JP3999305B2 - 光学用熱可塑性ウレタン樹脂レンズの製造方法とそのレンズ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱可塑性の含硫ウレタン樹脂レンズの製造方法とそのレンズに関する。
【0002】
【従来の技術】
レンズの素材はガラス全盛の時代を経て、化学合成の発展に伴い透明で耐候性の優れた樹脂レンズが開発されるようになり、アクリル、ポリカーボネート、ADC等の樹脂が用いられてきた。しかしレンズは、屈折率、収差、研磨性、耐衝撃性、耐候性、耐擦傷性など多岐の項目に亘り、厳しい物性が要求されている。中でも屈折率と収差については、双方のバランスのとれた優れた樹脂の開発が積極的に行われ、屈折率1.6、アッベ数35以上のガラスに匹敵する性能の樹脂が上市され、特に眼鏡用プラスチックレンズに好んで用いられている。また、眼鏡用プラスチックレンズにおいては、ファッション性を追求するため、染色性の良いことも大きな要素の一つである。
【0003】
レンズ、特に眼鏡用プラスチックレンズの製造方法は、射出成形法と鋳込み成形法が一般的であり、熱可塑性樹脂は主に射出成形法により、また熱硬化性樹脂は鋳込み成形法により製造される。これらの製造方法の優劣は一概にはつけられないが、レンズの製造の出発点において、熱可塑性樹脂は高分子化された状態であり、熱硬化性樹脂は低分子いわゆるモノマーの状態であるという相違がある。そして双方ともに密封されたレンズ成形空間に注入される。製造方法だけを考察すると射出成形方法は省力化しやすい方法であり、鋳込み成形法は労働集約的である。
【0004】
ところでレンズの特性の一つである屈折率に着目すると、前出のアクリルは1.49、ポリカーボネートは1.58、ADCは1.50、ウレタンは1.57、含硫ウレタンは1.67となっている。これらの樹脂の成形法としては、アクリル、ポリカーボネートについては射出成形法が、ADC、含硫ウレタンについては鋳込み成形法が用いられている。
【0005】
光学的性能の高いレンズを射出成形のような高分子材料を原料とする製法により製造することが可能になれば、レンズの生産性の向上に大きく寄与することになるが、上記したADC及び含硫ウレタンのような熱硬化性樹脂は、立体的架橋構造を有し、可塑化し得ないことから、射出成形を行うことはできなかった。そこで、本発明者らは、先に光学用熱可塑性共重合体として、チオウレタン結合とウレタン結合の両者を含有する光学用熱可塑性チオウレタン−ウレタン共重合体を開発し、米国特許出願(08/548,806)及びPCT国際出願(PCT/JP96/03710)に開示した。その概要を次に述べる。
【0006】
前記光学用熱可塑性共重合体は、ジイソシアネート及び/又はジイソチオシアネート化合物と、イソシアネート基と反応性のある基を2個有し、そのうち少なくとも一つがSH基であるチオール化合物とを反応させて、重量平均分子量1,000〜30,000のチオウレタンプレポリマーを形成する第一工程と、前記第一工程により得られたチオウレタプレポリマーと、ジイソシアネート化合物と、イソシアネート基と反応性のある基を2個有し、そのうちの少なくとも一つがOH基である水酸基含有モノマーから選ばれた少なくとも1種のウレタン形成性モノマーとを反応させる第二工程とからなることを特徴としたものである。これにより得られる共重合体は屈折率が1.59以上であり、かつアッベ数が34以上となっており、屈折率とアッベ数のバランスがよく、レンズ等の光学製品用として要求される諸性質を具備している。
【0007】
なお、前記共重合体は反応押出し機で連続的に製造しうるが、反応雰囲気温度が140℃以上であるため酸化されやすいことから、原材料の投入工程及び押出し機内を窒素などの不活性ガス雰囲気内下に保つのが好ましい。また、前記第二工程は、180℃以上に達し、押し出される樹脂がきわめて酸化されやすい状態にあるため、少なくとも本共重合体がそのガラス転位点温度116℃に達するまでの間は、同様に不活性ガス雰囲気下に置くのが好ましい。
【0008】
上記熱可塑性共重合体の開発により、優れた光学特性を有するレンズを高分子材料から得ることが可能になったが、一般に射出成形法によりレンズを製造した場合、フローラインの発生により光学的ムラが生じ易い等の問題点があり、射出成形法によっては上記共重合体の優れた光学特性が十分に活かされないことが明らかになった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、チオウレタン結合とウレタン結合の両者を含有する光学用熱可塑性チオウレタン−ウレタン共重合体を用いて、光学的諸特性に優れたレンズであって、かつレンズ全体に亘ってそれらの光学的特性にムラのないレンズを連続的に製造する方法及びその方法により製造されたレンズを提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明請求項1のレンズの製造方法においては、チオウレタンプレポリマーを形成する第一工程と、該チオウレタンプレポリマーと少なくとも1種のウレタン形成性モノマーとを反応させる第二工程を、押出し機内又は後続工程に押出し装置を有する反応器内で行い、前記押出し機又は押出し装置より押し出される光学用熱可塑性チオウレタン−ウレタン共重合体をシート状に延展し、該シート状に延展された共重合体を打ち抜くことによりレンズ前駆体を形成し、該レンズ前駆体の少なくとも一面に所定の曲面が付与されるように該レンズ前駆体をプレスする。
【0011】
上記製造方法において、前記レンズ前駆体は円板状に形成するのが好ましい(請求項2)。
【0012】
また、前記第一工程、第二工程及び共重合体の延展工程が窒素雰囲気下で行われることが好ましい(請求項3)。
【0013】
また、前記レンズ前駆体を加熱アニーリングした後プレスすることが好ましい(請求項4)。
【0014】
さらに、前記レンズ前駆体の少なくとも一面に所定の曲面を付与した後、ハードコート膜を付設し、加熱した後、プレスすることもできる(請求項5)。
【0015】
【発明の実施の形態】
次に、本発明における光学用熱可塑性チオウレタン−ウレタン共重合体(以下、単に共重合体という)の製造工程並びに該共重合体を用いたレンズの製造工程を図を用いて説明する。なお、以下に示す製造方法は、本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
図1は、共重合体を製造する一連の工程を示している。工程は一点鎖線で囲まれたA部分で行われるチオウレタンプレポリマーを形成する第一工程と、一点鎖線で囲まれたB部分で行われるチオウレタンと水酸基含有モノマーを反応させる第二工程とからなり、更に図2に示すように、続いて行われるレンズ製造工程(C部分)を構成する。
【0017】
先ず、前記A部分で行われる第一工程について説明する。
【0018】
タンク1にはジイソシアネート及び/又はジイソチオシアネート化合物、タンク2には、チオール化合物が窒素雰囲気下で格納されている。
【0019】
これらのタンクにはギヤポンプ3a及び3bがそれぞれ接続されており、ギヤポンプ3aと3bの吐出比は、所定の割合に調整されている。これらのポンプの吐出側は、ヒータ付スタティックミキサー5に接続され、両成分が充分に混合されるようになされている。この間液温は100℃以上に保たれ、両成分が化学反応してチオウレタンプレポリマーが形成され、シリンダの直径0.8吋の反応押出し成形機6の押出し部7に注入される。
【0020】
チオウレタンプレポリマーを押出し部7に注入する経路において、一旦リザーブタンク20に流入させた後、押出し部へ導くようにしてもよい。押出し部側にトラブルが発生した場合の原料保全の問題に対処するためである。なおこの第一工程で得られるチオウレタンプレポリマーは、別途反応器で製造し、押出し成形機に供給してもよい。
【0021】
押出し部7に注入したチオウレタンプレポリマーは、押出し部を構成するバレル内のスクリューで圧送されて第二工程のB部分に導かれる。第二工程では、タンク22に格納されているジイソシアネート化合物と、タンク21に格納されているジオールが、前工程で得られたチオウレタンプレポリマーに対して所定の割合でギヤポンプ3c、3dにより押出し部7へ注入され、混合されながら重合され、得られた共重合体8が押し出される。この間、窒素パージされた気体は、排出栓4から排出される。なお、上記第二工程も別の反応容器内で行い、生成物を押出し機へ注入するようにしてもよい。
【0022】
図3は、押出し部7のバレルの軸方向距離と各部におけるバレル内部温度を示したものであり、バレルへ最初に投入されてから押し出されるまでの時間は、通常は約20〜40分である。
【0023】
押し出された時点の共重合体は、透明で流動性があり、温度は約190℃である。この段階では、酸化されやすいために窒素ガス雰囲気下で徐冷する必要があり、共重合体8は窒素ガスで囲まれたコンベヤ9に連続的に投入される。共重合体8のガラス転移点温度は116℃であるため、レンズ製造工程でのハンドリングを考慮してコンベヤ9の出口側における共重合体8の温度が100℃〜130℃になるようにコンベヤ9の長さと窒素ガス温度を調整する。
【0024】
図示しないが、押出し部7の最終端に設置される金型は、コンベヤ9の出口側における共重合体が巾85mm、厚さ5〜10mm程度になるように設計するのが好ましい。またコンベヤ速度は、押出し部から吐出される共重合体に延伸がかけられるように、押し出し速度よりやや速い速度になっており、共重合体は一軸延伸され、分子配向が一定方向に制御される。なおコンベヤ9のコンベヤベルトは、表面が鏡面であることが好ましく、ステンレス材を研磨して用いることができるが、さらにフッ素をコーティングして離型性を高めてもよい。
【0025】
次にレンズ製造工程について図2を用いて説明する。
【0026】
コンベヤ9の出口側には回転式打抜き機10があって、ドラム10a、10bには打ち型11aと受け型11bがそれぞれ対応するように円周上に複数個設けられていてシート状の共重合体8の送られる速度に同期して回転しながらレンズ前駆体12を連続して打ち抜くことができる。打ち抜きの終了したシート状の共重合体8aは、ドラム10aに付着したまま回転するが、途中で適当な長さに切断され、収容される。符号13はテイクアップローラである。打ち抜かれたレンズ前駆体12は、吸着部を有するロボットハンド14でコンベヤ15上に配置される。コンベヤ15は、プレス機16へレンズ前駆体12を搬送するためのものであり、レンズ前駆体は個々にプレス機16の所定の位置へ手動又はロボットハンドなどでセットされる。
【0027】
プレス機16の金型17a,17bは、加熱と冷却の双方が行えるような装備を有している。この間のレンズ前駆体の温度は100℃程度に自然冷却されているので、再度プレス機16の下金型17a上で150℃以上に加熱される。その後、上記金型17bを降下させてレンズ前駆体12をプレス成形して、レンズ18を得る。
【0028】
レンズ前駆体12は、通常は直径80mm、厚さ5〜10mm程度の円板状であるが、プレスすることでマイナスレンズ、プラスレンズのいずれにも成形できる。眼鏡レンズはメニスカス形状になっているので、金型プレスする際には、中心部から外側へ一様に樹脂が流れるのでウエルドラインは発生しない。
【0029】
プレス後は、少なくともガラス転移点以下に冷却してレンズを取り出す。
【0030】
なお、上記においてレンズ前駆体12は、シート状に延展された共重合体8からプレス機で円板状に打ち抜かれて形成されるが、材料のロスを防ぐために、コンベヤ9上に押し出される共重合体8をレンズ形成に必要な体積を有する立方体状や四角い板状に切断して、これを丸みをもった形に延展してレンズ前駆体としてもよい。ただし、延展する際は、共重合体の塊の中心部から外側へ伸びる方向へ一様に延展するよう注意する。
【0031】
得られたレンズは、その後ディッピングやスピニングなどの適当な手法によりハードコート膜を形成し、熱乾燥するのが一般的であるが、別の手法として、指触乾燥後再度加熱プレスしてハードコート膜の乾燥と密着性の向上を図ることもできる。この際、若干のレンズの曲率修正を行うことができる。
【0032】
本製法では、半製品レンズすなわち円板状のレンズ前駆体8の状態で保管して、その後注文に応じてこの半製品レンズプレス成形し研磨して完成品を得ることもできる。
【0033】
半製品レンズの場合には、共重合体8aのシートの厚さを15〜20mm程度にする。また、半製品レンズをプレスする場合は、下金型又は上金型のどちらかを精密成形面とする。
【0034】
従来の鋳込み成型法においては、数十種類の曲率半径を有する球面に成形して在庫しているが、本発明によれば、レンズ前駆体のまま保管し、注文に応じて完成品とすることができるので、種類別の在庫が不要になるという利点がある。ただし、レンズ前駆体8は、樹脂の安定性を確保するために、120℃〜150℃で20〜120分のアニーリングを行った後保管するのが好ましい。
【0035】
【実施例】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものでない。
【0036】
図1に示されるタンク1に、4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)と1,3−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼンとを95:5(ただし重量比)の割合で混合した混合液、タンク2に、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィドをそれぞれ窒素雰囲気下で格納し、ギヤポンプ3aと3bの吐出量比を5:3に調整した。ヒータ付スタティックミキサー5で液温を110℃に保持しつつ、両成分を撹拌して反応させ、得られたチオウレタンプレポリマーを、シリンダの直径0.8吋の反応押出し成形機6の押出し部7に注入した。
【0037】
押出し部7に注入したチオウレタンプレポリマー65g/min(1分当りの注入量を示す。以下、同じ。)に対し、タンク22に格納されているMDI(4,4´−メチレンビスフェニルイソシアネート)20g/minと、タンク21に格納されているジオール(シクロヘキサンジメタノール)12g/minとを、ギヤポンプ3c、3dにより注入し、混合しながら重合させ、得られた共重合体8を押し出した。
【0038】
なお、チオウレタンプレポリマーが押出し部7のバレルへ最初に投入されてから押し出されるまでの時間は、20分であった。
【0039】
押し出された共重合体を窒素ガス雰囲気下で徐冷しつつ、コンベヤ9に連続的に投入して幅85mm、厚さ約1cmのシート状に延展した。コンベヤ9の長さは70cm、速度は10cm/minであって、コンベヤ9の出口側における共重合体8の温度は120℃であった。
【0040】
コンベヤ9の出口側において、シート状に延展された共重合体から、図2に示される回転式打抜き機10によって、直径80mm、厚さ約1cmの円板状のレンズ前駆体12を打ち抜いた。得られたレンズ前駆体12を、ロボットハンド14でコンベヤ15上に配置した。
【0041】
レンズ前駆体12をプレス機16の下金型17a上で180℃に加熱した後、金型17bを降下させてプレス成形して、レンズ18を得た。
【0042】
冷却後、このレンズ18の光学特性を調べたところ、屈折率が1.59、アッベ数が35であり、光学的ムラのないことがわかった。
【0043】
【発明の効果】
以上説明した本発明請求項1の製造方法によれば、屈折率が1.59以上でかつアッベ数が34以上の、光学的にムラのない、眼鏡としてバランスのよいレンズを連続的に製造することができる。また、完成品レンズを得る前段階のレンズ前駆体として保管が可能であり、市場でのレンズ需要に速い対応ができる。また完成品レンズにおいては、ハードコート膜の形成とアニーリング工程を同時に行いつつ若干の曲率半径を修正しうることから、多種類のレンズを在庫する必要がなくなり、製造者の負担を軽減できる。
【0044】
請求項3の方法によれば、各工程において酸化が防止されて高品質の製品が得られる。
【0045】
請求項4の方法によれば、樹脂の安定化を図ることができ、製品の品質をさらに向上させることができる。
【0046】
請求項5の方法によれば、プレスすることによりハードコート膜の乾燥と密着性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一工程及び第二工程の説明図である。
【図2】本発明のレンズ製造工程の説明図である。
【図3】本発明における押出し部におけるバレル内の温度状況を示すグラフである。
【符号の説明】
1, 2 タンク
3, 3b, 3c, 3d ギヤポンプ
5 スタティックミキサ
6 反応押し出し機
7 押出し部
8 共重合体
9 コンベヤ
10a, 10b, ドラム
11a 抜き型
11b 受け型
12 レンズ前駆体
16 プレス機
18 レンズ
22,22 タンク
Claims (5)
- チオウレタンプレポリマーを形成する第一工程と、該チオウレタンプレポリマーと少なくとも1種のウレタン形成性モノマーとを反応させる第二工程を、押出し機内又は後続工程に押出し装置を有する反応器内で行い、
前記押出し機又は押出し装置より押し出される光学用熱可塑性チオウレタン−ウレタン共重合体をシート状に延展し、
該シート状に延展された共重合体を打ち抜くことによりレンズ前駆体を形成し、
該レンズ前駆体の少なくとも一面に所定の曲面が付与されるように該レンズ前駆体をプレスする
ことからなるレンズの製造方法。 - 前記レンズ前駆体を円板状に形成することを特徴とする、請求項1に記載のレンズの製造方法。
- 前記第一工程、第二工程及び共重合体の延展工程が窒素雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載のレンズの製造方法。
- 前記レンズ前駆体を加熱アニーリングした後プレスすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレンズの製造方法。
- 前記レンズ前駆体の少なくとも一面に所定の曲面を付与した後、ハードコート膜を付設し、加熱した後、プレスすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のレンズの製造方法。
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