JP4006584B2 - フッ素吸着剤及び水中のフッ素処理方法 - Google Patents

フッ素吸着剤及び水中のフッ素処理方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体中のフッ素を吸着する能力を有する水処理剤、該水処理剤からなる水処理剤成形物及び該水処理剤又は該水処理剤成形物を使用する水中のフッ素処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
フッ素は様々な産業において利用されている物質である。特に半導体製造及び化学工業分野において大量に使用されている。しかしながら、フッ素は人体に対して有害な物質であり、多量に摂取すると斑状歯、骨硬化症、骨軟化症などの慢性フッ素中毒症を発症するため、水質汚濁防止法によって15mg/L以下の排水基準値が定められていた。そして平成13年6月の水質汚濁防止法改正により、排水基準値が8mg/L以下に改定されている。さらに、多くの自治体では、これよりさらに厳しい排水基準値を定めている。このため、フッ素含有水からフッ素を除去する方法が重要視されている。
【0003】
フッ素含有水からフッ素を除去する方法としては、凝集沈殿法が最も一般的である。例えば、特開平10−57969号公報には、フッ素含有水にカルシウム塩を添加することにより難溶性フッ化カルシウム(CaF2)を生成させ、これを沈殿させて除去する方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、この凝集沈殿法では、フッ化カルシウムの水に対する溶解度が0.0016g/100g(18℃)と大きいため、排水中のフッ素濃度を15mg/L程度に減少させることが限界である。このため、改定された排水基準値をクリアすることが困難であった。
【0005】
また、凝集沈殿法には、フッ化カルシウムの除去のための沈殿槽を必要とすることから、沈殿槽を設置するための広い敷地が必要であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、特定の複合金属水酸化物又は複合金属酸化物を使用することによって水中のフッ素を吸着、除去することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み鋭意検討を重ねた結果、特定の複合金属水酸化物及び複合金属酸化物がフッ素吸着能を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
また、本発明者らは、この複合金属水酸化物及び複合金属酸化物に、バインダーとしてポリアクリルアミドのアミノ化物を配合することにより、或いは水硬性無機質材料及びフィラーを配合することにより、フッ素吸着能を損なうことなく、物理的強度に優れた成形物となることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の水処理剤、水処理剤成形物及び水中のフッ素処理方法を提供するものである。
【0010】
項1.化学組成式(1):
1-x 2+x 3+(OH-2+x-y(An-y/n (1)
〔式中、M2+はMg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+及びCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+及びFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示し、An-はn価のアニオンを示す。また、0.1≦x≦0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1または2である。〕
で表される複合金属水酸化物からなる水中のフッ素除去用の水処理剤。
【0011】
項2.化学組成式(2):
1-x 2+x 3+(2-x)/2 2- (2)
〔式中、M2+はMg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+及びCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+及びFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示す。また、0.1≦x≦0.5である。〕
で表される複合金属酸化物からなる水中のフッ素除去用の水処理剤。
【0012】
項3.M2+がCa2+であることを特徴とする項1又は2に記載の水処理剤。
【0013】
項4.項1に記載の化学組成式(1)で表される複合金属水酸化物又は項2に記載の化学組成式(2)で表される複合金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物、及び
ポリアクリルアミドのアミノ化物を配合してなる水中のフッ素除去用の水処理剤成形物。
【0014】
項5.さらに、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂、酢酸ビニル・バーサチック酸ビニル共重合体樹脂及びスチレン・アクリル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする項4に記載の水処理剤成形物。
【0015】
項6.項1に記載の化学組成式(1)で表される複合金属水酸化物又は項2に記載の化学組成式(2)で表される複合金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物、
水硬性無機質材料、及び
フィラー
を含有する水中のフッ素除去用の水処理剤成形物。
【0016】
項7.水硬性無機質材料がセメントである項6記載の水処理剤成形物。
【0017】
項8.項1に記載の化学組成式(1)で表される複合金属水酸化物又は項2に記載の化学組成式(2)で表される複合金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物100重量部に対して、水硬性無機質材料を2900重量部及びフィラーを2〜9000重量部の割合で含有する項6又は7に記載の水処理剤成形物。
【0018】
項9.項1又は2に記載の水処理剤、項4又は5に記載の水処理剤成形物或いは項6〜8のいずれかに記載の水処理剤成形物をフッ素含有溶液に接触させる水中のフッ素処理方法。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明において使用する水処理剤は、以下の化学組成式(1)及び(2)で表される複合金属水酸化物及び複合金属酸化物からなる。
【0020】
複合金属水酸化物:
1-x 2+x 3+(OH-2+x-y(An-y/n (1)
〔式中、M2+はMg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+及びCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+及びFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示し、An-はn価のアニオンを示す。また、0.1≦x≦0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1または2である。〕
で表される複合金属水酸化物からなる水中のフッ素除去用の水処理剤。
【0021】
複合金属酸化物:
1-x 2+x 3+(2-x)/2 2- (2)
〔式中、M2+はMg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+及びCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+及びFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示す。また、0.1≦x≦0.5である。〕
ここで、M2+で示される二価金属イオンとしては、前述するようにMg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+、Cu2+が挙げられるが、好ましくはMg2+、Ca2+であり、より好ましくはCa2+である。特に、Ca2+を含有する水処理剤及び水処理剤成形物は、構成元素中のイオン交換性のアニオンの量から算出されるイオン交換容量の理論値以上のフッ素イオンを吸着するため、フッ素除去能力が非常に高いものである。
【0022】
3+で表される三価の金属イオンとしては、前述するようにAl3+、Fe3+が挙げられるが、好ましくはAl3+である。
【0023】
n-は、n価のアニオン(n=1または2)を示す。すなわち、An-は、一価または二価のアニオンのみからなるか、一価のアニオンと二価のアニオンの両者を含むものである。一価のアニオンとしては、OH-、Cl-、NO2 -、NO3 -、F-、Br-、HCO3 -等が例示され、好ましくはCl-である。二価のアニオンとしては、SO4 2-、CO3 2-、SO3 2-等が例示され、好ましくはCO3 2-、SO4 2-である。最も好ましいAn-はCl-である。
【0024】
xは、通常0.1≦x≦0.5であり、好ましくは0.2≦x≦0.4、より好ましくは0.2≦x≦0.38である。
【0025】
yは、通常0.1≦y≦0.5であり、好ましくは0.2≦y≦0.4、より好ましくは0.2≦y≦0.38である。
【0026】
本発明の一般式(1)及び(2)の化合物において、二価の金属イオンM2+、三価の金属イオンM3+及び炭酸イオンは、滴定法で測定した値である。またn価のアニオンAn-に関しては、それが炭酸イオンである場合は滴定法で測定した値、Cl-イオンである場合は塩化物イオン選択性電極を装備したイオンメーターにより測定した値、炭酸イオン及びCl-イオンを除くNO2 -、NO3 -、F-、Br-、HCO3 -等の一価のアニオン及びSO4 2-、SO3 2-等の二価のアニオンである場合は、イオンクロマトグラフィーにより測定した値である。なお、二価のアニオンに関する「y」の値は、上記方法により測定したモル数をA2-として表した値である。OH-及びO2-に係る2+x−y及び(2−x)/2は、M2+、M3+及びAn-の測定値をもとに電気的中性条件から計算により求めた値である。
【0027】
本発明において、複合金属水酸化物は一種単独で用いてもよく、また上記イオンの組合せで調製された二種以上を混合して用いてもよい。これは複合金属酸化物でも同様である。
【0028】
前述の複合金属水酸化物は、一般に、原料となる二価の金属塩類及び三価の金属塩類をアルカリ環境下において反応させることによって調製することができる。かかる複合金属水酸化物の製造方法は公知であり、例えばLangmuir, 9, 1418-1422 (1993)の記載に従って調製することができる。また、これらの複合金属水酸化物は商業的に入手可能であり、簡便にはかかる複合金属水酸化物を使用することができる。
【0029】
また、前述の複合金属酸化物は、前述の複合金属水酸化物を焼成することによって調製することができる。例えば、複合金属水酸化物を200〜800℃、好ましくは450〜600℃で0.5〜24時間程度、好ましくは1〜3時間焼成することで複合金属酸化物を調製することができる。
【0030】
さらに、複合金属酸化物を調製する他の方法としては、複合金属酸化物を構成する金属元素の酸化物を混合し、混合物を焼成する方法がある。この方法の場合、金属元素の酸化物が安定であるため、より高温で処理する必要がある。
【0031】
また、これらの複合金属酸化物は商業的に入手可能であるため、簡便にはかかる複合金属酸化物を使用することができる。
【0032】
複合金属水酸化物及び複合金属酸化物は、その形状を特に制限するものではないが、通常粉末状、粒子状のものを挙げることができる。その大きさとしては、粉末状として平均粒径10μm以下(レーザー回析測定法による)のもの、粒子状として平均粒径10〜200μm程度のものを挙げることができるが、これらに制限されるものではない。また、複合金属水酸化物又は複合金属酸化物を、必要に応じてバインダー等で担体(好ましくは多孔性担体)に担持させて使用することも可能である。
【0033】
本発明の成形物の形態は特に制限されないが、適宜水処理に適した形態とすることができる。例えば、造粒物、濾過材として適した形状、球状、円柱状、ペレット状、錠剤状等が挙げられる。
【0034】
本発明の成形物に使用するバインダーとしては、特に限定されないが、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂、酢酸ビニル・バーサチック酸ビニル共重合体樹脂、スチレン・アクリル樹脂及びポリアクリル酸ヒドラジドをはじめとするポリアクリルアミドのアミノ化物等の有機樹脂化合物類、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース類、またはカラギーナン等の多糖類、生分解性ポリマー類が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。中でも有機樹脂化合物が好適に使用される。好ましいバインダーとしては、ポリアクリルアミドのアミノ化物等の有機樹脂化合物類、より好ましくはポリアクリルアミドのアミノ化物が挙げられる。
【0035】
バインダーは、ポリアクリルアミドのアミノ化物と他のバインダー成分を混合してもよい。ポリアクリルアミドのアミノ化物に配合される他のバインダーとしては、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂、酢酸ビニル・バーサチック酸ビニル共重合体樹脂及びスチレン・アクリル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0036】
有機樹脂化合物の中で、ポリアクリルアミドのアミノ化物をバインダーとして用いた場合、少量の添加で成形物のフッ素吸着能力及び機械的強度ともに優れた成形物が得られる。成形時に混合物の粘性を下げて作業性を向上させる目的で、ポリアクリルアミドのアミノ化物には、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂、酢酸ビニル・バーサチック酸ビニル共重合体樹脂及びスチレン・アクリル樹脂などの他のバインダーを併用するのが好ましい。これらとポリアクリルアミドのアミノ化物との混合物をバインダーとして用いることにより、機械的強度、フッ素吸着能力及び作業性の優れた成形物を得ることが可能となる。
【0037】
バインダーの使用量は、成形物全体に対し1〜40重量%、好ましくは1〜20重量%程度、より好ましくは1〜10重量%用いられる。
【0038】
バインダーとして、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂、酢酸ビニル・バーサチック酸ビニル共重合体樹脂及びスチレン・アクリル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種と、ポリアクリルアミドのアミノ化物との混合物を使用する場合、混合物に対し、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂、酢酸ビニル・バーサチック酸ビニル共重合体樹脂及びスチレン・アクリル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が60〜99重量%、ポリアクリルアミドのアミノ化物が1〜40重量%である。
この混合物に必要量の水を添加し、ニーダーにかけよく混練りした後、造粒機にて成形体とする。ニーダー及び造粒機は一般的に使用されているものを用いることができるが、好ましくは、ニーダーとして回転軸が2軸以上の混練り用ニーダー、造粒機として上押し式の押し出し造粒機タイプのものが好適に使用できる。得られた成形物は、乾燥、硬化後造粒物とする。乾燥、硬化に際しては、バインダーの最低造膜温度以上で乾燥することが望ましいが、最低造膜温度以下で乾燥する際には乾燥時間を長くすることで対応できる。
本発明において水硬性無機質材料とは、それ自体が水と反応して凝結ないしは硬化する、いわゆる水硬化性を有するもの(水硬性成分)を広く包含するものであり、具体的にはセメント、水硬性石炭、水硬性ポゾラン、シリカ及びセッコウ(硫酸カルシウム)などを例示することができる。これらは1種ないしは2種を任意に組み合わせて用いることができる。好ましくはセメント及びセッコウであり、より好ましくはセメントである。
【0039】
セメントは、水硬性セメントであれば特にその種類に制限されず、ケイ酸石灰質セメント(例えば普通ポルトランドセメント,早強ポルトランドセメント,中庸熱ポルトランドセメント,耐硫酸塩ポルトランドセメント又は白色ポルトランドセメント等の各種のポルトランドセメント;高炉セメント,シリカセメントまたはフライアッシュセメント等の混合セメント)、アルミン酸石灰質セメント、ケイ酸アルミン酸石灰質セメント、リン酸セメントなどが広く包含される。好ましくはケイ酸石灰質セメント、アルミン酸石灰質セメント、ケイ酸アルミン酸石灰質セメントであり、より好ましくは早強ポルトランドセメント、高炉セメントである。なお高炉セメントには、JIS R 5211によればスラグ量が5%を超え30%以下のA種、スラグ量が30%を超え60%以下のB種、スラグ量が60%を超え70%以下のC種のいずれもが包含され、その種の別を問うものではない。好ましくはB種の高炉セメントである。
【0040】
セッコウは、それ自体が水和硬化性を有するか、若しくは凝結剤や凝結促進剤などといった補助剤と併用することによって水和硬化性を呈するようになるものであればよく、具体的には半水セッコウ(α、β)、II型無水セッコウを挙げることができる。なお、ここで用いられる凝結剤又は凝結促進剤としては、セッコウの成分である硫酸カルシウムの水和硬化性発現を補助もしくは増強する作用を有するものを広く挙げることができ、例えば硫酸カリウム、ミョウバン、二水セッコウの微粉末、シュウ酸などの有機酸などを挙げることができる。
【0041】
また本発明においてフィラーとして、セメントやコンクリートの分野で通常使用される骨材を広く用いることができる。例えば珪砂,寒水砂,川砂等の天然骨材;陶磁器片やガラス粒等の着色骨材、パーライト,バーミキュライト,シラス球等の軽量骨材、及び汚泥焼成骨材などの再生骨材等及び加工骨材などの人工骨材を挙げることができる。但し、これらに限定されることはなく、骨材と同様な機能を担う骨材相当物を使用することもできる。またこれらの骨材は、一種単独で使用してもまた2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0042】
上記複合金属水酸化物、複合金属酸化物、水硬性無機質材料及びフィラーの各配合割合は、調製される無機質材の種類やその用途によって異なり一概に規定することはできないが、例えば水硬性無機質材料は、複合金属水酸化物又は複合金属酸化物100重量部に対して2〜900重量部、好ましくは5〜600重量部、より好ましくは5〜400重量部の範囲から適宜選択して用いることができ、またフィラーは、複合金属水酸化物又は複合金属酸化物100重量部に対して2〜9000重量部、好ましくは3〜8000重量部、より好ましくは3〜6000重量部の範囲から適宜選択して用いることができる。
【0043】
より具体的には、例えば、本発明の無機質材が予め工場などで製造される成形物である場合は、複合金属水酸化物又は複合金属酸化物100重量部に対して配合する水硬性無機質材料の割合として2〜100重量部、好ましくは5〜100重量部、より好ましくは5〜50重量部の範囲を、またこれらの複合金属水酸化物又は複合金属酸化物と水硬性無機質材料との混合物100重量部に対して配合するフィラーの割合として20〜900重量部、好ましくは30〜800重量部、より好ましくは30〜600重量部の範囲を例示することができる。かかる割合で複合金属水酸化物、複合金属酸化物、水硬性無機質材料及びフィラーを用いることにより、適度な強度を有しながらも少量で強力なフッ素イオン吸着能を発揮する水処理剤成形物を調製することができる。このような成形物は、強度より寧ろ高いフッ素イオン吸着能が求められる用途に使用することができ、このようなものとしては例えばフッ素イオン吸着・除去用の濾過材(粒状、板状または棒状等)を挙げることができる。なお、上記濾過材のようにフッ素吸着能を重視する場合は、早強ポルトランドセメント等のように早期に強度を発現する水硬性無機質材料を用いて本発明の水処理剤成形物を調製することが好ましい。
【0044】
また、コンクリートやモルタル等のセメント調製物(湿式施工品、乾式施工品)のように強度が求められる水処理剤成形物を調製する場合には、水硬性無機質材料を比較的多量に使用することが好ましい。例えばコンクリートの場合、従来のコンクリート調製物と同等の強度を得るためには、複合金属水酸化物又は複合金属酸化物100重量部に対して配合する水硬性無機質材料(セメント)の割合として50〜900重量部、好ましくは100〜400重量部、より好ましくは200〜400重量部の範囲を、またこれらの複合金属水酸化物又は複合金属酸化物と水硬性無機質材料との混合物100重量部に対して配合するフィラーの割合として100〜900重量部、好ましくは150〜500重量部、より好ましくは200〜400重量部の範囲を例示することができる。また、モルタルの場合、従来のモルタル調製物と同等の強度を得るためには、複合金属水酸化物又は複合金属酸化物100重量部に対して配合する水硬性無機質材料(セメント)の割合として40〜900重量部、好ましくは100〜700重量部、より好ましくは300〜600重量部の範囲を、またこれらの複合金属水酸化物又は複合金属酸化物と水硬性無機質材料との混合物100重量部に対して配合するフィラーの割合として20〜500重量部、好ましくは30〜300重量部、より好ましくは30〜200重量部の範囲を例示することができる。かかる割合で複合金属水酸化物、複合金属酸化物、水硬性無機質材料及びフィラーを用いることにより、従来のコンクリートやモルタル調製物に要求される強度はそのままに、新たに環境浄化機能であるフッ素イオン吸着能を付加してなる水処理剤成形物を調製することができる。なお、上記コンクリートやモルタル調製物には、例えば、生コンクリートやプレミックスモルタル等の湿式施工品や、上下水道用製品(マンホール鉄筋コンクリート管など)、擁壁類製品、貯留槽、防火水槽、景観製品(インターロッキングブロックなど)、浄化施設の濾床に用いる濾過材などの乾式施工品が包含される。
【0045】
かかるコンクリートやモルタル調製物に使用する水硬性無機質材料としては高炉セメント等のように長期強度に優れたものが好ましい。
【0046】
また本発明の水処理剤成形物は、必要に応じて、一般に当業界で用いられる混和材、混和剤または高分子混和剤等を配合して調製することもできる。
【0047】
ここで混和材としては、通常セメントに配合して用いられる混和材を広く用いることができ、具体的はフライアッシュ、シリカフューム、ポゾラン、高炉スラグ、ケイ酸質微粉末、鉱物質微粉末などが例示できる。
【0048】
また混和剤としては、AE剤、減水剤、AE減水剤、減水促進剤、減水遅延剤、促進剤、遅延剤、急結剤、防水剤、起泡剤、発泡剤、保水剤、接着剤、防水剤などが例示できる。これらの混和剤は上記範疇に含まれるものであれば制限されることなく任意に用いることができる。例えば、AE剤としては陰イオン系、非イオン系、陽イオン系または両性イオン系のAE剤を任意に使用することができるが、好適には非イオン系のAE剤である。また減水剤としては、リグニンスルホン酸塩系、高級多価アルコールのスルホン酸塩系、オキシ有機酸、アルキルアリルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオール複合体の減水剤を任意に使用することができるが、好適にはポリオール複合体である。
【0049】
高分子混和剤は粉末状で配合しても、また液体状で配合してもよい。ここで、高分子混和剤としては、具体的に水性ポリマーディスパージョンおよび水溶性ポリマーを挙げることができる。具体的には、ゴムラテックス、アクリルエマルジョン、アクリルスチレンエマルジョン、エチレン酢酸ビニルエマルジョン、スチレンブタジエンゴムラテックス、エポキシ樹脂エマルジョン、混合ラテックス、混合エマルジョン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、メラミン等が例示できる。
【0050】
本発明の水処理剤成形物は、前述の複合金属水酸化物、複合金属酸化物、水硬性無機質材料及びフィラー、並びに必要に応じて上記任意成分を単に混合して粉状物として調製されてもよいし、これにさらに水を配合してペースト状に調製されてもよいし、またこの含水物を乾燥固化して所望の形状に調製されてもよい。
【0051】
かくして得られる本発明の水処理剤成形物は、例えば水硬性無機質材料としてセメントを用いて調製された場合には、セメントモルタルやコンクリート、その他セメントを成分とする各種のセメント調製物(生コンクリート、プレミックスモルタル、乾式施工品、湿式施工品)として提供することができる。
【0052】
本発明の水処理剤成形物は、前述するようにそのフッ素イオン吸着能に基づいてフッ素を吸着するとともに、フッ素吸着後は特定条件下でフッ素を放出可能である。
【0053】
本発明の水処理剤及び水処理剤成形物は、例えばフッ素含有水(工業排水、自然水等)中のフッ素を除去するためカラム内にフッ素吸着剤として充填されたり、フッ素含有水の流路となる排水溝等のコンクリート側壁(特に水処理剤成形物が適切)として使用される。
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、複合金属水酸化物又は複合金属酸化物を使用することによりフッ素吸着能に優れた水処理剤を提供することができる。特に、Ca2+を含有する水処理剤及び水処理剤成形物は、構成元素中のイオン交換性のアニオンの量から算出されるイオン交換容量の理論値以上のフッ素イオンを吸着するため、フッ素除去能力が非常に高いものである。
【0055】
また、複合金属水酸化物及び複合金属酸化物に、バインダー、水硬性無機質材料、フィラーを併用することにより、強度に優れた水処理剤成形物を提供することができる。さらに、これらの水処理剤又は水処理剤成形物を使用することによって、既存の水処理又は排水処理設備に比較的コンパクトなフッ素吸着塔によるフッ素除去装置を付加することでフッ素の高度処理が可能となるため、従来のフッ素除去方法(凝集沈殿法)では必須であった沈殿槽を省略することができ、省スペースでのフッ素含有水の処理が可能となる。
【0056】
【実施例】
以下、本発明を実施例によってより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0057】
実施例1
フッ素吸着剤(Ca2+ 0.621Al3+ 0.379(OH-)2.03Cl- 0.251(CO3 2-)0.048;以下"Cl/HT−CaAl"と表記する)0.1gをフッ素濃度40mmol/Lに調整したフッ化ナトリウム水溶液100mlに添加し、25℃にて1時間撹拌した。撹拌後、フッ素吸着剤を濾別し、濾液中のフッ素イオンをイオンクロマトグラフィー及びフッ素イオン電極にて定量した。
フッ素イオンの吸着量は、フッ素イオンの初期濃度と吸着平衡後の残存濃度との差からフッ素吸着剤1g当たりの吸着量として算出した。
その結果、フッ素吸着量は 14.4mmol/gであった。
【0058】
実施例2
フッ素吸着剤(Mg2+ 0.680Al3+ 0.320(OH-)2.03Cl- 0.240(CO3 2-)0.0217;以下"Cl/HT−MgAl"と表記する)0.1gをフッ素濃度10mmol/Lに調整したフッ化ナトリウム水溶液100mlに添加し、25℃にて1時間撹拌した。撹拌後、フッ素吸着剤を濾別し、濾液中のフッ素イオンをイオンクロマトグラフィー及びフッ素イオン電極にて定量した。
フッ素イオンの吸着量は、実施例1と同様にして算出した。
その結果、フッ素吸着量は 1.66mmol/gであった。
【0059】
実施例3
フッ素吸着剤(Mg2+ 0.784Fe3+ 0.216(OH-)1.81Cl- 0.380(CO3 2-)0.012;以下"Cl/HT−MgFe"と表記する)0.1gをフッ素濃度10mmol/Lに調整したフッ化ナトリウム水溶液100mlに添加し、25℃にて1時間撹拌した。撹拌後、フッ素吸着剤を濾別し、濾液中のフッ素イオンをイオンクロマトグラフィー及びフッ素イオン電極にて定量した。
フッ素イオンの吸着量は、実施例1と同様にして算出した。
その結果、フッ素吸着量は 1.26mmol/gであった。
【0060】
実施例4
実施例1で使用したフッ素吸着剤(Cl/HT−CaAl)0.2gを表1に示すイオンを含有する実排水(ステンレスの酸洗浄排水を水酸化カルシウムで一次処理した排水)100cm3に添加し、25℃にて1時間撹拌した。撹拌後、フッ素吸着剤を濾別し、濾液中のフッ素イオンをイオンクロマトグラフィー及びフッ素イオン電極にて定量した。処理後の実排水中のフッ素イオンの含有量は2.7mg/Lであり、フッ素吸着剤が他のイオンの共存下でも効果的にフッ素イオンを吸着することが確認された。
【0061】
【表1】
Figure 0004006584
【0062】
実施例5
実施例1で使用したフッ素吸着剤(Cl/HT−CaAl)0.1gを任意のフッ素濃度に調整したフッ化ナトリウム水溶液100cm3に添加し、25℃にて1時間撹拌した。撹拌後、フッ素吸着剤を濾別し、濾液中のフッ素イオン及び塩化物イオン量をイオンクロマトグラフィー及びフッ素イオン電極にて定量した。
【0063】
フッ素イオンの吸着量は、実施例1と同様にして算出し、塩化物イオンの放出量は、塩化物イオンの初期濃度と吸着平衡後の残存濃度との差からフッ素吸着剤1gあたりの放出量として算出した。
【0064】
その結果を図1に示す。フッ素吸着剤が塩化物イオン放出量以上のフッ素イオンを吸着していることが確認された。
【0065】
実施例6
本発明の成形物は具体的には以下の手順にて実施することができる。
【0066】
実施例1で使用したフッ素吸着剤(Cl/HT−CaAl)4kgに対して、バインダーとしてポリアクリル酸ヒドラジド及びポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂の混合物(重量比1:4)を添加し、出力1.5kw、全容量20L、2軸回転数29.20rpmの2軸式ニーダー、及び、出力3.7kw、スクリーン3mm、回転数135rpmの上押し式造粒機を用い、フッ素吸着剤とバインダーとの混合を1分間行い、必要量の水を加えてから混練を5分間行う。その後、直径3mm、長さ5〜10mmの円柱形の造粒物を調製し、80℃にて15時間乾燥することにより、水処理剤成形物(造粒物)を調製できる。
【0067】
実施例7
本発明の成形物は具体的には以下の手順にて実施することができる。
【0068】
ポルトランドセメント100重量部及び微粉砕高炉スラグ(比表面積6000g/m2)100重量部を混合して高炉セメントを調製する。実施例1で使用したフッ素吸着剤(Cl/HT−CaAl)100重量部に対して、この高炉セメントを10重量部、減水剤を0.1重量部、アクリル樹脂エマルジョンを40重量部配合して水処理剤成形物を調製する。具体的には下記の調製方法に従って調製できる。
【0069】
上記の原料を練り混ぜ機を用いて3分間練り混ぜて、成形型枠に突き詰めて湿気箱中に静置する。24〜72時間経過後、成形物を型枠から取り外し、粉砕して10〜20メッシュの水処理剤成形物(破砕物)を調製できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例5のフッ素イオン吸着剤のフッ素吸着量及び塩化物イオン放出量(mmol/g)とフッ化ナトリウム水溶液の初期のフッ素濃度(mmol/L)との関係を示すグラフである。■はフッ素吸着量を示し、▲は塩化物イオン放出量を示す。

Claims (7)

  1. 化学組成式(1):
    1−x 2+ 3+(OH2+x−y(An−y/n (1)
    〔式中、M2+Ca 2+ を示し、M3+はAl3+及びFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示し、An−はn価のアニオンを示す。また、0.1≦x≦0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1または2である。〕
    で表される複合金属水酸化物からなる水中のフッ素除去用の水処理剤。
  2. 請求項1に記載の化学組成式(1)で表される複合金属水酸化物及びポリアクリルアミドのアミノ化物を配合してなる水中のフッ素除去用の水処理剤成形物。
  3. さらに、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂、酢酸ビニル・バーサチック酸ビニル共重合体樹脂及びスチレン・アクリル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項に記載の水処理剤成形物。
  4. 請求項1に記載の化学組成式(1)で表される複合金属水酸化物、
    水硬性無機質材料、及び
    フィラー
    を含有する水中のフッ素除去用の水処理剤成形物。
  5. 水硬性無機質材料がセメントである請求項記載の水処理剤成形物。
  6. 請求項1に記載の化学組成式(1)で表される複合金属水酸化物100重量部に対して、水硬性無機質材料を2900重量部及びフィラーを2〜9000重量部の割合で含有する請求項又はに記載の水処理剤成形物。
  7. 請求項1に記載の水処理剤、請求項又はに記載の水処理剤成形物或いは請求項のいずれかに記載の水処理剤成形物をフッ素含有溶液に接触させる水中のフッ素処理方法。
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