JP3989268B2 - 易重合性物質貯蔵設備、及び易重合性物質貯蔵方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、(メタ)アクリル酸又はそのエステル等の易重合性物質を安定に貯蔵することが可能な易重合性物質貯蔵設備、及び該設備を用いた易重合性物質貯蔵方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ビニル結合を有する単量体等の易重合性物質を含有する易重合性物質含有液の貯蔵設備は、該液を供給する供給配管に接続可能なノズルを備えた貯槽を主として構成されている。
従来、地震等による不測の事態にノズルが破損しても、貯槽内の液体が外部に漏洩する恐れがなく、また、供給配管に取り付けられた弁等の配管部品の破損や異常時の保全作業に際しても、貯槽内の液体を取り除く必要がなく、作業性・経済性に優れることから、一般に、易重合性物質含有液を貯槽内に供給するためのノズルは、貯槽の最高液面より上方に取り付けられている。
【0003】
ここで、易重合性物質の多くは可燃性を有するため、貯槽内の気相中の易重合性物質濃度が増加した状態で着火源が存在すれば、発火する恐れがあるが、ノズルを貯槽の最高液面より上方に取り付けて、ノズルから貯槽内の気相に易重合性物質含有液を放出すると、易重合性物質含有液が気相中を落下する際に液同士の摩擦により静電気を発生し易く、この静電気が着火源となり得る。
そこで、従来は、かかる問題を回避するべく、一端がノズル近傍、他端が貯槽底部に位置する導液管を配設し、ノズルから放出される易重合性物質含有液を導液管を介して液相中に導く方式が採用されている。この方式によれば、易重合性物質含有液を、ほとんど気相に触れることなく液相中に導くことができ、発火を防止することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、易重合性物質含有液には、易重合性物質の自然重合を防止するために、重合防止剤が添加されている。にもかかわらず、ノズルを貯槽の最高液面より上方に取り付け、ノズルから放出される易重合性物質含有液を導液管を介して液相中に導く方式を採用した場合には、数ヶ月など長期間に渡って、貯槽を実質的に空にすることなく使用していると、貯槽内の易重合性物質の一部が重合し、低重合度のオリゴマーが生成されることがあった。
【0005】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、長期間に渡って、貯槽を実質的に空にすることなく使用しても、発火や易重合性物質の重合を防止し、易重合性物質含有液を安定に貯蔵することが可能な易重合性物質貯蔵設備、及び易重合性物質貯蔵方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するべく検討した結果、ノズルを貯槽の最高液面より上方に取り付け、ノズルから放出される易重合性物質含有液を導液管を介して液相中に導く方式を採用した従来の易重合性物質貯蔵設備では、貯槽の底部に位置する導液管の下端部から流出された易重合性物質含有液が、底部より上方にほとんど向かうことなく、同じく貯槽の底部に取り付けられた払出管まで流れるため、液相の底部及びその近傍部分より上方にはほとんど流れが生じないことを見出した。
【0007】
その結果、液相の上部に位置する易重合性物質含有液の滞留時間が著しく長くなり、重合反応が進行する場合があることを見出した。また、貯槽内の重合防止剤の濃度が不均一となりやすいため、重合防止剤の濃度が低下した部分において、易重合性物質の重合反応が進行する場合があることを見出した。そして、以上の点に着目した結果、以下の易重合性物質貯蔵設備、及び易重合性物質貯蔵方法を発明するに到った。
【0008】
本発明の易重合性物質貯蔵設備は、易重合性物質含有液を貯蔵する貯槽と、前記貯槽内の最高液面より上方に位置する易重合性物質含有液を供給する液供給手段と、前記液供給手段により供給された易重合性物質含有液を、前記貯槽内の最高液面より下方に導く導液管とを有すると共に、前記導液管上端には漏斗が取り付けられ、かつ前記導液管の延在方向に複数の開口部が離間形成されていることを特徴とする。
また、前記導液管に設けられた各開口部の開口面積が、前記導液管の内径の0.01〜0.3倍の直径を有する円の面積に相当することが好ましい。また、前記導液管に設けられた全開口部の合計開口面積が、前記導液管の断面積の0.4〜2倍であることが好ましい。また、前記導液管の下端部の前記貯槽の底面からの高さが、前記導液管の内径の0.5〜20倍であることが好ましい。
【0009】
以上の本発明の易重合性物質貯蔵設備によれば、貯槽内に対して、導液管の下端部の他、導液管に設けた複数の開口部から各々易重合性物質含有液が流出するので、液相内に従来以外の流れが生じることになる。その結果、長期間に渡って、貯槽を実質的に空にすることなく使用しても、液相の上部に位置する易重合性物質含有液の滞留時間を短くすることができると共に、重合防止剤の濃度が部分的に低下することを防止することができ、易重合性物質の重合反応を防止することができる。
【0010】
なお、導液管において、貯槽の最高液面より下方のみならず、上方に開口部を設けても良いが、最高液面より上方に開口部を設けた場合には、開口部から流出する易重合性物質含有液は気相に触れることになる。しかしながら、易重合性物質含有液の供給圧力は導液管上端に取り付けてある漏斗にて大気圧になるので、開口部から流出する易重合性物質含有液は気相に噴き出すことなく、導液管の側面を伝って緩やかに流下するため、液同士の摩擦は緩和される。そのため、静電気の発生や、これに起因する発火の恐れはない。
【0011】
したがって、本発明の易重合性物質貯蔵設備によれば、長期間に渡って使用しても、発火や易重合性物質の重合を防止し、易重合性物質含有液を安定に貯蔵することができる。
以上の本発明の易重合性物質貯蔵設備は、易重合性物質がビニル結合を有する単量体である場合に有効であり、特に(メタ)アクリル酸又はそのエステルである場合に有効である。
【0012】
また、本発明の易重合性物質貯蔵方法は、以上の本発明の易重合性物質貯蔵設備を用いて、易重合性物質含有液を貯蔵することを特徴とする。
本発明の易重合性物質貯蔵方法によれば、本発明の易重合性物質貯蔵設備と同様の効果を得ることができ、長期間に渡って、貯槽を実質的に空にすることなく使用しても、発火や易重合性物質の重合を防止し、易重合性物質含有液を安定に貯蔵することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
次に、図1に基づいて、本発明に係る実施形態の易重合性物質貯蔵設備の構造について説明する。図1は、本実施形態の易重合性物質貯蔵設備の概略断面図である。但し、構造の説明上、図1において、符号30で示す導液管については、側方から見た時の概略平面図を示している。また、図1においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせてある。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の易重合性物質貯蔵設備1は、易重合性物質含有液50を貯蔵する貯槽10を主体として構成されている。貯槽10の最高液面51より上方の側壁上部には、易重合性物質含有液50を放出するノズル20が取り付けられており、このノズル20に易重合性物質含有液50を供給する供給配管(図示略)が接続されている。また、易重合性物質含有液50を放出するノズル20先端部の直下には、一端がノズル20近傍、他端が貯槽10底部に位置する導液管30が延在しており、供給配管及びノズル20(液供給手段)により貯槽10内に供給された易重合性物質含有液50は、ほとんど気相に触れることなく、導液管30を介して液相中に導かれるようになっている。また、貯槽10内の易重合性物質含有液50は、貯槽10の側壁底部に取り付けられた払出管40から払出されるようになっている。なお、ノズル20の個数については貯槽10の内径Dに応じて適宜設計される。
【0015】
本実施形態において、導液管30のノズル20側端部には漏斗32が取り付けられており、ノズル20先端部から周囲に放出された易重合性物質含有液50も含めてすべての易重合性物質含有液50が導液管30に導かれるようになっている。
また、本実施形態において、導液管30には、その延在方向に複数の開口部31が離間形成されている。なお、従来の易重合性物質貯蔵設備では、導液管において、貯槽の最高液面より上方に、1個の開口部(いわゆるウイープホール)を設け、液の供給を停止した際に、導液管内の液がその時の貯槽の液面まで下がり、供給配管と導液管によるサイホン現象が起こらないように工夫されているが、本実施形態では、導液管30において、ウイープホールも含めて、貯槽10の最高液面51の上方と下方の双方に渡って、ほぼ均等間隔に複数の開口部31が設けられている。そして、導液管30の下端部の他、各開口部31から易重合性物質含有液50が流出するようになっている。
【0016】
本実施形態の易重合性物質貯蔵設備1では、このように、導液管30に複数の開口部31を設け、導液管30の下端部の他、各開口部31から易重合性物質含有液50を流出させて、貯槽10内に易重合性物質含有液50を供給する構成を採用しているので、液相内に従来以外の流れを生じさせることができ、長期間に渡って、貯槽を実質的に空にすることなく使用しても、液相の上部に位置する易重合性物質含有液の滞留時間を短くすることができると共に、重合防止剤の濃度が部分的に低下することを防止することができ、易重合性物質の重合反応を防止することができる。
【0017】
また、本実施形態では、導液管30において、貯槽10の最高液面51より下方のみならず、上方にも開口部31を設けているため、最高液面51より上方に位置する開口部31から流出した易重合性物質含有液50は気相に触れることになるが、易重合性物質含有液50の供給圧力は導液管30の上端に取り付けてある漏斗32にて大気圧になるので、この液は気相に噴き出すことなく、導液管30の側面を伝って緩やかに流下するため、液同士の摩擦は緩和される。そのため、静電気の発生や、これに起因する発火の恐れはない。
したがって、本実施形態の易重合性物質貯蔵設備1、及び該設備を用いた易重合性物質貯蔵方法によれば、長期間に渡って使用しても、発火や易重合性物質の重合を防止し、易重合性物質含有液50を安定に貯蔵することができる。
【0018】
ここで、導液管30に設けられた各開口部31の開口面積は、開口部31から流出させる液量に応じて適宜設計されるが、導液管30の内径d1の0.01〜0.3倍の直径を有する円の面積に相当するように構成されていることが好ましい。開口部31の形状は特に限定されるものではないが、正円状とした場合には、その直径d2を導液管30の内径d1の0.01〜0.3倍とすれば良い。かかる構成とすることにより、導液管30の開口部31が易重合性物質含有液50で詰まってしまう恐れがなく、また貯槽10に易重合性物質含有液50を最初に仕込む際の気相への噴き出しも最小限に抑えられる。なお、開口部31の内径d1は大きいほど開口部31における詰まりが少なくなり、小さいほど易重合性物質含有液50を最初に仕込む際の開口部31から気相への噴き出し量が少なくなるので、液同士の摩擦も緩和され、静電気発生の可能性が少なくなる。
【0019】
また、開口部31のピッチLは、貯槽10の側壁の高さH1に応じて適宜設計されるが、0.3〜1mとすることが好ましい。また、導液管30に設けられた全開口部31の合計開口面積を、導液管30の断面積の0.4〜2倍とすることが好ましい。かかる構成とすることにより、貯層10内における重合防止剤の均一な拡散が実現される。
【0020】
また、導液管30の下端部の貯槽10の底面からの高さH2を、導液管30の内径d1の0.5〜20倍とすることが好ましい。導液管30の高さH2が導液管30の内径d1の0.5倍未満では、導液管30の内圧が高くなりすぎ、導液管30中央部の液量が増加して液摩擦が大きくなることがある。また、導液管30の高さH2が導液管30の内径d1の20倍を超えると、貯槽10の使用可能な最低液面レベルが高くなりすぎ、操作範囲が狭くなる恐れがある。
【0021】
また、本実施形態の易重合性物質貯蔵設備1、及び該設備を用いた易重合性物質貯蔵方法は、易重合性物質が(メタ)アクリル酸又はそのエステル等の、重合反応性の高いビニル結合を有する単量体である場合に有効である。
【0022】
なお、本実施形態では、ノズル20を貯槽10の側壁上部に設ける場合についてのみ説明したが、ノズル20の設置箇所については、最高液面51より上方であれば、特に限定されるものではない。また、本実施形態では、導液管30において、貯槽10の最高液面51の上方と下方の双方に開口部31を設ける構成としたが、最高液面51の下方にのみ設けても良い。また、開口部31の形成間隔についても、ほぼ均等である必要はなく、適宜設計することができる。
【0023】
【実施例】
次に、本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
図1に示したのと同様の易重合性物質貯蔵設備を製造した。なお、主な寸法は表1に示す通りとした。
この設備の貯槽に、易重合性物質含有液として、純度99.9質量%のメタクリル酸に重合防止剤であるハイドロキノン100ppmを添加した液を、温度32℃で供給し貯蔵した。その後、貯槽内の液を定期的に払出すと共に、同量の液を追加供給する操作を1年間行ったが、貯槽内のメタクリル酸が重合することはなかった。
【0024】
(比較例1)
導液管に開口部を設けなかった以外は、実施例1と同様にして、メタクリル酸含有液の供給、貯蔵、払出しを行ったところ、1年後に貯槽内の液相の液面近傍部分でメタクリル酸の一部が重合し、オリゴマーが生成した。また、液相内における重合防止剤の濃度分布をサンプリングして調べたところ、液面近傍部分の重合防止剤の濃度が液相下部に比較して低くなっていることが判明した。
【0025】
(実施例2)
図1に示したのと同様の易重合性物質貯蔵設備を製造した。なお、主な寸法は表1に示す通りとした。
この設備の貯槽に、易重合性物質含有液として、純度99.9質量%のメタクリル酸メチルに重合防止剤であるトパノールA10ppm及びハイドロキノン50ppmを添加した液を、温度10℃で供給し貯蔵した。その後、貯槽内の液を定期的に払出すと共に、同量の液を追加供給する操作を1年間行ったが、貯槽内のメタクリル酸メチルが重合することはなかった。
【0026】
(比較例2)
導液管に開口部を設けなかった以外は、実施例2と同様にして、メタクリル酸メチル含有液の供給、貯蔵、払出しを行ったところ、1年後に貯槽内の液相の液面近傍部分でメタクリル酸メチルの一部が重合し、オリゴマーが生成した。また、液相内における重合防止剤の濃度分布をサンプリングして調べたところ、液面近傍部分の重合防止剤の濃度が液相下部に比較して低くなっていることが判明した。
【0027】
【表1】
【0028】
実施例1、2、比較例1、2の結果から、導液管に複数の開口部を設けることにより、長期間に渡って使用しても、易重合性物質の重合を防止し、易重合性物質含有液を安定に貯蔵することができることが判明した。
【0029】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の易重合性物質貯蔵設備、及び該設備を用いた易重合性物質貯蔵方法によれば、長期間に渡って、貯槽を実質的に空にすることなく使用しても、発火や易重合性物質の重合を防止し、易重合性物質含有液を安定に貯蔵することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明に係る実施形態の易重合性物質貯蔵設備の概略断面図である。
【符号の説明】
1 易重合性物質貯蔵設備
10 貯槽
20 ノズル
30 導液管
31 開口部
40 払出管
50 易重合性物質含有液
51 最高液面
H1 貯槽の側壁の高さ
H2 導液管の下端部の貯槽の底面からの高さ
L 開口部のピッチ
Claims (5)
- 易重合性物質含有液を貯蔵する貯槽と、前記貯槽内の最高液面より上方に位置する易重合性物質含有液を供給する液供給手段と、前記液供給手段により供給された易重合性物質含有液を、前記貯槽内の最高液面より下方に導く導液管とを有すると共に、
前記導液管上端には漏斗が取り付けられ、かつ前記導液管の延在方向に複数の開口部が離間形成されていることを特徴とする易重合性物質貯蔵設備。 - 前記導液管に設けられた各開口部の開口面積が、前記導液管の内径の0.01〜0.3倍の直径を有する円の面積に相当することを特徴とする請求項1に記載の易重合性物質貯蔵設備。
- 前記導液管に設けられた全開口部の合計開口面積が、前記導液管の断面積の0.4〜2倍であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の易重合性物質貯蔵設備。
- 前記導液管の下端部の前記貯槽の底面からの高さが、前記導液管の内径の0.5〜20倍であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の易重合性物質貯蔵設備。
- 請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の易重合性物質貯蔵設備を用いて、易重合性物質含有液を貯蔵することを特徴とする易重合性物質貯蔵方法。
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JP2002082048A JP3989268B2 (ja) | 2002-03-22 | 2002-03-22 | 易重合性物質貯蔵設備、及び易重合性物質貯蔵方法 |
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