JP3995297B2 - ポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸方法 - Google Patents

ポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸方法に係わり、特に酸化チタンを1%以上含有するポリエステルマルチフィラメントを高速で、かつ、良好な巻き姿で製造することができるポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ぎらつき感がなく、落ち着いた光沢(ダル調)のポリエステルマルチフィラメントを製造する方法として、酸化チタンを含有するポリマーを溶融紡糸する方法が古くから採用されている。特に酸化チタンを1%以上含有するポリエステルマルチフィラメントは優れたダル調の光沢を有するので、冷感素材として、複合繊維や仮撚加工糸として幅広く用いられている。
【0003】
ポリエステルマルチフィラメント中に含有される酸化チタンの量が多くなると、糸条の摩擦抵抗が小さくなることはよく知られているが、このためこれらの糸条を巻取り機で巻取る際、特に2,500 m/分以上の高速度で巻取る場合には、巻取り中にマルチフィラメント間での滑りが発生し、巻取りパッケージの端面に綾落ちが発生するという問題がある。
【0004】
巻取りパッケージ端面の綾落ちの発生を防ぐ方法として、従来より引取りローラと巻取り機の間でリラックス処理を施したり、綾振り速度を緩める等、巻取り張力を低くする方法が常法的に用いられてきた。しかし、酸化チタンの含有率が1%以上のポリエステルマルチフィラメントの高速紡糸においては、その糸条の滑りやすさという特性から、これらの方法を用いての解決は困難である。
【0005】
特開昭59-53721号公報には、紡糸油剤に水溶性ポリエステルを添加することによって糸条間の摩擦を小さくし、保持力を与えて巻取りパッケージの端面が崩れるのを防止する方法が提案されているが、この方法は紡糸油剤に特殊な添加剤を特定濃度配合する必要があり、添加剤の濃度が高くなると、仮撚加工等、後工程でヒータの汚れや毛羽の発生につながる等、濃度管理が非常に複雑なものであった。
【0006】
さらに、特開昭55-90610号公報には、糸条への油水分付着量と油分付着量を特定の範囲に設定することによって糸条の集束性を向上させ、単糸切れやたるみ糸の発生を防止する方法が提案されているが、この方法では、糸条における単糸間の集束性は向上するものの、パッケージの端面に発生する綾落ちを防止することはできなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の課題を解決し、酸化チタンを1%以上含有するポリエステルマルチフィラメントを高速紡糸するに際し、端面に綾落ちの発生がない良好な巻き姿のパッケージに巻取ることができるポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸方法を提供することを技術的な課題とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、油剤濃度と糸条に付着させる水分率を特定の範囲に設定すれば、上記の課題を解決できることを見い出して本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、酸化チタン含有率が1%以上のポリエステルマルチフィラメントを溶融紡糸し、 2,500m/分以上の速度で引取るに際し、油剤付与装置を2段以上に配設し、全ての油剤付与装置において、油剤濃度X(重量%)が下記の式を満足するエチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合ポリエーテルを主成分とする水性油剤エマルジョンを付与し、かつ紡糸巻取り直後の糸条の水分付着率Y(重量%)が下記の式を満足する条件で付与することを特徴とするポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸方法を要旨とするものである。
2.0≦X≦8.0 (1)
10.0≦Y≦16.0 (2)
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明におけるポリエステルとしては、艶消し剤として酸化チタンを1%以上含有し、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレート(PET)や、ブチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリブチレンテレフタレート等を採用することができるが、その性質を本質的に変化させない範囲で、第3成分としてイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のジオール類を共重合したコポリエステルでもよい。また、着色剤や難燃剤等を添加したものでもよく、極限粘度〔η〕は0.55〜0.75のものが好ましい。
【0011】
本発明では、上述したポリエステルを溶融紡糸し、 2,500m/分以上の高速度で引取るが、この時油剤付与装置を2段以上に配設し、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合ポリエーテルを主成分とする油剤濃度が2.0 〜8.0 重量%の水性エマルジョンを、紡糸巻取り直後の糸条の水分付着率が10.0〜16.0重量%になるように付与する必要がある。
【0012】
本発明では、溶融紡糸したマルチフィラメントを 2,500m/分以上の高速度で引取るため、油剤として、脂肪酸エステル系の油剤よりも平滑性がよく、張力変動を抑えることが可能であり、紡糸性においても、脂肪酸エステル系の油剤よりも紡糸張力を小さくでき、綾落ち防止効果のあるエチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合ポリエーテルを主成分とする水性エマルジョンを使用する必要がある。
【0013】
油剤付与装置における油剤付与方法としては、オイルバスに油剤を供給し、これに浸漬したローラを回転させてローラ表面に油膜を形成し、これに糸条を接触させることによって給油するローラ給油法、定量ギアポンプで油剤を計量し、セラミック等で作られた吐出孔を有する糸道ガイドから付与するガイドオイリング法、圧縮空気中に油剤を混入させ、糸条に噴霧するアトマイザー式オイリング法等、任意の油剤付与方法を用いることができるが、本発明においては、低濃度、高水分の油剤を用いるため、いずれの方法においても油剤付与を2段階以上で行う必要がある。1段階の油剤付与で後工程を円滑に行なうのに必要な量の油剤を付着させるためには、ローラ式オイリングではローラの回転数を高回転にする必要があるが、ローラの回転数を高回転にすると糸条とローラ表面との擦過抵抗や油剤膜との流体摩擦により、単糸切れ等の問題が発生する。またガイドオイリング方法を用いても吐出量を極端に多くする必要があるため、油剤の飛散等が問題となる。
【0014】
本発明において、それぞれの油剤付与装置で付与する油剤は、濃度が 2.0〜 8.0%のものを使用する必要がある。1段目の油剤付与装置、つまり紡糸口金に最も近い油剤付与装置の役割は、後加工に必要な量の油剤を付着させるというより紡糸性を高めるものであり、油剤濃度が 2.0%未満では溶液粘度が低すぎたり表面張力が低く、そのためローラ式オイリングでは、ローラ上に形成される油膜が斑のあるものとなる。また、 8.0%を超えると油剤の粘度が高くなるため、ローラ上に形成される油剤膜と走行糸条との間の流体摩擦が大きくなり、単糸切れ、毛羽等の原因となる。油剤付与を2段以上で行なう場合、1段目の油剤付与装置は、常法的に紡糸口金から 500〜1500mm下流の位置に配設されることが多いため、紡糸操業性に与える影響はさらに大きくなる。2段目以降の油剤付与装置においては、後工程を円滑に行なうのに必要な量の油剤を付与するが、ここでもまた濃度が 2.0〜 8.0%の油剤を使用する必要がある。油剤濃度が 2.0%未満になると、上述のようにローラ上の油膜が斑となり、また、油剤濃度が 8.0%を超えると、糸条に後工程で必要な量の油剤を付着させたとき、同時に付着する水分の相対量が少なくなり,糸条に必要な量の水分を付着させることができない。
【0015】
一般に、後工程を円滑に行なうのに必要な油剤付着量は 0.3〜 1.2%である。油剤付着量が 0.3%未満では糸条の集束性が低下し、延伸工程や仮撚工程等の後工程で毛羽や糸切れの発生原因となりやすい。また、 1.2%を超えると、後工程でヒータの汚れや発煙といった障害が生じやすい。
【0016】
本発明では、2段以上に配設した油剤付与装置で使用する油剤として、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合ポリエーテルを主成分とする濃度が 2.0〜 8.0%の水性油剤エマルジョンを使用するとともに、紡糸巻取り直後の糸条の水分付着率が10.0〜16.0%となるように油剤を付着させる必要がある。ポリエステルに酸化チタンが1%以上含有されると、その溶融紡糸糸条の摩擦係数の低下により、巻取り中の糸条間で滑りが発生しやすくなるが、これら糸条の滑りが巻取りパッケージの端面で発生すると、いわゆる綾落ちという巻き姿不良として現れる。しかし、糸条の水分付着量を高くすると、水の表面張力により重なった糸条同志の保持力が増して巻取り中の糸条の滑りを防止することが可能となる。この時の適切な水分付着量が10.0〜16.0%であり、10.0%未満では水分付着量が不足し、油剤の平滑性の効果が大となり、綾落ちの発生を防止することができず、また、16.0%を超えると水分付着量が過大となり、巻取りパッケージの内層と外層や中央部と端面との間に水分付着量のバラツキが発生し、仮撚加工等の後工程で延伸斑や染色斑の原因となる。
【0017】
糸条に後工程で必要な量の油剤を付着させ、同時に上記の水分付着量を満たすようにするためには、濃度が 2.0〜 8.0%という低濃度の油剤を多量に付着させる必要があり、高濃度の油剤を用いては、油剤付着量に対する相対的な水分付着量が少なくなるため、糸条の水分付着量を10.0〜16.0%とすることができない。
【0018】
図1は、本発明が好適に用いられるポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸方法を示す概略工程図である。図1において、1は紡糸口金であり、ここから吐出された糸条Yは冷却装置2で冷却、固化され、1段目の油剤付与装置3で油剤を付与された後、糸条交絡処理装置4で集束される。集束された糸条Yは、2段目の油剤付与装置5で再度油剤を付与され,引取りローラ6,7を介して巻取り機8で巻取られる。
【0019】
本発明で溶融紡糸されるマルチフィラメントは、単一成分のポリエステル及び複数成分のポリエステルのいずれで構成してもよく、複数成分のポリエステルで構成する場合は、例えばサイドバイサイド、芯鞘等の複合繊維があげられる。また、フィラメントの断面形状は丸断面に限定されるものではなく、三角や扁平等の異形断面、さらには中空等でもよい。
【0020】
【実施例】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
なお、実施例における糸条の油分付着量、水分付着量の測定、巻取りパッケージの欠点率の評価は次のようにして行なった。
(a) 油分付着量
巻取りパッケージから糸条を2gかせ取りし、10mlのエタノールに1分間浸して油分を抽出した。その後、油分を含んだエタノールを75℃で蒸発させて残った残査の重量P(g)を秤量し、次の式で算出した。
油分付着量(%)=(P/2)×100
(b) 水分付着量
次の式で巻取り糸条の油水分付着量C(%)を算出し、上記(a) で算出した油分付着量A(%)とすると、水分付着量B(%)は、B=C−Aで求めた。
C(%)=〔(D×SS/9000−Q)/Q〕×100
ただし、D :糸条の繊度(実デニール)
SS:紡糸速度(m/分)
Q :吐出量(g/分)
糸条の繊度(実デニール)とは、油水分付着量を含んだ巻取り糸条の繊度(デニール)である。また、巻取りパッケージの経時、例えば、巻取りパッケージの表層部での水分の蒸発、巻取り糸条間での油水分のマイグレーション等により油水分の付着量が変化するため、油水分Cの測定は紡糸巻取り直後に行なった。
(c) 巻取りパッケージの欠点評価
24錘で10日間の紡糸を行ない、綾落ちの発生したパッケージの割合を次の4段階で評価した。
ランク 綾落ち発生率(%)
◎ : 0.5%未満
○ : 0.5〜1.0%
△ : 1.0〜3.0%
× : 3.0%以上
【0021】
実施例1〜3
フェノールと四塩化エタンとの等重量混合物を溶媒とし、温度20℃で測定した極限粘度[η]が0.68で、艶消剤として酸化チタンを 2.0重量%含有したポリエチレンテレフタレートを、図1の工程に従い、紡糸孔を36個有する紡糸口金を用いて吐出量24.0g/分、紡糸速度3,000 m/分で引取り、80d/36f の糸条を巻取った。
油剤付与装置としては、ローラ式オイリング装置を2段に用い、1段目のオイリング装置は紡糸口金の下流1000mmの位置に、2段目のオイリング装置は引取りローラ6の上流1000mmの位置にそれぞれ配設し、各油剤付与装置における油剤濃度及びローラの回転数を表1に示したように設定して溶融紡糸を行った。
いずれの場合も使用したオイリングローラの直径は300mm であり、目標とする糸条の油剤付着量は 0.5%とした。また、用いた紡糸油剤は、次に示す組成のものである。
エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの等重量共重合物:94%
乳化剤 : 4%
静電剤 : 2%
得られた糸条の油分付着量、水分付着量及び巻取りパッケージの欠点の評価結果を併せて表1に示す。
【0022】
比較例1〜6
油剤濃度とオイリングローラ回転数を表1に示した条件に変更した以外は実施例1と同様にして溶融紡糸を行った。
得られた糸条の油分付着量、水分付着量及び巻取りパッケージの欠点の評価結果を併せて表1に示す。
【0023】
【表1】
Figure 0003995297
【0024】
実施例1〜3では、濃度が 3.0〜 7.0%の水性油剤エマルジョンを用い、2段の油剤付与装置を使用して糸条に油剤を付与したので、オイリングローラの回転数を変えるだけで後加工に必要な量の油分を付着させることができ、同時に巻取りパッケージ端面に綾落ちを発生させないだけの十分な量の水分を付着させることができた。
【0025】
一方、比較例1では、2段目の油剤濃度が低いため、後加工に必要な量の油分を付着させるためにオイリングローラの回転数を高速にしたが、その結果、走行糸条との摩擦が大きくなって毛羽が発生した。また、比較例2では、2段目の油剤濃度が高すぎたので水分付着量が少なくなり、このため、巻取りパッケージに綾落ちが多発した。
次に、比較例3、4は1段目の油剤濃度が低いので、比較例3では2段目のオイリングローラの回転数を上げたが、オイリングローラの回転数が高速になるため毛羽や単切れが発生し、また、比較例4では2段目の油剤濃度を高くしたが、油剤濃度が高いため,糸条に十分な水分を付着させることができず、このため巻取りパッケージの綾落ちが発生した。
さらに、比較例5、6は1段目の油剤濃度が高すぎるので、比較例5では2段目のオイリングローラの回転数を落としたが、綾落ちを抑えるのに十分な水分を付させることができず、また、比較例6では2段目の油剤の濃度を落としたが、今度は逆にオイリングローラの回転数を高くする必要が生じ、毛羽や単切れが発生した。
【0026】
【発明の効果】
本発明によれば、酸化チタンを1%以上含有するポリエステルマルチフィラメントを溶融紡糸し、 2,500m/分以上の紡糸速度で引取る際に、巻取りパッケージ端面に綾落ちが発生することなく、このため、後工程での解舒不良や糸切れといった障害の発生を飛躍的に低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示す概略工程図である。
【符号の説明】
1 紡糸口金
2 冷却装置
3 1段目の油剤付与装置
4 糸条交絡処理装置
5 2段目の油剤付与装置
6、7 引取りローラ
8 巻取りパッケージ

Claims (1)

  1. 酸化チタン含有率が1%以上のポリエステルマルチフィラメントを溶融紡糸し、 2,500m/分以上の速度で引取るに際し、油剤付与装置を2段以上に配設し、全ての油剤付与装置において、油剤濃度X(重量%)が下記の式を満足するエチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合ポリエーテルを主成分とする水性油剤エマルジョンを付与し、かつ紡糸巻取り直後の糸条の水分付着率Y(重量%)が下記の式を満足する条件で付与することを特徴とするポリエステルマルチフィラメントの溶融紡糸方法。
    2.0≦X≦8.0 (1)
    10.0≦Y≦16.0 (2)
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