JP3992125B2 - 薄膜磁気ヘッド及びその保護膜形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気ディスク装置等の磁気記録再生装置に使用される薄膜磁気ヘッド及びそのスライダ媒体対向面に保護膜を形成する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
薄膜磁気ヘッドでは、磁気記録媒体(磁気ディスク)の高速回転によって生じる空気流をベアリングとし、磁気ディスク面との間に微小な浮上高さを保って浮上することにより、摩耗を回避する。磁気ディスクに腐食が生じ、または、スライダに搭載されている電磁変換素子に腐食が生じ、これらの腐食に起因する金属突出物が生成された場合、スライダの浮上高さ変動、接触による摩耗もしくは磁気記録データの損傷等を招くことがある。このような問題を回避する手段として、従来は、スライダ、及び、磁気ディスクの対向面に8〜10nm程度のDLC(ダイヤモンド.ライク.カーボン)保護膜を設けていた。DLC保護膜には、上述した腐食防止の他、磁気ディスクの回転開始及び回転停止時の接触、及び、微小な異物粒子との接触に対する耐摩耗性を向上させる働きもある。
【0003】
DLC保護膜の多くは、最表面にフッ化炭素層を形成してある(特開平10ー68083号公報)。この構造によれば、最表面の表面エネルギーを低下させ、吸着係数を低下させることによって、最表面と磁気ディスクもしくは汚染物質との吸着を防止することができる。
【0004】
DLC保護膜は、1010〜1012Ωcmの比抵抗を有する。この比抵抗により、DLC保護膜は薄膜磁気ヘッドのスライダと磁気ディスクとの接触時の電気絶縁性を保つ役割も担っている。
【0005】
磁気ディスク装置では、あらゆる面から記録密度増大策が考慮されている。その対策の一つに、スライダに搭載されている電磁変換素子と、磁気ディスクとの間の間隔を減少させ、スペーシングロスを低減させることが含まれている。スペーシングロスの低減手段としては、薄膜磁気ヘッドのスライダと、磁気ディスクとの間の浮上高さを減少させること、及び、保護膜の膜厚を薄くすることである。この内、浮上高さの減少は、磁気ディスク表面の汚れへの対応から限界があるから、保護膜の厚さを減少させるのが有効である。
【0006】
ところが、DLC保護膜は、スライダ表面に対する付着力が乏しい。DLC保護膜の付着力を確保する手段として、スライダの表面と、DLC保護膜との間に、密着層を形成する方法は既に知られている。現在用いられている密着層はαーSi(アモルファスシリコン)で構成されている。αーSiでなる密着層は、均一な膜厚を確保するために、その膜厚を2nm以下にすることができない。この密着層の膜厚が、保護膜全体としての膜厚に反映される。しかも、密着層の上に形成されるDLC保護膜の膜厚を薄くすると、スライダと磁気ディスクとが接触した時、十分な電気絶縁性を確保することができない。上述した理由のために、DLC保護膜の膜厚低減に限界があり、スペーシングロスの低減、及び、それによる記録密度の増大に行き詰まりを生じている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、スペーシングロスが小さく、高密度記録に適した保護膜を有する薄膜磁気ヘッド、及び、保護膜形成方法を提供することである。
【0008】
本発明のもう一つの課題は、密着層を必要とせず、かつ、DLCと同等かそれを越える機械的強度を持つ保護膜を有する薄膜磁気ヘッド及び保護膜形成方法を提供することである。
【0009】
本発明の更にもう一つの課題は、ゴミなどの吸着及びスライダと媒体との吸着を生じにくい薄膜磁気ヘッド及び保護膜形成方法を提供することである。
【0010】
本発明の更にもう一つの課題は、表面摩擦係数が小さい薄膜磁気ヘッド及び保護膜形成方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上述した課題解決のため、本発明に係る薄膜磁気ヘッドは、スライダと、少なくとも一つの薄膜電磁変換素子と、保護膜とを含む。前記スライダは、媒体対向面を有する。前記薄膜電磁変換素子は、前記スライダ上に設けられている。
【0012】
前記保護膜は、前記スライダの前記媒体対向面に備えられ、SiN膜を含み、前記SiN膜は表面に潤滑層を有する。
【0013】
理想的な保護膜のモデルは、スライダ表面との密着層、機械的強度に富んだ中間層、低吸着係数、かつ、低摩擦係数の表面層から構成される。DLCを保護膜として用いることの問題点は、DLC保護膜と、スライダ表面との間に密着層を設けなければならないことから生じている。密着層を必要とせず、かつ、DLCと同等かそれを越える機械的強度を有する材料を採用することによって、上記問題を解決すると同時に、高い特性を有する保護膜が実現される。
【0014】
発明者らは、上記の問題を解決する手段としてSiN膜の採用が有効であることを見出した。すなわち、SiN膜は、薄膜磁気ヘッドのスライダ面に露出する材料との密着性が良好である。このため、密着層を必要とせず、かつ、DLC以上の機械的強度を有する保護膜を有する薄膜磁気ヘッドが得られる。
【0015】
SiN膜はDLCおよび撥水化されたDLCよりも大きな親水性を有しているが、そのままではゴミなどの吸着、スライダと媒体との吸着、表面摩擦係数の増加等の問題を生じやすい。この問題は、SiN膜の表面に潤滑層を形成することによって解決される。即ち、SiN膜の表面に潤滑層を形成することにより、ゴミなどの吸着及びスライダと媒体との吸着が生じにくく、しかも、表面摩擦係数の小さい薄膜磁気ヘッドを得ることができる。潤滑層として満たすべき条件は、表面吸着抑制のため低表面エネルギーであること、せん断が潤滑層内部ではなく、摩擦界面で発生すること等である。使用可能な潤滑層としては、ポリフルオロエーテル等の液体潤滑材、グラファイトもしくは六方晶ホウ素等の固体潤滑材等を用いることができるが、保護膜最表面層の改質が更に有効である。保護膜最表面層の改質に関しては、SiN膜の上にSiO2膜を設ける構成、及び、フッ化炭素層(以下CF膜)を設ける構成が考えられる。この内、表面吸着係数が小さくなること、及び、極めて薄い膜厚を形成し得ることから、CF膜が特に適している。
【0016】
SiNの場合、SiFがエネルギー的に気体分子として安定なため、DLCのようなフッ素プラズマによる潤滑膜形成は困難である。従って、1nm以下のフッ化炭素層(以下CF膜)を形成するのが有効である。
【0017】
前記保護膜は、中間層を含んでいてもよい。前記中間層は前記SiN層及び前記潤滑層の間に存在し、前記SiN層及び前記潤滑層の構成原子によって構成され、0.3nm〜0.5nmの厚さを有する。
【0018】
本発明に係る保護膜形成方法では、薄膜磁気ヘッドスライダの媒体対向面に、上述したSiN膜を形成するに当たり、ECRスパッタリング法を採用する。
【0019】
薄膜磁気ヘッドの保護膜として、SiN膜を用いる提案は既になされている(特開昭63−91814号公報)が、CVD法やスパッタリング法によるものであった。CVD法やスパッタリング法によって形成されたSiN膜は、DLC膜と同等かそれを越える機械的強度を持たない。
【0020】
これに対して、ECRスパッタリング法で成膜したSiN膜は、DLC膜以上の機械的強度を持ち、しかも、膜厚をDLC膜よりはるかに薄くすることができる。
【0021】
本発明では、更に、前記SiN膜の表面に炭素とフッ素の化合物を含む潤滑層を形成する。
【0022】
本発明の他の目的、構成及び利点は、実施例である添付図面を参照して、更に詳しく説明する。
【0023】
【発明の実施の形態】
<薄膜磁気ヘッド>
図1は本発明に係る薄膜磁気ヘッドの斜視図、図2は図1に図示された薄膜磁気ヘッドの断面図である。これらの図において、寸法は誇張されている。図示された本発明に係る薄膜磁気ヘッドは、スライダ1と、少なくとも1つの電磁変換素子2と、保護膜4とを含む。
【0024】
スライダ1は媒体対向面側にレール部11、12を有し、レール部11、12の基体表面13、14がABSのために用いられる。レール部11、12は2本に限らない。例えば、1〜3本のレール部を有することがあり、レール部を持たない平面となることもある。また、浮上特性改善等のために、媒体対向面に種々の幾何学的形状が付されることもある。何れのタイプのスライダであっても、本発明の適用が可能である。
【0025】
電磁変換素子2は、端部が基体表面13、14に現れる第1のポール部P1及び第2のポール部P2を有する。電磁変換素子2の第1のポール部P1及び第2のポール部P2は、先端が基体表面13、14に現れている。
【0026】
保護膜4は、スライダ1の媒体対向面に備えられる。保護膜4は、媒体対向面の全体に設けてもよいし、レール部11、12の表面にのみ設けてもよい。保護膜4は、図3に拡大して示すように、SiN膜41を含み、SiN膜41は表面に潤滑層42を有する。潤滑層42は、好ましくはCF膜でなる。従って、保護膜4の全体としては、SiN/CF膜構造として表現できる。SiN膜41は、ECRスパッタリング法により、1〜8nmの膜厚t1となるように、スライダ1の媒体対向面に直接に成膜されている。
【0027】
SiN膜41は、薄膜磁気ヘッドのスライダ1の表面に露出する材料、例えば、Al2O3、磁性金属材料、A1TiCなどの材料との密着性が良好である。このため、密着層を必要とせず、かつ、DLCと同等かそれを越える機械的強度を有する保護膜4を有する薄膜磁気ヘッドが得られる。
【0028】
しかも、SiN膜41の表面に潤滑層42が形成されている。この潤滑層42は好ましくはCF層でなる。このため、ゴミなどの吸着及びスライダと媒体との吸着を生じにくい薄膜磁気ヘッドを得ることができる。また、表面摩擦係数の小さい薄膜磁気ヘッドを得ることができる。
【0029】
実用的な保護膜4の構造は、膜厚t1=1〜8nmのSiN膜41の表面に、膜厚t2=0.2〜1nm、好ましくは、0.5nmのCF膜42を形成したSiN/CF膜である。
【0030】
再び、図1〜図4を参照して説明する。図示された実施例において、電磁変換素子2は、第1の磁性膜21、第2の磁性膜22、コイル膜23、アルミナ等でなるギャップ膜24、有機樹脂で構成された絶縁膜25及びアルミナ等でなる保護膜26などを有している。第1の磁性膜21及び第2の磁性膜22の先端部は微小厚みのギャップ膜24を隔てて対向する第1のポール部P1及び第2のポール部P2となっており、第1のポール部P1及び第2のポール部P2において書き込みを行なう。第1の磁性膜21及び第2の磁性膜22は、そのヨーク部が第1のポール部P1及び第2のポール部P2とは反対側にあるバックギャップ部において、磁気回路を完成するように互いに結合されている。絶縁膜25の上に、ヨーク部の結合部のまわりを渦巻状にまわるように、コイル膜23を形成してある。コイル膜23の両端は、取り出し電極27、28に導通されている(図1参照)。コイル膜23の巻数および層数は任意である。
【0031】
実施例に示された薄膜磁気ヘッドは、書き込み用として誘導型電磁変換素子2を有し、読み出し用としてMR素子を用いた薄膜電磁変換素子(以下MR素子と称する)3を有する。MR素子3は、これまで、種々の膜構造のものが提案され、実用に供されている。例えばパーマロイ等による異方性磁気抵抗効果素子を用いたもの、巨大磁気抵抗(GMR)効果膜を用いたもの、強磁性トンネル効果膜(TMR)等がある。本発明において、何れのタイプであってもよい。MR素子3は、第1のシールド膜31と、第2のシールド膜を兼ねている第1の磁性膜21との間において、絶縁膜32の内部に配置されている。絶縁膜32はアルミナ等によって構成されている。MR素子3は取り出し電極33、34に接続されている(図1参照)。
【0032】
薄膜電磁変換素子2、3は、レール部11、12の一方または両者の媒体移動方向a1の端部に設けられている。媒体移動方向a1は、媒体が高速移動した時の空気の流出方向と一致する。スライダ11の媒体移動方向a1の端面には、薄膜電磁変換素子2に接続された取り出し電極27、28及び薄膜電磁変換素子3に接続された取り出し電極33、34が設けられている。
【0033】
更に、薄膜磁気ヘッドのポール部の構造としては、実施例に示すものに限らず、これまで提案され、またはこれから提案されることのある各種のポール構造に適用できる。例えば、ポール部を2層以上の多層膜構造としたもの、2つのポール部のうち、一方のみを多層膜構造としたものであっても、本発明の適用が可能である。また、ポール部を多層膜構造とした場合、ポール部を構成する磁性膜の一部は、媒体対向面に露出しないように、媒体対向面から後退した位置に形成してもよい。
【0034】
<保護膜形成方法>
次に、本発明に係る保護膜形成方法について説明する。図4は本発明に係る保護膜形成方法の実施に直接使用するECRスパッタリング装置の構成を概略的に示す図である。成膜の基本的プロセスとして、スライダ表面にArプラズマによるクリーニングを行った後、ArガスとNガスとの混合ガスによって高純度Siターゲットをスパッタリングし、SiN膜を形成する。SiN膜は、前述したように、ECRスパッタリング法により、1〜8nmの膜厚となるように成膜する。
【0035】
SiNの成膜が所定の膜厚に達した時点で、CFガスを流し、SiN膜の表面に、潤滑層となるCF膜を形成する。CF膜の膜厚は、0.2〜1nm、好ましくは、0.5nmに設定する。CF膜はSiN膜と同一の成膜装置で連続的に成膜する。これにより、SiN/CFの膜構造を有する保護膜が得られる。CFガスはCF4、CH3F、CHF3、CH2F2など様々な組成のガスが使用可能である。実施例では、CF4ガスを用いた場合について説明する。
【0036】
CF4の混入したプラズマを、Si系材料に照射した場合、Si系材料表面のエッチングとCF膜成膜という、2つのモードが存在する。2つのモードを連続的に行うことによって、SiN膜とCF膜の遷移層が形成され、両者の結合を高めることができる。2つのモードは、SiN表面に到達するフッ素イオンの量によって決定される。モード切り替えの方法としては、
(a)試料にバイアス電圧を印加し、到達イオンを制御する方法
(b)投入するマイク口波電力を変化させて、イオン量とラジカル量を調整する方法
の2つが考えられる。以下に詳説する実施例では方法(b)を用いた。
【0037】
図4に示したECRスパッタリング装置を用いて、薄膜磁気ヘッドのスライダ1上にSiN膜を形成した。実際のプロセスでは、多数の薄膜磁気ヘッドを担持するウエハーを用いる。成膜工程は以下の通りである。
【0038】
まず、ロードロック室51の内部に配置された試料52を、成膜室54の基板ステージ55に導入する。試料52は、3インチSi基板サイズを持つホルダー上に固定しておいた。
【0039】
ターボ分子ポンプ56及びドライスクロールポンプ61によって、ECR室53及び成膜室54を所定の到達圧力まで減圧した。次に、ECR室53及び成膜室54にArガスを導入し、反応に必要な圧力値に設定した。
【0040】
次に、ECR室53の周囲に2分割されて配置されたマグネットコイル57、57のそれぞれに電流を供給して励磁した。マグネットコイル57、57の励磁により、ターゲット58のECR室側近傍に0.0875Tの磁場を発生させた。ターゲット58としては、純度99.9999%のリング状Siを用いた。
【0041】
マイクロ波電源装置62から、分岐型矩形導波管59を経て、ECR室53、及び、成膜室54に2.45GHzの電磁波(マイクロ波)を導入した。上記の磁場は、マイクロ波の周波数に対してECR条件を満足し、ターゲット58の近傍で電子サイクロトロン共鳴による高密度プラズマが形成される。
【0042】
ターゲット58に対し、周波数13.56MHzの電磁波を印加する。ターゲット58の表面には、セルフバイアスが誘起され、ターゲット58の表面にスパッタリング現象が発生する。
【0043】
次に、N2ガスを導入した。N2ガスのArガスに対する流量比はAr:N2=4:1に設定した。
【0044】
そして、シャッター60を所定時間開放し、4.9nmのSiN膜を形成した。SiN成膜工程の終了後、シャッター60を一旦閉鎖した。シャッター60の開放時間は、あらかじめダミー基板を用いて成膜し、計算した成長速度に基いて定めた。
【0045】
次に、総流量一定のままでArガスとN2ガスの流量比を4:5に変更し、CF4ガスをこのガス系に混合した。1分間程度、放電が安定するのを待ってから、シャッター60を開放し、開放状態を20秒間保持した。
【0046】
次に、N2ガスの流れを停止して、停止状態を20秒間保持し、約0.1nmのCF層を形成した。SiN/CF膜の全膜厚は5.0nmとなった。
【0047】
上記の成膜プロセスとは別に、膜の硬さ測定のために、100nmのSiN/CF膜試料を作成した。このとき、SiN層とCF層の膜厚比が5.0nmの試料と一定になるように時間を変更した。
【0048】
放電とガス供給を停止し、ECR室53及び成膜室54を所定の背圧値まで減圧してから、試料52をロードロック室51に回収した。次に、ロードロック室51を大気に開放し、試料52を回収した。組成分析用として、Si基板上にもSiN/CF膜を成膜した。
【0049】
<膜の組成>
オージェ電子スペクトル法において、Ar+イオンスパッタリングによる深さ方向組成分析を行った。CVD法で形成されたSiN粉体とテフロンを標準試料とし、原子%に直した。図5はAr+イオンスパッタリング時間(秒)と原子比(%)との関係を示す図である。Ar+イオンスパッタリング時間は膜の表面から基板表面に向かう膜厚(深さ)にほぼ比例する。図5において、曲線L11は炭素Cについての特性、曲線L12はフッ素Fについての特性、曲線L13は窒素Nについての特性、曲線L14は珪素Siについての特性をそれぞれ示している。
【0050】
図5を参照すると、膜表面からスパッタリング時間約20秒に対応する深さまでは、C:F=8:2の原子組成比でなるCF膜となっている。この深さから、基板表面方向にかけて、窒素Nおよび珪素Siの含有量が増加し、基板表面まではSi:N=4.2:5.8と、ほぼ化学量論組成のSiN4となっている。
【0051】
上記の結果、SiN膜とCF膜の間には、両者の原子で構成される中間層が形成されていることが確認された。同じ試料を用いて行ったSiMSの結果から、約O.3〜O.5nmの中間層が形成されているものと思われる。
【0052】
<膜の硬度>
図6は硬度測定結果を示す。図6の横軸には膜表面からの深さ(nm)を取り、縦軸には硬度(GPa)を取ってある。インデンテーション法(硬度測定法)のうち、CSM(Continuous Stiffness Measurement:連続的剛性測定法)を用いて、膜厚100nmのSiN/CF膜を有する試料について、膜の硬さを評価した。CSMを用いた場合、圧子挿入深さの硬度と弾性率が評価できる。曲線L21はその測定結果を示している。
【0053】
比較のために、膜厚100nmのSiN膜を有する試料、及び、膜厚100nmのDLC膜を有する試料についても評価した。曲線L22はSiN膜を有する試料の測定特性を示し、曲線L23はDLC膜を有する試料の測定結果を示している。
【0054】
SiN膜を持つ試料については、非連続測定も併せて行った。図6の曲線L24は非連続測定結果を示している。CSM及び非連続測定には、どちらもバーコヴィッチ型の単結晶ダイヤモンド圧子を用いた。
【0055】
図6を参照すると、CSMの評価では、SiN膜及びSiN/CF膜の何れも、明らかにDLC保護膜よりも高い硬度を示している。約50nm以上の深さで、全ての膜の硬度が一定になるのは、この深さ以上ではスライダ基体の硬度が測定されているためである。
【0056】
SiN膜について、CSMと非連続測定の結果を比較すると、膜表面近傍の硬度に相違があることが分かる。非連続測定による硬度は、膜表面近傍に近づくに従って増大する。それに対して、CSMの測定結果は表面近傍で最も低い硬度を示し、徐々に立ち上がって非連続測定曲線に乗る。図示はされていないが、SiN/CF膜以外のCSM曲線では、最大値は非連続測定結果の最大値より小さい。
【0057】
非連続測定及びCSM測定による硬度測定結果の違いは、両者の測定方法の違いに起因する。非連続測定では、測定中、常時、荷重が印加されているのに対して、CSMでは、負荷と除荷とを繰り返して、各深さごとの硬度を評価する。このため、CSMでは非連続測定に比べて膜表面と圧子表面の間の吸着現象が顕著になり、最表面では圧子が荷重以上の力で膜深さ方向に引き込まれることになる。従って、CSM測定は膜最表面の真の硬度を知ることはできないが、膜間の硬度および吸着係数の相対的比較を、同時に行うことを可能ならしめる。
【0058】
以上から、SiN/CF膜及びSiN膜について、硬度測定結果を詳細に検証してみると、両者は膜の表面近傍硬度に相違が認められる。すなわち、表面吸着の低下により、SiN/CF膜は、SiN膜に比べて、その硬度がより正確に測定されている。
【0059】
このような表面の硬度低下が、吸着低下ではなく柔らかいCF膜の硬度のみによるものならば、CF膜の膜厚から考えて、硬度の最大値は、より表面部分で観測されるはずである。ゆえにこの結果は、SiN/CF膜とSiN膜の表面吸着性の相違に起因するものであって、SiN/CF膜は、表面吸着性がSiN膜よりも低いことを示しているといえる。
【0060】
<CSSテスト>
図7はCSS(コンタクト.スタート.ストップ)テストの結果を示している。図7のCSSテスト結果は、磁気ディスク上に薄膜磁気ヘッドを接触させた静止状態から、回転を開始したときに観測される最大吸着係数の結果を示す。曲線L31は膜厚5.0nmのSiN膜による保護膜を備えた薄膜磁気ヘッドの特性、曲線L32は膜厚5.0nmのDLC膜による保護膜を備えた薄膜磁気ヘッドの特性、曲線L33は膜厚5.0nmのDLC/CF膜による保護膜を備えた薄膜磁気ヘッドの特性、曲線L34は膜厚5.0nmのSiN/CF膜による保護膜を備えた薄膜磁気ヘッドの特性をそれぞれ示している。
【0061】
SiN/CF膜による保護膜を備えた薄膜磁気ヘッドは、曲線L34と、曲線L31、L32との対比から明らかなように、DLC膜を用いた薄膜磁気ヘッド、及び、SiN膜を用いた薄膜磁気ヘッドよりも、著しく低い最大吸着係数を示す。DLC/CF膜を用いた薄膜磁気ヘッドと同程度の最大吸着係数となる。
【0062】
図8はCSS(コンタクト.スタート.ストップ)テストの結果を示している。図8のCSSテスト結果は、薄膜磁気ヘッドを接触状態で磁気ディスクを低速回転させた場合の摩擦係数を示す。回転開始から終了までをCSSサイクルとし、2サイクルごとの摩擦係数を評価した。曲線L41は膜厚5.0nmのSiN膜による保護膜を備えた薄膜磁気ヘッドの特性、曲線L42は膜厚5.0nmのDLC膜による保護膜を備えた薄膜磁気ヘッドの特性、曲線L43は膜厚5.0nmのDLC/CF膜による保護膜を備えた薄膜磁気ヘッドの特性、曲線L44は膜厚5.0nmのSiN/CF膜による保護膜を備えた薄膜磁気ヘッドの特性をそれぞれ示している。
【0063】
SiN/CF膜による保護膜を備えた薄膜磁気ヘッドは、曲線L44と、曲線L41、L42との対比から明らかなように、DLC膜を用いた薄膜磁気ヘッド、及び、SiN膜を用いた薄膜磁気ヘッドよりも、著しく低い摩擦係数を示し、DLC/CF膜を用いた薄膜磁気ヘッドと同程度の摩擦係数となる。
【0064】
より具体的には、DLC膜よりなる保護膜を有する薄膜磁気ヘッド、及び、SiN膜よりなる保護膜を有する薄膜磁気ヘッドでは、2サイクル以降で15〜25の摩擦係数を示しているのに対して、SiN/CF膜よりなる保護膜を有する薄膜磁気ヘッドでは4〜7に止まっている。
【0065】
以上、好適な具体的実施例を参照して本発明を詳説したが、本発明の本質及び範囲から離れることなく、その形態と細部において、種々の変形がなされ得ることは、当業者にとって明らかである。
【0066】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、次のような効果が得られる。
(a)スペーシングロスが小さく、高密度記録に適した保護膜を有する薄膜磁気ヘッド、及び、保護膜形成方法を提供することができる。
(b)密着層を必要とせず、かつ、DLCと同等かそれを越える機械的強度を有する保護膜を有する薄膜磁気ヘッド及び保護膜形成方法を提供することができる。
(c)ゴミなどの吸着及びスライダと媒体との吸着を生じにくい薄膜磁気ヘッド及び保護膜形成方法を提供することができる。
(d)表面摩擦係数が小さい薄膜磁気ヘッド及び保護膜形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る薄膜磁気ヘッドの斜視図である。
【図2】図1に図示された薄膜磁気ヘッドの断面図である。
【図3】図1及び図2に示した薄膜磁気ヘッドの一部拡大図である。
【図4】本発明に係る保護膜形成方法の実施に直接使用するECRスパッタリング装置の構成を概略的に示す図である。
【図5】Ar+イオンスパッタリング時間(秒)と原子比(%)との関係を示す図である。
【図6】硬度測定結果を示すずである。
【図7】CSSテストの結果を示す図である。
【図8】CSSテストの結果を示す図である。
【符号の説明】
1 スライダ
13、14 基体表面
2 電磁変換素子
4 保護膜
Claims (2)
- スライダと、少なくとも一つの薄膜電磁変換素子と、保護膜とを含む薄膜磁気ヘッドであって、
前記スライダは、媒体対向面を有しており、
前記薄膜電磁変換素子は、前記スライダ上に設けられており、
前記保護膜は、前記スライダの前記媒体対向面に備えられ、SiN膜と、潤滑層とを含んでおり、
前記SiN膜は、前記スライダの前記媒体対向面に形成されており、
前記潤滑層は、前記SiN膜の表面に形成され、炭素とフッ素の化合物から構成されたCF膜でなり、
前記SiN膜と前記CF膜との間に、前記SiN膜及び前記CF膜の構成原子によって構成された中間層が存在する、
薄膜磁気ヘッド。 - 請求項1に記載された薄膜磁気ヘッドに、前記保護膜を形成する方法であって、
少なくとも前記スライダの媒体対向面に、ECRスパッタリングによってSiN膜を形成し、
次に、前記SiN膜の表面に、炭素とフッ素の化合物であるCF膜でなる潤滑層を、ECRスパッタリングによって形成する工程を含み、
前記CF膜は、前記SiN膜と同一のECRスパッタリング装置によって連続的に成膜する、
保護膜形成方法。
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