル・チャネリング条件を満たす)ため,従来公知のイオン散乱分析装置では不可能であったダブル・チャネリング測定を実施可能である。
【0006】
記散乱イオンの入射点は,同時にイオンビームの出射点でもあるため,上記のように,上記試料(上記散乱イオン)に応じて上記偏向磁石に対する入射角を変更することは,同時にイオンビームの上記偏向磁石に対する出射角を変更していることになる。
そのため,上記偏向電磁石より上記イオンビーム入射方向上流に,1以上の4重極電磁レンズを設けることが望ましい。
これにより,イオンビームの集束発散状態を電気的に補正することが可能となり,上記偏向電磁石におけるイオンビームの出射角を変更した場合にも,所定のビームスポットを形成するイオンビームにより上記試料の表面を照射することが可能となる。
【0007】
更にまた,上記イオンビームの照射により,上記散乱イオンと共に上記試料から散乱する中性散乱粒子のエネルギースペクトルを測定する中性散乱粒子スペクトル測定手段を更に具備してなる形態も考えられよう。
この場合には,測定された中性散乱粒子のエネルギースペクトルを用いて上記試料の元素定量性を補償することが可能となり,分析精度を更に向上し得る。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態及び実施例について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態及び実施例は,本発明を具体化し
た一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに,図1は本発明の実施の形態に係るイオン散乱分析装置の概略構成を示す図,図2は従来公知のイオン散乱分析装置の概略構成を示す図,図3はイオンチャネリング現象の物理的解説図,図4はイオンビームを入射する角度とRBSスペクトルとの関係を示す図,図5はK因子の標的元素の質量差に対する変化量を示す図,図6は検出系の張る立体角における角度幅1°あたりのK因子の変化量を示す図である。
【0009】
本発明の実施の形態に係るイオン散乱分析装置は,図1に示す如くイオン散乱分析装置Aとして具現化される。
該イオン散乱分析装置Aは,イオンビーム発生装置X(イオンビーム発生手段に該当)と,四重極電磁レンズ10と,偏向電磁石W(イオン抽出手段及びスペクトル測定手段に備えられる共通の偏向電磁石に該当)と,スリット7と,分析対象である試料2を配置する真空容器3と,検出素子8(スペクトル測定手段に該当)とを具備して概略構成される。
上記イオンビーム発生装置Xは,ボンベ15より供給されるガス(例えば,ヘリウムガス)を用いてイオン源12によって生成された軽イオンを,コッククロフト型高電圧回路14から供給される高電圧により加速管13内で一定エネルギーに加速した後に照射する。
上記四重極電磁レンズ10は,上記イオンビーム発生装置Xより照射されたイオンビーム1が上記試料2の表面上で所定のスポット形状を形成するように,該四重極電磁レンズ10のイオンビーム入射方向下流に設けられる上記偏向電磁石Wによって発生する磁場による偏向作用を考慮したレンズ条件に設定され,入射されるイオンビーム1を縦横発振状態(エミッタンス)に成形する。
上記偏向電磁石Wは,縦横発振状態に成形されたイオンビーム1を,対向する磁極6により挟まれた間隙6c(図1に示す断面図参照)に導入する。ここで,該偏向電磁石Wは,磁極6,コイル4,及びリターンヨーク5により発生する磁場によって,特定のイオン種のみ(本実施形態ではヘリウム一価イオンとする)が90°偏向された後に該偏向電磁石Wのイオンビーム入射方向下流に設けられる上記真空容器3に向けて出射されるように設定されている。従って,分析に利用されるヘリウム一価イオン以外のイオン種は,上記真空容器3のイオンビーム入射方向上流側に設けられ,直進するイオンのみが通過できるように設定された上記スリット7を通過できずに除去される。
このようにしてヘリウム一価イオンのみが抽出された上記イオンビーム1が,上記真空容器3に導入される
上記真空容器3に導入されたヘリウム一価イオンは,上述説明したイオン・チャネリングの条件を満たすべく好適に傾斜されて配置した上記試料2に照射され,散乱される。
上記試料2表面から散乱されたヘリウム一価イオンのうち,該真空容器3のイオンビーム入射方向,つまりは最後方(散乱角度180°)近傍に散乱されたヘリウム一価イオン(以下,単に散乱ヘリウム一価イオンという)は,上記スリット7を通過すると共に,上記偏向電磁石Wの上記磁極6の間隙6cに再び入射される。
この場合,上記偏向電磁石Wに入射された散乱ヘリウム一価イオンは,イオンビームが入射された場合と同様に,上記磁極6,上記コイル4,及び上記リターンヨーク5により発生する磁場によって,そのエネルギーに応じて偏向された後に,該偏向電磁石Wに設けられた上記検出素子8に向けて出射される。ここで,散乱ヘリウム一価イオンが該偏向電磁石Wに入射される際の入射角と,散乱ヘリウム一価イオンが該偏向電磁石Wから出射する際の出射角とは,後述する二重集束条件に従って好適に設定されることにより,散乱ヘリウム一価イオンは上記検出素子8上で一点に集束させることができる。
これにより,上記検出素子8では,一点に集束された散乱ヘリウム一価イオンが検出される位置(磁場による偏向量)に基づいて,上記試料2表面からの散乱ヘリウム一価イオンのエネルギースペクトルを正確に分析することが可能となる。
以上のように,本実施の形態に係る上記イオン散乱分析装置Aは,従来公知の上記イオン散乱分析装置Bにおける上記ウィーンフィルタY及び上記電磁石スペクトロメータZが,その機能を実現するため偏向電磁石による偏向作用を共に利用していることに着目し,その偏向電磁石を共通化したことを特徴点とする。その結果,従来公知のものと較べて,よりコンパクトな装置とすることが可能である。
更に,本実施の形態に係る上記イオン散乱分析装置Aでは,上記検出素子8を,上記試料2表面からの散乱イオンのうち最後方近傍に散乱されたものを測定する位置に設けることが可能であるため,理論上最も高精度で且つ高感度な分析ができる。
ここで,最後方近傍に散乱された散乱イオンを分析に用いる場合には,図3(d)に示す如く,上記試料2の結晶軸に対して入射されるイオンビームを揃えれば,必然的に散乱イオンの検出方向と上記試料2の結晶軸が揃うこととなる。
従って,本実施の形態に係る上記イオン散乱分析装置Aは,従来公知の上記イオン散乱分析装置Bでは,事実上不可能であったダブル・チャネリング測定を上記試料2の傾きを好適に調整することにより容易に実現可能である。
【0010】
次に,上記偏向電磁石Wにヘリウム一価イオンが入射される際の入射角と,該偏向電磁石Wからヘリウム一価イオンが出射する際の出射角の設定について説明する。
ここで,ヘリウム一価イオンが入射される際の入射角と,出射する際の出射角とは,上記試料から散乱されるヘリウム一価イオンが,上記検出素子8上で,再び一点に集束するような条件(二重集束条件)に従って設定する必要がある。ここで,このような条件とは,従来公知のイオン散乱分析装置に用いられる上記電磁石スペクトロメータZの場合と同様に,磁場中の荷電粒子軌道に対する数値解析により容易に算出可能である。
例えば,試料2から上記偏向電磁石Wまでの距離,及び上記偏向電磁石Wから上記検出素子8までの距離が共に174mmであって,該偏向電磁石W内の磁場により,ヘリウム一価イオンが150Rの軌道半径で120°偏向される場合には,上記偏向電磁石Wの入射角及び出射角は夫々,ヘリウム一価イオンの中心軌道の法線に対して41°の角度で傾けることにより,上記二重集束条件が満たされ,ヘリウム一価イオンを上記検出素子8上の一点に集束させることができる。
しかし,分析される上記試料2が異なる場合には散乱イオンのエネルギーも異なるため,上記二重集束条件も異なることが考えられる。例えば,散乱された散乱イオンのエネルギーが小さい場合には,図中に矢印1aで示す如く,上記偏向電磁石Wによって大きく偏向されるが,散乱された散乱イオンのエネルギーが大きい場合には,図中に矢印1bで示す如く,上記偏向電磁石Wによる偏向が小さくなる。
このように,分析される上記試料2によって異なる上記二重集束条件に適応するために,本実施の形態では,散乱イオンが入射される位置近傍の可動磁極6aと,散乱イオンが出射される位置近傍の可動磁極6bとを,機械的に摺動可能な半円筒形状に形成し,不図示である回転機構により必要に応じて回動させる機構を有している。
このような構成を有することにより,試料の種別毎に算出される上記二重集束条件に応じて,上記各可動磁極6a,6bを摺動させることにより,上記偏向電磁石Wの磁極境界面の角度(形状)を任意に設定することが可能となり,上記二重集束条件が異なる場合であっても,常に上記散乱イオンを上記検出素子8上に一点で集束させるような磁場を発生させることが可能となる。
ここで,上記可動磁極6aは,散乱イオンの入射点であると共に,上記イオンビーム発生装置Xから出射されたイオンビームの出射点でもあるため,上記可動磁極6aを上記二重集束条件に応じて回動させた場合には,イオンビームが上記偏向電磁石Wから出射する際の出射角が変更されることに注意する必要がある。即ち,出射角の変更によってイオンビームの集束発散状態が変化し,上記試料2表面に形成されるイオンビームによるビームスポット(例えば0.1mmφ以下)が変化する虞がある。
そこで,本実施形態では,上記偏向電磁石Wより上記イオンビーム入射方向上流に,4重極電磁レンズ10を2つ設けている。
これにより,上記可動磁極6aの回動によって生じたイオンビームの集束発散状態のズレを,上記4重極電磁レンズ10によって電気的に補正することが可能となり,上記二重集束条件の変化に応じてイオンビームの出射角(集束発散状態)が変更された場合であっても,所定のビームスポットを形成するイオンビームにより上記試料の表面を照射することが可能となる。
【0011】
ここで,上記試料2にイオンビームが照射された場合には,全てが散乱イオンとして後方散乱するとは限らず,電荷を上記試料2に奪われて,或いは貰い受けて中性散乱粒子となるものがある。そして,それら中性散乱粒子のエネルギースペクトルは,上記試料2の内部組成を知る上で重要な情報となり得る。
そこで,本実施の形態に係るイオン散乱分析装置Aでは,図1に示す如く,上記偏向電磁石Wに対する散乱イオンの入射軸と同軸上に,中性散乱粒子を検出する中性散乱粒子検出手段9を設けている。上記中性散乱粒子検出手段9としては,数meVのエネルギーギャップを持つ超伝導トンネル接合型の検出器を用いることで,低エネルギーの中性散乱粒子も検出することできる。
これにより,イオンビームの照射により,散乱イオンと同時に生成される中性散乱粒子を正確に検出することが可能となり,例えば上記試料2の元素定量性の補償に利用することが可能であり,装置としての分析精度を向上させることができる。ここで,該中性散乱粒子検出手段9には,図中に示す如く,入射されるイオンビームの混入を防止するためのイオンビーム遮蔽板9aが設けられることが望ましい。
【0012】
【発明の効果】
以上説明したように,本発明は,加速されたイオンビームを照射するイオンビーム発生手段と,加速されたイオンビームから特定のイオン種のみを抽出するイオン抽出手段と,特定のイオン種のみが抽出された上記イオンビームを真空容器内に配置された試料に照射した際に,上記試料から散乱する散乱イオンのエネルギースペクトルを測定するスペクトル測定手段とを具備し,上記イオン抽出手段及び上記スペクトル測定手段が,共通の偏向電磁石を備えて構成されてなるイオン散乱分析装置において,上記試料から散乱する上記散乱イオンが該偏向電磁石に入射する際の入射角と,該偏向電磁石に入射された上記散乱イオンが出射する際の出射角とを調整するために,上記偏向電磁石の磁極境界面の形状を,上記試料からの上記散乱イオンが入射される位置近傍と,上記散乱イオンが上記スペクトル測定手段に向けて出射する位置近傍において,任意に変更可能としたことを特徴とするイオン散乱分析装置として構成される。
このように構成することによって,従来のイオン散乱分析装置において,普及を妨げる大きな要因であった装置の巨大化を抑え,小型化を図ることが可能となる。
また,本発明に係るイオン散乱分析装置では,試料チャンバーに接続された単一のポートだけを使って,イオンビーム(1次ビーム)を入射し,散乱イオンを取り出すことが可能であるため,本分析装置専用に用意された試料チャンバだけでなく,本分析装置に接続できるポートを少なくとも一つ有するチャンバに接続して種々の条件の元での測定を行うことができる。
例えば,分子線エピタキシャル蒸着装置の成膜室を試料チャンバとして共用し,成膜しながら本装置で試料の組成変化を観察したり,試料台にヒータを取り付けた高温用チャンバに接続し,高温化での分析ができる。即ち,成膜過程や表面加工過程のin−situ(その場)観察装置として利用することが可能な装置が構成できる。
更に,上記偏向電磁石が,上記試料から散乱する上記散乱イオンが該偏向電磁石に入射する際の入射角と,該偏向電磁石に入射された上記散乱イオンが出射する際の出射角とを任意に調整可能であるので,上記偏向磁石に入射される上記散乱イオンが,上記スペクトル測定手段上で一点に集束させ得る二重集束条件を満足するような所定の磁場を発生させるように該偏向磁石を調整することが可能となる。
即ち,測定される試料元素が異なり,二重集束条件が異なる場合であっても,その二重集束条件に応じて,上記散乱イオンの上記偏向磁石に対する入射角及び出射角を調整することにより,常に正確なエネルギー分析が可能となる。
また,上記偏向電磁石を,上記試料からの上記散乱イオンが入射される位置近傍と,上記散乱イオンが上記スペクトル測定手段に向けて出射する位置近傍に,機械的に回動可能な可動磁極を有してなる構造としてもよい。
【0013】
また,上記スペクトル測定手段が,上記イオンビームの照射により,上記試料から散乱する上記散乱イオンのうち,最後方(散乱角180°)近傍に散乱する上記散乱イオンのエネルギースペクトルを測定するように設けられることが望ましい。
これにより,RBS法を用いた試料分析のうち,最も高分解能で且つ高感度な分析を実現することが可能となる。
ここで,最後方に散乱する上記散乱イオンによって測定を行う場合には,イオンビームの入射方向を上記試料の結晶軸に揃えることで,同時に上記散乱イオンを検出する方向も上記試料の結晶軸に揃う(ダブル・チャネリング条件を満たす)ため,従来公知のイオン散乱分析装置では不可能であったダブル・チャネリング測定を実施可能である。
【0014】
記散乱イオンの入射点は,同時にイオンビームの出射点でもあるため,上記のように,上記試料(上記散乱イオン)に応じて上記偏向磁石に対する入射角を変更することは,同時にイオンビームの上記偏向磁石に対する出射角を変更していることになる。
そのため,上述した形態の場合には,上記偏向電磁石より上記イオンビーム入射方向上流に,1以上の4重極電磁レンズを設けることが望ましい。
これにより,イオンビームの集束発散状態を電気的に補正することが可能となり,上記偏向電磁石におけるイオンビームの出射角を変更した場合にも,所定のビームスポットを形成するイオンビームにより上記試料の表面を照射することが可能となる。
【0015】
更にまた,上記イオンビームの照射により,上記散乱イオンと共に上記試料から散乱する中性散乱粒子のエネルギースペクトルを測定する中性散乱粒子スペクトル測定手段を更に具備してなる形態も考えられよう。
この場合には,測定された中性散乱粒子のエネルギースペクトルを用いて上記試料の元素定量性を補償することが可能となり,分析精度を更に向上し得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態に係るイオン散乱分析装置の概略構成を示す図。
【図2】 従来公知のイオン散乱分析装置の概略構成を示す図。
【図3】 イオンチャネリング現象の物理的解説図。
【図4】 イオンビームを入射する角度とRBSスペクトルとの関係を示す図。
【図5】 K因子の標的元素の質量差に対する変化量を示す図。
【図6】 検出系の張る立体角における角度幅1°あたりのK因子の変化量を示す図。
【符号の説明】
A …イオン散乱分析装置
B …イオン散乱分析装置
W …分析電磁石
X …イオンビーム発生装置
Y …ウィーンフィルタ
Z …電磁石スペクトロメータ
1 …イオンビーム
2 …試料
3 …真空容器
4 …コイル
5 …リターンヨーク
6 …磁極
6a…可動磁極
6b…可動磁極
6c…間隙
7 …スリット
8 …検出素子
9 …中性散乱粒子検出手段
9a…イオンビーム遮蔽板
10…四重極電磁レンズ
11…四重極レンズ
12…イオン源
13…加速管
14…コッククロフト型高電圧回路
15…ボンベ
16…絶縁ガス充填タンク
17…磁極
18…コイル
19…リターンヨーク
20…平行電極

Claims (5)

  1. 加速されたイオンビームを照射するイオンビーム発生手段と,
    加速されたイオンビームから特定のイオン種のみを抽出するイオン抽出手段と,
    特定のイオン種のみが抽出された上記イオンビームを真空容器内に配置された試料に照射した際に,上記試料から散乱する散乱イオンのエネルギースペクトルを測定するスペクトル測定手段とを具備し,上記イオン抽出手段及び上記スペクトル測定手段が,共通の偏向電磁石を備えて構成されてなるイオン散乱分析装置において,
    上記試料から散乱する上記散乱イオンが該偏向電磁石に入射する際の入射角と,該偏向電磁石に入射された上記散乱イオンが出射する際の出射角とを調整するために,上記偏向電磁石の磁極境界面の形状を,上記試料からの上記散乱イオンが入射される位置近傍と,上記散乱イオンが上記スペクトル測定手段に向けて出射する位置近傍において,任意に変更可能としたことを特徴とするイオン散乱分析装置。
  2. 上記スペクトル測定手段が,上記イオンビームの照射により,上記試料から散乱する上記散乱イオンのうち,最後方(散乱角180°)近傍に散乱する上記散乱イオンのエネルギースペクトルを測定するように設けられてなる請求項1に記載のイオン散乱分析装置。
  3. 上記偏向電磁石より上記イオンビーム入射方向上流に,1以上の4重極電磁レンズが設けられてなる請求項1或いは2のいずれかに記載のイオン散乱分析装置。
  4. 上記イオンビームの照射により,上記散乱イオンと共に上記試料から散乱する中性散乱粒子のエネルギースペクトルを測定する中性散乱粒子スペクトル測定手段を更に具備してなる請求項1〜のいずれかに記載のイオン散乱分析装置。
  5. 上記偏向電磁石は,上記試料からの上記散乱イオンが入射される位置近傍と,上記散乱イオンが上記スペクトル測定手段に向けて出射する位置近傍に,機械的に回動可能な可動磁極を有してなる請求項1〜4のいずれかに記載のイオン散乱分析装置。
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