JP3990522B2 - 口腔用剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、歯牙表面にリン酸カルシウムの被膜を形成させ、虫歯の発生を抑制することができる口腔用剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
虫歯は、酸により歯牙が溶解(脱灰)することによって起こる。初期の虫歯は、唾液からのミネラル補給(リンとカルシウム)による再石灰化により修復されるが、このミネラル補給が十分でなかったり、酸の発生が多くて再石灰化より脱灰が優先すると、虫歯は進行する。
従来、ミネラル補給又は再石灰化促進により虫歯の発生を抑制するため、フッ素の応用や、カルシウム塩、リン酸塩、リン酸カルシウム塩等を口腔用組成物に配合している。しかし、これらはイオン状態又は固体状態で歯牙表面に適用されるので、目的部位である歯牙表面への吸着量は僅かであり、また、水や唾液で簡単に洗い流されてしまい、十分な効果は得られなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、歯牙へのミネラル補給又は再石灰化促進効果が高く、虫歯の発生を抑制することができる口腔用剤を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、水溶性有機カルシウム塩又は水溶性有機リン酸エステルカルシウム塩と水溶性リン酸塩とを、口腔内でカルシウムイオンとリン酸イオンとが放出され、口腔中において両イオンのうち一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下するようにした口腔用剤を用いれば、歯牙表面に超微細なリン酸カルシウム(不溶性塩)が被膜状に析出し、容易には洗い流されず、ミネラル補給又は再石灰化促進効果が高く、虫歯の発生を抑制できることを見出した。
【0005】
本発明は、(A)水溶性有機酸カルシウム塩又は水溶性有機リン酸エステルカルシウム塩と、(B)水溶性リン酸塩とを含有し、口腔内でカルシウムイオンとリン酸イオンを放出する口腔用剤であって、口腔内において両イオンのうち一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下することを特徴とする口腔用剤を提供するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明で用いる成分(A)の水溶性有機酸カルシウム塩又は水溶性有機リン酸エステルカルシウム塩としては、例えば乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、グルコース−1−リン酸カルシウム等が挙げられる。これらのうち、特に乳酸カルシウムとグリセロリン酸カルシウムが好ましい。
【0007】
成分(A)は1種以上を用いることができ、全組成中に0.01〜40重量%、特に0.1〜20重量%、更に0.2〜10重量%配合するのが、リン酸カルシウム被膜の形成及び口腔用剤の香味の点から好ましい。
【0008】
本発明で用いる成分(B)の水溶性リン酸塩としては、例えばリン酸1水素ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素カリウム等のリン酸アルカリ金属塩、リン酸1水素アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム等のリン酸アンモニウム塩等が挙げられる。これらのうち特にリン酸1水素ナトリウム、リン酸1水素カリウムが好ましい。
【0009】
成分(B)は1種以上を用いることができ、全組成中に0.01〜40重量%、特に0.1〜20重量%、更に0.2〜10重量%配合するのが、リン酸カルシウム被膜の形成及び口腔用剤の香味の点から好ましい。
また、成分(A)と成分(B)の配合割合は、分子量によって異なるが、(A):(B)=1:50〜50:1(モル)が好ましい。
【0010】
本発明の口腔用剤は前記成分(A)及び(B)を含有し、口腔内でカルシウムイオンとリン酸イオンとが、成分(A)と成分(B)とからそれぞれ放出される形態である。
このように口腔内ではじめてカルシウムイオンとリン酸イオンが放出されるためには、成分(A)と(B)とが口腔内に適用される以前には反応しないように含まれているのが望ましい。かかる形態としては、成分(A)と(B)とが反応しないような形態で一の製剤中に配合されていてもよく、成分(A)と(B)とを別個の製剤(例えば、別々の容器に配合する)としてもよい。
【0011】
また、口腔中でカルシウムイオンとリン酸イオンのうち一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩(リン酸カルシウム)の形成により低下するように配合されていることが必要である。かくすることにより、歯牙表面に超微細なリン酸カルシウムの被膜が形成される。カルシウムイオンとリン酸イオンのうち一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下しないと、口腔内全体でリン酸カルシウムが析出してしまい、歯牙表面にリン酸カルシウムの被膜を形成することができない。
【0012】
このように口腔中で一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下するようにするには、例えば成分(A)と(B)を、一方のイオンが放出されはじめてから他方のイオンが放出されはじめるように配合する方法、成分(A)と(B)の溶解速度が異なるように配合する方法等が挙げられる。かくすることにより、例えばリン酸イオンが先に放出される液状口腔用剤の場合には、最初、口腔中のリン酸イオン濃度は上昇し、カルシウムイオンが放出されはじめると両イオンは瞬時に反応してリン酸カルシウムとなって歯牙表面に析出するので、析出している間はリン酸イオン濃度は低下することになる(図1参照)。また、リン酸イオンが先に放出される固体状口腔用剤(例えば錠剤や粉ハミガキ)の場合には、最初口腔中のリン酸イオン濃度は上昇し、カルシウムイオンが放出されはじめると両イオンは瞬時に反応して、リン酸カルシウムとなって歯牙表面に析出する一方、リン酸イオンの放出速度との関係でリン酸イオン濃度はゆるやかに上昇するか低下し、放出速度に比べてリン酸カルシウムの析出速度が高くなった時点でリン酸イオン濃度は低下することになる(図1参照)。このうち、成分(B)の溶解速度を成分(A)のそれよりも高くなる方法、又は成分(A)と(B)をリン酸イオンが放出されはじめてからカルシウムイオンが放出されるように配合するのがより好ましい。
このように配合するには、例えば次の(1)〜(5)の手法が挙げられる。
【0013】
(1)成分(A)又は(B)のいずれか一方のみをコーティング顆粒中に配合する。すなわち、成分(A)又は(B)のいずれか一方を直接配合し、他方をコーティング顆粒中に配合する。かくすることによりコーティング顆粒中に配合された成分からのイオンの放出が、直接配合された成分からのイオンの放出よりも遅れる。
【0014】
(2)成分(A)及び(B)を溶解度又は溶解順序の異なるコーティング顆粒中にそれぞれ配合する。すなわち、成分(A)及び(B)の一方を溶解度の高い又は早く溶解するコーティング顆粒中に配合し、他方を溶解度の低い又は遅く溶解するコーティング顆粒中に配合する。上記(1)及び(2)の方法において、顆粒のコーティングには、例えば油剤、水溶性高分子、非水溶性高分子等が用いられる。
【0015】
(3)多層錠剤中の溶解度又は溶解順序の異なる層に成分(A)と(B)をそれぞれ配合する。すなわち、多層錠剤、例えば三層錠や内外層を有する錠剤のそれぞれの層に成分(A)及び(B)をそれぞれ配合する。これらの多層における溶解度や溶解順序の調節は、各種油剤、水溶性高分子、非水溶性高分子等を配合することにより行うこともできる。
【0016】
(4)成分(A)及び(B)を粘度の異なる溶液又はペーストにそれぞれ配合する。例えば成分(A)を含有する溶液と成分(B)を含有する溶液を使用時に混合して用いる口腔用剤の場合、成分(A)を含有する溶液に、水溶性高分子等の増粘剤を配合して粘度を高くする。これにより、口腔内に適用したときに、最初にリン酸イオンが放出されはじめ、次いでカルシウムイオンが放出されはじめる。また、同様にして成分(B)を含有する溶液の粘度を高くすれば、口腔内に適用したときに、最初にカルシウムイオンが放出されはじめ、次いでリン酸イオンが放出されはじめる。
【0017】
(5)水への溶解性が異なるように配合された同一非水媒体中又は粉体中に成分(A)及び(B)を分散するように配合する。すなわち、非水媒体中では溶解していなかった成分(A)及び(B)が、本発明口腔用剤を口腔内に適用した時に溶解しはじめる。この時、水への成分(A)と(B)の溶解速度を変える(粒径や造粒手段等)ことにより、溶解速度の高い成分が先に放出されて、本発明の効果が得られる。
【0018】
本発明口腔用剤において、口腔中で(A)、(B)両イオンのうち一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下するか否かは、例えば以下の如くして証明することができる。
本発明品(顆粒は粉砕する)1gを100mLのイオン交換水(洗口液の場合は等量ずつ、錠剤の場合はその重量の100倍量の水)を入れたビーカーに投入し、マグネティックスターラーにて300r/min で攪拌し溶解させる。投入後1〜30秒間隔で10分まで0.2mLずつのサンプリングを行う。半日後、サンプリングされた液を約0.5μmのPTFE膜フィルターで濾過する。
その液を市販のリン及びカルシウムの比色定量試薬(テストワコー等)を用い定量する。その内のどちらかの濃度の最大値を記録する。更に、完全に均一になった時点で同様に定量を行う。その時点で先に最大値を記録した元素の濃度は最大値よりも低くならなければならない。ただし、防水コーティングを施した顆粒で、崩壊強度の異なるものを配合した場合に関しては、製剤1gを用い口腔内で10秒、20秒、30秒と10秒ずつブラッシング時間を増やしていき、3分まで歯磨を行わせる。歯磨終了後、10mLの水で5回嗽がせ、このすすぎ液を100mLにメスアップしたものを上記と同様に定量し、イオン濃度の上昇、低下を示すことを確認する。
【0019】
本発明の口腔用剤には、更に、通常の口腔用剤に用いられる成分、例えば界面活性剤、研磨剤、薬効剤、発熱体、液体ビヒクル、増粘剤、甘味料、香料、保存剤、美白剤、湿潤剤、粘結剤等を、適宜配合できる。これらの成分は、成分(A)と(B)が異なる層や液等に配合されている場合には、いずれか一方、又は両方の層や液等に配合できる(例えば、新化粧品学(1993年発行、499ページ〜510ページ)に記載の各種成分)。
【0020】
本発明の口腔用剤は、練歯磨、洗口剤、トローチ剤、粉ハミガキ等の形態にすることができる。
本発明の口腔用剤を使用するには、口腔内でリン酸イオンとカルシウムイオンのいずれか一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下するようにすれば良く、例えば前記(1)〜(3)の場合には、通常の練歯磨、洗口剤、トローチ剤等に適用され、通常の方法により口腔内に適用することができる。また、前記(4)〜(5)の場合には、成分(A)と(B)を別個に含有する溶液を作成し、使用時に混合して使用するのが好ましい。
【0021】
【発明の効果】
本発明の口腔用剤は、歯牙表面にリン酸カルシウムの被膜を形成させ、虫歯の発生を抑制することができる。
【0022】
【実施例】
実施例1
表1に示す組成の1液と2液からなり、使用時に混合して用いる口腔用剤を製造した。これらは、1液の粘度が2液より高く、まずリン酸イオンが放出されはじめ、次いでカルシウムイオンが放出されはじめるように配合されている。これらの口腔用剤について、前記の方法で一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下するか否か試験したところ、本発明品では、リン酸イオンが図1のようなイオン濃度の挙動を示すことが確認された。
得られた口腔用剤について、歯牙表面へのリン酸カルシウムの凝集を観察した。
【0023】
【表1】
【0024】
(評価方法)
5mm×5mmの牛歯牙のエナメルブロックを作成し、表面を鏡面研磨した。これを試験管に入れ、1液及び2液を同時に各2mL加え、その後30秒間攪拌した。ブロックを取り出し、流水で1分間洗浄した後、24時間真空乾燥した。これを常法によりPtコートし、走査型電子顕微鏡で表面を観察した(×30000)。
【0025】
その結果、本発明品1〜4では、歯牙表面に不定形(100nm程度の大きさ)の緻密なリン酸カルシウムの沈着物が均一に付着しているのが観察された。一方、塩化カルシウムと水溶性リン酸塩の組み合せである比較品1では、リン酸カルシウムの沈澱は歯牙表面にはほとんど付着していなかった。
【0026】
実施例2
表2に示す組成の1液と2液からなり、使用時に混合して用いる口腔用剤を製造した。これらは1液の粘度が2液より高く、まずリン酸イオンが放出されはじめ、次いでカルシウムイオンが放出されはじめるように配合されている。これらの口腔用剤について、前記の方法で一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下するか否か試験したところ、本発明品では、リン酸イオンが図1のようなイオン濃度の挙動を示すことが確認された。
得られた口腔用剤について、歯牙に適用したときの脱灰抑制効果を評価した。結果を表2に併せて示す。
【0027】
(評価方法)
5mm×5mmの牛歯牙のエナメルブロックを作成し、表面を鏡面研磨した後、3mm×3mmのウインドウ部分を残してネイルエナメルでコートした。このブロックについて、(1)試験管に入れ、(2)口腔用剤の1液及び2液を同時に2mLずつ加えて30秒間攪拌する、(3)流水で1分間洗浄する、(4)0.1M乳酸緩衝液に12時間浸す、(5)流水で1分間洗浄する、の操作を1日2回、5日間行った。その後、約100μm切片を作成し、X線マイクロラジオグラムによりミネラルの定量を行い、比較品5を基準にしたときの脱灰抑制率を求めた。各口腔用剤について5個の試料を用いて試験を行い、その平均値を示した。
【0028】
【表2】
【0029】
表2から明らかなように本発明品5〜8では、歯牙の脱灰が顕著に抑制され、虫歯予防作用が優れていることがわかる。一方、塩化カルシウムとリン酸2水素ナトリウムの組み合せである比較品2及び3では、十分な脱灰抑制作用は得られなかった。
【0030】
実施例3
表3に示す粉体を用い、遠心転動型造粒装置にて顆粒を作成した。顆粒は、流動層造粒装置にて、顆粒と同量の融点約70℃のパラフィンにてコーティングを行いコーティング顆粒を得た。その顆粒を用い表4に示す歯磨剤を製造した。これらの歯磨剤について、前記の方法で一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下するか否か試験したところ、本発明品ではいずれか一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下することが確認された。これらの歯磨剤を用いて、牛歯牙を処理した後、表面のリン酸カルシウム被膜の形成を実施例1と同様にして観察した。
【0031】
【表3】
【0032】
【表4】
【0033】
実施例4
表5に示す組成の3層錠(重量1g、直径15mm、重量比:上層/中層/下層=1/1/1)及び比較として単層錠(重量1g、直径15mm)をマシーナ(株)製油圧式多層打錠機を用いて調製した。これらの3層錠について、前記の方法で一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下するか否か試験したところ、本発明品ではいずれか一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下することが確認された。イオン交換水中にてこの錠剤を溶解させながら牛の歯牙を処理し、表面のリン酸カルシウム被膜の形成を実施例1と同様に観察した。
【0034】
【表5】
【0035】
実施例5
表6に示す処方で洗口液を調製した。これらの洗口液について、前記の方法で一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下するか否か試験したところ、本発明品ではいずれか一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下することが確認された。2液を混ぜ合わせた後、牛の歯を処理し表面のリン酸カルシウム被膜の形成を実施例1と同様にして観察した。
【0036】
【表6】
【0037】
実施例6
表7に示す処方で粉ハミガキを調製した。これらの粉ハミガキについて、前記の方法で一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下するか否か試験したところ、本発明品ではいずれか一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下することが確認された。水に粉ハミガキを溶解させながら、牛の歯を処理し、表面のリン酸カルシウム被膜の形成を実施例1と同様にして観察した。
【0038】
【表7】
【0039】
表4〜7から明らかなように、本発明品9〜17では歯牙表面へのリン酸カルシウムの被膜形成が観察された。
【図面の簡単な説明】
【図1】液状口用腔剤の場合の口腔中でのリン酸イオン濃度の変化を示す概念図である。
【図2】固体状口腔用剤の場合の口腔中でのリン酸イオン濃度の変化を示す概念図である
Claims (3)
- (A)水溶性有機酸カルシウム塩又は水溶性有機リン酸エステルカルシウム塩と(B)水溶性リン酸塩とを含有し、口腔内でカルシウムイオンとリン酸イオンを放出する歯磨剤であって、
(1) 成分 (A) 及び (B) の一方のみを崩壊強度0.26〜0.58 kgf/mm のコーティング顆粒中に配合する、又は
(2) 成分 (A) 及び (B) が異なる崩壊強度を有するコーティング顆粒中にそれぞれ配合することにより、
口腔中において両イオンのうち一方のイオン濃度が上昇し次いで不溶性塩の形成により低下することを特徴とする歯磨剤。 - 成分 (A) が、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム及びグルコース−1−リン酸カルシウムから選ばれるものである請求項1記載の歯磨剤。
- 成分 (B) が、リン酸アルカリ金属塩及びリン酸アンモニウム塩から選ばれるものである請求項1又は2記載の歯磨剤。
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