JP4006654B2 - ジアリールエテン誘導体及びそれを用いるフォトクロミック材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なジアリールエテン誘導体及び光スイッチング素子等のフォトニクス分野に応用可能なフォトクロミック材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
フォトクロミック材料は、光の作用により化学結合状態の異なる2種の異性体を可逆的に生成する分子または分子集合体を含むものであり、その生成する異性体により吸収スペクトルあるいは屈折率が変化するものである。このフォトクロミック材料が有する物性の変化を利用して、光記録あるいは光スイッチ素子等のフォトニクス分野に応用する研究開発が進展している。一般に、フォトクロミック材料をフォトニクス分野に応用する際の最大の課題は、繰り返し耐久性を如何に向上させるかにあり、数十回程度の繰り返しによって劣化するようなものでは実用化することは不可能である。
【0003】
現在、フォトクロミック材料として、アゾベンゼン、スピロベンゾピラン等を用いた研究が行われてきているが、これらの材料は、繰り返し耐久性に乏しいという問題を有している。そこで、繰り返し耐久性に優れたフォトクロミック材料として、ベンゾチオフェン環をアリール基とするジアリールエテンが報告されているが(K.Uchida et al.Bull.Chem.Soc.Jpn.63,1311(1990)、M.Hanazawa et al.J.Chem.Soc.Chem.Commun.206(1992))、チオフェン環を用いると変換率は向上するものの、光定常状態においては変換率が低く、また、繰り返し耐久性に劣るという欠点を有している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来の技術における上記した実情に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、フォトクロミック性に優れた新規なジアリールエテン誘導体を提供することにある。また、本発明の他の目的は、光による閉環反応の効率が高く、かつ、繰り返し耐久性に優れたジアリールエテン誘導体からなるフォトクロミック材料を提供することにある。
【0005】
【問題を解決するための手段】
本発明者等は、上記目的を達成するため、ジアリールエテン系化合物についてジアリールエテンの光閉環反応の収率を向上させるには、アリール基としてはベンゾチオフェン環よりも小さいヘテロ5員環が望ましいこと、その光劣化はエンドパーオキシドの生成に起因する(谷口他、日本化学会誌、1138(1992))ために、エンドパーオキシドを生成しない構造であること、及び閉環体に熱安定性を付与するには、芳香族安定化エネルギーの小さいアリール基が求められること等について考慮し、鋭意検討した結果アリール基としてチアゾールを選択したジアリールエテン系誘導体が優れたフォトクロミック性能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明のジアリールエテン誘導体は、下記式(1)
【化2】
(式中、R1 、R2 は、それぞれアルキル基、アルコキシ基またはアリール基を示す。)
で表される。また、その異性体は、式(1)で表されるジアリールエテン誘導体に紫外線等を照射する際に形成される互変異性体であり、下記式(2)で表されるものである。
【0007】
【化3】
(式中、R1 、R2 は、それぞれアルキル基、アルコキシ基またはアリール基を示す。)
また、本発明のフォトクロミック材料は、式(1)で表されるジアリールエテン誘導体からなるものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明における一般式(1)で表されるジアリールエテン誘導体において、一般式(1)中のR1 及びR2 は、炭素数1〜6のアルキル基として、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル基、炭素数1〜6のアルコキシ基として、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペントキシ基、または、アリール基として、例えば、フエニル、トリル、キシリル、ビフエニル、ナフチル、4−ヒドロキシフェニル、4−アミノフェニル基があげられる。なかでも、R1 とR2 の組合わせとしては、それぞれ、(a)メチル基とメチル基、(b)エトキシ基とメチル基、(c)メトキシ基とフェニル基または(d)メチル基とフェニル基であることが好ましい。
【0009】
本発明の一般式(1)で表されるジアリールエテン誘導体は、種々の方法により製造できるが、例えば、下記式(3)で表されるチアゾールハライド誘導体をリチオ化反応させて得られるチアゾールリチウム誘導体に、オクタフルオロシクロペンテン(ペルフルオロシクロペンテン)を反応させることにより容易に製造することができる。
【化4】
(式中、R1 、R2 は、それぞれアルキル基、アルコキシ基またはアリール基を示す。Xは臭素原子またはヨウ素原子を示す。)
【0010】
以下、本発明のジアリールエテン誘導体の詳細な製造方法について説明する。
先ず、式(3)で表されるチアゾールハライド誘導体を、アルキルリチウムまたはリチウムジアルキルアミドと反応させることにより、ハロゲンをリチウムに置換したチアゾールリチウム誘導体が得られる。この反応溶媒としては、テトラヒドロフランやジエチルエーテル等のエーテル系溶媒が好ましく用いられ、さらに低温における溶媒の凝固を防止するために、n−ヘキサン、n−ペンタン等の低級アルカンと混合して用いてもよい。
【0011】
リチオ化剤のアルキルリチウム、リチウムジアルキルアミドとしては、n−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムジシクロヘキシルアミド等が挙げられるが、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液が好適である。リチオ化剤の使用量は、チアゾールリチウム誘導体の総量に対し、1.0〜1.2倍モルであることが好ましい。反応温度は、−45〜−120℃の範囲、好ましくは−70〜−110℃の低温で行う。反応時間は、通常、20分〜3時間の範囲、好ましくは30分〜2時間である。
【0012】
次いで、得られたチアゾールリチウム誘導体に、ペルフルオロシクロペンテンを添加して反応させる。その際、ペルフルオロシクロペンテンは、チアゾールハライド誘導体の0.5〜0.8倍モル量を用いることが好ましく、希釈することなく、あるいは、溶媒に希釈して添加することができる。通常、この反応温度は、−60〜−110℃の範囲であり、反応時間は30分〜5時間である。反応終了後には、直ちに水またはアルコール等を加えて反応を完了させてもよいし、または、溶液温度を室温まで戻してから反応を完結させてもよいが、低温状態で反応を完了させた方が高収率である。
上記方法で得られた反応生成物を、抽出、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の方法によって分離精製することにより、本発明の式(1)で表されるジアリールエテン誘導体を製造することができる。
また、本発明の式(1)で表されるジアリールエテン誘導体に、紫外線等の比較的短波長の光を照射することにより、式(2)で表される閉環体が生成する。
【0013】
本発明の新規ジアリールエテン誘導体をフォトクロミック材料として用いた記録層を有する光記録材料は、公知の方法により容易に得ることができる。例えば、上記ジアリールエテン誘導体を、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリメチルメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂バインダーと共に、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、アセトン、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、四塩化炭素、クロロホルム等の溶媒に分散または溶解させて、適当な基板上に塗布する方法、または、ジアリールエテン誘導体を、上記した溶媒に溶解し、ガラスセル等に封入する方法等によって記録層を形成することにより、光記録材料とすることができる。
【0014】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
1,2−ビス(5−エトキシ−2−メチルチアゾール)ヘキサフルオロシクロペンテンの製造
(1)4−ブロモ−5−エトキシ−2−メチルチアゾールの製造
【化5】
【0015】
50mlの茄子型フラスコに、5−エトキシ−2−メチルチアゾール2.00g及び溶媒として四塩化炭素50mlを入れ、この溶液にn−ブロモサクシンイミド(NBS)4gを加えて、しばらく室温で攪拌した後、反応開始剤のベンゾイルパーオキサイド(BPO)532.8mgを添加する。この際、反応溶液が茶色に変色して温度が上昇するので注意する必要がある。この反応の温度上昇が落ち着いた後、そのまま室温で一昼夜攪拌する。その後、20%NaOH水溶液を加えて反応を停止し、酢酸エチルを用いて抽出する。その有機層を集めて無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧で留去した後、クーゲルロールを用いて蒸留することにより、上記反応式Aに示すようにして、4−ブロモ−5−エトキシ−2−メチルチアゾール3.31g(75.4%)を得た。
【0016】
得られた4−ブロモ−5−エトキシ−2−メチルチアゾールは、沸点が150〜151℃(38mmHg)であった。また、その核磁気共鳴スペクトルによる分析値(CDCl3 、δ値、ppm)は、200MHzにおいて、次のとおりであった。1.43(t,3H)、2.60(s,3H)、4.13(q,2H)。
【0017】
(2)1,2−ビス(5−エトキシ−2−メチルチアゾール)ヘキサフルオロシクロペンテンの製造
【化6】
【0018】
50mlの3つ口フラスコの窒素雰囲気下に、4−ブロモ−5−エトキシ−2−メチルチアゾール3.00g(13.5ミリモル)及び乾燥テトラヒドロフラン30mlを入れ、これをドライアイス−メタノール浴により反応系を−60℃に冷却する。次に、n−ブチルリチウム9.4ml(14.85ミリモル)を、シリンジで温度上昇に注意しながら滴下し、−60℃で45分間攪拌する。これを薄層クロマトグラフィー(TLC)によりリチオ化反応が進行していることを確認した後、オクタフルオロシクロペンテン0.89ml(6.75ミリモル)を3回に分けて添加し、室温まで温度上昇させる。TLCでフォトクロミック反応を確認した後、水とジエチルエーテルを用いて反応を停止させる。
この反応生成物をジエチルエーテルで3回抽出し、その有機層を集めて、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧で留去した後、5%酢酸エチル/トルエン溶液の分取用クロマトグラフィー(PLC)で精製し、フォトクロミック成分を取出し、酢酸エチルで抽出する。この溶媒を減圧で留去することにより、上記反応式Bに示すようにして、1,2−ビス(5−エトキシ−2−メチルチアゾール)ヘキサフルオロシクロペンテン452mg(収率7.31%)を得た。
【0019】
得られた1,2−ビス(5−エトキシ−2−メチルチアゾール)ヘキサフルオロシクロペンテンは、融点が141〜143℃であった。また、その核磁気共鳴スペクトルによる分析値(CDCl3 、δ値、ppm)は、200MHzにおいて、次のとおりであつた。1.12(t,6H)、2.62(s,6H)、6.87(q,4H)。また、その元素分析値(%)を表1に示す。
【表1】
【0020】
実施例2
実施例1で得られた1,2−ビス(5−エトキシ−2−メチルチアゾール)ヘキサフルオロシクロペンテンを、ヘキサンに溶解させて紫外線及び可視光線による吸収スペクトルの変化を測定した。その吸収スペクトルの変化を、図1に示す。この化合物は、331nmの紫外線を照射すると赤色に着色し、また、これに400nm以上の可視光線を照射すると消色した。
上記の化合物は、赤色に着色した状態では、2個のチアゾール環の5位同士が共有結合することにより炭素6員環の閉環体となっており、また、消色した状態では、その共有結合のない開環体となるという、2種の互変異性体を有するものである。また、この吸収スペクトルの変化は、4000回繰り返しても何ら変ることがなかった。
【0021】
実施例3
1,2−ビス(5−メチル−2−フェニルチアゾール)ヘキサフルオロシクロペンテンの製造
(1)2−フェニル−4−ブロモ−5−メチルチアゾールの製造
【化7】
【0022】
2−フェニル−5−メチルチアゾール1.25g(4.92ミリモル)を二硫化炭素30mlに溶解させ、氷水で冷却する。この溶液に臭素0.44ml(9.70ミリモル)を温度上昇に注意しながら滴下し、室温で2昼夜攪拌する。その後、水を加えて反応を停止させ、クロロホルム100mlを用いて抽出する。その有機層を水及びハイポ水で洗浄し、洗浄された有機層を集めて無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧で留去する。その残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:酢酸エチル/ヘキサンの9:1混合溶媒)で精製することにより、上記反応式Cに示すようにして、2−フェニル−4−ブロモ−5−メチルチアゾール600mg(収率48%)を得た。
【0023】
得られた2−フェニル−4−ブロモ−5−メチルチアゾールの核磁気共鳴スペクトルによる分析値(CDCl3 、δ値、ppm)は、200MHzにおいて、次のとおりである。2.49(s,3H)、7.45〜7.89(m,5H)。
【0024】
(2)1,2−ビス(5−メチル−2−フェニルチアゾール)ヘキサフルオロシクロペンテンの製造
【化8】
【0025】
2−フェニル−4−ブロモ−5−メチルチアゾール600mg(2.36ミリモル)を乾燥テトラヒドロフラン30mlに溶解させ、反応系を−60℃に冷却する。これにn−ブチルリチウム1.76mlを温度上昇に注意しながら滴下し、−60℃に保持して1時間攪拌する。完全にリチオ化反応が進行したことを確認した後、オクタフルオロシクロペンテン0.16ml(1.18ミリモル)を3回に分けて注入して自然に温度上昇させ、その後、室温で1昼夜攪拌する。これに水を加えて反応を停止させ、ジエチルエーテル100mlを用いて抽出する。
その有機層を集めて溶媒を減圧で留去し、その残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:酢酸エチル/ヘキサンの9:1混合溶媒)で精製することにより、上記反応式Dに示すようにして、1,2−ビス(5−メチル−2−フェニルチアゾール)ヘキサフルオロシクロペンテン30mg(収率2.97%)を得た。
【0026】
得られた1,2−ビス(5−メチル−2−フェニルチアゾール)ヘキサフルオロシクロペンテンの融点は、148〜150℃であり、また、その核磁気共鳴スペクトルによる分析値(CDCl3 、δ値、ppm)は、200MHzにおいて、次のとおりである。1.60〜2.15(s,6H)、7.45〜7.99(m,10H)。また、その元素分析値(%)を表2に示す。
【表2】
【0027】
実施例4
実施例3で得られた1,2−ビス(5−メチル−2−フェニルチアゾール)ヘキサフルオロシクロペンテンを、ヘキサンに溶解させて紫外線及び可視光線による吸収スペクトルの変化を測定した。その吸収スペクトルの変化を、図2に示す。この化合物は、313nmの紫外線を照射すると赤色に着色し、また、これに400nm以上の可視光線を照射すると消色した。
上記の化合物は、赤色に着色した状態では、2個のチアゾール環の5位同士が共有結合することにより炭素6員環の閉環体となっており、また、消色した状態では、その共有結合のない開環体となっているという、2種の互変異性体を有するものである。また、この吸収スペクトルの変化は、4000回繰り返しても何ら変ることがなかった。
【0028】
【発明の効果】
本発明のチアゾール環をアリール基とする式(1)で表されるジアリールエテン誘導体は、光による閉環反応の効率が高く、発色と消色の繰り返し耐久性に優れたフォトクロミック性を有するものであり、光スイッチング素子等のフォトニクス分野における優れた性能を有する可逆的記録材料として広範囲に応用できる極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例1で得られたジアリールエテン誘導体の光吸収スペクトルの変化図である。
【図2】 本発明の実施例3で得られたジアリールエテン誘導体の光吸収スペクトルの変化図である。
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