JP3999920B2 - アイスクリーム及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、平均脂肪粒子径及び遊離脂肪率を一定範囲に調整したアイスクリーム及びその製造方法に関する。本発明のアイスクリームは、光照射による乳脂肪の酸化が抑制され、ショーケース等で長期間保存しても風味が良好であるという特徴を有する。
【0002】
【従来の技術】
アイスクリームについては、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)」に成分規格や製造方法の基準が定められている。それによれば、アイスクリーム(乳固形分15.0%以上、乳脂肪分8.0%、大腸菌群:陰性、一般細菌:1g当り10万以下)、アイスミルク (乳固形分10.0%以上、乳脂肪分3.0%、大腸菌群:陰性、一般細菌:1g当り5万以下)、ラクトアイス(乳固形分3.0%以上、大腸菌群:陰性、一般細菌:溶解水1ml当り1万以下)に分類される。
近年、大手量販店、デパート、スーパーマーケット、コンビニエンスストア等では、アイスクリームをショーケースに陳列し、商品の視認性の向上、見栄えを華やかにする等の目的で、ショーケース内で過度の蛍光灯照射を行っている。
アイスクリーム、アイスミルク(以下、アイスクリーム及びアイスミルクを含めアイスクリームという。)中に含有される乳脂肪は、光により酸化されやすく、酸化されるとアルデヒド類の生成に起因する風味劣化が起きやすいことが知られている(畜産食品加工学、斉藤喜一著)。そこで、アイスクリームミックスに、ビタミンC、ビタミンE(δ−トコフェロール)、β−カロチン等の酸化防止剤を適当量添加して、乳脂肪の光による酸化を抑制する試みや、容器の内側にアルミの層を施したり、容器表面をチタンホワイトでコーティングする等して、容器中の製品に直接光が当たらないようにして、乳脂肪の光による酸化を抑制する試みがなされている。
【0003】
しかしながら、前者においては、光照射による乳脂肪の酸化は抑制されるものの、酸化防止剤を添加することにより、風味が悪くなったり、コストが高くなるといった問題がある。また、原材料表示に「酸化防止剤」といった表示が必要となり、消費者に好まれない傾向がある。後者においては、光照射による乳脂肪の酸化は抑制できるものの、コストが高く、容器にアルミを使用すると製造現場での品質検査で金属探知器が使用できないといった製造上の問題が生じる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このような現状において、酸化防止剤を添加することなく、また容器に特別な加工を施すことなく、ショーケース等で光照射されても乳脂肪の酸化が抑制されたアイスクリームが求められている。
そこで本発明は、光照射による乳脂肪の酸化が抑制され、ショーケース等で長期保存しても風味の良好なアイスクリームを提供することを課題とする。
本発明において光とは、蛍光灯、太陽光等をいう。
本発明において遊離脂肪率とは、アイスクリーム中に含有される全脂肪重量に対する遊離脂肪重量の割合をいう。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、アイスクリームの平均脂肪粒子径を1.0〜1.5μm、及び遊離脂肪率を3〜13%に調整することにより、光照射による乳脂肪の酸化を抑制し、長期保存しても風味の良好なアイスクリームが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
通常、アイスクリームは、原料を混合してアイスクリームミックスを調製した後、これを均質処理し、殺菌、冷却、エージング、フリージング、充填、硬化することにより製造される。均質処理により均質化されたアイスクリームミックス中の脂肪球の平均脂肪粒子径は0.7〜1.2μmとなる。そしてエージング中に脂肪球は、数珠状に会合し、フリーザ中において低温下で高速撹拌されるとブドウの房状に凝集して気泡表面に吸着し、脂肪球の膜を作って気泡を安定化させる。この脂肪球の連鎖がアイスクリームの骨格となり気泡を安定に保ち、溶解しづらく保形性が良好で、貯蔵中に収縮せず、しかも口溶けの良好な組織を有するアイスクリームとなる。
【0006】
しかしながら、上記の工程においてアイスクリームミックスを低温下で高速撹拌すると、脂肪球の皮膜が破壊され、その中から遊離脂肪と呼ばれる液状脂肪が浸出する。この遊離脂肪は、脂肪球の皮膜が破壊された不安定な状態で存在するため、光照射による酸化を受けやすい。
そこで、アイスクリームミックスの均質処理時の均質圧力を調整することで平均脂肪粒子径を0.3〜0.6μmとし、フリーザーからの排出時の温度を調整したところ、脂肪球が高速撹拌時に剪断を受けづらくなり、脂肪球の皮膜の破壊も抑制されて、アイスクリーム中の遊離脂肪率が3〜13%と低減され、光照射による乳脂肪の酸化を抑制し、長期保存しても風味の良好なアイスクリームが得られた。なお、アイスクリームミックス中の脂肪球は、製造工程中で少しずつ凝集するため、最終製品中の脂肪球の平均脂肪粒子径は1.0〜1.5μmとなる。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明では、まず、アイスクリームミックス(以下、ミックスと略す。)を調製する。ミックスの配合は、通常のアイスクリームを製造する際に用いられるミックスであればいずれでもよく、例えば、生クリーム、脱脂粉乳、砂糖、乳化剤、安定剤、水を粉体溶解機に投入し、粉体原料を液体原料に分散、溶解させ、プレート式加熱殺菌機を用いて85〜90℃で15〜30秒間加熱殺菌処理を行う。その後、ミックスを高圧ホモゲナイザー等の高圧均質機に投入し、均質圧力500〜800kg/cm2 で均質処理し、プレート式熱交換機を用いて5℃以下に冷却し、ストレージタンクで一晩エージングを行う。
均質処理時の均質圧力が500kg/cm2 未満では、平均脂肪粒子径が0.8μmを超え、その後のフリージング工程における高速撹拌で脂肪球が剪断を受けやすくなり、遊離脂肪率が増加し、光照射による乳脂肪の酸化を抑制できないことがあるため好ましくない。また、均質圧力が800kg/cm2 を超えると、微細な脂肪粒子が増加し、均質処理後に脂肪粒子同士が凝集して平均脂肪粒子径が0.8μmを超え、その後のフリージング工程における高速撹拌で脂肪球が剪断を受けやすくなり、遊離脂肪率が増加し、光照射による乳脂肪の酸化を抑制できないことがあるため好ましくない。なお、ミックス中の乳脂肪含量により、平均脂肪粒子径の大きさも変化するため、平均脂肪粒子径が目標とする範囲内となるように、均質処理時の均質圧力を500〜800kg/cm2 に調整することが好ましい。
【0008】
次いで、エージング後のミックスをバッチ式フリーザー、連続式フリーザー等を用いてオーバーランが30〜100%となるようにフリージングを行い、適当な大きさの容器に充填して、約−20℃で硬化させ、−20〜−30℃で貯蔵することにより、本発明のアイスクリームを製造することができる。
なお、フリージング後はフリーザーから排出されるミックスの温度が−3.0〜−5.0℃となるように調整することが好ましい。ミックスの温度が−3.0℃を超えると、ミックスの凍結が不十分となりフリージング時における剪断を受けづらくなり、遊離脂肪率が3%に満たなくなり、アイスクリームの組織が脆く、滑らかさに欠け、口溶けが悪くなるのと、ミックスが柔らかくなりすぎて充填適性が悪くなるため、好ましくない。また、ミックスの温度が−5.0℃未満では、ミックスの凍結が進みすぎてフリージング時における剪断を受けすぎて遊離脂肪率が13%を超え、光照射による乳脂肪の酸化が起こりやすくなるため好ましくない。また、フリーザーから排出されるミックスの温度の調整は、フリーザーの蒸発圧力、ミックス流量又はダッシャー回転数等を調節することにより調整することができ、例えば、フリーザーの蒸発圧力は2.5kp、ミックス流量は160L/H、ダッシャーの回転数は180rpmとすることが好ましい。
【0009】
【実施例】
実施例1
表1に示す配合に従い、6種のアイスクリームを調製した。
【0010】
【表1】
Figure 0003999920
【0011】
試料1:クリーム(HFC:High Fat Cream、オーストラリア産)、脱脂粉乳、砂糖、乳化剤としてグリセリン脂肪酸エステル、安定剤として増粘多糖類製剤(キャベロックス、トーエイ貿易)及び水を粉体溶解機に投入し、分散、溶解させ、プレート式加熱殺菌機を用い、85℃で加熱殺菌処理を行った。次いで、高圧ホモゲナイザーを用い、均質圧力600kg/cm2 で均質処理を行った。その後、一晩エージングを行い、ミックスをフリーザー(WS−106G型、APVC−repaco社)に投入し、オーバーランを70%に設定し、蒸発圧力2.5kp/cm2 、ミックス流量150L/H、ダッシャー回転数160rpmに調節してフリージングを行い、フリーザーから排出されるミックスの温度を−3.5℃に調整し、円柱型白色容器(高さ2cm、直径7cm)に充填し、−25℃にて一晩硬化させて、アイスクリームを製造した。
試料2:フリーザーの蒸発圧力を1.9kp/cm2 に調節してフリーザーから排出されるミックスの温度を−4.5℃に調整する以外は、試料1と同様の方法でアイスクリームを製造した。
試料3:フリーザーの蒸発圧力を1.6kp/cm2 に調節してフリーザーから排出されるミックスの温度を−5.0℃に調整する以外は、試料1と同様の方法でアイスクリームの製造した。
【0012】
試料4:フリーザーの蒸発圧力を1.2kp/cm2 に調節してフリーザーから排出されるミックスの温度を−6.5℃に調整する以外は、試料1と同様の方法でアイスクリームの製造を試みたが、チャーニングが発生し、アイスクリームを製造することができなかった。
試料5:ミックスの均質処理を均質圧力200kg/cm2 で行い、さらにフリーザーの蒸発圧力を1.9kp/cm2 に調節してフリーザーから排出されるミックスの温度を−4.5℃に調整する以外は、試料1と同様の方法でアイスクリームの製造した。
試料6:ミックスの均質処理を均質圧力900kg/cm2 で行い、さらにフリーザーの蒸発圧力を1.9kp/cm2 に調節してフリーザーから排出されるミックスの温度を−4.5℃に調整する以外は、試料1と同様の方法でアイスクリームの製造を試みたが、チャーニングが発生し、アイスクリームを製造することができなかった。
試料1〜6のミックスについて、平均脂肪粒子径(メジアン径)とその粒径分布を粒度分布計SALD−2000(島津製作所製)を用いて測定した。なお、ミックスの平均脂肪粒子径の測定は、均質処理を行い一晩エージングを行ったミックスについて行った。
その結果を表2に示す。
【0013】
【表2】
Figure 0003999920
【0014】
試験例1
実施例1で得られた試料1〜3及び5のアイスクリームについて、平均脂肪粒子径(メジアン径)及び遊離脂肪率を測定した。
平均脂肪粒子径の測定:粒度分布計SALD−2000(島津製作所製)を用いて測定した。
遊離脂肪率の測定:200mlの分液漏斗に約10gの各試料を精秤し、四塩化炭素溶液30mlを加え、軽くしん盪させ、5分間静置後、上層と下層に別れた層のうち、下層を採取した。残った上層に四塩化炭素溶液30mlを加え、前記と同様の操作で下層を採取した。さらに、この下層を200ml分液漏斗に移し、飽和食塩水30mlを加え、前記と同様の操作で下層を採取した。この下層に残留する四塩化炭素溶液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、遊離脂肪を採取してその量を測定した。また、全脂肪量をバブコック法により測定し、全脂肪量に対する遊離脂肪量の割合を算出した。
その結果を表3に示す。
【0015】
【表3】
Figure 0003999920
【0016】
試験例2
実施例1で得られた試料1〜3及び5のアイスクリームについて、光照射試験を行った。
光照射試験:アイスクリームを−18℃のマウンテンショーケース(SANDEN社製)にて約1000ルクスの光照射を行いながら7日間保存し、保存0日後、保存3日後、保存7日後の各試料のPOV(過酸化物価)を鉄−チオシアネート法により測定した。なお、通常POVの値がおおよそ2を超えると酸化臭が感じられる。
さらに10名の熟練パネラーに各試料30g(品温−17℃)を食してもらい、酸化臭について、製造直後のアイスクリームを10点とし、これと比較した点数で評価した。
その結果を表4に示す。
【0017】
【表4】
Figure 0003999920
【0018】
試料1〜3は、経時的なPOVの上昇も少なく、光照射による乳脂肪の酸化が抑制されていることが確認された。また、保存7日後でも酸化臭が感じられないとの評価を得た。一方で、試料5は、経時的にPOVが上昇し、保存3日後で酸化臭が感じられ、好ましくないとの評価であった。
【0019】
【発明の効果】
本発明によれば、光照射による乳脂肪の酸化が抑制され、ショーケース等で長期間保存しても風味が良好なアイスクリームを提供することができる。
本発明のアイスクリームは、酸化防止剤を添加することなく、また、容器に特殊な加工を施さなくとも、アイスクリームの製造工程において、平均脂肪粒子径及び遊離脂肪率を調整することで、光照射による乳脂肪の酸化が抑制されるものである。

Claims (2)

  1. 乳化剤と安定剤を配合し、フリーザーからのアイスクリームミックス排出温度を−3.0〜−5.0℃とし、平均脂肪粒子径が1.0〜1.5μm、遊離脂肪率が3〜13%であり、光照射による乳脂肪の酸化が抑制されることを特徴とするアイスクリーム。
  2. アイスクリームの製造工程において、アイスクリームミックスの均質処理を均質圧力500〜800kg/cm2で行って平均脂肪粒子径を0.3〜0.6μmとなるようにする工程、及びフリーザーからアイスクリームミックスを−3.0〜−5.0℃で排出する工程を含むことを特徴とする請求項1記載のアイスクリームの製造方法。
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