JP3997576B2 - モノクローナル抗体、ハイブリッド細胞およびモノクローナル抗体の製造方法 - Google Patents

モノクローナル抗体、ハイブリッド細胞およびモノクローナル抗体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、モノクローナル抗体及びその製造方法、特にアクロレイン(略号:ACR)と蛋白質との反応物に対する高い特異性を有するモノクローナル抗体とその製造方法に関する。さらに詳しくは、ホルミルデヒドロピペリジン構造を特異的に認識するモノクローナル抗体とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
生体内の脂質成分としては、トリグリセリド、リン脂質、コレステロールエステルあるいは遊離脂肪酸などが知られている。これらの化合物が高度不飽和脂肪酸残基を有する場合、生体に作用する様々な酸化ストレスによって、この高度不飽和脂肪酸残基が過酸化を受け、更に、過酸化分解して、脂質の過酸化分解物が生成され、様々な病態に関与していることが明らかにされつつある。
【0003】
前記、高度不飽和脂肪酸残基を有する化合物としては、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などが代表的なものである。その過酸化分解物としては、マロンジアルデヒド、4−ヒドロキシノネナールおよび4−ヒドロキシヘキセナールなどのアルデヒドが知られている。これらのアルデヒドは生体内の蛋白質、ペプチドあるいはアミノ酸等と反応して付加体を形成し、様々な疾病との関与が盛んに研究されている。特に、マロンジアルデヒドあるいは4−ヒドロキシノネナールと蛋白質との付加体が動脈硬化層に多く存在することが確認されており、動脈硬化症との因果関係が非常に注目されている。
【0004】
生体内で高度不飽和脂肪酸残基から生成するマロンジアルデヒド、4−ヒドロキシノネナールあるいは4−ヒドロキシヘキセナールなどに対して、ACRは、食用油の加熱、あるいは、ガソリンあるいはプラスチックの燃焼によって生成することが一般的に知られており、食用油あるいは食品の包装材料等に用いられているプラスチックの分解により生成して、経口などの経路で生体内に移行し、生体に対して様々な毒性を示す事が危惧されている。
また最近の研究(内田浩二ら、日本農芸化学会、1997年度大会講演要旨集、第837号、第71巻53頁)では、アクロレインの生体内での生成を示す報告がなされており、様々な病態との因果関係が盛んに研究されている。
このようなACRが有する生体毒性としては発癌性などが考えられており、これはACRの有する高反応性アルデヒドとしての性質によるものである〔H.Esterbauer,H.Zollner and Z.N.Scholz,Naturforsch.30,466(1975)、J.C.Gan and G.A.S.Ansari,Res.Commun.Chem.Pathol.Pharmacol.419,55,(1987)〕。具体的には、ACRは、生体内の蛋白質、ペプチドあるいはアミノ酸等が含有するアミンあるいはチオールなどの求核基と非常に反応性が高いことがその原因と考えられている。ACRとアミノ酸のアミノ基との反応は、次式(1)に示す反応機構が知られており、アミノ基1個に対してACR2個が付加反応しホルミルデヒドロピペリジン構造を有する化合物が生成する。
【0005】
【化1】
Figure 0003997576
【0006】
〔式中、R1、R2は蛋白質残基、ペプチド残基、もしくはR1=R2=Hを示す。〕
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
この様に、生体の疾病との相関が注目されているACRに関連して、蛋白質、ペプチドあるいはアミノ酸との付加体(略号:ACR付加体)の定性あるいは定量を、免疫学あるいは生化学的に行うことが非常に重要である。臨床診断学的あるいは臨床医学的な見地からこれらを可能にする技術が強く求められているものの、具体的手段あるいは技術は未だ確立されていない。
【0008】
そこで本発明は、ACRと蛋白質あるいはペプチドの構成アミノ酸の1つであるリジン(略号:Lys)の付加体に関して着目し、このACR付加体が有するホルミルデヒドロピペリジン構造に対して認識特異性の高いモノクローナル抗体と、その製造方法の開発に取り組んだ。
【0009】
【発明を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題点に鑑み鋭意検討した結果、アクロレイン(略号:ACR)で修飾したカギアナカサガイのヘモシアニン(略号:KLH)を抗原として調製し、該抗原で免疫したマウスから得られる抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞とのハイブリッド細胞が、ホルミルデヒドロピペリジン構造を特異的に認識するモノクローナル抗体を産生することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明のモノクローナル抗体は、ホルミルデヒドロピペリジン構造を特異的に認識することを特徴とする。
【0011】
本発明のハイブリッド細胞は、次式(2)で示されるホルミルデヒドロピペリジン構造を特異的に認識するモノクローナル抗体を産生することを特徴とする。
【0012】
【化2】
Figure 0003997576
【0013】
〔式中、R1、R2は蛋白質残基、ペプチド残基、もしくはR1=R2=Hを示す。〕
【0014】
本発明のモノクローナル抗体の製造方法は、(1)ACRで修飾した蛋白質を抗原として調製し、(2)該抗原で免疫した恒温動物から得られる抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させてハイブリッド細胞とし、(3)該ハイブリッド細胞を培養して培養液中からホルミルデヒドロピペリジン構造を特異的に認識するモノクローナル抗体を取得することを特徴とする。
【0015】
本発明の前記モノクローナル抗体およびその製造方法において、ACRで修飾されるべき蛋白質がカギアナカサガイのヘモシアニン(略号:KLH)であることが好ましい。
【0016】
【本発明の実施の形態】
本発明のモノクローナル抗体は、ACRで修飾した蛋白質を調製し、これを抗原として免疫された恒温動物から得られる抗体産生細胞と、得られた抗体産生細胞を継代培養可能なミエローマ細胞とのハイブリッド細胞を調製し、このハイブリッド細胞の中から目的のモノクローナル抗体のみを産生するハイブリッド細胞をスクリーニングし、このハイブリッド細胞が抗体を産生する環境下で大量培養し、培養物から取得することにより、製造される。
【0017】
本発明に用いることができる抗原は、蛋白質とACRの反応物であれば良く、蛋白質としては、例えば、牛血清アルブミン(略号:BSA)、卵白アルブミン、リポプロテイン、カギアナカサガイのヘモシアニン(略号:KLH)などが挙げられ、好ましくはカギアナカサガイのヘモシアニンが用いられる。
【0018】
抗原を調製するための蛋白質とACRの反応は、緩衝液中で混合攪拌して実施することができる。用いる緩衝液としては、トリス、リン酸塩、炭酸塩、酢酸塩緩衝液が挙げられる。その緩衝液としては、例えば、濃度が1mM〜0.2M、好ましくは10〜100mMのリン酸緩衝液が挙げられる。この反応の終点は、蛋白質中のアミノ酸の減少率で検出することが可能である。アミノ酸の減少率は、例えば、反応前後の試料のアミノ酸含有量を自動アミノ酸分析装置(JEOLJLC−300、日本分光(株)製)によって測定することによって求める。アミノ酸減少率による反応終点は、例えば、リジン減少率が25%以上となる時点が挙げられ、好ましくは50%以上、さらに好ましくは75%以上減少する時点である。このようなリジン減少率となる反応条件は、例えば、25〜45℃で1〜72時間が挙げられ、好ましくは30〜40℃で2〜6時間である。
【0019】
本発明で免疫される動物は恒温動物が使用できる。該免疫動物としては、例えばマウス、ハムスター、ラット、モルモットであれば特に制限されないが、抗体産生細胞を融合するミエローマ細胞がマウス由来のものであるため、好ましくはマウスが使用される。
【0020】
免疫する方法は、通常の公知の免疫方法を用いて、例えば、7ないし30日、特に12ないし16日間隔で2または3回の投与が好ましい。抗原投与量は免疫される動物により異なるが、1回につき、例えば、約0.05〜2mg程度を目安とする。投与経路は皮下注射、皮内注射、腹膜腔内注射、静脈内注射、筋肉内注射等を選択することができるが、好ましくは腹膜腔、皮下もしくは筋肉内に注射して行う投与形態である。さらに好ましくは、前記投与経路を2ないし3組み合わせた投与経路、例えば、腹膜腔内注射、皮下注射および筋肉内注射全ての投与経路を組み合わせる投与形態である。
【0021】
なお、この場合、抗原は適当な緩衝液、例えばフロイントの完全アジュバント、フロイントの不完全アジュバント、水酸化アルミニウム等の通常用いられるアジュバントの1種を含有するナトリウムリン酸緩衝液、生理食塩水等に溶解して用いることができるが、上記のようなアジュバントを使用しなくとも良い。ここで、アジュバントとは抗原と共に投与した時、非特異的にその抗原に対する免疫反応を増強する物質を意味する。
【0022】
上記の抗原を免疫した恒温動物を7〜30日間処置せずに飼育した後、該恒温動物の血清を少量採取し、抗体価をウエスタンブロット法、凝集法、酵素免疫測定法、一元放射状免疫拡散法等から選ばれた測定法により抗体価を測定することができる。より簡便には酵素免疫測定法により測定することができる。抗体価が上昇してきたら、状況に応じて抗原の投与を適当回数実施する。例えば、0.01〜1mg、好ましくは、0.05〜0.5mgの抗原の投与量で1もしくは2回の追加投与が行われる。最後の投与の1ないし30日後、特に好ましくは1〜7日後に免疫した恒温動物から抗体を産生するリンパ球を含む組織を摘出する。摘出する組織は、抗体を産生するリンパ球を含む抹消リンパ系組織であればいずれでも良いが、好ましくは脾臓である。
【0023】
得られた組織は、例えば、「単クローン抗体実験操作法入門」(講談社サイエンティフィック 安藤民衛ら 1991年)等に記載されている方法により、継代培養可能な細胞とするために、例えば、仙台ウイルスやポリエチレングリコール存在下、ある種のガン細胞と細胞融合させて、ハイブリッド細胞を得ることができる。ここで用いられるガン細胞は、同じ恒温動物でも同種の恒温動物のガン細胞を用いることが好ましく、例えばマウスを免疫動物として得られた脾臓細胞と融合させる場合、マウスミエローマ細胞を用いることが好ましい。
【0024】
実際に用いられる細胞融合の方法としては、公知の技術(J.Immunol.Method 39:285〜308,1980)を用いることができる。例えば、免疫されたマウスから得られた脾細胞とマウスミエローマ細胞をポリエチレングリコール存在下で融合させ、ハイブリッド細胞のみが生育可能であるHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン添加培地)により選択的にハイブリッド細胞を増殖させ、ハイブリッド細胞がコロニーを形成した後、培養上清中の抗体をスクリーニングすることで目的の抗体を産生するハイブリッド細胞を得ることができる。
【0025】
スクリーニングする方法としては、例えば、ウエスタンブロット法あるいは酵素免疫化学的測定法等が挙げられる。また、目的の抗体を産生するハイブリッド細胞は、限界希釈法を繰り返すことにより最終的に単一のハイブリッド細胞を得ることができる。さらには、これら目的の抗体を産生するハイブリッド細胞は抗体を産生する環境下で大量培養することにより抗体を製造することができる。さらに、これらの目的とする抗体を産生するハイブリッド細胞が産生した抗体は、例えば遠心分離、硫酸アンモニウムまたはポリエチレングリコールを用いる蛋白質分画、水性二層分配法、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動等の蛋白質に関する一般的な生化学的分離方法を、単独もしくはいくつかの方法を組み合わせて使用することにより精製することができる。
【0026】
本発明のモノクローナル抗体はヒトのACR修飾蛋白質の検出だけでなく、 ヒト以外の異種の恒温動物、例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ニワトリなどの生体中に存在するACR修飾蛋白質の検出にも応用することができる。
【0027】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0028】
〔実施例1〕
1.抗原の調製
カギアナカサガイのヘモシアニン(略号:KLH)(2mg/ml)とACR(10mM)を50mMリン酸緩衝液(pH7.2) 1ml中で37℃、24時間反応させた。自動アミノ酸分析装置(JEOL JLC−300、日本分光(株)製)でACR修飾KLH中の減少したアミノ酸を調べたところ、リジン(略号:Lys)が80%減少していた。
【0029】
2.免疫方法
ACR修飾KLH(1mg/ml)は等量のフロイントの完全アジュバントとよく混合してエマルジョンとし、これをマウス(BALB/c、オス、6〜8週齢)の腹膜腔内に100μl免疫した。初回免疫から10〜14日後、抗原とフロイントの不完全アジュバントをよく混合してエマルジョンとして、追加免疫を行った。追加免疫から3週間後、抗原とリン酸緩衝生理食塩水(略号:PBS)を混合して最終免疫を行った。なお、抗体価は、追加免疫の1週間後、マウス眼孔静脈から血液を採取し、得られた血清を用いて酵素免疫化学的方法で抗原に対する抗体が産生されていることを確認した。酵素免疫化学的方法では、免疫したマウスから得られた血清と比較対照となる免疫前のマウスから得られた血清の間に比較的大きな抗体価の差異が見られ、抗体価の上昇が確認された。
【0030】
3.抗体価の確認方法
抗体価はACRと牛血清アルブミンを固相とした酵素免疫測定法により確認した。すなわち、抗原の調製に記載した方法と同様に牛血清アルブミン(略号:BSA)とACRを反応させて、ACR修飾BSA(略号:ACR−BSA)を得た。これを96穴イムノプレートに物理吸着させ、0.05%Tween20−トリス緩衝液(pH7.4)(略号:TTBS)で3回洗浄した後、1%BSAを含むトリス緩衝液(pH7.4)(以下、ブロッキング液と略す。)でブロッキングを行った。このプレートのウエルにマウスから得られた血清(100μl/ウエル)を入れて、37℃で1時間反応させた。ウエルを洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼで標識されているマウス抗体に対するウサギ抗体をTTBSで5000倍希釈した液(100μl/ウエル)(以下、酵素標識抗体溶液と略す。)を入れて、37℃で1時間反応させた。ウエルをTTBSで3回洗浄した後、ο−フェニレンジアミン(0.4mg/ml)および過酸化水素(0.003%)を含む0.1Mクエン酸−リン酸緩衝液(pH5)(100μl/ウエル)(以下、発色液と略す。)を入れて室温で15〜20分間反応させた。発色反応は1Mの硫酸(50μl/ウエル)(以下、反応停止液と略す。)を入れることで停止し、マイクロプレートリーダーで492nmの吸光度を測定して抗体価の確認を行った。
【0031】
4.融合細胞の調製
免疫したマウスからマウス脾臓を摘出し、よくほぐして脾細胞を得た。得られた脾細胞はRPMI−1640培地で洗浄した。この洗浄した脾細胞と同様にRPMI−1640培地でよく洗浄したミエローマ細胞であるマウス653細胞(P3X63−Ag8,653:CRL・1580)を細胞数が7:1の割合になるように混和し、培地に対して50w/v%のポリエチレングリコール1540溶液を徐々に加えて5分間混和した。これにRPMI−1640培地を加えて反応を停止させた後、5分間遠心分離して上清を廃棄した。これにRPMI−1640培地を加えた後、5分間遠心分離を行い上清を廃棄した。この操作を2回繰り返して細胞を洗浄し、融合細胞を調製した。
【0032】
5.クローニング
前述の得られた融合細胞に30mlのHAT培地を加えて細胞を懸濁し、96穴イムノプレートの各ウエルに100μlすつ分注し、HAT培地により選択的にハイブリッド細胞を増殖させた。融合から10日後、HT培地(HAT培地からアミノプテリンを除いたもの)でウエル中の1/2量の培養上清を置換した。この操作を2〜3回繰り返した。この培養上清を用いて2つの抗体活性に関するスクリーニングを行い、2つのスクリーニングで抗体活性が認めれれたウエル中の融合細胞を好ましいものとして選別した。抗体活性の確認されたウエルの細胞は限界希釈を行い培養し、最終的にはスクリーニングと限界希釈を繰り返すことによりACR修飾蛋白質に対して高い抗体活性を有し、且つ単一の細胞からなるクローン7株を得た。得られた7株のクローンの内、抗体活性の強かった5F6株のモノクローナル抗体について、マウスIgGサブクラスの検討を行った。培養上清を試料としてマウスIgGサブクラス検定キット(商品名:Mouse monoclonal antibody isotyping kit RPN29、アマシャム社製)で抗体のサブクラスの検討を行ったところ、IgG1、κ(カッパー)鎖であった。この培養上清の一部を用いて抗体の精製について検討したところ、硫酸アンモニウムによる塩析、あるいはプロテインAをリガンドとするアフィニティークロマトグラフィーを常法通り行うことにより本発明のモノクローナル抗体を精製することができた。
【0033】
6.抗体活性に関するスクリーニング方法−1
前記で得られた培養上清を試料として用い、酵素免疫化学的方法による抗体価の確認方法と同様に、ACR修飾BSAに対する抗体活性を評価した。
【0034】
7.抗体活性に関するスクリーニング方法−2
1mg/mlのLDL溶液0.5mlと50μMの銅イオン(Cu2+)溶液0.1mlを混合し、50mMリン酸緩衝液(pH7.4)で1mlとした後、37℃で72時間インキュベ−トして酸化LDLを調製した。得られた酸化LDLを50μg/mlとなるように50mMリン酸緩衝液で希釈し、96穴イムノプレートに各ウエル当たり100μlを加えて物理吸着させた。この後の洗浄あるいはブロッキング工程は、酵素免疫化学的方法による抗体価の確認方法と同様に行い最終的に酸化LDLに対する抗体活性を492nmにおける吸光度として測定した。
【0035】
〔実施例2〕
前記実施例1で得た7株クローンから得られたACR修飾蛋白質を認識するモノクローナル抗体の内、5F6株のモノクローナル抗体の反応特異性について確認を行った。該5F6株は、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に平成9年11月11日に寄託番号(FERM P−16514)として寄託されている。なお、検討に用いるモノクローナル抗体は、培養上清を希釈してそのまま用いた。
【0036】
1. モノクローナル抗体の反応特異性の評価法−1
本発明のモノクローナル抗体の反応特異性を酵素免疫測定法にて評価した。すなわち、96穴イムノプレートにウエル当たり100μlの蛋白質あるいはアルデヒド修飾蛋白質(4μg/ml)を加え、4℃で一昼夜静置してプレートに物理吸着させ、ウエル当たり300μlのTTBSで3回洗浄した後、1%BSA含有TTBSもしくは蒸留水で4倍希釈したブロックエース(雪印社製)をウエル当たり300μl加えてブロッキングした。このプレートを上記と同様にTTBSで3回洗浄した後、ウエル当たり100μlのTTBSで希釈した本モノクローナル抗体溶液(1μg/ml)を加えて、37℃で3時間インキュベートした。なお、コントロールとしてはTTBSのみを加えた。このプレートを上記と同様にTTBSで3回洗浄した後、ウエル当たり100μlの酵素標識抗体溶液を加えて37℃で1時間インキュベートした。このプレートをTTBSで3回洗浄した後、ウエル当たり100μlの発色液を加えて室温で15〜20分間インキュベートした。ウエル当たり50μlの反応停止液を加えた後、マイクロプレートリーダーで492nmの吸光度を測定し、本発明のモノクローナル抗体の反応特異性を評価した。
【0037】
2. モノクローナル抗体の反応特異性評価法−2
本発明のモノクローナル抗体の反応特異性を酵素免疫測定法にて評価した。すなわち、96穴イムノプレートにACR修飾BSAを加えてプレートに物理吸着させたプレートのウエルに、本発明によるモノクローナル抗体(1μg/ml)に各種濃度のACR誘導体を加えたものを試料とする以外は前項に記載の方法と同様にして吸光度を測定し、本発明のモノクローナル抗体の反応特異性を評価した。
【0038】
3. モノクローナル抗体の反応特異性−1
前記実施例1のモノクローナル抗体に関して各種蛋白質に対する反応特異性を評価した。すなわち、ACR、クロトンアルデヒド、2−ヘキサナール、2−オクテナール、2−ノネナール、n−プロパナール、n−ペンタナール、n−ヘキサナール、4−ヒドロキシ−2−ペンテナール、4−ヒドロキシ−2−ヘキセナール、4−ヒドロキシ−2−オクテナール、4−ヒドロシキ−2−ノネナール、マロンジアルデヒド、DL−グリセルアルデヒド、ヒドロキシアセトン、ジヒドロキシアセトン、グリオキサールなどのアルデヒドで修飾したBSAを常法により調製し、前記のモノクローナル抗体の反応特異性評価法−1により測定した。その結果を縦軸は各種アルデヒド修飾BSA、横軸は吸光度(O.D.)を示したグラフとして図1に示した。図1に示すようにACRで修飾したBSAは認識されるものの、他のアルデヒドで修飾されたBSAは全く認識されなかった。
【0039】
4. モノクローナル抗体の反応特異性−2
前記実施例1のモノクローナル抗体に関して種々のACR誘導体に対する反応特異性を評価した。すなわち、N−α−アセチルリジン、N−α−アセチル−ε−ホルミルデヒドロピペリジノリジン、N−α−アセチルヒスチジン、N−α−アセチル−プロパナールヒスチジンを常法に従って調製し、競合物質として前記のモノクローナル抗体の反応特異性評価法−2により測定した。その結果を縦軸は競合物質の阻害率(B/B0:なお、BとB0はそれぞれ競合物質の存在下、非存在下における吸光度を示す。)、横軸は競合物質の濃度を示したグラフとして図2に示した。図2から明らかなように、ACR誘導体中、ホルミルデヒドロピペリジン構造を有するN−α−アセチル−ε−ホルミルデヒドロピペリジノリジンのみが、本発明によるモノクローナル抗体と固相化されたACR修飾BSAとの反応を阻害した。
【0040】
〔実施例3〕
前記実施例1で得た7株クローンから得られたACR修飾蛋白質を認識するモノクローナル抗体の内、5F6株のモノクローナル抗体を免疫組織染色に応用した。なお、検討に用いるモノクローナル抗体は、培養上清を硫酸アンモニウムによる塩析で精製したものを用いた。染色に使用する組織としては、ヒト動脈硬化病巣を用い、一般的に免疫組織染色に用いられる方法、例えば、「染色法のすべて」(医歯薬出版株式会社 155−165 1988年)に記載の方法に従って免疫組織染色を行った。すなわち、常法によりキシレン、50%エタノール、70%エタノールで連続処理し、パラフィン包埋した組織から、3.5μmの組織切片を得た後、抗原の賦活性を行うためにプロテアーゼで処理した。その後、内因性ペルオキシダーゼを阻止するためにペルオキシダーゼブロッキング試薬S2001(DAKO社製)で処理した。続いて、非特異的な反応を防止するために、リン酸緩衝生理食塩水で希釈したウサギ正常血清でブロッキングを行った。この切片に、本発明によるモノクローナル抗体を0.5〜2.0μg/mlの濃度で含むリン酸緩衝生理食塩水を室温で1時間反応させ、洗浄を行い、続いて、ペルオキシダーゼを標識酵素とするABC法(アビジン−ビオチン複合体法)により、組織切片中に存在する本発明によるモノクローナル抗体と反応する部位を観察した。なお、ペルオキシダーゼの検出にはジアミノベンチジン発色キット2V−0001−10(フナコシ社製)を用いた。本発明のモノクローナル抗体を生体組織、動脈硬化病巣に対して免疫組織染色した顕微鏡写真(オリンパス VANOX AHBS3;200倍)を図3として示した。図3により明らかなようにヒト動脈硬化病巣に本発明のモノクローナル抗体で染色される部位が存在し、特に、泡沫細胞の細胞内顆粒に顕著な陽性染色が認められた。
【0041】
〔参考例1〕
1.本モノクローナル抗体の有用性−1
1mg/mlのLDL溶液0.5mlと50μMの銅イオン(Cu2+)溶液0.1mlを混合し、50mMリン酸緩衝液(pH7.4)で1mlとした後、37℃で72時間インキュベ−トし、酸化LDLを調製した。この試料を用い、本発明のモノクローナル抗体を用いた酵素免疫測定を前記のモノクローナル抗体の反応特異性評価法−1により測定した。その結果を縦軸に吸光度、横軸にインキュベーション時間を採ったグラフとして図4に示した。(図4中+Cu2+で表示)
〔比較参考例1〕
なお、比較参考例として銅イオン溶液を使用しない以外は参考例1と同様にしてモノクローナル抗体の反応特異性を測定した。同様に図4に示した。(図4中−Cu2+で表示)
【0042】
図4によれば、銅イオン処理による酸化LDL中には、ACR付加体すなわちホルミルデヒドロピペリジン構造を有する化合物が存在することが明らかであり、生体中でのACR付加体分析への研究に有用である。一方銅イオンが存在しない系(−Cu2+)では、酸化LDLが生成せず、それ由来のACR付加体すなわちホルミルデヒドロピペリジン構造を有する化合物が存在しないためモノクローナル抗体が特異反応しないと推定される。
【0043】
〔参考例2、3〕および〔比較参考例2〜4〕
2.本モノクローナル抗体の有用性−2
10mMのグルコース溶液1ml〔比較参考例2〕、100mMのグルコース溶液1ml〔比較参考例3〕、20mMのアスコルビン酸溶液1ml〔比較参考例4〕、20mMのアラキドン酸溶液1ml〔参考例2〕および40mMアラキドン酸溶液と200mMグルコース溶液の1:1混合液1ml〔参考例3〕の各溶液に、牛血清アルブミン(BSA)を1mg/mlとなるように加え、37℃で1〜4週間インキュベ−トした。この試料を用い、本発明のモノクローナル抗体を用いた酵素免疫測定を前記のモノクローナル抗体の反応特異性評価法−1により測定した。その結果を縦軸に吸光度、横軸にインキュベーション時間を採ったグラフとして図5に示した。
【0044】
図5によれば、アラキドン酸系のみに、ACR付加体すなわちホルミルデヒドロピペリジン構造を有する化合物が存在することが明らかである。生体内での、不飽和脂肪酸であるアラキドン酸からのACR付加体生成は未だ証明されていないが、これらの研究において本発明のモノクローナル抗体は有用であり、また、今後、ACR付加体生成が証明されれば、本発明のモノクローナル抗体はその応用において有用となる。
【0045】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明はホルミルデヒドロピペリジン構造を有するアクロレイン−リジン付加体を特異的に認識するモノクローナル抗体を提供することができる。本発明のモノクローナル抗体は、反応性の高いアルデヒドの1つであるアクロレインの生体に対する影響を明らかにするために非常に有用であり、臨床診断、臨床病理、分析等において利用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】種々のアルデヒドをBSAに修飾させた修飾物に対する本発明のモノクローナル抗体の反応性について、酵素免疫学的測定法により測定した結果を示すグラフである。
【図2】本発明のモノクローナル抗体の認識部位について、酵素免疫学的測定法により測定した結果を示すグラフである。
【図3】本発明のモノクローナル抗体を生体組織、動脈硬化病巣に対して免疫組織染色した結果を示す顕微鏡写真である。
【図4】酸化LDLに対する本発明のモノクローナル抗体の親和性を示すグラフである。
【図5】酸化アラキドン酸に対する本発明のモノクローナル抗体の親和性を示すグラフである。

Claims (6)

  1. ホルミルデヒドロピペリジン構造を特異的に認識するモノクローナル抗体。
  2. 前記モノクローナル抗体は、アクロレインで修飾した蛋白質を抗原とし、該抗原で免疫された恒温動物(ヒトを除く)から得られる抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させてハイブリッド細胞とし、該ハイブリッド細胞から得られたものである請求項1項記載のモノクローナル抗体。
  3. 前記抗原は、アクロレインで修飾したカギアナカサガイのヘモシアニンである請求項2記載のモノクローナル抗体。
  4. 請求項1、2又は3記載のモノクローナル抗体を産生することができるハイブリッド細胞。
  5. (1)アクロレインで修飾した蛋白質を抗原として調製し、(2)該抗原で免疫した恒温動物(ヒトを除く)から得られる抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させてハイブリッド細胞とし、(3)該ハイブリッド細胞を培養して培養液中からホルミルデヒドロピペリジン構造を特異的に認識するモノクローナル抗体を取得することを特徴とするモノクローナル抗体の製造方法。
  6. 前記抗原は、アクロレインで修飾したカギアナカサガイのヘモシアニンであることを特徴とする請求項5記載のモノクローナル抗体の製造方法。
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