JP3981947B2 - 既存建築物の耐震補強工法および建築物の耐震補強構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、既存建物の耐震性能を向上させる既存建築物の耐震補強工法および建築物の耐震補強構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、既存建築物の耐震補強を行う場合、耐震補強部材を増設する工法が採用されている。これは、既存建築物の隣り合う2本の柱とこの2本の柱に架けられた上下の梁とで構成される被補強開口部の面内に、被補強開口部の内法寸法に合わせた枠部材とこの枠部材の内側に設けられた補強部材とで構成される耐震補強枠を組み入れる工法である。
【0003】
従来、耐震補強枠を被補強開口部の面内に接合させる方法としては、大別してアンカーボルトを打ち込む方法と、接着剤によって接着する方法とがある。
【0004】
アンカーボルトを打ち込む方法は、被補強開口部の枠取付面にアンカーボルトを打ち込み、被補強開口部の面内に組み立てられた枠部材と被補強開口部との間にスパイラル筋を配筋して無収縮モルタルを充填する方法である。この場合、枠部材には通常H型鋼が使用され、このH型鋼のウェブ面にはスタッドが垂直に取り付けられる。枠部材は、スタッドが取り付けられたウェブ面と被補強開口部の内側面とが対向するように組み立てられる(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、接着剤によって接着する方法は、被補強開口部の面内に組み立てられた枠部材と被補強開口部との間に接着剤を介在させる方法である。この場合、枠部材には通常H型鋼が使用され、枠部材は、フランジ面と被補強開口部の内周面とが対向するように組み立てられるとともに、枠部材のフランジ面と被補強開口部の内周面との隙間が施工上必要な程度の大きさになるように組み立てられる。耐震補強枠を組み入れた後に隙間調整板を隙間に介在させ、隙間の大きさを調節することで接着剤の強度を確保している(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
【特許文献1】
特公平7−51803号公報(第2−4頁、第2図)
【特許文献2】
特開平11−71906号公報(第3−4頁、第2図)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のような従来の既存建物の耐震補強工法には以下のような問題が存在する。アンカーボルトを打ち込む方法では、アンカーボルトの穴あけの際に大きな騒音や振動が発生するため、設置階だけでなく上下階にも影響を及ぼす。また、アンカーボルトの打ち込み、鉄筋配筋、無収縮モルタル充填に先立って隙間の側面を塞ぐ型枠工事、無収縮モルタル充填等の工程が多く、工事に要する期間が長くなる。このため、上下階でも工事期間中は、オフィスビル等では業務を中断せざるを得ない場合や、マンション等では一時的な避難が余儀なくされる場合があるとともに、工事期間が長いため工事が及ぼす影響も長くなる。また、接着剤によって接合する方法では、接着剤の硬化後に枠部材に外力が加わると接合部にせん断力が働いて、接着剤の剥離等が生じる場合がある。このような場合、施工後に補修工事が必要となり、工事費用の増加及び工事期間の遅延の原因となる。
【0008】
本発明は、上記した問題が考慮されたものであり、補強部材と枠部材からなる耐震補強枠を既存建築物の被補強開口部に組み入れて耐震性能を向上させる際、騒音や振動を極力抑えて近隣への影響を軽減させるとともに工期短縮を図るものである。また、信頼性の高い確実な接合方法により既存躯体と耐震補強枠を接合することで、接合箇所の剥離等を防止して補修工事を削減し、工事費用の増大の抑止及び工事期間の遅延の防止を図る。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、枠部材の内側に補強部材が取り付けられた耐震補強枠を、既存建築物の隣り合う柱と上下の梁によって形成される被補強開口部の面内に組み入れる既存建築物の耐震補強工法において、前記被補強開口部の内周面に対向する前記枠部材の外周面に、前記枠部材の幅方向に延在する鋼材を前記外周面に沿って配置して溶接することで凹凸を形成するとともに、前記外周面に対向する前記被補強開口部の枠取付面に、目荒しを施すことで凹凸を形成し、前記枠部材および前記被補強開口部の間に接合材を充填して、該接合材が固化することで前記被補強開口部と前記枠部材とが一体化することを特徴としている。
【0010】
請求項2記載の発明は、枠部材の内側に補強部材が取り付けられた耐震補強枠を、既存建築物の隣り合う柱と上下の梁によって形成される被補強開口部の面内に組み入れられた建築物の耐震補強構造において、前記被補強開口部の内周面に対向する前記枠部材の外周面に、前記枠部材の幅方向に延在する鋼材を前記外周面に沿って配置して溶接することで凹凸が形成され、前記外周面に対向する前記被補強開口部の枠取付面に、目荒しを施すことで凹凸が形成され、前記枠部材および前記被補強開口部の間に、接合材が介装されていることを特徴としている。
【0011】
上記のような特徴により、本発明の既存建築物の耐震補強工法および耐震補強構造によれば、枠部材の外周面および被補強開口部の枠取付面のうち少なくとも一方に形成された凹凸部が接合材に定着し、枠部材と接合材および被補強開口部と接合材の間に一層強い接合力が生じる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る既存建築物の耐震補強工法および建築物の耐震補強構造の実施の形態および参考例を、図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施の形態および参考例は、既存のラーメン構造による鉄筋コンクリート造建築物の耐震性能を向上させるための耐震補強方法および耐震補強構造である。
【0013】
〈実施の形態〉
本発明にかかる既存建築物の耐震補強工法および建築物の耐震補強構造の実施の形態について説明する。
【0014】
図1に示すように、被補強開口部1は、既存建築物の隣り合う柱1aと、柱1aに架けられている上下の梁1bとから構成される鉄筋コンクリート造の躯体であり、耐震補強枠2は、枠部材3と補強部材の一つであるブレース部材4とから構成され、被補強開口部1の面内に組み入れられる耐震性能を向上させるための耐震補強材である。
【0015】
図2に示すように、被補強開口部1の内周面1cの中央には、枠部材3に対向する枠取付面5が帯状に伸びている。枠取付面5には、目荒しが施されて凹凸が形成されている矩形の目荒し面5aが一定間隔をあけて設けられている。
【0016】
図1に示すように、枠部材3は、被補強開口部1の面内に、内周面1cに設けられた枠取付面5に沿って四角形状に組まれており、枠取付面5との間に一定の隙間をあけて設置される。このとき、枠部材3と被補強開口部1との間にあけられた隙間は、被補強開口部1の面内に耐震補強枠2を組み入れる作業の施工性を留意した大きさを確保する。また、図3に示すように、枠部材3はH型鋼からなる部材であり、枠取付面5に対向する枠部材3の外周面3aには、フランジ幅で切断された異形棒鋼3bがフランジ幅方向の向きに一定間隔でフレア溶接等により取り付けられており凹凸が形成されている。
【0017】
図1に示すように、ブレース部材4は、枠部材3の内側に斜めに取り付けられた鋼製部材であり、例えば、H型鋼からなる部材である。ブレース部材4は、枠部材3の上底両隅から枠部材3の下底中央部にそれぞれ斜めに配置され固定される。また、ブレース部材4が取り付けられている枠部材3の上底両隅と下底中央部および下底両隅には、H型鋼の座屈防止のためのスチフナー6がそれぞれ設けられる。
【0018】
図4に示すように、被補強開口部1と枠部材3との間にあけられた隙間には、接合材7が介在している。接合材7は、無収縮モルタルからなるものであり、枠取付面5および目荒し面5aおよび外周面3aとそれぞれ密着した状態で固化している。
【0019】
次に、上記した構成からなる既存建築物の耐震補強構造の施工方法について説明する。
【0020】
まず、図3に示すように、枠部材3の外周面3aには、予め工場や現場でフランジ幅で切断された異形棒鋼3bを枠部材3のフランジ幅方向の向きに一定間隔でフレア溶接等により取り付け、凹凸を形成しておく。
【0021】
次に、図2に示すように、被補強開口部1の枠取付面5には、一定間隔をあけて矩形に目荒しを施して凹凸を形成する。次に、図1に示すように、枠部材3を被補強開口部1の枠取付面5に沿って組み入れるとともに、ブレース部材4を枠部材3の上底両隅から枠部材3の下底中央部にそれぞれ斜めに配置して固定する。むろん、ブレース部材4と枠部材3とをあらかじめ一体化した耐震補強枠2を組み入れても良い。このとき、図4に示すように、枠部材3は、異形棒鋼3bが取り付けられた外周面3aが枠取付面5に対向するとともに、外周面3aと枠取付面5との間に一定の隙間を設けるように組み入れる。
【0022】
次に、枠取付面5と外周面3aとの間の隙間の側面を図示せぬ型枠で塞ぎ、枠取付面5と外周面3aと図示せぬ型枠とで囲まれた空間を液密にするとともに、図示せぬ型枠には接合材7を流し込む図示せぬ注入口を設ける。この図示せぬ注入口から、流動性に優れている接合材7を枠取付面5と外周面3aとの間の隙間へ空洞ができないように満遍無く充填する。接合材7に使用される無収縮モルタルは、時間の経過とともに収縮しないまま固化する。接合材7を充填した後、所定の養生期間をおいて接合材7を固化させて、接合材7が所定の強度を発現した後に型枠の脱型を行う。
【0023】
上記した構成で、被補強開口部1の面内に耐震補強枠2を組み入れることで、被補強開口部1に作用する地震力などの外力によって生じる応力の分散を図り、既存建築物の損傷を防止する。また、被補強開口部1の枠取付面5および枠部材3の外周面3aには凹凸が形成されているため、被補強開口部1の枠取付面5と接合材7、および枠部材3の外周面3aと接合材7との間に一層強い接合力が生じる。このため、信頼性の高い確実な接合がなされ、接合箇所の剥離等を防止することができる。これによって、補修工事などが削減され、工事費用の増大の抑止及び工事期間の遅延を防止することができる。
【0024】
また、アンカー打ち込みやスパイラル筋配筋が不要になるため、騒音や振動が減少するとともに、作業工程を縮小することができる。これによって、近隣への影響を軽減させるとともに工期短縮を図ることができる。
【0025】
〈参考例〉
本発明にかかる既存建築物の耐震補強工法および建築物の耐震補強構造の参考例について説明する。なお、上記した実施の形態と同じ構成要素については、同一の符号を付すことでその説明を省略する。
【0026】
図5に示すように、枠部材3に対向する枠取付面5には、穴状の窪みが部分的にあけられてなる壺掘り部8が複数設けられて凹凸が形成されている。壺掘り部8の形状、その施工される部位などは任意選択され、例えば、柱1aまたは梁1bの表面からの壺掘り部8の深さは数ミリメートルから30ミリメートル程度であり、壺掘り部8の平面的な大きさは数平方センチメートル以上であり、壺掘り部8の間隔は10センチメートルから20センチメートル程度である。
【0027】
一方、枠取付面5に対向する枠部材3の外周面3aには、複数のボルト9が外周面3aに垂直に固定されている。ボルト9の外周面3aから突出している一端部はナット状になっており、枠取付面5に設けられている壺掘り部8内に配置されている。他端部は、枠取付面5に対向する枠部材3のフランジにあけられた複数の穴10とこの穴10に合わせてフランジの内側面に固定されたナット11とにそれぞれ挿通されている。取付面5と枠部材3との間にあけられた隙間には、接合材7が介在されている。
【0028】
次に、上記した構成からなる既存建築物の耐震補強構造の施工方法について説明する。
【0029】
予め、枠取付面5に対向する枠部材3のフランジに複数の穴10をあけ、この穴10に合わせてフランジの内側面にナット11を溶接する。一方、枠取付面5に対向する枠部材3の外周面3aに複数の壺掘り部8を形成する。壺掘り部8は枠部材3に予め設けられた穴10およびナット11に対向する位置に形成する。
【0030】
図6(a)に示すように、ボルト9の他端部を枠取付面5に対向する枠部材3の外周面3aの方から穴10およびナット11の中に挿入し、ナット状の一端部が枠部材3の外周面3aに接するところまで挿通させる。次に、図6(b)に示すように、ボルト9が取り付けられた枠部材3を所定の位置に配置し、ボルト9を回転させてナット状の一端部を壺掘り部8内に挿入する。
【0031】
次に、枠取付面5と外周面3aとの間の隙間の側面を図示せぬ型枠で塞ぎ、枠取付面5と外周面3aと図示せぬ型枠とで囲まれた空間に接合材7を充填する。接合材7を充填した後、所定の養生期間をおいて接合材7を固化させて、接合材7が所定の強度を発現した後に型枠の脱型を行う。
【0032】
上記した構成により、枠取付面5に形成された壺掘り部8により枠部材3は強固に枠取付面5に固定される。さらに、枠部材3に固定されたボルト9が枠取付面5に形成された壺掘り部8内に配設されるため、より高い接合力が得られる。なお、ボルト9の固定方法はこれ以外に任意であり、例えばフランジ3aにタップを切りボルト9をねじ込みナット11で固定してもよい。さらに、突出部材として、取付寸法に余裕があればボルトやスタッドを予めフランジ3aに突出固定してもよい。
【0033】
以上、本発明に係る既存建物の耐震補強方法の実施の形態および参考例について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限り適宜応用可能である。
【0034】
例えば、本実施の形態では、被補強開口部1の枠取付面5に対向する枠部材3の外周面3aに凹凸を形成するために、フランジ幅で切断された異形棒鋼3bが取り付けられているが、異形棒鋼3bに代わって丸鋼またはフラットバーまたはアングル材などの他の鋼材を使用してもよい。
【0035】
また、本実施の形態では、被補強開口部1の内周面1cに設けられた枠取付面5は、一定間隔をあけて矩形の目荒し面5aが施されているが、目荒しの粗さを一定間隔で変化させてもよく、目荒しが粗い面と目荒しが細かい面を交互に設けてもよく、また、一定間隔をあけずに枠取付面5全てに凹凸を形成する粗い目荒しを施してもよい。また、目荒し面5aの形状は任意であり、円や三角でもよく、これらを組み合わせてもよい。さらに、梁1bにおける枠取付面5のみに凹凸を形成してもよい。
【0036】
また、本実施の形態では、補強部材としてブレース部材4を使用しているが、ブレース部材4に代えて、地震時の振動応答を低減させるために被補強開口部1の面内に配置される制震ダンパー(特開2000−213201号公報)や、粘弾性体と鋼板とが積層されてなるブレース状のダンパーや、粘性系制震壁(特開2000−73612号公報)等を適宜使用してもよい。
【0037】
また、本実施の形態では、枠部材3と被補強開口部1との間にあけられた隙間に介装する接合材7に無収縮モルタルを使用しているが、耐震補強枠2と被補強開口部1の接合をより高めるために、枠部材3と被補強開口部1との間の隙間を極力小さくし、接合材7としてエポキシ樹脂系接着剤を使用してもよい。
【0038】
また、本実施の形態では、既存のラーメン構造による鉄筋コンクリート造建築物の被補強開口部1における耐震補強方法について説明したが、鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の被補強開口部1に適用してもよい。
【0039】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る既存建物の耐震補強方法によれば、アンカー打ち込み工事が不要であり、耐震補強工事に伴う騒音や振動を極力抑えることができるので、近隣への影響を軽減させることができる。また、アンカー打ち込み工事および鉄筋工事が不要であり、耐震補強工事の作業工程が削減されるため、工期が短縮できる。さらに、被補強開口部に対向する枠部材の外周面および枠部材に対向する被補強開口部の枠取付面を凹凸にすることで、既存躯体と耐震補強枠の接合力を高めて信頼性の高い確実な接合ができる。このため、接合箇所の剥離等は抑止され補修工事の件数は減少し、工事費用の増大を抑止するとともに工事期間の遅延を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態を説明する正面図である。
【図2】 本発明の実施の形態における耐震補強枠の外周面に対向する被補強開口部の内周面を示した斜視図である。
【図3】 本発明の実施の形態における耐震補強枠の枠部材を示した斜視図である。
【図4】 本発明の実施の形態における被補強開口部と耐震補強枠との接合部を示した斜視図である。
【図5】 本発明の参考例における被補強開口部と枠部材との接合部を示した断面図である。
【図6】 本発明の参考例における被補強開口部と枠部材との接合方法を示した断面図である。
【符号の説明】
1 被補強開口部
2 耐震補強枠
3 枠部材
3a外周面
3b異形棒鋼(鋼材)
4 ブレース部材(補強部材)
5 枠取付面
5a目荒し面
7 接合材
Claims (2)
- 枠部材の内側に補強部材が取り付けられた耐震補強枠を、既存建築物の隣り合う柱と上下の梁によって形成される被補強開口部の面内に組み入れる既存建築物の耐震補強工法において、
前記被補強開口部の内周面に対向する前記枠部材の外周面に、前記枠部材の幅方向に延在する鋼材を前記外周面に沿って配置して溶接することで凹凸を形成するとともに、前記外周面に対向する前記被補強開口部の枠取付面に、目荒しを施すことで凹凸を形成し、
前記枠部材および前記被補強開口部の間に接合材を充填して、該接合材が固化することで前記被補強開口部と前記枠部材とが一体化することを特徴とする既存建築物の耐震補強工法。 - 枠部材の内側に補強部材が取り付けられた耐震補強枠を、既存建築物の隣り合う柱と上下の梁によって形成される被補強開口部の面内に組み入れられた建築物の耐震補強構造において、
前記被補強開口部の内周面に対向する前記枠部材の外周面に、前記枠部材の幅方向に延在する鋼材を前記外周面に沿って配置して溶接することで凹凸が形成され、
前記外周面に対向する前記被補強開口部の枠取付面に、目荒しを施すことで凹凸が形成され、
前記枠部材および前記被補強開口部の間に、接合材が介装されていることを特徴とする建築物の耐震補強構造。
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