JP3997684B2 - 内歯部材の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、円筒部の内周面に内歯を有する内歯部材を、フローフォーミングによって一体的に製造する、内歯部材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
円筒部の内周面に内歯を有する内歯部材の製造方法が、例えば、特許第2525543号に開示されている。
【0003】
この方法を模式化して図12に示す。円盤状(板状)のブランク材101を、外周面に外歯102aを有するマンドレル102とテールストック103との間に挟み込んでマンドレル102の軸心C2を中心に回転させる。外周面に押圧部104aを有し、軸心C1を中心に回転自在なローラ部材104を、矢印K方向(軸心C2に沿った方向)に移動させ、ブランク材101を外歯102aの歯底近傍まで折り曲げて円筒部101aを形成しながらその内周面101bを外歯102aに押し付けて内周面101bに内歯を形成する。
【0004】
この製造方法によると、1個のローラ部材104の矢印K方向の移動によって、円筒部101aを形成しながら、その内周面101bに内歯を形成することができるので、円筒部101aとその内周面101bの内歯とをそれぞれ別の工程で形成する場合に比べて、加工工数を大幅に低減することができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の製造方法によると、内歯部材の成形時に、ローラ部材104の押圧部104aによって円筒部101aが半径方向外方(矢印R方向)に引き延ばされ、円筒部101aの基端部101cの肉厚が薄くなるために、円筒部101aを構成する材料を、マンドレル102の外歯102aに十分に流し込んで充填させることができない。そのため、円筒部101aの内歯に欠肉が発生するおそれがある。
【0006】
内歯部材の円筒部101aの内歯に、このような欠肉が生じると、相手部材と噛み合うための内歯のかかり代を確保することができなくなってしまう。例えば、内歯部材がクラッチドラムである場合には、相手部材であるクラッチプレートとのかかり代が不足するため、クラッチが円滑に動作しなくなるおそれがある。
【0007】
本発明は、上述事情に鑑みなされたものであり、欠肉が発生することなく、確実に内歯を形成することができる内歯部材の製造方法、及びそれに用いるローラ部材を提供することを目的とするものである。
【0008】
なお、本明細書中では「増肉」という言葉を、「薄肉化を極力、防止する」という意味で使用し、また、「増肉部」とは、「薄肉化を極力、防止するための部分」という意味で使用する。すなわち、積極的に薄肉化を防止しないような、加工中のブランク材の少なくとも一部が当然に薄肉化されてしまう場合において、その薄肉化された状態を基準としてそれよりも肉厚を厚くする、つまり増肉するものである。したがって「増肉」後においても、ブランク材の厚さが「増肉」前よりも薄くなる場合も、また逆に厚くなる場合もあることになる。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するための請求項1に係る本発明は、例えば、図7(a)、(b)、(c)に示すように、内周面に内歯を有する円筒部(95)を備えた内歯部材を、ローラ部材(30)により板状のブランク材(90)から製造する、内歯部材の製造方法において、
前記ローラ部材(30)は、その外周面(30c)に後端側から順に歯形成形部(31)、増肉部(32)及び湾曲部(33)を有し、前記増肉部と湾曲部とは一体となって凹状に形成され、
前記ブランク材(90)の中央側をその表裏から、外歯(51)を有するマンドレル(50)とテールストック(60)とによって挟み込んで前記ブランク材(90)の外周側を前記マンドレル(50)の外歯(51)から環状に突出させる挟持工程と、
前記マンドレル(50)を介して前記ブランク材(90)を回転させる駆動工程と、
前記ローラ部材(30)の前記増肉部(32)および前記湾曲部(33)を使用して、前記ブランク材(90)における前記マンドレル(50)から環状に突出された環状部分(92)をその薄肉化を防止しつつほぼ円筒状に屈曲させて前記円筒部(95)を形成する増肉工程と、
前記ローラ部材(30)の前記歯形成形部(31)により前記円筒部(95)を前記マンドレル(50)の外歯(51)に押し付けることで前記円筒部(95)の内周面に前記内歯を形成する内歯成形工程と、を備え
前記増肉工程と内歯成形工程とを、前記ローラ部材(30)が、前記挟持工程にて前記マンドレル(50)とテールストック(60)に挟持されているブランク材(90)に対して一方向に一回相対移動する一工程で行い、かつ前記増肉工程で成形した部分を前記内歯成形工程にて直接内歯を成形してなる、
ことを特徴とする内歯部材の製造方法にある。
【0010】
また、前記ローラ部材(30)の外周面における前記増肉部(32)よりもさらに先端側に形成された湾曲部(33)を使用しての湾曲工程を、前記増肉工程の後半部分と並行して設け、前記湾曲工程においては前記増肉工程により形成されつつある前記円筒部(95)の先端側の移動方向を前記湾曲部(33)により前記マンドレル(50)の外歯(51)に向けて偏向させて前記円筒部(95)を外側に凸状に湾曲させる。
【0011】
記増肉工程において、前記ローラ部材(30)の前記増肉部(32)が、前記ブランク材(90)の前記環状部分(92)を前記マンドレル(50)の前記外歯(51)に向けて斜めに押圧することで前記円筒部(95)を形成するとともに、前記内歯成形工程において、前記ローラ部材(30)の前記歯形成形部(31)が、前記マンドレル(50)の軸心(C2)に沿って移動することで前記円筒部(95)に前記内歯を形成する。
【0013】
記ローラ部材(30)の前記外周面(30a)には後端側から順に、前記円筒部(95)を前記マンドレル(50)の外歯(51)に押し付けることで前記円筒部(95)の内周面に内歯を形成する歯形成形部(31)と、前記増肉部(32)と、前記増肉部(32)により形成されつつある前記円筒部(95)の先端側の移動方向を前記マンドレル(50)の前記外歯(51)に向けて偏向させる湾曲部(33)とが滑らかに連続するように形成されている。
【0014】
記ローラ部材(30)の軸心(C1)を含む縦断面形状について、前記歯形成形部(31)は外側に向かって緩やかな凸状に形成され、前記増肉部(32)と前記湾曲部(33)とは一体となって外側に向かって緩やかな凹状に形成されている。
【0015】
記ローラ部材(30)の軸心(C1)を含む縦断面形状について、前記増肉部(32)は、前記歯形成形部(31)側に対し前記湾曲部(33)側が内側に傾斜している。
【0016】
記ローラ部材(30)の軸心(C1)を含む縦断面形状について、前記湾曲部(33)は、前記増肉部(32)と前記湾曲部(33)との接続部における接線(s)よりも外側に位置する。
【0017】
〔作用〕
請求項1の構成によると、挟持工程、駆動工程につづく増肉工程において、ローラ部材(30)は、その増肉部(32)によりブランク材(90)の環状部分(92)をその薄肉化を防止しつつほぼ円筒状に屈曲させて円筒部(95)を形成し、この増肉工程につづく内歯成形工程において、ローラ部材(30)は、その歯型成形部(31)により円筒部(95)をマンドレル(50)の外歯(51)に押し付けることで、円筒部(95)の内周面に内歯を形成することができる。上述の増肉工程を設けることで、円筒部(95)を構成する材料を、マンドレル(50)の外歯(51)を構成する歯部と歯部との間に十分に流し込んで充填させることができる。
【0018】
【発明の効果】
請求項1に係る発明によると、上述の〔作用〕で説明したように、増肉工程を設けることにより、これにつづく内歯成形工程において、円筒部(95)を構成する材料をマンドレル(50)の外歯(51)の歯部と歯部との間に十分に流し込んで充填させることができるので、円筒部(95)の内周面に形成される内歯に欠肉が発生することを防止することができる。
【0019】
更に、湾曲部(33)によって円筒部(95)の先端側をマンドレル(50)に向けて偏向させることにより、円筒部(95)の先端側がマンドレル(50)の外歯(51)から離れようとする動きを防止することができるので、円筒部(95)の基端部(94)近傍が薄肉となるのを防止することができる。加えて、湾曲部(33)によって円筒部(95)が外側に凸状に屈曲されるので、湾曲工程につづく内歯成形工程においては、凸状をならすようにして円筒部(95)の内周面をマンドレル(50)の外歯(51)に食い込ませることができるすなわち、マンドレル(50)の外歯(51)に対してマンドレル(50)の直径方向外側から円筒部(95)の内周面の材料を充填させることができるので、良好な内歯の成形を行うことが可能となる。
【0020】
肉工程と湾曲工程と内歯成形工程とを、マンドレル(50)に対する1個のローラ部材(30)の相対移動による1工程によって実現することができるので、増肉のための工程を他の部材によって行う必要がなく、加工時間を短縮することができる。
【0021】
なお、ここで「1工程」とは、1個又は複数のローラ部材が、マンドレルの外周面に沿って、ブランク材をマンドレルに押圧して移動するまでの成形過程とし、複数のローラ部材がそれぞれマンドレルの軸心方向位置に対してずれて配置されている場合であっても上述に従う限り、1工程というものとする。
【0022】
ーラ部材(30)は、増肉部(32)を有しているので、この増肉部(32)により内歯成形時に円筒部(95)が薄肉化されるのを防止することができる。
【0023】
ーラ部材(30)は、その外周面(30a)に、滑らかに連続する歯形成形部(31)と増肉部(32)と湾曲部(33)とを有しているので、1個のローラ部材(30)によって、円筒部(95)を増肉し、かつ増肉した円筒部(95)の内周面に内歯を形成することができる。すなわち、増肉のための他の部材、及び他の独立した工程が不要であるので、増肉のための構成が簡単で、かつ加工時間を短縮することができる。
【0024】
ーラ部材(30)は、外側に向かって緩やかに凹状の増肉部(32)と湾曲部(33)とによってブランク材(90)の環状部分(92)をマンドレル(50)の外歯(51)に向けて斜めに押圧することで、増肉部(32)に対する増肉及び湾曲を行うことができ、また、外側に向かって緩やかな凸状の歯形成形部(31)をマンドレル(50)の軸心(C2)に沿って移動させることで、円筒部(95)の内側に内歯を形成することができる。
【0025】
ーラ部材(30)は、増肉部(32)における歯形成形部(31)側に対し湾曲部(33)側が内側に傾斜しているので、このように傾斜した増肉部(32)によってブランク材(90)の環状部分(92)をマンドレル(50)の外歯(51)に向けて斜めに押圧することで、円筒部(95)を増肉しながらほぼ円筒状に屈曲させることができる。
【0026】
ーラ部材(30)は、湾曲部(33)が上述の接線(S)よりも外側に位置しているので、この湾曲部(33)により、増肉中の円筒部(95)の先端側(96)の進行方向をマンドレル(50)の外歯(51)に向けて偏向させて、円筒部(95)全体をほぼ外側に凸状に形成することができる。これにより、上述の請求項2と同様の理由で、歯形成形部(31)による円筒部(95)の内側の内歯の成形を円滑に行うことができる。
【0027】
なお、上述の〔課題を解決するための手段〕、〔作用〕、及び〔発明の効果〕中の記載におけるカッコ内の符号は、図面との対照を容易にするために便宜的に付したものであり、したがって、これらの符号は、特許請求の範囲に何らの影響を与える性質のものではない。
【0028】
【発明の実施の形態】
本発明に係る内歯部材の製造方法によって製造される内歯部材、あるいは本発明に係るローラ部材によって成形される内歯部材として、以下の説明では、クラッチドラムを例に説明する。このクラッチドラム(以下単に「ドラム」という。)は、自動車等に搭載される自動変速機の主要構成部材の1つとして使用されるものである。
【0029】
まず、図1の自動変速機の要部断面図を参照しながら、自動変速機、及びドラムについて説明する。
【0030】
同図に示す自動変速機は、摩擦係合要素として2個のクラッチ、すなわち第1のクラッチ1と第2のクラッチ2とを備えており、また回転自在に配設された第1の回転部材としての筒状の連結体3と、回転自在なスリーブ4とを備えている。
【0031】
上述の第1のクラッチ1は、内歯部材としてのドラム5と、クラッチハブ6と、複数のクラッチプレート7と、複数のクラッチディスク8と、油圧サーボ9とを有している。ドラム5は、上述の連結体3と連結され、回転自在に配設されている。クラッチハブ6は、第2の回転部材(不図示)と連結され、かつドラム5に対して相対的に回転自在に配設されている。クラッチプレート7は、その外周縁がドラム5とスプライン結合されており、また、クラッチディスク8は、その内周縁がクラッチハブ6とスプライン結合されている。油圧サーボ9は、クラッチプレート7とクラッチディスク8とを選択的に圧接させることにより、第1のクラッチ1を係脱させている。
【0032】
上述のドラム5は、筒状の円筒部10と環状の底部(ブランク材の中央側)11とを備えており、さらに円筒部10は、所定の径を有する第1の円筒部10aとドラム5の開口側に拡径し第1の円筒部10aより径が大きい第2の円筒部10bとを有する。そして、ロールフォーミング加工によって、第1の円筒部10aの内周面に第1の内歯としてのスプライン12が、また第2の円筒部10bの内周面に第2の内歯としての第1の噛合部13が形成される。
【0033】
スプライン12は、円周方向において交互に、かつ等ピッチで径方向内方に突出されて形成されたスプライン歯14、及び各スプライン歯14間に形成されたスプライン溝15からなる。また、第1の噛合部13は、円周方向において交互に、かつ等ピッチで径方向内方に突出させて形成された凸部16、及び凸部16間に形成された凹部17からなる。そして、スプライン歯14、スプライン溝15、凸部16、凹部17は、いずれも、ドラム5の軸心C3方向(図3参照)に延設されている。
【0034】
上述のドラム5の外周には、図1に示すように、バンドブレーキ18が所定の間隙を介して対向するように配置されており、ドラム5の外周面にはバンドブレーキ18との係合面5aが形成されている。したがって、バンドブレーキ18をこの係合面5aに係脱させることによって、ドラム5を選択的に停止させることができる。また、油圧サーボ9は、底部11内において摺動自在に配設されたピストン19と、このピストン19を底部11に向けて付勢するスプリング20とからなる。
【0035】
次に、第2のクラッチ2は、ドラム21と、クラッチハブ22と、複数のクラッチプレート23と、複数のクラッチディスク24と、油圧サーボ(不図示)とを有している。クラッチハブ22は、別の回転部材(不図示)と連結され、かつ、ドラム21に対して相対的に回転自在に配設されている。クラッチプレート23は、その外周縁がドラム21とスプライン結合されており、また、クラッチディスク24は、その内周縁がクラッチハブ22とスプライン結合されている。油圧サーボは、クラッチプレート23とクラッチディスク24とを選択的に圧接させることにより、第2のクラッチ2を係脱させている。
【0036】
ところで、上述のドラム5と連結体3とは、互いに噛合されることによって連結され、そのために、連結体3の先端に、冷間鍛造、プレス加工、グローブ転造等の成形方法によって第2の噛合部25が形成されている。この第2の噛合部25は、円周方向において交互に、かつ等ピッチで形成された非加工部26及び加工部27からなり、この加工部27は、非加工部26と同じ肉厚のまま、径方向外方に押し出される。そして、ドラム5の凸部16と非加工部26とが、また凹部17と加工部27とがそれぞれ嵌合されている。
【0037】
次に、図2、図3を参照して、内歯部材としてのドラム5の形状を詳述する。図2は、第1の噛合部13の軸心C3(図3参照)に直交する方向の縦断面図であり、図3は軸心C3を含む縦断面図である。
【0038】
前述したようにドラム5は、円筒部10と底部11とを備えており、さらに円筒部10は第1の円筒部10aと第2の円筒部10bとを有している。第1の円筒部10aの内周面には第1の内歯としてのスプライン12(スプライン歯14とスプライン溝15)が形成されている。また、第2の円筒部10bの内周面には第2の内歯としての第1の噛合部13(凸部16と凹部17)が形成されている。なお、凸部16の内周面には、潤滑油をドラム5の外側に抜き出すための溝16aが形成されている。また、符号28は段部である。
【0039】
次に、本発明の特徴である、内歯部材の製造方法、及びそれに用いるローラ部材について詳述する。以下では、内歯部材として上述のドラム5を製造する例を説明するが、本発明は、ドラム5に限らず、円筒部の内周面に内歯を有する一般的な内歯部材を、円盤状(板状)のブランク材から一体的に形成するときの製造方法に広く適用できるものである。
【0040】
図4に、ローラ部材30の、軸心C1を含む縦断面図を示す。同図におけるローラ部材30の左側の面を後端面30a、また右側の面を前端面30bとし、さらに外周面を30cとすると、ローラ部材30の外周面30cには、後端側から順に、歯形成形部31と増肉部32と湾曲部33とが滑らかに連続するように形成されている。同図に示す断面形状について、歯形成形部31は外側に向かって緩やかな凸状に形成されている。増肉部32は歯形成形部側32aに対して湾曲部側32bが内側に直線状に傾斜している。湾曲部33は、外側に向かって緩やかな凹状に形成されていて、増肉部32と湾曲部33との接続部における接線Sとすると、この接線Sの外側に位置している。そして、増肉部32と湾曲部33とは一体となって外側に向かって緩やかな凹状に形成されている。
【0041】
ローラ部材30の内側には、回転自在な軸部材(不図示)のテーパシャンクに嵌合するためのテーパ部34が形成されており、また、軸部材に固定するためのボルト(不図示)が貫通される8個のボルト孔35が、周方向を8等分する位置に穿孔されている。さらにローラ部材30を取り扱うためのボルトが螺合される透孔36が2個穿孔されている。
【0042】
なお、ローラ部材30の外周面30cの別の形状については図10(後述)に示す。
【0043】
ドラム5を加工するための加工装置40は、図5に示すように、上述のローラ部材30のほかにマンドレル50を備えている。マンドレル50の先端側の外周面には、図6に示すように、ドラム5の第1の内歯(スプライン12)に対応する第1の外歯51がその歯部をZ軸方向である矢印C、D方向に向けて形成されている。また、マンドレル50の外周面には、上述の第1の外歯51のほかに、ドラム5の第2の内歯(第1の噛合部13)に対応する第2の外歯52がその歯部を上述の第1の外歯51と同様に、Z軸方向に向けて形成されている。そして、第1の外歯51と第2の外歯52との間には、前述のドラム5の段部28に対応する環状の段差部53が形成されている。
【0044】
マンドレル50の先端面に対向した位置には、図5に示すように、テールストック60が回転自在、かつZ軸方向(矢印C、D方向)に移動駆動自在に設けられている。テールストック60の先端の、マンドレル50と対向する位置には、皿状に形成されたブランク材押圧部61が形成されている。また、マンドレル50の周囲には、ほぼ円筒状に形成されたフローフォーミング用の上述のローラ部材30、中仕上げローラ70、上仕上げローラ80が回転自在に、またマンドレル50の軸心C2に対して放射方向である矢印E、F方向に移動自在に設けられている。すなわち、ローラ部材30、中仕上げローラ70、上仕上げローラ80の、マンドレル50の軸心C2に向かう方向(矢印E方向)及び離間する方向(矢印F方向)、マンドレル50の軸心C2に沿った方向(矢印C、D方向)の移動は、各ローラ30、70、80ごとに個別に制御されるようになっている。
【0045】
ドラム5の製造に先立ち、例えばプレス加工によって所定の厚さt1(例えば厚さ6mm)の円盤状(板状)のブランク材90が形成される。
【0046】
上述構成の加工装置40によって、ドラム5を製造するには、まず、図7(a)に示す挟持工程を行う。この挟持工程においては、ブランク材90の中央側91(図3におけるドラム5の底部11に対応)をその表裏からマンドレル50とテールストック60との間に挟み込んで、ブランク材90の外周側をマンドレル50の外歯51から環状に突出させて環状部分92を形成する。
【0047】
つづいて、マンドレル50及びテールストック60を回転駆動して、これらに挟持されたブランク材90を回転させる工程、すなわち駆動工程を行う。この駆動工程によって、マンドレル50、テールストック60、ブランク材90がマンドレル50の軸心C2を中心として一体となって回転する。なお、ローラ部材30を積極回転させる構成の場合は、この駆動工程においてローラ部材30を回転駆動させることになるが、本実施の形態においては、ローラ部材30をはじめ、中仕上げローラ70、上仕上げローラ80は、ブランク材90の回転に伴って従動回転する構成を採用しているので、この駆動工程においては、これらのローラ30、70、80は、停止したままである。
【0048】
つづいて、増肉工程を行う。この増肉工程においては、図7(a)、(b)に示すように、回転しているブランク材90に対して、ローラ部材30を図7(a)中の矢印K1方向に移動させることで、ローラ部材30の増肉部32によってブランク材90の環状部分92をマンドレル50の外歯51に向けて斜めに押圧する。これにより、ブランク材90の環状部分92はその先端側93が、従動回転している増肉部32に倣って移動し、基端側94を基準としてマンドレル50の外歯51に向けて円筒状に屈曲されて円筒部95(ドラム5の円筒部10に対応)となる。このとき、ブランク材90の円筒部95に対しては、ローラ部材30の増肉部32によって前述した図12の矢印R方向の力(円筒部95を半径方向外方に引っ張るような力)が作用することがなく、むしろ圧縮方向に力が作用するので、円筒部95は屈曲されながら、肉厚の薄肉化が防止されて加工前のブランク材90の板厚t1とほぼ同じ厚さt3(例えば6mm)の円筒部95となる。
【0049】
上述の増肉工程の前半部分においては、上述のように、ブランク材90の環状部分92は、ローラ部材30の矢印K1方向の移動により増肉部32に倣って移動するが、増肉工程の後半部分においては、湾曲部33に倣って移動する。この増肉工程の後半部分における、環状部分92が湾曲部33に倣って移動する部分が湾曲工程である。
【0050】
前述のように、湾曲部33は、湾曲部33と増肉部32との接続部における接線S(図4参照)よりも外側に位置しているので、この湾曲部33に倣って移動する円筒部95の先端側96の移動方向がマンドレル50の外歯51に向けて偏向されることになる。これにより、円筒部95は、図7(b)に示すように、全体として外側に凸状に湾曲される。なお、図7(b)の実線は、増肉工程及び湾曲工程が続行されている状態を示しており、これら増肉工程及び湾曲工程が終了したときには、同図中の二点鎖線で示すように、ローラ部材30は、軸心C2に沿ってさらに下流側に、かつさらに外歯51に近接した位置に配置される。このとき、円筒部95は、その先端側96がマンドレル50の外歯51に近接した位置に配置される。
【0051】
つづいて、内歯成形工程に移る。この内歯成形工程は、上述の増肉工程及び湾曲工程が終了して、図7(b)の二点鎖線に配置されたローラ部材30を、軸心C2に沿って矢印K2方向に平行移動させることで行われる。ローラ部材30の歯形成形部31のうちの最も直径が大きい部分、したがってマンドレル50の外歯51に最も近接する部分を最近接部31aとすると、上述の増肉工程及び湾曲工程の終了時には、最近接部31aとマンドレル50の外歯51の歯底51aとの距離xが、円筒部95の厚さt3よりも小さくなり、この距離xを維持したまま、ローラ部材30を矢印K2方向に平行移動させることにより、円筒部95の内周面を外歯51に食い込ませて、円筒部95に内歯を形成することができる。このとき、円筒部95は、図7(b)の二点鎖線に示すように、外側に向けて凸状に湾曲されているので、矢印K2方向に移動されるローラ部材30の歯形成形部31によって、その凸状をならすように押圧される。つまり、円筒部95の内周面を位置する素材(材料)を、径方向外方から内方に向かって矢印K4方向にマンドレル50の外歯51に対して充填させることができるので、従来の内歯成形工程が円筒部95を径方向外方に引っ張るようにして行われ円筒部の基端部が薄くなりがちであったのとは異なり、基端部94の肉厚の薄肉化を防止して十分に厚く確保することが可能となる。そして、ドラム5の円筒部95の内周面に形成される内歯に欠肉が生じにくい。
【0052】
上述により、円筒部95の内周面に、ドラム5のスプライン(第1の内歯)12となる内歯が形成される。
【0053】
つづいて、ローラ部材30を矢印K3方向、すなわちマンドレル50の第1の外歯51と第2の外歯52との段差に対応する分だけマンドレル50から離間させながら軸心C2に沿った方向に移動させる。これにより、円筒部95の先端側96の内周面が第2の外歯52に食い込んで、ドラム5の第1の噛合部(第2の内歯)13となる内歯が形成される。
【0054】
上述の内歯成形工程の終了後、中仕上げローラ70により中仕上げを、さらにこれにつづいて、上仕上げローラ80により上仕上げを行う。まず、中仕上げローラ70、上仕上げローラ80を図5中の矢印E方向に移動させる。図8に示すように、荒仕上げローラも兼用しているローラ部材30、中仕上げローラ70、上仕上げローラ80を、マンドレル50の軸心C2に沿った方向である矢印C、D方向に所定量ずつシフトさせた状態で、円筒部95をマンドレル50の外歯51上に押圧するとともに、図9(a)、(b)に示すように、矢印C方向に移動させつつ荒・中・上仕上げを行う。これにより、図8に示すように、円筒部95は、まずローラ部材30により厚さt3から厚さt4に薄く塑性変形され、つづいて中仕上げローラ70により厚さt4から厚さt5に薄く塑性変形され、最後に、上仕上げローラ80によって厚さt5から厚さt2に薄く塑性変形される。これらの塑性変形は連続的に行われる。
【0055】
なお、ローラ部材30、中仕上げローラ70、上仕上げローラ80は、図8においては矢印C、D方向にずれた位置に配置されているが、すべてのローラ30、70、80が矢印C、D方向についての同じ位置に配置されるようにしてもよい。また、これらのローラ30、70、80は、図8においてマンドレル50に対して矢印C、D方向に相対的に移動させればよく、本実施の形態では、ローラ部材30、中仕上げローラ70、上仕上げローラ80を矢印C方向に移動させるようにしているが、これに代えて、マンドレル50及びテールストック60を矢印D方向に移動させるようにしてもよい。さらに、ローラ部材30、中仕上げローラ70、上仕上げローラ80の放射方向の位置、及び加圧コントロールは、NC制御によりコントロールされるものとする。
【0056】
上述の挟持工程、増肉工程、湾曲工程、そして内歯成型工程により、円筒部10を構成する第1の円筒部10aと第2の円筒部10bとのそれぞれに内歯として第1の内歯(スプライン)12と第2の内歯(第1の噛合部13)13とを有するドラム5(内歯部材)を形成することができる。
【0057】
以上の説明では、本発明に係る内歯部材の製造方法、及びそれに用いるローラ部材を、ドラム5に適用した例を説明したが、もちろん図1に示すドラム21に対しても適用することができ、この場合も、上述と同様の作用・効果を奏することができる。
【0058】
図10(a)〜(e)は、本発明に係るローラ部材30の外周面30cの他の形状を示す縦断面の一部である。これらのローラ部材30は、いずれも歯形成形部31と増肉部32と湾曲部33とを備えており、歯形成形部31についてはすべて同形であり、残る増肉部32と湾曲部33の形状が微妙に異なるものである。
【0059】
まず(a)は、上述の実施の形態中の図4で説明したものであり、増肉部32が直線状に形成され、湾曲部33が曲線状に形成されている。そして、湾曲部33の先端側が面取りRを除いて外側を向いている。
【0060】
これに対し(b)は、(a)とは湾曲部33の先端側が内側を向いている点のみが異なる。
【0061】
(c)は、増肉部32が曲線で形成されている点のみが(b)と異なる。
【0062】
(d)は、増肉部32と湾曲部33とが一体となって曲線状に形成されており、両者が特に区別されない。つまり、両者はいずれも曲線で構成されており、両者は区別が困難な程度に滑らかに接続されている。
【0063】
(e)は、増肉部32と湾曲部33とがいずれも直線状に形成されている。ただし両者の連続部分は滑らかに連続されている。
【0064】
これら(a)〜(e)から明らかなように、増肉部32及び湾曲部33の形状は、前述の増肉工程において、増肉部32に倣って移動した円筒部95の先端側96が、湾曲部33によってその移動方向をローラ部材30に対して外側に向かって、したがって、マンドレル50の外歯51に近接する方向に向かって偏向するような形状に形成されている。
【0065】
図11(a)、(b)、(c)に、本発明に係る内歯部材に製造方法によって製造されるドラムの、それぞれ軸心を含む縦断面図を示している。
【0066】
(c)に示すドラム5は、図3、図7等において詳述したものである。
【0067】
(a)に示すドラム5Aは、円筒部95の内周面における、軸心方向の中間部95aに内歯が形成されており、円筒部95の基端部95b及び先端部95cには、内歯は形成されていない。
【0068】
これに対し、(b)に示すドラム5Bは、円筒部95における基端部95bから中間部95aにかけて内歯が形成されており、先端側には形成されていない。
【0069】
なお、いずれのドラム5、5A、5Bに対しても、共通のローラ部材30によって加工することができる。
【0070】
上述の図11の(a)、(b)、(c)のドラム5、5A、5Bの特徴は、いずれも円筒部95の、軸心方向の長さが長い点にある。すなわち、本発明に係る内歯部材の製造方法、及びそれに用いるローラ部材によると、円筒部の内周面に形成される内歯の欠肉をよく防止することができるので、内歯部材の円筒部95の、軸心方向長さが長い場合に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】ドラム(内歯部材)が使用される自動変速機の一例を示す縦断面図。
【図2】ドラムの第2の円筒部の、軸に直交する縦断面図。
【図3】ドラムの円筒部の、軸を含む縦断面図。
【図4】ローラ部材の軸を含む縦断面図。
【図5】加工装置の一例を示す斜視図。
【図6】マンドレルの軸を含む縦断面図。
【図7】(a)、(b)、(c)は、ドラムの製造工程を示す図。
【図8】ローラ部材、中仕上げローラ、上仕上げローラによる加工態様を示す図。
【図9】加工装置による加工態様を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図。
【図10】(a)〜(e)は、ローラ部材の外周面の形状の変形例を示す一部断面図。
【図11】(a)、(b)、(c)はそれぞれ異なるドラムの形状を示す縦断面図。
【図12】従来の加工例を示す図。
【符号の説明】
5、5A、5B、21
内歯部材(ドラム)
10 円筒部
10a 第1の円筒部
10b 第2の円筒部
12 内歯(第1の内歯、スプライン)
13 内歯(第2の内歯、第1の噛合部)
30 ローラ部材
30a ローラ部材の外周面
31 歯形成形部
32 増肉部
33 湾曲部
50 マンドレル
51 外歯(第1の外歯)
52 外歯(第2の外歯)
60 テールストック
90 ブランク材
91 ブランク材の中央側
92 環状部分
95 円筒部
96 円筒部の先端側
C1 ローラ部材の軸心
C2 マンドレルの軸心
S 接線

Claims (7)

  1. 内周面に内歯を有する円筒部を備えた内歯部材を、ローラ部材により板状のブランク材から製造する、内歯部材の製造方法において、
    前記ローラ部材は、その外周面に後端側から順に歯形成形部、増肉部及び湾曲部を有し、前記増肉部と湾曲部とは一体となって凹状に形成され、
    前記ブランク材の中央側をその表裏から、外歯を有するマンドレルとテールストックとによって挟み込んで前記ブランク材の外周側を前記マンドレルの外歯から環状に突出させる挟持工程と、
    前記マンドレルを介して前記ブランク材を回転させる駆動工程と、
    前記ローラ部材の前記増肉部および前記湾曲部を使用して、前記ブランク材における前記マンドレルから環状に突出された環状部分をその薄肉化を防止しつつほぼ円筒状に屈曲させて前記円筒部を形成する増肉工程と、
    前記ローラ部材の前記歯形成形部により前記円筒部を前記マンドレルの外歯に押し付けることで前記円筒部の内周面に前記内歯を形成する内歯成形工程と、を備え
    前記増肉工程と内歯成形工程とを、前記ローラ部材が、前記挟持工程にて前記マンドレルとテールストックに挟持されているブランク材に対して一方向に一回相対移動する一工程で行い、かつ前記増肉工程で成形した部分を前記内歯成形工程にて直接内歯を成形してなる、
    ことを特徴とする内歯部材の製造方法。
  2. 前記ローラ部材の前記湾曲部は、前記増肉部により形成されつつある前記円筒部の先端側の移動方向を湾曲部により前記マンドレルの外歯に向けて偏向させて前記円筒部を外側に凸状に湾曲させる、
    ことを特徴とする請求項1に記載の内歯部材の製造方法。
  3. 前記増肉工程において、前記ローラ部材の前記増肉部が、前記ブランク材の前記環状部分を前記マンドレルの前記外歯に向けて斜めに押圧することで前記円筒部を形成するとともに、前記内歯成形工程において、前記ローラ部材の前記歯形成形部が、前記マンドレルの軸心に沿って移動することで前記円筒部に前記内歯を形成する、
    ことを特徴とする請求項2に記載の内歯部材の製造方法。
  4. 前記ローラ部材の内周面は、前記歯形成形部と前記増肉部と前記湾曲部とが滑らかに連続するように形成されてる、
    ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の内歯部材の製造方法
  5. 前記ローラ部材の軸心を含む縦断面形状について、前記歯形成形部は外側に向かって緩やかな凸状に形成され、前記増肉部と前記湾曲部とは一体となって外側に向かって緩やかな凹状に形成されている、
    ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の内歯部材の製造方法
  6. 前記ローラ部材の軸心を含む縦断面形状について、前記増肉部は、前記歯形成形部側に対し前記湾曲部側が内側に傾斜している、
    ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の内歯部材の製造方法
  7. 前記ローラ部材の軸心を含む縦断面形状について、前記湾曲部は、前記増肉部と前記湾曲部との接続部における接線よりも外側に位置する、
    ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の内歯部材の製造方法
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