JP4068470B2 - アルミコートファイバの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金にて裸光ファイバを被覆してなるアルミコートファイバを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、紫外線を伝送するための光ファイバ素線(以下、「紫外線伝送用光ファイバ素線」ということがある。)の開発が進められている。光ファイバ素線は、上記紫外線の伝送に用いると、光エネルギーの作用により光ファイバを構成するガラスが損傷、劣化し、光ファイバ透過率のような光学特性が経時的に劣化することが知られているが、コア部およびクラッド部に水素分子を添加(ドープ)した裸光ファイバを用いることで、このような光ファイバ素線の損傷を抑制することができる。
【0003】
従来、裸光ファイバに水素を添加させる方法としては、裸光ファイバを水素含有雰囲気に曝し、水素分子を裸光ファイバ中へ侵入させる方法が一般的であり、裸光ファイバの分子構造上の欠陥と水素分子とを反応させて、裸光ファイバの分子構造上の欠陥を埋めてエネルギー的により安定な物質、すなわち、Si−OH、Si−Hに変換させることが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4参照。)。しかしこのような方法で作製された水素が添加された光ファイバ素線は、経時変化により、水素が光ファイバ素線から抜けてしまい裸光ファイバ内の水素分子含有量が低下するという問題があった。
【0004】
また、紫外線を裸光ファイバのコア部に入射させながら水素雰囲気中で昇温させる製造方法(例えば、特許文献5参照。)や、裸光ファイバを水素雰囲気中で昇温させた状態で放射線を照射させる製造方法(例えば、特許文献6参照。)、さらには裸光ファイバの外周に金属を被覆し、その後高温高圧下で水素処理を行うという製造方法(例えば、特許文献7参照。)なども提案されている。しかしながら、これらの製造方法では、水素雰囲気中で昇温させたり、高温高圧下で水素処理をするなど、安全性の面で問題があるとともに、製造工程が煩雑であり、特殊な設備も必要となる。
【0005】
そこで本発明者らは、上記水素処理の工程を行うことなく水素を裸光ファイバに添加することができる光ファイバ素線の製造方法を提案している。かかる方法は、従来は耐熱用光ファイバ素線として専ら利用されていたアルミコートファイバの形態にて水素を添加した光ファイバ素線を作製する方法であって、裸光ファイバを溶融アルミニウムまたは溶融アルミニウム合金で被覆することで、溶融アルミニウムまたは溶融アルミニウム合金の冷却凝固中に放出される水素を裸光ファイバ中に拡散供給させ、かつ、凝固されたアルミニウムまたはアルミニウム合金にて裸光ファイバ中に水素を保持させる、というものである。この方法で得られたアルミコートファイバは、水素分子含有量が1.3×1017分子/cm3〜1.6×1017分子/cm3程度であるが、優れた紫外線伝送性を有する光ファイバ素線を得る観点からは水素分子含有量は多ければ多いほどよく、より多くの量の水素分子を添加することのできる光ファイバ素線の製造方法が求められる。
【0006】
【特許文献1】
特開平6−34830号公報
【特許文献2】
特開平6−56457号公報
【特許文献3】
特開平12−226223号公報
【特許文献4】
特開昭60−90853号公報
【特許文献5】
特開2000−86272号公報
【特許文献6】
特開2000−86273号公報
【特許文献7】
特開平9−309742号公報
【特許文献8】
特開2000−154545号公報
【特許文献9】
特開平11−180731号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、可及的に多くの水素分子をコア部に添加することのできる光ファイバ素線の製造方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)水素および不活性ガスからなる雰囲気下で溶融させたアルミニウムまたはアルミニウム合金にて裸光ファイバを被覆した後、上記アルミニウムまたはアルミニウム合金を凝固させる、アルミコートファイバの製造方法であって、
上記アルミニウムまたはアルミニウム合金の凝固後、300℃〜600℃の温度下で0.5時間〜50時間保持することを特徴とし、それによって、紫外線透過率を維持することができる、紫外線伝送用のアルミコートファイバの製造方法。
(2)上記アルミニウムまたはアルミニウム合金の凝固後、400℃〜500℃の温度下で0.5時間〜50時間保持することを特徴とする上記(1)に記載の製造方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、裸光ファイバと該裸光ファイバを被覆するアルミコート層とを備えるアルミコートファイバを製造する方法であって、溶融させた状態のアルミニウムまたはアルミニウム合金で裸光ファイバを被覆した後、当該アルミニウムまたはアルミニウム合金を凝固させる工程(以下、「アルミ凝固工程」と呼ぶことがある。)を少なくとも必須の工程として含有する、次の〔1〕〜〔3〕の3種類の方法である。
〔1〕水素および不活性ガスからなる雰囲気下でアルミニウムまたはアルミニウム合金を溶融させ、続いてアルミ凝固工程を行う方法(以下、「本発明の第一の方法」ともいう。)。
〔2〕水素をバブリングさせながらアルミ凝固工程を行う方法(以下、「本発明の第二の方法」ともいう。)。
〔3〕アルミ凝固工程後、300℃〜600℃の温度下で保持する工程を連続的に行う方法(以下、「本発明の第三の方法」ともいう。)。
【0010】
まず、本発明のいずれの方法においても必須の工程であるアルミ凝固工程について説明する。
この工程は、溶融させた状態のアルミニウムまたはアルミニウム合金で裸光ファイバを被覆した後、該アルミニウムまたはアルミニウム合金を冷却凝固させる工程である。具体的には、ダイスと、溶融アルミニウムまたは溶融アルミニウム合金を収容し、ダイスに溶融アルミニウムまたは溶融アルミニウム合金を供給する収容槽とを備える装置を用い、裸光ファイバを上記ダイス内を通過させて裸光ファイバの外周で溶融アルミニウムまたは溶融アルミニウム合金を凝固させて、裸光ファイバを被覆させる。このようなアルミ凝固工程を経ることにより、コア部に水素分子が添加された裸光ファイバと、該裸光ファイバを被覆するアルミコート層とを備えるアルミコートファイバを得ることができる。
上記アルミ凝固工程にて、何故裸光ファイバ中に水素が添加されるのか、その詳細な理由は明らかではないが、本発明者らは、溶融した状態のアルミニウムまたはアルミニウム合金中に溶解している水素量(溶解限)と、凝固した状態のアルミニウムまたはアルミニウム合金中に固溶している水素量(固溶限)との差を利用したことによるものと考えている。すなわち、上記アルミ凝固工程では、裸光ファイバを被覆した状態の溶融アルミニウムまたは溶融アルミニウム合金が冷却凝固する際に、溶解限と固溶限との差(溶解限>固溶限)によって、アルミニウムまたはアルミニウム合金より放出される水素の一部が裸光ファイバに拡散供給される。その後、裸光ファイバは凝固したアルミニウムまたはアルミニウム合金(アルミコート層)にて被覆されているので、裸光ファイバ内へ拡散供給された水素は、アルミコート層によって外部へ抜け出ることができなくなり、長期的に裸光ファイバ内に保持されることとなる。
以下、本発明の各方法について詳述する。
【0011】
〔1〕本発明の第一の方法
本発明の第一の方法は、水素および不活性ガスからなるガス雰囲気下で、アルミニウムまたはアルミニウム合金を溶融させ、続いて上記アルミ凝固工程を行う方法である。当該方法において用いる不活性ガスとしては、たとえば、アルゴンガス、ヘリウムガスが挙げられ、中でも、安価なアルゴンガスを用いるのが好ましい。上記ガス雰囲気における水素と不活性ガスとの混合比(体積比)には特に制限はないが、水素:不活性ガス=1:9〜3:7であるのが好ましく、水素:不活性ガス=2:8〜3:7であるのがより好ましい。上記混合比の範囲よりも水素の割合が少ない(不活性ガスの割合が多い)と、裸光ファイバのコア部への水素分子含有量の増加には寄与しない傾向にあるためであり、また上記混合比の範囲よりも水素の割合を多くしても(不活性ガスの割合を少なくしても)、裸光ファイバのコア部における水素分子含有量が飽和し、顕著には増加し得ない傾向にあるためである。
【0012】
上記ガス雰囲気下でアルミニウムまたはアルミニウム合金を溶融させる際の温度は、該アルミニウムまたはアルミニウム合金が溶融し得る温度であれば特に制限はない。
溶融アルミニウムにて被覆を行う場合、アルミニウムを溶融させる温度は、670℃〜800℃であるのが好ましく、700℃〜750℃であるのがより好ましい。上記温度が670℃未満であると、アルミニウムが均一に溶融しない虞があり、長手方向に特性のばらついたアルミコートファイバが得られてしまうことがあり、また、ダイス出口で溶融アルミニウムが凝固してしまい線引きができなくなる虞があるためである。上記温度が800℃を越えると、裸光ファイバが溶融アルミニウムと反応して劣化してしまう虞があるためである。
また溶融アルミニウム合金(特に、共晶系のアルミニウム合金)にて被覆を行う場合、アルミニウム合金を溶融させる温度は、液相線温度よりも90℃〜140℃高い温度であるのが好ましい。上記温度が液相線温度よりも90℃未満の高さの温度(液相線温度+90℃未満)の場合には、アルミニウム合金が均一に溶融しない虞があり、長手方向に特性のばらついたアルミコートファイバが得られてしまうことがあり、また、ダイス出口で溶融アルミニウム合金が凝固してしまい線引きができなくなる虞があるためである。また、上記温度が液相線温度よりも140℃を越えて高い温度(液相線温度+140℃より高い温度)の場合には、裸光ファイバが溶融アルミニウム合金と反応して劣化してしまう虞があるためである。
上記のようにアルミニウムまたはアルミニウム合金を溶融させた後、続けて、上記水素および不活性ガスからなるガス雰囲気下で上述したようなアルミ凝固工程を行う。
【0013】
このような本発明の第一の方法を行うためには、たとえば、上述したダイスおよび収容槽として気密性を有するものを用い、これらダイスおよび収容槽の内部空間に上記水素および不活性ガスの混合ガスを供給し得る手段とを備える装置を使用すればよい。また、アルミニウムまたはアルミニウム合金を溶融させるための加熱を実現するための手段としては、特に制限はなく、公知の高周波誘導加熱、抵抗加熱などを、上述した収容槽に設置すればよい。また、上記アルミニウムまたはアルミニウム合金を溶融させる温度は、たとえば熱電対を収容槽内の溶融アルミニウムまたは溶融アルミニウム合金に浸漬し、該熱電対の情報を温度測定器にて測定する手段や、非接触型の温度計でモニターする手段などによって管理すればよい。
【0014】
このような本発明の第一の方法によれば、従来のような過酷な条件であったり煩雑であるなどの不具合をもつ水素処理の工程を経ることなく、従来よりも格段に多い量の水素分子をコア部に添加することができる。これは、上記雰囲気ガスを用いることによって溶融アルミニウムまたは溶融アルミニウム合金にて裸光ファイバを被覆する際に、アルミニウムまたはアルミニウム合金と裸光ファイバとの間に酸化被膜が形成されないためであり、かかる本発明の第一の方法によれば、溶融した状態のアルミニウムまたはアルミニウム合金中における水素の固溶量を増大でき、アルミ凝固工程において多くの水素を裸光ファイバ内に放出させることができる。
【0015】
〔2〕本発明の第二の方法
本発明の第二の方法は、水素をバブリングさせながら上記アルミ凝固工程を行う方法である。該方法において、アルミニウムまたはアルミニウム合金を溶融させるガス雰囲気に特に制限はなく、たとえば、大気雰囲気中で行うことができる。無論、上記本発明の第一の方法のように水素および不活性ガスからなるガス雰囲気下でアルミニウムまたはアルミニウム合金を溶融させてもよい。アルミニウムまたはアルミニウム合金を溶融させる温度については、上述した本発明の第一の方法と同様に行えばよい。
この本発明の第二の方法を行うためには、たとえば、上記ダイスと収容槽とを備える装置に、従来公知の適宜のバブリング手段を付加した装置を使用すればよい。アルミニウムまたはアルミニウム合金を溶融させるための加熱を実現するための手段や、該加熱の際の温度を管理する手段については、上述した本発明の第一の方法と同様のものを使用すればよい。
【0016】
このような本発明の第二の方法によっても、上記の本発明の第一の方法と同様に、アルミニウムまたはアルミニウム合金と裸光ファイバとの間の酸化被膜の形成を防止して、溶融した状態のアルミニウムまたはアルミニウム合金中における水素の固溶量を増大でき、アルミ凝固工程において多くの水素を裸光ファイバ内に放出させることができる。これによって、従来の水素処理の工程を経ることなく、従来よりも格段に多い量の水素分子をコア部に添加することができる。
【0017】
〔3〕本発明の第三の方法
本発明の第三の方法は、上記アルミ凝固工程にてアルミニウムまたはアルミニウム合金を凝固させた後、300℃〜600℃(好ましくは400℃〜500℃)の温度下で保持する工程を行う方法である。該温度が300℃未満であると、水素が裸光ファイバのコア部に充分に放出されないという不具合があるからであり、また600℃を越えると、アルミコート層が溶融してしまったり、石英とアルミニウムの還元反応が生じ、反応層が形成されるなどの不具合があるからである。
上記温度の保持は、たとえば、誘導加熱、抵抗加熱などを利用して行うことができる。
【0018】
上記300℃〜600℃の温度下での保持する時間は、特に制限はないが、0.5時間〜50時間であるのが好ましい。該保持時間が0.5時間未満であると、水素が裸光ファイバのコア部に充分に放出されない傾向にあるためであり、また50時間を越えると、石英とアルミニウムの還元反応が生じ、反応層が形成される傾向にあるためである。
【0019】
上記のような本発明の第三の方法によっても、従来の水素処理の工程を経ることなく、従来よりも格段に多い量の水素分子をコア部に添加することができる。これは、アルミ凝固工程によって形成されたアルミコート層の表面温度を極力高くすることによって、アルミコート層中に含有される水素が裸光ファイバに放出されることによる。
【0020】
当該本発明の第三の方法は、アルミ凝固工程に続いて連続的に行うのが好ましい。アルミコート層に含有される水素は経時的に大気中に拡散してしまうため、未だアルミコート層に比較的多量の水素が残留した状態で裸光ファイバに接触させる時間を長くできるためである。
なお、本発明の第三の方法は、既に製品化され、場合によっては使用済みのアルミコートファイバに施してもよい。これによってアルミコート層に含有されていた水素を裸光ファイバに添加することができ、上記のアルミコートファイバを有効に再利用することも可能となる。
【0021】
本発明の第三の方法においては、上述した本発明の第一の方法のように水素と不活性ガスとの混合ガス雰囲気下でアルミニウムまたはアルミニウム合金を溶融させなくともよく、また上述した本発明の第二の方法のように水素をバブリングさせながらアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶融やアルミ凝固工程を行わなくともよい。すなわち、たとえば、大気雰囲気などの雰囲気下で、アルミニウムまたはアルミニウム合金の溶融やアルミ凝固工程を行ってもよい。
【0022】
また、上記本発明の第三の方法は、上述した本発明の第一の方法または本発明の第二の方法と組み合わせて行ってもよい。すなわち、上述した本発明の第一の方法または本発明の第二の方法でアルミ凝固工程まで行った後、300℃〜600℃(好ましくは400℃〜500℃)の温度下で保持する工程を連続的に行ってもよい。このように上記本発明の第三の方法は、上述した本発明の第一の方法または本発明の第二の方法と組み合わせると、工程を簡略化でき、短時間で製造が可能であるという利点がある。
【0023】
上述した本発明の第一〜第三の方法によれば、裸光ファイバのコア部において2.0×1017分子/cm3以上、好適には2.0×1017分子/cm3〜3.5×1018分子/cm3(特には2.0×1017分子/cm3〜9.5×1017分子/cm3)という水素分子含有量が得られ、公知技術のような設備を必要とせずに、従来よりも多量の水素分子を含有するアルミコートファイバを実現することができる。上述のような水素分子含有量である本発明の方法にて製造されたアルミコートファイバは、裸光ファイバのコア部に12時間連続的に紫外線(215nm、光源:D2ランプ(L1314、浜松ホトニクス社製))を照射した後であっても、当該紫外線照射初期の92%以上、特には95%以上の透過率を維持することができる(上記透過率の維持試験は、照射前の透過率を基準(100%)として、前記条件で照射した場合の透過率の経時劣化をみるものである。)。このように紫外線透過率を維持することができる本発明で得られるアルミコートファイバは、たとえば、分光分析用、レーザー加工用、バンドルファイバ用、レーザーガイド用などの紫外線伝送用の光ファイバ素線として好適に使用することができる。
【0024】
上記コア部の水素分子含有量は、V. S. Khotimchenkoら、「J Appl. Spectrospec.」 46 (1987) 632-685に記載された方法に準じて行い、800cm-1近辺のピーク強度(O−Si−Oに起因)と、4135cm-1近辺のピーク強度(水素分子に起因)との強度比を算出し、これを単位体積あたりの水素分子量に換算することで定量できる。具体的な手順は、次のとおりである。
まず、長さが5mとなるように光ファイバ素線の両端を切断し、後述するレーザーラマン分光装置を用いたレーザーラマンマイクロプローブ法によって、一方の端面からレーザー光を照射すると、マイクロモードを用いて、他方の端面から出てくるラマン光は、スリットを通り、分光器に取り込まれる。分光器の光は、CCDカメラで光強度を電気信号に変換され、付属のソフトでカウント数−波数のグラフを得るというようにして、ラマンスペクトル(縦軸:ラマン強度(cps)、横軸:波数(cm-1))を描かせる。こうして得られたラマンスペクトルでは、800cm-1、4135cm-1の波数の近辺に、それぞれピークが現れる。この各ピークより、それぞれの波数におけるピーク強度を算出する。
ここで、図1は、光ファイバ素線の波数800cm-1近辺のピーク1を含むラマンスペクトルを模式的に示す図であり、図2は光ファイバ素線の波数4135cm-1近辺のピーク2を含むラマンスペクトルを模式的に示す図である。以下、このラマンスペクトルからのピーク強度の算出方法を、図1および図2を参照して説明する。
まず、図1に示す800cm-1の近辺(698cm-1〜946cm-1の範囲を指す)におけるピーク1を例にとって説明する。
(1)800cm-1と698cm-1との間で、極小値を示す(極小のラマン強度を示す)波数a(cm-1)を決定する。
(2)800cm-1と946cm-1との間で、極小値を示す(極小のラマン強度を示す)波数b(cm-1)を決定する。
(3)a(cm-1)でのラマン強度(極小点aa)とb(cm-1)でのラマン強度(極小点bb)とを結ぶ線分S1を引く。
(4)ピーク21の波数800cm-1でのラマン強度を通る縦軸に平行な直線T1を引く。そうして、前記直線T1と線分S1との交点X1が示す縦軸値(ラマン強度)と波数800cm-1の縦軸値(ラマン強度)との差(ラマン強度の差)L1を求め、これを800cm-1のピーク強度(単位;cps)とする。
同様に、図2に示す4135cm-1の近辺(4070cm-1〜4200cm-1)におけるピーク2においても、
(1)4135cm-1と4070cm-1との間で、極小値を示す(極小値のラマン強度を示す)波数c(cm-1)を決定する。
(2)4135cm-1と4200cm-1との間で、極小値を示す(極小値のラマン強度を示す)波数d(cm-1)を決定する。
(3)c(cm-1)でのラマン強度(極小点cc)とd(cm-1)でのラマン強度(極小点dd)とを結ぶ線分S2を引く。
(4)ピーク22の波数4135cm-1でのラマン強度を通る縦軸に平行な直線T2を引く。そうして、前記直線T2と線分S2との交点X2が示す縦軸値(ラマン強度)と波数4135cm-1の縦軸値(ラマン強度)との差(ラマン強度の差)L2を求め、これを4135cm-1のピーク強度(単位:cps)とする。
上記のようにして得られた各ピーク1,2におけるピーク強度を、下記式(1)に代入して、単位体積あたりの水素分子量に換算することで、本発明でいう「水素分子含有量」を算出することができる。
水素分子含有量(分子/cm3)
=(4135cm-1近辺でのピーク強度/800cm-1近辺でのピーク強度)
×1.22×1021…………………………………………式(1)
なお、本発明における水素分子含有量の測定は、以下の使用機器、条件にて行う。
・レーザーラマン分光装置:Ramaonor T-64000(Jobin Yvon/愛宕物産製)
・光源:YAGレーザー(CHERENT VERDI-5W)
・分光器
構成 :Monochromator:Third Stage
回折格子:Premonochromator 1800gr/mm
・検出器
CCD:Jobin Yvon 1024×256
レーザー波長:532nm
・測定条件
500〜1800の間の波数 測定時間: 1sec
4070〜4200の間の波数 測定時間:900sec
・解析ソフト:ORIGIN
【0025】
本発明の方法に用いる裸光ファイバは、石英ガラス(シリカガラス)を含むコア部と、該コア部の外周に配置され、少なくとも石英ガラスを含みかつコア部よりも屈折率が低いクラッド部とを有する裸光ファイバ(以下、「石英系裸光ファイバ」と呼ぶことがある。)であれば、特に制限はない。石英ガラスは、公知の石英ガラス(シリカガラス)を適用すれば良く、例えば、化学的に合成した合成石英ガラスや天然の石英粉末を溶かして作った溶融石英ガラスなどが挙げられる。中でも、不純物含有量が少ない合成石英ガラスを用いることが好ましい。前記した合成石英ガラスは、公知の製法により作製できる。具体的な製法としては、例えば、VAD法、MCVD法、プラズマCVD法、OVD法、直接法などが挙げられる。また例えば、屈折率をコントロールするためには、各種元素を添加すればよい。具体的には、クラッド部を形成させるために、屈折率を下げるF(フッ素)やB(ホウ素)等を公知の方法で添加したものを用いればよい。
【0026】
また、本発明の方法により効率的にアルミコートファイバを製造し得る観点からは、ファイバ母材より加熱・線引きして上記裸光ファイバを作製した後に、連続的に上記本発明の第一〜第三の方法の少なくともいずれかを行うのが好ましい。裸光ファイバは、前記した光ファイバ母材(石英ガラス)を公知の製造方法を用いて、加熱、ドーパントの添加、線引き等を行って作製する。上記加熱の温度は、2000℃〜2400℃が好ましい。例えば、外径70μm〜2500μmの裸光ファイバを作製する場合、光ファイバガラス母材を2000℃〜2400℃に加熱し、線引き速度1m/分〜300m/分とすることで作製できる。
【0027】
なお、本発明に用いるアルミニウム合金としては、特に制限はなく、例えば国際合金番号で示される1035、1040、1045、1050、1050A、1060、1065、1070、1070A、1080、1080A、1085、1090、1098、1100、1110、1200、1200A、1120、1230、1135、1235、1435、1145、1345、1445、1150、1350(18)、1350A、1450、1260、1170、1370、1175、1275、1180、1185、1285、1385、1188、1190、1193、1198、1199等に記載のアルミニウム合金を特に制限なく用いることができる。
また、本発明に用いるアルミニウムは、純度が99.9%以上のアルミニウム(純アルミニウム)を指す。
溶融時の粘度の安定性の観点からは、アルミニウム(純度:99.99%)や共晶系のアルミニウム合金であるAl−Si系合金を使用するのが好ましい。
【0028】
本発明の方法で得られたアルミコートファイバにおいて、裸光ファイバを被覆するアルミコート層の厚みは、裸光ファイバ中の水素を外部へ抜け出させない程度の厚みであれば特に制限されないが、10μm〜50μmであるのが好ましく、15μm〜30μmであるのがより好ましい。アルミコート層の厚みが10μm未満であると、十分な量の水素添加に寄与し得ない傾向にあるためであり、またアルミコート層の厚みが50μmを越えると、アルミコートファイバが可撓性に劣る傾向にあるためである。
【0029】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
比較例2
アルミニウム(純度:99.99%)300gを水素およびアルゴンガスからなる雰囲気(水素:アルゴンガス=2:8)中で溶融し、730℃で0.5時間保持した。そして、この温度が730℃の溶融アルミニウムをダイスへ充填した後、2300℃に加熱した石英系光ファイバ母材(コア部分(純粋な石英ガラス)とフッ素ドープされたクラッド部分とを有する石英系光ファイバ母材で、水素分子濃度が1.0×1016分子/cm3以下のもの)から線引き速度60m/分で線引きして得られた石英系裸光ファイバを、ダイスへ通過させながらボビンで巻き取った。かかる作業を連続して行い、全長2000mのアルミコートファイバを製造した。得られたアルミコートファイバのアルミニウム層の平均厚みは25μmであった。
【0030】
比較例3
アルミニウム(純度:99.99%)300gを大気雰囲気中で溶融し、730℃で0.5時間保持し、保持中に溶融アルミニウムに水素ガスをバブリングさせた以外は、比較例2と同様に行ってアルミコートファイバを製造した。
【0031】
実施例3
アルミニウム(純度:99.99%)300gを大気雰囲気中で溶融し、730℃で0.5時間保持した。そして、この温度が730℃の溶融アルミニウムをダイスへ充填した後、2300℃に加熱した石英系光ファイバ母材(コア部分(純粋な石英ガラス)とフッ素ドープされたクラッド部分とを有する石英系光ファイバ母材で、水素分子濃度が1.0×1016分子/cm3以下のもの)から線引き速度60m/分で線引きして得られた石英系裸光ファイバを、ダイスへ通過させ、その後、400℃に保持された管状炉を通過させて(通過時間:1時間)から、ボビンで巻き取った。かかる作業を連続して行い、全長2000mのアルミコートファイバを製造した。得られたアルミコートファイバのアルミニウム層の平均厚みは25μmであった。
【0032】
実施例4
アルミニウム(純度:99.99%)300gを大気雰囲気中で溶融し、730℃で0.5時間保持した。そして、この温度が730℃の溶融アルミニウムをダイスへ充填した後、2300℃に加熱した石英系光ファイバ母材(コア部分(純粋な石英ガラス)とフッ素ドープされたクラッド部分とを有する石英系光ファイバ母材で、水素分子濃度が1.0×1016分子/cm3以下のもの)から線引き速度60m/分で線引きして得られた石英系光ファイバをダイスへ通過させながらボビンで巻き取った。かかる作業を連続して行い、その後、ボビンごと400℃に保持された炉(大気雰囲気、常圧)で10時間保持し、全長2000mのアルミコートファイバを製造した。得られたアルミコートファイバのアルミニウム層の平均厚みは25μmであった。
【0033】
実施例5
アルミニウム(純度:99.99%)300gを水素およびアルゴンガスからなる雰囲気(水素:アルゴンガス=2:8)中で溶融し、730℃で0.5時間保持した。そして、この温度が730℃の溶融アルミニウムをダイスへ充填した後、2300℃に加熱した石英系光ファイバ母材(コア部分(純粋な石英ガラス)とフッ素ドープされたクラッド部分とを有する石英系光ファイバ母材で、水素分子濃度が1.0×1016分子/cm3以下のもの)から線引き速度60m/分で線引きして得られた石英系裸光ファイバをダイスへ通過させ、その後、400℃に保持された管状炉を通過させて(通過時間:1時間)からボビンで巻き取った。かかる作業を連続して行い、全長2000mのアルミコートファイバを製造した。得られたアルミコートファイバのアルミニウム層の平均厚みは25μmであった。
【0034】
実施例6
アルミニウム(純度:99.99%)300gを水素およびアルゴンガスからなる雰囲気(水素:アルゴンガス=2:8)中で溶融し、730℃で0.5時間保持した。そして、この温度が730℃の溶融アルミニウムをダイスへ充填した後、2300℃に加熱した石英系光ファイバ母材(コア部分(純粋な石英ガラス)とフッ素ドープされたクラッド部分とを有する石英系光ファイバ母材で、水素分子濃度が1.0×1016分子/cm3以下のもの)から線引き速度60m/分で線引きして得られた石英系裸光ファイバを、ダイスへ通過させながらボビンで巻き取った。かかる作業を連続して行い、その後、ボビンごと400℃に保持された炉(大気雰囲気、常圧)で10時間保持し、全長2000mのアルミコートファイバを製造した。得られたアルミコートファイバのアルミニウム層の平均厚みは25μmであった。
【0035】
比較例1
アルミニウム(純度:99.99%)300gを大気雰囲気中で溶融し、730℃で0.5時間保持した。そして、この温度が730℃の溶融アルミニウムをダイスへ充填した後、2300℃に加熱した石英系光ファイバ母材(コア部分(純粋な石英ガラス)とフッ素ドープされたクラッド部分とを有する石英系光ファイバ母材で、水素分子濃度が1.0×1016分子/cm3以下のもの)から線引き速度60m/分で線引きして得られた石英系裸光ファイバを、ダイスへ通過させながらボビンで巻き取った。かかる作業を連続して行い、全長2000mのアルミコートファイバを製造した。得られたアルミコートファイバのアルミニウム層の平均厚みは25μmであった。
【0036】
〔評価試験〕
(1)溶融アルミニウム中の固溶水素量
まず銅板を2枚用意し、設定温度に保持した溶融アルミニウムを銅板上に流し、もう一方の銅板で溶融アルミニウムを挟み込んだ。銅板で挟み込むことにより、アルミニウムは急冷されてアルミニウム箔となり、設定温度で保持していた水素が閉じ込められる。このアルミニウム箔を不活性ガス雰囲気下で溶解し、熱電導法(ガスクロマトグラフの検出器を熱伝導度検出器にし、黒鉛るつぼを用いてHeガス中で試料を溶解し、そのときに発生した水素ガスを検出する方法)で、発生した水素ガス量を測定した。
【0037】
(2)アルミコートファイバのコア部中の水素分子含有量
上記実施例3〜6、比較例1〜3で製造された全長2000mの各アルミコートファイバについて、一方側の端部より400mずつ離れた地点を中心として一方側、他方側を共に2.5mずつ含有する5mのアルミコートファイバをサンプルとして4本ずつ切り出し、上述したように、V.S.Khotimchenkoら、「J Appl. Spectrospec.」 46(1987)632-685に記載された方法に準じ、各ファイバのコア部における水素含有量を測定した。
各アルミコートファイバにおいて、4本のサンプルについての水素分子含有量の平均をとって、平均水素分子含有量を算出した。
【0038】
(3)耐紫外線特性の評価方法
作製されたアルミコートファイバのコア部に12時間連続的に紫外線(215nm、光源:D2ランプ(L1314、浜崎ホトニクス社製))を照射した後であっても、当該紫外線照射初期の85%以上の透過率を維持したものを○と評価し、90%以上の透過率を維持したものを◎と評価し、85%未満のものを×と評価した。
上記(1)〜(3)の評価試験の結果を表に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、可及的に多くの水素分子をコア部に添加することのできる光ファイバ素線の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】光ファイバ素線の波数800cm-1近辺のピーク1を含むラマンスペクトルを模式的に示す図(縦軸:ラマン強度(cps)、横軸:波数(cm-1))である。
【図2】光ファイバ素線の波数4135cm-1近辺のピーク2を含むラマンスペクトルを模式的に示す図(縦軸:ラマン強度(cps)、横軸:波数(cm-1))である。
Claims (2)
- 水素および不活性ガスからなる雰囲気下で溶融させたアルミニウムまたはアルミニウム合金にて裸光ファイバを被覆した後、上記アルミニウムまたはアルミニウム合金を凝固させる、アルミコートファイバの製造方法であって、
上記アルミニウムまたはアルミニウム合金の凝固後、300℃〜600℃の温度下で0.5時間〜50時間保持することを特徴とし、それによって、紫外線透過率を維持することができる、紫外線伝送用のアルミコートファイバの製造方法。 - 上記アルミニウムまたはアルミニウム合金の凝固後、400℃〜500℃の温度下で0.5時間〜50時間保持することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
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