JP3982754B2 - 軟節構造の制振構造物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、軟節構造の制振構造物に関し、特に柱と構造体の柱梁接合部をピン支持とした軟節構造の制振構造物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、柱と、柱の上下に取り付けられる支持構造体(例えば、梁や天井、床や基礎等)との間に、筋交い状に緩衝手段(例えば、オイルダンパ)を設置し、構造体に加わる振動を、緩衝手段の緩衝作用によって早期に減衰させるようにした技術が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来技術では、制振の対象としている構造物は、柱と上部構造体との柱梁接合部を剛節とした剛節構造であり、構造物の修理・解析・移築が非常に困難であった。また、柱梁接合部をピン構造とする軟節構造では、地震の安全性が確保できないという問題点があった。
【0004】
本発明は斯かる問題点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、柱と構造体の柱梁接合部をピン支持とした軟節構造の構造物に対し、高減衰となる軟節耐震構造を実現することができる軟節構造の制振構造物を提供する点にある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
請求項1記載の発明の要旨は、柱と上部構造体との柱梁接合部をピン支持とした軟節構造の制振構造物であって、前記柱の先端部に設けられた張ね出し梁と、該張ね出し梁の先端部の前記上部構造体に対する変位を増幅する増幅機構と、該増幅機構によって増幅された変位を緩衝する緩衝手段とを具備することを特徴とする軟節構造の制振構造物に存する。
また請求項2記載の発明の要旨は、前記増幅機構は、前記張ね出し梁の先端部に取り付けられた傘型トグル機構であることを特徴とする請求項1記載の軟節構造の制振構造物に存する。
また請求項3記載の発明の要旨は、前記傘型トグル機構は、前記上部構造体に一端部が取り付けられたメインアームと、該メインアームの他の回転端部に一端部が回転可能に連結されている一対の第1サブアームと、該一対の第1サブアームのそれぞれ他の回転端部に一端部がそれぞれ回転可能に連結され、前記張ね出し梁の先端部に他端部が回転可能に連結されている一対の第2サブアームとからなり、前記緩衝手段は、前記第1サブアームと前記第2サブアームとの2箇所の連結部間に介装されていることを特徴とする請求項2記載の軟節構造の制振構造物に存する。
また請求項4記載の発明の要旨は、前記上部構造体と前記張ね出し梁の先端部との間に介装された第1付勢部材と、前記メインアームと前記一対の第1サブアームとの連結部と、前記張ね出し梁の先端部との間に介装された第2付勢部材とを具備することを特徴とする請求項3記載の軟節構造の制振構造物に存する。
また請求項5記載の発明の要旨は、前記傘型トグル機構は、前記張ね出し梁の先端部に一端部が回転可能に取り付けられた一対の第1サブアームと、該一対の第1サブアームのそれぞれ他の回転端部に一端部がそれぞれ回転可能に連結され、前記上部構造体に他端部が回転可能に連結されている一対の第2サブアームとからなり、前記緩衝手段は、前記第1サブアームと前記第2サブアームとの2箇所の連結部間に介装されていることを特徴とする請求項2記載の軟節構造の制振構造物に存する。
また請求項6記載の発明の要旨は、前記上部構造体と前記張ね出し梁の先端部との間に介装された第1付勢部材を具備することを特徴とする請求項5記載の軟節構造の制振構造物に存する。
また請求項7記載の発明の要旨は、 前記第1サブアームと前記第2サブアームとの2箇所の連結部間に介装された第2付勢部材を具備することを特徴とする請求項5又は6記載の軟節構造の制振構造物に存する。
また請求項8記載の発明の要旨は、柱と下部構造体との接合部は、ピン接合であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の軟節構造の制振構造物に存する。
また請求項9記載の発明の要旨は、前記緩衝手段は、オイルダンパもしくは弾塑性ダンパであることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の軟節構造の制振構造物に存する。
また請求項10記載の発明の要旨は、前記請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の軟節構造の制振構造物が、構造物の全ての柱と上部構造体もしくは選択された一部の柱と上部構造体に設けられていることを特徴とする構造物に存する。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0007】
図1は、本発明に係る軟節構造の制振構造物の実施の形態を示す概略正面図であり、図2は、図1に示す傘型トグル機構を示す概略正面図であり、図3は、本発明に係る軟節構造の制振構造物の実施の形態の解析モデルを示す説明図であり、図4および図5は、図1に示す傘型トグル機構の動作を説明するための説明図である。
【0008】
本実施の形態の構造物の制振装置は、図1を参照すると、構造体の柱1と、柱1が取り付けられる上部構造体(梁)2と下部構造体(下階の梁もしくは基礎)3との間に設けられる制振装置であって、特に、柱1と上部構造体2とがピン接合部4によってピン接合されている軟節構造の構造体を対象とし、柱1の先端部に取り付けられた張ね出し梁5と、張ね出し梁5の両側の先端部にそれぞれ設置された傘型トグル機構6とからなる。なお、柱1の柱脚部(柱1と下部構造体3との接合部)は、ピン接合でも適用できる。
【0009】
張ね出し梁5は、柱1の上部、すなわち先端部に固定され、両側先端部には、上下に貫通するパイプ51が固定されている。
【0010】
傘型トグル機構6は、図2を参照すると、上部構造体2に一端部が回転可能に取り付けられ、かつ、張ね出し梁5の先端部に取り付けられたパイプ51を貫通しているメインアーム61と、メインアーム61の他の回転端部に一端部が回転可能に連結されている第1サブアーム62aおよび第1サブアーム62bと、第1サブアーム62aおよび第1サブアーム62bのそれぞれ他の回転端部に一端部がそれぞれ回転可能に連結され、かつ、パイプ51に他端部が回転可能に連結されている第2サブアーム63aおよび第2サブアーム63bと、第1サブアーム62a、bと第2サブアーム63a、bとのそれぞれの連結部間に介装されている緩衝部材64とを備え、上部構造体2とパイプ51との間に第1付勢部材65を介装すると共に、メインアーム61と第1サブアーム62a、bとの連結部と、パイプ51との間に第2付勢部材66を介装した基本構成となっており、張ね出し梁5の両側先端部にそれぞれ設置されている。
【0011】
ついで、これらの詳細について説明すれば、メインアーム61は、その一端部が、上部構造体2に設けられたブラケット67にピン68を介して回転可能に連結されている。
【0012】
また、第1サブアーム62aおよび第1サブアーム62bは、その一端部が、メインアーム61の回転端部にピン69を介して回転自在に連結されている。
【0013】
また、第2サブアーム63aおよび第2サブアーム63bは、そのそれぞれの一端部が、第1サブアーム62aおよび第1サブアーム62bのそれぞれ他の回転端部にそれぞれピン70およびピン71を介して回転自在に連結されていると共に、それぞれの他端部が、パイプ51にそれぞれピン72およびピン73を介して回転自在に連結されている。
【0014】
緩衝部材64は、本実施の形態においてはオイルダンパが用いられ、その一端部が、第1サブアーム62aと第2サブアーム63aとを連結するピン70に回転可能に連結され、他端部が、第1サブアーム62bと第2サブアーム63bとを連結するピン71に回転可能に連結されている。
そして、この緩衝部材64は、オイルダンパに代えて、コイルバネ等の弾塑性部材によって構成することも可能であり、あるいは、高減衰ゴム等の粘弾性体によって構成することも可能である。
【0015】
このような構成により、上部構造体2に対する張ね出し梁5の先端部(パイプ51)の相対位置の変位に対応して、第1サブアーム62aと第2サブアーム63aの連結部と、第1サブアーム62bと第2サブアーム63bの連結部との距離が変位する。振動による上部構造体2の変位量に応じて変位する上部構造体2に対する張ね出し梁5の先端部(パイプ51)の相対位置の変位量は、図3に示すように、柱1の高さhと張ね出し梁5の張ね出し長さAMとによって定まり、上部構造体2に対する張ね出し梁5の先端部(パイプ51)の相対位置の変位量応じて変位する第1サブアーム62aと第2サブアーム63aの連結部と、第1サブアーム62bと第2サブアーム63bの連結部との距離は、第1サブアーム62a、bと第2サブアーム63a、bとの長さの違いによって定まる。従って、振動による上部構造体2の変位量に対する傘型トグル機構6のトグル倍率は、張ね出し梁5の張ね出し長さAM、第1サブアーム62a、bの長さおよび第2サブアーム63a、bの長さによって設定することができる。
【0016】
ここで、構造体に振動が加わり、例えば、上部構造体2が、図3に矢印xで示す方向に移動し、柱1が、図3に矢印xで示す方向に傾動させられると、柱1の図3において右側に位置する張ね出し梁5の先端部(パイプ51)が上部構造体2から離れるように相対移動させられ、柱1の図3において左側に位置する張ね出し梁5の先端部(パイプ51)が上部構造体2に近づくように相対移動させられる。
【0017】
張ね出し梁5の先端部(パイプ51)が上部構造体2から離れるように相対移動させられた側に取り付けられた傘型トグル機構6は、図4を参照すると、張ね出し梁5の先端部(パイプ51)が下方向に変位するため、第1サブアーム62aと第2サブアーム63aとの連結部と、第1サブアーム62bと第2サブアーム63bとの連結部との距離が短くなる。また、張ね出し梁5の先端部(パイプ51)が上部構造体2に近づくように相対移動させた側に取り付けられた傘型トグル機構6は、図5を参照すると、張ね出し梁5の先端部(パイプ51)が上方向に変位するため、第1サブアーム62aと第2サブアーム63aとの連結部と、第1サブアーム62bと第2サブアーム63bとの連結部との距離が広がる。張ね出し梁5の先端部(パイプ51)の変位量に対する、第1サブアーム62aと第2サブアーム63aの連結部と、第1サブアーム62bと第2サブアーム63bの連結部との距離の変位量は、第1サブアーム62aと第2サブアーム63aおよび第1サブアーム62bと第2サブアーム63bによって構成されるトグル機構によって増幅され、この増幅された変位量の分が、緩衝部材64の作動量となる。
【0018】
このように、緩衝部材64に前述したような外力が加わると、これらの緩衝部材64が伸縮動作させられて緩衝機能が生じ、この緩衝機能によって、柱1や上部構造体2で構成される構造物の振動エネルギーが吸収される。
しかも、前述した柱1の変位量に対して、緩衝部材64の作動量が増幅されていることにより、そのエネルギー吸収作用が増幅され、構造体の振動が抑制される。
【0019】
張ね出し梁5先端部の動きは、図3に示したように、(AM/h)xであり、傘型トグル機構6の単独の変形倍率をβとすると、層間変形xに対する緩衝部材64の作動量は、(AM/h)β・xとなる。従って、(AM/h)βを大きく設定するように設計すれば、緩衝部材64の作動量を大きくすることができ、エネルギー吸収作用が増幅されることになる。
【0020】
なお、本実施の形態において示した各構成部材の諸形状や寸法等は一例であって、設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0021】
図6は、本発明に係る軟節構造の制振構造物の他の実施の形態を示す概略正面図である。
例えば、図9に示す傘型トグル機構は、張ね出し梁5の先端部に一端部が回転可能に連結されている第1サブアーム62aおよび第1サブアーム62bと、第1サブアーム62aおよび第1サブアーム62bのそれぞれ他の回転端部に一端部がそれぞれ回転可能に連結され、かつ、上部構造体2に他端部が回転可能に連結されている第2サブアーム63aおよび第2サブアーム63bと、第1サブアーム62a、bと第2サブアーム63a、bとのそれぞれの連結部間に介装されている緩衝部材64とを備え、上部構造体2と張ね出し梁5の先端部との間に第1付勢部材65を介装した構成となっており、張ね出し梁5の先端部と上部構造体2との距離の変位量は、第1サブアーム62aと第2サブアーム63aおよび第1サブアーム62bと第2サブアーム63bによって構成されるトグル機構によって増幅され、この増幅された変位量の分が、緩衝部材64の作動量となる。また、図示しない第2付勢部材を、緩衝部材64と共に、第1サブアーム62a、bと第2サブアーム63a、bとのそれぞれの連結部間に介装しても良い。
【0022】
以上説明したように、本実施の形態によれば、柱1と上部構造体2との柱梁接合部をピン支持とした軟節構造の構造物に対し、柱1の先端部に張ね出し梁5を設けると共に、張ね出し梁5の先端部に傘型トグル機構6を設け、増幅された変位量を緩衝部材64で緩衝するように構成することにより、高減衰となる軟節耐震構造を実現することができ、大型ビルや工場建屋等に応用することにより、耐震性能向上に大きく寄与することができるという効果を奏する。
【0023】
なお、本発明が上記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、上記構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。なお、各図において、同一構成要素には同一符号を付している。
【0024】
【発明の効果】
本発明の軟節構造の制振構造物は、柱と上部構造体との柱梁接合部をピン支持とした軟節構造の構造物に対し、柱の先端部に張ね出し梁を設けると共に、張ね出し梁の先端部に傘型トグル機構を設け、増幅された変位量を緩衝部材で緩衝するように構成することにより、高減衰となる軟節耐震構造を実現することができ、大型ビルや工場建屋等に応用することにより、耐震性能向上に大きく寄与することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る軟節構造の制振構造物の実施の形態を示す概略正面図である。
【図2】図1に示す傘型トグル機構を示す概略正面図である。
【図3】本発明に係る軟節構造の制振構造物の実施の形態の解析モデルを示す説明図である。
【図4】図1に示す傘型トグル機構の動作を説明するための説明図である。
【図5】図1に示す傘型トグル機構の動作を説明するための説明図である。
【図6】本発明に係る軟節構造の制振構造物の他の実施の形態を示す概略正面図である。
【符号の説明】
1 柱
2 上部構造体(梁)
3 下部構造体(下階の梁もしくは基礎)
4 ピン接合部
5 張ね出し梁
51 パイプ
6 傘型トグル機構
61 メインアーム
62a 第1サブアーム
62b 第1サブアーム
63a 第2サブアーム
63b 第2サブアーム
64 緩衝部材
65 第1付勢部材
66 第2付勢部材
67 ブラケット
68、69、70、71、72、73 ピン
Claims (10)
- 柱と上部構造体との柱梁接合部をピン支持とした軟節構造の制振構造物であって、
前記柱の先端部に設けられた張ね出し梁と、
該張ね出し梁の先端部の前記上部構造体に対する変位を増幅する増幅機構と、
該増幅機構によって増幅された変位を緩衝する緩衝手段とを具備することを特徴とする軟節構造の制振構造物。 - 前記増幅機構は、前記張ね出し梁の先端部に取り付けられた傘型トグル機構であることを特徴とする請求項1記載の軟節構造の制振構造物。
- 前記傘型トグル機構は、前記上部構造体に一端部が取り付けられたメインアームと、
該メインアームの他の回転端部に一端部が回転可能に連結されている一対の第1サブアームと、
該一対の第1サブアームのそれぞれ他の回転端部に一端部がそれぞれ回転可能に連結され、前記張ね出し梁の先端部に他端部が回転可能に連結されている一対の第2サブアームとからなり、
前記緩衝手段は、前記第1サブアームと前記第2サブアームとの2箇所の連結部間に介装されていることを特徴とする請求項2記載の軟節構造の制振構造物。 - 前記上部構造体と前記張ね出し梁の先端部との間に介装された第1付勢部材と、
前記メインアームと前記一対の第1サブアームとの連結部と、前記張ね出し梁の先端部との間に介装された第2付勢部材とを具備することを特徴とする請求項3記載の軟節構造の制振構造物。 - 前記傘型トグル機構は、前記張ね出し梁の先端部に一端部が回転可能に取り付けられた一対の第1サブアームと、
該一対の第1サブアームのそれぞれ他の回転端部に一端部がそれぞれ回転可能に連結され、前記上部構造体に他端部が回転可能に連結されている一対の第2サブアームとからなり、
前記緩衝手段は、前記第1サブアームと前記第2サブアームとの2箇所の連結部間に介装されていることを特徴とする請求項2記載の軟節構造の制振構造物。 - 前記上部構造体と前記張ね出し梁の先端部との間に介装された第1付勢部材を具備することを特徴とする請求項5記載の軟節構造の制振構造物。
- 前記第1サブアームと前記第2サブアームとの2箇所の連結部間に介装された第2付勢部材を具備することを特徴とする請求項5又は6記載の軟節構造の制振構造物。
- 柱と下部構造体との接合部は、ピン接合であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の軟節構造の制振構造物。
- 前記緩衝手段は、オイルダンパもしくは弾塑性ダンパであることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の軟節構造の制振構造物。
- 前記請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の軟節構造の制振構造物が、構造物の全ての柱と上部構造体もしくは選択された一部の柱と上部構造体に設けられていることを特徴とする構造物。
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