JP4001789B2 - 二次電池用樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、成形して密閉型二次電池電槽(電池を構成する電極、電解液、セパレーター等を収納するための容器であり、出来上がった電池を収納するための容器ではない)として利用され、耐水素透過性に優れた密閉型二次電池電槽用樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ニッケル−水素電池などで知られている密閉型二次電池電槽は、自動車等の車両を筆頭に、各種電気製品、産業機器の動力源として幅広く使われ、近年その需要が大きくなってきている。
この需要とともに、電池本体の性能も向上し、電池電槽自体の小型軽量化と電気容量のアップが進み、電槽自体もデザインの多様化、薄肉軽量化などの形状的な変化に耐えうる樹脂材料への転換が要求され、さらには電池性能を向上させるために機械的強度、耐水素透過性、耐熱性に優れた樹脂材料が要求されている。
【0003】
従来、この二次電池電槽用樹脂としては、例えば、ABS樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂が成形性、耐熱性の観点から用いられていたが、これら樹脂類は耐水素透過性に劣る欠点があり、電池性能の低下がおこるという致命的な問題点を残していた。
また、これらABS樹脂や変性ポリフェニレンエーテル樹脂は耐薬品性に劣り、自動車オイルなどの薬品に対して耐性に劣るため自動車用途の二次電池電槽においては長期使用できない欠点を有していた。
【0004】
これら問題点を解消すべく、結晶性ポリオレフィン樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂を含む樹脂組成物からなる密閉型二次電池電槽が特開平8−195188号公報で提案され、特開平9−120801号公報にはポリフェニレンエーテル樹脂とポリオレフィン樹脂からなるポリマーアロイを用いた密閉型二次電池電池電槽が提案され、さらに再公表特許WO97/01600号公報には、結晶性ポリオレフィン樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂からなり、該ポリフェニレンエーテル樹脂が結晶性ポリプロピレン樹脂中に特定の形態で分散した樹脂組成物が耐熱クリープ性、耐水蒸気透過性に優れるため密閉型二次電池電槽として利用できることが提案され、さらに特開2000−58007号公報、特開2002−60562号公報および特開2002−63873号公報には、ポリフェニレンエーテル系樹脂と特定の構造の結晶性ポリプロピレンからなる樹脂組成物が密閉型二次電池用電槽として利用できることが提案されている。
【0005】
しかしながら、これら樹脂組成物で得られる密閉型二次電池電槽は、耐水蒸気透過性に関しては優れたものの、耐水素透過性を高いレベルで維持するのが困難であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の解決課題は、密閉型二次電池電槽材料として、ポリプロピレン系樹脂組成物、さらに耐熱クリープ性に優れたポリマーアロイであるポリプロピレン/ポリフェニレンエーテルで構成される樹脂組成物において、その用途である密閉型二次電池電槽材料として成形部のウェルド強度低下を軽減し、さらには電池性能に関して重要な因子である耐水素透過性を改良して長期間にわたる水素漏れを減らし、電池寿命を長くさせることが可能となる材料を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決すべく、マトリックスがポリプロピレンであり、分散相が水添ブロック共重合体または分散相がポリフェニレンエーテル系樹脂を示す樹脂組成物を鋭意検討した結果、マトリックスの結晶性ポリプロピレンに対して、分散相が水添ブロック共重合体または分散相成分のポリフェニレンエーテル樹脂と混和剤である水添ブロック共重合体からなる主たる樹脂成分の他に、特定の樹脂成分を含むことにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち本発明は、
マトリックスがポリプロピレン系樹脂からなる密閉型二次電池電槽用樹脂組成物において、(a)ポリプロピレン系樹脂100〜70重量部、(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂0〜30重量部からなる(a)+(b)合計量100重量部に対して、(c)ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体1〜20重量部、さらに(a)+(b)+(c)で構成される樹脂成分100重量部に対して、(d)エチレン−ビニルアルコール共重合体0.2〜10重量部を含むことを特徴とする密閉型二次電池電槽用樹脂組成物である。
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いる(a)ポリプロピレン系樹脂は、結晶性プロピレンホモポリマーおよび、重合の第一工程で得られる結晶性プロピレンホモポリマー部分と重合の第二工程以降でプロピレン、エチレンおよび/もしくは少なくとも1つの他のα−オレフィン(例えば、ブテン−1、ヘキセン−1等)を共重合して得られるプロピレン−エチレンランダム共重合体部分を有する結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体であり、さらにこれら結晶性プロピレンホモポリマーと結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体の混合物であってもかまわない。
【0010】
該ポリプロピレン系樹脂は、通常、三塩化チタン触媒または塩化マグネシウムなどの担体に担持したハロゲン化チタン触媒等とアルキルアルミニウム化合物の存在下に、重合温度0〜100℃の範囲で、重合圧力3〜100気圧の範囲で重合して得られる。この際、重合体の分子量を調整するために水素等の連鎖移動剤を添加することも可能であり、また重合方法としてバッチ式、連続式いずれの方法でも可能で、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の溶媒下での溶液重合、スラリー重合等の方法も選択でき、さらには無溶媒下モノマー中での塊状重合、ガス状モノマー中での気相重合方法などが適用できる。
【0011】
また、上記した重合触媒の他に得られるポリプロピレンのアイソタクティシティおよび重合活性を高めるため、第三成分として電子供与性化合物を内部ドナー成分または外部ドナー成分として用いることができる。これらの電子供与性化合物としては公知のものが使用でき、例えば、ε−カプロラクトン、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル、トルイル酸メチルなどのエステル化合物、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリブチルなどの亜リン酸エステル、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどのリン酸誘導体などや、アルコキシエステル化合物、芳香族モノカルボン酸エステルおよび/または芳香族アルキルアルコキシシラン、脂肪族炭化水素アルコキシシラン、各種エーテル化合物、各種アルコール類および/または各種フェノール類などが挙げられる。
【0012】
本発明で供するポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン重合体部分の密度は、通常、0.900g/cm3以上であり、ガスバリア性、耐熱クリープ性の観点より、好ましくは0.905〜0.935g/cm3であり、より好ましくは、0.905〜0.925g/cm3であり、最も好ましくは、0.905〜0.915g/cm3である。プロピレン重合体部分の密度の測定方法は、JISK−7112水中置換法によって、容易に求めることができる。またポリプロピレン系樹脂がプロピレンを主成分としたα−オレフィンとの共重合体である場合は、かかる共重合体をヘキサン等の溶媒を用いて共重合成分を抽出し、残ったプロピレン重合体部分の密度を上記のJIS K−7112水中置換法によって、容易に求めることができる。また、樹脂組成物中のプロピレン重合体部分の密度を知るには、熱キシレンにより組成物全体を溶解し、室温まで冷却し、残渣として残った樹脂組成物をクロロホルム等のポリフェニレンエーテルや、水添ブロック共重合体の良溶媒を用いて抽出し、残ったポリプロピレン系樹脂から、上記の分離方法によりプロピレン重合体部分を分離し、JIS K−7112水中置換法よって求めることができる。
【0013】
また本発明においては、公知となっている結晶核剤を添加し、かかるポリプロピレン系樹脂の密度を高くする事も有効である。結晶核剤としてはポリプロピレン系樹脂の結晶性を向上させるものなら何でも良いが、代表的なものを挙げると、芳香族カルボン酸の金属塩、ソルビトール系誘導体、有機リン酸塩、芳香族アミド化合物等の有機系核剤や、タルク等の無機系核剤を挙げることができる。しかしながら、これらに限定されるものではない。
さらに本発明で供するポリプロピレン系樹脂は、そのMFR(JIS K−6758に準拠)が0.1g/10分以上であり、耐熱クリープ性の観点から、好ましくは0.1〜12g/10分であり、好ましくは0.2〜10g/10分、更に好ましくは0.3〜10g/10分である。
【0014】
なお、本発明で用いる(a)ポリプロピレン系樹脂は、上記したポリプロピレンの特徴の他に、該ポリプロピレン系樹脂とα,β−不飽和カルボン酸またはその誘導体(酸無水物やエステルも含む)とをラジカル発生剤の存在下、非存在下で溶融状態、溶液状態、スラリー状態で室温(23℃)〜300℃の温度下で反応させることによって得られる公知の変性(該α,β−不飽和カルボン酸またはその誘導体が0.01〜10重量%グラフトまたは付加)ポリプロピレン系樹脂であってもよく、さらに上記したポリプロピレン系樹脂と該変性ポリプロピレン系樹脂との任意の割合の混合物であってもかまわない。
【0015】
次に、(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂について詳細に説明する。
本発明で用いられる(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂(以下PPEと略)は、一般式(1)
【0016】
【化1】
【0017】
(ここで、R1,R2,R3及びR4はそれぞれ、水素、ハロゲン、炭素数1〜7までの第一級または第二級低級アルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基または少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群から選択されるものであり、互いに同一であっても異なっていてもよい)
からなり、還元粘度(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)が、0.05〜2.0の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜1.0の範囲にあるホモ重合体及び/または共重合体である。
【0018】
このPPEの具体的な例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、さらに2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体のごときポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。中でもポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、さらにポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。
【0019】
本発明で用いるPPEの製造方法は公知の方法で得られるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、米国特許第3306874号明細書記載のHayによる第一塩化銅とアミンのコンプレックスを触媒として用い、例えば2,6−ジメチルフェノールを酸化重合することにより容易に製造でき、そのほかにも米国特許第3306875号明細書、同第3257357号明細書及び同第3257358号明細書、特公昭52−17880号公報及び特開昭50−51197号公報及び同63−152628号公報等に記載された方法で容易に製造できる。
【0020】
また、本発明で用いるPPEは、上記したPPEのほかに、該PPEとスチレン系モノマーおよび/もしくはα,β−不飽和カルボン酸及びその誘導体(酸無水物やエステルも含む)とをラジカル発生剤の存在下、非存在下で溶融状態、溶液状態、スラリー状態で室温(23℃)〜350℃の温度下で反応させることによって得られる公知の変性(該スチレン系モノマー及び/もしくはα,β−不飽和カルボン酸及びその誘導体が0.01〜10重量%グラフトまたは付加)PPEであってもよく、さらに上記したPPEと該変性PPEの任意の割合の混合物であっても構わない。
また、本発明で用いるPPEは上記したPPEのほかに、これらPPE100重量部に対してポリスチレン(シンジオタクチックポリスチレンも含む)または、ハイインパクトポリスチレンを400重量部を越えない範囲で加えたものも好適に用いることができる。
【0021】
また、本発明に使用されるポリフェニレンエ−テルは、重合溶媒に起因する有機溶剤が、ポリフェニレンエ−テル100重量部に対して5重量%未満の量で残存していても構わない。ここでいう重合溶媒に起因する有機溶媒としては、トルエン、キシレンの各異性体、エチルベンゼン、炭素数1〜5のアルコール類、クロロホルム、ジクロルメタン、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン等の1種以上が挙げられる。
【0022】
またさらに、ポリフェニレンエーテルを重合する際に触媒成分の一部として使用されるアミン化合物に起因するアミノ型窒素の全窒素をポリフェニレンエーテル中に50ppm以上含んでいても構わない。
本発明の(a)ポリプロピレン系樹脂成分及び(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂成分の配合比率は、(a)/(b)=100〜70重量部/0〜30重量部であり、効果の一つである耐水素透過性の観点から(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂は必須としないが、用途である密閉型二次電池電槽材料として長期間使用する上で重要な耐熱性クリープ性(充放電時における環境温度による材料への応力集中に相当)の観点から(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂が必須成分であり、好ましい配合比率は、(a)/(b)=99〜70重量部/1〜30重量部、さらに好ましくは5/95〜20/80(重量部)の範囲である。
【0023】
次に(c)成分について詳細に説明する。
本発明で用いる(c)ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体(以下、水添ブロック共重合体と略記する)は、得られる樹脂組成物に衝撃強度を付与する上で必須であり、かつ(a)ポリプロピレン系樹脂と(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂を溶融混合した際に、(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂を(a)ポリプロピレン系樹脂中に好適に分散させる能力を有する水添ブロック共重合体である。これらの水添ブロック共重合体の構造は、例えば、A−B−A、A−B−A−B、(A−B−)4−Si、A−B−A−B−A等の構造を有するブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体である。ここで、Aはビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックを意味し、Bは共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックを意味する。
【0024】
なお、かかる水添ブロック共重合体とは上記構造を有するブロック共重合体中の共役ジエン化合物に由来するオレフィン性不飽和結合を55%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下まで水素添加反応により低減化したブロック共重合体である。
また、これらのビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックA、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは、それぞれの重合体ブロックにおける分子鎖中の共役ジエン化合物またはビニル芳香族化合物の分布がランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加または減少するもの)、一部ブロック状またはこれらの任意の組み合わせでもよく、該ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックは2個以上、該共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックは1個以上であり、各重合体ブロックはそれぞれ同一構造であってもよく、異なる構造であってもよい。
【0025】
このブロック共重合体を構成するビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等のうちから1種または2種以上が選択でき、特にスチレンが好ましい。そして、(c)成分として供する水添ブロック共重合体のビニル芳香族化合物の含有量は通常15〜80重量%の中から好適に選ぶことが可能である。
【0026】
一方、このブロック共重合体を構成する共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等のうちから1種または2種以上が選ばれ、特にブタジエン、イソプレンおよびこれらの組み合わせが好ましい。
また、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックは、そのブロックにおけるミクロ構造を任意に選ぶことができ、例えば、ブタジエンを主体とする重合体ブロックにおいては、1,2ービニル結合が2〜85%、好ましくは10〜85%、さらに好ましくは35〜85%である。また、イソプレンを主体とする重合体ブロックにおいては、1,2ービニル結合と3,4ービニル結合の合計量が2〜85%、好ましくは3〜85%、さらに好ましくは40〜85%である。
【0027】
これらの(c)水添ブロック共重合体は、上記した構造を有するものであればどのような製造方法で得られるものであってもかまわない。
また、本発明で用いる(c)水添ブロック共重合体は、上記した水添ブロック共重合体のほかに、該水添ブロック共重合体とα,β−不飽和カルボン酸またはその誘導体(酸無水物やエステルも含む)とをラジカル発生剤の存在下、非存在下で溶融状態、溶液状態、スラリー状態で室温(23℃)〜350℃の温度下で反応させることによって得られる公知の変性(該α,β−不飽和カルボン酸またはその誘導体が0.01〜10重量%グラフトまたは付加)水添ブロック共重合体であってもよく、さらに上記した水添ブロック共重合体と該変性水添ブロック共重合体の任意の割合の混合物であってもかまわない。
【0028】
(c)水添ブロック共重合体の好ましい配合量は、本発明の樹脂組成物のマトリックスを形成する上記(a)成分のポリプロピレン系樹脂と分散相を形成する(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100重量部に対して、1〜20重量部、好ましくは2〜15重量部、より好ましくは3〜12重量部である。
【0029】
次に、本発明の(d)成分として用いるエチレン−ビニルアルコール共重合体とは、エチレン含有率20〜65モル%、好ましくは25〜60モル%、ビニルエステル成分のケン化度90モル%以上、好ましくは95モル%以上であるエチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物ある。なお、エチレン−ビニルアルコール共重合体のケン化前のエチレン−ビニルエステル共重合体に用いられるビニルエステル成分としては、一般に経済性の観点より酢酸ビニルが多く用いられているが、これに限定されるものでもなく、また、エチレン、ビニルエステル以外のコモノマー成分、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィンを共重合成分として本発明の目的を阻害しない範囲で使用することができる。
【0030】
本発明で使用する(d)成分のエチレン−ビニルアルコール共重合体は、上記した範囲内でエチレン含有率やケン化度や、融点、重合度の異なる2種以上を用いてもかまわない。また、本発明に用いる(d)成分のエチレン−ビニルアルコール共重合体のメルトフローレート(MFR:JIS K7210に基づき、190℃又は210℃、21.2N)は0.1〜100g/10分、より好ましくは0.5〜50g/10分である。
本発明で使用する(d)成分のエチレン−ビニルアルコール共重合体は、上記した(a)〜(c)成分よりなる樹脂組成物100重量部に対して、0.2〜10重量部、好ましくは0.3〜5重量部、より好ましくは0.5〜3重量部である。
【0031】
さらに本発明で供する(e)鱗片状フィラーとは、平均厚みが0.01〜50μmであり、この厚みに対してアスペクト比(アスペクト比=平均粒径/平均厚み)が3〜10000である鱗片状の無機質フィラーである。この鱗片状フィラーとしては、例えば、フレーク状ガラス(Eガラス、Cガラス、Sガラス等)、マイカ、板状硫酸バリウム、鱗片状タルク、鱗片状グラファイト、鱗片状シリカ、六方晶窒化ホウ素などが挙げられ、中でも、フレーク状ガラス、板状硫酸バリウム、鱗片状タルク、鱗片グラファイトが好ましく、さらに好ましくは耐アルカリ性の観点で板状硫酸バリウム、鱗片状グラファイト、鱗片状タルクである。
【0032】
なお、フレーク状ガラスにおいては耐アルカリ性の改良の観点より、銅、銀、ニッケル、クロム、もしくはコバルトまたはこれら金属を主成分とする合金により0.01〜5μmの厚みで被覆された鱗片状フィラーを用いても構わない。また、これらの鱗片状フィラーは通常1種以上が使用される。
本発明で使用する(e)成分の鱗片状フィラーは、上記した(a)〜(c)成分よりなる樹脂組成物100重量部に対して、1〜50重量部、より好ましくは3〜30重量部である。
【0033】
本発明では、上記成分の他に、本発明の特徴および効果を損なわない範囲で必要に応じて他の付加的成分、例えば、酸化防止剤、金属不活性化剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、無機リン系化合物、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤など)、フッ素系ポリマー、可塑剤(オイル、低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候(光)性改良剤、スリップ剤、無機または有機の充填材や強化材(ただし、鱗片状フィラーを除外したガラス繊維、カーボン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ウィスカー、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、ワラストナイト、導電性金属繊維、導電性カーボンブラック等)、各種着色剤、離型剤等を添加してもかまわない。
【0034】
本発明の樹脂組成物の製造方法例は、次ぎのようである。上記した各成分を用いて、(a)ポリプロピレン系樹脂、(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂、(c)水添ブロック共重合体、(d)エチレン−ビニルアルコール共重合体および(e)鱗片状フィラーを一緒に溶融混練する方法や、(a)ポリプロピレン系樹脂、(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂、(c)水添ブロック共重合体および(d)エチレン−ビニルアルコール共重合体を前もって溶融混練した組成物を(e)鱗片状無機フィラーと一緒に溶融混練する方法。
【0035】
また、押出機の最初のフィード口より(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(c)水添ブロック共重合体とを供給し、溶融状態のこれらの組成物中に押出機の中間口より(a)ポリプロピレン系樹脂、(d)エチレン−ビニルアルコール共重合体および(e)鱗片状フィラーを供給し溶融混練する方法。押出機の最初のフィード口より(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(a)ポリプロピレン系樹脂の一部を供給し、溶融状態のこれらの組成物中に押出機の中間口より(c)水添ブロック共重合体と残りの(a)ポリプロピレン系樹脂、(d)エチレン−ビニルアルコール共重合体および(e)鱗片状フィラーを供給し溶融混練する方法。押出機の最初のフィード口より(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(a)ポリプロピレン系樹脂の一部および(c)水添ブロック共重合体を供給し、溶融状態のこれらの組成物中に押出機の中間口より残りの(a)ポリプロピレン系樹脂と(d)エチレン−ビニルアルコール共重合体および(e)鱗片状フィラーを供給し溶融混練する方法などである。
【0036】
さらにまた、押出機の最初のフィード口より(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(c)水添ブロック共重合体の一部と(d)エチレン−ビニルアルコール共重合体を供給し、溶融状態のこれらの組成物中に押出機の中間口より(a)ポリプロピレン系樹脂と残りの(c)水添ブロック共重合体および(e)鱗片状フィラーを供給し溶融混練する方法などの種々の方法が挙げられる。
【0037】
これらの方法として例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等による加熱溶融混練方法が挙げられるが、二軸押出機を用いた溶融混練方法が最も好ましい。この際の溶融混練温度は特に限定されるものではないが、通常200〜380℃の中から任意に選ぶことができる。なお、この二軸押出機による製造方法における他の押出条件である吐出量(押出量)、押出機内の滞留時間、押出機スクリューの回転数等は、得られる樹脂組成物の機械的物性、加工性、モルフォロジーの観点から好適な条件を選び出すことは当然である。
【0038】
本発明の密閉型二次電池電槽用樹脂組成物は、二次電池電槽材料、中でも密閉型二次電池用電槽、特にニッケル水素電池電槽に好適に使用できる。成形方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、射出成形、中空成形、押出成形、シート成形、熱成形、回転成形、積層成形、インモールド成型等の成形方法が使用できる。
電槽が2つ以上の部品からなる場合は、これら部品を接着、熱溶着、振動溶着などにより接合する。接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂接着剤等が挙げられ、エポキシ樹脂接着剤としては、エポキシ構造を主骨格とする樹脂からなる接着剤であり、主剤と硬化剤からなる二液型が好ましい。
【0039】
【発明の実施の形態】
以下、実施例によって、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
なお、使用した原料は下記の通りである。
(a)ポリプロピレン系樹脂
(a−1)密度=0.906g/cm3、メルトフローレート(230℃,21.2N荷重:以下MFRと略)=0.6g/10分、分子量分布(Mw/Mn)=11.7のポリプロピレン樹脂
(a−2)密度=0.909g/cm3、MFR=32g/10分、分子量分布(Mw/Mn)=5.6のポリプロピレン樹脂
(a−3)密度=0.910g/cm3、MFR=11g/10分、分子量分布(Mw/Mn)=11.9のポリプロピレン樹脂
(a−4)密度=0.904g/cm3、MFR=10.9g/10分、分子量分布(Mw/Mn)=6.1のポリプロピレン樹脂
【0040】
(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂
2、6−キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度0.42のポリフェニレンエーテル。
【0041】
(c)水添ブロック共重合体
(c−1)ポリスチレン−水素添加されたポリブタジエン−ポリスチレンの構造を持ち、結合スチレン量が47%、ポリブタジエン部分の1,2−ビニル結合量が76重量%、ポリスチレン鎖の数平均分子量が19000、ポリブタジエン部の水素添加率が99.8%の水添ブロック共重合体。
(c−2)ポリスチレン−水素添加されたポリイソプレン−ポリスチレンの構造を持ち、結合スチレン量が48重量%、ポリイソプレン部分のビニル結合量が53%、ポリスチレン鎖の数平均分子量が21000、ポリイソプレン部の水素添加率が86.4%の水添ブロック共重合体。
(c−3)(株)クラレ製の商標セプトン2104:ポリスチレン−水素添加されたポリイソプレン−ポリスチレンの構造を有し、結合スチレン量65重量%の水添ブロック共重合体。
【0042】
(d)エチレン−ビニルアルコール共重合体
(d−1)エチレン共重合比率が26%、融点192℃、210℃におけるMFRが、3.7のエチレン−ビニルアルコール共重合体。
(d−2)エチレン共重合比率が34%、融点181℃、190℃におけるMFRが、4.7のエチレン−ビニルアルコール共重合体。
(d−3)エチレン共重合比率が45%、融点163℃、190℃におけるMFRが、5.8のエチレン−ビニルアルコール共重合体。
【0043】
(e)鱗片状フィラー
(e−1)100〜200μmが75重量%、200μm超が25重量%である燐状グラファイト。
(e−2)粒度範囲が1〜50μmで、平均粒径が10μmの燐状グラファイト。
(e−3)粒度範囲が10〜300μmで平均粒径が120μmのタルク。
(e−4)平均粒子径が10μmの板状硫酸バリウム。
なお、物性の評価は次の通りに行った。
【0044】
(1)ウェルド物性
ウェルド部を作ることが可能な金型を用いて、引張試験用テストピース(中央部にウェルド部を持つASTM Type Iのダンベル片;厚さ1/8インチ)を射出成形し、23℃において引張試験(ASTM D-638)を行い、ウェルド強度保持率(ウェルド部があるテストピースの引張強度÷ウェルド部がないテストピースの引張強度×100%)を求めた。
【0045】
(2)耐水素透過性
試験片は1mm厚みのシートを使用し、JIS K7126に記載されているA法(差圧法)に準拠し、40℃、絶乾状態で測定し水素透過率を求めた。
水素透過率が小さい値ほど耐水素透過性に優れることを意味する。
【0046】
【実施例1〜9および比較例1〜8】
ポリプロピレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、水添ブロック共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体および鱗片状フィラーを表1に示した組成で配合し、260〜310℃に設定したベントポート付き二軸押出機(ZSK−40;WERNER&PFLEIDERER社製、ドイツ国)を用いて溶融混練しペレットとして得た。このペレットを用いて240〜250℃に設定したスクリューインライン型射出成形機に供給し、金型温度60℃の条件で引張試験用テストピース、クリープ試験用テストピースを射出成形した。また水素透過性に用いる厚さ1mmのテストピースは、260℃に設定した熱プレスにて成形した。
これらのテストピースの物性を測定し、その結果を併せて表1に記載した。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【発明の効果】
本発明の密閉型二次電池電槽用樹脂組成物は、従来の耐クリープ性や耐水蒸気透過性に優れる樹脂組成物では達成できなかった特性である耐水素透過性及びウェルド物性においても優れるという効果を有するため、電池性能の高い密閉型二次電池電槽用として極めて有用である。
Claims (6)
- マトリックスがポリプロピレンからなる密閉型二次電池電槽用樹脂組成物において、(a)ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、(c)ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体 1〜20重量部、さらに(a)+(c)で構成される樹脂成分100重量部に対して、(d)エチレン−ビニルアルコール共重合体0.2〜10重量部を含むことを特徴とする密閉型二次電池電槽用樹脂組成物。
- マトリックスがポリプロピレンからなる密閉型二次電池電槽用樹脂組成物において、(a)ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、(c)ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体1〜20重量部、さらに(a)+(c)で構成される樹脂成分100重量部に対して、(d)エチレン−ビニルアルコール共重合体0.2〜10重量部および(e)鱗片状フィラー1〜50重量部を含むことを特徴とする密閉型二次電池電槽用樹脂組成物。
- マトリックスがポリプロピレンからなる密閉型二次電池電槽用樹脂組成物において、(a)ポリプロピレン系樹脂99〜70重量部、(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂1〜30重量部からなる(a)+(b)合計量100重量部に対して、(c)ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体1〜20重量部、さらに(a)+(b)+(c)で構成される樹脂成分100重量部に対して、(d)エチレン−ビニルアルコール共重合体0.2〜10重量部を含むことを特徴とする密閉型二次電池電槽用樹脂組成物。
- マトリックスがポリプロピレンからなる密閉型二次電池電槽用樹脂組成物において、(a)ポリプロピレン系樹脂99〜70重量部、(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂1〜30重量部からなる(a)+(b)合計量100重量部に対して、(c)ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体1〜20重量部、さらに(a)+(b)+(c)で構成される樹脂成分100重量部に対して、(d)エチレン−ビニルアルコール共重合体0.2〜10重量部および(e)鱗片状フィラー1〜50重量部を含むことを特徴とする密閉型二次電池電槽用樹脂組成物。
- (d)エチレン−ビニルアルコール共重合体が、エチレン含有率20〜65モル%、ビニルエステル成分のケン化度90モル%以上のエチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物である請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の密閉型二次電池電槽用樹脂組成物。
- (e)鱗片状フィラーが、フレーク状ガラス、マイカ、鱗片状タルク、鱗片状グラファイト、鱗片状シリカ、六方晶窒化ホウ素からなる群から選ばれる1種以上である請求項2または4記載の密閉型二次電池電槽用樹脂組成物。
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