JP3993990B2 - アンチスキッド制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、制動時に車輪がロックするのを防止するべく制動液圧を制御するいわゆるアンチスキッド制御を実行するアンチスキッド制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
アンチスキッド制御装置は、制動時に車輪ロックを防止して車体挙動を安定させるようホイールシリンダ圧(制動液圧)を制御するものである。
このようなアンチスキッド制御装置は、一般に、車体速度と車輪速度の相対関係(いわゆるスリップ率)に応じて、制動液圧を高める増圧制御、制動液圧を減圧する減圧制御、制動液圧を一定に保つ保持制御、制動液圧を徐々に高める緩増圧制御などを適宜実行する構成となっている。
【0003】
なお、スリップ率を推定するにあたり、最も一般的な手段としては、車体速度を低速側に所定量オフセットさせた減圧閾値を設定し、車輪速度がこの減圧閾値を下回ると、減圧が必要なスリップ率であると推定する手段が知られている。
また、車体速度を推定するにあたり、前後加速度センサを用いない安価な構成とした装置にあっては、アンチスキッド制御の1サイクル目は、車体減速度を演算できないため、予め設定された乾燥路における制動時の車体減速度相当の値を車体減速度として用いて車体速度を推定する技術が知られている。
また、減圧制御時の減圧量を車輪減速度に基づいた演算により決定する技術が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、制動時のブレーキ操作(ブレーキペダルの踏み方)として、ブレーキペダルをゆっくりと踏む場合(これを、以下、ゆっくり踏みという)や、その逆に、例えば急制動時のように、ブレーキペダルを急激に強く踏む場合(これを、以下、スパイク踏みという)などがある。
【0005】
ところが、前記ゆっくり踏みを行って、制御の1サイクル目で車体減速度として用いる設定値よりも緩やかな減速を行った場合、図16に示すように、推定した疑似車体速度VIが実車体速度Vcarよりも低い値となり(これを、「下ずり」と称する)、それに伴って必要なスリップ率を判断する基準となる減圧閾値λ1も適正値よりも下ずることとなり、最初に車輪速度が減圧閾値に達して減圧制御が実行されるときのスリップ率(B)が、適正値(A)よりも高い(これを、「深い」と称する)状態となり、減圧のタイミングが適正値(A)の場合に比べて遅れてしまう。
このように減圧のタイミングが遅れ、スリップ率が深い状態となると、路面とタイヤとの間の摩擦係数が減少してしまい(図14参照)、車輪のスリップ状態が急激にロックに向かい、車輪減速度が大きくなるため、車輪減速度に基づいて減圧量を決定する手段にあっては、1回目の減圧量が実際に必要な量よりも大きくなってしまい、減圧過多となって運転者が減速不足(これを、「G抜け」と称する)を感じるという問題が生じるとともに、減圧量が大きくなると、ホイールシリンダからリザーバに抜かれたブレーキ液をブレーキ回路に戻す仕事量も大きくなり、ポンプとして容量の大きなものを用いる必要が生じ、コストアップならびに装置の大型化・重量増を招くという問題も生じる。なお、ポンプ容量が不足した場合、リザーバが満杯になって、減圧不足となるおそれがある。
【0006】
本発明は、上述の問題点に着目して成されたもので、検出手段として前後加速度センサを有しないコスト的に有利な構成としたアンチスキッド制御装置において、ブレーキペダルのゆっくり踏みを行ったときに、車体速度が下ずるのを防止し、これにより減圧量の適正化を図って、G抜けを防止するとともに、ポンプ容量を小さくすることを可能として、コストダウンならびに装置の小型化・重量減を図ることを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために本発明は、車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、車輪加速度を演算する車輪加速度演算手段と、制御の1サイクル目においては、車体減速度を高μ路制動時相当の値として演算する車体減速度演算手段と、車輪速度と車体減速度とに基づいて疑似車体速度を演算する疑似車体速度演算手段と、擬似車体速度に対する車輪速度の最適スリップ率を演算する最適スリップ率演算手段と、車輪加速度に応じて、制動液圧の減圧量を演算する減圧演算出手段と、車輪速度が最適スリップ率よりも低下したときに、演算した減圧量に基づいて、減圧し車輪のロックを防止するアンチスキッド制御を行うアンチスキッド制御手段と、を備えたアンチスキッド制御装置において、ブレーキのゆっくり操作を検出するゆっくり操作検出手段を設け、制御の1サイクル目にゆっくり操作を検出し、かつ、車輪減速度の大きさ、高μ路制動時相当の車体減速度の大きさよりも小さく設定した設定値以下である場合に、車輪がロック傾向にあると判断し、車輪がロック傾向にあるときには、アンチスキッド制御手段が、所定時間強制減圧を実行する構成としたことを特徴とするアンチスキッド制御装置。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のアンチスキッド制御装置において、前記強制減圧を実行する時間は10〜50msecの範囲内の任意の値であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のアンチスキッド制御装置において、前記ゆっくり操作検出手段は、疑似車体速度の微分値に基づいてゆっくり操作を判断することを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のアンチスキッド制御装置において、前記ゆっくり操作検出手段は、疑似車体速度の100msecの微分値VID100が−1.0g未満であるときにゆっくり操作と判断し、かつ、車輪速度の60msecの微分値VWD60が−1.2g未満であるときに車輪がロック傾向にあると判断して強制減圧を実行することを特徴とする。
また、請求項5に記載の発明は、請求項3に記載のアンチスキッド制御装置において、前記ゆっくり操作検出手段は、疑似車体速度の100msecの微分値VID100が−1.0g未満の状態が所定時間継続されているときにゆっくり操作と判断し、かつ、車輪速度の60msecの微分値VWD60が−1.2g未満であるときに車輪がロック傾向にあると判断して強制減圧を実行することを特徴とする。
【0010】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1または2に記載のアンチスキッド制御装置において、前記ゆっくり操作検出手段は、制動操作の開始時点からの経過時間に基づいてゆっくり操作を判断することを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のアンチスキッド制御装置において、前記ゆっくり操作検出手段は、制動操作の開始時点からの経過時間が所定値よりも大きくなったときにゆっくり操作と判断し、かつ、車輪速度の60msecの微分値VWD60が−1.2g未満であるときに車輪がロック傾向にあると判断して強制減圧を実行することを特徴とする。
【0011】
【発明の作用および効果】
本発明にあっては、運転者がゆっくり操作で制動を行った場合、ゆっくり操作検出手段がこれを検出して、制御の1サイクル目にあっては、アンチスキッド制御手段が強制減圧を所定時間実行する。すなわち、運転者がゆっくり操作により制動を行って、疑似車体速度が実車体速度に対して下ずっても、強制減圧が実行されることで、車輪速度が実車体速度に復帰し、この時点で、車輪速度に基づいて演算される疑似車体速度も実車体速度に近い値に復帰する。
したがって、この後、アンチスキッド制御により減圧が実行された場合、これは適正値に基づいて実行されるもので、従来のように、スリップ率が深くなって実行されるものではないため、その減圧量も従来よりも少ないものとなる。
このように、本発明にあっては、ゆっくり操作に伴って制御の1サイクル目に過減圧が実行されるのが解消され、過減圧により運転者にいわゆるG抜け感を与えることがない。
また、過減圧が防止されることによりホイールシリンダからリザーバへ排出するブレーキ液の量が抑えられ、よって、ブレーキ液をリザーバからブレーキ回路に戻すポンプの仕事量を抑えることができる。したがって、ポンプの仕事量を抑えることができ、ポンプ容量を抑えて、コストダウンならびに装置の小型化および軽量化を図ることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明では、強制減圧を実行する時間は10〜50msecの範囲内の任意の値としており、この範囲の値の減圧により、車輪速度を確実に実車体速度に復帰させることと、増圧ができずにG抜け感を与える時間帯が生じるのを防止することの両立を図ることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明では、ゆっくり操作検出手段は、疑似車体速度の微分値に基づいて、ある程度の必要な減速度が発生している、すなわち1サイクル目の設定値相当の減速度が発生していること(請求項4)あるいは、その状態が所定時間(例えば、10〜500msec)を超えて継続されていること(請求項5)によりゆっくり操作と判断することができ、また、車輪速度の微分値に基づいて車輪がロック傾向に向かっていること(請求項4および5)を判断できる。したがって、このような場合には、車輪速度が疑似車体速度に対して深くなっていなくても、強制減圧を実行して下ずりを解消する。
【0014】
請求項6に記載の発明では、ゆっくり操作検出手段は、制動操作の開始時点からの経過時間によりゆっくり操作を判断する。すなわち、制御の1サイクル目において制動操作の開始からの経過時間が長くなるとゆっくり操作と判断することができるもので、請求項7に記載の発明では、ゆっくり操作検出手段は、制動操作の開始時点からの経過時間が所定値(例えば、10〜500msec)よりも大きいときにゆっくり操作と判断することができ、かつ、車輪速度の60msecの微分値VWD60が−1.2g未満で車輪がロック傾向と判断することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(実施の形態1)
この実施の形態のアンチスキッド制御装置は、請求項1〜5に記載の発明に対応するものである。
まず、実施の形態のアンチスキッド制御装置の構成について説明するにあたり、最初に、ブレーキ装置の構成について説明する。
図2においてM/Cは、マスタシリンダを示しており、このマスタシリンダM/Cは、4輪のホイールシリンダW/Cに2系統のブレーキ回路1,1を介して接続されている。
【0016】
各ブレーキ回路1は、分岐点1dにおいてそれぞれ2つのホイールシリンダW/Cに分岐され、また、この分岐点1dの下流(ホイールシリンダW/C側)に増圧弁5,5が設けられている。これら増圧弁5は、非作動時にスプリング力により開弁状態となり、作動時(通電時)に閉弁状態となる常開の2ポート2ポジションのON/OFF式のソレノイドバルブにより構成されている。また、各増圧弁5には、制動操作を終了したときにホイールシリンダW/Cから円滑にブレーキ液を戻すためのバイパス路1hが並列に設けられ、このバイパス路1hに、下流(ホイールシリンダW/C側)から上流(マスタシリンダM/C側)への戻りのみを許す一方弁1gが設けられている。
【0017】
また、各増圧弁5の下流には、ブレーキ回路1とリザーバ7とを連通させるドレーン回路10が接続されている。そして、これらドレーン回路10に減圧弁6が設けられている。これら減圧弁6は、非作動時に閉弁し、作動時に開弁する常閉の2ポート2ポジションのON/OFF式のソレノイドバルブにより構成されている。
【0018】
前記ドレーン回路10は、還流回路11を介して、各ブレーキ回路1において分岐点1dよりも上流位置に接続されている。そして、前記還流回路11の途中にリザーバ7に貯留されているブレーキ液をブレーキ回路1に戻すポンプ4が設けられている。よって、前記還流回路11は、吸入回路11aと吐出回路11bとで構成されるものである。
【0019】
前記ポンプ4は、モータMにより回転されるカム4cにより対向して配置された1組のプランジャ41が往復ストロークすることで、吸入回路11aからブレーキ液を吸入し、吐出回路11bへブレーキ液を吐出させる構成であり、逆流防止用の吸入弁4aおよび吐出弁4bが設けられ、吸入側にはフィルタ部材42が設けられている一方、吐出側に脈動吸収用のダンパ4dが設けられている。
【0020】
したがって、このブレーキ装置では、制動時に車輪がロック傾向になったときには、そのロック傾向となった車輪のホイールシリンダW/Cに接続されている回路中の増圧弁5を閉弁させる一方、減圧弁6を開弁させてホイールシリンダW/Cのブレーキ液をリザーバ7に抜いて制動液圧を低下させる減圧制御と、増圧弁5を開弁状態に戻すとともに減圧弁6を閉弁状態に戻してマスタシリンダ圧をホイールシリンダW/Cに供給する増圧制御とを適宜繰り返し、あるいは必要に応じて増圧弁5と減圧弁6との両方を閉弁させる保持制御を加えて、車輪のロックを防止しつつ制動を行うアンチスキッド制御を実行することができる。
【0021】
このアンチスキッド制御は、図3に示すコントロールユニット12により実行される。すなわち、コントロールユニット12は、入力側に、前後の左右輪の各車輪速度を検出する車輪速度センサ13が接続され、一方、出力側に、各輪に対応して設けられた一対の増圧弁5および減圧弁6と、モータMとが接続されている。
【0022】
次に、コントロールユニット12が実行するアンチスキッド制御について説明する。
図4はアンチスキッド制御の全体の流れを示している。
本アンチスキッド制御は、10msec周期で行うもので、まず、ステップ101では、10msec毎に発生する各車輪速度センサ13のセンサパルス数と周期とからセンサ周波数を求め、車輪速度Vwおよび車輪加速度△Vwを演算する。なお、以下の説明あるいは図面において、符号VwやΔVwなどの後に、FR,FL,RR,RL の符号を付けた場合は、その車輪の車輪速度あるいは車輪加速度を示すものであり、また、xxを付けた場合は、前記符号FR,FL,RR,RL のいずれか、すなわち各車輪の任意のいずれかを示すものである。
ステップ102では、車輪速度Vwに基づいて疑似車体速度VIを計算する。この疑似車体速度VIの演算の詳細については後述する。
ステップ103では、疑似車体速度VIの変化率に基づき車体減速度VIKを計算する。なお、この車体減速度VIKの求め方については後述する。
ステップ104では、目標車輪速度VWMを計算する。なお、その詳細について後述する。
ステップ105では、目標液圧PBを求めるPI制御演算処理を行う。このPI制御の詳細については後述する。
【0023】
ステップ106では、車輪速度VWが減圧制御の開始判断閾値である最適スリップ率値VWS未満であり、かつ、後述の増圧フラグZFLAGが増圧制御を示す=1であるか否か判断し、YESすなわちVW<VWSかつZFLAG=1の場合にはステップ107に進み、NOの場合にはステップ108に進む。
ここでステップ107では、ABS制御を実行していることを示すアンチスキッドタイマAS=Aとし、かつ、保持を行っていることを示す保持タイマTHOJI=0とし、減圧制御を行っていることを示す減圧フラグGFLAG=1とした後、ステップ109に進んで、減圧制御を実行する。
なお、この減圧制御にあっては、減圧弁6に向けてデューティ信号を出力し、開弁量を制御することにより、減圧量を制御するものである。
【0024】
次に、ステップ106においてNOと判断された場合、ステップ108に進んで、以下の4つの条件のいずれか1つを満たすか否か判断し、いずれかを満たしている場合にはステップ107に進んで減圧制御を実行し、いずれも満たしていない場合は、ステップ118に進んで、増圧・保持判断を行う。
なお、ステップ108における4つの条件とは、1)フィードフォワード減圧量FFGが減圧タイマDECTよりも大きい、2)保持タイマTHOJIの値が30msecを越え、かつPB−(DECT−FFG)の値が8msecを越えている、3)保持タイマTHOJIが60msecを越え、かつPB−(DECT−FFG)が3msecを越えている、4)目標液圧PBが強制減圧を示す5000以上の値である。なお、PBは現在の目標液圧であり、DECTは減圧処理時間の積分値である減圧タイマである。
すなわち、減圧制御に進むのは、1)減圧カウンタDECTがフィードフォワード減圧量FFGに達していない場合、2)フィードフォワード減圧(これについては後述する)を実行後において、30msecの保持を実行している間に、目標液圧PBが8msecを越えた場合、3)同様に60msecの保持を実行している間に、目標液圧PBが3msecを越えた場合、4)後述のゆっくり踏み判断により、目標液圧PBが過大な値である10000に設定されて、5000よりも大きな値となっている場合、である。また、ここで目標液圧PBは、後述する係数Kを乗じることで減圧弁6の開弁時間に換算されている。
【0025】
次に、ステップ110にあっては、以下の3つの条件のいずれかを満足するか否かにより増圧・保持判断を行い、3つのいずれかを満足した場合にはステップ113の保持制御に進み、3つのいずれも満足しない場合には、ステップ111の増圧制御に進む。
ここで、3つの条件とは、1)FFZ≦INCT、かつ、PB+(INCT−FFZ)<−3msecの場合、2)THOJI<60msecの場合、3)GFLAG=1かつVWD>0gの場合、である。なお、FFZは、後述するフィードフォワード増圧量、INCTは増圧制御時間の積算値である増圧タイマである。また、増圧の場合、増圧タイマINCTおよびフィードフォワード増圧量FFZはいずれもマイナスの値で与えられる。
すなわち、増圧制御に進むのは、増圧タイマINCTがフィードフォワード増圧量FFZに達していない場合、または、保持を60msec実行した後、または、減圧制御の実行中に、車輪加速度VWDが0gを越えた場合、である。
【0026】
ステップ111の増圧制御を実行した後は、ステップ112において、増圧フラグZFLAG=1とし、かつ、保持タイマTHOJI=0にセットする。
また、ステップ113の保持制御を実行した後は、ステップ114の保持タイマTHOJIをインクリメント(1加算)し、さらに続くステップ115において10msecが経過したか否か判断し、10msecが経過したらステップ116に進み、10msecが経過するまではステップ115を繰り返す。
【0027】
次に、ステップ116でも、ステップ115と同様に10msecが経過したか否か判断するもので、すなわち、ステップ109の減圧制御、あるいはステップ111の増圧制御を実行した後にステップ116に進んだ場合、10msecが経過していない場合には、ステップ117に進んで、1msecが経過したか否か判断し、1msecが経過したらステップ118に進んで、GFLAG=1であるか否か判断し、GFLAG=1(減圧制御中)の場合はステップ109に戻り、GFLAG≠1(増圧制御中)の場合はステップ111に進む。
つまり、減圧制御あるいは増圧制御の場合は、1msecごとにステップ109あるいはステップ111の処理を実行し、10msecが経過したところでステップ119に進んで、アンチスキッドタイマASを、1だけ減算した値と、0との大きい方の値を選択し、ステップ101に戻る。
【0028】
次に、ステップ102の疑似車体速度計算の詳細について図5のフローチャートにより説明する。
まず、ステップ201では、4輪の車輪速度VWのうちで最も高速の車輪速度を制御用車輪速度VFSとする。
次に、ステップ202において、アンチスキッドタイマAS=0であるか否か、すなわち減圧制御が実行された後か否かを判定し、AS=0すなわち減圧前にはステップ203に進み、AS≠0すなわち減圧後にはステップ204に進む。
減圧前の場合に進むステップ203では、制御用車輪速度VFSを、従動輪である後輪の車輪速度VWRR,VWRLのうちの大きい方の値に設定し、かつ、低μ路判断を示す低μフラグLoμFを0にリセットし、かつ、後述するサイクルフラグCycleF=0にリセットする。
【0029】
ステップ204では、疑似車体速度VIが制御用車輪速度VFS以上であるか否か判断し、YESすなわちVI≧VFSの場合は、ステップ205に進んで、VI=VI−(VIK)×kの演算式に基づいて車体減速度VIKに基づいて疑似車体速度VIを求め、NOすなわちVI<VFSの場合は、ステップ206以降の処理により、車体減速度VIKに基づかずに疑似車体速度VIを求める処理を行う。
ステップ206では、演算に用いる常数xを2km/hに設定し、続くステップ207において、アンチスキッドタイマAS=0であるか、すなわち減圧実行後であるか否か判断し、AS=0の場合は、ステップ208に進んで常数xを0.1km/hなどの小さな値に設定し、続くステップ209において、VI=VI−xの演算により疑似車体速度VIを求める。
すなわち、好ましくは、減圧により車輪速度VWが疑似車体速度VIに戻るか、あるいはその後、疑似車体速度VIから離反する点であるスピンアップ点、またはこのスピンアップ点の近傍を越えると、車体減速度VIKに基づいて疑似車体速度VIを求めるが、その後、減圧により車輪速度VWが実車体速度に向けて復帰することにより制御用車輪速度VFSが疑似車体速度VIを越えると、スピンアップ点が得られるまでの間は、車体減速度VIKに基づくことなく、固定値に基づく演算を行う。
また、ステップ208は制御用車輪速度VFSが擬似車体速度VIよりも極端に大きな値をとった場合のリミッタとしての機能を果たしている。
【0030】
次に、図4のステップ103の車体減速度計算処理について図6のフローチャートにより説明する。
まず、ステップ401においてアンチスキッドタイマASが=0の状態から≠0の状態に切り替わったか否か、すなわち、アンチスキッド制御開始時か否かの判断を行い、アンチスキッド制御開始時(AS=0→AS≠0)には、ステップ402に進んで、その時の疑似車体速度VIを演算基準値V0として設定するとともに、演算基準タイマT0=0にリセットし、一方、アンチスキッド制御開始時ではない(AS=0)場合は、そのままステップ403に進む。
【0031】
続くステップ403では、演算基準タイマT0をインクリメント(1加算)する。
次に、ステップ404では、疑似車体速度VIが制御用車輪速度VFS未満の状態から以上の状態に変化したか判断する。すなわち、減圧により車輪速度VWが上昇して実車体速度に復帰するが、これを疑似車体速度VIが上向きから下向きに変化するスピンアップ点を検出することで判断するもので、ステップ404では、このスピンアップ点が生じたか否かを判断している。
そして、スピンアップ点が生じた際には、ステップ405に進んで、この時点の疑似車体速度VIと、アンチスキッド制御開始時点の演算基準値V0と、アンチスキッド制御開始時点から計測し始めた演算基準タイマT0とに基づいたVI−(V0−VI)/T0の式により車体減速度VIKを求める。
【0032】
次に、ステップ406では、アンチスキッドタイマASが0であるか否か判断し、AS=0の場合、ステップ407に進んでVIK=1.3gに設定する。すなわち、アンチスキッド制御の1サイクル目にあっては、車輪速度VWが実車体速度よりも低下していて、スピンアップ点が生じていないため、ステップ405における車体減速度VIKを求める演算を行うことができない。そこで、スピンアップ点が生じて、実際の車体減速度を演算できるようになるまでは、高μ路制動時相当の固定値を用いる。
【0033】
ステップ408では、最新の100msecにおける疑似車体速度VIの微分値である疑似車体減速度VID100を、VID100=VI−VI100ms前×kVIにより求める。なお、VI100ms前は、100msec前の疑似車体速度VIであり、また、kは予め設定された係数である。
【0034】
次に、図4のステップ104における目標車輪速度計算処理の詳細について図7のフローチャートにより説明する。
まず、ステップ510では、ゆっくり踏みであることを示す後述のゆっくり踏みフラグYFLAGが=1であるか否かを判断し、YFLAG=1の場合はステップ511に進み、YFLAG=0の場合はステップ501に進む。
ステップ501では、定数xxを8km/hに設定する。
次に、ステップ502において、車体減速度VIKが0.4g未満であるか、または低μフラグLoμFが1にセットされているか否か判断し、YESすなわち路面が低μと推定される場合には、ステップ503に進んで定数xxを4km/hに変更した後、ステップ504に進み、NOすなわち非低μ路と推定される場合にはそのまま定数xxを変更することなくステップ504に進む。
【0035】
ステップ504では、最適スリップ率値VWSを、VWS=0.95×VI−xxにより計算する。なお、この最適スリップ率値VWSは、現在の疑似車体速度VIに対して効率良く制動力が得られるスリップ率となる車輪速度を示している。
一方、ステップ510からステップ511に進んだ場合には、最適スリップ率値VWSを、VWS=1.05×VI+4km/hにより求める。
【0036】
続くステップ505では、減圧制御を行っていることを示す減圧フラグGFLAG=1であり、かつ、車輪加速度VWDが0.8gよりも大きく、かつ、車輪速度VWが最適スリップ率値VWSよりも大きいか否か判断し、YESの場合はステップ506に進んで、目標車輪速度VWMを車輪速度VWとし、一方、NOの場合にはステップ507に進んで、目標車輪速度VWMを、1次遅れのローパスフィルタにより、VWM=VWM10m前+(VWS10m前−VWM10m前)×kの計算により求める。
すなわち、本実施の形態にあっては、減圧制御実行後に車輪加速度VWDが所定値0.8gよりも大きな加速度で実車速度に向けて復帰した時点では、目標車輪速度VWMを車輪速度VWとし、この車輪速度VWが実車速度に近づいた、前記スピンアップ点近傍に達した時点からは、目標車輪速度VWMを最適スリップ率値VWSに向けて一次遅れで収束させる。なお、この目標車輪速度VWMの変化は、図11のタイムチャートを参照のこと。
【0037】
次に、図4のステップ105におけるPI制御演算処理の詳細について図8のフローチャートにより説明する。
このフローチャートにおいて、ステップ610〜617の流れは、特許請求の範囲のゆっくり踏み判断および車輪のロック傾向判断を行う部分である。
ステップ610では、制御の1サイクル目を判断するサイクルフラグCycleF=0であるか否か判断し、CycleF=0の場合はステップ611に進み、CycleF=1の場合はステップ616に進む。ちなみに、サイクルフラグCycleFは、=0でアンチスキッド制御の1サイクル目であることを、=1で2サイクル目以降であることを示す。
【0038】
次にステップ611では、疑似車体減速度VID100が−1.0g未満であるか否かを判断し、VID100<−1.0gの場合はステップ612に進み、VID100≧−1.0gの場合はステップ617に進む。
ここで、疑似車体減速度VID100は、最新の100msecにおける疑似車体速度VIの微分値である。また、疑似車体減速度VID100が<−1.0gというのは、車両がゆっくり踏みを含む減速を行っていることを示しているもので、さらに、この状態の経過時間が10〜500msecの範囲内の所定時間を超えることでゆっくり踏みと判断するようにしてもよい。
【0039】
次のステップ612では、車輪減速度VWD60が−1.2g未満であるか否か判断し、VWD<−1.2gの場合はステップ613に進み、VWD≧−1.2gの場合はステップ617に進む。
なお、車輪減速度VWD60は、車輪速度VWの最新の60msecにおける微分値であり、また、この値が−1.2g以下というのは、車輪のロック傾向が強くなっていることを示す。
次のステップ613では、ゆっくり踏み状態をカウントするゆっくり踏みカウンタYCONTをインクリメント(1加算)し、次のステップ614では、ゆっくり踏みカウンタYCONTが30msec以上であるか否か判断し、YCONT≧30msecの場合はステップ617に進み、YCONT<30msecの場合はステップ615に進んで、目標液圧PBを10000にセットするとともにゆっくり踏みフラグYFLAG=1にセットする。
また、ステップ616では、ゆっくり踏みカウンタYCONT=0にクリアし、ステップ617では、ゆっくり踏みフラグYFLAG=0にクリアする。
【0040】
すなわち、上記ステップ610〜617の処理では、制御の1サイクル目において、疑似車体減速度VID100が−1.0g未満であり、かつ、車輪減速度VWD60が−1.2g未満の場合には、ゆっくり踏みと判断してゆっくり踏みカウンタYCONTのカウントを開始するとともに、このゆっくり踏みカウンタYCONTのカウント値が30msecに達するまでの間、ゆっくり踏みフラグYFLAG=1にセットするとともに、目標液圧PB=10000とするものであり、この目標液圧PB=10000は急減圧(強制減圧)を実行することを意味する。
【0041】
次に、ステップ617に続くステップ601では、目標車輪速度VWMと車輪速度VWとの偏差ΔVWを求める。
続くステップ602において、偏差ΔVWに圧力比例ゲインKPを掛けて偏差ΔVWを制動液圧に換算した偏差圧力値PPを求める。
さらに、ステップ603において、積分圧力値IPを、IP=IP10m前+KI×ΔVWより算出する。なお、IP10m前は、積分圧力値IPの1制御サイクル前の値である。
【0042】
続くステップ604およびステップ605では、車輪加速度VWD>0の状態からVWD≦0の状態に変化したか否か、また、車輪速度VWが最適スリップ率値VWSよりも大きい状態から、VW≦VWSの状態に変化したか否か判断し、いずれかの変化があった場合には、ステップ606に進んで積分圧力値IP=0とし、その後、ステップ607において、目標液圧PBを、PB=PP+IPにより求める。なお、この目標液圧PBは、負の値の場合は増圧し、正の値の場合は減圧することになる。
【0043】
次に、図4のステップ110におけるソレノイド減圧制御の詳細について図9のフローチャートにより説明する。
ステップ710では、目標液圧PBが5000以上であるか否か判断し、PB>5000の場合はステップ711に進み、PB≦5000の場合はステップ701に進む。すなわち、図8で説明したゆっくり踏み判断においてゆっくり踏みと判断して目標液圧PB=10000にセットした場合はステップ711に進み、非ゆっくり踏み判断時にはステップ701に進むものである。
また、ステップ711では、減圧時間GAW=PBにセットする。前述のステップ615においてPB=10000にセットした場合には、減圧時間GAWは、急減圧相当の値となる。
【0044】
ステップ701では、増圧タイマINCTを=0にリセットするとともに、フィードバック増圧量FFZを0にリセットする。
ステップ702では、減圧時間GAWをGAW=PB−(DECT−FFG)により求める。
ステップ703では、増圧フラグZFLAGが1にセットされているか否か、すなわち減圧制御の初回であるか否か判断し、ZFLAG=1であり減圧の初回である場合はステップ704に進み、ZFLAG≠1の場合はステップ704の処理を行うことなくステップ705に進む。
ステップ704では、フィードバック減圧量FFGを、FFG=VWD×α/VIKにより求めるとともに、ZFLAG=0にリセットする。ここでは、初回の減圧量をこの車輪加速度VWDに基づいて求めるもので、これを本明細書ではフィードフォワード減圧量という。
【0045】
次のステップ705では、以下の2条件のいずれかを満足しているか否か判断し、いずれかを満足している場合にはステップ707に進んで保持出力を行い、いずれも満足していない場合にはステップ706に進んで減圧出力を行うとともに、減圧タイマDECTのインクリメント(1加算)を行う。
前記ステップ705における2条件とは、1)減圧時間GAWが0以下であり、かつ減圧タイマDECTがフィードフォワード減圧量FFG以上である、2)車輪加速度VWDが0.8gよりも大きい、の2つである。
すなわち、減圧制御時には、初回は、減圧タイマDECTがフィードフォワード減圧量FFGを越えるまでは減圧出力を行う。また、その途中あるいはその後において、車輪加速度VWDが0.8gよりも大となって、車体速度に向けて復帰している場合には、減圧出力を中止して、保持出力を行う。
また、初回のフィードフォワード減圧量FFGの出力を実行した後は、目標液圧PBにおいて、前回との差分だけ出力する。この詳細については、後述する。
【0046】
次に、図4のステップ111におけるソレノイド増圧制御の詳細について図10のフローチャートにより説明する。
ステップ801では、減圧制御を実行している時間を計測する減圧カウンタDECTを=0にリセットするとともに、フィードバック減圧量FFGを0にリセットする。
ステップ802では、増圧時間ZAWをZAW=|PB+(INDT−FFZ)|により求める。
ステップ803では、減圧フラグGFLAGが1にセットされているか否か、すなわち増圧制御の初回であるか否か判断し、GFLAG=1であり増圧の初回である場合はステップ804に進み、GFLAG≠1の場合はステップ804の処理を行うことなくステップ805に進む。
ステップ804では、フィードフォワード増圧量FFZを、FFZ=VWD×β/VIKにより求めるとともに、GFLAG=0にリセットし、さらに、サイクルフラグCycleF=1にセットする。ここでは、初回の増圧量を車輪加速度VWDに基づいて求めるものであり、これを本明細書ではフィードフォワード増圧量という。
【0047】
次のステップ805では、増圧時間ZAWが0以下であり、かつ増圧タイマINCTがフィードフォワード増圧量FFZ以上であるか否か判断し、YESの場合にはステップ807に進んで保持出力を行い、NOの場合にはステップ806に進んで増圧出力を行うとともに、増圧タイマINCTをインクリメント(1加算)する。
すなわち、増圧制御時には、初回は、増圧タイマINCTがフィードフォワード増圧量FFZを越えるまでは増圧出力を行う。その後は、増圧時間ZAWがプラスになると出力する。
【0048】
上述のコントロールユニット12においてアンチスキッド制御を実行する部分をブロック図により示したものが図11である。
図において目標車輪速度作成部12aは、ステップ104の処理を行う部分であり、疑似車体速度VI、車体減速度VIK、車輪速度VW、車輪加速度VWDを入力して目標車輪速度VWMを作成するもので、一次のローパスフィルタにより構成されている。
ここで形成された目標車輪速度VWMは、車輪速度偏差演算部12bに入力されて偏差ΔVWが求められるものであり、この処理を行う部分がステップ601の処理を実行する部分に相当する。
目標液圧演算部12cでは、偏差ΔVWに基づいて偏差圧力値PPおよび積分圧力値IPを求め、これらに基づいて目標液圧PBを演算するものであり、この処理を行う部分が、ステップ602〜607の処理を行う部分である。
また、目標液圧PBは、パルス変換部12dにおいてパルスに変換されてパルス出力制御部12eから出力される。
このパルス変換部12dおよびパルス出力制御部12eに相当するのが、図4のステップ106〜119の処理を実行する部分であり、目標液圧PBに基づいて得られた減圧時間GAWおよび増圧時間ZAWに応じたONパルス幅を有したデューティ信号が出力されることになる。
【0049】
次に、図12のタイムチャートに基づいて実施の形態の基本的な作用について説明する。このタイムチャートに示すように、制動により疑似車体速度VIが低下するのに伴って、目標車輪速度VWMは、車輪速度VWに等しい値から、最適スリップ率値VWSに向けて収束するよう形成される。ここで目標車輪速度VWMが車輪速度VWに等しい値というのは、車輪速度VWが上向きから下向きに変化する時点の近傍の値であり、スピンアップ点の近傍における車輪速度(≒車体速度)に相当する。
【0050】
そこで図示のように、アンチスキッド制御を開始していない状態で車輪速度VWが最適スリップ率値VWSを下回ると(t1の時点)、ステップ106→107→109の流れとなって減圧制御が開始される。この減圧制御の初回にあっては、ステップ701→702→703→704の流れに基づいて、フィードフォワード減圧量FFGが車輪加速度VWDおよび車体減速度VIKに基づいて決定され、さらに、ステップ705→706の流れに基づいて、減圧出力が成される。この減圧出力は、減圧カウンタDECTが、フィードフォワード減圧量FFGに達するまで成される。
このタイムチャートでは、t2の時点で、減圧カウンタDECTが、フィードフォワード減圧量FFGに達し、その時点で、ステップ106→108→110→113の流れとなって、保持制御が成される。
ここで、図示のように、t2の時点の後も、目標車輪速VWMと車輪速VWとの偏差△VWが生じると、ステップ105におけるPI制御演算処理において偏差△VWを積算して形成される目標液圧PBも増加する。
そして、この目標液圧PBにおいて、フィードフォワード減圧量FFGの分を差し引いた値が時点t2から30msecの保持を行った時点で8msecを越えているか、もしくは30〜60msecの間に8msecを越えると、減圧出力が成され、あるいは時点t2から60msecの保持を終了した時点で3msecを越えているか、もしくはその後に3msecを越えるかすると、減圧出力が成される。この減圧出力は、ステップ702において、目標液圧PBに基づいて得られた減圧時間GAWだけ成される。
これが、図においてt3とt4の間に出力されている減圧出力であり、緩減圧出力となる。
すなわち、2回目以降の減圧出力(緩減圧出力)は、1回目の出力から最も短時間でも30msecが経過してから行われるものであり、この場合は、減圧時間GAWの値が8msecよりも大きくなった場合に実行される。また、60msecが経過前であれば、減圧時間GAWが8msecを越えた時点で減圧出力が成される。また、減圧時間GAWが比較的小さい場合には、60msecが経過した後の時点で、減圧時間GAWが3msecを越えた時点で、減圧出力が成される。
【0051】
このように、本実施の形態にあっては、緩減圧を実行するにあたり、1次遅れの目標車輪速度VWMとの偏差に基づくPI制御により目標液圧PBを求め、目標液圧PBが所定量貯まってから緩減圧出力を行うようにしたため、オーバシュートが発生することが無く、ポンプ4の容量を抑えることができ、しかも、制御周期がばらつき、制御周期を一定にしたのに比べて、音・振動の発生を低減させることができる。
さらに、最初のフィードフォワード減圧からの時間を、最低限30msec確保し、また、それ以降も同様に最低限の時間を確保することから、減圧頻度を抑えるようにしながらも、高μ路から低μ路のようなμ変化があっても減圧不足が生じないようにすることができる。これにより、減圧頻度を抑えてポンプ容量を低く抑えることを可能としながら、目標液圧PBへの収束性を確保することができる。
【0052】
次に、本実施の形態の特徴であるゆっくり踏み制御について図13に基づいて説明する。
図13は、ゆっくり踏み制動をおこなった場合の一例を示すタイムチャートである。
本実施の形態では、ゆっくり踏み制動を行って、疑似車体速度VIが図示のように実車体速度Vcarに対して下ずりが生じ、さらに、車輪がロック傾向に陥った場合、図示のように、疑似車体減速度VID100が−1.0g未満であり、かつ、車輪減速度VWD60が−1.2g未満であることにより、ゆっくり踏みと判断し、この判断から30msecの間、強制的に急減圧を実行する。
したがって、車輪速度VWが実車体速度Vcarに向けて復帰し、疑似車体速度VIの下ずりが解消される。
また、この強制的な急減圧を実行するタイミングが早いため、図14の説明図に示すように、スリップ特性においてスリップ率が良好な時期に減圧を行うことができ、大きな路面反力を得て、短時間に車輪速度VWを実車体速度Vcarに復帰させることができる。加えて、この急減圧の際には、減圧時間GAWを車体減速度VIKに基づいて計算しないため、車体減速度VIKが大きく発生していない状態であるにもかかわらず、急減圧を行うことができるものである。
ちなみに、従来技術のように減圧のタイミングが遅くなりスリップが進むと、路面反力が小さくなって、大きな減圧を行わないと車輪速度VWが実車体速度Vcarに復帰しない。
このように、本実施の形態にあっては、運転者にG抜け感を与えない短時間の減圧で車輪速度VWを実車体速度Vcarに復帰させることができるものであり、この場合、リザーバ7に抜くブレーキ液量が少なくて済み、ポンプ4の必要な作動量も少なくて済む。よって、ポンプ4の必要な容量を小さく抑えることができ、ポンプ4の小型化を図って、コストダウン、装置の小型化および軽量化を図ることができる。
【0053】
(実施の形態2)
この実施の形態2は、特許請求の範囲の請求項6,7に記載の発明に対応しているものであり、実施の形態1において図8に示したPI制御演算処理におけるステップ611〜613のゆっくり踏み判断処理の部分の他例であり、主たる構成については実施の形態1と共通しているため、図15のフローチャートによりこの相違点のみを説明する。
ステップ610に続くステップ2611では、図外のブレーキペダルを踏んだときに投入されるブレーキスイッチの出力STS=ONであるか否か判断し、STS=ONの場合、ステップ2612に進んでストップランプタイマSTSTをインクリメント(1加算)し、一方、STS=OFFのとき、ステップ2613に進んで、ストップランプタイマSTST=0にリセットする。
ステップ2614では、ストップランプタイマSTSTが100msecを越えたか否か判断し、STST≦100msecのときはステップ617に進み、STST > 100msecの場合はステップ2615に進んで、車輪減速度VWD60が−1.2g未満であるか否か判断し、VWD60≧−1.2gの場合はステップ617に進み、VWD60<−1.2gの場合はステップ613に進む。このPI制御処理の他の処理については実施の形態1と共通しているため、説明を省略する。
【0054】
すなわち、本実施の形態2にあっては、制動操作を開始して、所定時間(100msec)が経過しても車輪速度VWが最適スリップ率値VWSを下回らず、しかも、車輪減速度VWD60が所定値(−1.2g)よりも小さいときに、ゆっくり踏みと判断して強制減圧を実行し、疑似車体速度VIの下ずりを解消するものである。
【0055】
以上、図面により実施の形態について説明してきたが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
例えば、実施の形態1では、ゆっくり踏み判断時の強制減圧を実行する時間を30msecとしたが、この時間は、車両の諸元に基づいて適宜最適値を決定するものである。すなわち、減圧時間が長すぎると、G抜け感を与えることになり、また、減圧時間が短すぎると、車輪速度が実車体速度まで確実に復帰しない。そこで、両者を満足するように、10〜50msecの範囲で車種に応じて最適の値にチューニングするものである。
また、実施の形態1では、ゆっくり踏みと判断したら(VID100<−1.0gかつVWD60<−1.2g)即座に強制減圧を実行するように構成したが、ゆっくり踏みと判断する状態が所定時間(この所定時間は、10〜500msecの範囲の値とする)経過してから強制減圧を実行するようにしてもよい。
また、実施の形態にあっては、アンチスキッド制御として、目標スリップ車速に向けてPI制御により収束するように制御するものを示したが、車輪速度が減圧閾値を下回ったら減圧を実行し、車輪速度がある程度復帰したら保持を行い、さらに復帰したら増圧する、従来から周知のアンチスキッド制御を実行する装置にも適用することができる。
さらに、実施の形態では、ゆっくり踏みの判断を、疑似車体速度VIの微分値を用いて行っているが、減速度センサの変化率を用いたり、ブレーキペダルのストローク量またはマスタシリンダの圧力を用いて判断することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のアンチスキッド制御装置を示すクレーム対応図である。
【図2】実施の形態1のアンチスキッド制御装置のブレーキ装置の部分を示す油圧回路図である。
【図3】実施の形態1のコントロールユニットを示すブロック図である。
【図4】実施の形態1におけるアンチスキッド制御の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施の形態1における疑似車体速度計算の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施の形態1における車体減速度計算の流れを示すフローチャートである。
【図7】実施の形態1における目標車輪速度計算の流れを示すフローチャートである。
【図8】実施の形態1におけるゆっくり踏み判断を含むPI制御演算処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】実施の形態1における減圧制御の流れを示すフローチャートである。
【図10】実施の形態1における増圧制御の流れを示すフローチャートである。
【図11】実施の形態1のアンチスキッド制御装置の要部を示すブロック図である。
【図12】実施の形態の作動例を示すタイムチャートである。
【図13】実施の形態1におけるゆっくり踏み(ゆっくり操作)時の制動例を示すタイムチャートである。
【図14】実施の形態1におけるタイヤのスリップ特性図チャートである。
【図15】実施の形態2におけるゆっくり踏み判断を含むPI制御演算処理の流れを示すフローチャートである。
【図16】従来技術の制動時の作動を説明するタイムチャートである。
【符号の説明】
1 ブレーキ回路
1d 分岐点
1g 一方弁
1h バイパス路
2 ポート
4 ポンプ
4a 吸入弁
4b 吐出弁
4c カム
4d ダンパ
41 プランジャ
42 フィルタ部材
5 増圧弁
6 減圧弁
7 リザーバ
10 ドレーン回路
11 還流回路
11a 吸入回路
11b 吐出回路
12 コントロールユニット
12a 目標車輪速度作成部
12b 車輪速度偏差演算部
12c 目標液圧演算部
12d パルス変換部
12e パルス出力制御部
13 車輪速度センサ

Claims (7)

  1. 車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、
    車輪加速度を演算する車輪加速度演算手段と、
    制御の1サイクル目においては、車体減速度を高μ路制動時相当の値として演算する車体減速度演算手段と、
    前記車輪速度と前記車体減速度とに基づいて疑似車体速度を演算する疑似車体速度演算手段と、
    前記擬似車体速度に対する前記車輪速度の最適スリップ率を演算する最適スリップ率演算手段と、
    前記車輪加速度に応じて、制動液圧の減圧量を演算する減圧演算出手段と、
    前記車輪速度が前記最適スリップ率よりも低下したときに、前記演算した減圧量に基づいて、減圧し車輪のロックを防止するアンチスキッド制御を行うアンチスキッド制御手段と、
    を備えたアンチスキッド制御装置において、
    ブレーキのゆっくり操作を検出するゆっくり操作検出手段を設け、
    制御の1サイクル目にゆっくり操作を検出し、かつ、車輪減速度の大きさ、高μ路制動時相当の車体減速度の大きさよりも小さく設定した設定値以下である場合に、車輪がロック傾向にあると判断し、車輪がロック傾向にあるときには、前記アンチスキッド制御手段が、所定時間強制減圧を実行する構成としたことを特徴とするアンチスキッド制御装置。
  2. 前記強制減圧を実行する時間は10〜50msecの範囲内の任意の値であることを特徴とする請求項1に記載のアンチスキッド制御装置。
  3. 前記ゆっくり操作検出手段は、前記疑似車体速度の微分値に基づいてゆっくり操作を判断することを特徴とする請求項1または2に記載のアンチスキッド制御装置。
  4. 請求項3に記載のアンチスキッド制御装置において、
    前記ゆっくり操作検出手段は、前記疑似車体速度の100msecの微分値VID100が−1.0g未満であるときにゆっくり操作と判断し、かつ、車輪速度の60msecの微分値VWD60が−1.2g未満であるときに車輪がロック傾向にあると判断して強制減圧を実行することを特徴とするアンチスキッド制御装置。
  5. 請求項3に記載のアンチスキッド制御装置において、
    前記ゆっくり操作検出手段は、前記疑似車体速度の100msecの微分値VID100が−1.0g未満の状態が所定時間継続されているときにゆっくり操作と判断し、かつ、車輪速度の60msecの微分値VWD60が−1.2g未満であるときに車輪がロック傾向にあると判断して強制減圧を実行することを特徴とするアンチスキッド制御装置。
  6. 前記ゆっくり操作検出手段は、制動操作の開始時点からの経過時間に基づいてゆっくり操作を判断することを特徴とする請求項1または2に記載のアンチスキッド制御装置。
  7. 請求項6に記載のアンチスキッド制御装置において、
    前記ゆっくり操作検出手段は、制動操作の開始時点からの経過時間が所定値よりも大きくなったときにゆっくり操作と判断し、かつ、車輪速度の60msecの微分値VWD60が−1.2g未満であるときに車輪がロック傾向にあると判断して強制減圧を実行することを特徴とするアンチスキッド制御装置。
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