JP3981573B2 - ハイドロフォーム成形性に優れた加工誘起変態型高強度鋼管およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属管を割り型に入れ、管内に内圧をかけ管軸方向に押し込みつつ所定の形状に加工するハイドロフォーム加工用の鋼管およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車部品等において、鋼管等の金属管をハイドロフォーム加工により成形した製品が採用され始めている。その加工法は、図1のT字管の成形例に示すように、金属管1を金型4、5に入れ、液導入口8から金属管1内に液を導入して内圧をかけ、両側から押し込み用のシリンダー6、7で管軸方向に圧縮荷重を負荷して押し込み、T成形高さhの所定の形状に成形する方法である。
【0003】
成形例としては、金属管1の径を部分的に拡大するもの、径を拡大して種々の断面形状にするもの等があるが、得られた成形品3は軽量でしかも複雑な形状のものまで成形可能であるという特徴をもつ。
【0004】
金属管の素材としては金属板を管状に成形し、突合せ部を溶接して製造されることが多い。従って、ハイドロフォーム成形性は素材である金属板の特性により大部分支配される。
【0005】
従来から金属管の材質面としては、軟質の材料が良いことが知られている。また、特開平10−175027号公報には、ハイドロフォーム成形の変形様式を詳細に検討し、管軸方向のr値が管周方向のr値よりも大であるとき、ハイドロフォーム成形性が優れることが開示されている。
【0006】
ハイドロフォーム成形では管軸方向への材料の押し込みと液圧の負荷による拡管を均衡させることにより、複雑な形状の成形を行っている。特開平10−175027号公報で開示されているように、管軸方向のr値が高い場合、管軸方向への材料の流れ込みが容易となり、拡管部分に材料が十分供給できるため高い成形性を示す。
【0007】
しかしながら、高強度鋼板ではr値の絶対値が小さくなるために、特開平10−175027号公報に開示された鋼管を利用しても高いハイドロフォーム成形性を得にくいという問題があった。
【0008】
近年の環境に対する配慮から、自動車の燃費改善は緊急の課題であり、そのため自動車の軽量化が必要であるとされている。ハイドロフォーム加工は部品点数の削減や、溶接のため必要であったフランジ部を省略できるなど、軽量化に寄与する技術であるが、さらなる軽量化を進めるためには金属管の強度を上げることにより肉厚を減じることが必要であり、高強度かつハイドロフォーム成形性に優れた金属管が必要とされている。
【0009】
従来は、高強度化によって加工性が劣化するため、高強度な金属管の適用には限界があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高強度な金属管を所定の形状に加工するハイドロフォーム加工において、加工性に優れた高強度鋼管およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、質量%で、C:0.04〜0.30%、SiおよびAlを合計で0.3〜3.0%、Mnを0.4〜3.5%含み、残部Feおよび不可避的不純物からなり、体積率最大相であるフェライトと、3体積%以上のオーステナイトを含む第二相からなる加工誘起変態型高強度鋼管であって、相当ひずみにして15%の単軸引張変形を加えたときのオーステナイト相の体積率Vuniaxialと、相当ひずみにして15%のせん断変形を加えたときのオーステナイト相の体積率Vshear との比Vuniaxial/Vshear が0.4〜0.8であることを特徴とするハイドロフォーム成形性に優れた加工誘起変態型高強度鋼管である。
【0012】
また、本発明においては、Ni、Cu、CrおよびMoの少なくとも一種以上をMnとの合計で0.5〜3.5%を含むことが好ましい。さらに、本発明においては、Nb、Ti、V、およびPの少なくとも一種以上を合計で0.2%以下を含むことが好ましい。
【0013】
このような鋼管は、所定の成分組成の鋼を鋳造して鋳片を製造し、この鋳片を一旦冷却した後1100℃超まで加熱するか、あるいは、冷却することなく1100℃超の温度を確保して粗圧延を行い、750〜950℃で熱間仕上圧延を終了した後巻き取った熱延鋼板を酸洗後冷延し、Ac1〜Ac3の温度範囲で30秒〜5分間焼鈍し、その後、1〜10℃/秒の一次冷却速度で550〜670℃の範囲の一次冷却停止温度まで冷却し、引き続いて、10〜200℃/秒の二次冷却速度で式(1)を満たすTb℃なる二次冷却停止温度まで冷却した後、式(2)を満たすtb秒間保持し、室温まで冷却した鋼板を管状に成形することにより得られる。
【0014】
300≦Tb≦400 …(1)
1≦Tb/500+log10tb/4.5 かつ
Tb/650+log10tb/9.5≦1 …(2)
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の内容を詳細に説明する。
【0016】
本発明者らは、高強度鋼管における加工性を改善するために、ハイドロフォーム成形の代表的な成形様式であるT字型成形につき詳細に検討した。その結果、この成形方法では、T成形時の各部で、変形様式、すなわち、主軸方向のひずみの比が異なっていることが分かった。
【0017】
すなわち、T成形部の頂点近傍では等二軸変形、張り出しの壁部分では平面ひずみ変形、材料が張り出し部に流れ込む部分ではせん断変形が主となっていることが判明した。
【0018】
ハイドロフォーム成形性は、張り出し部分の変形抵抗と流れ込み部分の変形抵抗により支配されており、高いハイドロフォーム成形性を得るためには、張り出し部分の変形抵抗が高く、流れ込み部分の変形抵抗が小さいことが望ましい。
【0019】
変形様式の違いによる変形抵抗の変化については、プレス成形の一種である深絞り成形性向上に関して検討が行われている。それによると、材料のr値が高いほど、平面ひずみ変形における変形抵抗が高くなり、縮みフランジ変形では、逆に、r値が高いほど、変形抵抗が低くなる。
【0020】
その結果、r値の高い材料ほど、材料の流れ込みを支配するフランジ部の変形抵抗が小さくなり、平面ひずみ変形となる深絞り時の壁部の変形抵抗が高くなるため、優れた深絞り成形性を得ることができる。
【0021】
しかしながら、先に述べたように、一般に高強度な鋼材ではr値が低くなるため、高強度かつハイドロフォーム成形性の高い鋼管を得ることはこの方法では難しい。
【0022】
r値以外に変形抵抗の差を生むものとして、オーステナイト相の加工誘起による硬質マルテンサイト相への変態の変形様式依存性が知られている。「塑性と加工、第35巻、第404号(1994)」1109頁によると、平面ひずみ変形に比べ縮みフランジ変形ではオーステナイト相の変態が遅れるために、縮みフランジ変形での変形抵抗が小さくなると記載されている。このため、オーステナイト相を含む鋼板では深絞り成形性が良くなる。
【0023】
ハイドロフォーム成形の場合、材料の流れ込みを支配する変形は、縮みフランジ変形ではなく、せん断変形であり、その場合に、オーステナイト相の加工誘起による硬質マルテンサイト相への変態がどのような影響を受けるかについては、全く開示されていない。
【0024】
本発明者らは、せん断変形時のオーステナイト相の変態挙動について鋭意検討し、せん断変形時の残留オーステナイト相からマルテンサイト相への変態が他の変形様式に比べて遅れる加工誘起変態型の高強度鋼管が、高いハイドロフォーム成形性を持つことを明らかにした。
【0025】
ハイドロフォーム成形時のせん断変形以外の変形様式におけるオーステナイト相の変態挙動は、相当ひずみで整理した場合、ほぼ単軸引張のもので代表でき、せん断変形時と単軸引張変形時におけるオーステナイト相の変態挙動の差を制御することにより、ハイドロフォーム成形性に優れた高強度鋼管を得ることができた。
【0026】
しかし、初期オーステナイト相が3体積%未満では、せん断変形時と他の変形様式での変態挙動の差を利用することができず、従来技術を上回る特性を得ることができないため、初期オーステナイト相の体積率を3体積%以上とした。
【0027】
また、加工性の確保のため、体積率最大の相を軟質なフェライトとした。第二相には、オーステナイトのほかに、ベイナイト、マルテンサイトの1種または2種を含んでもよい。オーステナイト相の体積率の上限は上記の範囲内で特に定めないが、加工性を確保するためには、20%以下とすることが好ましい。
【0028】
なお、上記の組織の体積率の内、オーステナイトの体積率は、X線回折により測定した値と定義する。具体的にはMo対陰極のKa線を使って、体心立方格子(フェライト相)の(200)と(211)、および、面心立方格子(オーステナイト相)の(200)、(200)、(311)による回折線の積分強度の比をもとに算出した。
【0029】
また、その他の相は、光学顕微鏡により撮影したものを画像処理することにより測定した値と定義する。
【0030】
成分組成の限定理由はつぎのとおりである。
【0031】
Cは、他の高価な合金元素を用いることなくオーステナイトを安定化させ、室温で残留させるために利用する本発明で最も重要な元素である。Cは、オーステナイトの体積分率に影響するだけでなく、オーステナイト中にCが濃化することでオーステナイトの安定性が増し、変形様式による変態挙動の違いを生み出し、加工誘起マルテンサイトの変形抵抗を増大させる。
【0032】
添加C量が0.04質量%未満では、最終的に得られるオーステナイト体積分率が3%未満であり、オーステナイト相の加工安定性が低く、変形様式による差を生み出さず、また、加工誘起マルテンサイトの変形抵抗が小さい。
【0033】
平均C量が増加するに従い、得られる残留オーステナイトの体積分率が増加するが、同時に溶接性が劣化し、鋼板から鋼管を作る難易度が増す。従って、C含有量を0.04〜0.30質量%とした。
【0034】
SiとAlは、ともにフェライト安定化元素であり、セメンタイトなどの炭化物の生成を抑制し、Cの浪費を防ぎ、残留オーステナイト相の生成に有利となる。これらの元素の添加量が合計で0.3質量%未満の場合には、炭化物やマルテンサイトが生成しやすく、母相が硬質化して、オーステナイト相も不安定となり、せん断変形時の変態の遅れを利用できなくなる。
【0035】
また、3.0質量%を超えて添加された場合には、母相であるフェライト相の硬質化を招き、変形抵抗の上昇がハイドロフォーム成形性を劣化させる。また、Siの場合は、靭性が低下する、鋼材コストが上昇する、化成処理性が劣化するなどの問題が生じる。従って、SiおよびAlを合計で0.3〜3.0質量%とした。
【0036】
Mnおよび必要に応じて添加するNi、Cu、Cr、Moも、SiやAlと同様に炭化物の形成を遅らせる働きがあることからオーステナイトの残留に貢献する元素である。従って、溶接性の観点からC量に制限がある場合には、これらの元素を添加するのが有効である。
Mnを単独で添加する場合、その効果が得られる量として0.4質量%以上添加する。一方Mnの添加量が3.5質量%を超えた場合には母相であるフェライト相が硬質化し、ハイドロフォーム成形性を劣化させる。また、鋼材コストの上昇を招く。従って、Mnの添加量を0.4〜3.5質量%以下とした。
【0037】
Mnに加え、さらに、Ni、Cu、CrおよびMoの少なくとも一種以上を添加する場合、これらの元素の添加量が合計で0.5質量%未満の場合にはその効果が十分でない。一方これらの元素の添加量が合計で3.5質量%を超えた場合には母相であるフェライト相が硬質化し、ハイドロフォーム成形性を劣化させる。また、鋼材コストの上昇を招く。
【0038】
従って、必要に応じて添加するNi、Cu、Cr、Moの添加量をMnとの合計で0.5〜3.5質量%以下とした。
【0039】
また、必要に応じて添加するNb、Ti、Vは、炭化物、窒化物もしくは炭窒化物を形成するとともに、結晶粒径も小さくする働きがあり、後述するPも含め、これらの元素の1種以上を、合計で0.01質量%以上含有すると高強度化に有効である。
【0040】
しかし、これらの元素と後述するPも含め、1種以上の添加量の合計が0.2質量%を超えた場合には、母相であるフェライト相が硬質化し、ハイドロフォーム成形性を劣化させる。また、不必要にCを浪費し、鋼材コストの上昇を招く。
【0041】
従って、必要に応じて添加するNb、Ti、Vは、後述するPも含め、1種以上の添加量の合計で0.2質量%を上限とした。
【0042】
さらに、必要に応じて添加するPは、鋼材の高強度化に効果的で安価な元素である。しかし、添加量が上記のNb、Ti、Vを含め、1種以上の合計で0.2質量%を超えた場合には、母相であるフェライト相が必要以上に増す。また、耐置き割れ性の劣化が顕著になる。
【0043】
従って、上記のNb、Ti、Vを含め、1種以上の合計で0.2質量%を上限とした。
【0044】
本発明者らの鋭意研究の結果、ハイドロフォーム成形性については、相当ひずみにして15%の単軸引張変形を加えたときのオーステナイト相の体積率Vuniaxialと、相当ひずみにして15%のせん断変形を加えたときのオーステナイト相の体積率Vshear との比Vuniaxial/Vshear が0.8以下である場合に、該成形が高くなることを見出した。
【0045】
単軸変形とせん断変形でのオーステナイト相の変態は、変形前の残留オーステナイト相中のC濃度、幾何学的形態、周囲を拘束する母相であるフェライト相の変形抵抗、集合組織等により影響され複雑である。しかしながら、いずれの場合においても、比Vuniaxial/Vshear が0.8以下である場合、高いハイドロフォーム成形性を示した。
【0046】
これは先に説明したように、流れ込みを支配するせん断変形部で変態が遅れるために変形抵抗が小さく、張り出し部分ではそれに比べて変態が促進されるために変形抵抗がそれに比して大きくなり、材料を張り出し部に引き込むことができるようになるためであると考えられる。
【0047】
この比が、小さいほど、良好なハイドロフォーム成形性を示すと考えられるが、現状の製造条件で到達できる限界が0.4であるため、比Vuniaxial/Vshear は0.4を下限とする。
【0048】
なお、Vuniaxial、Vshear は引張り試験により15%の変形を与えた試験片と、単純せん断試験により15√3%のせん断歪みを与えた試験片を作成し、X線回折により、それぞれのオーステナイトの体積率を測定し、それを除算した値と定義する。
【0049】
本発明の鋼管を得るための製造工程は、前記の成分組成の鋼を鋳造して鋳片を製造し、この鋳片を一旦冷却した後1100℃超まで加熱するか、あるいは冷却することなく1100℃超の温度を確保して粗圧延を行い、750〜950℃で熱間仕上圧延を終了した後巻き取った熱延鋼板を酸洗後冷延し、連続焼鈍して最終的な製品とする際に、Ac1〜Ac3の温度範囲で30秒から5分間焼鈍し、その後、1〜10℃/秒の一次冷却速度で550〜670℃の範囲の一次冷却停止温度まで冷却し、引き続いて、10〜200℃/秒の二次冷却速度で式(1)を満たすTb℃なる二次冷却停止温度まで冷却した後、式(2)を満たすtb秒間保持し、室温まで冷却した鋼板を管状に成形することにより得られる。
300≦Tb≦400 …(1)
1≦Tb/500+log10tb/4.5 かつ
Tb/650+log10tb/9.5≦1 …(2)
【0050】
熱間圧延前の鋼板の温度を1100℃超にするのは、MnSなどの介在物の微細分散による硬質化を防ぐことにより、加工性の劣化を避けるためである。熱延前の鋼板の上限温度は特に定めないが、必要以上の加熱はコスト増の原因となるので、1300℃以下とすることが好ましい。
【0051】
熱間粗圧延の開始温度は、上記の理由のため、1100℃以上とする。コスト上昇を防ぐためには、1300℃以下とすることが好ましい。また、熱延終了温度は熱延鋼板の不必要な硬化を防ぐため、750℃以上とし、仕上圧延の作業性を確保するため、950℃以下とすることが好ましい。
【0052】
比Vuniaxial/Vshear を得るための重要な工程は、連続焼鈍後の保持工程にある。ここでは、ベイナイト変態によるオーステナイト相へのC濃化を行わせる。オーステナイト相中のC濃度は、残留オーステナイト相の加工安定性を支配する重要な因子であり、比Vuniaxial/Vshear を0.8以下とするためには、この工程で適切な温度範囲と保持時間を選ぶ必要がある。
【0053】
一般に、この温度が高くなるほどC濃化は早く進むが、400℃より高い保持温度では保持中に炭化物が析出し、比Vuniaxial/Vshear を0.8以下となるのに適した濃化が行われないため、保持温度の上限を400℃とした。
【0054】
また、温度が低くなるとC濃化に必要な時間が増加し、連続焼鈍工程で実際上可能な保持時間を越えてしまうため、下限温度を300℃とした。さらに、比Vuniaxial/Vshear を0.8以下とするためには、残留オーステナイト相中のC濃度を適切な範囲に制御する必要がある。
【0055】
本発明者らの検討の結果、高温側ではCの濃化が必要以上に進み過ぎ、適切な範囲で加工誘起変態が起こらなくなるため、保持時間に上限が存在することが分かった。また、低温側では保持時間が短いと十分なCの濃化が起こらないため、保持時間に下限があることが分かった。
【0056】
(2)式は実験的に得られた比Vuniaxial/Vshear を0.8以下とするための条件をあらわすものである。
【0057】
本発明の高強度鋼管は、このような処理をした鋼板を管状に成形し、突合せ部を溶接することで得られる。あるいは、熱延板を管状に成形した後、冷間引き抜きやピルガー圧延などによる冷間加工により薄肉化した鋼管を式(2)の条件で焼鈍することにより得ても本質的には変わらない。
【0058】
【実施例】
本発明の実施例を挙げながら、本発明の技術的内容について説明する。
【0059】
(実施例1)
まず、本発明のハイドロフォーム成形性に優れる比Vuniaxial/Vshear を0.8以下となる鋼管の製造条件について検討を行った。
【0060】
表1の鋼Fに示す化学成分の材料を鋳造し、鋳片を冷却することなく1250〜1100℃を確保して、開始温度1100℃以上、終了温度750〜950℃で熱間圧延した後、50%の冷間圧延を行い、790℃で2分焼鈍した後に、5℃/秒で670℃まで冷却し、引き続いて80℃/秒で表2に示す種々の条件の冷却保持を行うことにより、1.6mmの鋼板を得た。
【0061】
これらの材料から引張り試験により15%の変形を与えた材料と、単純せん断試験により15√3%のせん断歪みを与えた試験片を得た。双方の歪み量は相当歪みにして15%に対応する。
【0062】
このようにして得た試験片中のオーステナイト相の体積分率はX線回折により測定した。具体的には、Mo対陰極のKa線を使って、体心立方格子(フェライト相)の(200)と(211)、および、面心立方格子(オーステナイト相)の(200)、(200)、(311)による回折線の積分強度の比をもとに算出した。
【0063】
この鋼板を管状に成形し、突合せ部を電縫溶接することにより、外径60.5mmの鋼管を得た。このようにして得た鋼管によりT成形試験を行い、ハイドロフォーム成形性の指標としてT成形高さを測定した。
【0064】
以上のような試験により得た結果を、製造方法とともに表2に示す。式(1)、式(2)を満たす方法により製造した鋼管は、比Vuniaxial/Vshear が0.8以下を満足した。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
(実施例2)
実施例1と同様に、表1に示すF以外の23種類の化学成分からなる鋼を鋳造し、記号番号29と39を除く鋼は、実施例1と同じ条件で熱間圧延、冷間圧延を行い、5℃/秒で670℃まで冷却し、引き続いて80℃/秒で350℃まで冷却し、そのまま300秒保持し、1.6mmの鋼板を得た。
【0068】
記号番号29の鋼は、実施例1と同じ条件で熱間圧延、冷間圧延を行い、5℃/秒で670℃まで冷却し、引き続いて80℃/秒で冷却したものであり、Tb℃での均熱工程を設けなかった。また、記号番号39の鋼は、実施例1と同じ条件で熱間圧延、冷間圧延を行い、5℃/秒で670℃まで冷却し、引き続いて80℃/秒で350℃まで冷却し、そのまま15000秒保持し、1.6mmの鋼板を得たものである。記号番号29の鋼は式(1)、式(2)ともに満たさず、39の鋼は式(2)を満たさない。
【0069】
これらの材料から実施例1と同様に引張り試験と単純せん断試験で相当歪み15%の変形を与えた試験片を得た後、X線回折により比Vuniaxial/Vshear を測定した。さらに、この鋼板を管状に成形し、突合せ部を電縫溶接することにより外径60.5mmの鋼管を作製し、T成形試験を行いT成形高さを測定した。
【0070】
製造方法と式(1)との対応、比Vuniaxial/Vshear およびT成形高さを表3に示す。また、実施例1の結果と合わせて材料の引張り強さとT成形高さの関係を図2に示す。
【0071】
先に述べたように、一般に、ハイドロフォーム成形性は材料強度が高くなるほど劣化してくる。しかしながら、Vuniaxial/Vshear の低い材料、すなわち、流れ込み部の変形抵抗と、張り出し部の変形抵抗の差が大きい材料はこの傾向を逸脱し、高強度化しても優れたハイドロフォーム成形性を示す。
【0072】
Vuniaxial/Vshear が小さいほどハイドロフォーム成形性は良好であるが、この比が0.8より大きくなると、大きなハイドロフォーム成形性は得られない。Vuniaxial/Vshear と材料の関係は複雑であるが、残留オーステナイト相の安定度、形態、母相強度により支配されるものと考えられる。
【0073】
【表3】
【0074】
【発明の効果】
本発明によれば、ハイドロフォーム加工に適した高強度鋼管を得ることができる。また、本発明によれば、優れたハイドロフォーム加工性を有する高強度鋼管を得ることができるため、軽量かつ高剛性な部品の製造を可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の対象とするハイドロフォーム加工法の例を示す図である。
【図2】本発明における素材強度とハイドロフォーム成形性の関係を示す図である。
【符号の説明】
1…金属管
3…成形品
4、5…金型
6、7…押し込み用シリンダー
8…液導入口
Claims (4)
- 質量%で、C:0.04〜0.30%、SiおよびAlを合計で0.3〜3.0%、Mnを0.4〜3.5%含み、残部Feおよび不可避的不純物からなり、体積率最大相であるフェライトと、3体積%以上のオーステナイトを含む第二相からなる加工誘起変態型高強度鋼管であって、相当ひずみにして15%の単軸引張変形を加えたときのオーステナイト相の体積率Vuniaxialと、相当ひずみにして15%のせん断変形を加えたときのオーステナイト相の体積率Vshear との比Vuniaxial/Vshear が0.4〜0.8であることを特徴とするハイドロフォーム成形性に優れた加工誘起変態型高強度鋼管。
- さらに、Ni、Cu、CrおよびMoの少なくとも一種以上をMnとの合計で0.5〜3.5%を含むことを特徴とする請求項1に記載のハイドロフォーム成形性に優れた加工誘起変態型高強度鋼管。
- さらに、Nb、Ti、V、および、Pの少なくとも一種以上を合計で0.2%以下を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のハイドロフォーム成形性に優れた加工誘起変態型高強度鋼管。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の加工誘起変態型高強度鋼管を製造する方法において、所定の成分組成の鋼を鋳造して鋳片を製造し、この鋳片を一旦冷却した後1100℃超まで加熱するか、あるいは、冷却することなく1100℃超の温度を確保して粗圧延を行い、750〜950℃で熱間仕上圧延を終了した後巻き取った熱延鋼板を酸洗後冷延し、Ac1〜Ac3の温度範囲で30秒〜5分間焼鈍し、その後、1〜10℃/秒の一次冷却速度で550〜670℃の一次冷却停止温度まで冷却し、引き続いて、10〜200℃/秒の二次冷却速度で式(1)を満たすTb℃なる二次冷却停止温度まで冷却した後、式(2)を満たすtb秒間保持し、室温まで冷却した鋼板を管状に成形することを特徴とするハイドロフォーム成形性に優れた加工誘起変態型高強度鋼管の製造方法。
300≦Tb≦400 …(1)
1≦Tb/500+log10tb/4.5 かつ
Tb/650+log10tb/9.5≦1 …(2)
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