JP4007486B2 - 固体電解質用基材、固体電解質、及び固体電解質用基材の製造方法 - Google Patents

固体電解質用基材、固体電解質、及び固体電解質用基材の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は固体電解質用基材、固体電解質、及び固体電解質用基材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
最近、高分子と非水溶媒とからなる固体電解質を用いた非水二次電池は、非水溶媒が漏れにくく安全性の向上が図れること、さらに、電池自体を薄くかつ自由な形状にすることができるため、開発が積極的に行われている。しかしながら、このような固体電解質は機械的強度が不足しており、単独では取扱うことが難しく、実用化するのが困難であった。
【0003】
このような背景のもと、固体電解質の機械的強度を補うための固体電解質用支持体が提案されている。例えば、非水溶媒を電解液とする電池(例えば、リチウムイオン電池)で使用されているようなポリエチレン製の微多孔膜セパレータを、固体電解質の支持体として利用したものや、ポリオレフィン系合成樹脂繊維製不織布を支持体として使用したものが知られている(特開平9−22724号公報など)。これらの支持体を使用した固体電解質は、機械的強度に優れ、効率的に電池を組立てることができるものであったが、支持体と固体電解質とが一体化された場合に、電気導電率が低くなることが判明した。
【0004】
また、非水溶媒を内部に保持し、高いイオン伝導性を示すポリフッ化ビニリデン樹脂の微多孔膜を利用することで、固体電解質の電気導電率を向上させることができることが知られている。しかしながら、ポリフッ化ビニリデン樹脂の微多孔膜は、開孔率が低いため、非水溶媒の保持性が悪く、充放電を繰り返すと電極の膨張により電池内部の圧力が高まり、ポリフッ化ビニリデン樹脂の微多孔膜中に含まれる非水溶媒が押出され、電池から漏れるという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前記のような問題点を解決するためになされたものであり、機械的強度が高く取扱いが容易で、電解液の保持性が高く液漏れが起こらず、しかも電気導電率の高い固体電解質を製造できる固体電解質用基材、この固体電解質用基材を使用した固体電解質、並びに固体電解質用基材の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意研究の結果、「ポリフッ化ビニリデン粉体を60〜95mass%と、繊維径が5μm以下の融着可能な極細繊維を5〜40mass%含み、前記融着可能な極細繊維が融着した集合体からなる固体電解質用基材」、又は「ポリフッ化ビニリデン粉体を60〜95mass%と、繊維径が5μm以下の融着可能な極細繊維及び合成樹脂製パルプ状物を含み、前記融着可能な極細繊維とパルプ状物の合計量が5〜40mass%であり、しかも前記融着可能な極細繊維が融着した集合体からなる固体電解質用基材」であれば、前記課題を解決できることを見出した。つまり、ポリフッ化ビニリデンを粉体の状態で含んでいることにより、固体電解質用基材の開孔率を微多孔膜の約2倍とすることができ、結果として電解液の保持量を約2倍とすることができるため、電気導電率の高い固体電解質を製造することができる。また、ポリフッ化ビニリデン粉体(以下、「PVDF粉体」と表記することがある)は60〜95mass%と多量に含まれており、PVDF粉体は密に充填されている状態となるため、空隙はPVDF粉体間に形成される。そして、その空隙に電解液が保持されるため、加圧によっても電解液が漏れにくい固体電解質を製造することができる。更に、本発明の固体電解質用基材(以下、単に「基材」と表記することがある)は、繊維径が5μm以下の融着可能な極細繊維、又は融着可能な極細繊維とパルプ状物を含んでおり、これらが補強材の役目を果すことにより、機械的強度の優れる固体電解質を製造することができる。
【0007】
前記の融着可能な極細繊維の融着によりポリフッ化ビニリデン粉体が固定されているため、PVDF粉体の保持性が高くなり、PVDF粉体が脱落しにくい基材である。また、機械的強度に優れるため取扱い易く、しかも厚み方向における強度が強くなるため、加圧による液漏れがより生じにくい固体電解質を製造することができる。
【0008】
前記極細繊維がポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とを含み、少なくとも繊維表面の一部をポリエチレン系樹脂が占めていると、このポリエチレン系樹脂の熱融着によりPVDF粉体を固定しやすい。また、この極細繊維は水分率が低く、水分を除去しやすいため、非水溶媒を担持させて固体電解質を製造する場合に有効である。
【0009】
前記パルプ状物を構成する樹脂成分が合成樹脂からなるため、水分率が低く、水分を除去しやすいため、非水溶媒を担持させて固体電解質を製造する場合に有効である。また、非水溶媒で濡れてもその形態が変わらないため、この基材に非水溶媒を担持させた固体電解質は各種用途に適用する際に固体電解質が破損しにくい、という効果を奏する。例えば、この固体電解質を電池用途に適用した場合には、信頼性の高い電池を供給することができる。
【0010】
本発明の固体電解質は前記のような固体電解質用基材と非水溶媒とからなるため、機械的強度、電解液の保持性、及び電気導電率に優れるものである。
【0011】
前記のような固体電解質用基材は、「(1)ポリフッ化ビニリデン粉体60〜95massと、(2)繊維径が5μm以下の融着可能な極細繊維の集合体、圧縮気体の作用によって繊維径が5μm以下の融着可能な極細繊維に分割可能な分割性繊維の集合体の中から選ばれる少なくとも1つの骨材5〜40mass%とを、圧縮気体の作用によりノズルから気体中に噴出させて、前記ポリフッ化ビニリデン粉体を分散させるとともに、前記骨材から融着可能な極細繊維を発生させ、分散させる工程、分散したポリフッ化ビニリデン粉体と融着可能な極細繊維とを集積して、ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体を形成する工程、及び前記融着可能な極細繊維を融着させる工程、を備えていることを特徴とする固体電解質用基材の製造方法」、又は「(1)ポリフッ化ビニリデン粉体60〜95massと、(2)繊維径が5μm以下の融着可能な極細繊維の集合体及び/又は圧縮気体の作用によって繊維径が5μm以下の融着可能な極細繊維に分割可能な分割性繊維の集合体と、合成樹脂製パルプ状物の集合体及び/又は圧縮気体の作用によって合成樹脂製パルプ状にフィブリル化可能な分繊性繊維の集合体からなる骨材5〜40mass%とを、圧縮気体の作用によりノズルから気体中に噴出させて、前記ポリフッ化ビニリデン粉体を分散させるとともに、前記骨材から融着可能な極細繊維及び合成樹脂製パルプ状物を発生させ、分散させる工程、分散したポリフッ化ビニリデン粉体と融着可能な極細繊維及び合成樹脂製パルプ状物とを集積して、ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体を形成する工程、及び前記融着可能な極細繊維を融着させる工程、を備えていることを特徴とする固体電解質用基材の製造方法」によって製造することができる。この製造方法によると、ポリフッ化ビニリデンを粉体の状態で含む、開孔率が高く、しかも粉体間に空隙を維持した状態の固体電解質用基材を製造できるため、電解液の保持量を多くすることができ、電気導電率の高い固体電解質を製造することができる固体電解質用基材を製造することができる。また、PVDF粉体を60〜95mass%と多量に含ませ、PVDF粉体が密に充填された状態の固体電解質用基材を製造できるため、PVDF粉体間の空隙に電解液を保持させることができ、加圧によっても電解液が漏れにくい固体電解質を製造することができる固体電解質用基材を製造することができる。更に、繊維径が5μm以下の融着可能な極細繊維、又は融着可能な極細繊維とパルプ状物を含む、機械的強度の優れる固体電解質を製造することができる固体電解質用基材を製造することができる。また、この製造方法は、PVDF粉体及び骨材を気体中に分散させ、集積させる方法であるため、作業性良く固体電解質用基材を製造することができる。
【0013】
融着可能な極細繊維を融着させているため、基材からPVDF粉体の脱離が更に生じにくく、しかも機械的強度が更に高い基材を製造することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の基材においては、高いイオン伝導性を示すポリフッ化ビニリデンを使用し、しかも粉体の状態で存在していることによって、基材の開孔率を高めるとともに、電解液の保持量を多くできるようにして、電気導電率を高めている。また、PVDF粉体を基材全体の60〜95mass%含んでいることによって、PVDF粉体が密に充填した状態とし、PVDF粉体間に空隙を形成することによって電解液の保持性を高め、加圧時(例えば、電池の充放電時)における電解液の液漏れを防止している。
【0015】
このポリフッ化ビニリデン粉体の粒径は特に限定するものではないが、粒径が小さければ小さいほど、前記効果に優れていることに加えて、固体電解質用基材全体に分散することができ、イオン伝導性が均一である固体電解質を製造できるため、粒径は4μm以下であるのが好ましく、2μm以下であるのがより好ましい。下限は特に限定するものではないが、0.1μm程度が適当である。なお、ファンデルワールス力によりPVDF粉体を極細繊維及び/又はパルプ状物の表面に付着させる場合には、ポリフッ化ビニリデン粉体の粒径の下限は1μmであるのが好ましい。なお、この「粒径」は平均粒子径を意味し、この平均粒子径はレーザー回析・散乱法により測定することができる。
【0016】
このポリフッ化ビニリデン粉体の含有量は電気導電率を高くできるように、基材全体の60mass%以上を占めており、より好ましくは70mass%以上を占めており、更に好ましくは80mass%以上を占めている。一方、ポリフッ化ビニリデン粉体の含有量が基材全体の95mass%を超えると、基材の機械的強度が弱くなり、取扱い性が悪くなるため、95mass%以下を占めており、より好ましくは90mass%以下を占めており、更に好ましくは85mass%以下を占めている。
【0017】
本発明の基材は前述のようなPVDF粉体に加えて、繊維径が5μm以下の極細繊維及び/又はパルプ状物を基材全体の5〜40mass%含んでいることによって、基材に機械的強度を付与している。
【0018】
まず、極細繊維は前述のようなポリフッ化ビニリデン粉体の保持性に優れているように、極細繊維の繊維径は5μm以下であり、極細繊維の繊維径が小さければ小さい程、ポリフッ化ビニリデン粉体の保持性に優れ、より粒径の小さいポリフッ化ビニリデン粉体を保持できるため、極細繊維の繊維径は4μm以下であるのが好ましい。なお、極細繊維の繊維径の下限は特に限定するものではないが、基材の機械的強度が弱くなりすぎないように、0.01μm程度が適当である。
【0019】
本発明における「繊維径」は、繊維の横断面形状が円形である場合にはその直径をいい、繊維の横断面形状が非円形である場合には横断面積と面積の同じ円の直径を繊維径とみなす。
【0020】
この極細繊維の繊維長は均一分散性に優れているように、5mm以下であるのが好ましく、3mm以下であるのがより好ましい。なお、極細繊維の繊維長の下限は特に限定するものではないが、0.1mm程度が適当である。また、繊維長が均一であるように、切断された極細繊維であるのが好ましい。
【0021】
本発明における「繊維長」は、JIS L 1015(化学繊維ステープル試験法)B法(補正ステープルダイヤグラム法)により得られる長さをいう。
【0022】
この極細繊維を構成する成分は特に限定するものではないが、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂など)、全芳香族ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、全芳香族ポリエステル系樹脂、ポリベンズオキサゾール系樹脂などの有機成分、ガラス、炭素、チタン酸カリウム、炭化珪素、窒化珪素、酸化亜鉛、ホウ酸アルミニウム、ワラストナイトなどの無機成分から構成することができる。これらの中でも、固体電解質用基材の寸法安定性及び柔軟性に優れているように、有機成分から構成されているのが好ましく、電解液(特に非水溶媒)によって侵されにくく、水分率の低い、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂から構成されているのがより好ましい。なお、極細繊維はこれら成分単独から構成されていても良いし、2成分以上から構成されていても良い。また、繊維径、成分、或いは融着性又は圧着性の点で相違する、2種類以上の極細繊維を含んでいても良い。
【0023】
なお、極細繊維が融着可能又は圧着可能であると、極細繊維の融着又は圧着によって、ポリフッ化ビニリデン粉体の保持性を高めることができ、ポリフッ化ビニリデン粉体の脱落が生じにくいため好適である。
【0024】
この融着可能な極細繊維としては、極細繊維表面を構成する成分の少なくとも一部が熱可塑性樹脂から構成されている極細繊維を例示することができる。前記熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂など)、ポリエステル系樹脂などを例示することができ、これらの中でも、比較的融点の低いポリエチレン系樹脂やポリエステル系樹脂からなるのが好ましい。なお、極細繊維が2種類以上の成分から構成されていると、1種類の成分が融着したとしても、少なくとも1種類の成分によって繊維形態を維持することができるため好適である。したがって、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とを含み、少なくとも繊維表面の一部をポリエチレン系樹脂が占めている融着可能な極細繊維であるのが好ましい。この極細繊維は水分率が低く、水分を除去しやすいため、非水溶媒を担持させて固体電解質を製造する場合に有効である。なお、2種類以上の成分から構成されている極細繊維の横断面形状は、例えば、芯鞘型、偏芯型、海島型、サイドバイサイド型、多重バイメタル型、オレンジ型であることができ、融着性に優れる芯鞘型、偏芯型、海島型であるのが好ましい。
【0025】
他方、圧着可能な極細繊維として、紡糸後に十分に延伸を施していない未延伸極細繊維を挙げることができ、例えば、未延伸ポリエステル系極細繊維を使用することができる。
【0026】
本発明の極細繊維は地合いの優れる固体電解質用基材であるように、極細繊維は繊維軸方向において、直径が実質的に同じであるのが好ましい。このように繊維軸方向において直径が実質的に同じである極細繊維は、例えば、紡糸口金部で海成分中に口金規制して島成分を押し出して複合する複合紡糸法により製造した海島型繊維の海成分を除去して得ることができる。
【0027】
本発明の基材においては、前述のような極細繊維に替えて又は加えて、パルプ状物を含んでいることができる。このパルプ状物のフィブリルによってポリフッ化ビニリデン粉体を保持することができる。このパルプ状物は固体電解質用基材の厚さを薄くでき、均一分散性に優れており、しかもこの基材を使用した固体電解質をリチウムイオンポリマー電池用に使用した場合には、極板に使用する粉体の進入を防止できるという効果を奏する。また、パルプ状物のフィブリルによるポリフッ化ビニリデン樹脂粉体の保持性に優れているため、固体電解質用基材の構成材量を減らすことができ、固体電解質用基材の電気導電率を高くすることができる。
【0028】
このパルプ状物はどのような樹脂成分から構成されていても良いが、合成樹脂からなると水分率が低く、水分を除去しやすいため、非水溶媒を担持させて固体電解質を製造する場合に有効である。また、非水溶媒で濡れてもその形態が変わらないため、この基材に非水溶媒を担持させた固体電解質は各種用途に適用する際に固体電解質が破損しにくい、という効果を奏する。例えば、この固体電解質を電池用途に適用した場合には、信頼性の高い電池を供給することができる。より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、メタ系又はパラ系全芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンズオキサゾール樹脂などから構成されているのが好ましい。
【0029】
なお、パルプ状物は単一成分から構成されていても良いし、2成分以上から構成されていても良い。また、成分や融着性の点で相違する、2種類以上のパルプ状物を含んでいても良い。なお、パルプ状物が融着可能であると、パルプ状物の融着によって、ポリフッ化ビニリデン粉体の保持性を高めることができ、ポリフッ化ビニリデン粉体の脱落が生じにくくなるため好適である。
【0030】
この融着可能なパルプ状物としては、パルプ状物の表面を構成する成分の少なくとも一部が熱可塑性樹脂から構成されているパルプ状物を例示することができる。前記熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂など)、ポリエステル系樹脂などを例示することができ、これらの中でも、比較的融点の低いポリエチレン系樹脂やポリエステル系樹脂からなるのが好ましい。なお、パルプ状物が2種類以上の成分から構成されていると、1種類の成分が融着したとしても、少なくとも1種類の成分によってパルプ状形態を維持することができるため好適である。
【0031】
本発明の基材は上述のような極細繊維及び/又はパルプ状物を含んでいるのが、その合計量は基材全体の5〜40mass%である。この合計量が5mass%未満であると、PVDF粉体の保持性が悪くなるとともに基材の機械的強度が低くなるためで、10mass%以上含んでいるのがより好ましく、15mass%以上含んでいるのが更に好ましい。他方、この合計量が40mass%を超えると、前記PVDF粉体量が少なくなり、電解液の保持性や電気導電率が悪くなるためで、30mass%以下であるのがより好ましく、20mass%以下であるのが更に好ましい。
【0032】
本発明の基材は基本的に上述のようなPVDF粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物の集合体からなるが、本発明の基材の目的を達することができる範囲内で、これら以外のものを含んでいて良い。例えば、繊維径が5μmを超える繊維を含んでいても良い。
【0033】
本発明の基材を構成する集合体は極細繊維及び/又はパルプ状物によってPVDF粉体を保持しており、機械的強度が付与された状態にある。好ましくは、極細繊維及び/又はパルプ状物により形成された3次元的な骨格の空隙にポリフッ化ビニリデン粉体が最密充填に近い状態で充填されている。また、好ましくは固体電解質用基材の表面に対して垂直方向(厚さ方向)にも極細繊維及び/又はパルプ状物が配向し、厚さ方向の圧力に対して抵抗できる構造となっている。
【0034】
なお、本発明の基材におけるPVDF粉体の保持状態は特に限定するものではないが、例えば、ファンデルワールス力による極細繊維及び/又はパルプ状物表面への付着、極細繊維及び/又はパルプ状物のフィブリルの絡みにより形成された網目構造の空隙への綴じ込み、極細繊維及び/又はパルプ状物の融着による固定、或いはPVDF粉体同士の凝集、などを挙げることができる。これらの中でも、極細繊維の融着によってPVDF粉体が固定されていると、PVDF粉体の保持性が高く、PVDF粉体が脱落しにくい基材とすることができ、また、機械的強度に優れるため取扱い易く、しかも厚み方向における強度が強くなるため、加圧による液漏れがより生じにくい固体電解質を製造することができるため、好適である。
【0035】
このような本発明の基材は機械的強度に優れており、電解液の保持性に優れ、しかも電気導電率の優れるものであるため、機械的強度に優れ、電解液の保持性に優れ、しかも電気導電率の優れる固体電解質を製造できるものである。
【0036】
このような本発明の基材は、例えば次のようにして製造することができる。
【0037】
まず、前述のようなPVDF粉体と、繊維径が5μm以下の極細繊維の集合体、圧縮気体の作用によって繊維径が5μm以下の極細繊維に分割可能な分割性繊維の集合体、パルプ状物の集合体、圧縮気体の作用によってパルプ状にフィブリル化可能な分繊性繊維の集合体の中から選ばれる少なくとも1つの骨材とを用意する。
【0038】
繊維径が5μm以下の極細繊維の集合体は、前述のような極細繊維が集合したものであり、その数は特に限定されるものではない。また、その集合状態も特に限定されるものではないが、例えば、規則正しく一定方向に極細繊維が配向した束状態、ランダムに配向した凝集状態、などを挙げることができる。これらの中でも、束状態であると、後述の圧縮気体の作用による分散性に優れているため好適である。なお、この極細繊維集合体として、異なる種類の極細繊維の集合体を組み合わせて使用しても良い。
【0039】
このような極細繊維集合体は、例えば、複合紡糸法又は混合紡糸法により製造した海島型繊維の海成分を除去することによって、島成分からなる極細繊維を発生させたり、スーパードロー法で製造することができる。なお、2成分以上からなる極細繊維は海島型繊維を紡糸する際に島成分が2成分以上となるように樹脂を供給したり、スーパードロー法により製造する際に、2成分以上の樹脂を供給して製造することができる。また、好適である束状態の極細繊維集合体は、複合紡糸法又は混合紡糸法により製造した海島型繊維の海成分を除去することによって、得ることができる。
【0040】
次に、極細繊維に分割可能な分割性繊維の集合体は、圧縮気体の作用によって繊維径が5μm以下の極細繊維に分割可能な分割性繊維の集合体からなり、好ましくは前述のような極細繊維に分割可能な分割性繊維の集合体からなる。この分割性繊維の集合体は分割性繊維が集合したものであり、その数は特に限定されるものではない。また、その集合状態も特に限定されるものではなく、例えば、規則正しく配向した状態、ランダムに配向した凝集状態などを挙げることができる。また、分割性繊維の集合体は、異なる種類の分割性繊維の集合したものであっても良い。
【0041】
この個々の分割性繊維は特に限定するものではないが、例えば、2種類以上の樹脂成分を押し出した後に複合する複合紡糸法により製造した繊維を挙げることができる。この2種類以上の樹脂成分相互の相溶性が低いほど、分割して極細繊維を発生しやすく、相溶性が高いほど、後述のような一部がフィブリル化する分繊性繊維となりやすい。つまり、実際に圧縮気体の作用によってノズルから気体中へ噴出させた場合に、完全に分割されて極細繊維を発生すれば分割性繊維であり、不完全に分割されてパルプ状物であるかのようにフィブリル化する場合には分繊性繊維である。より具体的には、ポリアミド系樹脂とポリエステル系樹脂との組み合わせ、ポリアミド系樹脂とポリオレフィン系樹脂との組み合わせ、ポリエステル系樹脂とポリオレフィン系樹脂との組み合わせからなると分割性繊維となりやすく、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂との組み合わせからなると分繊性繊維となりやすい。このような分割性繊維の横断面形状として、例えば、オレンジ状、多重バイメタル状を挙げることができる。このような分割性繊維は、例えば、常法の複合紡糸法により製造することができ、このような分割性繊維の集合体は、例えば、常法の複合紡糸法により分割性繊維を製造したした後に収束して得ることができる。
【0042】
次に、パルプ状物の集合体は、前述のようなパルプ状物が集合したものであり、その数は特に限定されるものではない。また、その集合状態も特に限定されるものではない。このパルプ状物の集合体として、異なる種類のパルプ状物を集合させたものであっても良い。
【0043】
そして、パルプ状にフィブリル化可能な分繊性繊維の集合体は、圧縮気体の作用によってパルプ状にフィブリル化可能な分繊性繊維の集合体からなり、好ましくは前述のようなパルプ状物に分繊可能な分繊性繊維の集合体からなる。この分繊性繊維の集合体は分繊性繊維が集合したものであり、その数は特に限定されるものではない。また、その集合状態も特に限定されるものではなく、例えば、規則正しく配向した状態、ランダムに配向した凝集状態などを挙げることができる。また、分繊性繊維の集合体は、異なる種類の分繊性繊維の集合したものであっても良い。なお、分繊性繊維の集合体は、例えば、常法の紡糸法により紡糸した分繊性繊維を収束して得ることができる。
【0044】
この個々の分繊性繊維は特に限定するものではないが、例えば、2種類以上の樹脂成分を押し出した後に複合する複合紡糸法により製造した繊維を挙げることができる。この2種類以上の樹脂成分相互の相溶性が高いほど、分繊性繊維となりやすい。例えば、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂との組み合わせからなる複合繊維は分繊性繊維となりやすい。また、溶剤紡糸法により得られたセルロース繊維、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維などの単一成分からなる繊維はフィブリル化可能な分繊性繊維となりやすい。つまり、前述のように、実際に圧縮気体の作用によってノズルから気体中へ噴出させた場合に、不完全に分割されてパルプ状物であるかのようにフィブリル化する繊維は分繊性繊維である。
【0045】
なお、ポリフッ化ビニリデン粉体や骨材の界面活性剤や糊剤などの付着物の付着率が低いと、後述のノズルとポリフッ化ビニリデン粉体及び/又は骨材との摩擦によって静電気が発生しやすく、ポリフッ化ビニリデン粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物も静電気を帯びやすいため、これらが反発しあって、均一に分散しやすい。そのため、ポリフッ化ビニリデン粉体や骨材をノズルへ供給する前に、付着物を取り除く処理を行うのが好ましい。例えば、アセトンなどの溶媒によって洗浄し、付着物量を少なくするのが好ましい。なお、海島型繊維の海成分を抽出して形成した極細繊維集合体の場合には付着物の少ない状態にあるため、好適な極細繊維集合体である。なお、この海島型繊維の海成分を抽出して形成した極細繊維集合体であっても、アセトンなどの溶媒によって洗浄し、付着物量を更に少なくするのが好ましい。また、PVDF粉体は分散しやすいように、乾燥して水分を除去するのが好ましい。
【0046】
本発明の固体電解質用基材の製造方法においては、前述のような、極細繊維の集合体(A)、極細繊維に分割可能な分割性繊維の集合体(B)、パルプ状物の集合体(C)、フィブリル化可能な分繊性繊維の集合体(D)の中から選ばれる少なくとも1つの骨材を使用する。これら(A)〜(D)の組み合わせとしては15通りあるが、これらの中でも、極細繊維の集合体(A)とパルプ状物の集合体(C)との組み合わせは、固体電解質用基材の均一性を高くすることができ、また、パルプ状物はフィブリル化しているため絡まりやすく、固体電解質用基材の機械的強度を高くすることができるうえ、ポリフッ化ビニリデン粉体の保持性も高くなるため、特に好ましい組み合わせである。この組み合せの場合、その質量比は、パルプ状物のフィブリルによる固体電解質用基材の機械的強度、及びポリフッ化ビニリデン粉体の保持性が得られ、しかも均一分散性を損なわないように、(A):(C)=30〜90:70〜10であるのが好ましく、(A):(C)=40〜90:60〜10であるのがより好ましい。
【0047】
本発明の基材の製造方法においては、基材におけるPVDF粉体が60〜95mass%であり、極細繊維及び/又はパルプ状物が5〜40mass%であるように、PVDF粉体60〜95mass%と骨材5〜40mass%の比率でノズルへ供給する。好ましくは(PVDF粉体):(骨材)=70〜90:10〜30の比率でノズルへ供給し、更に好ましくは(PVDF粉体):(骨材)=80〜85:15〜20の比率でノズルへ供給する。
【0048】
次いで、上述のようなポリフッ化ビニリデン粉体と少なくとも1種類の骨材とをノズルへ供給するとともに、圧縮気体の作用によりノズルから気体中に噴出させて、ポリフッ化ビニリデン粉体を分散させるとともに、骨材から極細繊維及び/又はパルプ状物を発生させ、分散させる。
【0049】
このノズルはポリフッ化ビニリデン粉体及び骨材の供給側から噴出側へ向かって、一定の横断面積を有するものであっても良いし、連続的に又は不連続的に横断面積が小さくなるものであっても良いし、連続的に又は不連続的に横断面積が大きくなるものであっても良いし、連続的に又は不連続的に横断面積が大きくなった後に小さくなるものであっても良いし、或いは連続的に又は不連続的に横断面積が小さくなった後に大きくなるものであっても良い。
【0050】
なお、ノズルへ供給される圧縮気体の流れが渦巻き状であると、骨材同士が絡み合って毛玉を発生させたり、均一分散させることが困難になる傾向があるため、ノズルへ供給される圧縮気体の流れは実質的に層流であるのが好ましい。このように実質的に層流である圧縮気体を供給できるノズルとして、例えば、ベンチュリー管を挙げることができる。
【0051】
また、ノズルの噴出部近傍に、ポリフッ化ビニリデン粉体及び骨材、或いは骨材から発生した極細繊維及び/又はパルプ状物と衝突して、ポリフッ化ビニリデン粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物を分散させたり、骨材から極細繊維及び/又はパルプ状物の発生を促進するために、衝突部材を設けるのが好ましい。この衝突部材(平坦部)とノズル噴出部との距離は1〜100mmであるのが好ましく、5〜40mmであるのがより好ましく、5〜30mmであるのが更に好ましく、10〜30mmであるのが更に好ましく、10〜20mmであるのが最も好ましい。
【0052】
この圧縮気体はどのような気体を利用しても良いが、空気を用いるのが製造上好適である。また、圧縮気体はポリフッ化ビニリデン粉体を分散させるとともに、骨材から極細繊維及び/又はパルプ状物を発生させ、分散させることが十分にできるように、ノズル噴出口における気体通過速度が100m/sec以上であるのが好ましい。この「気体通過速度」は、ノズルから噴出された気体の1気圧における流量(m/sec)を、ノズル噴出口における横断面積(m)で除した値をいう。また、圧縮気体の圧力はポリフッ化ビニリデン粉体を分散させるとともに、骨材から極細繊維及び/又はパルプ状物を発生させ、分散させることが十分にできるように、2kg/cm以上であるのが好ましい。
【0053】
また、ノズルから噴出されたポリフッ化ビニリデン粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物とを分散させる分散媒体としての気体は、特に限定されるものではないが、空気であるのが製造上好適である。
【0054】
次いで、この分散したポリフッ化ビニリデン粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物とを集積して、ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体を形成する。このポリフッ化ビニリデン粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物の集積は、例えば、多孔性のロールやネットなどの支持体を利用して実施することができる。なお、ポリフッ化ビニリデン粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物とを自然落下させて集積しても良いし、支持体の下方から気体を吸引して集積しても良い。気体を吸引して集積する場合、吸引力を強くすると、ポリフッ化ビニリデン粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物とが密着した状態のポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体とすることができ、吸引力を弱くすると、比較的嵩高なポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体とすることができる。
【0055】
このようにして製造したポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体を本発明の基材として使用することができる。しかしながら、更に基材の機械的強度を向上させたい場合には、極細繊維及び/又はパルプ状物によるポリフッ化ビニリデン粉体の保持性を向上させる工程を、更に備えているのが好ましい。
【0056】
このポリフッ化ビニリデン粉体の保持性を向上させる工程としては、例えば、極細繊維及び/又はパルプ状物の融着又は圧着により固定する方法、圧力を加えることによってパルプ状物のフィブリル化を促進させ、このフィブリルによってパルプ状物同士及び/又はパルプ状物と極細繊維との絡みを促進してポリフッ化ビニリデン粉体を閉じ込める方法、などを挙げることができる。これらの中でも、極細繊維を融着させる工程であるのが好ましい。この極細繊維を融着させる工程であると、機械的強度に優れ、PVDF粉体の脱落が更に生じにくい基材を製造することができる。また、極細繊維のみを融着させると、ポリフッ化ビニリデン粉体は形状を維持したまま互いに融着することなく保持された状態にあるため、粉体間の空隙に電解液を多く保持することができ、その結果として電気導電率を高くすることができる。
【0057】
以上のように、本発明の固体電解質用基材の製造方法によると、ポリフッ化ビニリデン粉体が極細繊維及び/又はパルプ状物の表面や、極細繊維間、パルプ状物間、或いは極細繊維とパルプ状物との間に粉体形状のまま保持させることができるため、電気導電率の高い固体電解質を製造することのできる基材を製造できる。また、本発明の製造方法によると、多量のPVDF粉体を密に充填させて、PVDF粉体間に空隙を形成できるため、電解液の保持性に優れ、加圧によっても電解液が漏れにくい固体電解質を製造することができる基材を製造できる。更に、PVDF粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物とを均一に混合することができるため、均一な機械的強度を有する基材を製造できる。なお、この製造方法は、気体中で分散させ、集積させて製造する方法であるため、作業性良く製造することができる。また、ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体形成時にポリフッ化ビニリデン粉体の脱落がほとんどないため、設計通りにポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体、つまり基材を製造できるという効果も奏する。なお、従来の湿式法によっては開繊が難しかったパルプ状物の集合体であっても、効率良く、しかも均一にパルプ状物に開繊でき、このパルプ状物によってポリフッ化ビニリデン粉体の保持性に優れる、という効果も奏する。更に、ポリフッ化ビニリデン粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物とを均一に混合できるため、電気導電率に優れ、例えば、リチウムイオンポリマー電池の固体電解質用の基材として使用した場合には、ハイレート充放電特性に優れ、電池寿命が長くなる、という効果が期待できる。
【0058】
次に、本発明の固体電解質用基材の製造方法について、本発明の固体電解質用基材を製造することのできる製造装置の模式的断面図である図1をもとに説明する。
【0059】
まず、ポリフッ化ビニリデン粉体と骨材(つまり、極細繊維集合体、分割性繊維の集合体、パルプ状物集合体、分繊性繊維集合体の中から選ばれる少なくとも1つ)は、混合装置10によって混合される。
【0060】
次いで、この混合されたポリフッ化ビニリデン粉体と骨材はノズル30へ供給される。このポリフッ化ビニリデン粉体と骨材がノズル30へ到達する手前で、圧縮気体導入口20から導入された圧縮気体の作用によって、ポリフッ化ビニリデン粉体と骨材はノズル30から勢いよく、気体40中へと噴出される。この気体40へと噴出される際に、ノズル30内と気体40との気圧差、噴出された圧縮気体と気体40との間に形成される乱流、或いはノズル30の噴出口近くに設けられた衝突部材(図示せず)との衝突、などの相互作用によって、ポリフッ化ビニリデン粉体は分散し、また、骨材から極細繊維及び/又はパルプ状物が発生し、分散する。
【0061】
この気体40中に分散したポリフッ化ビニリデン粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物70はネットからなる支持体50上に集積して、ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体80を形成する。この製造装置においては、支持体50の下方に位置する気体吸引装置60によって気体を吸引できるため、比較的緻密なポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体80を形成することができる。
【0062】
このように形成したポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体80は、更にポリフッ化ビニリデン粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物の分散性を高めるために、再度、ノズル31、32へ供給される。この製造装置においては、2つのノズルに再度供給しているが、1つのノズルに再供給しても良いし、3つ以上のノズルに再度供給しても良いし、ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体80をそのまま後述のような熱融着装置90へ供給しても良い。
【0063】
このノズル31、32に再度供給される場合も同様に、ノズル31、32へ到達する手前で、圧縮気体導入口21、22から導入された圧縮気体の作用によって、ポリフッ化ビニリデン粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物はノズル31、32から勢いよく、それぞれ気体41、42中へ噴出される。この際、同様にポリフッ化ビニリデン粉体と極細短繊維及び/又はパルプ状物は均一に分散する。
【0064】
この気体41、42中にそれぞれ分散したポリフッ化ビニリデン粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物71、72は、ネットからなる支持体51上にそれぞれ集積して、ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体を再度形成する。この製造装置においては、まずノズル31から噴出されたポリフッ化ビニリデン粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物71が支持体51上に集積して、単層ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体81を形成した後、この単層ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体81上に、ノズル32から噴出されたポリフッ化ビニリデン粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物72が集積して、積層ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体82を形成する。なお、積層ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体といっても、もともと単層のポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体80を構成するポリフッ化ビニリデン粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物を再度分散させているため、明確な層が形成される訳ではない。
【0065】
また、このポリフッ化ビニリデン粉体と極細繊維及び/又はパルプ状物71、72を集積させる際にも、支持体51の下方に位置する気体吸引装置61によって気体を吸引しているため、比較的緻密な積層ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体82を形成できる。この製造装置においては、1つの気体吸引装置61により気体41と気体42の両方を吸引しているが、各々の気体ごとに気体吸引装置を設けても良い。
【0066】
この積層ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体82をそのまま基材として使用しても良いが、図1においては、この積層ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体82を熱融着装置90へと供給し、この熱融着装置90の熱の作用により極細繊維及び/又はパルプ状物を融着させて固体電解質用基材を製造している。そして、この固体電解質用基材は巻き取り装置100により巻き取られる。
【0067】
本発明の固体電解質は前述のような基材と非水溶媒からなり、機械的強度に優れ、電解液の保持性に優れ、しかも電気導電率の優れるものである。この固体電解質は、例えば、リチウムイオンポリマー電池の固体電解質として有効に使用できる。なお、非水溶媒は特に限定するものではないが、例えば、水分率を20ppm以下に脱水したプロピレンカーボネートとガンマーブチロラクトンを重量比で1:1に混合した溶媒に、濃度が1mol/Lとなるように、LiBFを溶解させた溶媒を使用できる。本発明の固体電解質はこのような非水溶媒を基材に真空注液して製造することができる。
【0068】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
【実施例】
(実施例1)
低密度ポリエチレンとポリプロピレンとからなり、繊維表面の少なくとも一部を低密度ポリエチレンが占める、融着可能極細繊維(横断面形状:海島型、繊度=0.03dtex、繊維径=2μm、切断繊維長=2mm、繊維軸方向において実質的に直径は同じ)の集合体(並列した束状で水分によって集合している状態)を16mass%、パラ系全芳香族ポリアミドパルプ(繊維長=0.38mm)の集合体を4mass%、及びポリフッ化ビニリデン粉体(平均粒径=1μm)を80mass%の質量比でミキサーに供給して、これらを解すとともに混合した。なお、融着可能極細繊維の集合体は、アセトンで洗浄した後、温度70℃で乾燥したものを使用し、パラ系全芳香族ポリアミドパルプ、及びポリフッ化ビニリデン粉体は温度120℃で乾燥したものを使用した。
【0070】
次いで、これら混合物を噴出口における横断面形状が円形(直径:8.5mm)のベンチュリー管(ベンチュリー管の供給側における横断面形状は円形(直径:3mm))へ供給するとともに、ベンチュリー管の手前に設けられた圧縮気体導入口から圧縮空気(圧力:6kg/cm、実質的に層流)を導入して、前記ベンチュリー管から混合物を空気中に噴出(ベンチュリー管の噴出口における気体通過速度:118m/s)し、前記ベンチュリー管の噴出口前方に設けた衝突部材(ベンチュリー管の噴出口と衝突部材の平坦部との距離:15mm)に衝突させて、ポリフッ化ビニリデン粉体、融着可能極細繊維、及びパラ系全芳香族ポリアミドパルプを分散させた。
【0071】
次いで、この分散させたポリフッ化ビニリデン粉体、融着可能極細繊維、及びパラ系全芳香族ポリアミドパルプを、移動する支持体(ネット)上に載置しておいた不織布基材(目付が30g/mのポリプロピレン繊維製スパンボンド不織布)上に集積させ、ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体を形成した。なお、集積させる際には、支持体の下に設置されたサクションボックスにより空気を吸引(2m/min)した。
【0072】
次いで、このポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体−不織布基材積層材を、温度130℃に設定されたオーブンに供給し、3分間熱処理を実施し、融着可能極細繊維の低密度ポリエチレンのみを融着させて、目付45g/m、厚さ60μmのポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体−不織布基材複合材を製造した。
【0073】
次いで、ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体−不織布基材複合材から不織布基材を剥離し、ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体のみを熱カレンダー処理(圧力:500N/cm、温度:140℃)して、目付が15g/mで、厚さが20μmの固体電解質用基材(融着可能極細繊維:16mass%、パラ系全芳香族ポリアミドパルプ:4mass%、ポリフッ化ビニリデン粉体:80mass含有)を製造した。この固体電解質用基材において、ポリフッ化ビニリデン粉体は、融着可能極細繊維及びパラ系全芳香族ポリアミドパルプの表面に融着、付着、或いは圧着していたり、融着可能極細繊維とパラ系全芳香族ポリアミドパルプによって取り囲まれた状態にあった。なお、融着可能極細繊維の融着によって固体電解質用基材の形態を保っていた。また、ポリフッ化ビニリデン粉体は、粉体形状を維持したまま、粉体間に空隙を有する状態で最密充填されたような状態にあった。更に、融着可能極細繊維とパラ系全芳香族ポリアミドパルプは基材の厚さ方向にも配向していた。
【0074】
また、投入原料100に対して、回収された固体電解質用基材は95であり、収率95%の収率の高いものであった。
【0075】
(実施例2)
実施例1と同じ融着可能極細繊維の集合体40mass%と、実施例1と同じポリフッ化ビニリデン粉体60mass%とを使用したこと以外は、実施例1と全く同様にして、目付が8g/mで、厚さが15μmの固体電解質用基材(融着可能極細繊維:40mass%、ポリフッ化ビニリデン粉体:60mass含有)を製造した。この固体電解質用基材において、ポリフッ化ビニリデン粉体は、融着可能極細繊維の表面に融着、付着、或いは圧着していたり、融着可能極細繊維によって取り囲まれた状態にあった。なお、融着可能極細繊維の融着によって固体電解質用基材の形態を保っていた。また、ポリフッ化ビニリデン粉体は、粉体形状を維持したまま、粉体間に空隙を有する状態で最密充填されたような状態にあった。更に、融着可能極細繊維は基材の厚さ方向にも配向していた。
【0076】
また、投入原料100に対して、回収された固体電解質用基材は98であり、収率98%の収率の高いものであった。
【0077】
(比較例1)
実施例1と同じ融着可能極細繊維の集合体50mass%と、実施例1と同じポリフッ化ビニリデン粉体50mass%とを使用したこと以外は、実施例1と全く同様にして、目付が8g/mで、厚さが15μmの固体電解質用基材(融着可能極細繊維:50mass%、ポリフッ化ビニリデン粉体:50mass含有)を製造した。この固体電解質用基材において、ポリフッ化ビニリデン粉体は、融着可能極細繊維の表面に融着、付着、或いは圧着していたり、融着可能極細繊維によって取り囲まれた状態にあった。なお、融着可能極細繊維の融着によって固体電解質用基材の形態を保っていた。また、ポリフッ化ビニリデン粉体は、粉体形状を維持したまま、粉体間に空隙を有する状態であった。更に、融着可能極細繊維は基材の厚さ方向にも配向していた。
【0078】
また、投入原料100に対して、回収された固体電解質用基材は98であり、収率98%の収率の高いものであった。
【0079】
(電気導電率の測定)
非水溶媒として、水分率を20ppm以下に脱水したプロピレンカーボネートとガンマ−ブチロラクトンを重量比で1:1に混合した溶媒に、濃度が1mol/Lとなるように、LiBFを溶解させた溶媒を使用した。
【0080】
次いで、各固体電解質用基材を、電気導電率を測定するテストセル中に設置された、円形(直径=20mm)のステンレス鋼(SUS304)製電極間に挟み、前記非水溶媒をテストセル内に満たした後、テストセル内を減圧(10−4Torr)し、24時間放置した。テストセル内を窒素ガスで常圧に戻した後、圧力(0.2MPa/cm)を前記電極間に加え、非水溶媒を含む基材(固体電解質)の厚さ方向における電気導電率を、交流インピーダンス法に基づいて測定した。すなわち、AUTOLAB PGSTAT30(ECO CHEMI社製)により測定した複素インピーダンスの軌跡をコール・コールプロット法により解析し、電気導電率(単位=S/cm)を求めた。電気導電率は1×10−3S/cm以上のものが実用に適している。この結果は表1に示す通りであった。この表1から明らかなように、本発明の製造方法により製造した固体電解質は電気導電率が高く、実用性に優れていることが判明した。
【0081】
【表1】
Figure 0004007486
【0082】
(電解液の保持性の評価)
非水溶媒として、水分率を20ppm以下に脱水したプロピレンカーボネートとガンマ−ブチロラクトンを重量比で1:1に混合した溶媒に、濃度が1mol/Lとなるように、LiBFを溶解させた溶媒を用意した。
【0083】
次いで、各固体電解質用基材を直径30mmに裁断した後、初期重量(W)を測定した。次いで、各基材に上記非水溶媒を真空注液して固体電解質を製造した。その後、これら固体電解質を各々濾紙(No.3)で挟み、単位面積当り0.3Mpaの加圧を掛けて、重量(W)を測定した。これら重量から電解液保持率(Eh、%)を次の式から算出した。この電解液保持率が60%以上であると電解液の保持性に優れ、電解液が漏れないことがわかっている。この結果は表1に示す通りであった。表1の結果から明らかなように、本発明の固体電解質は電解液の保持性に優れていることが判明した。
Eh={(W−W)/W}×100
【0084】
(引張り強さの測定)
各固体電解質用基材の長手方向(支持体の移動方向)における引張り強さを測定した。つまり、長手方向と直交する方向に長さ15mmで、長手方向に長さ200mmに裁断した、長方形状の固体電解質用基材を、引張り強さ試験機(オリエンテック製、テンシロンUTM−III−100)のチャック間(チャック間距離:100mm)に固定し、引張り速度100mm/min.で固体電解質用基材を引張り、固体電解質用基材を破断するために要する力を測定した。5N/15mm以上の引張り強さがあれば作業性が良く実用的である。この結果は表1に示す通りであった。表1の結果から明らかなように、本発明の固体電解質用基材は機械的強度に優れていることが判明した。
【0085】
【発明の効果】
本発明の固体電解質用基材は電気導電率が高く、電解液が漏れにくく、しかも機械的強度の優れる固体電解質を製造できるものである。
【0086】
本発明の固体電解質用基材において、極細繊維の融着によりポリフッ化ビニリデン粉体が固定されていると、PVDF粉体の保持性が高くなり、PVDF粉体が脱落しにくい基材とすることができる。また、機械的強度に優れるため取扱い易く、しかも厚み方向における強度が強くなるため、加圧による液漏れがより生じにくい固体電解質を製造することができる。前記極細繊維がポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とを含み、少なくとも繊維表面の一部をポリエチレン系樹脂が占めていると、このポリエチレン系樹脂の熱融着によりPVDF粉体を固定しやすい。また、この極細繊維は水分率が低く、水分を除去しやすいため、非水溶媒を担持させて固体電解質を製造する場合に有効である。
【0087】
本発明の固体電解質用基材において、パルプ状物を構成する樹脂成分が合成樹脂からなると、水分率が低く、水分を除去しやすいため、非水溶媒を担持させて固体電解質を製造する場合に有効である。また、非水溶媒で濡れてもその形態が変わらないため、この基材に非水溶媒を担持させた固体電解質は各種用途に適用する際に固体電解質が破損しにくい、という効果を奏する。例えば、この固体電解質を電池用途に適用した場合には、信頼性の高い電池を供給することができる。
【0088】
本発明の固体電解質は前記のような固体電解質用基材と非水溶媒とからなるため、機械的強度、電解液の保持性、及び電気導電率に優れるものである。
【0089】
本発明の固体電解質用基材の製造方法によれば、電解液の保持量を多くすることができ、電解液が漏れにくく、しかも機械的強度の優れる固体電解質を製造することができる固体電解質用基材を製造することができる。また、本発明の製造方法は作業性良く固体電解質用基材を製造することができる。
【0090】
前記ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体を形成する工程の後に、極細繊維及び/又はパルプ状物によるポリフッ化ビニリデン粉体の保持性を向上させる工程を、更に備えていると、基材からPVDF粉体の脱離が生じにくく、しかも機械的強度がより高い基材を製造することができる。このポリフッ化ビニリデン粉体の保持性を向上させる工程が、極細繊維の融着工程であると、基材からPVDF粉体の脱離が更に生じにくく、しかも機械的強度が更に高い基材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の固体電解質用基材を製造することのできる製造装置の模式的断面図
【符号の説明】
10 混合装置
20、21、22 圧縮気体導入口
30、31、32 ノズル
40、41、42 気体
50、51 支持体
60、61 気体吸引装置
70、71、72 ポリフッ化ビニリデン粉体、極細繊維及び/又はパルプ状物
80 ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体
81 単層ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体
82 積層ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体
90 熱融着装置
100 巻き取り装置

Claims (6)

  1. ポリフッ化ビニリデン粉体を60〜95mass%と、繊維径が5μm以下の融着可能な極細繊維を5〜40mass%含み、前記融着可能な極細繊維が融着した集合体からなる固体電解質用基材。
  2. ポリフッ化ビニリデン粉体を60〜95mass%と、繊維径が5μm以下の融着可能な極細繊維及び合成樹脂製パルプ状物を含み、前記融着可能な極細繊維とパルプ状物の合計量が5〜40mass%であり、しかも前記融着可能な極細繊維が融着した集合体からなる固体電解質用基材。
  3. 融着可能な極細繊維がポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とを含み、少なくとも繊維表面の一部をポリエチレン系樹脂が占めていることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の固体電解質用基材。
  4. 請求項1〜請求項のいずれかに記載の固体電解質用基材と非水溶媒とからなる固体電解質。
  5. (1)ポリフッ化ビニリデン粉体60〜95massと、(2)繊維径が5μm以下の融着可能な極細繊維の集合体、圧縮気体の作用によって繊維径が5μm以下の融着可能な極細繊維に分割可能な分割性繊維の集合体の中から選ばれる少なくとも1つの骨材5〜40mass%とを、圧縮気体の作用によりノズルから気体中に噴出させて、前記ポリフッ化ビニリデン粉体を分散させるとともに、前記骨材から融着可能な極細繊維を発生させ、分散させる工程、分散したポリフッ化ビニリデン粉体と融着可能な極細繊維とを集積して、ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体を形成する工程、及び前記融着可能な極細繊維を融着させる工程、を備えていることを特徴とする固体電解質用基材の製造方法。
  6. (1)ポリフッ化ビニリデン粉体60〜95massと、(2)繊維径が5μm以下の融着可能な極細繊維の集合体及び/又は圧縮気体の作用によって繊維径が5μm以下の融着可能な極細繊維に分割可能な分割性繊維の集合体と、合成樹脂製パルプ状物の集合体及び/又は圧縮気体の作用によって合成樹脂製のパルプ状にフィブリル化可能な分繊性繊維の集合体からなる骨材5〜40mass%とを、圧縮気体の作用によりノズルから気体中に噴出させて、前記ポリフッ化ビニリデン粉体を分散させるとともに、前記骨材から融着可能な極細繊維及び合成樹脂製パルプ状物を発生させ、分散させる工程、分散したポリフッ化ビニリデン粉体と融着可能な極細繊維及び合成樹脂製パルプ状物とを集積して、ポリフッ化ビニリデン粉体含有集合体を形成する工程、及び前記融着可能な極細繊維を融着させる工程、を備えていることを特徴とする固体電解質用基材の製造方法。
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