JP4000066B2 - Al合金コート石英系光ファイバの製造方法及びAl合金コート石英系光ファイバ - Google Patents
Al合金コート石英系光ファイバの製造方法及びAl合金コート石英系光ファイバ Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はAl合金コート石英系光ファイバの製造方法およびAl合金コート石英系光ファイバに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、石英(シリカガラス)系裸光ファイバの耐熱性、半田付け性等を向上させる目的で、石英(シリカガラス)系裸光ファイバの外周をAl層で被覆することが行われている。
【0003】
また、紫外線伝送用光ファイバにおいて、紫外線伝送による石英ガラスの劣化、損傷で起こる透過率等の光学特性の劣化を抑制する目的で、石英系裸光ファイバに高圧水素処理により水素をドープすることが知られており(例えば、特許文献1参照)、また、このような紫外線伝送用光ファイバにおけるドープした水素の光ファイバの外部への抜け出しを防止するために、石英系裸光ファイバの外周をAl層で被覆することも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
裸光ファイバの外周にAl層を形成する方法としては、Alを蒸着する方法や、溶融Alを光ファイバの外周に被覆し、凝固させる方法等があるが、設備の簡易さ、長尺物への適用性等の点から、光ファイバの外周に溶融Alを被覆、凝固させる方法が有利である。この溶融Alを被覆、凝固させる方法は、溶融Alが充填されたダイス中に光ファイバ母材から線引した石英系裸光ファイバを通過させることによって行われる。すなわち、裸光ファイバがダイス(溶融Al)を通過することで、裸光ファイバの外周に溶融Alが凝固し、被覆されボビン等に巻き取られる。当該方法では、通常、温度測定手段及び加熱手段が付設された溶融Alの収容槽がダイスに連結されていて、該収容槽で所定の温度範囲に保持された溶融Alがダイスに供給されることによって、裸光ファイバへの被覆で減少したダイス中の溶融Alが補給されるようになっている。なお、溶融Alが被覆されるダイスでは溶融Alを670〜800℃程度に保持している。すなわち、ダイス温度が、670℃より低い場合、ダイス出口でAlが凝固し、線引きできなくなるため、温度は670℃以上が好ましい。しかし、余り高温にすると脆弱な酸化アルミニウムの反応相が裸光ファイバの表面に形成されるので、800℃を超えないようにしている。しかし、Alコート石英系光ファイバの製造工程において、ダイス中の溶融Alの量の変動等によるダイス中の溶融Alの温度変動は避けることができず、酸化アルミニウムの生成を抑制しながらのAlの被覆作業(ファイバの線引き作業)を長期に亘って安定実施できなくなることがある。
【0005】
【特許文献1】
特開平6−56457号公報
【特許文献2】
特開平9−309742号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、Alコート石英系光ファイバの代替となる石英系光ファイバを高留まりに製造できる方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、Alコート石英系光ファイバの代替となり、しかも、Alコート石英系光ファイバよりも性能向上を図れる石英系光ファイバを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、以下の特徴からなる本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1)石英系裸光ファイバの外周に、液相線温度が660℃より低いAl共晶系合金の溶融物を被覆、凝固させることを特徴とするAl合金コート石英系光ファイバの製造方法、
(2)上記(1)に記載の方法で製造された、Al合金コート石英系光ファイバ、
(3)Al共晶系合金がAl−Si系合金である、上記(2)記載のAl合金コート石英系光ファイバ、及び
(4)紫外線伝送用である、上記(2)または(3)記載のAl合金コート石英系光ファイバ、に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明おいて、「液相線温度が660℃より低いAl共晶系合金」とは、Alと、Alに対して共晶系で表される元素との合金(Al合金)であって、その液相線温度が純Alの融点よりも低くなる組成の合金を意味する。すなわち、純Alの融点は660℃であり、本発明は、Al共晶系合金のなかでも、その液相線温度(融点)が純Alの融点よりも低くなる合金組成のAl共晶系合金を使用することが特徴である。
【0009】
本発明の実施には、従来のAlコート石英系ファイバの製造装置(設備)をそのまま利用できる。すなわち、溶融Alの代わりに、その液相線温度が660℃より低いAl共晶系合金の溶融物を使用する以外、基本的に同じ設備を使用し、石英系裸光ファイバをAl共晶系合金の溶融物中に通過させることで、Al合金コート石英系光ファイバを製造することができる。
【0010】
図1は、その実施に使用する製造装置(設備)の一例を示している。該装置は、光ファイバ母材1を加熱溶融する加熱手段11と、Al共晶系合金の溶融物3が充填され、かつ、該充填されたAl共晶系合金の溶融物3中を光ファイバが通過し得るよう構成されたダイス4とを備えており、光ファイバ母材1から線引した裸光ファイバ2がダイス4に収容されたAl共晶系合金の溶融物3中を通過することによって、石英系裸光ファイバの外周がAl共晶系合金の溶融物で被覆され、その後、図示しないボビンに石英系光ファイバが巻き取られるまでに、Al共晶系合金の溶融物が凝固して、Al合金コート石英系光ファイバ7が連続的に製造される。なお、ダイス4へは、収容槽(図示せず)で所定温度に保持されたAl共晶系合金の溶融物3が配管(図示せず)を通して供給されるようになっており、収容槽には、温度測定手段と該温度測定手段の測定温度に応じて加熱量が制御される加熱手段とが付設されていて、ダイスへ供給するAl共晶系合金を所定温度に保持している。また、ダイス4には供給されたAl共晶系合金の溶融物のダイス内での温度を一定に保つための加熱手段12が付設されている。このような、石英系光ファイバ母材を加熱線引きして得られる石英系裸光ファイバに対してAl共晶系合金の溶融物を被覆(凝固)させる設備を使用することで、効率良くAl合金コート石英系光ファイバを製造することができる。
【0011】
本発明では、その液相線温度(融点)が660℃より低いAl共晶系合金を使用するので、その溶融物の保持温度を従来の溶融Alの保持温度(670〜800℃)よりも低い温度に設定できる。従って、ダイス中の溶融物の量の変動等により溶融物の予期せぬ温度変動が生じて、設定温度よりも高温になっても、酸化アルミニウムの反応相を生成するような高温となることを防止できる。また、溶融物の温度が低温になっても固液共存域が存在するため流動性の低下が小さく(流動性が維持されて)、ダイス出口で凝固して線引き作業ができなくなるという不具合も生じにくい。
【0012】
本発明において、Al共晶系合金の溶融物の保持温度(収容槽での保持温度)は、各共晶系(すなわち、Alに対して共晶系で表される元素の種類)によっても異なるが、酸化アルミニウム(反応相)の生成をより確実に防止し、かつ、ダイス出口での溶融物の凝固を避けるために、Al共晶系合金の液相線温度(融点)より20〜120℃高い温度とするのが好ましく、Al共晶系合金の液相線温度(融点)より40〜90℃高い温度とするのがより好ましい。
【0013】
本発明で使用するAl共晶系合金としては、その液相線温度が660℃より低いAl共晶系合金であれば特に制限なく使用できるが、例えば、Al−Si系合金が挙げられる。なお、液相線温度が低すぎると、石英系裸光ファイバへの耐熱性付与という効果が充分に得られず、この点でAlコート系石英系光ファイバの代替という目的を果たせなくなるので、Al共晶系合金の液相線温度は450℃以上であることが必要である。
【0014】
Al−Si系合金においては、Al−Siの2元系(Al−Si合金)が好ましく、当該Al−Si合金おいて、Si含有量は一般に1〜20wt%、好ましくは5〜15wt%である。Si含有量が1wt%より少なかったり、20wt%より多い場合、その液相線温度がAlの融点よりも低くならなくなってしまう。かかる組成範囲において、Al−Si合金の液相線温度は575〜660℃である。Al−Si合金の具体例としては、国際合金番号:4032、JIS規格:AC3A、JIS規格:ADC1等が挙げられる。
【0015】
また、第3添加元素として、Cu、Mg、Fe、Mn等を添加するとさらに機械的特性や耐熱性、耐食性等の向上が望める。このような第3添加元素を含むAl−Si合金としては、JIS規格や国際合金番号に記載されている公知の合金を用途に応じて、適宜すればよい。
【0016】
ところで、紫外線伝送用光ファイバにおいて、紫外線伝送による石英ガラスの劣化、損傷で起こる透過率等の光学特性の劣化を抑制する目的で、石英系光ファイバに高圧水素処理により水素をドープすること(すなわち、ドープされた水素分子(H2)が光ファイバの紫外線伝送による劣化、損傷部(≡Si・+・O−Si≡)を修復する(≡Si・+・O−Si≡+H2+hν→≡Si−H+H−O−Si≡)。)が知られており(例えば、前記特許文献1参照)、さらに、このような紫外線伝送用光ファイバにおけるドープした水素の光ファイバの外部への抜け出しを防止するために、石英系裸光ファイバの外周をAl層で被覆することも提案されているが(例えば、前記特許文献2参照)、本発明で製造するAl合金コート石英系光ファイバにおいても、石英系裸光ファイバの外周を被覆するAl共晶系合金層が、光ファイバ内にドープされた水素分子の光ファイバの外部への抜け出しを防止するための水素遮断層として機能しうる。
【0017】
さらに、本発明者等は、石英系光ファイバ母材を溶融線引きした石英系裸光ファイバの外周にAl共晶系合金の溶融物を被覆、凝固することで、Al共晶系合金の溶融物が凝固する過程で該溶融物中に固溶(溶解)している水素分子(大気中やAl共晶系合金に付着していた水素分子が溶融過程で固溶(溶解)したもの)が石英系裸光ファイバ内に拡散する一方、凝固して形成されるAl共晶系合金層がそのまま水素遮断層として機能し得ることを見出している。すなわち、Al共晶系合金の溶融物を石英系裸光ファイバの外周に被覆、凝固することで、石英系裸光ファイバ中に水素分子がドープされ、ドープされた水素分子(H2)が光ファイバの紫外線伝送による劣化、損傷部を修復し、それによって紫外線伝送による損失増加(透過率等の光学特性の経時劣化)が抑制される。よって、本発明の製造方法では、高圧水素処理を行う必要なく、耐紫外線性に優れた紫外線伝送用光ファイバを簡単に製造できるという利点がある。また、Al共晶系合金としてAl−Si系合金(特にAl−Si合金)を使用した場合、水素遮断層として機能するAl−Si系合金層の石英系裸光ファイバからの耐剥離性が、Alコート石英系光ファイバにおけるAl層のそれに比べて優れることから、製造されるAl合金コート石英系光ファイバは、従来の紫外線伝送用のAlコート石英系光ファイバに比べて、石英系裸光ファイバ中にドープ(拡散)させた水素分子の外部抜けの防止効果をより長期に亘って持続できる。なお、本発明において、このような紫外線伝送用のAl合金コート石英系光ファイバを製造する場合、Al共晶系合金の溶融物中の水素含有量(固溶量)は、Al共晶系合金の溶融物の保持温度において、2.0〜10.0μg/g程度であるのが好ましく、特に好ましくは5.0〜8.0μg/g程度である。このような水素含有量(固溶量)は、空気中でAl共晶系合金を加熱溶融することで達成可能であるが、溶融物に水素ガスをバブリング処理する等の処理を行えば、短時間でより高い固溶水素量を得ることでき、好ましい。
【0018】
本発明で製造するAl合金コート石英系光ファイバにおいて、Al共晶系合金層の厚みは、光ファイバの用途によって適宜選択することができる。イメージファイバの場合のように、光ファイバへの耐熱性付与を主たる目的としてAl共晶系合金層を設ける場合、光ファイバの太さ(線径)によっても異なるが、Al共晶系合金層の厚みは、平均厚みが10〜100μm程度が好ましく、特に好ましくは20〜50μm程度である。
【0019】
また、紫外線伝送用光ファイバを得る場合(水素遮断層として設ける場合)には、Al共晶系合金層の厚みは、平均厚みが5〜50μm程度が好ましく、特に好ましくは20〜30μmである。なお、Al共晶系合金層を石英系光ファイバへの水素分子のドープ(拡散)用としても機能させる場合も同様の平均厚みでよい。ここでのAl共晶系合金層の平均厚みは、後述の測定方法で測定した値である。なお、Al共晶系合金層の厚みは、ダイスを通過する裸ファイバの通過速度(光ファイバの線引き速度)、ダイスのサイズ等を変更することによって調整される。
【0020】
本発明のAl合金コート石英系光ファイバにおいて、石英系裸光ファイバには公知のものを使用することができる。通常、コアとコアよりも屈折率が小さいクラッドからなる光ファイバであり、光ファイバ母材には、純粋石英ガラス(コア用部分)とその外周を覆うドープ石英ガラス(クラッド用部分)からなる光ファイバ母材が使用される。クラッド用部分へのドープ元素としては、例えば、フッ素(F)、ホウ素(B)等が使用される。かかる石英系光ファイバ母材は、例えば、プラズマ法、ダイレクト法、VAD法等で作製されたものであり、約2000〜2500℃程度の温度に加熱して、線引きされる。なお、作製後一旦保管しておいた石英系裸光ファイバに対してAl共晶系合金の溶融物を被覆、凝固させてもよいが、前記したように、光ファイバ母材の溶融、線引き作業(光ファイバの作製作業)と、Al共晶系合金の溶融物の被覆、凝固作業を連続的に行うことで、製造効率が向上し、しかも、石英系裸光ファイバへの水素が拡散(ドープ)しやすくなる。すなわち、Al共晶系合金の溶融物を石英系裸光ファイバに被覆する際、石英系裸光ファイバはある程度高い温度(2300℃程度)であるのがよいことを見出しており、光ファイバの線引きからダイスを通過させるまでの時間を調整することで、上記の温度で光ファイバをダイスに通過させることができる。
【0021】
また、マルチコア型のイメージファイバを製造する場合、画素ファイバ用の複数の母材から画素ファイバを線引きし、画素ファイバ(裸ファイバ)を複数本束ねてこれらのクラッド間を融合一体化しながらAl共晶系合金の溶融物が充填されたダイスに通すようにすればよい。このようにすることで、複数の画素ファイバが一体化され、その外周面がAl共晶系合金で被覆されたAl合金コートイメージファイバ(マルチコア型)を製造することができる。
【0022】
本発明において、紫外線伝送用のAl合金コート石英系光ファイバを作製する場合、使用する石英系光ファイバ母材には、公知の石英系光ファイバ母材を使用できる。すなわち、石英系光ファイバは純粋石英ガラス(コア用部分)とその外周を覆うドープ石英ガラス(クラッド用部分)からなる石英系光ファイバ母材が使用される。クラッド用部分へのドープ元素としては、例えば、フッ素(F)、ホウ素(B)等が使用される。石英系光ファイバ母材は例えば、プラズマ法、ダイレクト法、VAD法等で作製されたものが使用される。
【0023】
なお、紫外線伝送用のAl合金コート石英系光ファイバの最終製品では、石英系光ファイバ(コア)中の水素分子含有量は1.6×1017分子/cm3以上であればよいが、石英系光ファイバの長手方向の水素分子含有量のバラツキを抑制するために、2.0×1017分子/cm3以上が好ましく、また、上限はAlコートされる際の溶融Al合金中の水素含有量によって異なるが、3.0×1018分子/cm3以下が好ましく、1.0×1018分子/cm3以下がより好ましく、9.5×1017分子/cm3以下がとりわけ好ましい。つまり、1.6×1017分子/cm3〜3.0×1018分子/cm3であればよく、2.0×1017分子/cm3〜1.0×1018分子/cm3が好ましく、2.0×1017分子/cm3〜9.5×1017分子/cm3がより好ましい。
【0024】
本発明で製造するAl合金コート石英系光ファイバにおいて、石英系光ファイバ(裸光ファイバ)の線径は、目的とする最終的なAl合金コート石英系光ファイバの外径に応じて決定すればよく、特に限定されないが、例えば、イメージファイバ(マルチコア型を含む)の場合、石英系光ファイバ(マルチコア)の線径は一般に100μm〜5mm程度であり、紫外線伝送用光ファイバの場合、石英系光ファイバの線径は一般に100〜500μm程度である。
【0025】
本明細書中の特性(物性)値は以下の方法で測定した。
▲1▼Al合金(Al)層の厚み(平均厚み)
Al合金(Al)コート石英系光ファイバの横断面を樹脂埋めし、研磨する。それをマイクロスコープ(50倍)にて観察し、厚さを測定する。
【0026】
▲2▼Al合金(Al)の溶融物中の固溶水素量(水素含有量)
銅板を2枚用意し、設定温度に保持した溶融Al合金(Al)を銅板上に流し、もう一方の銅板で溶融Al合金(Al)を挟み込む。銅板で挟み込むことにより、Al合金(Al)は急冷され、Al合金(Al)箔になり、設定温度で保持していた水素が封じ込められる。このAl合金(Al)箔から不活性ガス溶解・熱伝導法により発生した水素ガス量の測定する。この方法はガスクロマトグラフの検出器を熱伝導度検出器にし、黒鉛るつぼを用いて、Heガス中で試料を溶解し、その時に発生した水素ガスを検出するものである。
【0027】
▲3▼光ファイバ(コア部)中の水素分子含有量
V. S. Khotimchenkoら、「J Appl. Spectrospec.」 46 (1987) 632-685に記載された方法に準じて行い、800cm-1近辺のピーク強度(O−Si−Oに起因)と、4135cm-1近辺のピーク強度(水素分子に起因)との強度比を算出し、これを単位体積あたりの水素分子量に換算することで定量できる。具体的な手順は、次のとおりである。
まず、長さが5mとなるようにAl合金(Al)コート光ファイバの両端を切断し、後述するレーザーラマン分光装置を用いたレーザーラマンマイクロプローブ法によって、一方の端面からレーザー光を照射すると、マイクロモードを用いて、他方の端面から出てくるラマン光は、スリットを通り、分光器に取り込まれる。分光器の光は、CCDカメラで光強度を電気信号に変換され、付属のソフトでカウント数−波数のグラフを得るというようにして、ラマンスペクトル(縦軸:ラマン強度(cps)、横軸:波数(cm-1))を描かせる。こうして得られたラマンスペクトルでは、800cm-1、4135cm-1の波数の近辺に、それぞれピークが現れる。この各ピークより、それぞれの波数におけるピーク強度を算出する。
ここで、図2はAl合金(Al)コート光ファイバの波数800cm-1近辺のピーク21を含むラマンスペクトルを模式的に示す図であり、図3はAl合金(Al)コート光ファイバの波数4135cm-1近辺のピーク22を含むラマンスペクトルを模式的に示す図である。以下、このラマンスペクトルからのピーク強度の算出方法を、図2および図3を参照して説明する。
まず、図2に示す800cm-1の近辺(698cm-1〜946cm-1の範囲を指す)におけるピーク21を例にとって説明する。
(1)800cm-1と698cm-1との間で、極小値(極小のラマン強度を示す)波数a(cm-1)を決定する。
(2)800cm-1と946cm-1との間で、極小値(極小のラマン強度を示す)波数b(cm-1)を決定する。
(3)a(cm-1)でのラマン強度(極小点aa)とb(cm-1)でのラマン強度(極小点bb)とを結ぶ線分S1を引く。
(4)ピーク21の波数800cm-1でのラマン強度を通る縦軸に平行な直線T1を引く。そうして、前記直線T1と線分S1との交点X1が示す縦軸値(ラマン強度)と波数800cm-1の縦軸値(ラマン強度)との差(ラマン強度の差)L1を求め、これを800cm-1のピーク強度(単位;cps)とする。
同様に、図3に示す4135cm-1の近辺(4070cm-1〜4200cm-1)におけるピーク22においても、
(1)4135cm-1と4070cm-1との間で、極小値を示す(極小値のラマン強度を示す)波数c(cm-1)を決定する。
(2)4135cm-1と4200cm-1との間で、極小値を示す(極小値のラマン強度を示す)波数d(cm-1)を決定する。
(3)c(cm-1)でのラマン強度(極小点cc)とd(cm-1)でのラマン強度(極小点dd)とを結ぶ線分S2を引く。
(4)ピーク22の波数4135cm-1でのラマン強度を通る縦軸に平行な直線T2を引く。そうして、前記直線T2と線分S2との交点X2が示す縦軸値(ラマン強度)と波数4135cm-1の縦軸値(ラマン強度)との差(ラマン強度の差)L2を求め、これを4135cm-1のピーク強度(単位:cps)とする。
上記のようにして得られた各ピーク21、22におけるピーク強度を、下記式(1)に代入して、単位体積あたりの水素分子量に換算することで、本発明でいう「水素分子含有量」を算出することができる。
水素分子含有量(分子/cm3)
=(4135cm-1近辺でのピーク強度/800cm-1近辺でのピーク強度)
×1.22×1021…………………………………………式(1)
なお、本発明における水素分子含有量の測定は、以下の使用機器、条件にて行う。
・レーザーラマン分光装置:Ramaonor T-64000(Jobin Yvon/愛宕物産製)
・光源:YAGレーザー(CHERENT VERDI-5W)
・分光器
構成 :Monochromator:Third Stage
回折格子:Premonochromator 1800gr/mm
・検出器
CCD:Jobin Yvon 1024×256
レーザー波長:532nm
・測定条件
500〜1800の間の波数 測定時間: 1sec
4070〜4200の間の波数 測定時間:900sec
・解析ソフト:ORIGIN
【0028】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下に記載の実施例に限定されるものでない。
【0029】
(実施例1)
コア部分(純粋な石英ガラス)とフッ素ドープされたクラッド部分とを有する石英系光ファイバ母材を用意し、また、Al−Si合金(Si:12重量%、液相線温度(融点):585℃)(JISに規定されるADC1)を用意した。そして、図1に示す装置を使用し、収容槽でAl−Si合金(Si:12重量%)を溶融し、溶融物の温度を650℃を保持して(設定温度650℃で温度制御して)ダイスに供給した。一方、石英系光ファイバ母材を2300℃に加熱し、線引き速度約60m/分で線引きした。そして、線引した石英系裸光ファイバをダイスへ導入して通過させ(石英系裸光ファイバのダイス導入時温度は100℃)、ボビンで引き取る作業を継続して行って、Al−Si合金コート石英系光ファイバを2000m連続生産した。このようにして製造されたAl−Si合金コート石英系光ファイバは、線径(外径)が250μmの石英系裸光ファイバの外周に、平均厚み25μmのAl−Si合金層が形成されていた。また、かかるAl−Si合金コート石英系光ファイバをエポキシ樹脂にて包埋し、エメリー紙で研磨した後、ダイアモンド粒子によってバフ研磨して、ファイバ断面観察試料を作製し、当該試料につき走査型電子顕微鏡にて断面を観察したところ、石英系光ファイバのAl−Si合金層との境界部に酸化Alの反応相は全く認められなかった。
【0030】
(比較例1)
Al−Si合金(Si:12重量%)の代わりに、Al(純度99.99%融点:660℃)を使用し、該溶融Alの温度が720℃に保持されるように温度制御をしてダイスに供給する以外は、実施例1と同様にして、Alコート石英系光ファイバを連続生産した。このようにして製造されたAlコート石英系光ファイバは、線径(外径)が250μmの石英系裸光ファイバの外周に、平均厚み25μmのAl層が形成されていた。また、かかるAlコート石英系光ファイバをエポキシ樹脂にて包埋し、エメリー紙で研磨した後、ダイアモンド粒子によってバフ研磨して、ファイバ断面観察試料を作製し、当該試料につき走査型電子顕微鏡にて断面を観察したところ、石英系光ファイバとAl層の境界部に厚み0.1μmの酸化Al層が認められた。
【0031】
以上作製した実施例1のAl合金コート石英系光ファイバ及び比較例1のAlコート石英系光ファイバに対し、以下の耐UV特性試験及び静疲労曲げ試験を実施した。
【0032】
[耐UV特性試験]
作製したAl−Si合金(Al)コート石英系光ファイバのコア部に12時間連続的に紫外線(215nm、光源:D2ランプ(L1314(商品名)、浜松ホトニクス社製))を照射した後であっても、該紫外線照射前の90%以上の透過率を維持したものを合格と評価し、90%未満のものを不合格と評価した。
【0033】
[静疲労曲げ試験]
作製したAl−Si合金(Al)コート石英系光ファイバを外径6mmのマンドレルに巻きつけ(20巻回)て、300℃に保持した炉に暴露し、該光ファイバが破断するまでの時間を測定した。1500時間以上で破断したものを合格と評価し、1500時間未満で破断したものを不合格と評価した。
なお、耐UV特性及び静疲労曲げの評価とも、試験サンプル数(N)はN=5とし、その平均値を表1に記載した。
【0034】
【表1】
【0035】
表中、総合評価は、耐UV特性試験及び静疲労曲げ試験の両方が合格のものを〇、それ以外は×である。
【0036】
【発明の効果】
以上の説明により明らかなように、本発明によれば、Alコート石英系光ファイバの代替となる石英系光ファイバをAlコート石英系光ファイバよりも高歩留まりに製造できる効果がある。また、本発明によれば、Alコート石英系光ファイバの代替となり、しかも、Alコート石英系光ファイバよりも性能向上した石英系光ファイバが得られる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のAl合金コート石英系光ファイバの製造方法を実施する装置の一例の概略縦断面図である。
【図2】Al合金(Al)コート光ファイバの波数800cm-1近辺のピーク21を含むラマンスペクトルを模式的に示す図である。
【図3】Al合金(Al)コート光ファイバの波数4135cm-1近辺のピーク22を含むラマンスペクトルを模式的に示す図である。
【符号の説明】
1 光ファイバ母材
2 光ファイバ
3 Al共晶系合金の溶融物
4 ダイス
Claims (1)
- 石英系裸光ファイバの外周に、液相線温度が660℃より低く、450℃以上であるAl−Si系合金の溶融物を、当該Al−Si系合金の液相線温度よりも20〜120℃高い温度に保持して被覆、凝固させてAl−Si系合金被覆層を設け、該Al−Si系合金被覆層の平均厚みが20〜30μmであることを特徴とする、紫外線伝送用Al−Si系合金コート石英系光ファイバ。
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