JP3999362B2 - 周期的分極反転構造を有する強誘電体結晶の製造方法 - Google Patents

周期的分極反転構造を有する強誘電体結晶の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学結晶の技術分野に属し、特に、強誘電体結晶における周期的分極反転構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
強誘電体結晶の周期的分極反転構造は、該結晶の自発分極の方向を、ある領域毎に周期的に反転させたものである。ここでいう周期的な反転は、同一周期で反転・非反転を繰り返すことだけではなく、目的とする特性に沿って不定に変化する周期で反転・非反転を繰り返すことをも含むものである。周期的分極反転構造を有する強誘電体結晶を用いることによって、擬(似)位相整合(quasi-phase matching)が可能となり、第2高調波発生や光パラメトリック発振などが得られる。
【0003】
強誘電体結晶に対して周期的分極反転構造を形成する方法として、液体電極を用いた外部電圧印加法が知られている。この方法は、電解液を液体電極として用い、結晶に該液体電極を介して電界を作用させその部分の分極方向を反転する方法である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記液体電極を用いる方法の1つとして、液体金属を電極として用いる方法がある。しかしこの方法では、分極反転処理後に、結晶表面に付着した液体金属の残渣を取り除くために多くの時間を要するという問題が別途存在していた。また、液体金属と電気的接点をとるために接触させている金属リード線部分が腐食し、安定した分極反転処理ができないなどの欠点もあった。
【0005】
一方、強誘電体結晶については、MgドープLiNbO3 結晶(以下、「Mg−LiNbO3 結晶」とも表記する)などの特定の強誘電体は、耐光損傷性に優れたものとして注目されている。ところが、これらの強誘電体は、周期的分極反転構造を形成しようとしても、結晶破壊が発生し易く、その部分を通って電流がリークし易いために電圧が印加できず、形成が困難である。
【0006】
また、結晶破壊などの問題を克服して分極反転を行なうことができたとしても、分極方向が反転された領域だけを観察すると、例えば、+z面についても、また+z面から−z面に至る断面についても、反転状態にムラがあり均一ではなく、しかも、製品毎に反転状態の均一性の程度が異なり、同程度のムラが再現しない、などの問題があった。
【0007】
本発明の目的は、強誘電体結晶に対する周期的分極反転構造の製造方法を改善して、周期的分極反転構造を形成する際の結晶破壊の発生を抑制し、さらには、分極反転の均一性、製品毎の品質の再現性をより向上させることにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の製造方法は、以下の特徴を有するものである。
(1)電解質材料と溶媒としてのエチレングリコールとからなる電解液を液体電極として用い、強誘電体結晶からなる基板の片面の分極反転すべき領域に、液体電極を一方の電極として対向させ、
該基板の裏面に対して、少なくとも分極反転すべき領域に電界が作用し得るように、液体電極を他方の電極として対向させ、
45℃以上の温度において、両方の液体電極を介して該基板に分極反転電圧を印加し、分極の方向を反転することを特徴とする
周期的分極反転構造を有する強誘電体結晶の製造方法。
(2)上記基板の片面の分極反転すべき領域に液体電極を一方の電極として対向させる方法が、分極反転すべき領域だけが露出するように上記基板の片面に絶縁膜を設けこの露出した面に液体電極を対向させる方法である、上記(1)記載の製造方法。
(3)上記基板の片面に絶縁膜を設け露出した面に液体電極を対向させる方法が、絶縁膜が設けられた上記基板の片面を絶縁膜を含めてさらに金属膜で覆い、該金属膜を介して前記露出した面に液体電極を接触させる方法である、上記(2)記載の製造方法。
(4)分極反転電圧を印加するときの温度が、100℃以上であって電解液が沸騰しない温度である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)電解質材料が塩化リチウムである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)強誘電体結晶が、MgドープLiNbO 3 結晶である、上記(1)記載の製造方法。
(7)45℃以上に強誘電体結晶を昇温する手段が、該強誘電体結晶に液体電極を対向させたセット状態で全体を絶縁流体中に置き、該絶縁流体自体を加温し昇温するものである、上記(1)記載の製造方法。
【0015】
【作用】
液体電極を介して分極反転電圧を印加するに際し、その時の温度を45℃以上とすることによって、反転に必要な印加電圧を下げることができる。その結果、MgドープLiNbO3 結晶のようなものであっても、反転処理中の結晶破壊を防ぎ、目的とする分極反転構造を形成することが可能となる。
【0016】
本発明によれば、分極反転電圧を印加する際の温度は、100℃以上の温度がより好ましいことがわかった。本発明では、そのような高温でも沸騰することなく使用できるように、100℃よりも高い沸点の電解液を用いるものとした。
【0017】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の製造方法によって、強誘電体結晶に周期的分極反転構造を形成している工程を示す図である。同図(a)の例では、反転させるべき分極方向がz軸の方向であり、該z軸方向に対して垂直な2面(+z面、−z面)を基板面として有する誘電体結晶の基板(所謂、z板)1を用いている。該基板は、誘電体結晶基板に単分極化処理を施したものであり、片側の面には全面にわたって同じ分極が現れている。
【0018】
上記のような誘電体結晶の基板1に対して、該基板の片面(+z面)中の、分極反転すべき領域に、プラス側(高電位側)の液体電極2を対向させる。同図の例では、+z面の特定領域だけに液体電極からの電界を作用させるために、対向させない領域には絶縁膜4を形成しマスクしている。
また、分極反転させるべき領域に電界が作用するように裏面(−z面)に、マイナス側(グラウンド側)の液体電極3を対向させる。同図の例では、負極側の液体電極を−z面全面に接触させている。
【0019】
ここでいう、「対向させる」とは、液体電極を、直接的にまたは導電性の膜(金属薄膜等)を介して接触させることを意味する。
図1(a)のように、絶縁膜4を形成して液体電極2を対向させる場合、高温が作用すると、絶縁膜4がダメージを受ける恐れがあるので、例えば、高導電性の金属薄膜によって、絶縁膜4が設けられた側全体を絶縁膜を含めて、即ち、絶縁膜4の表面および露出した基板面を、さらに金属薄膜で覆い、絶縁膜4を保護するのが望ましい。このとき、前記露出した面に対しては、金属薄膜を介して液体電極が接触することになる。
【0020】
この状態から、結晶、液体電極などの周囲の温度を45℃以上とし、両方の液体電極を介して該基板に分極反転電圧を印加することによって、結晶破壊を抑制しながら分極反転することが可能となり、図1(b)に示すように、周期的分極反転構造を有する強誘電体結晶が得られる。
【0021】
本発明の製造方法に用いられる強誘電体結晶は、分極反転構造を形成しうるものであればよく、特に、電気光学効果など種々の非線形光学効果を示すものが好ましいものとして挙げられる。
例えば、LiNbO3 、LiTaO3 、M1 TiOM2 4 (M1 =K、Rb、Tl、Cs、M2 =P、As)などの代表的なものや、これらに種々の元素をドープしたものが挙げられる。特に、Mg−LiNbO3 結晶は、耐光損傷性に優れているが、従来技術の説明で述べたとおり結晶破壊が生じて製造困難であるため、これを対象とする場合、本発明の有用性は特に顕著となる。
【0022】
電圧印加する際の温度は、45℃以上とするが、温度を上昇させるにつれて分極反転電圧(分極反転が始まるしきい値の電圧)が低下するので、該温度はより高いほど好ましい。特に、結晶破壊の発生を十分に抑制する点では、100℃以上の温度とするのが好ましく、結晶、液体電極、その他付帯するものが変質しない温度範囲であればよい。
【0023】
液体電極に用いる電解液としては、電圧印加する際の条件温度である45℃以上の温度、特に好ましい温度である100℃以上の温度であっても沸騰せず、利用可能なものを用いる。
従って、電解液は、大気圧において前記条件温度よりも高い沸点を有するものが好ましい。しかし、雰囲気を高圧として沸点を上昇させてもよく、そのような高圧、高温でも分解しないような材料を用いてもよい。
【0024】
電圧印加する際の条件温度を100℃以上の温度(大気圧にて)とする場合、電解質材料と100℃よりも高い沸点の溶媒からなる電解液を用い、該電解液が沸騰しない温度で用いるのが好ましい。該溶媒としては、ポリオールまたはポリオールと水との混合物など、少なくともポリオールを含むことによって沸点を上昇させ、100℃よりも高くしたものが挙げられる。ポリオールのなかでも、アルキレングリコール、特にそのなかでもエチレングリコールは、沸点が197.6℃と高く、塩化リチウムなどの溶媒として好ましいものである。
【0025】
また、電解質材料としては、従来の液体電極法で用いられているものを用いてよいが、特に、塩化リチウムは、エチレングリコールやポリエチレングリコールによく溶けるので、好ましい電解質材料である。
【0026】
分極反転電圧を印加する際には、電圧の値をステップ状に立ち上げて印加してもよいが、電圧印加の初期に1〜10V/sec 程度のレートで電圧上昇部分を設けて、電圧を緩やかに立ち上げて印加してもよい。
【0027】
電圧を印加する際の温度条件を45℃以上に昇温する手段としては、結晶基板に両液体電極を対向させたセット状態で全体を絶縁流体中に置き、絶縁流体を加熱し昇温することで、両液体電極、結晶基板を含めた全体を昇温することが好ましい。この方法によれば、結晶(基板)表面における意図しない放電(沿面放電)が抑止でき、特に厚肉結晶で分極反転に高電圧が必要なときに有用である。このような絶縁流体としては、シリコンオイルなどの絶縁油、フロリナートなどの不活性絶縁液体、SF6などの絶縁ガスなどを用いることができる。
【0028】
【実施例】
実施例1
本実施例では、周期的分極反転構造を有するMg−LiNbO3 結晶を実際に製造した。
図1に模式的に示すように、材料の結晶基板1として、単分極化処理がなされた厚さ0.5mm、+zカットのMg−LiNbO3 結晶基板を用いた。基板1の+z面、−z面は、光学研磨されている。
【0029】
この基板の+z面に、フォトリソグラフィーにより周期的な縞状のマスクパターン(グレーティングパターン)を有するレジスト膜4を絶縁膜として形成した。縞状のマスクパターンは、帯状のマスク部分と帯状の露出部分とが交互に配置されたストライプ状のパターンであって、帯状のマスク部分の幅を17μm、帯状の露出部分の幅を12μmとした。その上に、金をスパッタにより4000Åの厚さで覆うようにした。
【0030】
次に、図1に示すように、基板1の+z面にプラス側の液体電極2を接触させ、−z面にマイナス側の液体電極3を接触させる。液体電極としては、エチレングリコールを溶媒としこれに塩化リチウムを溶かした電解液を用い、液体電極用の容器に入れて基板面に取付け、液体電極と基板面とを接触させた。この状態のまま、シリコンオイルバス中に入れ、結晶を含む全体の温度を約100℃まで上げ、電圧の印加を開始した。
【0031】
分極反転電圧を、1V/sec のレートで0Vから1.5Vまで立ち上げ、その後、1.5Vを10秒間維持し、分極反転させて、周期的分極反転構造を有するMg−LiNbO3 結晶を得た。
【0032】
〔評価〕
得られたMg−LiNbO3 結晶の周期的分極反転構造を観察した結果、z面においてグレーティングを作成した領域全体に、寸法精度の高い縞状パターンで周期的分極反転構造が得られていることが確認された。分極反転された帯状部分を+z面について観察したところ、分極反転の状態にはムラがなく均一であった。また、基板のy面を切断し、+z面から−z面に至る切断面についても、分極反転の状態は均一であった。この周期的分極反転構造を詳細に調べた結果、反転比率が50:50であることが確認された。
【0033】
【発明の効果】
本発明によって、強誘電体結晶、特にMg−LiNbO3 結晶に周期的分極反転構造を形成する際の結晶破壊の発生を抑制できるようになった。また、液体金属を用いた従来の方法に比べて、分極反転後の表面洗浄処理等が容易になり、生産性が大幅に向上した。また、液体電極に接続された電気的接点部分の腐食が減少し、分極反転処理が安定して行えるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法の一工程を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
1 強誘電体結晶の基板
2 プラス側の液体電極
3 マイナス側の液体電極
4 絶縁膜
5 分極反転部

Claims (7)

  1. 電解質材料と溶媒としてのエチレングリコールとからなる電解液を液体電極として用い、強誘電体結晶からなる基板の片面の分極反転すべき領域に、液体電極を一方の電極として対向させ、
    該基板の裏面に対して、少なくとも分極反転すべき領域に電界が作用し得るように、液体電極を他方の電極として対向させ、
    45℃以上の温度において、両方の液体電極を介して該基板に分極反転電圧を印加し、分極の方向を反転することを特徴とする
    周期的分極反転構造を有する強誘電体結晶の製造方法。
  2. 上記基板の片面の分極反転すべき領域に液体電極を一方の電極として対向させる方法が、分極反転すべき領域だけが露出するように上記基板の片面に絶縁膜を設けこの露出した面に液体電極を対向させる方法である請求項1記載の製造方法。
  3. 上記基板の片面に絶縁膜を設け露出した面に液体電極を対向させる方法が、絶縁膜が設けられた上記基板の片面を絶縁膜を含めてさらに金属膜で覆い、該金属膜を介して前記露出した面に液体電極を接触させる方法である請求項2記載の製造方法。
  4. 極反転電圧を印加するときの温度が、100℃以上であって電解液が沸騰しない温度である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 解質材料が塩化リチウムである請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
  6. 強誘電体結晶が、MgドープLiNbO3 結晶である請求項1記載の製造方法。
  7. 45℃以上に強誘電体結晶を昇温する手段が、該強誘電体結晶に液体電極を対向させたセット状態で全体を絶縁流体中に置き、該絶縁流体自体を加温し昇温するものである請求項1記載の製造方法。
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