JP4004569B2 - 透明性、流動性に優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物及びそれから得られた成形物 - Google Patents

透明性、流動性に優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物及びそれから得られた成形物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は優れた成形加工性、透明性及び耐衝撃性のバランスを有する樹脂組成物及びそれから得られる成形体に関する。
【0002】
【従来の技術】
スチレン系樹脂は、透明性、成形性、剛性に優れた樹脂であることから、従来家庭用雑貨品、電化製品等の成形材料として広く使用されてきた。利用分野が拡大するに従い、スチレン系樹脂の強度の向上、成形性向上が強く求められるようになった。
【0003】
これまで、強度の高いスチレン系樹脂を得るためには、平均分子量を大きくすれば、良いことは公知の事実である。しかし、平均分子量を大きくすると流動性は低下し、成形性の低下も免れない。また、成形性を補うために可塑剤の使用も公知の方法であるが、可塑剤の添加により耐熱性、剛性が低下し、強度も低下する。
【0004】
また、可塑剤、例えば白色鉱油を添加したスチレン系樹脂は成形時に可塑剤がブリードアウトし、スエッティング現象を呈し生産性の低下、成形品の品質低下を招くことはよく知られた事実である。一方、ブチルアクリレートのようなコモノマーを共重合したスチレン系樹脂も公知である。白色鉱油を添加したスチレン系樹脂の欠陥は改善されるが、強度の低下も大きい。また、メチルメタクリレートを共重合したスチレン系樹脂も公知であるが、スチレン系樹脂の特徴である成形性の良さが犠牲になっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このように、スチレン系樹脂の強度向上のためには、ゴム状重合体を分散粒子として含有するゴム補強スチレン系樹脂(HIPS)があるが、この成形体は不透明であり、透明性を要求されている分野では使用できない。又、強度、耐折強度が弱いという欠点がある。
【0006】
食品包装用途、包装用途では、塩化ビニル樹脂のシート、フィルムが多用されている。塩化ビニル樹脂シート、フィルムは成形性が良好であり、成形体の強度も優れているが、環境問題から、塩化ビニル樹脂代替樹脂が求められている。スチレン系単量体だけからなるスチレン系樹脂の改良が種々行われているが未だ市場要求を満足させることは出来ていない。
【0007】
一方、ポリスチレンとスチレン−ブタジエンブロック共重合体をブレンドしたスチレン系樹脂は市場でかなり満足しているので、現在市場で多用されている。しかし、このスチレン系樹脂は成形時の配向に対する強度の方向依存性が非常に大きいという欠点を有している。また、成形品の表面が軟らかいために成形品表面が傷付き易いという欠点、サラダ油に対して非常に脆いという欠点をも有している。
【0008】
また、シート、フィルム等をリワーク使用する為、スチレン−ブタジエンブロック共重合体が架橋し、いわゆるゲル状物質が生成し、シート、フィルムの表面特性を著しく悪化させるという欠点もある。そして、塩化ビニル樹脂のシートより透明性は劣り、厳しい透明性が要求される分野では問題がある。
【0009】
ポリスチレンを用いる限り、成形性、強度、表面特性等に限界がある。この限界を打破するために、スチレン系単量体と共重合可能な第2の単量体を導入した樹脂とゴム状重合体、例えば、スチレン−ブタジエンブロック共重合体をブレンドすることにより、市場要求を満足させることが可能であると期待されるが、実際にはポリスチレンにゴム状重合体をブレンドしたものより強度が低く実用的ではない。そして、前述のスチレン−ブタジエンブロック共重合体に起因する同様な欠点を有している。
【0010】
特開昭62−169812号公報では、スチレン、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル及びスチレン−ブタジエンブロック共重合体からなる混合溶液を重合する方法の記載がある。しかし、かかる方法では重合された熱可塑性樹脂は透明であり、高い伸びを示しているが、アイゾット衝撃強度に見られるように、ゴム補強の効果が全く認められない。即ち、透明性、伸びは改良されても、強度は改良されていない。
【0011】
これらのスチレン系樹脂を成形して得られる従来のスチレン系樹脂シートは腰の強さ、透明性、成形性に優れている等の理由で食品包装容器等に多用されている。スチレン系樹脂シートは真空成形機、圧空成形機により各種容器に熱成形されるが、熱成形する際の成形サイクル短縮は生産性を向上させるので、成形の短縮できるスチレン系樹脂シートが要望されている。また、成形品を重ねてトリミングする際、成形品が割れる等のトラブルが発生せず、成形品表面が傷つきにくいスチレン系樹脂シートが要望されている。
【0012】
前述のように、既存のスチレン系樹脂を用いたスチレン系樹脂シートではこの市場要求を満足させるものは無かった。一方、食品収納容器として、硬質塩化ビニル樹脂シートが多用されており、最近の環境問題から代替樹脂が求められているが、硬質塩化ビニル樹脂シートと同等の条件で成形できるものがないのが現状である。
【0013】
また、スチレン系樹脂は安価であり、透明性、成形性、剛性に優れていることから、これらスチレン系樹脂を成形して得られる成形体はオーディオカセットテープを収納するプラスチックケース等のオーディオ製品、書類等を収納するトレー等の事務用品、金魚鉢、洋服を収納するトレー、鳥篭、飲料用カップ等の日常雑貨用品等多岐に渡って使用されており、近年、各用途で成形体に対する要求性能が高度化してきている。例えば、カセットテープのプラスチックケースの場合にはコストダウンの要請から成形サイクルを極限まで短縮して生産性を高め、かつ成形品の厚みを極限まで縮めコスト低減を計る等の方策が検討されており、このためにスチレン系樹脂成形体の強度向上が要求されている。収納箱のトレー等も大型化の方向を指向し、これに対応するために、成形体の強度向上が求められている。又、成形体の表面特性(傷付きにくさ)の改良も要求されている。
【0014】
これまで、強度の高い成形体を得るために、前述のスチレン系樹脂が用いられてきたが、市場要求を満足させるには至っていないのが現状である。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはかかる現状に鑑み、鋭意検討した結果、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸アルキルエステルから成る重合体を連続相とし、ゴム状重合体が分散相となるゴム変性スチレン系樹脂に、グリセリン高級脂肪エステルを添加することにより、(イ)成形性、強度、剛性、透明性のバランスに優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物が得られること、(ロ)このゴム変性スチレン系樹脂組成物を押出成形して得られたシートは強度と透明性のバランスが良好で、かつ該シートの真空成形や圧空成形等の低温での2次加工が可能である。(ハ)このゴム変性スチレン系樹脂組成物を射出成形して得られた成形体は透明性、強度と表面特性のバランスに優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本発明は、(1)スチレン系単量体単位20〜70重量%及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位30〜80重量%からなる共重合体(A)70〜96重量部と、ゴム状重合体4〜30重量部とから構成され、該ゴム状重合体が該共重合体(A)中に平均粒子径0.1〜2.0μmの粒子として分散しており、該ゴム状重合体のうち少なくとも70重量%が、スチレン単位5〜50重量%とブタジエン単位50〜95重量%の共重合体であって、25℃における5重量%スチレン溶液の粘度が3〜60センチポイズの範囲内にあり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)(ゲルパーミエーションクロマトグラフを用いてポリスチレンを基準に測定した)が1.0〜1.8の範囲内にあるポリスチレン−ポリブタジエンブロック共重合体であり、該共重合体(A)と該ゴム状重合体の屈折率の差が0.01以内の屈折率を有する透明なゴム変性スチレン系樹脂100重量部 及び、(2)グリセリン高級脂肪酸エステルを0.5ないし8重量部、よりなるゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、 共重合体(A)中の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体がメタクリル酸メチル70〜90重量%とアクリル酸エチル30〜10重量%から成ることを特徴とするゴム変性スチレン系樹脂組成物を提供することである。
【0018】
また本発明は、上記のゴム変性スチレン系樹脂組成物を成形加工して得られるゴム変性スチレン系樹脂成形体を提供することである。
【0019】
また本発明は、上記成形体を得る成形加工方法が押出成形法であり、成形体がシートであることを特徴とする上記のゴム変性スチレン系樹脂成形体、さらにこのシートを真空成形または圧空成形して得られる2次加工成形品を提供することである。
【0020】
また本発明は、上記成形体を得る成形加工方法が射出成形法であり、成形体が射出成形体であることを特徴とする上記のゴム変性スチレン系樹脂成形体を提供することである。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の詳細について説明する。本発明において、共重合体(A)の重合に使用するスチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−p−メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、エチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、p−t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ジビニルスチレン等が用いられ、特に好ましくはスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルブチルスチレンである。これ等は単独で用いても良く、また、これらを混合して用いることも出来る。
【0022】
本発明において、共重合体(A)の重合に使用する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、シクロヘキシルアクリレート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等が用いられ、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチルが好ましく用いられる。
【0023】
連続相を形成する共重合体(A)中のスチレン系単量体の含有量は20〜70重量%、好ましくは30〜60重量%である。20重量%未満の場合は、吸湿水分量が多くなり、成形時に長時間の乾燥工程が必要となり、生産性を著しく悪くするので好ましくない。また、70重量%を越える場合は高い透明性、強度、成形性のバランスに優れた樹脂が得られず好ましくない。
【0024】
本願発明の樹脂組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしてアクリル酸エチルとメタクリル酸メチルが好適に用いられ、かつ、連続相中のアクリル酸エチルが3〜15重量%にすると、成形性が良好で好ましい。
【0025】
本願発明では(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしてメタクリル酸メチルとアクリル酸エチルを併用すると樹脂組成物の加工性(射出成形、押出成形)並びにシートの2次加工性が改良されて好ましい。特に樹脂組成物中の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体のメタクリル酸メチルが70〜90重量%とアクリル酸エチル30〜10重量%を併用する場合が好ましい。
【0026】
スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合は、連続相の屈折率が用いられるゴム状重合体の屈折率に合うように設定される。連続相とゴム状重合体の屈折率の差が0.010以内、好ましくは0.008以内に制御する。
【0027】
本発明で使用するゴム状重合体状重合体のうち少なくとも70重量%が、スチレン単位5〜50重量%、好ましくは20〜40重量%と、ブタジエン単位50〜95重量%、好ましくは80〜60重量%の共重合体であって、25℃における5重量%スチレン溶液の粘度が3〜60、好ましくは20〜40センチポイズの範囲内にあり、重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.0〜1.8、好ましくは1.0〜1.5の範囲内にあるポリスチレン−ポリブタジエンブロック共重合体であり、該共重合体(A)と屈折率が同等であるゴム状重合体が好ましい。
【0028】
本願発明ではゴム状重合体状重合体のうち少なくとも70重量%が用いられ、全量が上記ポリスチレン−ポリブタジエンブロック共重合体であっても良いが、残りの30重量%以下のゴム状重合体は特に限定されるものではなく、例えば市販のポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリスチレン−ポリジエンブロック共重合体等あるいはその水素添加物などの1種または2種以上を混合して用いても良い。
【0029】
本発明のゴム変性スチレン系樹脂中のゴム状重合体の含有量は4〜30重量%である。好ましくは5〜25重量%である。4重量%未満であると、強度補強効果が発現せず、また、30重量%を超えると、剛性が著しく低下するので用途が制限されて好ましくない。
【0030】
本発明のゴム変性スチレン系樹脂を得る手段としては、ゴム補強ポリスチレン(HIPS樹脂)の製造で多用されている方法を用いることができる。
【0031】
重合方法はスチレン系重合体の製法で常用されている塊状重合法、又は溶液重合法が用いられる。回分式、連続式のいずれの重合も用いることができる。
【0032】
一般的重合法は、ゴム状重合体をスチレン系単量体および/または(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体、さらに必要に応じて重合溶媒および/または重合開始剤からなる原料溶液に溶解し、このゴム状重合体を溶解した原料溶液を撹拌機付き反応機に供給し重合を行う。
【0033】
重合が進行するとゴム状重合体は粒子として共重合体(A)中に分散する。分散粒子の粒子径の制御は一般的に反応機の撹拌数を変化させることで制御される。また、透明性を維持する方法として、一般的な方法では、重合段階で必要に応じて単量体および/または重合溶媒を追加するか、あるいは連続的に添加する等の方法が用いられる。
【0034】
ゴム状重合体の含有量は原料のゴム状重合体の使用量、重合率の調整により、目標の含有量になるように制御する。また、高濃度のゴム状重合体を含むゴム変性スチレン系樹脂を上記の方法で製造し、別に製造したゴム状重合体を含まないスチレン系樹脂と混合することによっても達成できる。但し、本発明の構成要件を全て満たさなければならない。
【0035】
この時、重合溶媒、例えば、エチルベンゼン、トルエン、キシレン等を用いることも可能である。また、重合は熱重合でも良いが、通常は重合開始剤が使用され、重合開始剤はスチレン系単量体の重合に使用されている有機過酸化物が一般に使用され、該開始剤は重合の最初に使用いても、又途中に添加または/追加してもよい。
【0036】
反応機を出た重合液は回収装置に導かれる。回収装置はスチレン系樹脂の製造で常用されている装置、例えば、多管式の予熱機と減圧室から成る分離回収装置を用いることができる。操作条件もスチレン系樹脂と同等の条件を用いることができる。
【0037】
本発明のスチレン系樹脂中の未反応のスチレン系単量体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、重合溶媒の総量は0.1重量%以下、好ましくは0.06重量%以下である。0.1重量%以上を越える場合は食品衛生上好ましくない。また、単量体より生成する二、三量体の総量は0.6重量%以下、好ましくは0.4重量%以下である。0.6重量%を越える場合はシート成形時、成形体成形時にモールドスエット現象の原因となり、成形品の外観を損ない、かつ生産性低下を招く。
【0038】
本発明のゴム変性スチレン系樹脂中の分散相であるゴム粒子の平均粒子径は0.1〜2.0μm、好ましくは、0.1〜1.5μmである。0.1μm未満であると成形体の強度は低くなり、2.0μmを越えると、成形体表面の外観が悪くなり好ましくない。また、ゴム状重合体の粒子径分布指数(実施例で説明)は2.0〜5.0の範囲であることが好ましい。
【0039】
本発明において用いられるグリセリン高級脂肪酸エステルは高級脂肪酸の炭素数が12〜26の高級脂肪酸とグリセリンのエステルであり、モノグリセライド、ジグリサライド、及びトリグリセライドのいずれでも使用できる。また、高級脂肪酸のアルキル基にヒドロキシル基、アミノ基、ハロゲン、カルボニル基等の官能基、特に好ましくはヒドロキシル基を有していてもよい。
【0040】
好ましいグリセリン高級脂肪酸エステルとしては精製ヒマシ油を水素添加して得られる12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライドがある。12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライドは固くて脆い、白色、フレーク状の高融点ワックスである。12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライドとしては、融点84℃以上、沃素価3以下、酸価2以下、ケン化価175〜185、及びヒドロキシル価155以上のものが更に好ましい。
【0041】
グリセリン高級脂肪酸エステルの添加方法としては、ゴム変性スチレン系樹脂の重合終了後、未反応単量体、溶媒を除去する前、又は後に添加する方法を用いることができる。あるいは、ゴム変性スチレン系樹脂とグリセリン高級脂肪酸エステルを混合し、押出機、あるいは成形機で混練することも可能である。
【0042】
ゴム変性スチレン系樹脂とグリセリン高級脂肪酸エステルの混合割合は、ゴム変性スチレン系樹脂100重量部あたりグリセリン高級脂肪酸エステル0.5〜8重量部、より好ましくは1〜5重量部である。0.5重量未満では流動性の向上効果が認められず、8重量部を越えると剛性が低下し、また、樹脂組成物のコストアップを招き好ましくない。
【0043】
本発明において、ゴム変性スチレン系樹脂製造時の未反応単量体及び重合溶媒を回収する前又は後の任意の段階、あるいはゴム変性スチレン系樹脂とグリセリン高級脂肪酸エステルを混合する段階、あるいはスチレン系樹脂組成物を押し出す段階、成形する段階において、スチレン系樹脂に慣用されている添加剤、例えば酸化防止剤、滑剤、着色剤、帯電防止剤等をゴム変性スチレン系樹脂の透明性を損なわない範囲で添加できる。
【0044】
このようにして得られたスチレン系樹脂組成物は、一般的に熱可塑性樹脂の成形に用いられている公知の方法、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形等の方法によって各種成形体に成形することができる。また、本発明ではフィルム、二軸延伸フィルム、シート等に成形された後、真空成形、圧空成形により所望の成形体に成形することができる。また、得られたスチレン系樹脂成形体、特にシート、フィルムの表面特性を改良するため帯電防止剤、シリコン等の滑剤を表面に塗布してもよい。
【0045】
本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物でシートを作成するには、従来からスチレン系樹脂のシート作成方法として多用されている一般的方法、例えば、押出機で溶融した後、Tダイから押し出す方法が用いられ、その際、シリンダー温度は180〜250℃、ダイス温度210〜250℃及び冷却ロール温度50〜75℃が好ましい。シートの厚みは特に制限されるものではないが、0.05〜3mmの範囲のものが一般的である。
【0046】
本発明に係わるゴム変性スチレン系樹脂組成物のシートは2次加工性が良好で、真空成形または熱板圧空成形、もしくは間接加熱圧空成形等従来から行われているスチレン系樹脂の2次加工方法により、軽量容器、容器の蓋等を成形できる。
【0047】
本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物から得られたシートは透明性、強度のバランスが優れており、成形品の厚みを薄くすることも可能である。また、本発明の該シートの2次成形時の伸びが大きいので低温成形が可能であり、その結果、シートの加熱時間が短縮され、2次加工の成形サイクルを短縮できる。さらに、本発明のシートは真空成形等の2次加工時に通常発生する配向や表面の肌荒れ等による透明性の低下が少ない。
【0048】
本発明のシートを製造するゴム変性スチレン系樹脂組成物に、本発明の意図するシートの機能を損なわない範囲で、可塑剤、滑剤、顔料、帯電防止剤、難燃剤等を配合してシートの性質を改良することもできる。
【0049】
また、得られたシートまたは2次加工品の表面に帯電防止剤、シリコーン樹脂、抗菌剤等を塗布しても良い。
【0050】
本発明で得られるゴム変性スチレン系樹脂組成物を射出成形することで強度と透明性のバランスが優れた成形体が得られる。その際の成形方法はスチレン系樹脂で行われている通常の方法であり、シリンダー温度が200〜250℃、金型温度30〜50℃の条件が好ましい。
【0051】
本発明の射出成形体は強度と透明性のバランスが優れているので、大型成形品、例えば事務用収納トレー、用紙収納トレー、金魚鉢、飼育箱、衣装ケース、玩具、オーディオ機器部品等に好ましく使用される。また、例えば、オーディオテープ、ビディオテープ、オーディオカセット、オーディオディスク、ビデオディスク、フロッピーディスク等の記録媒体収納容器に好適に用いられる。
【0052】
【実施例】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、ゴム変性スチレン系樹脂組成物の分析および物性評価は以下の方法によった。
【0053】
(a)ゴム状重合体の平均粒子径および粒子径分布指数:樹脂組成物の成形物を超薄切片にしてこれをオスミウム酸で染色してこれを透過型電子顕微鏡で撮影し、写真中のゴム状重合体粒子500〜700個の粒子径を測定して下記の式I(数1)により平均したものが平均粒子径である。
【0054】
【数1】
ゴム状重合体の平均粒子径 = ΣnD4 /ΣnD3 式I
(但し、nは粒子径Dのゴム状重合体の個数である。)
また粒子径分布指数は、粒子径の大きい方からの粒子径の積算体積分率が10%になったときの粒子径をDA、粒子径の大きい方からの粒子径の積算体積分率が90%になったときの粒子径をDBとしたとき、下記の式II(数2)で表わされる指数である。
【0055】
【数2】
ゴム状重合体の粒子径分布指数 = DA/DB 式II
(b)試験片の作成:得られた樹脂組成物を成形温度240℃、金型温度50℃で射出成形し、ヘイズ測定用試験片(長さ15cm×幅10cm×厚さ2.5mm)を作成した。
【0056】
(c)ヘイズ:ASTM−D1003に従って測定した。ヘイズ値が小さい方が透明性は優れている。
【0057】
(d)アイゾット衝撃強度:ASTM D−256に従って測定した。
【0058】
製造例1
また、実施例、比較例にて使用したゴム変性スチレン系樹脂は以下の方法にて製造した。
【0059】
容量が20リットルの完全混合型反応槽1基から成る連続的重合装置を用いてゴム変性スチレン系樹脂を製造した。スチレン系単量体としてスチレンを、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしてメタクリル酸メチルとアクリル酸エチルの混合物を用いた。ゴム状重合体としてポリスチレン部23重量%とポリブタジエン部77重量%から構成され、25℃における5重量%スチレン溶液の粘度が11センチポイズ、Mw/Mnが1.1であるポリスチレン−ポリブタジエンブロック共重合体(日本ゼオン(株)製、商品名NIPOL:NS310S)を用いた。重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)を用いた。
【0060】
スチレン30重量部、メタクリル酸メチル36重量部、アクリル酸エチル9重量部、エチルベンゼン20重量部、ゴム状重合体5重量部、t−ドデシルメルカプタン0.07重量部、重合開始剤0.03重量部から成る重合原料をプランジャーポンプを用いて10kg/hで連続的に該反応槽に供給して重合を行い、重合温度を調節して反応槽出口における固形分量を重合液に対し47.0重量%、重合転化率を56.0重量%にした。
【0061】
このときの重合温度は137℃であった。反応槽の撹拌回転数は150rpmであり、重合温度は反応槽の上部、中部、下部の3か所に熱電対を入れて測定したところ、3か所の温度の平均値±0.2℃の範囲に制御されており、重合液は均一に混合されていると考えられる。重合原料中のスチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチルの比率は40重量%、48重量%、12重量%である。
【0062】
重合に続いて、反応槽から連続的に抜き出された重合液を脱輝発分装置に供給して未反応単量体や有機溶剤等の揮発性物質を分離した後、押出機を経て樹脂をペレット化した。なお、得られた樹脂中にはスチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチルの合計は700ppmであった。
【0063】
実施例1
製造例1で得られたゴム変性スチレン系樹脂を100重量部、小倉合成工業(株)の12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド(カスターワックス)、1重量部をブレンドし、2軸押出機で造粒し、スチレン系樹脂組成物−Iを得た。物性値を表1に示す。
【0064】
実施例2
製造例1で得られたゴム変性スチレン系樹脂を100重量部、小倉合成工業(株)の12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド(カスターワックス)、3重量部をブレンドし、2軸押出機で造粒し、スチレン系樹脂組成物−IIを得た。物性値を表1に示す。
【0065】
実施例3
製造例1で得られたゴム変性スチレン系樹脂を100重量部、小倉合成工業(株)の12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド(カスターワックス)、5重量部をブレンドし、2軸押出機で造粒し、スチレン系樹脂組成物−IIIを得た。物性値を表1に示す。
【0066】
比較例1
製造例1で得られたゴム変性スチレン系樹脂物性を測定した。物性値を表1に示す。
【0067】
比較例2
製造例1で得られたゴム変性スチレン系樹脂を100重量部、ミネラルオイル2重量部をブレンドし、2軸押出機で造粒し、スチレン系樹脂組成物−IVを得た。物性値を表1に示す。
【0068】
表1より、本発明のスチレン系樹脂組成物は衝撃強度、流動性が向上し、また、透明性についても向上していることが理解できる。一般的に流動性向上の目的で使用されているミネラルオイルを添加すると、流動性は向上するものの透明性が大きく低下する。
【0069】
実施例4
実施例2で用いたゴム変性スチレン系樹脂組成物を用いて、40mm押出機で厚み0.3mmのシートを作成した。このシートの物性値を表3に示す。このシートを用いて真空成形機で熱成形を行った。ヒーター温度350℃でシートを加熱し、真空度750mmHg、金型温度40℃の条件下で食品パッケージを成形し、金型通りの形状が得られる加熱時間及び成形品の物性をもとめた結果を表2に示す。
【0070】
なお、以下のシート及び真空成形物である食品パッケージの物性の測定は以下のようにして行った。
(1)シートの実用衝撃強度:シートから4cm×10cmの試料を切り出し、落錐衝撃強度試験を行った。
(2)透明性の変化:食品パッケージの側面を切り出しヘイズ(H)を測定し、もとのシートのヘイズ(h)に対する割合(H/h)を比較した。H/hの数値が1に近い場合が2次成形加工後でも透明性の保持に優れている。
【0071】
実施例5
実施例3で用いたゴム変性スチレン系樹脂組成物を用いて、実施例4と同様に成形を行い評価した結果を表2に示す。
【0072】
比較例3
比較例1で用いたゴム変性スチレン系樹脂組成物を用いて、実施例4と同様に成形を行い評価した結果を表2に示す。
【0073】
比較例4
比較例2で用いたゴム変性スチレン系樹脂組成物を用いて、実施例4と同様に成形を行い評価した結果を表2に示す。
【0074】
比較例5
三井東圧化学(株)ポリスチレン550−51(スチレンホモポリマー)を50重量部、製造例で用いたポリスチレン−ポリブタジエンブロック共重合体(日本ゼオン(株)製、商品名NIPOL:NS310S)50重量部をブレンドし、二軸押出機で造粒してペレットを得た。このペレットを用いて実施例4と同様にシート及び成形物を製造し評価した結果を表2に示す。
【0075】
本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物から得られたシートは実用衝撃強度及び2次加工品である食品パッケージの透明性が優れている。また比較例5と実施例4〜5を比較すると、本発明のシートを真空成形して食品パッケージを製造する際の加熱時間が短縮でき、成形サイクルの短縮により生産性向上が図られると同時に真空成形品の外観(透明性)も優れていることがわかる。
【0076】
実施例6
実施例2で得られたゴム変性スチレン系樹脂組成物を用いて、射出成形機SG−350(住友重機工業(株)製)を用いて、シリンダー温度235℃、金型温度40℃の条件で HYPERLINK "http://www6.ipdl.jpo.go.jp/Tokujitu/tjitemdrw.ipdl?N0000=234&N0500=1E#N/;?6=87688///&N0001=339&N0552=9&N0553=000006" \t "tjitemdrw" 図2に示す書類入れトレーを成形した。このときに成形温度を変えて書類入れトレーが成形できる下限の温度を求めこれを限界成形温度とした。この書類入れトレーの中心部に1kgの鋼球を落下させ、割れの生じる高さを測定し、破壊エネルギーを求めた。また同成形品の透明性(トレーの底部を5cmx10cm切出しヘイズ値を測定)も測定した。
【0077】
またシリンダー温度を250℃にした以外は同じにして書類入れトレーの成形を繰り返し、金型に発生したヤニの重量(Y)を測定し、成形量(y)に対するヤニ発生率を求めた。評価結果を表3に示す。
【0078】
実施例7
実施例3で用いたゴム変性スチレン系樹脂組成物を用いて、実施例6と同様に成形を行い評価した結果を表3に示す。
【0079】
比較例6
比較例1で用いたゴム変性スチレン系樹脂組成物を用いて、実施例6と同様に成形を行い評価した結果を表3に示す。
【0080】
比較例7
比較例2で用いたゴム変性スチレン系樹脂組成物を用いて、実施例6と同様に成形を行い評価した結果を表3に示す。
【0081】
比較例8
比較例5で用いたスチレン系樹脂組成物を用いて、実施例6と同様に成形を行い評価した結果を表3に示す。
【0082】
実施例6〜7、比較例6〜8の結果から、本発明のゴム変性スチレン系樹脂にグリセリン高級脂肪酸エステルを添加した組成物は成形性が向上し、透明性及び耐衝撃性も向上している。また従来から使用されているミネラルオイルを添加して認められるスェッティング物質の発生は本発明の組成物では認められなかった。
【0083】
【表1】
Figure 0004004569
【0084】
【表2】
Figure 0004004569
【0085】
【表3】
Figure 0004004569
【0086】
【発明の効果】
スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体からなるスチレン系重合体を連続相とし、ゴム状重合体を分散相とするゴム変性スチレン系樹脂にグリセリン高級脂肪酸エステルを含有させることにより、透明性、耐衝撃性の物性バランスに優れ、且つ流動性が良好で成形性に優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物が得られる。
【0087】
本組成物から押出成形で得られたシートは透明性、耐衝撃性に優れ、またこのシートは低温で真空成形等の二次加工ができるので成形サイクルの短縮が可能であり、透明性の優れた二次加工品が得られる。
【0088】
また本組成物の射出成形品は透明性、耐衝撃性が良好であり、射出成形性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の組成物の実用衝撃強度測定に使用する成形物及び測定位置を示す図である。
【図2】 本発明の実施例6で製造した書類入れトレーの図である。

Claims (5)

  1. (1)スチレン系単量体単位20〜70重量%及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位30〜80重量%からなる共重合体(A)70〜96重量部と、ゴム状重合体4〜30重量部とから構成され、該ゴム状重合体が該共重合体(A)中に平均粒子径0.1〜2.0μmの粒子として分散しており、該ゴム状重合体のうち少なくとも70重量%が、スチレン単位5〜50重量%とブタジエン単位50〜95重量%の共重合体であって、25℃における5重量%スチレン溶液の粘度が3〜60センチポイズの範囲内にあり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.0〜1.8の範囲内にあるポリスチレン−ポリブタジエンブロック共重合体であり、該共重合体(A)と該ゴム状重合体の屈折率の差が0.01以内の屈折率を有する透明なゴム変性スチレン系樹脂100重量部、(2)グリセリン高級脂肪酸エステルを0.5ないし8重量部、よりなるゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、 共重合体(A)中の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体がメタクリル酸メチル70〜90重量%とアクリル酸エチル30〜10重量%から成ることを特徴とするゴム変性スチレン系樹脂組成物。
  2. 請求項1記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物を成形加工して得られるゴム変性スチレン系樹脂成形体。
  3. 成形加工方法が押出成形法であり、成形体がシートであることを特徴とする請求項2記載のゴム変性スチレン系樹脂成形体。
  4. 請求項3記載のシートをさらに真空成形、圧空成形して得られる2次加工成形体。
  5. 成形加工方法が射出成形法であり、成形体が射出成形体であることを特徴とする請求項2記載のゴム変性スチレン系樹脂成形体。
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