JP4009739B2 - 有機ハロゲン化合物で汚染された被処理物用無害化処理剤、その製造方法及びそれを用いた無害化処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機ハロゲン化合物で汚染された土壌、産業廃棄物、汚泥、スラッジ、排水、地下水等の被処理物に対する無害化処理剤、その製造方法及びそれを用いた無害化処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、世界各地でTCE(トリクロロエチレン)、PCE(テトラクロロエチレン)、ジクロロメタン、PCB(ポリ塩化ビフェニル)及びダイオキシン類等の有機ハロゲン化合物による環境汚染問題が顕在化し大きな問題となっている。
【0003】
これらの問題に対し、特に有機ハロゲン化合物により汚染された土壌、排水、地下水等に対する無害化用処理剤およびその処理方法が検討され、いくつかの技術報告や特許出願がされている。
【0004】
1)汚染排水、地下水の場合、真空抽出法や揚水曝気法等が知られているが、地上への引き上げ装置、さらに引き上げた前記汚染物質の吸着設備、活性炭吸着剤の再生処理や発生廃棄物の処理が必要となり、全体としては高コストな処理方法となる。また、無害化には数年を要し、完全除去は難しい技術である。近年、金属系処理剤を混合または散布するだけで汚染物質を還元脱ハロゲン化する無害化処理法が報告され、従来法に比べ低コスト化が図れるとしている。鉄系処理剤により無害化する方法として、例えば特許第2636171号公報、特公平2−49158号公報、特公平2−49798号公報があるが,汚染排水、地下水のpH調整、水素ガスや還元剤等を供給する脱酸素処理が必要であり、実工法としては困難でありコスト高となる。また、先崎ら[工業用水、VOL391,(1991),29.]によるとTCEで汚染された排水、用水をFe粉末や、NiまたはCu化学メッキFe粉末により還元脱塩素処理する技術が報告されている。しかし、これら処理剤自体の経時的性能劣化を抑制するためには汚染排水、用水中の溶存酸素を除去することが必要であり、さらに活性を示すニッケルメッキ量の範囲が限られており、再現性が問題として残る。特表平10−513103号公報はジクロロメタンをFe−Pd触媒により分解する技術であるが,比較例として塩化ニッケル溶液でメッキ処理したFe粉末はその分解速度が遅く無害化には長時間を要し、完全に分解できない。特表平6−506631号公報は活性炭とFe粉末を混合したものであり、高価な活性炭を多量に使用するためコスト高となり実用化は困難である。
【0005】
2)汚染土壌、スラッジ、汚泥等の処理法としては掘削土壌または直接土壌中に加熱用電極を挿入し加熱処理する熱脱着法および熱分解法が知られている。この方法は大掛かりな加熱装置が必要である。また電極近傍は熱分解されるが、その他は揮発性の有機塩素化合物を中心に地上に揮散するだけで根本的な処理法では無く、処理後の土壌は熱により固化し、微生物はほとんど死滅するため再利用の点でも採用は難しい。微生物を経由した還元物質により無害化処理するバイオレメデイエ−ション法があるが、無害化には長時間必要であり、しかも全種類の土壌に対応できず完全な無害化は不可能である。化学的処理として、汚染土壌に鉄系処理剤を添加した特開平11−235577号公報、Fe系を含む卑金属系処理剤と微生物を併用した特開平11−253926号公報があるが、短時間に分解されないため、より高性能化が必要である。また、特開2002−20806号公報は鉄系廃棄物を加熱処理した処理剤の製造方法であり、低コスト化は図れるが、適正な組成、金属組織を調整することが困難であり、処理時間がかかるため高活性化が必要である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べたように有機ハロゲン化合物で汚染された土壌、産業廃棄物、汚泥、スラッジ、排水、地下水等に対する従来の処理法は処理時間が長い、高コスト、処理法が複雑で実用性に乏しいといった課題を抱えている。特に、卑金属系処理剤を添加し、無害化する技術としては、汚染排水、地下水に対するpH調整、脱溶存酸素処理が必要であり、汚染土壌、産業廃棄物、汚泥、スラッジに対しては短時間に分解されないため、高活性化が必要である。
【0007】
【課題を解決するための手段】
発明者等は、これらの課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。即ち、Fe粉末100重量部とNi粉末0.01〜2重量部からなる混合物をメカニカルアロイング法により合金化したFe−Ni合金からなる有機ハロゲン化合物で汚染された被処理物用無害化処理剤、その製造方法およびそれを用いた処理方法を提供するもので、本発明の処理剤によれば短期間において汚染有機ハロゲン化合物濃度を法的規制値以下にすることができる。更に、難分解性と言われるCis−DCE(cis−1,2−ジクロロエチレン)、MC(メチルクロロホルム、1,1,1−トリクロロエタン)、PCEをも分解することができる。
【0008】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0009】
本発明の無害化処理剤が処理する被処理物は、有機ハロゲン化合物で汚染されたものである。有機ハロゲン化合物の例としては、ジクロロメタン、四塩化炭素、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、Cis−DCE、Trans−DCE(trans−1,2−ジクロロエチレン)、MC、1,1,2−トリクロロエタン、TCE、PCE、1,3−ジクロロプロペン等の有機塩素系化合物、またはこれらの有機臭素系化合物等が挙げられる。
【0010】
本発明で使用するFe粉末としては純鉄の他に、鋼(例えば還元鉄粉)、鋳鉄、銑鉄等を用いることが出来る。粉末の形状は特に限定するものではなく、球形状、樹枝状、片状、針状、角状、積層状、ロッド状、板状,海綿状等が使用できる。Fe粉末の製法には制限はなく、溶湯から直接粒末を製造する粒状化法、アトマイズ法、還元法、粉砕法、旋盤等で削り出したダライ粉等を用いることができる。Fe粉末の粒径は、特に限定されないが、一般に上記した調製法により50〜500μm程度の粒径を有しており、この範囲においては好適に使用できる。
【0011】
本発明で使用するNi粉末は純Ni粉末、工業用Ni粉末の他にフェロニッケル粉末等が含まれる。一般的に入手可能な工業用Ni紛末は10〜100μmの粒径を有しており、更には、1〜10μm程度の微粒Ni紛末も好適に使用可能である。
【0012】
本発明においては、前記のFe粉末とNi粉末の混合物を、機械的合金化法とも呼ばれているメカニカルアロイング法(以下MA法という)により合金化または部分合金化して調製する。MA法とはBenjamin,J.s:Met.Trans.,1,10(1970)、2943及び 渡辺龍三:日本金属学会会報、27、10(1988)、799によると、金属や合金粉末に機械的エネルギ−を加えることにより合金を得る、一種のメカノケミカル方法である。一般的には、原料粉末と粉砕ボ−ルを密閉容器に入れ、攪拌または振動を連続して加えることにより、粉末に塑性変形、粉砕、凝着が繰り返され特有の組織を持つ合金粉末が得られる。攪拌または振動する際に発生する熱は、水冷または空冷により除熱され、合金材に主として機械的エネルギーが与えられる。攪拌時間等の条件によっては微視的な結晶構造変化により,微細結晶粒、過飽和固溶体、準安定結晶相あるいはアモルファス相などを得ることもできる。
【0013】
通常、FeとNiの合金調製法として、溶融法や熱拡散法等の熱的合金化法が採用されているが、Fe原子にNi原子が固溶した合金材が得られるため、有機ハロゲン化合物の分解能は低く、また分解反応時にはFe溶出と同時にNiが溶出してしまう。これに対して、MA法による合金化及び部分合金化処理剤は有機ハロゲン化合物の分解能に極めて優れ、分解反応時のNiの溶出も大幅に抑制される。特にFe成分に対するNi成分の混合量及び混合状態、すなわち最適な合金化、部分合金化状態とすることが必要である。Fe粉末100重量部に対しNi粉末を0.01〜2重量部、好ましくは0.1〜0.5重量部、更に好ましくは0.1〜0.3重量部混合させる。この範囲において驚くべきことに被処理物の還元分解能は著しく向上する。また、一方反応に伴う被処理物へのNiの溶出も極めて低く、重金属汚染の問題もない。Ni粉末が0.01重量部未満では有機ハロゲン化合物の分解能は低下し、Ni粉末無添加であるFe粉末のみと同様に分解能が不十分である。Ni粉末2重量部を超えても分解能はこれ以上高くはならず、コストの面で相当不利となるともに、Ni溶出が顕著に認められるようになり環境負荷が問題となる。
【0014】
以下に、本発明のMA法による製造方法について説明する。
前記のFe粉末およびNi粉末を所定の組成に調整し、一般的なボ−ルミル,Vミキサ−等により混合し均質化する。また、場合によっては、MA法装置に定量供給機等を採用して、混合工程を省くことも可能である。
【0015】
MA法に使用する装置としては、アトライタ−ミル(攪拌ボ−ルミル、アトリッションミルとも呼ばれる)、振動ミル、回転ミル(メカノフユ−ジョン含む)のバッチ式または連続式粉砕機を使用する。加工条件は、使用する装置により異なり一義的に定められないが、通常各装置の仕様条件の範囲内で採用できる。これらの装置の中で加工時間を最小とすることができるアトライターミルが特に好ましい。以下に装置毎の加工条件を説明する。
【0016】
アトライタ−ミルを用いたときは、Fe粉末とNi粉末の混合物1重量部に対して、鋼球等の粉砕メディアを7〜15倍仕込む。原料が加工中に空気酸化する恐れがある場合は窒素ガス等の不活性ガスを流すことができる。ミル回転数は200〜800rpmが好適である。加工時間は、特に制限されないが、0.5〜50時間とした場合、Ni溶出がなく、かつ高い分解活性を発現できるため好ましい。更に、加工時間を0.5〜6時間とした場合には、Fe粉末内および表面にNi成分が偏析した部分合金となり、高い活性を得ることができ特に好ましい。
【0017】
振動ミルを用いた場合は、Fe粉末とNi粉末の混合物1重量部に対して、鋼球等の粉砕メディアを2〜10倍の仕込割合、振動数600〜2000vpmが好適である。さらに加工時間は5〜50時間が分解能を発現できる。特に、Fe粉末内および表面にNi成分が偏析した部分合金を得るには、好ましくは5〜10時間が適当である。
【0018】
回転ミルを用いた場合は、Fe粉末とNi粉末の混合物1重量部に対して、鋼球等の粉砕メディアを5〜15倍の仕込割合、回転数600〜1400rpmが好適である。さらに加工時間は10〜60時間が分解能を発現できる。特に、Fe粉末内および表面にNi成分が偏析した部分合金を得るには、好ましくは10〜20時間が適当である。
【0019】
以上の製法で得られた処理剤の粉末形状は特に限定するものではなく、球形状、樹枝状、片状、針状、角状、積層状、ロッド状、板状、海綿状等が含まれる。また処理剤の比表面積は0.05m2/g以上、好ましくは0.2〜10m2/g、また200μmのふるいを通過する粒径、望ましくは30〜100μmを用いることにより、分解反応速度や接触確率を向上させることができる。特に比表面積が0.2m2/g以上、粒径75μm以下の処理剤を使用すれば難分解性と言われているCis−DCE、MC、PCEをも、より短時間に分解することができるのでより好ましい。これ以下の細かい粒径を用いると地下水汚染下で使用する場合、処理剤充填部分で目つまりを起こし地下水の流れを止めてしまう可能性があり,土壌中に分散する際も飛散等が起こりハンドリングに問題がある。一方、粒径が大きすぎると汚染地下水,土壌に使用する際、被処理物との接触確率が悪くなり分解能が著しく低下する。
【0020】
本発明の無害化処理剤以外に、その効果を損なわない程度に添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては特に限定するものではなく、例えば、酸化防止剤、反応促進剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素処理剤等があげられる。酸化防止剤としては亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫化鉄、アスコルビン酸等、反応促進剤としては塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等、分散剤としては、活性炭素、アルミナ、ゼオライト、シリカゲル、シリカ−アルミナ等があげられる。
【0021】
また、本発明の無害化処理剤は還元的脱ハロゲンにより無害化するものであるが、従来技術であるフェントン酸化法の無害化処理剤としても使用することができる。
【0022】
無害化処理方法としては、1)掘削した土壌をパイル状に積み上げ本発明の無害化処理剤を添加し、ドラム型スクラバ−、改質ミキサ−、ニ−ダ−等による連続均一混合処理する方法やバックホウ等による回分混合処理後埋め戻す方法、またはパイル状に積み上げ養生する方法、2)汚染土壌中に縦または横井戸を堀り、無害化処理剤を高圧空気または高圧水で注入する原位置処理法、3)無害化処理剤、分散剤、反応促進剤等をスラリ−状にして土壌に注入する方法、4)揚水した汚染地下水等に対しては無害化処理剤を充填した処理塔を通す連続処理法、5)汚染地下水の周辺を掘削する際に発生した砂利、石、岩等をジョ−クラッシャ−等で粉砕し、無害化処理剤と混合し、直接または地下水の流れる穴を空けた容器に仕込み、井戸に埋め戻す方法、6)汚染地下水位置より低い部分に無害化処理剤層を設けた浄化ピット法等ができる。
【0023】
無害化処理剤の添加量は、浄化対象である被処理物の汚染濃度等により変動するが、本発明の処理剤では非常に高活性であることから、従来剤に比較し、少ない添加量で環境基準値以下への浄化が達成できる。本発明の処理剤を用いる場合に、その分解活性及び経済性を考慮すると、粉末状では湿体土壌や地下水等の被処理物に対して0.1〜10重量%、特に1〜3重量%であることが好ましい。
【0024】
【実施例】
次に、本発明を実施例にさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0025】
実施例では、原料鉄粉として、還元鉄粉(川崎製鉄(株)製、商品名KIP100T)、鋳鉄粉(日本アトマイズ(株)製、商品名FS)、原料Ni粉として、添川理化学社製、(純度99%、粒径150μmグレ−ド)を用いた。
【0026】
実施例1〜15および比較例1〜8
TCE含有汚染水溶液に対する本発明の無害化処理剤の評価試験を行った。125mlバイアル瓶に100ppmのTCE水溶液を100ml、メタノ−ルに溶解した内標ベンゼン、そして処理剤1g(対水溶液1重量%)を添加後、密封した。反応条件として30℃、200rpm振とうを維持した。尚、この水溶液は脱溶存酸素処理、pH調整は行っていない。
【0027】
次に、無害化処理剤のMA加工条件として、実施例1〜4,7〜13は原料1kgをボ−ルミルで10分間混合後,5Lポットを有するアトライターミル(三井鉱山(株)製、商品名DYNAMICMILL、MA1D型)内に鋼球(SUJ2)7.5kgと一緒に仕込み、MA加工した。この際の窒素ガス流量は40ml/分とした。実施例1〜4,7,8はMA加工3時間、回転数400rpm、実施例9〜13、15はMA加工22時間、回転数600rpm、実施例14はMA加工72時間、回転数600rpmである。また、実施例5は振動ミル(中央化工機(株)製、商品名V−MILL,BM−3、1200vpm,6.6Lポット、硬球20kg、原料10kg)を用い、MA加工15時間の処理剤である。実施例6は回転ミル((株)入江商会製、ボールミル回転架台、800rpm,2Lポット、硬球5kg、原料1kg)を用い、MA加工10時間の処理剤である。処理剤の組成は表1に示すようにFe粉末100重量部に対しNi粉末量は0.01〜1.87重量部に調整した。
【0028】
比較例1はNiを含まない還元Fe粉末(同和鉱業(以下D社と略記)製、製品名E200)である。比較例2,4,5は実施例1,4,7の処理剤を900℃、4時間、窒素ガス雰囲気中で熱処理した剤である。比較例3は実施例4と同じ原料、組成を用い、MA加工0時間、つまり混合のみの粉末である。比較例6は所定の成分調整後、高周波加熱炉において溶解後、窒素ガス雰囲気中で噴霧し粉末を形成したFe−1.04重量%Ni−4.36重量%Cに調整した窒素ガス−アトマイズ品である。比較例7はFe−Ni焼結粉末(川崎製鉄(株)(以下K社と略記)製、商品名シグマ2010合金)である。比較例8はFe粉末100重量部に対してNi粉末量が5重量部、MA加工時間3時間、回転数600rpmの剤である。
【0029】
今回用いた処理剤の比表面積は0.2〜0.3m2/g、75μmのふるいを通過した粉末を用いた。
【0030】
TCE濃度の分析方法としては、JIS K 0125(用水、排水中の揮発性有機化合物試験方法)に基づいたヘッドスペース法を用い、TCE濃度を経時的に定量分析し、指数関数的にTCE濃度が減少する期間より求めた反応速度定数を算出し、TCE濃度が環境基準値未満になった分解日数を求めた。さらに、TCE濃度が環境基準以下になった時点で、TCE水溶液を0.45μm−メンブランフィルタ−を用いてろ過後、ろ液中のNi濃度をJIS K 0102に基づき測定し、これらの結果を表1に示した。
【0031】
【表1】
実施例1〜4,7,8は反応定数が9.6×10-3〜9.7×10-2(h-1)であり,TCE濃度が10日以内に環境基準値0.03ppm未満になることが分かった。実施例9〜13,15は反応定数が8.7×10-3〜8.7×10-2(h-1)であり、TCE濃度が14日以内に環境基準値0.03ppm未満になることが分かった。実施例5,6はNi量が0.3重量部、粉砕機として振動ミル、回転ミルを用いたMA加工15〜20時間行った処理剤であるが、6〜8日で無害化することが分った。実施例14はアトライタ−ミルを用いたMA加工時間を長くした処理剤であるが、15日で無害化することが分った。
【0032】
表1には示していないが,分解生成物はエチレンが主成分であり、環境基準項目の有機塩素系化合物は生成していないことを確認している。またTCE水溶液中のNi濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析方法(パーキンエルマー製、商品名OPTIMA3000)により測定したところ、ほとんどの処理剤が0.01mg/L未満であり環境負荷の面からも本発明処理剤は優れていることが分かった。
【0033】
これに対し、比較例1はNiを含有しないFe粉末であり,反応定数が1.1×10-3(h-1)と小さく、1ヶ月経過しても環境基準0.03ppm未満になることはなかった。また分解生成物はエチレンの他に環境基準項目に挙げられているcis−DCEが検出された。比較例2,4,5は実施例1,4,7を加熱したものであり、反応速度として半減、分解日数としては2〜4倍となる。比較例3はFe粉末とNi粉末を混合した剤のため、実施例4に比べると10倍の分解日数が必要であった。比較例6は溶解法の1種であるアトマイズ剤、比較例7はFe−Ni系焼結剤であり、いずれも反応定数が10-3(h-1)オーダーとなり、分解能が低く、また、実施例では検出されなかったNiの溶出も認められた。このことから、熱処理剤または焼結剤は分解能が低く、また環境負荷も大きいことが分る。比較例8はFe粉末100重量部に対してNi粉末量が5重量部含まれるMA法処理剤であるが,反応定数は1.4×10-2と大きいが,反応終了後のTCE水溶液中のNi溶出量が0.36mg/L検出され環境負荷が問題となる。
【0034】
従って、実施例1〜15で用いた無害化処理剤を用いれば汚染地下水で多くの事例のあるTCEを分解する能力は顕著であり、短期間に法的規制値をクリアすることができ、かつ環境負荷が小さいことが分った。
【0035】
実施例16〜20および比較例9〜12
揮発性有機ハロゲン化合物を含有する汚染土壌における無害化処理剤の評価試験を行った。125mlバイアル瓶に100ppmのTCE汚染土壌27g(含水率33重量%)、メタノ−ルに溶解した内標ベンゼン、そして処理剤を0.27g(対土壌1重量%)を入れて均質混合後、密封した。反応条件として30℃、静置状態とした。なお、土壌中の含水調整に用いた水は脱溶存酸素処理、pH調整は行っていない。
【0036】
次に、今回用いた処理剤の製造条件を説明する。実施例16,17,19ではMA加工3時間、回転数400rpm、Ni添加量はFe粉末100重量部に対し0.1〜0.99重量部に調整した。実施例18はMA加工22時間、回転数600rpmであり、Ni添加量は0.3重量部に調整した。実施例20はMA加工72時間、回転数600rpmであり、Ni添加量は0.99重量部に調整した。
【0037】
比較例9はNiを含まない還元Fe粉末(D社)である。比較例10は実施例20と同じ原料であるが、MA加工0時間、つまり混合のみの粉末である。比較例12は実施例19の処理剤を900℃、4時間、窒素ガス雰囲気中で熱処理した剤である。比較例12はMA加工3時間、回転数400rpm、Ni添加量を5重量部に調整した処理剤である。
【0038】
なお、今回用いた処理剤の比表面積は0.2〜0.3m2/g、75μmのふるいを通過した粉末を用いた。
【0039】
TCE濃度変化、反応速度の算出および用いた処理剤のNi含有量、溶出Ni濃度の測定方法は実施例1〜15と同様であり、それらの結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
実施例16〜20はMA法(アトライタ−ミル)による処理剤であり、TCE汚染土壌中に処理剤1重量%添加・混合すれば14〜30日でTCE濃度が環境基準0.03ppm未満となった。また土壌中のNi溶出量は環境省告示46号試験に基づき検液を作製し、誘導結合プラズマ発光分光分析方法により測定するとほとんどの処理剤が0.01mg/L未満であった。また、表2には示していないが,分解生成物はエチレンが主成分であり、環境基準項目の有機塩素系化合物は生成していないことを確認している。
【0041】
一方、比較例9はNiを含有しておらず反応定数は10-5(h-1)オーダーであり、5ケ月経ても環境基準以下にはならなかった。比較例10はFe粉末とNi粉末の混合剤であり、Niを0.99重量部含有しているにもかかわらず、2ケ月以上の浄化期間が必要である。比較例11は実施例19の熱処理品であり、反応定数は10-4(h-1)オーダー、分解日数は約2ケ月であり、またNi溶出も認められた。比較例12はFe粉末100重量部に対してNi粉末量が5重量部含まれるMA法処理剤であり、反応定数も10-3(h-1)オーダー、分解日数は約1ケ月であり、高分解能を示唆しているが、Ni溶出量が0.45mg/Lと大きく、環境負荷が問題となる。
【0042】
従って、実施例16〜20で用いた無害化処理剤を用いれば、土壌中のTCEを分解する能力は顕著であり、短期間に法的規制値をクリアすることができ、かつ環境負荷が小さいことが分った。
【0043】
実施例21〜25および比較例13〜16
PCE含有汚染水溶液に対する本発明の無害化処理剤の評価試験を行った。125mlバイアル瓶に100ppmのPCE水溶液を100ml、メタノ−ルに溶解した内標ベンゼン、そして本発明の処理剤を1g(対水溶液1重量%)添加後、素早く密封した。反応条件として30℃、200rpm振とうを維持した。尚、この水溶液は脱溶存酸素処理、pH調整は行っていない。
【0044】
なお、実施例および比較例で用いた処理剤の製法、およびそれらの評価方法は実施例16〜20、比較例10〜14と同様であり、測定結果を表3に示す。
【0045】
【表3】
実施例21〜25は反応定数が10-2〜10-3(h-1)オーダーであり、TCE水溶液のそれと比べると分解速度は同程度であり、PCE濃度が環境基準をクリアできる日数は10〜28日と、短時間に分解できることが分る。また表3には示していないが,PCEが完全分解した時点で、分解生成物としてはエタンが主成分であり、環境基準項目のTCE等の有機塩素系化合物は生成していないことを確認している。またPCE水溶液中のNi濃度もほとんどの処理剤が0.01mg/L未満であり、環境負荷の面からも本発明処理剤は優れていることが分かった。
【0046】
これに対し、比較例13はNiを含有しないFe粉末であるが,反応定数が10-4(h-1)オーダーと小さく10ヶ月経過しても環境基準値0.01ppm未満になることはなかった。また分解生成物はエタンの他に環境基準項目に挙げられているTCE,cis−DCEが検出された。比較剤14は実施例25と同じ原料を用い、MA加工の無い、単なる混合粉末であり、分解能は著しく低いことが分る。比較例15は実施例24の熱処理品であり、反応定数が10-3(h-1)オーダーとなり、また、実施例では検出されなかったNiの溶出も認められた。このことから熱処理剤は分解能が低く、また環境負荷も大きいことが分る。比較例16はFe粉末100重量部に対してNi粉末量が5重量部含まれるMA法処理剤であるが、還元脱塩素反応定数は本発明剤並みであるが、反応終了後のPCE水溶液中のNi溶出量が0.94mg/L検出され、環境負荷が問題となる。
【0047】
従って、実施例21〜25で用いた無害化処理剤を用いれば難分解性といわれるPCEを含む水溶液を分解する能力は顕著であり、短期間に法的規制値をクリアすることができ、かつ環境負荷は小さいことが分った。また、PCEにより汚染された土壌においても本発明剤を使用することにより無害化できることは言うまでもない。
【0048】
実施例26〜30および比較例17〜20
cis−DCE含有汚染水溶液に対する本発明の無害化処理剤の評価試験を行った。125mlバイアル瓶に10ppmのcis−DCE水溶液を100ml、メタノ−ルに溶解した内標ベンゼン、そして処理剤を1g(対水溶液1重量%)、素早く添加後密封した。反応条件として30℃、200rpm振とうを維持した。尚、この水溶液は脱溶存酸素処理、pH調整は行っていない。
【0049】
なお、実施例および比較例で用いた処理剤の製法およびそれらの評価方法は実施例16〜20、比較例10〜14と同様であり、これらの測定結果を表4に示す。
【0050】
【表4】
実施例26〜30は反応定数が10-1〜10-3(h-1)オーダーであり,TCE溶液のそれと比べると分解速度が大きく、14日後には難分解有機ハロゲン化合物であるcis−DCEが環境基準以下まで短時間に分解されることが確認できた。また表4には示していないが,分解生成物はエタンが主成分であり、環境基準項目の有機塩素系化合物は生成していないことを確認している。またcis−DCE水溶液中のNi濃度もほとんどの処理剤が0.01mg/L未満であり環境負荷の面からも本発明処理剤は優れていることが分かった。
【0051】
これに対し、比較例17はNiを含有しないFe粉末であり,反応定数が10-3(h-1)オーダー、環境基準0.04ppm未満になる日数として15日間必要であった。また分解生成物はエタンの他に環境基準項目に挙げられている1,2−ジクロロエタンが検出された。比較例18は実施例30と同じ原料を用いるが、MA加工無し、つまり単なる混合粉末であり、分解能は著しく低い。比較例19は実施例29の熱処理品であるが、反応定数が10-2(h-1)オーダーとなり、2週間以内には土壌環境基準0.04ppm未満にならなかった。また、実施例では検出されなかったNiの溶出も認められた。このことから熱処理剤または溶解処理剤は分解能が低く、また環境負荷も大きくなることが分る。比較例20はFe粉末100重量部に対してNi粉末量が5重量部含まれるMA法処理剤であり、反応定数は10-2(h-1)オーダーと大きいが、反応終了後のcis−DCE溶液中のNi溶出量が0.59mg/L検出され、環境負荷が問題となる。
【0052】
従って、実施例26〜30で用いた無害化処理剤を用いれば汚染地下水で多くの事例のあるCis−DCEを分解する能力は顕著であり、短期間に法的規制値をクリアすることができ、かつ環境負荷が小さいことが分った。また、Cis−DCEにより汚染された土壌においても本発明処理剤を使用することにより無害化できることは言うまでもない。
【0053】
実施例31〜35および比較例21〜24
MC含有汚染水溶液に対する本発明の無害化処理剤の評価試験を行った。125mlバイアル瓶に10ppmのMC水溶液100ml、メタノ−ルに溶解した内標ベンゼン、そして本発明の処理剤を1g(対水溶液1重量%)、素早く添加後、密封した。反応条件として30℃、200rpm振とうを維持した。尚、この水溶液は脱溶存酸素処理、pH調整は行っていない。
なお、実施例および比較例で用いた処理剤の製法およびそれらの評価方法は実施例16〜20、比較例10〜14と同様であり、それらの測定結果を表5に示す。
【0054】
【表5】
実施例31〜35は反応定数が10-1〜10-3(h-1)オーダーであり,TCE水溶液のそれと比べると分解速度が大きく、7日後にはMCが環境基準以下まで分解されることが確認できた。また表5には示していないが,分解生成物はエタンが主成分であり、環境基準項目の有機塩素系化合物は生成していないことを確認した。またMC水溶液中のNi濃度も0.02mg/L未満であり環境負荷の面からも本発明処理剤は優れていることが分かった。
【0055】
これに対し、比較例21はNiを含有しないFe粉末であり,反応定数が10-3(h-1)オーダーと小さく、土壌環境基準1ppm未満になるためには約1ケ月必要であることが分った。また分解生成物はエタンの他に環境基準項目に挙げられている四塩化炭素が検出された。比較剤22は実施例35と同じ原料を用い、MA加工無し、つまり単なる混合粉末であり、活性は著しく低下した。比較例23は実施例34を加熱したものであるが、反応定数が10-3(h-1)オーダーとなり、土壌環境基準1ppm未満になるためには1週間以上必要であることが分った。また、実施例では検出されなかったNiの溶出も認められた。このことから熱処理剤または溶解処理剤は分解能が低く、また環境負荷も大きくなることが分る。比較例24はFe粉末100重量部に対してNi粉末量が5重量部含まれるMA法処理剤であり、反応定数は10-2(h-1)オーダーと大きいが,反応終了後のMC水溶液中のNi溶出量が0.28mg/L検出され、環境負荷が問題となる。
【0056】
従って、実施例31〜35で用いた無害化処理剤を用いれば汚染地下水で多くの事例のあるMCを分解する能力は顕著であり、短期間に法的規制値をクリアすることができ、かつ環境負荷が小さいことが分った。また、MCにより汚染された土壌においても本発明剤を使用することにより無害化できることは言うまでもない。
【0057】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の無害化処理剤、その製造方法及びそれを用いた無害化処理方法によれば土壌、産業廃棄物、汚泥、スラッジ、排水、地下水中の有機ハロゲン化合物を少量の添加で短時間に分解し、有害な副生物を生成せず無害化処理できる効果を有するものである。
Claims (14)
- Fe粉末100重量部とNi粉末0.01〜2重量部からなる混合物をメカニカルアロイング法により合金化したFe−Ni合金からなる有機ハロゲン化合物で汚染された被処理物用無害化処理剤。
- Fe−Ni合金がFe粉末内および表面にNi成分が偏析した部分合金からなる請求項1に記載の無害化処理剤。
- Fe粉末が純鉄、鋼、鋳鉄、または銑鉄である請求項1又は2のいずれかに記載の無害化処理剤。
- Fe粉末100重量部とNi粉末0.01〜2重量部からなる混合物を、アトライターミルを用いて、該混合物1重量部に対して粉砕メディアを7〜15倍の仕込割合、回転数200〜800rpmの条件下で処理することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無害化処理剤の製造方法。
- Fe粉末100重量部とNi粉末0.01〜2重量部からなる混合物を、振動ミルを用いて、該混合物1重量部に対して粉砕メディアを2〜10倍の仕込割合、振動数600〜2000vpmの条件下で処理することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無害化処理剤の製造方法。
- Fe粉末100重量部とNi粉末0.01〜2重量部からなる混合物を、回転ミルを用いて、該混合物1重量部に対して粉砕メディアを5〜15倍の仕込割合、回転数600〜1400rpmの条件下で処理することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無害化処理剤の製造方法。
- 加工時間が0.5〜50時間であることを特徴とする請求項4記載の無害化処理剤の製造方法。
- 加工時間が0.5〜6時間であることを特徴とする請求項4記載の無害化処理剤の製造方法。
- 加工時間が5〜50時間であることを特徴とする請求項5記載の無害化処理剤の製造方法。
- 加工時間が5〜10時間であることを特徴とする請求項5記載の無害化処理剤の製造方法。
- 加工時間が10〜60時間であることを特徴とする請求項6記載の無害化処理剤の製造方法。
- 加工時間が10〜20時間であることを特徴とする請求項6記載の無害化処理剤の製造方法。
- 有機ハロゲン化合物で汚染された被処理物を請求項1〜3のいずれかに記載の無害化処理剤で処理することを特徴とする有機ハロゲン化合物で汚染された被処理物の無害化処理方法。
- 無害化処理剤の添加量が被処理物に対し0.1〜10重量%である請求項13記載の有機ハロゲン化合物で汚染された被処理物の無害化処理方法。
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