JP4009467B2 - 金属板ラミネート用フィルム、フィルムラミネート金属板、および金属容器 - Google Patents

金属板ラミネート用フィルム、フィルムラミネート金属板、および金属容器 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は金属板ラミネート用ポリエステルフィルム、およびそれを用いたフィルムラミネート金属板および金属容器に関し、特に、絞り成形やしごき成形等の高次加工によって金属容器を製造することが可能である、フィルムラミネート金属板のラミネート材料として有用なポリエステルフィルムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、金属缶の内外面に腐食防止の目的で、熱硬化性樹脂を主成分とする溶剤型の塗料が塗布されていた。しかし、溶剤型塗料は塗膜を形成するために高温での加熱が必要であり、その時に多量の溶剤が発生するため、作業の安全性および環境の面からも問題があった。そのため、最近は溶剤を用いない腐食防止法として、熱可塑性樹脂による金属板の被覆が提案され、熱可塑性樹脂の中でも特にポリエステルは加工性、耐熱性等に優れることから、ポリエステルをベースとした金属板ラミネート用フィルムの開発が進められている。
【0003】
フィルムを金属板に被覆する方法としては、熱可塑性樹脂を溶融させて直接金属上に押出す方法や、熱可塑性樹脂フィルムを直接、または接着剤を介して熱圧着する方法がある。中でも、熱可塑性樹脂フィルムを用いる方法は、樹脂の取扱いが容易で作業性に優れ、かつ、樹脂膜厚の均一性にも優れるために有効な手法とされている。また、接着剤を介した方法では環境面やコストの問題があるために、フィルムを直接熱圧着する方法が有利であり注目されている。
【0004】
熱可塑性樹脂フィルムを被覆した金属缶は、鋼板、アルミ板等の金属板(メッキ等の表面処理を施したものを含む)に熱可塑性樹脂フィルムをラミネートした、ラミネート金属板を成形加工して製造される。
このような用途に用いられる熱可塑性樹脂フィルムには、▲1▼金属板との熱ラミネート性がよいこと、▲2▼缶の成形性に優れていること、つまり、缶の成形時にフィルムの剥離、亀裂、ピンホール等の発生がないこと、▲3▼缶成形後の印刷、レトルト殺菌処理および長期の保存の際に脆化しないこと、▲4▼内容物の保味保香性に優れること等の数々の特性が同時に要求される。
【0005】
このような金属板ラミネート用ポリエステルフィルムとしては、熱ラミネート性を付与し、缶の成形性を向上させる目的で、他の成分を混合したり、共重合する等、いくつかの方法が提案されている。
例えば、(イ)ポリエチレンテレフタレート(PET)に他の成分を共重合したものが特公平8−19245号公報、特公平8−19246号公報、特許第2528204号公報等に、また、(ロ)融点が210〜245℃のPETを主たる繰り返し単位とする共重合ポリエステル99〜60質量%とポリブチレンテレフタレート(PBT)もしくはその共重合体1〜40質量%を配合したものが、特許第2851468号公報、特開平5−186612号公報、特開平5−186613号公報にそれぞれ開示されている。
【0006】
しかしながら、(イ)ではPETを共重合化し、低融点化、低結晶化することにより熱ラミネート性と成形性は改良されるものの、缶成形後の熱処理およびレトルト殺菌処理時に脆化し、耐衝撃性が低下するという問題があった。
【0007】
また、(ロ)ではPBT系の樹脂を配合することにより、熱ラミネート性と上記の缶の脆化や耐衝撃性は改良されるが、金属との熱ラミネート性や接着性が十分ではなく、特に絞り成形やしごき成形等の高次加工成形性が十分ではなかった。
【0008】
これに対して、本発明者らは、先にPBT、又はこれを主体とするポリエステル(A)90〜45質量%と、PET、またはこれを主体とするポリエステル(B)10〜55質量%とからなる二軸延伸フィルムを提案している。(特開平9−194604号公報、特開平10−110046号公報)。ここに提案されたフィルムは、結晶化度が高く、かつ比較的低温で熱圧着でき、しかも得られたラミネート金属板は加工性に優れている。また、レトルト殺菌処理および長時間の保存後においてもフィルムが脆化せず、耐衝撃性にも優れている。
【0009】
しかし、最近、製罐速度の増大、缶サイズの大容量化、缶の薄肉化の要求が進みつつあり、絞り加工やしごき成形時の金属の変形加工比がさらに増大しつつあること、また加工治具との摩擦が更に大きくなることから、特に厳しい変形を伴う缶の胴部において上記フィルムを使用しても、ラミネート金属板の製造条件、最終缶の成形加工条件の微妙な揺らぎによってはフィルムが白化したりミクロクラックが発生したりする問題が新たに生じることがあった。
また、加工比の増大のために、フィルムを融点以上の温度で熱処理し、アモルファスの状態にした後に加工に供する場合があるが、この場合、フィルムの変形追随性は高くなるものの、フィルム表面の平滑化に伴って治具との滑り性が低下してフィルムに傷が入ったり、さらには破断する場合があった。また、良好に加工されたとしても、治具離れが悪く、操業トラブルの原因となる場合があり、改良が要求されていた。
【0010】
このようなフィルムの滑り性を改良する方法としては、フィルム表面を荒らして摩擦抵抗を下げる方法が一般的に行われており、金属ラミネート用ポリエステルフィルムとしても、(ハ)無機粒子添加量を増加したフィルムが特開平7−62116号公報に、非相溶性樹脂を添加したものが特開平7−109363号公報に、架橋高分子粒子を添加したものが特開平7−118411号公報に提案されている。
【0011】
しかし、(ハ)に示したいずれの手法を用いても、延伸フィルムの滑り性は向上できるものの、熱処理によるフィルム表面の平滑化は防げず、従って、アモルファスの状態での滑り性を向上することは出来ていなかった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、金属板との熱ラミネート性、耐衝撃性、内容物の保味保香性に優れることに加え、フィルムを熱処理した後でもフィルム表面の滑り性が良好であり、缶の成形性、特に絞り成形やしごき成形等の高次加工性に優れるフィルムラミネート金属板に好適に用いることができる金属板ラミネート用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、結晶性が異なる2種以上のポリエステル、すなわちPBT主体のポリエステル(I)とPET主体のポリエステル(II)とを含む少なくとも2種以上のポリエステルを特定割合で配合し、さらにポリエステル(I)、(II)と実質的に非相溶で、分子量を選定した低分子量ポリマー(III)を特定量含有させたポリエステルフィルムを用いると、熱処理を施してもフィルム表面に特定の荒れを有し、缶の成形性、特に絞り成形やしごき成形等に優れ、また、金属との熱ラミネート性、耐衝撃性、保味保香性にも優れたフィルムを提供できることを見出し本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
ポリブチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(I)、ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(II)、および低分子量ポリマー(III)からなるフィルムであり、ポリエステル(I)と(II)の質量比(I)/(II)が80〜40/20〜60であり、フィルムが200〜223℃にポリエステル(I)の融点を、また、230℃〜256℃にポリエステル(II)の融点を有し、低分子量ポリマー(III)がポリオレフィン、ポリスチレンおよびポリアミドから選ばれる少なくとも1種であり、その数平均分子量が1000〜8000であり、フィルム中の含有量が0.01〜1.0質量%であることを特徴とする金属板ラミネート用フィルム。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明におけるPBTを主体とするポリエステル(I)としては、PBTおよびこれに他の成分を共重合したものを挙げることができるが、ポリエステル(I)、(II)および低分子量ポリマー(III)とから構成されるフィルムにおいて、ポリエステル(I)由来の融点は200〜223℃の範囲であることが必要である。融点が200℃より低いとポリエステルとしての結晶性が低く、結果としてフィルムの耐熱性が低下する。
【0016】
ポリエステル(I)として共重合PBTを用いる場合には、共重合割合は融点が上記範囲内となるように共重合の割合や共重合する成分の構造を選択すればよいが、全アルコール成分に対し、1,4−ブタンジオールは80モル%以上が好ましく、特に90モル%以上が好ましい。1,4−ブタンジオールが80モル%未満であると、結晶性、特に結晶化速度が低下し、レトルト処理後の耐衝撃性やバリアー特性が低下する。
【0017】
共重合成分としては、特に限定されないが、酸成分としてイソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンや乳酸などが挙げられる。
また、アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールAやビスフェノールSのエチレンオキシド付加体等が挙げられる。
さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3官能化合物等を少量用いてもよい。これらの共重合成分は2種以上併用してもよい。
【0018】
本発明におけるPETを主体とするポリエステル(II)としては、PETおよびこれに他の成分を共重合したものを挙げることができるが、ポリエステル(I)、(II)および低分子量ポリマー(III)とから構成されるフィルムにおいて、ポリエステル(II)由来の融点は230〜256℃の範囲であることが必要であり、より好ましくは236〜256℃、さらに好ましくは246〜256℃の範囲である。融点が230℃未満であると、結晶性が低下し、レトルト処理後に白化や白斑が発生したり、レトルト処理後の耐衝撃性が低下したりする。特に、ポリエステル(II)の融点が246℃以上であると、耐熱性、レトルト処理後の耐衝撃性および長期保存後の耐衝撃性が向上する。また、缶加工時の治具との融着トラブルや、缶胴部の加工途中における破断トラブルの低減に効果がある。
【0019】
ポリエステル(II)として共重合PETを用いる場合、PETに共重合することができる成分としては特に限定されず、ポリエステル(I)の場合と同様の化合物を例示できる。
【0020】
本発明において、ポリエステル(I)とポリエステル(II)の質量比(I)/(II)は80〜40/20〜60の範囲であることが必要であり、さらに本発明の効果を十分に得るために、70〜55/30〜45の範囲が好ましく用いられる。
【0021】
ポリエステル(I)が80質量%を超えると、結晶性の高いポリエステル(I)の特性が顕著に発現して、フィルムラミネート金属板の成形性、耐衝撃性が低下し、金属との接着性も低下する。ポリエステル(I)が40質量%未満の場合には結晶化速度が低下し、レトルト処理後の物性が低下し、また金属との接着性も低下する。
特に、ポリエステル(I)の含有量が70〜55質量%の範囲の場合、ラミネート金属板を高速で、高次の絞りしごき加工を行う場合の成形加工追随性が良好であり、フィルムの無理な変形によるボイドの発生による白化現象や、マイクロクラックの発生が無く、かつ金属との接着性に優れ、得られる缶の耐衝撃性とレトルト処理後の物性バランスがとれる。その結果、缶の内面に使用される場合には、耐食性がよく、内容物の保護性、保味保香性、フレーバー維持性に優れたものとなる。また、缶の外面に用いられる場合には、さびの発生がないこと、印刷図柄の光沢度がよいなど、商品価値の高い製品が得られる。
【0022】
本発明のフィルムを製造するために用いられる原料ポリエステルの極限粘度は、ポリエステル(I)では0.75〜1.6dl/g、ポリエステル(II)では0.65〜1.0dl/gが好ましく、溶融混合した後の極限粘度は0.75〜1.2dl/gの範囲が好ましい。極限粘度が上記範囲より小さいと、缶の高次加工時に破断し、生産性が極端に悪化する。特に缶の容量が大きい場合、ラミネート金属板から缶に絞りしごき加工してゆく過程でフィルムの変形加工度が大きくなるため、それに追随できず、フィルム層にボイドが発生したりクラックが発生したりして、外部からのわずかな衝撃によってすらフィルム層の剥離やクラックの成長が助長される。また缶の内面に用いられた場合には、内容物と缶の金属とが直接接触する結果、保味保香性が低下したり、フレーバー性に問題が生じたりする。缶の外面に用いられた場合には、ボイドによりフィルムが白化した部分では、印刷外観が悪くなる。また、ボイドやクラックによって、長期保存時に缶が腐食してくる問題を生じる恐れがでる。
一方、極限粘度が上記範囲を超える場合にはフィルムの生産工程において樹脂の溶融押出機にかかる負荷が大きくなり、生産速度を犠牲にせざるを得なかったり、押出機中の樹脂の溶融滞留時間が長くなりすぎてポリエステル樹脂間の反応が進みすぎたりして、フィルムの特性の劣化を招き、結果的にラミネートフィルムの金属板の物性低下をもたらす。また、あまりに極限粘度の高いものは、重合時間や重合プロセスが長く、コストを押し上げる要因ともなる。
【0023】
原料のポリエステルの重合方法は特に限定されず、例えば、エステル交換法、直接重合法等で重合することができる。エステル交換触媒としては、Mg、Mn、Zn、Ca、Li、Tiの酸化物、酢酸塩等が挙げられる。また、重縮合触媒としては、Sb、Ti、Ge酸化物、酢酸塩等の化合物が挙げられる。
重合後のポリエステルは、モノマーやオリゴマー、副生成物のアセトアルデヒドやテトラヒドロフラン等を含有しているため、減圧もしくは不活性ガス流通下、200℃以上の温度で固相重合することが好ましい。
【0024】
ポリエステルの重合においては必要に応じ添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を添加することができる。酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等を、熱安定剤としては、例えばリン系化合物等を、紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系の化合物等を挙げることができる。また、異なるポリエステル間の反応抑制剤として、従来知られているリン系化合物を重合前、重合中、重合後に添加することが好ましい。特に、固相重合前の溶融重合終了時に添加することがさらに好ましい。
【0025】
本発明のフィルムにおける低分子量ポリマー(III)としては、上記ポリエステル(I)、(II)に非相溶であることが必要である。低分子ポリマー(III)がポリエステル(I)、(II)に相溶する場合には、フィルム表面を荒らす効果が小さく、滑り性に寄与しない。低分子量ポリマー(III)の種類としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド等を挙げることができるが、ポリエステル(I)、(II)と混合する場合の安定性、および相溶性のバランスの面から、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。
【0026】
本発明のフィルムにおける低分子量ポリマー(III)は、数平均分子量が1000〜8000であることが必要であり、特に2000〜6000が好ましい。上記分子量範囲の低分子量ポリマー(III)を非相溶のポリマー中に含有させることにより、延伸フィルムの表面を荒らして滑り性を向上させることができるばかりか、フィルムの融点以上の温度で熱処理して結晶を融解させるといった、アモルファス化処理を行った後においても、フィルム表面を荒れた状態に保持することができる。数平均分子量が1000未満であると、分子量が低すぎてフィルム加工時またはフィルムをアモルファスにする際にフィルムの表面に析出してしまい、缶の加工工程で治具を汚してしまったり、逆にフィルム自身に傷をつけたりする場合がある。一方、分子量が8000を超える場合には、フィルムをアモルファスにした後のフィルム表面を荒らす効果が十分ではなく、缶加工時の滑り性が劣る。
【0027】
本発明のフィルムにおける低分子量ポリマー(III)は、軟化点が95℃以上であることが好ましく、特に100〜200℃の範囲が好ましい。軟化点が95℃未満の場合には、通常の缶成形温度である60〜90℃において、フィルムが軟化し、缶成形時の滑り性が劣る場合がある。
【0028】
本発明のフィルムにおいて、上記低分子量ポリマー(III)の含有量は0.01〜1.0質量%であることが必要であり、好ましくは0.01〜0.3%である。含有量が0.01質量%未満では、滑り性改良の効果が認められない。また、含有量が1.0質量%を超える場合には、フィルム表面の滑り性については過剰品質となるばかりでなく、非相溶の樹脂が多くなるにつれてフィルムが脆くなったり、完成した缶が衝撃性に劣り、さらにフレーバー性が低下する場合がある。
【0029】
本発明のフィルムは、ポリエステル(I)と(II)のエステル交換指数(測定法は実施例に記載)が1〜10%、さらに好ましくは2〜7%であることが好ましい。エステル交換率が高くなり、ポリエステル(I)と(II)の構成成分のランダム化が進行した場合、特に10%を超えると、フィルムの融点が低下し、耐熱性が低下する。また、内容物の保護性も低下する。逆に1%以下の場合、ポリエチレンテレフタレート成分がその性質を保持したまま、また結晶性の高いPBTが中に存在するために、フィルムの変形追随性が悪く、金属板の成形加工性が低下する。
このエステル交換指数が好ましい範囲内にあれば、金属板の缶への成形加工の際に加工治具と粘着せず、摩擦が小さくなって、得られる缶表面の均一性が増す。また、缶の成形加工途上で金属の破断を減少させる効果を助ける。
【0030】
エステル交換指数を上記範囲内に調整する方法は特に限定されないが、押出機中でのポリエステル(I)と(II)の溶融温度や、押出機内での混練度、押出機中での滞留時間を調整する等の方法が挙げられる。溶融混合方法は特に限定されず、ブレンドした原料チップを同一の押出機中で混合溶融する方法、また、各々別々の押出機で溶融させた後に混合する方法等が挙げられるが、エステル交換反応の制御の面からは後者の方法が好ましい。またエステル交換はポリエステルの重合触媒の種類、量、その残存活性度によっても大きく影響される。したがって、触媒の選択、量の適正化、また、リン化合物などの触媒活性抑制剤を添加する等の技術を併用してもよい。
【0031】
本発明のフィルムの製造方法としては、ポリエステル(I)と(II)および低分子量ポリマー(III)を適正な比率にブレンドし、押出機内250〜280℃の温度で3〜15分間溶融混合した後、Tダイを通じてシート状に押出す。このシートを室温以下に温度調節した冷却ドラム上に密着させて冷却し、得られた未延伸フィルムをその後同時二軸延伸機に導き、50〜150℃の温度でMDおよびTDに夫々2〜4倍程度の延伸倍率となるよう二軸延伸し、さらにTDの弛緩率を数%として、80〜220℃で数秒間熱処理を施すことによって製造することが出来る。また、同時延伸機に導く前に、1〜1.2倍程度の予備縦延伸を施しておいてもよい。
【0032】
なお、低分子量ポリマー(III)をブレンドする方法は特に限定されないが、ポリエステル(I)または(II)中に0.5〜5質量%程度含有するマスターチップを事前に作成して、マスターチップで添加する方法が好ましい。
【0033】
またこのフィルムは逐次延伸法によっても製造することが出来る。その方法を概説すると、先に記述したと同様の未延伸フィルムをロール加熱、赤外線等で加熱し、縦方向に延伸して縦延伸フィルムを得る。延伸は2個以上のロール周速差を利用し、ポリエステルのガラス転移点(Tg)〜Tgより40℃高い温度の範囲で2.5〜3.6倍とするのが好ましい。縦延伸フィルムは続いて連続的に、横延伸、熱固定、熱弛緩の処理を順次施して二軸配向フィルムとするが、横延伸はポリエステルのTg〜Tgより40℃高い温度で開始し、最高温度はポリエステルの融点(Tm)より(100〜40)℃低い温度であることが好ましい。横延伸の倍率は最終的なフィルムの要求物性に依存し調整されるが、2.7倍以上、さらには3.0倍以上、特に3.6倍以上であることが好ましい。延伸に続く熱固定処理時にフィルム幅方向に2〜20%の伸張を加えてもよいが、この伸張率はトータルの延伸倍率の中に含まれることが好ましい。熱固定処理後、フィルムの熱収縮特性を調整するため、フィルムの幅を連続的に縮める処理(リラックス処理と呼ぶ)を行い、その後フィルムのTg以下に冷却して二軸延伸フィルムを得る。
【0034】
延伸後の熱処理は、フィルムの寸法安定性を付与するために必要な工程であるが、その方法としては、熱風を吹き付ける方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波を照射する方法等の公知の方法を用いることができる。このうち、均一に精度良く加熱できることから熱風を吹き付ける方法が最適である。
【0035】
フィルム製造時や製缶時の工程通過性をよくするため、シリカ、アルミナ、カオリン等の無機滑剤を少量添加して製膜し、フィルム表面にスリップ性を付与することが望ましい。さらに、フィルム外観や印刷性を向上させるため、たとえば、フィルムにシリコーン化合物等を含有させることもできる。
フィルムへの無機滑剤の添加量は0.001〜0.5質量%、好ましくは0.05〜0.3質量%である。また、滑剤の機能と併用して、隠蔽性の目的から二酸化チタンを20質量%程度まで添加することも出来る。特に同時二軸延伸においては40質量%を超える二酸化チタンを添加しても延伸フィルムを得ることができる。
【0036】
本発明のフィルムは、鋼板、アルミ等の金属板に熱ラミネートされるが、ラミネートする金属板は、クロム酸処理、リン酸処理、電解クロム酸処理、クロメート処理等の化成処理や、ニッケル、スズ、亜鉛、アルミ、砲金、真鍮、その他の各種メッキ処理などを施した金属板を用いることができる。
【0037】
本発明のフィルムには、金属板との熱圧着性及びその後の密着性を更に向上させる目的で、共押出法やラミネート加工、あるいはコーティング加工により接着層を設けることができる。接着層は乾燥膜厚で1μm以下が好ましい。接着層は、特に限定されないが、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂やこれらの各種変性樹脂からなる熱硬化性樹脂層であることが好ましい。
また、金属板と熱圧着するフィルムの反対側には、金属缶体の外観や印刷性を向上させたり、フィルムの耐熱性や耐レトルト性等を向上させるために1種もしくは2種以上の樹脂層を設けることができる。これらの層は、共押出法やラミネートあるいはコーティング加工により設けることができる。
【0038】
本発明のフィルムラミネート金属板は、上記フィルムが、金属板に直接または接着剤を介して積層されてなるものである。フィルムと金属板をラミネートする方法としては、金属板を予め160〜250℃まで予熱しておき、これとフィルムとを、金属板より30℃、更には50℃以上低く温度制御されたロールによって圧接して熱圧着させた後、室温まで冷却することにより連続的に製造される。
金属板の加熱方法としては、ヒーターロール伝熱方式、誘導加熱方式、抵抗加熱方式、熱風伝達方式等があげられ、特に、設備費及び設備の簡素化を考慮した場合、ヒーターロール伝熱方式が好ましい。
また、ラミネート後の冷却方法については、水等の冷媒中に浸漬する方法や冷却ロールと接触させる方法を用いることができる。
【0039】
以上のようにして得られた金属板は、そのまま加工処理を施してもよいが、ポリエステルの融点より10〜30℃高い温度で熱処理後急冷して、本ポリエステルフィルムをアモルファスの状態にすることにより、さらに高い加工性を付与することができる。特に、本発明のフィルムは、アモルファス状態にした際に大きな効果を発揮する。
【0040】
本発明の金属容器は、上記ラミネート金属板が成形されてなるものである。金属容器としては、飲食料を充填して使用に供することができ得る形態にまで加工処理が施された金属容器及びその一部分、例えば巻き締め加工が可能な形状に成形された缶蓋も含まれる。
特に、厳しいネックイン加工が施される3ピース缶(3P缶)の缶胴部材や、絞りしごき加工によって製造される2ピース缶(2P缶)の缶胴部材として用いる場合に、本発明のフィルムの優れた加工性が発揮される。
本発明の金属容器は、その優れた耐レトルト性、フレーバー性、耐食性から、コーヒー、緑茶、紅茶、ウーロン茶、特に腐食性の高い酸性飲料(果汁飲料)や乳性飲料といった各種加工食品等の内容物を充填する場合に適している。
【0041】
【実施例】
次に、実施例によって本発明を具体的に説明する。
実施例及び比較例におけるフィルムの原料、および、特性値の測定法は、次の通りである。
【0042】
ポリエステル(I)
A−1:固相重合を施したPBT、IV1.22dl/g、Tm223℃、Ti触媒40ppm含有。
A−2:固相重合を施したPBT、IV1.08dl/g、Tm223℃、Ti触媒40ppm含有。
A−3:固相重合を施したPBT、IV0.94dl/g、Tm223℃。Ti触媒100ppm含有。
A−4:固相重合を施したセバシン酸(SEA)5mol%共重合PBT、IV0.92dl/g、Tm217℃、Ti触媒40ppm含有。
A−5:SEA12mol%共重合PBT、IV0.95dl/g、Tm204℃、固相重合を施していない、Ti触媒40ppm含有。
【0043】
ポリエステル(II)
B−1:固相重合を施したPET、IV0.75dl/g、Tm255℃、Ge触媒40ppm含有。
B−2:固相重合を施したPET、IV0.64dl/g、Tm255℃、Sb触媒100ppm含有。
B−3:固相重合を施したイソフタル酸(IPA)5mol%共重合PET、IV0.81dl/g、Tm243℃、Sb触媒100ppm含有。
B−4:IPA12mol%共重合PET、IV0.65dl/g、Tm226℃、固相重合を施していない。Sb触媒100ppm含有。
【0044】
低分子量ポリマー(III)
C−1:ポリエチレン、数平均分子量Mn400、軟化点98℃(ヤスハラケミカル社製ネオワックス ACL)。
C−2:ポリエチレン、数平均分子量Mn1500、軟化点108℃(三洋化成社製サンワックス 131−P)。
C−3:ポリプロピレン、数平均分子量Mn4000、軟化点145℃(三洋化成社製ビスコール 660−P)。
C−4:ポリプロピレン、数平均分子量Mn9000、軟化点153℃(三洋化成社製ビスコール 440−P)。
C−5:ポリオキシテトラメチレングリコール、数平均分子量Mn3000、ポリエステル(I)、(II)と実質的に相溶 (三洋化成 PTMG3000)。
なお、C−1の数平均分子量はGPC法で、軟化点はJIS K2530に準じてそれぞれ測定した。C−2〜5の数平均分子量および軟化点はカタログ値を示した。
【0045】
測定法
A.極限粘度(IV)
フェノール/四塩化エタンの等質量混合溶媒を用いて、温度20℃、濃度0.5g/dlで測定した溶液粘度から求めた。
【0046】
B.エステル交換指数
Varian社製、GEMINI2000/300核磁気共鳴装置(磁場強度7.05T)にて、13C NMRの測定を行った。測定サンプルは、フィルム60〜100mgをCF3COOD溶媒0.7mlに溶解したものを用い、指数は、エステル交換に起因するピーク(図2)の積分値から、下記式により求めた。
Ex=(Sab+Sba)/(Saa+Sbb+Sab+Sba)×100(%)
【0047】
C.融点(Tm)
Perkin Elmer社製DSCを用い、20℃/minで昇温時の融点を測定した。フィルムの測定サンプルは、延伸フィルムを溶融後、100℃/min以上の速度で急冷して非晶状態としたものを用いた。
【0048】
D.熱ラミネート性
200℃に加熱した金属ロールと、シリコンゴムロールとの間に、試料フィルムと厚みが0.21mmのティンフリースチール板とを重ね合わせて供給し、速度20m/min、線圧4.9×104N/mで加熱接着し、2sec後に氷水中に浸漬し、冷却してラミネート金属板を得た。
得られた積層体から、幅18mmの短冊状の試験片(端部はラミネートせず、ラミネートされた部分がMDに8cm以上確保されるようにする)をTDに11枚切り出した。
次に、この試験片のフィルム面に、JIS Z−1522に規定された粘着テープを貼り付け、島津製作所社製オートグラフで、10mm/minの速度で180度剥離試験を行い、その剥離強力を測定することにより、次の基準にしたがって接着性を評価した。
◎:10枚以上の試験片の剥離強力が2.9N以上であるか、又は2.9N以上でフィルムが破断。
○:5〜9枚の試験片の剥離強力が2.9N以上であるか、又は2.9N以上でフィルムが破断。
【0049】
E.表面状態
上記Dで得られたラミネート金属板のフィルム表面(A)、および、熱風乾燥機中270℃で1min熱処理後、2sec以内に30℃以下の水浴中で急冷したラミネート金属板のフィルム表面(B)の3次元表面粗さを測定し、次の基準にしたがってフィルムの表面状態を評価した。なお、3次元表面粗さ(SRa)は、小坂研究所社製、SURFCORDER ET−30K 触針式表面粗さ計を用い、触針先端半径2μm、加重20mg、カットオフ0.25mm、送りピッチ20μm、測定速度100μm/sec、測定面積0.1mm2の条件により、10箇所測定してその平均値を求めた。
×:SRaが10nm未満
○:SRaが10nm以上、30nm未満
◎:SRaが30nm以上
【0050】
F.成形性
上記Dで得られたラミネート金属板のフィルム側を缶胴内面として、絞りしごき成形を行い500ml相当の2ピース缶を成形した。得られた缶に、1質量%食塩水を満たし、缶体を陽極にして6Vの電圧をかけた時の電流値を測定し、ポリエステルフィルムの欠陥の程度を評価した。電流が多く流れるほど欠陥が多く、缶品位としては1mA以下が好ましい。電流値が5mA以上であるものを×とした。
【0051】
G.耐衝撃性
上記Dで得られたラミネート金属板10枚を、(イ)125℃で30minレトルト処理後、および、(ロ)125℃で30minレトルト処理後、50℃雰囲気下で1ヶ月保存後、それぞれ、5℃の雰囲気下において、1kgの重り(先端は直径1/2inchの球面)を50cmの高さからフィルム面に落下させたときのフィルムの状態を観察し、次の基準により耐衝撃性を評価した。
×:1枚でも剥離または破断が目視で認められたもの。
△:目視では認められず、硫酸銅水溶液に浸して金属の腐食が認められたものが3枚以上。
○:目視では認められず、硫酸銅水溶液に浸して腐食が認められたものが2枚以下。
◎:目視では認められず、硫酸銅水溶液に浸しても10枚全て腐食が認められなかった。
【0052】
H.保味保香性
上記Fで得られた500ml2ピース缶胴部を用いて、蒸留水500gを充填し、市販の202径アルミEO蓋を巻き締めてこれを密封し、125℃で30minレトルト処理を行った。次に、室温まで十分に冷却した後に、内容物をパネラー50人に試飲してもらい、におい、味覚等が蒸留水と違いがないかを判断してもらい、その結果を次の基準に従って保味保香性の指標とした。
○:両者の違いを感知した人数が5人未満。
△:両者の違いを感知した人数が5人以上10人未満。
×:両者の違いを感知した人数が10人以上。
不合格:上記Fの評価において×となったものは、保味保香性の評価を行わず、不合格とした。
【0053】
実施例1〜5および比較例1〜9
表1に示す種類のポリエステル(I)と(II)および低分子量ポリマー(III)に、さらに平均粒径2.5μmの凝集シリカを0.08質量%添加し、表1に示す割合になるように配合し、各々270〜285℃の範囲で溶融、Tダイ出口より押出し、急冷固化して未延伸フィルムを得た。
次いで、この未延伸フィルムの端部をテンター式同時二軸延伸機のクリップに把持し、70℃の予熱ゾーンを走行させた後、温度85℃でMDに3.0倍、TDに3.3倍で同時二軸延伸した。ただし、比較例1および2については、予熱ゾーンを80℃、延伸を90℃に変更して実施した。その後TDの弛緩率を5%として、温度150℃で4秒間の熱処理を施した後、室温まで冷却して巻き取り、厚さ25μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムから、Dに記載した方法でラミネート金属板を作成し、さらにFに記載した方法で金属容器(2ピース缶)を作成した。
フィルムの熱ラミネート性、ラミネート金属板または金属容器におけるフィルムの表面状態、成形性、耐衝撃性、保味保香性について評価した結果を表2に示した。
【0054】
【表1】
Figure 0004009467
【0055】
【表2】
Figure 0004009467
【0056】
実施例1〜5で得られたフィルムは、熱ラミネート性、成形性、耐衝撃性、耐レトルト性、保味保香性に優れていたが、比較例1〜9で得られたフィルムは、上記のすべての性能を満足するものは得られなかった。
【0057】
【発明の効果】
本発明によれば、優れた熱ラミネート性と、フィルムをアモルファス化処理した後でもフィルム表面の滑り性に優れ、成形性、特に絞り成形やしごき成形等の高次加工性を有するとともに、成形後の耐衝撃性や保味保香性に優れた金属缶の被覆に好適な、金属板ラミネート用ポリエステルフィルムを提供することができる。
【0058】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のフィルムのNMRチャートである。
【図2】図1において、エステル交換に起因するピーク(Sab、Sba、Saa、Sbb)の部分を拡大したNMRチャートである。

Claims (5)

  1. ポリブチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(I)、ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(II)、および低分子量ポリマー(III)からなるフィルムであり、ポリエステル(I)と(II)の質量比(I)/(II)が80〜40/20〜60であり、フィルムが200〜223℃にポリエステル(I)の融点を、また、230℃〜256℃にポリエステル(II)の融点を有し、低分子量ポリマー(III)がポリオレフィン、ポリスチレンおよびポリアミドから選ばれる少なくとも1種であり、その数平均分子量が1000〜8000であり、フィルム中の含有量が0.01〜1.0質量%であることを特徴とする金属板ラミネート用フィルム。
  2. 低分子量ポリマー(III)の含有量が0.01〜0.3質量%であることを特徴とする請求項1記載の金属板ラミネート用フィルム。
  3. 低分子量ポリマー(III)がポリオレフィンであることを特徴とする請求項1または2記載の金属板ラミネート用フィルム。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の金属板ラミネート用フィルムが、金属板に直接または接着剤を介して積層されてなるフィルムラミネート金属板。
  5. 請求項4記載のフィルムラミネート金属板が成形されてなる金属容器。
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