JP4009429B2 - 逆入力防止クラッチ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、入力側からの入力トルクは出力側に伝達する一方、出力側からの逆入力トルクはロックして入力側に還流させない機能を有する逆入力防止クラッチに関する。
【0002】
【従来技術】
例えば、駆動源からの入力トルクを出力側機構に伝達して所要の動作を行う装置では、駆動源の停止時、出力側機構の位置が変動しないようこれを保持する機能が求められる場合がある。電動シャッターを例にとると、該装置では、駆動モータからの正方向又は逆方向の入力トルクを出力側の開閉機構に入力して、シャッターの開閉動作を行なうが、開閉動作の途中で何らかの事情(停電等)により駆動源が停止した場合、シャッターの自重下降による逆入力トルクが入力側に還流すると、入力側機器に損傷が生じる可能性がある。そのため、シャッターの位置を保持し、シャッターからの逆入力トルクを入力側に還流させない機能をもった機構が必要になる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、上記のような機能を有し、かつ、コンパクト、軽量、低価格な逆入力防止クラッチを提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明は、トルクが入力される入力側部材と、トルクが出力される出力側部材と、回転が拘束される静止側部材と、静止側部材と出力側部材との間に設けられ、出力側部材からの逆入力トルクに対して出力側部材と静止側部材とをロックするロック手段と、入力側部材に設けられ、入力側部材からの入力トルクに対してロック手段によるロック状態を解除するロック解除手段と、入力側部材と出力側部材との間に設けられ、ロック手段によるロック状態が解除された状態のときに、入力側部材からの入力トルクを出力側部材に伝達するトルク伝達手段とを備え、入力側部材が入力軸を連結するための連結部を有し、かつ、該連結部がクラッチ内部に位置し、入力側部材、出力側部材、及び静止側部材をそれぞれ、金属板の塑性加工品とした構成を提供する。
【0005】
ここでの「ロック手段」には、楔係合力、凹凸係合力、摩擦力、磁気力、電磁力、流体圧力、流体粘性抵抗力、微粒子媒体などによって回転拘束力を与えるものが含まれるが、構造や制御機構の簡素化、動作の円滑化、コストの面等から楔係合力によって回転拘束力を与えるものが好ましい。具体的には、出力側部材と静止側部材との間に楔隙間を形成し、この楔隙間に対して係合子を楔係合・離脱させることによって、ロック・空転を切換える構成とするのが良い。また、この構成には、楔隙間を形成するためのカム面を出力側部材又は静止側部材に設けた構成(係合子としてローラ、ボール等の円形断面のものを用いる。)、楔隙間を形成するためのカム面を係合子に設けた構成(係合子としてスプラグ等を用いる。)が含まれる。
【0006】
また、「金属板」は、塑性加工によって所要の寸法・形状に成形できるものであれば良く、その材質は特に限定されないが、例えば鋼板を採用することができる。また、「塑性加工」としては、例えばプレス加工を採用することができる。
【0007】
上記構成において、入力側部材に入力トルクが入力されると、先ず、ロック手段によるロック状態がロック解除手段で解除され、その状態で、入力側部材からの入力トルクがトルク伝達手段を介して出力側部材に伝達される。一方、出力側部材からの逆入力トルクは、ロック手段を介して、出力側部材と静止側部材との間でロックされる。従って、入力側からの入力トルクは出力側に伝達し、出力側からの逆入力トルクは入力側に還流させない機能が得られる。また、入力側部材、出力側部材、及び静止側部材をそれぞれ金属板の塑性加工品とすることにより、鍛造品、鋳造品、削出し品とする場合に比べて、コンパクト化、軽量化、低価格化を図ることができる。
【0008】
本発明では、入力側部材に入力軸を連結するための連結部を設け、かつ、該連結部をクラッチ内部に位置させている。これにより、クラッチ自身の軸方向寸法をコンパクトにすることができ、また、駆動源とアッセンブリした時の全体の軸方向寸法をコンパクトにすることができる。この連結部は、好ましくは、入力側部材の内周側からクラッチ内部方向に連続して延びた筒状部に設けられ、また、入力軸と平面嵌合する少なくとも1つの平面部が設けられる。入力軸に設けられた平面部と連結部の平面部とが平面嵌合することにより、入力軸と入力側部材とが相対回転不能に連結される。
【0009】
また、上記構成において、出力側部材に筒状の出力軸部を一体に設けることができる。これにより、出力軸部の軽量化を図り、また部品点数を削減して、低価格化を図ることができる。この出力軸部は、好ましくは、その一端が有底になった形態とされる。これにより、出力軸部のラジアル荷重や捩りトルクに対する強度を高め、変形を防止して、耐久性向上を図ることができる。また、好ましくは、出力軸部に他の回動部材(出力側に接続される機構又は装置の回動部材)と平面嵌合する少なくとも1つの平面部が設けられる。他の回動部材に設けられた平面部と出力軸部の平面部とが平面嵌合することにより、出力軸部と他の回動部材とが相対回転不能に連結される。あるいは、出力軸部に他の回動部材(出力側に接続される機構又は装置の回動部材)とスプラインあるいはセレーション嵌合するスプライン部あるいはセレーション部を設けても良い。
【0010】
上記構成において、ロック手段は、静止側部材に設けられた円周面と、出力側部材に設けられ、円周面との間に正逆両回転方向に楔隙間を形成するカム面と、カム面と円周面との間に介在する一対の係合子と、一対の係合子をそれぞれ楔隙間の向きに押圧する弾性部材とを備え、ロック解除手段は、一対の係合子のうち何れか一方と択一的に係合して、これを楔隙間の向きと反対方向に押圧する係合要素であり、トルク伝達手段は、入力側部材および出力側部材に設けられた回転方向の係合要素であり、かつ、ロック解除手段およびトルク伝達手段の中立位置における、ロック解除手段の係合要素と係合子との間の回転方向隙間δ1と、トルク伝達手段の係合要素間の回転方向隙間δ2が、δ1<δ2の関係を有する構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、出力側部材に一方向の逆入力トルクが入力されると、一対の係合子のうち一方がその方向の楔隙間と楔係合して、出力側部材を静止側部材に対して一方向にロックし、出力側部材に他方向の逆入力トルクが入力されると、一対の係合子のうち他方がその方向の楔隙間と楔係合して、出力側部材を静止側部材に対して他方向にロックする。従って、出力側部材は一対の係合子を介して静止側部材に対して正逆両回転方向にロックされる。一方、入力側部材に入力トルクが入力されると、先ず、入力側部材に設けられたロック解除手段としての係合要素が一対の係合子のうち、その入力トルクの方向に楔隙間と楔係合する係合子を該楔隙間の向きと反対方向に押圧して、該楔隙間から離脱させる。これにより、出力側部材のロック状態がその入力トルクの方向に解除される。次に、出力側部材のロック状態が解除された状態で、入力側部材および出力側部材に設けられたトルク伝達手段としての回転方向の係合要素が相互に係合する。これにより、入力側部材に入力された入力トルクが、入力側部材→トルク伝達手段(回転方向の係合要素)→出力側部材という経路で伝達され、出力側部材が回動する。
【0012】
ロック解除手段およびトルク伝達手段の中立位置における、ロック解除手段の係合要素と係合子との間の回転方向隙間δ1と、トルク伝達手段の係合要素間の回転方向隙間δ2とを、δ1<δ2の関係に設定することにより、上記のロック解除手段によるロック解除と、トルク伝達手段によるトルク伝達とを逐次的かつ確実に行わせることができる。
【0013】
上記構成において、トルク伝達手段を、入力側部材および出力側部材のうち一方に設けられた凸部と、他方に設けられ、凸部と適合する凹部で構成することができる。具体的には、凸部としての突起部を出力側部材に設け、凹部としての切欠き部又は穴部を入力側部材に設けることができる。その場合、突起部を外径方向に突出させ、あるいは、軸方向に突出させることができる。尚、カム面は出力側部材に直接形成しても良いし、カム面を有する部材を出力側部材に装着しても良い。また、係合子としては、ローラを用いるのが好ましい。
【0014】
上記構成において、弾性部材は、基部と、該基部から軸方向の一方に延びた舌片部とを備え、舌片部は一対の係合子間に介在して、一対の係合子を互いに離す方向に押圧する構成とすることができる。好ましくは、弾性部材を一体リング、すなわち、基部がリング状をなし、舌片が円周方向に複数配列された形態とすることにより、部品点数を削減して、低価格化を図ることができる。
【0015】
以上の構成において、静止側部材に固定側板を固定し、該固定側板を金属板の塑性加工品とすることができる。この場合、入力軸をラジアル方向に支持する軸受部を固定側板に一体に設けることができる。これにより、入力軸および入力側部材の回動動作を円滑かつ安定させ、ロック手段に偏荷重が加わるのを防止し又は抑制して、安定したクラッチ動作を行なわせることができる。なお、この軸受部は別体の転がり軸受や滑り軸受を配置することによって構成することもできるが、上記構成とすることにより、構造の簡素化と部品点数削減を図ることができる。この軸受部は、好ましくは、固定側板の内周側からクラッチ内部方向に連続して延びた筒状部に設けられる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0017】
図1及び図2は、本発明の第1の実施形態に係る逆入力防止クラッチの全体構成を示している。この実施形態のクラッチは、トルクが入力される入力側部材1と、トルクが出力される出力側部材2と、回転が拘束される静止側部材3と、静止側部材3に固定された固定側板4と、後述するロック手段、ロック解除手段、及びトルク伝達手段とを主要な要素として構成される。入力側部材1、出力側部材2、静止側部材3、及び固定側板4は、金属板、例えば鋼鈑のプレス加工品(プレス加工によって成形された部材)である。
【0018】
図1及び図3に示すように、入力側部材1は、半径方向に延びたフランジ部1aと、フランジ部1aの内周から軸方向の一方(クラッチ内部方向)に連続して延びた筒状部1bと、フランジ部1aの外周から軸方向の一方に連続して延びた複数(例えば8つ)の柱部1cと、フランジ部1aに貫通形成された複数(例えば8つ)の穴部1dとを主体として構成される。
【0019】
柱部1cと穴部1dは、それぞれ円周等間隔に配列される。柱部1cの位置と穴部1dの位置とは円周方向に相互ずれており、この例では円周方向に隣接する柱部1c間の中間位置に穴部1dが位置している。円周方向に隣接する柱部1c間の空間は、軸方向の一方に向かって開口した形態のポケット1eを構成し、各ポケット1eにそれぞれ後述する一対のローラ6が配される。
【0020】
筒状部1bはクラッチ内部に位置し、その先端部分はやや縮径して連結部1fを構成する。この実施形態において、連結部1fの内周は多角形状、例えば四角形状をなし{図1(b)}、四角形の各辺によって4つの平面部1f1が形成される。連結部1fには、図示されていない入力軸(モータ、減速機付きモータの出力軸等)の連結部が連結される。入力軸の連結部の外周は、連結部1fの内周に対応する多角形状、例えば四角形状をなし、四角形の各辺によって4つの平面部が形成される。そして、入力軸の連結部に形成された各平面部と連結部1fの各平面部1f1とが平面嵌合することにより、入力軸と入力側部材1とが相対回転不能に連結される。尚、連結部1fは、内周のみならず、その肉厚部分を全体的に多角形状、例えば四角形状にしても良い。また、入力軸の連結部と連結部1fとを、1つの平面部同士、あるいは、180度対向位置に形成した2つの平面部同士で平面嵌合させる構造としても良い。
【0021】
出力側部材2は、半径方向に延びたフランジ部2aと、フランジ部2aの内周から軸方向の一方に連続して延びた筒状の出力軸部2bと、フランジ部2aの外周から軸方向の他方に連続して延びた大径部2cと、大径部2cの一端から軸方向に突出した複数(例えば8つ)の突起部2dとを主体として構成される。
【0022】
出力軸部2bの軸端部分には例えば1つの平面部2b1が設けられ、この軸端部分は図示されていない出力側の機構又は装置の回動部材に連結される。そして、軸端部分の平面部2b1と上記回動部材に形成された平面部とが平面嵌合することにより、出力軸部2bと上記回動部材とが相対回転不能に連結される。尚、2つの平面部2b1を180度対向位置に形成し、あるいは、軸端部分を多角形状にして、軸端部分と上記回動部材とを複数の平面部同士で平面嵌合させる構造としても良い。また、出力軸部2bの軸端は、底部2b2によって有底となっている。
【0023】
大径部2cは多角形状、例えば正8角形状をなし、各辺の外周がそれぞれカム面2c1になっている。従って、大径部2cの外周には8つのカム面2c1が円周等間隔に配列される。
【0024】
図4に拡大して示すように、出力側部材2の各突起部2dは、それぞれ、入力側部材1の各穴部1dに回転方向隙間(図9に示す回転方向隙間δ2)をもって挿入される。尚、図5に示すように、各穴部1dにバーリング加工を施して、肉盛部1d1を形成しても良い。これにより、突起部2dと穴部1dとを回転方向に確実に係合させることができる。
【0025】
静止側部材3は、半径方向に延びたフランジ部3aと、フランジ部3aの内周から軸方向の一方に連続して延びた筒状部3bと、フランジ部3aの外周から軸方向の他方に延びた大径部3cと、大径部3cの一端から外径方向に突出した鍔部3dとを主体として構成される。
【0026】
フランジ部3aは、出力側部材2のフランジ部2aの外側面に装着され、筒状部3bは、出力側部材2の出力軸部2bの外周をラジアル方向に回転自在に支持する軸受部(滑り軸受)となる。
【0027】
大径部3cの内周には、出力側部材2のカム面2c1と半径方向に対向して正逆両回転方向に楔隙間を形成する円周面3c1が設けられる。
【0028】
鍔部3dには、複数(例えば4つ)の矩形状の切欠き部3d1と、複数(例えば4つ)の円弧状の切欠き部3d2とが円周等間隔に形成される。切欠き部3d1は、後述する固定側板4の加締部4cと適合する。切欠き部3d2は、固定側板4のブラケット部4bに装着される取付ボルトとの干渉を回避するために設けられる。
【0029】
図1及び図2に示すように、固定側板4は、半径方向に延びたフランジ部4aと、フランジ部4aの外周から外径方向に突出した複数(例えば4つ)のブラケット部4bと、フランジ部4aの外周から軸方向の一方に突出した複数(例えば4つ)の加締部4cと、フランジ部4aの内周から軸方向の一方(クラッチ内部方向)に連続して延びた筒状部4dとを主体として構成される。
【0030】
フランジ部4aは、入力側部材1のフランジ部1aの外側面に装着される。4つのブラケット部4bは円周等間隔に形成され、それぞれに貫通孔4b1が形成される。貫通孔4b1には図示されていない取付ボルトが挿通さる。
【0031】
4つの加締部4cは円周等間隔に形成され、それぞれ2股状に分かれた一対の爪4c1を備えている(図2参照)。加締部4cを静止側部材3の切欠き部3d1に嵌め、一対の爪4c1を円周方向の相反する方向に折返して、静止側部材3の鍔部3dに加締る。これにより、静止側部材3と固定側板4とが、軸方向及び回転方向に相対移動不能に結合される。
【0032】
筒状部4dは、入力側部材1の筒状部1bの内周側に挿入され、図示されていない入力軸の外周をラジアル方向に回転自在に支持する軸受部(滑り軸受)となる。
【0033】
図2に示すように、出力側部材2の各カム面2c1と静止側部材3の円周面3c1との間に、それぞれ、係合子としての一対(例えば総数8対)のローラ6が配され、入力側部材1の柱部1c間に形成されるポケット1eに収容される。一対のローラ6間には後述する弾性部材7の舌片部7bが介在し、一対のローラ6を互いに離れる方向に押圧する。カム面2c1、円周面3c1、一対のローラ6、および弾性部材7の舌片部7bによってロック手段が構成され、一対のローラ6の円周方向両側に位置する入力側部材1の柱部1c(係合要素)によってロック解除手段が構成され、入力側部材1の穴部1dとこれに挿入された出力側部材2の突起部2dによってトルク伝達手段が構成される。尚、出力側部材2の外周と静止側部材3の内周との間の空間部、特にカム面2c1と円周面3c1との間には例えばグリースが封入される。
【0034】
図6に示すように、弾性部材7は、基部7aと、基部7aから軸方向の一方側に延びた舌片部7bとを備えている。弾性部材7は一体リング状をなし、リング状の基部7aに、一対の舌片部7bが円周等間隔に複数対配列されている。弾性部材7は、金属板、例えばバネ鋼鈑のプレス加工品である。
【0035】
この実施形態において、基部7aの外周は正8角形状をなし、基部7aの外周の各辺部にそれぞれ一対の舌片部7bが設けられている。一対の舌片部7bは、基部7aの外周の各辺部を切り起こして屈曲片状に形成され、ぞれぞれ、起立部7cを介して基部7aに連続する。図6(c)に示すように、一対の舌片部7bは一対のローラ6間に介装され、一対のローラ6を互いに離す方向に弾性的に押圧する。
【0036】
図7に拡大して示すように、中立位置において、一対のローラ6は弾性部材7の舌片部7bによって互いに離れる方向に押圧され、それぞれ、カム面2c1と円周面3c1との間に形成される正逆両回転方向の楔隙間と係合する。この時、入力側部材1の各柱部1cと各ローラ6との間にはそれぞれ回転方向隙間δ1が存在する。また、出力側部材2の突起部2dと入力側部材1の穴部1dとの間には正逆両回転方向にそれぞれ回転方向隙間δ2が存在する。回転方向隙間δ1と回転方向隙間δ2とは、δ1<δ2の関係を有する。回転方向隙間δ1の大きさは、例えば0〜0.4mm(クラッチの軸心を中心として0〜1.5°)程度、回転方向隙間δ2の大きさは、例えば0.4〜0.8mm(クラッチの軸心を中心として1.8〜3.7°)程度である。
【0037】
図7に示す状態で、例えば、出力側部材2に時計方向の逆入力トルクが入力されると、反時計方向(回転方向後方)のローラ6がその方向の楔隙間と楔係合して、出力側部材2が静止側部材3に対して時計方向にロックされる。出力側部材2に反時計方向の逆入力トルクが入力されると、時計方向(回転方向後方)のローラ6がその方向の楔隙間と楔係合して、出力側部材2が静止側部材3に対して反時計方向にロックされる。従って、出力側部材2からの逆入力トルクは、ローラ6によって正逆両回転方向にロックされる。
【0038】
図8は、入力側部材1に入力トルク(同図で時計方向)が入力され、入力側部材1が同図で時計方向に回動を始めた初期状態を示している。回転方向隙間がδ1<δ2に設定されているため、先ず、入力側部材1の反時計方向(回転方向後方)の柱部1cがその方向(回転方向後方)のローラ6と係合して、これを舌片部7bの弾性力に抗して時計方向(回転方向前方)に押圧する。これにより、反時計方向(回転方向後方)のローラ6がその方向の楔隙間から離脱して、出力側部材2のロック状態が解除される{尚、時計方向(回転方向前方)のローラ6は、その方向の楔隙間とは楔係合しない。}。従って、出力側部材2は時計方向に回動可能となる。
【0039】
入力側部材1がさらに時計方向に回動すると、図9に示すように、入力側部材1の穴部1dの壁面が出力側部材2の突起部2dと時計方向に係合する。これにより、入力側部材1からの時計方向の入力トルクが穴部1dと突起部2dとの係合部分を介して出力側部材2に伝達され、出力側部材2が時計方向に回動する。入力側部材1に反時計方向の入力トルクが入力された場合は、上記とは逆の動作で出力側部材2が反時計方向に回動する。従って、入力側部材1からの正逆両回転方向の入力トルクは、トルク伝達手段としての穴部1dおよび突起部2dを介して出力側部材2に伝達され、出力側部材2が正逆両回転方向に回動する。尚、入力側部材1からの入力トルクがなくなると、舌片部7bの弾性復元力によって図7に示す中立位置に復帰する。
【0040】
図10〜図12は、本発明の第2の実施形態を示している。この第2の実施形態が、上述した第1の実施形態と異なる点は、トルク伝達手段として、切欠き部21dと外径方向の突起部22dとの係合構造を採用している点にある。図12に示すように、切欠き部21dは、入力側部材1のフランジ部1aの外周側部分に形成される。切欠き部21dは複数(例えば8つ)形成され、円周等間隔に配列される。柱部1cの基端1c1は円周方向にやや幅広になっており、円周方向に隣接する基端1c1間に切欠き部21dが位置している。外径方向の突起部22dは、軸方向の基端22d1を介して、出力側部材2の大径部2cの一端に連続している。突起部22dは複数(例えば8つ)形成され、円周等間隔に配列される。出力側部材2の各突起部22dは、それぞれ、回転方向隙間δ2(図7参照)をもって各切欠き部21dに適合される。
【0041】
尚、入力側部材1には、切欠き部21dに代えて、図13に示す形態の切欠き部21d’を設けても良い。この例によれば、図12に示す形態に比べて、入力側部材1のフランジ部1aを切欠き加工する必要がないので、製造工程が簡略化される。また、トルク伝達手段として、入力側部材1に設けた切欠き部と出力側部材2に設けた軸方向の突起部とを、回転方向隙間δ2(図7参照)をもって適合させても良い。その他の事項は第1の実施形態に準じるので、重複する説明を省略する。
【0042】
【発明の効果】
本発明によれば、入力側からの入力トルクは出力側に伝達する一方、出力側からの逆入力トルクはロックして入力側に還流させない機能を有し、かつ、コンパクト、軽量、低価格な逆入力防止クラッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第1の実施形態に係る逆入力防止クラッチの縦断面図{図1(a):図2のB−B断面図}、連結部の横断面図{図1(b)}、出力軸部のX方向矢視図{図1(c)}である。
【図2】 第1の実施形態に係る逆入力防止クラッチを示す横断面図{図1(a)のA−A断面図}である。
【図3】 入力側部材、出力側部材、静止側部材の斜視図である。
【図4】 トルク伝達手段(入力側部材の切欠き部と出力側部材の突起部)の周辺部を示す拡大縦断面図である。
【図5】 他の例に係るトルク伝達手段(入力側部材の切欠き部と出力側部材の突起部)の周辺部を示す拡大縦断面図である。
【図6】 弾性部材を示す正面図{図6(a)}、外周側から見た図{図6(b)}、舌片部を一対のローラ間に介装した状態を示す拡大図{図6(c)}である。
【図7】 第1の実施形態に係る逆入力防止クラッチの作用を説明する部分拡大横断面図である(中立位置)。
【図8】 第1の実施形態に係る逆入力防止クラッチの作用を説明する部分拡大横断面図である(ロック解除時)。
【図9】 第1の実施形態に係る逆入力防止クラッチの作用を説明する部分拡大横断面図である(トルク伝達時)。
【図10】 第2の実施形態に係る逆入力防止クラッチの縦断面図{図10(a):図11のB−B断面図}、連結部の横断面図{図10(b)}、出力軸部のX方向矢視図{図10(c)}である。
【図11】 第2の実施形態に係る逆入力防止クラッチを示す横断面図{図10(a)のA−A断面図}である。
【図12】 入力側部材、出力側部材、静止側部材の斜視図である。
【図13】 他の例に係る入力側部材、出力側部材、静止側部材の斜視図である。
【符号の説明】
1 入力側部材
2 出力側部材
3 静止側部材
4 固定側板
6 ローラ
7 弾性部材
Claims (18)
- トルクが入力される入力側部材と、トルクが出力される出力側部材と、回転が拘束される静止側部材と、前記静止側部材と前記出力側部材との間に設けられ、前記出力側部材からの逆入力トルクに対して前記出力側部材と前記静止側部材とをロックするロック手段と、前記入力側部材に設けられ、前記入力側部材からの入力トルクに対して前記ロック手段によるロック状態を解除するロック解除手段と、前記入力側部材と前記出力側部材との間に設けられ、前記ロック手段によるロック状態が解除された状態のときに、前記入力側部材からの入力トルクを前記出力側部材に伝達するトルク伝達手段とを備えた逆入力防止クラッチであって、
前記入力側部材が入力軸を連結するための連結部を有し、かつ、該連結部がクラッチ内部に位置し、
前記入力側部材、前記出力側部材、及び前記静止側部材をそれぞれ、金属板の塑性加工品としたことを特徴とする逆入力防止クラッチ。 - 前記連結部が、前記入力側部材の内周側からクラッチ内部方向に連続して延びた筒状部に設けられていることを特徴とする請求項1記載の逆入力防止クラッチ。
- 前記連結部に、前記入力軸と平面嵌合する少なくとも1つの平面部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の逆入力防止クラッチ。
- 前記出力側部材が、筒状の出力軸部を一体に有することを特徴とする請求項1記載の逆入力防止クラッチ。
- 前記出力軸部の一端が有底になっていることを特徴とする請求項4記載の逆入力防止クラッチ。
- 前記出力軸部に、他の回動部材と平面嵌合する少なくとも1つの平面部が設けられていることを特徴とする請求項4又は5記載の逆入力防止クラッチ。
- 前記ロック手段は、前記静止側部材に設けられた円周面と、前記出力側部材に設けられ、前記円周面との間に正逆両回転方向に楔隙間を形成するカム面と、前記カム面と前記円周面との間に介在する一対の係合子と、前記一対の係合子をそれぞれ前記楔隙間の向きに押圧する弾性部材とを備え、前記ロック解除手段は、前記一対の係合子のうち何れか一方と択一的に係合して、これを前記楔隙間の向きと反対方向に押圧する係合要素であり、前記トルク伝達手段は、前記入力側部材および前記出力側部材に設けられた回転方向の係合要素であり、かつ、前記ロック解除手段および前記トルク伝達手段の中立位置における、前記ロック解除手段の係合要素と前記係合子との間の回転方向隙間δ1と、前記トルク伝達手段の係合要素間の回転方向隙間δ2が、δ1<δ2の関係を有するることを特徴とする請求項1記載の逆入力防止クラッチ。
- 前記トルク伝達手段が、前記入力側部材および前記出力側部材のうち一方に設けられた凸部と、他方に設けられ、前記凸部と適合する凹部であることを特徴とする請求項7記載の逆入力防止クラッチ。
- 前記凸部が前記出力側部材に設けられた突起部であり、前記凹部が前記入力側部材に設けられた切欠き部であることを特徴とする請求項8記載の逆入力防止クラッチ。
- 前記凸部が前記出力側部材に設けられた突起部であり、前記凹部が前記入力側部材に設けられた穴部であることを特徴とする請求項8記載の逆入力防止クラッチ。
- 前記突起部が外径方向に突出していることを特徴とする請求項9又は10記載の逆入力防止クラッチ。
- 前記突起部が軸方向に突出していることを特徴とする請求項9又は10記載の逆入力防止クラッチ。
- 前記弾性部材は、基部と、該基部から軸方向の一方側に延びた舌片部とを備え、前記舌片部は前記一対の係合子間に介在して、前記一対の係合子を互いに離す方向に押圧することを特徴とする請求項7記載の逆入力防止クラッチ。
- 前記基部がリング状をなし、前記舌片が円周方向に複数配列されていることを特徴とする請求項13記載の逆入力防止クラッチ。
- 前記係合子がローラであることを特徴とする請求項7記載の逆入力防止クラッチ。
- 前記静止側部材に固定された固定側板をさらに備え、該固定側板が金属板の塑性加工品であることを特徴とする請求項1記載の逆入力防止クラッチ。
- 前記固定側板が、入力軸をラジアル方向に支持する軸受部を有することを特徴とする請求項16記載の逆入力防止クラッチ。
- 前記軸受部が、前記固定側板の内周側からクラッチ内部方向に連続して延びた筒状部に設けられていることを特徴とする請求項17記載の逆入力防止クラッチ。
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