JP4003678B2 - トロイダル型無段変速機を有する車両 - Google Patents

トロイダル型無段変速機を有する車両 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、トロイダル型無段変速機を有する車両に関し、特に、そのトラクション制御に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば、滑りやすい路面での発進や加減速時(もっとも、この場合の減速は、アクセル操作のみによる減速を意味する。)において、ドライバーのアクセルの操作に対して、トランスミッションを経由して駆動輪のホイールに過度なトルクが発生すると、駆動輪がスピンして安定走行ができなくなる場合がある。そこで、従来より、発進ないし加減速時に駆動輪をスピンさせない最適な駆動力をホイールに付与して自動車の安全走行を可能にするトラクション制御が採用されている。
【0003】
かかる自動車のトラクション制御は、高い駆動力が要求された時にタイヤが路面に対してスリップしないように、タイヤの滑り率を所定値(15〜20%)以内の範囲に維持するものであり、より具体的には、駆動輪の回転数と従動輪の回転数との相違からタイヤの上記滑り率を割り出し、この滑り率が所定値以内に収まるように、エンジンのスロットルバルブを閉じ気味にして駆動輪のトルクを抑制することによって行われる(特許文献1参照)。
なお、従来では、エンジンスロットルによる応答では不十分な場合に限り、駆動輪のブレーキを作動したりトランスミッション内の作動油圧を制御して、ホイールの過剰トルクを抑制するようにしている。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−52960号公報(請求項1〜請求項6)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、ゴムタイヤを装着した通常の自動車においては、タイヤの滑り率とトラクション係数との関係を表す路面摩擦曲線(トラクションカーブ)が路面状態によって変化することから、タイヤの滑り率も路面状態によって時々刻々と変化することが知られている。
しかしながら、従来のトラクション制御では、そのようにタイヤの滑り率が路面状態の変化に伴って変動する物理量であるにも拘わらず、その滑り率が所定の範囲内に維持されるようにエンジンスロットルをフィードバック制御しているだけであるため、常に最適な滑り率に基づいてホイールに対する過剰トルクを抑制できているとは言い難く、このため、雪上等の特に滑りやすい路面でのホイールスピンを有効に防止できない場合がある。
【0006】
また、上記従来のトラクション制御では、エンジンスロットルを調整することで駆動輪のトルクを抑制するようにしているので、スリップの発生を検出した後の駆動輪のトルク応答が比較的遅く(100ms程度)、このため、制御が安定化するのに時間がかかってホイールスピンを有効に防止できない場合がある。
本発明は、このような実情に鑑み、路面状態が変化しても常に最適な滑り率で駆動輪に対するトルクを迅速に制御できるようにして、加減速時におけるホイールスピンをより確実に防止することができる車両を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく、本発明は次の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明は、以下の各部材(a)〜(e)を備えていることを特徴とするトロイダル無段変速機を有する車両である。
【0008】
(a) 車体
(b) この車体を駆動するための駆動輪
(c) 前記車体の内部に搭載された回転動力源
(d) この回転動力源の回転数を変速して前記駆動輪に伝達すべく前記車体内に搭載され、かつ、変速ローラに対する駆動力の変化のみに対応して必要な出力トルクが得られるトルク制御方式を採用したトロイダル型無段変速機
(e) 所定のサンプリング時間毎に前記駆動輪と路面との間のトラクション係数と滑り率の時系列データを求めるとともに、この時系列データに基づいて前記トラクション係数を滑り率で微分することによって求めた評価関数が正の数に維持されるように、前記トロイダル型無段変速機の出力トルクの増大を抑制する制御装置
【0009】
上記構成に係る車両では、トラクション係数を滑り率で微分することによって求めた評価関数が正の数に維持されるように、制御装置がトロイダル型無段変速機の出力トルクの増大を抑制するようになっているので、路面状態の変化に伴ってトラクションカーブが変動しても、トラクション係数が最大となる最適な滑り率に基づいて当該無段変速機の出力トルクを制御することができる。
そして、本発明に係る車両においては、変速ローラに対する駆動力の変化のみに対応して必要な出力トルクが得られるトルク制御方式を採用したトロイダル型無段変速機が搭載されており、かかる無段変速機の出力トルクの増大を上記制御装置で抑制するようにしたので、従来のようにエンジンスロットルを閉じ気味にして駆動輪のトルクを抑制する場合に比べて、より簡便かつ迅速に駆動輪のトルクを抑制するトラクション制御を行うことができる。
【0010】
なお、本発明に係る車両において、制御装置に入力するトラクション係数として、変速ローラに対する駆動力を付与する変速シリンダの2つの油室の差圧を用いて算出した推定値を使用することが好ましい。かかる推定値を使用する場合には、本発明の制御方式を実施するに当たって、トラクション係数を検出するための特別なセンサを設ける必要がなくなるので、当該車両の製造コストを低減することができる。
また、前記トロイダル型無段変速機の出力トルクToは、下記(1)の式により求めることができ、前記トラクション係数μは、下記(2)の式により求めることができる。
(1)To={rt×So×cosβ/(1−Rv)}×Pr
ただし、rt:トロイダル型無段変速装置のトロイド半径、So:変速シリンダの断面積、β:変速ローラを支持するキャリッジのキャスタ角、Rv:トロイダル無段変速機の変速比、Pr:変速シリンダの各油室の差圧。
(2)μ=To×Rg/(M×g×rw)
ただし、Rg:ギア比から算出されるトルク比、M:車体質量、g:重力加速度、rw:駆動輪の半径
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて、本発明の好ましい実施の形態を説明する。
図1は、本発明に係る車両の概略構成図を示している。
同図に示すように、本実施形態の車両34は、後輪駆動式の四輪乗用車であって、車体35と、この車体35を駆動するための駆動輪(後輪)36と、この駆動輪36とともに車体35を走行自在に支持する従動輪(前輪)37と、車体35内の前部に搭載された回転動力源としてのエンジン38と、このエンジン38の回転数を変速して駆動輪36に伝達すべく車体35内に搭載されたトランスミッション39と、を備えている。
【0012】
上記トランスミッション39は、エンジン38に直結されたトルクコンバータ40と、このコンバータ40で駆動される無段変速機41とからなり、この無段変速機41の出力は、プロペラシャフト42、デフギア装置43及びアクセルシャフト44を介して、前記駆動輪36に伝動されるようになっている。
本実施形態の車両35には、スロットルバルブの駆動制御、エンジン制御及びトランスミッション制御等を一括して行う電子制御ユニットよりなる制御装置(以下、ECUという。)23が搭載されている。このECU23には、駆動輪36の回転速度を検出する速度センサ45と、従動輪37の回転速度を検出する速度センサ46が接続されており、これらの速度センサ45,46の出力信号は、所定のサンプリング時間でリアルタイムにECU23に取り込まれる。
【0013】
更に、ECU23には、図2に示すように、後述するバリエータ1の入力ディスク3の回転速度ωiを検出するための速度センサ30と、同バリエータ1の出力ディスク12の回転速度ωoを検出するための速度センサ31が接続されており、これらの速度センサ30,31の出力信号も、所定のサンプリング時間でリアルタイムにECU23に取り込まれる。更に、図示していないが、車速センサ、傾斜角センサ、アクセルペダル、ブレーキペダルに対応して設けられた圧力センサ、エンジン回転数センサから、それぞれ、車速、車体の傾斜角、アクセルペダルの踏み込み量、ブレーキペダルの踏み込み圧力、エンジン回転数等の情報が、ECU23に常時入力されている。
【0014】
本実施形態では、トランスミッション39を構成する無段変速機41として、トロイダル型無段変速機の一種であるフルトロイダル型無段変速機が採用されており、図5は、その無段変速機41の主要部を構成するバリエータ1の概略断面図である。
同図に示すように、このバリエータ1は、乗用車等よりなる前記車両34のエンジン38により回転駆動される入力軸2を備えており、その両端近傍にはそれぞれ入力ディスク3が支持されている。各入力ディスク3の一側面には、凹湾曲状の軌道面3bが形成されており、その内周には複数条の溝を切ったスプライン穴3aが形成されている。
【0015】
各入力ディスク3は、入力軸2に形成されたスプライン軸部2aをスプライン穴3aに挿通することにより、入力軸2と一体回転可能に組み付けられている。
右側の入力ディスク3は、入力軸2に一体に設けられた係止つば部2bによって図示の状態から右方への移動が規制されている。また、左側の入力ディスク3の軌道面3bと反対側の背面には、当該背面全体を覆うケーシング4と、ケーシング4の内周に内接したバックアップ板5と、入力軸2に固定されかつ入力ディスク3及びバックアップ板5が軸方向の左方に移動することを規制する係止リング6及び止め輪7と、係止リング6の外周に装着されかつバックアップ板5に予圧を付与するワッシャ8が設けられている。
【0016】
バックアップ板5の外周にはOリング5aが装着されており、ケーシング4の内面と、入力ディスク3の背面と、バックアップ板5とによって囲まれた入力軸2の周りの空間に油室9aが形成されている。この油室9aは、入力軸2の軸線方向に延びる第一油路2cと、その右端部から径方向に延びる第二油路2dとに連通しており、第一油路2cには外部から油圧が供給される。このようにして、ケーシング4及びバックアップ板5を押圧シリンダ9とし、入力ディスク3をピストンとする油圧シリンダ装置が構成されている。
【0017】
入力軸2の軸方向中央部には、バリエータ1の出力部10が入力軸2に対して相対回転自在に支持されている。この出力部10は、出力部材11と、この出力部材11にそれぞれ一体回転可能に支持された一対の出力ディスク12とを備えている。各出力ディスク12の、入力ディスク3の軌道面3bに対向する一側面には、凹湾曲状の軌道面12bが形成されている。また、出力部材11の外周には、動力伝達用のチェーン13と噛み合うスプロケットギア11aが形成されている。
【0018】
入力ディスク3の軌道面3bとこれに対向する出力ディスク12の軌道面12bとの間はトロイド状隙間として構成されており、このトロイド状隙間には、各軌道面3b,12bと圧接して回転する円盤状の変速ローラ14が円周等配に3個(図5では、1個のみ図示)設けられている。従って、変速ローラ14は左右一対のトロイド状隙間に計6個配置されている。各変速ローラ14は、キャリッジ(支持部材)15によって回転軸14a周りに回転自在に支持されているとともに、当該キャリッジ15によって各軌道面3b,12bに対する相対的な接触位置を調整できるようになっている。
【0019】
本実施形態のバリエータ1において、第一油路2cを介して油室9aに端末負荷としての油圧が付与されると、左側の入力ディスク3が右方に付勢され、変速ローラ14を介して左側の出力ディスク12が右方に付勢される。これにより、右側の出力ディスク12から出力部材11を介して、左側の出力ディスク12が右方に付勢される。さらに、右側の出力ディスク12から変速ローラ14を介して右側の入力ディスク3が押圧されるが、この入力ディスク3は係止つば部2bにより止められているため、端末負荷がバリエータ1全体に付与され、左右の各変速ローラ14が両ディスク3,12間に所定の圧力で挟持された状態となる。そして、この状態で入力軸2に動力が付与されると、入力ディスク3から出力ディスク12に対して合計6個の変速ローラ14を介してトルクが伝達されることになる。
【0020】
図2は、上記バリエータ1の油圧制御システムの回路構成図である。
なお、この図2では、説明の簡略化のために一個の変速ローラ14に関する回路構成を示しているが、実際には、各変速ローラ14ごとに変速シリンダ16が設けられている。
同図に示すように、変速ローラ14には、所定のキャスター角βをもって傾斜したキャリッジ15が連結されている。このキャリッジ15には変速シリンダ16が接続されていて、このシリンダ16の各油室16a,16bにそれぞれ供給される油圧P1,P2の差圧Pr(=P1−P2)により、前進又は後退方向に駆動力(以下、リアクション力という。)が付与される。
【0021】
すなわち、バリエータ1の油圧回路には、第一ポンプ17及び第一圧力制御弁18により構成される油圧発生経路と、第二ポンプ20及び第二圧力制御弁21により構成される油圧発生経路が設けられており、第一圧力制御弁18によって制御された油圧は変速シリンダ16の第一油室16aと押圧シリンダ9に供給され、第二圧力制御弁21によって制御された油圧は変速シリンダ16の第二油室16bに供給される。
【0022】
しかして、上記各圧力制御弁18,21は、前記したECU23の指令信号(図1においてPr*として表示)によって作動し、変速シリンダ16の第一及び第二油室16a,16bの圧力を調整して、キャリッジ15に前進又は後退方向のリアクション力を付与するものである。また、第一油室16aに付与される油圧と第二油室16bに付与される油圧は、それぞれ第一及び第二圧力計24,25によってリアルタイムに検出され、それらの検出値P1,P2はいずれもECU23に送られている(図1においてPrとして表示)。
【0023】
また、本実施形態のバリエータ1の油圧回路では、前記第一及び第二ポンプ17,20とは別系統で、潤滑オイル専用の第三ポンプ32とリリーフ弁33により構成される油圧発生回路が設けられており、この第三ポンプ32の吐出側は、オイルクーラ等よりなる冷却装置(通常はオフ)26及び流量調整弁27を経て、各ディスク3,12の近傍に配置されたノズル28に接続され、このノズル28から、各ディスク3,12の軌道面3b,12bに対してトラクションオイルが噴射されるようになっている。両ディスク3,12の間でかつノズル28から噴出されるトラクションオイルがかかる位置には温度センサ29が配置されている。この温度センサ29は噴出されたトラクションオイルの温度を検出して、その出力信号をECU23に送る。
【0024】
従って、本実施形態のバリエータ1では、トラクションオイルの温度toを所定のサンプリング時間で読み込んでその温度toを所定の限界温度と比較し、測定温度toが限界温度を超えた場合に、その超えた度合いに応じて冷却装置26を作動させるように、ECU23によるフィードバック制御が行われており、これによって油温上昇に伴う変速ローラ14のスピンロスを防止している。
上記構成に係るバリエータ1では、キャリッジ15を所定のキャスター角βで傾斜させた状態で各ディスク3,12間に変速ローラ14を介装しているので、車両の運転中において、キャリッジ15のリアクション力と出力ディスク12を駆動するのに必要な出力トルクとの間に力の不均衡が生じると、変速ローラ14及びキャリッジ15は、キャリッジ15の軸線周りに回転軸14aを傾斜させることによりその不均衡を解消しようとする。
【0025】
これにより、変速ローラ14の位置が図1の二点鎖線に示すように変化し、両ディスク3,12間の速度比が連続的に変化する。従って、例えば、リアクション力に抗してキャリッジ15が押し返されるような大きな抵抗力が出力ディスク12に発生すると、変速ローラ14は回転軸14aの傾斜角度を変化させてより大きな出力トルクを発生させ、このようにしてバリエータ1の変速比が結果的に「シフトダウン」されることになる。
【0026】
すなわち、本実施形態のバリエータ1では、変速ローラ14を支持するキャリッジ15のリアクション力(すなわち、変速ローラ14に対する駆動力)の変化のみに対応して瞬時に必要な出力トルクが得られるトルク制御が行われており、その結果として変速比が変化しているものである。このようなトルク及び変速比の変化は、単純に、リアクション力の増減又は外部抵抗(走行抵抗)の変動に対する応答のみで実行され、極めて迅速で効率的であることが確認されている。特に、フルトロイダル型無段変速機では、その構造上、ハーフトロイダル型と比較して、トルク制御の応答性が高い。
なお、図5における左右各3個ずつの変速ローラ14は、左右対称になるように同期して回転軸14aを傾斜させ、それらの傾斜角度は6個のローラすべてについて一致している。
【0027】
次に、図3のフローチャートを参照して、前記ECU23によって行われる車両34のトラクション制御について説明する。
まず、ECU23は、駆動輪36の回転速度ω1、従動輪37の回転速度ω2及び変速シリンダ16の差圧Prをある特定のサンプリング時間Δt(油圧制御サイクルと同じ時間間隔)でリアルタイムに読み込み(ステップS1)、それらの測定値に基づいて、駆動輪36と路面間のトラクション係数μ(t)と滑り率λ(t)を時系列データとして計算する(ステップS2)。
なお、上記サンプリングは、所定時間Δt毎に行うだけでなく、円滑に制御しうる他の適切なタイミングで行うことができる。
【0028】
ここで、上記滑り率λは、駆動輪36及び従動輪37の回転速度ω1,ω2から次の(1)式により算出することができる。
λ=2×(ω1−ω2)/(ω1+ω2) ・・・・(1)
一方、前記したトルク制御を行う本実施形態のバリエータ1においては、トラクション係数μは変速ローラ14に対するリアクション力から間接的に求めることができる。
すなわち、当該バリエータ1では、その出力トルクToと変速ローラ14のリアクション力を発生させる前記変速シリンダ16の差圧Prとは、次の式(3)の関係にある。
【0029】
To={rt×So×cosβ/(1−Rv)}×Pr ・・・・(2)
ただし、
rt:トロイド半径(図5参照)
So:変速シリンダの断面積
β :キャスタ角(図2参照)
Rv:バリエータの変速比(=−ωo/ωi)
ωo:バリエータの出力回転数
ωi:バリエータの入力回転数
【0030】
また、駆動輪36と路面の間のトラクション係数μとバリエータ1の出力トルクToとは、次の式(3)の関係にある。
μ=To×Rg/(M×g×rw) ・・・・(3)
ただし、
Rg:ギア比から算出されるトルク比
M :車体質量
g :重力加速度
rw:駆動輪の半径
【0031】
従って、入力速度センサ30及び出力速度センサ31からの出力ωi,ωoを所定のサンプリング時間Δtでリアルタイムに読み込んで算出した変速比(レシオ)Rvと、同じサンプリング時間ΔtでECU23に読み込まれている油圧P1,P2の差圧Prを、それぞれ上記(2)式に代入して出力ディスク12に発生している出力トルクToを求めるとともに、その出力トルクToを上記(3)式に代入することにより、駆動輪36のトラクション係数μを間接的に求めることができる。
【0032】
ところで、上記トラクション係数μは、タイヤの滑り率λのみで定まる、概ね図4に示すような非線形関数(路面摩擦曲線:トラクションカーブともいう。)となることが知られている。かかるトラクションカーブは路面状態によって変化することから、タイヤの滑り率λも路面状態によって時々刻々と変化するが、仮に、ある路面におけるトラクションカーブ48を想定した場合に、その接線49の傾きが正となる滑り率λの範囲であれば、その滑り率λの増加に伴ってトラクション係数μがピーク値μmaxより下がることはないので、トラクションカーブ48の形状変化に拘わらず、駆動輪36のスピンは発生しないものと判断することができる。
【0033】
そこで、ECU23は、特定のサンプリング時間Δtで求められている駆動輪36のトラクション係数μと滑り率λの時系列データμ(t),λ(t)に基づいて、そのトラクション係数μを滑り率λで微分することによって評価関数∂μ/∂λを逐一計算する(ステップS3)。そして、ECU23は、その評価関数∂μ/∂λが所定の閾値tanθmin(ただし、θminは正の数)を超えているか否かを常に比較し(ステップS4)、超えている場合には、駆動輪36がスピンする恐れがあると判断して、バリエータ1に出力トルクToを減少するように指令を発する(ステップS5)。
【0034】
このように、本実施形態の車両34では、トラクション係数μを滑り率λで微分することによって求めた評価関数∂μ/∂λが正の数に維持されるように、ECU23がトロイダル型無段変速機41の出力トルクToの増大を抑制するようになっているので、路面状態の変化に伴ってトラクションカーブ48が変動しても、トラクション係数μが最大となる最適な滑り率λに基づいて当該無段変速機41の出力トルクToを制御することができる。
【0035】
また、本実施形態の車両34では、変速ローラ14に対する駆動力の変化のみに対応して必要な出力トルクToが得られるトルク制御方式を採用したトロイダル型無段変速機41が搭載されており、かかる無段変速機41の出力トルクToの増大をECU23で抑制するようにしたので、エンジンスロットルを閉じ気味にして駆動輪36のトルクを抑制する場合に比べて、より簡便かつ迅速に駆動輪36のトルクを抑制するトラクション制御を行うことができる。
特にフルトロイダル型では、前述の通りトルク制御の応答性が高いため、本発明に係るトラクション制御を適用することに伴うスピン防止効果が大きいと言える。
【0036】
なお、上記した実施形態はすべて例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって規定され、そこに記載された構成と均等の範囲内のすべての変更も本発明に含まれる。
例えば、上記実施形態では、入出力ディスク3,12の回転数を直接検出する速度センサ30,31の検出値から変速比Rvを求めているが、これに代えて、変速ローラ14の傾斜角α(図5参照)を検出する角度センサを用いて、変速比Rvを演算により間接的に求めることにしてもよい。
【0037】
具体的には、変速比Rv(=−ωi/ωo)は次の式(4)で求めることができるので、この式(4)を用いて変速ローラ14の傾斜角αから変速比Rvを求めることができる。ただし、式(4)において、rtはトロイド半径(図5参照)であり、ruは変速ローラ14の半径である。
ωi/ωo=(rt+ru・sinα)/(rt−ru・sinα) ・・・・(4)
また、本発明は、フルトロイダル型無段変速機だけでなく、ハーフトロイダル型無段変速機にも適用することができる。
【0038】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、路面状態が変化しても常に最適な滑り率で駆動輪に対するトルクを迅速に制御することができるので、加速時におけるホイールスピンをより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る車両の概略構成図である。
【図2】トロイダル型無段変速機の主要部を構成するバリエータの油圧制御システムの回路構成図である。
【図3】ECUで行われるトラクション制御のフローチャートである。
【図4】滑り率とトラクション係数との関係(トラクションカーブ)を示すグラフである。
【図5】バリエータの概略断面図である。
【符号の説明】
14 変速ローラ
23 制御装置(ECU)
34 車両
35 車体
36 駆動輪
37 従動輪
37 エンジン(回転動力源)
41 無段変速機

Claims (2)

  1. 車体と、
    この車体を駆動するための駆動輪と、
    前記車体の内部に搭載された回転動力源と、
    この回転動力源の回転数を変速して前記駆動輪に伝達すべく前記車体内に搭載され、かつ、変速ローラに対する駆動力の変化のみに対応して必要な出力トルクが得られるトルク制御方式を採用したトロイダル型無段変速機と、
    所定のサンプリングタイミングで前記駆動輪と路面との間のトラクション係数と滑り率の時系列データを求めるとともに、この時系列データに基づいて前記トラクション係数を滑り率で微分することによって求めた評価関数が正の数に維持されるように、前記トロイダル型無段変速機の出力トルクの増大を抑制する制御装置と、
    を備え
    前記制御装置に入力する前記トラクション係数として、前記変速ローラに対する駆動力を付与する変速シリンダの2つの油室の差圧を用いて算出した推定値が使用されていることを特徴とするトロイダル型無段変速機を有する車両。
  2. 前記トロイダル型無段変速機の出力トルクToを下記(1)の式により求め、前記トラクション係数μを下記(2)の式により求めることを特徴とする請求項1記載のトロイダル型無段変速機を有する車両。
    (1)To={rt×So×cosβ/(1−Rv)}×Pr
    ただし、rt:トロイダル型無段変速装置のトロイド半径、So:変速シリンダの断面積、β:変速ローラを支持するキャリッジのキャスタ角、Rv:トロイダル無段変速機の変速比、Pr:変速シリンダの各油室の差圧
    (2)μ=To×Rg/(M×g×rw)
    ただし、Rg:ギア比から算出されるトルク比、M:車体質量、g:重力加速度、rw:駆動輪の半径
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