JP3977232B2 - 変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する溶液からなるコーティング剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する溶液に関する。また、該溶液からなるコーティング剤に関する。さらに、該コーティング剤を基材上に塗布してなる多層構造体に関する。
【0002】
【従来の技術】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下EVOHと略称することがある。)はガスバリア性、耐油性、耐溶剤性に優れ、種々の包装分野の包装材料、フィルム、シート、容器等に好適に用いられる。EVOHは多層構造体の1層として使用されることも多く、その場合に、EVOH溶液をコーティングすることによってEVOH被膜を形成する方法も行われつつある。
【0003】
EVOH溶液の溶剤としては含水アルコールが一般的に使用される(例えば、特公昭47−48489号(特許文献1)参照)。しかしながら、従来のEVOH溶液では溶液の放置安定性が悪く、溶液がゲル化し易く、50℃以上の高温で保存するか、塗工前に加熱して再溶解しなければならなかった。また、乾燥条件によっては塗膜に白化や曇り等が発生し、厳密な条件管理が必要であるなどの欠点を有していた。
【0004】
特開昭63−139954号公報(特許文献2)には、ビニルピロリドンで変性されたEVOHからなる含水アルコール溶液が記載されており、EVOHを変性することで、溶液の放置安定性が向上するとされている。また、特開平2−47144号公報(特許文献3)には、ホウ酸を添加したEVOHの含水アルコール溶液が記載されている。ここでも、ホウ酸を添加することによって、溶液の放置安定性が向上するとされている。
【0005】
【特許文献1】
特公昭47−48489号(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開昭63−139954号公報(特許請求の範囲、第1頁)
【特許文献3】
特開平2−47144号公報(特許請求の範囲、第2頁)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献2〜4に記載されたような方法によって放置安定性が改善されるものの、その効果は必ずしも十分ではなく、さらに放置安定性に優れたEVOH溶液が望まれている。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、放置安定性が良好で、得られる塗膜のガスバリア性や外観が良好な変性EVOH溶液を提供することを目的とするものである。また、該溶液からなるコーティング剤を提供すること、及び該コーティング剤を基材上に塗布してなる多層構造体を提供することも、本発明の目的である。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、下記構造単位(I)を0.3〜40モル%含有し、エチレン含有量が5〜55モル%であり、かつ下記構造単位(I)及びエチレン単位以外の構成成分がビニルアルコール単位である変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を含有する溶液からなるコーティング剤を提供することによって解決される。
【0009】
【化2】
【0010】
(式中、R1、R2、R3及びR4は、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表す。R1、R2、R3及びR4は同じ基でも良いし、異なっていても良い。また、R3とR4とは結合していても良い。またR1、R2、R3及びR4は水酸基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していても良い。)
【0011】
このとき、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)の含有量が1〜50重量%であることが好適である。また、溶媒がアルコールと水の混合溶媒であることも好適である。
【0012】
さらに、上記構造単位(I)を含有しないエチレン含有量5〜55モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(F)を含んでなることが好適である。このとき変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)及びエチレン−ビニルアルコール共重合体(F)の合計含有量が1〜50重量%であることが好ましい。
【0013】
本発明の好適な実施態様は、上記コーティング剤を基材上に塗布してなる多層構造体である。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明で使用する変性EVOH(C)は、下記構造単位(I)を0.3〜40モル%含有するエチレン含有量5〜55モル%の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)である。
【0015】
【化3】
【0016】
(式中、R1、R2、R3及びR4は、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基(アルキル基又はアルケニル基など)、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、シクロアルケニル基など)、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基(フェニル基など)を表す。R1、R2、R3及びR4は同じ基でもよいし、異なっていても良い。また、R3とR4とは結合していてもよい(ただし、R3及びR4がともに水素原子の場合は除かれる)。また上記のR1、R2、R3及びR4は他の基、例えば、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子などを有していてもよい。)
【0017】
より好適な実施態様では、前記R1及びR2がともに水素原子である。さらに好適な実施態様では、前記R1及びR2がともに水素原子であり、前記R3及びR4のうち、一方が炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基であって、かつ他方が水素原子である。好適には、前記脂肪族炭化水素基がアルキル基又はアルケニル基である。変性EVOH(C)をバリア材として使用する際のガスバリア性を特に重視する観点からは、前記R3及びR4のうち、一方がメチル基又はエチル基であり、他方が水素原子であることがより好ましい。
【0018】
また、変性EVOH(C)をバリア材として使用する際のガスバリア性の観点からは、前記R3及びR4のうち、一方が(CH2)iOHで表される置換基(ただし、i=1〜8の整数)であり、他方が水素原子であることも好ましい。バリア材としてのガスバリア性を特に重視する場合は、前記の(CH2)iOHで表される置換基において、i=1〜4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。
【0019】
変性EVOH(C)に含まれる上述の構造単位(I)の量は0.3〜40モル%の範囲内であることが必要である。構造単位(I)の量の下限は、0.5モル%以上であることが好ましく、1モル%以上であることがより好ましく、2モル%以上であることがさらに好ましい。一方、構造単位(I)の量の上限は、35モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、25モル%以下であることがさらに好ましい。含まれる構造単位(I)の量が上記の範囲内にあることで、ガスバリア性、透明性、柔軟性、耐屈曲性、延伸性及び溶液の放置安定性を兼ね備えた変性EVOH(C)を得ることができる。
【0020】
変性EVOH(C)のエチレン含有量は5〜55モル%であることが好ましい。変性EVOH(C)のエチレン含有量が5モル%未満の場合は、柔軟性、耐屈曲性あるいは延伸性が悪化するおそれがある。より好適には10モル%以上であり、さらに好適には20モル%以上であり、特に好適には25モル%以上であり、さらに好適には31モル%以上である。一方、変性EVOH(C)のエチレン含有量が55モル%を超えるとガスバリア性が悪化するおそれがある。より好適には50モル%以下であり、さらに好適には45モル%以下である。
【0021】
変性EVOH(C)を構成する、上記構造単位(I)及びエチレン単位以外の構成成分は、主としてビニルアルコール単位である。このビニルアルコール単位は、通常、原料のEVOH(A)に含まれるビニルアルコール単位のうち、一価エポキシ化合物(B)と反応しなかったビニルアルコール単位である。また、EVOH(A)に含まれることがある未ケン化の酢酸ビニル単位は、通常そのまま変性EVOH(C)に含有される。変性EVOH(C)は、これらの構成成分を含有するランダム共重合体であることが、NMRの測定や融点の測定結果からわかった。さらに、本発明の目的を阻害しない範囲内で、その他の構成成分を含むこともできる。
【0022】
変性EVOH(C)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜30g/10分であり、より好適には0.3〜25g/10分、更に好適には0.5〜20g/10分である。MFRが高すぎると、塗膜の機械的強度が低下するとともに、延伸性、柔軟性及び耐屈曲性が低下するおそれがある。また、MFRが低すぎると、変性EVOH(C)を含む溶液の粘度が高くなりすぎるおそれがある。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
【0023】
上記の変性EVOH(C)を製造する方法は特に限定されない。本発明者らが推奨する方法は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)とを反応させることにより、変性EVOH(C)を得る方法である。
【0024】
また、本発明が解決しようとする課題は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)とを反応させて得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を含有する溶液を提供することによっても達成される。
【0025】
本発明で変性EVOH(C)の原料として用いられるEVOH(A)としては、エチレン−ビニルエステル共重合体をケン化して得られるものが好ましい。EVOHの製造時に用いるビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなど)も使用できる。また、本発明の目的が阻害されない範囲であれば、他の共単量体、例えば、プロピレン、ブチレン、イソブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸又はそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸又はその塩;アルキルチオール類;N−ビニルピロリドンなどのビニルピロリドン等を共重合することもできる。
【0026】
EVOH(A)として、共重合成分としてビニルシラン化合物を共重合したEVOHを用いる場合、共重合量として0.0002〜0.2モル%を含有することが好ましい。かかる範囲でビニルシラン化合物を共重合成分として有することにより、溶液の放置安定性がさらに改善される場合がある。ここで、ビニルシラン系化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等が挙げられる。なかでも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。
【0027】
本発明に用いられるEVOH(A)のエチレン含有量は5〜55モル%であることが好ましい。変性EVOH(A)のエチレン含有量が5モル%未満の場合は、得られる変性EVOH(C)の柔軟性、耐屈曲性あるいは延伸性が悪化するおそれがある。より好適には10モル%以上であり、さらに好適には20モル%以上であり、特に好適には25モル%以上であり、さらに好適には31モル%以上である。一方、変性EVOH(A)のエチレン含有量が55モル%を超える場合には、得られる変性EVOH(C)のガスバリア性が悪化するおそれがある。より好適には50モル%以下であり、さらに好適には45モル%以下である。
【0028】
さらに、本発明に用いられるEVOH(A)のビニルエステル成分のケン化度は好ましくは90%以上である。ビニルエステル成分のケン化度は、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは98%以上であり、最適には99%以上である。ケン化度が90%未満では、ガスバリア性、特に高湿度時のガスバリア性が低下するおそれがある。なおここで、EVOH(A)がケン化度の異なる2種類以上のEVOHの配合物からなる場合には、配合重量比から算出される平均値をケン化度とする。
【0029】
なお、EVOH(A)のエチレン含有量及びケン化度は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
【0030】
さらに、EVOH(A)として、本発明の目的を阻外しない範囲内で、ホウ素化合物をブレンドしたEVOHを用いることもできる。ここでホウ素化合物としては、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては上記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの化合物のうちでもオルトホウ酸(以下、単にホウ酸と表示する場合がある)が好ましい。
【0031】
EVOH(A)として、ホウ素化合物をブレンドしたEVOH(A)を用いる場合、ホウ素化合物の含有量は好ましくはホウ素元素換算で20〜2000ppm、より好ましくは50〜1000ppmである。この範囲内でホウ素化合物をブレンドすることで溶液の放置安定性がさらに改善される場合がある。
【0032】
また、EVOH(A)として、リン酸化合物を配合したEVOH(A)を用いてもよい。これにより樹脂の品質(着色等)を安定させることができる場合がある。本発明に用いられるリン酸化合物としては特に限定されず、リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等を用いることができる。リン酸塩としては第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩のいずれの形で含まれていても良いが、第一リン酸塩が好ましい。そのカチオン種も特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩であることが好ましい。これらの中でもリン酸二水素ナトリウム及びリン酸二水素カリウムが好ましい。リン酸化合物を配合したEVOH(A)を用いる場合の、リン酸化合物の含有量は、好適にはリン酸根換算で200ppm以下であり、より好適には5〜100ppmであり、最適には5〜50ppmである。
【0033】
ただし、後述のように周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含む触媒(D)の存在下にEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させる場合には、リン酸塩が触媒を失活させるのでできるだけ少ないことが好ましい。その場合のEVOH(A)のリン酸化合物の含有量は、好適にはリン酸根換算で200ppm以下であり、より好適には100ppm以下であり、最適には50ppm以下である。
【0034】
また、後述する通り、変性EVOH(C)は、好適にはEVOH(A)と分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)との反応を、押出機内で行わせることによって得られるが、その際に、EVOHは加熱条件下に晒される。この時に、EVOH(A)が過剰にアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含有していると、得られる変性EVOH(C)に着色が生じるおそれがある。また、変性EVOH(C)の粘度低下等の問題が生じ、成形性が低下するおそれがある。また、後述のように触媒(D)を使用する場合には、触媒(D)を失活させるため、それらの添加量はできるだけ少ないことが好ましい。
【0035】
上記の問題を回避するためには、EVOH(A)が含有するアルカリ金属塩が金属元素換算値で50ppm以下であることが好ましい。より好ましい実施態様では、EVOH(A)が含有するアルカリ金属塩が金属元素換算値で30ppm以下であり、さらに好ましくは20ppm以下である。また、同様な観点から、EVOH(A)が含有するアルカリ土類金属塩が金属元素換算値で20ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、5ppm以下であることがさらに好ましく、EVOH(A)にアルカリ土類金属塩が実質的に含まれていないことが最も好ましい。
【0036】
また、本発明の目的を阻外しない範囲内であれば、EVOH(A)として、熱安定剤、酸化防止剤を配合したものを用いることもできる。
【0037】
本発明に用いられるEVOH(A)の固有粘度は0.06L/g以上であることが好ましい。EVOH(A)の固有粘度はより好ましくは0.07〜0.2L/gの範囲内であり、さらに好ましくは0.075〜0.15L/gであり、特に好ましくは0.080〜0.12L/gである。EVOH(A)の固有粘度が0.06L/g未満の場合、塗膜の機械的強度が低下するとともに、延伸性、柔軟性及び耐屈曲性が低下するおそれがある。また、EVOH(A)の固有粘度が0.2L/gを越える場合、変性EVOH(C)を含む溶液の粘度が高くなりすぎるおそれがある。
【0038】
本発明に用いられるEVOH(A)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜30g/10分であり、より好適には0.3〜25g/10分、更に好適には0.5〜20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。MFRの異なる2種以上のEVOHを混合して用いることもできる。
【0039】
本発明に用いられる分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)は、一価のエポキシ化合物であることが必須である。すなわち、分子内にエポキシ基を一つだけ有するエポキシ化合物でなければならない。二価又はそれ以上の、多価のエポキシ化合物を用いた場合は、本発明の効果を奏することができない。ただし、一価エポキシ化合物の製造工程において、ごく微量に多価エポキシ化合物が含まれることがある。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ごく微量の多価エポキシ化合物が含まれる一価のエポキシ化合物を、本発明における分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)として使用することも可能である。
【0040】
本発明に用いられる分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)は特に限定されない。具体的には、下記式(III)〜(IX)で示される化合物が、好適に用いられる。
【0041】
【化4】
【0042】
【化5】
【0045】
【化8】
【0046】
【化9】
【0047】
【化10】
【0048】
(式中、R5、R 6 、R 8 及びR9は、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基(アルキル基又はアルケニル基など)、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、シクロアルケニル基など)、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基(フェニル基など)を表す。R 7 は水素原子を表す。また、i、l及びmは、1〜8の整数を表す。)
【0049】
上記式(III)で表される分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)としては、エポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、3−メチル−1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、2,3−エポキシペンタン、3−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−2,3−エポキシペンタン、3−エチル−1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、2,3−エポキシヘキサン、3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、3−エチル−1,2−エポキシヘキサン、3−プロピル−1,2−エポキシヘキサン、4−エチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−2,3−エポキシヘキサン、4−エチル−2,3−エポキシヘキサン、2−メチル−3,4−エポキシヘキサン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシへプタン、4−メチル−1,2−エポキシへプタン、5−メチル−1,2−エポキシへプタン、6−メチル−1,2−エポキシへプタン、3−エチル−1,2−エポキシへプタン、3−プロピル−1,2−エポキシへプタン、3−ブチル−1,2−エポキシへプタン、4−エチル−1,2−エポキシへプタン、4−プロピル−1,2−エポキシへプタン、5−エチル−1,2−エポキシへプタン、4−メチル−2,3−エポキシへプタン、4−エチル−2,3−エポキシへプタン、4−プロピル−2,3−エポキシへプタン、2−メチル−3,4−エポキシへプタン、5−メチル−3,4−エポキシへプタン、5−エチル−3,4−エポキシへプタン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシへプタン、2−メチル−5−エチル−3,4−エポキシへプタン、1,2−エポキシヘプタン、2,3−エポキシヘプタン、3,4−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、2,3−エポキシオクタン、3,4−エポキシオクタン、4,5−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、2,3−エポキシノナン、3,4−エポキシノナン、4,5−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、2,3−エポキシデカン、3,4−エポキシデカン、4,5−エポキシデカン、5,6−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、2,3−エポキシウンデカン、3,4−エポキシウンデカン、4,5−エポキシウンデカン、5,6−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、2,3−エポキシドデカン、3,4−エポキシドデカン、4,5−エポキシドデカン、5,6−エポキシドデカン、6,7−エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1−フェニル−1,2−エポキシプロパン、3−フェニル−1,2−エポキシプロパン、1−フェニル−1,2−エポキシブタン、3−フェニル−1,2−エポキシブタン、4−フェニル−1,2−エポキシブタン、1−フェニル−1,2−エポキシペンタン、3−フェニル−1,2−エポキシペンタン、4−フェニル−1,2−エポキシペンタン、5−フェニル−1,2−エポキシペンタン、1−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、3−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、4−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、5−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、6−フェニル−1,2−エポキシヘキサン等が挙げられる。
【0050】
上記式(IV)で表される分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)としては、グリシドール、3,4−エポキシ−1−ブタノール、4,5−エポキシ−1−ペンタノール、5,6−エポキシ−1−ヘキサノール、6,7−エポキシ−1−へプタノール、7,8−エポキシ−1−オクタノール、8,9−エポキシ−1−ノナノール、9,10−エポキシ−1−デカノール、10,11−エポキシ−1−ウンデカノール等が挙げられる。
【0053】
上記式(VII)で表される分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)としては、3,4−エポキシ−2−ブタノール、2,3−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−2−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ペンタノール、1,2−エポキシ−3−ペンタノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘキサノール、4,5−エポキシ−3−ヘキサノール、1,2−エポキシ−3−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−エチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジエチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−4−エチル−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5−メチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5,5−ジメチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−ヘプタノール、4,5−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−4−ヘプタノール、1,2−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−オクタノール、3,4−エポキシ−2−オクタノール、4,5−エポキシ−3−オクタノール、5,6−エポキシ−4−オクタノール、2,3−エポキシ−4−オクタノール、1,2−エポキシ−3−オクタノール、2,3−エポキシ−1−ノナノール、3,4−エポキシ−2−ノナノール、4,5−エポキシ−3−ノナノール、5,6−エポキシ−4−ノナノール、3,4−エポキシ−5−ノナノール、2,3−エポキシ−4−ノナノール、1,2−エポキシ−3−ノナノール、2,3−エポキシ−1−デカノール、3,4−エポキシ−2−デカノール、4,5−エポキシ−3−デカノール、5,6−エポキシ−4−デカノール、6,7−エポキシ−5−デカノール、3,4−エポキシ−5−デカノール、2,3−エポキシ−4−デカノール、1,2−エポキシ−3−デカノール等が挙げられる。
【0054】
上記式(VIII)で表される分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)としては、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロヘプタン、1,2−エポキシシクロオクタン、1,2−エポキシシクロノナン、1,2−エポキシシクロデカン、1,2−エポキシシクロウンデカン、1,2−エポキシシクロドデカン等が挙げられる。
【0055】
上記式(IX)で表される分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)としては、3,4−エポキシシクロペンテン、3,4−エポキシシクロヘキセン、3,4−エポキシシクロヘプテン、3,4−エポキシシクロオクテン、3,4−エポキシシクロノネン、1,2−エポキシシクロデセン、1,2−エポキシシクロウンデセン、1,2−エポキシシクロドデセン等が挙げられる。
【0056】
本発明に用いられる分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)としては、炭素数が2〜8のエポキシ化合物が特に好ましい。化合物の取り扱いの容易さ、及びEVOH(A)との反応性の観点からは、一価エポキシ化合物(B)の炭素数は好適には2〜6であり、より好適には2〜4である。また、一価エポキシ化合物(B)が、上記式(III)又は(IV)で表される化合物であることが好ましい。EVOH(A)との反応性、及び得られる変性EVOH(C)のガスバリア性の観点からは、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタン及びグリシドールが特に好ましく、なかでもエポキシプロパン及びグリシドールが好ましい。食品包装用途、飲料包装用途、医薬品包装用途などの、衛生性を要求される用途では、エポキシ化合物(B)として1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン及びエポキシエタンを用いることが好ましく、特にエポキシプロパンを用いることが好ましい。
【0057】
上記EVOH(A)と上記一価エポキシ化合物(B)とを反応させることにより変性EVOH(C)が得られる。このときの、EVOH(A)及び一価エポキシ化合物(B)の好適な混合比は、(A)100重量部に対して(B)1〜50重量部であり、さらに好適には(A)100重量部に対して(B)2〜40重量部であり、特に好適には(A)100重量部に対して(B)5〜35重量部である。
【0058】
EVOH(A)と分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)とを反応させることにより、変性EVOH(C)を製造する方法は特に限定されないが、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを溶液で反応させる製造法、及びEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを押出機内で反応させる製造法などが好適な方法として挙げられる。
【0059】
溶液反応による製造法では、EVOH(A)の溶液に酸触媒あるいはアルカリ触媒存在下で一価エポキシ化合物(B)を反応させることによって変性EVOH(C)が得られる。また、EVOH(A)及び一価エポキシ化合物(B)を反応溶媒に溶解させ、加熱処理を行うことによっても変性EVOH(C)を製造することができる。反応溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリドン等のEVOH(A)の良溶媒である極性非プロトン性溶媒が好ましい。
【0060】
反応触媒としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸及び3フッ化ホウ素等の酸触媒や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ナトリウムメトキサイド等のアルカリ触媒が挙げられる。これらの内、酸触媒を用いることが好ましい。触媒量としては、EVOH(A)100重量部に対し、0.0001〜10重量部程度が適当である。反応温度としては室温から150℃の範囲が適当である。
【0061】
EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを押出機内で反応させる製造法では、使用する押出機としては特に制限はないが、一軸押出機、二軸押出機又は二軸以上の多軸押出機を使用し、180℃〜300℃程度の温度でEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させることが好ましい。後述のように、押出機内で反応させる際に触媒(D)を存在させる場合には、低めの溶融温度とすることが好ましいが、触媒(D)を使用しない場合の好適な温度は200℃〜300℃程度である。
【0062】
二軸押出機又は二軸以上の多軸押出機を用いた場合、スクリュー構成の変更により、反応部の圧力を高めることが容易であり、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応を効率的に行えるようになる。一軸押出機では2台以上の押出機を連結し、その間の樹脂流路にバルブを配置することにより、反応部の圧力を高めることが可能である。また同様に二軸押出機又は二軸以上の多軸押出機を2台以上連結して製造してもよい。
【0063】
押出機内で反応させる製造法と、溶液反応による製造法を比較した場合、溶液反応の場合は、EVOH(A)を溶解させる溶媒が必要であり、反応終了後に該溶媒を反応系から回収・除去する必要があり、工程が煩雑なものとなる。また、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応性を高めるためには、反応系を加熱及び/又は加圧条件下に維持することが好ましいが、溶液反応の場合と比較して、押出機内での反応ではかかる反応系の加熱及び/又は加圧条件の維持が容易であり、その観点からも押出機内での反応のメリットは大きい。
【0064】
さらに、溶液反応によってEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応を行った場合、反応の制御が必ずしも容易ではなく、過剰に反応が進行してしまうおそれがある。すなわち、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応の結果、上述の構造単位(I)を有する変性EVOH(C)が得られるが、前記構造単位(I)に含まれる水酸基に、さらに一価エポキシ化合物(B)が反応することにより、本発明で特定する構造単位とは異なるものが得られるおそれがあった。具体的には、一価エポキシ化合物(B)がエチレンオキサイドである場合、上述した過剰な反応の進行により、下記に示す構造単位(II)を含有するEVOHが生じることになる。
【0065】
【化11】
【0066】
(式中、nは1以上の自然数を表す。)
【0067】
本発明者らが検討を行った結果、本発明で特定する構造単位(I)とは異なる、上記に示した構造単位(II)を含有する割合が多くなることにより、得られる変性EVOH(C)のガスバリア性が低下することが明らかになった。さらに、押出機内でEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応を行った場合は、このような副反応の発生を効果的に抑制可能であることを見出した。かかる観点からも、押出機内でEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応を行うことにより、変性EVOH(C)を製造する方法が好ましい。
【0068】
また、本発明で用いられる分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)は、必ずしも沸点の高いものばかりではないため、溶液反応による製造法では、反応系を加熱した場合、系外に一価エポキシ化合物(B)が揮散するおそれがある。しかしながら、押出機内でEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させることにより、一価エポキシ化合物(B)の系外への揮散を抑制することが可能である。特に、押出機内に一価エポキシ化合物(B)を添加する際に、加圧下で圧入することにより、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応性を高め、かつ一価エポキシ化合物(B)の系外への揮散を顕著に抑制することが可能である。
【0069】
押出機内での反応の際の、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)の混合方法は特に限定されず、押出機にフィードする前のEVOH(A)に一価エポキシ化合物(B)をスプレー等を行う方法や、押出機にEVOH(A)をフィードし、押出機内で一価エポキシ化合物(B)と接触させる方法などが好適なものとして例示される。この中でも、一価エポキシ化合物(B)の系外への揮散を抑制できる観点から、押出機にEVOH(A)をフィードした後、押出機内で一価エポキシ化合物(B)と接触させる方法が好ましい。また、押出機内への一価エポキシ化合物(B)の添加位置も任意であるが、EVOH(A)とエポキシ化合物(B)との反応性の観点からは、溶融したEVOH(A)に対して一価エポキシ化合物(B)を添加することが好ましい。
【0070】
本発明者が推奨する、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との、押出機内での反応による製造法は、(1)EVOH(A)の溶融工程、(2)一価エポキシ化合物(B)の添加工程及び(3)ベント等による、未反応の一価エポキシ化合物(B)の除去工程、からなる。反応を円滑に行う観点からは、系内から水分及び酸素を除去することが好適である。このため、押出機内へ一価エポキシ化合物(B)を添加するより前に、ベント等を用いて水分及び酸素を除去してもよい。
【0071】
また、前述の通り、一価エポキシ化合物(B)の添加工程においては、一価エポキシ化合物(B)を加圧下で圧入することが好ましい。この際に、この圧力が不十分な場合、反応率が下がり、吐出量が変動する等の問題が発生する。必要な圧力は一価エポキシ化合物(B)の沸点や押出温度によって大きく異なるが、通常0.5〜30MPaの範囲が好ましく、1〜20MPaの範囲がより好ましい。
【0072】
本発明の製造方法では、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含む触媒(D)の存在下に押出機中で溶融混練することが好適である。周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含む触媒(D)を存在させることによって、より低い温度で溶融混練しても効率良くEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させることができる。すなわち、比較的低温での溶融混練によっても、変性量の大きい変性EVOH(C)を容易に得ることができる。EVOHは高温での溶融安定性が必ずしも良好な樹脂ではないことから、このように低温で溶融混練できることは、樹脂の劣化を防止できる点から好ましい。触媒(D)を使用せずにEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させた場合には、得られる変性EVOH(C)のMFRが原料のEVOH(A)のMFRよりも低下する傾向があるが、触媒(D)を使用した場合には、MFRはほとんど変化しない。
【0073】
本発明で使用される触媒(D)は、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含むものである。触媒(D)に使用される金属イオンとして最も重要なことは適度のルイス酸性を有することであり、この点から周期律表第3〜12族に属する金属のイオンが使用される。これらの中でも、周期律表第3族又は第12族に属する金属のイオンが適度なルイス酸性を有していて好適であり、亜鉛、イットリウム及びガドリニウムのイオンがより好適なものとして挙げられる。なかでも、亜鉛のイオンを含む触媒(D)が、触媒活性が極めて高く、かつ得られる変性EVOH(C)の熱安定性が優れていて、最適である。
【0074】
周期律表第3〜12族に属する金属のイオンの添加量はEVOH(A)の重量に対する金属イオンのモル数で0.1〜20μmol/gであることが好適である。多すぎる場合には、溶融混練中にEVOHがゲル化するおそれがあり、より好適には10μmol/g以下である。一方、少なすぎる場合には、触媒(D)の添加効果が十分に奏されないおそれがあり、より好適には0.5μmol/g以上である。なお、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンの好適な添加量は、使用する金属の種類や後述のアニオンの種類によっても変動するので、それらの点も考慮した上で、適宜調整されるべきものである。
【0075】
周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含む触媒(D)のアニオン種は特に限定されるものではないが、その共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンを含むことが好ましい。共役酸が強酸であるアニオンは、通常求核性が低いので一価エポキシ化合物(B)と反応しにくく、求核反応によってアニオン種が消費されて、触媒活性が失われることを防止できるからである。また、そのようなアニオンを対イオンに有することで、触媒(D)のルイス酸性が向上して触媒活性が向上するからである。
【0076】
共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンとしては、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン;塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲンイオン;過塩素酸イオン;テトラフルオロボレートイオン(BF4 −)、ヘキサフルオロホスフェートイオン(PF6 −)、ヘキサフルオロアルシネートイオン(AsF6 −)、ヘキサフルオロアンチモネートイオン等の4個以上のフッ素原子を持つアニオン;テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン等のテトラフェニルボレート誘導体イオン;テトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、ビス(ウンデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート)コバルト(III)イオン、ビス(ウンデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート)鉄(III)イオン等のカルボラン誘導体イオンなどが例示される。
【0077】
上記例示したアニオン種のうち、ヘキサフルオロホスフェートやテトラフルオロボレート等のアニオン種を含む触媒(D)を使用した場合には、アニオン種そのものは熱的に安定で求核性も非常に低いものの、当該アニオン種がEVOH中の水酸基と反応してフッ化水素が発生し、樹脂の熱安定性に悪影響を与えるおそれがある。また、コバルトのカルボラン誘導体イオン等はEVOHと反応することがなく、アニオン種自体も熱的に安定ではあるが、非常に高価である。
【0078】
EVOHと反応することがなく、アニオン種自体も熱的に安定であり、かつ価格も適切なものであることから、触媒(D)のアニオン種としてはスルホン酸イオンが好ましい。好適なスルホン酸イオンとしては、メタンスルホン酸イオン及びトリフルオロメタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオンが例示され、トリフルオロメタンスルホン酸イオンが最適である。
【0079】
触媒(D)のカチオン種として亜鉛イオンを、アニオン種としてトリフルオロメタンスルホン酸イオンをそれぞれ使用した場合の、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応の推定メカニズムを下記式(X)に示す。
【0080】
【化12】
【0081】
すなわち、EVOHの水酸基と金属アルコキシドの形で結合した亜鉛イオンに一価エポキシ化合物(B)のエポキシ基の酸素原子が配位し、6員環遷移状態を経て、エポキシ基が開環すると推定している。ここで、遷移状態における亜鉛イオンの対イオンであるトリフルオロメタンスルホン酸イオンの共役酸が強酸であることによって、亜鉛イオンのルイス酸性が大きくなり、触媒活性が向上する。一方、対イオンとして存在するトリフルオロメタンスルホン酸イオン自体は、EVOHの水酸基あるいは一価エポキシ化合物(B)のエポキシ基と反応することがなく、それ自体熱的に安定であるから、副反応を生じることなく円滑に開環反応が進行する。
【0082】
上述のように、本発明で使用される触媒(D)はその共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンを含むものであることが好適であるが、触媒(D)中の全てのアニオン種が同一のアニオン種である必要はない。むしろ、その共役酸が弱酸であるアニオンを同時に含有するものであることが好ましい。前記式(X)で示されたような反応メカニズムであれば、EVOHが触媒(D)と反応して金属アルコキシドを形成する際にアニオンの一つが共役酸として系内に遊離する。これが強酸であった場合には、一価エポキシ化合物(B)と反応するおそれがあるとともに、EVOHの溶融安定性にも悪影響を及ぼすおそれがある。
【0083】
共役酸が弱酸であるアニオンの例としては、アルキルアニオン、アリールアニオン、アルコキシド、アリールオキシアニオン、カルボキシレート並びにアセチルアセトナート及びその誘導体が例示される。なかでもアルコキシド、カルボキシレート並びにアセチルアセトナート及びその誘導体が好適に使用される。
【0084】
触媒(D)中の金属イオンのモル数に対する、共役酸が硫酸と同等以上の強酸であるアニオンのモル数は、0.2〜1.5倍であることが好ましい。上記モル比が0.2倍未満である場合には触媒活性が不十分となるおそれがあり、より好適には0.3倍以上であり、さらに好適には0.4倍以上である。一方、上記モル比が1.5倍を超えるとEVOHがゲル化するおそれがあり、より好適には1.2倍以下である。前記モル比は最適には1倍である。なお、原料のEVOH(A)が酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩を含む場合には、それと中和されて消費される分だけ、共役酸が硫酸と同等以上の強酸であるアニオンのモル数を増やしておくことができる。
【0085】
触媒(D)の調製方法は特に限定されるものではないが、好適な方法として、周期律表第3〜12族に属する金属の化合物を溶媒に溶解又は分散させ、得られた溶液又は懸濁液に、共役酸が硫酸と同等以上の強酸(スルホン酸等)を添加する方法が挙げられる。原料として用いる周期律表第3〜12族に属する金属の化合物としては、アルキル金属、アリール金属、金属アルコキシド、金属アリールオキシド、金属カルボキシレート、金属アセチルアセトナート等が挙げられる。ここで、周期律表第3〜12族に属する金属の化合物の溶液又は懸濁液に、強酸を加える際には、少量ずつ添加することが好ましい。こうして得られた触媒(D)を含有する溶液は押出機に直接導入することができる。
【0086】
周期律表第3〜12族に属する金属の化合物を溶解又は分散させる溶媒としては有機溶媒、特にエーテル系溶媒が好ましい。押出機内の温度でも反応しにくく、金属化合物の溶解性も良好だからである。エーテル系溶媒の例としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等が例示される。使用される溶媒としては、金属化合物の溶解性に優れ、沸点が比較的低くて押出機のベントでほぼ完全に除去可能なものが好ましい。その点においてジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン及びテトラヒドロフランが特に好ましい。
【0087】
また、上述の触媒(D)の調整方法において、添加する強酸の代わりに強酸のエステル(スルホン酸エステル等)を用いても良い。強酸のエステルは、通常強酸そのものより反応性が低いために、常温では金属化合物と反応しないことがあるが、200℃前後に保った高温の押出機内に投入することにより、押出機内において活性を有する触媒(D)を生成することができる。
【0088】
触媒(D)の調製方法としては、以下に説明する別法も採用可能である。まず、水溶性の周期律表第3〜12族に属する金属の化合物と、共役酸が硫酸と同等以上の強酸(スルホン酸等)とを、水溶液中で混合して触媒水溶液を調製する。なおこのとき、当該水溶液が適量のアルコールを含んでいても構わない。得られた触媒水溶液をEVOH(A)と接触させた後、乾燥することによって触媒(D)が配合されたEVOH(A)を得ることができる。具体的には、EVOH(A)ペレット、特に多孔質の含水ペレットを前記触媒水溶液に浸漬する方法が好適なものとして挙げられる。この場合には、このようにして得られた乾燥ペレットを押出機に導入することができる。
【0089】
触媒(D)を使用する場合には、押出機内の温度は180〜250℃とすることが好ましい。この場合、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)を反応させる際に触媒(D)が存在するために、比較的低温で溶融混練しても、効率良くEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)の反応を進行させることができる。温度が250℃を超える場合にはEVOHが劣化するおそれがあり、より好適には240℃以下である。一方、温度が180℃未満の場合にはEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)の反応が十分に進行しないおそれがあり、より好適には190℃以上である。
【0090】
EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)を反応させる際に触媒(D)を存在させる方法は特に限定されない。好適な方法として、触媒(D)の溶液を調製し、その溶液を押出機内に添加する方法が挙げられる。触媒(D)の溶液の調製方法は前述したとおりである。この方法によれば、後述の別法に比べて生産性が高く、触媒(D)を安定的に供給できるために製品の品質を安定化することもできる。触媒(D)の溶液を押出機に導入する位置は特に限定されないが、EVOH(A)が完全に溶融している場所で添加することが、均一に配合できて好ましい。特に、一価エポキシ化合物(B)を添加する場所と同じ場所又はその近傍で添加することが好ましい。触媒(D)と一価エポキシ化合物(B)をほぼ同時に配合することにより、ルイス酸である触媒(D)の影響によるEVOH(A)の劣化を最小限に抑制することができるとともに、十分な反応時間を確保できるからである。したがって、触媒(D)の溶液と一価エポキシ化合物(B)とを混合した液を予め作成しておいて、それを一箇所から押出機中に添加することが最適である。
【0091】
溶融混練時に触媒(D)を存在させる別の方法として、EVOH(A)の含水ペレットを触媒(D)の溶液に浸漬した後、乾燥させる方法が挙げられる。この方法については、触媒(D)の調製方法の別法として前述したとおりである。この場合には、得られた乾燥ペレットがホッパーから押出機内に導入されることになる。但し、高価な触媒が廃液として処理されることになりコストアップに繋がりやすい点が問題である。また更に別の方法としては、乾燥後のペレットに、液体状態の触媒を含浸させるか、固体状態の触媒を混合するかした後、必要に応じて乾燥させる方法が挙げられる。この方法においては、工程数が増えることからコストアップに繋がりやすい点が問題であるとともに、触媒を均一に配合することも必ずしも容易ではない。また、上記いずれの別法においても、一価エポキシ化合物(B)が存在せず、ルイス酸である触媒(D)のみが存在する状態で溶融混練される際に、EVOH(A)が劣化するおそれがある。
【0092】
上述のように、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを、触媒(D)の存在下に押出機中で溶融混練することが好適であるが、その後で触媒失活剤(E)を添加して更に溶融混練することがより好ましい。触媒(D)を失活させなかった場合には、得られる変性EVOH(C)の耐久性が悪化するおそれがあり、用途によっては使用に問題をきたす可能性がある。
【0093】
使用される触媒失活剤(E)は、触媒(D)のルイス酸としての働きを低下させるものであればよく、その種類は特に限定されない。好適にはアルカリ金属塩が使用される。その共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンを含む触媒(D)を失活させるには、当該アニオンの共役酸よりも弱い酸のアニオンのアルカリ金属塩を使用することが必要である。こうすることによって、触媒(D)を構成する周期律表第3〜12族に属する金属のイオンの対イオンが弱い酸のアニオンに交換され、結果として触媒(D)のルイス酸性が低下するからである。触媒失活剤(E)に使用されるアルカリ金属塩のカチオン種は特に限定されず、ナトリウム塩、カリウム塩及びリチウム塩が好適なものとして例示される。またアニオン種も特に限定されず、カルボン酸塩、リン酸塩及びホスホン酸塩が好適なものとして例示される。
【0094】
触媒失活剤(E)として、例えば酢酸ナトリウムやリン酸一水素二カリウムのような塩を使用しても変性EVOH(C)の耐久性はかなり改善されるが、用途によっては未だ不十分である場合がある。この原因は、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンにルイス酸としての働きがある程度残存しているため、変性EVOH(C)の分解に対して触媒として働くためであると考えられる。この点をさらに改善する方法として、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンに強く配位するキレート化剤を添加することが好ましい。このようなキレート化剤は当該金属のイオンに強く配位できる結果、そのルイス酸性をほぼ完全に失わせることができ、耐久性に優れた変性EVOH(C)を与えることができる。また、当該キレート化剤がアルカリ金属塩であることによって、前述のように触媒(D)に含まれるアニオンの共役酸である強酸を中和することもできる。
【0095】
触媒失活剤(E)として使用されるキレート化剤として、好適なものとしては、オキシカルボン酸塩、アミノカルボン酸塩、アミノホスホン酸塩などが挙げられる。具体的には、オキシカルボン酸塩としては、クエン酸二ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、リンゴ酸二ナトリウム等が例示される。アミノカルボン酸塩としては、ニトリロ三酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸三ナトリウム、1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン二酢酸一ナトリウム、N−(ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸一ナトリウム等が例示される。アミノホスホン酸塩としては、ニトリロトリスメチレンホスホン酸六ナトリウム、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)八ナトリウム等が例示される。なかでもポリアミノポリカルボン酸が好適であり、性能やコストの面からエチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩が最適である。エチレンジアミン四酢酸三ナトリウムを使用した場合の推定反応メカニズムを下記式(XI)に示す。
【0096】
【化13】
【0097】
触媒失活剤(E)の添加量は特に限定されず、触媒(D)に含まれる金属イオンの種類や、キレート剤の配位座の数等により適宜調整されるが、触媒(D)に含まれる金属イオンのモル数に対する触媒失活剤(E)のモル数の比(E/D)が0.2〜10となるようにすることが好適である。比(E/D)が0.2未満の場合には、触媒(D)が十分に失活されないおそれがあり、より好適には0.5以上、さらに好適には1以上である。一方、比(E/D)が10を超える場合には、得られる変性EVOH(C)が着色するおそれがあるとともに、製造コストが上昇するおそれがあり、より好適には5以下であり、さらに好適には3以下である。
【0098】
触媒失活剤(E)を押出機へ導入する方法は特に限定されないが、均一に分散させるためには、溶融状態の変性EVOH(C)に対して、触媒失活剤(E)の溶液として導入することが好ましい。触媒失活剤(E)の溶解性や、周辺環境への影響などを考慮すれば、水溶液として添加することが好ましい。
【0099】
触媒失活剤(E)の押出機への添加位置は、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを、触媒(D)の存在下に溶融混練した後であればよい。しかしながら、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と一価エポキシ化合物(B)とを、触媒(D)の存在下に溶融混練し、未反応の一価エポキシ化合物(B)を除去した後に触媒失活剤(E)を添加することが好ましい。前述のように、触媒失活剤(E)を水溶液として添加する場合には、未反応の一価エポキシ化合物(B)を除去する前に触媒失活剤(E)を添加したのでは、ベント等で除去して回収使用する一価エポキシ化合物(B)の中に水が混入することになり、分離操作に手間がかかるからである。なお、触媒失活剤(E)の水溶液を添加した後で、ベント等によって水分を除去することも好ましい。
【0100】
本発明の製造方法において、触媒失活剤(E)を使用する場合の好適な製造プロセスとしては、
(1)EVOH(A)の溶融工程;
(2)一価エポキシ化合物(B)と触媒(D)の混合物の添加工程;
(3)未反応の一価エポキシ化合物(B)の除去工程;
(4)触媒失活剤(E)水溶液の添加工程;
(5)水分の減圧除去工程;
の各工程からなるものが例示される。
【0101】
変性EVOH(C)は、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを0.1〜20μmol/g含有することが好ましい。かかる金属のイオンは、前述の製造方法において触媒(D)を使用した際の触媒残渣として含有され得るものであり、その好適な金属のイオンの種類については、前述の触媒(D)の説明のところで述べたとおりである。より好適には0.5μmol/g以上である。また、より好適には10μmol/g以下である。
【0102】
また、変性EVOH(C)は、スルホン酸イオンを含有することが好適である。かかるスルホン酸イオンは、前述の製造方法において触媒(D)を使用した際の触媒残渣として含有され得るものであり、その好適なスルホン酸イオンの種類については、前述の触媒(D)の説明のところで述べたとおりである。スルホン酸イオンの含有量は0.1〜20μmol/gであることが好適である。より好適には0.5μmol/g以上である。また、より好適には10μmol/g以下である。
【0103】
さらに、変性EVOH(C)中のアルカリ金属イオンの含有量がスルホン酸イオンの含有量の1〜50倍(モル比)であることが好適である。アルカリ金属イオンは、前述の製造方法において触媒失活剤(E)を使用した際の残渣として含有され得るとともに、原料のEVOH(A)に由来して含有され得るものである。当該アルカリ金属イオンの含有量がスルホン酸イオンの含有量の1倍未満である場合には、製造工程において、触媒(D)の失活が十分に行われておらず、変性EVOH(C)の熱安定性に問題を生じる場合があり、より好適には2倍以上である。一方、アルカリ金属イオンの含有量がスルホン酸イオンの含有量の50倍を超える場合には、変性EVOH(C)が着色するおそれがあり、好適には30倍以下である。
【0104】
変性EVOH(C)には、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、カルボン酸及びリン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を、EVOH(A)とエポキシ化合物(B)との反応によって変性EVOH(C)が得られた後に添加することもできる。一般に、接着性の改善や着色の抑制など、EVOHの各種物性を改善するために、EVOHには必要に応じてアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、カルボン酸及びリン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種が添加されることが多い。しかしながら、上記に示した各種化合物の添加は、前述の通り、押出機によるEVOH(A)とエポキシ化合物(B)との反応の際に、着色や粘度低下等の原因となるおそれがある。このため、EVOH(A)とエポキシ化合物(B)との反応後に、残存するエポキシ化合物(B)をベントで除去した後、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、カルボン酸及びリン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を、得られた変性EVOH(C)に添加することが好ましい。この添加方法を採用することにより、着色や粘度低下等の問題を生じることなく、変性EVOH(C)が得られる。
【0105】
こうして得られた変性EVOH(C)の融点は160℃以下であることが好ましい。融点が低下するほど結晶性も低下するが、それによって溶液を保存している間に結晶が成長することがなく、放置安定性が改善される。より好適には150℃以下であり、さらに好適には140℃以下である。
【0106】
本発明の溶液は、このようにして得られた変性EVOH(C)を含有するものである。本発明の溶液で使用される溶媒としては、変性EVOH(C)を溶解することができれば、特に限定されず、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール;ジメチルスルホキシド等のジアルキルスルホキシド、ジメチルフォルムアミド等のアミドや、これらと水の混合溶媒が好適に使用される。
【0107】
なかでも、アルコールと水の混合溶媒を使用することが溶解性や経済性の観点から特に好ましい。このとき水と混合されて使用されるアルコールとしては、炭素数4以下の脂肪族アルコールが、溶解性、溶解温度、揮発性(乾燥速度)、経済性等の見地から好ましく選択される。炭素数4以下の脂肪族アルコールのうちでも、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール及びtert−ブチルアルコールが特に好適に使用され、n−プロピルアルコールが最適である。このとき、これらのアルコールは、その二種類以上を同時に使用しても良い。
【0108】
アルコールと水との配合比は特に限定されるものではなく、アルコールの種類、変性EVOH(C)の組成、変性EVOH(C)の濃度、コーティング条件(温度等)、用途などに対応して適宜調整される。通常、混合溶媒中のアルコールの濃度は1〜99重量%の範囲を採用できる。溶解性や溶液の放置安定性の観点からは、アルコールの含有量は40重量%以上であることが好適であり、50重量%以上であることがより好ましい。また、同様の理由から、アルコールの含有量は90重量%以下であることが好適であり、80重量%以下であることがより好ましい。このとき、アルコールの残余の成分は水である。
【0109】
本発明の溶液中の変性EVOH(C)含有量は1〜50重量%であることが好適である。1重量%より少なくなると溶媒の使用量が増加して経済的に不利となるし、塗工厚みを厚くしにくくなるおそれもある。好適には5重量%以上であり、より好適には10重量%以上である。本発明の変性EVOH(C)は、濃度が高い場合においても結晶化しにくく、放置安定性が良好であるから、高濃度の溶液として使用することが好適である。一方、変性EVOH(C)の含有量が50重量%を超えると、溶液粘度が高くなりすぎて塗工しにくくなるおそれがある上に、溶液の放置安定性が十分でなくなるおそれもある。好適には40重量%以下であり、より好適には30重量%以下である。
【0110】
また、本発明の溶液が、さらに上記構造単位(I)を含有しないエチレン含有量5〜55モル%のEVOH(F)を含むことも好適である。EVOH(F)を配合することで、得られる塗膜のガスバリア性が向上する。また、変性EVOH(C)は未変性のEVOH(F)に比べて製造コストが高いことから、経済的にも有利である。ここで使用されるEVOH(F)としては、変性EVOH(C)の原料として使用される前述のEVOH(A)と同じものが使用できるが、変性EVOH(C)の組成や、用途などによって適宜選択される。
【0111】
このとき、変性EVOH(C)及びEVOH(F)の合計含有量が1〜50重量%であることが好適である。前記合計含有量が1重量%より少なくなると溶媒の使用量が増加して経済的に不利となるし、塗工厚みを厚くしにくくなるおそれもある。好適には5重量%以上であり、より好適には10重量%以上である。一方、前記合計含有量が50重量%を超えると、溶液粘度が高くなりすぎて塗工しにくくなるおそれがある上に、溶液の放置安定性が十分でなくなるおそれもある。好適には40重量%以下であり、より好適には30重量%以下である。
【0112】
溶液中に含有される変性EVOH(C)とEVOH(F)の重量比(C/F)は通常1/99〜99/1である。重量比(C/F)は好適には5/95以上であり、より好適には10/90以上である。一方、重量比(C/F)は好適には70/30以下であり、より好適には50/50以下である。EVOH(F)に対して、比較的少量の変性EVOH(C)を配合するだけでも、溶液の放置安定性を効果的に改善することが可能である。
【0113】
本発明の溶液には、必要に応じて各種の添加剤を配合することもできる。このような添加剤の例としては、界面活性剤、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー、可溶性無機塩あるいは他の高分子化合物を挙げることができ、これらを本発明の作用効果が阻害されない範囲で配合することができる。
【0114】
このようにして得られた本発明の溶液は、好適にはコーティング剤として使用される。溶液を各種基材にコーティングする方法としては、キャスティングヘッドからの吐出、ロールコート、ドクターナイフコート、スプレーコート浸漬、刷毛塗りなど、任意の手段を採用できる。コーティング後、塗膜は乾燥され、さらに必要に応じて熱処理される。ここで乾燥条件は、塗膜厚等により異なるが、温度は50℃〜130℃、時間10秒〜10分が好ましい。また、熱処理条件としては、温度100〜150℃、時間10秒〜10分が好ましい。塗膜の厚さ(ドライベース)は0.5〜20μm、好適には1〜15μmである。0.5μm以下では十分なガスバリア性が得られないおそれがあり、一方、20μmを超えたのでは、目的とする膜厚の被膜を得るために塗布回数を増す等の操作が必要となり、生産性が低下するおそれがある。
【0115】
本発明の溶液は、放置安定性に優れているために、溶液を調整してからコーティングするまでに、長時間放置していても白濁しにくい。したがって、室温下で輸送することも可能であるし、コーティング直前に加熱する操作も通常必要がない。こうして得られた塗膜は、透明性、ガスバリア性及び柔軟性に優れる。これに対し、未変性のEVOH溶液では保存中にしばしば白濁するが、それをそのまま塗布したのでは、ガスバリア性の低下が著しいし、得られる塗膜にも曇りが生じることになる。
【0116】
本発明のコーティング剤が塗布される基材は、特に限定されず、樹脂、金属、紙、木材などが例示される。中でも、樹脂、特に熱可塑性樹脂からなる基材に塗布することが好ましい。このような熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。また、各種の共重合体を使用することもできる。上記基材に本発明のコーティング剤を塗布することによって、変性EVOH(C)からなる層がその表面に形成された多層構造体が形成される。
【0117】
本発明のコーティング剤を前記基材にコーティングする場合、基材のコーティング面は、コロナ処理などの物理的処理(例えば、基材がポリエチレンなどのポリオレフィンである場合、該フィルム等の表面張力が37〜45dyne/cmとなる程度に施す。)を行ったり、ポリウレタン系のアンカーコート剤を塗布したりして、接着性を向上させる処理を施すことが、基材面とコーティング層との接着をより確実にするために好ましい。
【0118】
本発明のコーティング剤は、各種基材に塗布されて、変性EVOH(C)の有するガスバリア性、保香性及び耐油性を利用した各種分野に広く使用される。特に、食品、飲料、薬品、医薬品などを内容物とする包装材(フィルム、シート、容器等)の表面へのコーティング剤として有用である。また、本発明の変性EVOH(C)は柔軟性、耐屈曲性に優れるので、フレキシブルな基材に対して塗布することが好ましい。したがって、フィルムやシートに対してコーティングすることが好適であり、得られたフィルムはフレキシブルパウチなどとして好適に使用される。また、本発明の変性EVOH(C)は延伸性にも優れるので、コーティングした後で延伸操作を施す場合にも好適である。例えば、延伸フィルムや熱成形容器として好適に使用される。また、本発明のコーティング材は、可塑剤を含有する軟質ポリ塩化ビニル樹脂からなる壁紙、カードケース、デスクマットなどの表面コーティング材料としても有用である。この場合、本発明のコーティング材料は軟質ポリ塩化ビニル樹脂からの可塑剤のブリーディングを防止し、さらに表面の汚れを防止する機能を有する。
【0119】
【実施例】
以下、実施例にて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例によって本発明は何ら限定されるものではない。EVOH(A)、変性EVOH(C)及びEVOH(F)に関する分析は以下の方法に従って行った。
【0120】
(1)EVOH(A)及びEVOH(F)のエチレン含有量及びケン化度
重水素化ジメチルスルホキシドを溶媒とした1H−NMR(核磁気共鳴)測定(日本電子社製「JNM−GX−500型」を使用)により得られたスペクトルから算出した。
【0121】
(2)EVOH(A)の固有粘度
試料とする乾燥EVOH(A)からなる乾燥ペレット0.20gを精秤し、これを含水フェノール(水/フェノール=15/85:重量比)40mlに60℃にて3〜4時間加熱溶解させ、温度30℃にて、オストワルド型粘度計にて測定し(t0=90秒)、下式により固有粘度[η]を求めた。
[η]=(2×(ηsp−lnηrel))1/2/C (L/g)
ηsp= t/ t0−1 (specific viscosity)
ηrel= t/ t0 (relative viscosity)
C ;EVOH濃度(g/L)
t0:ブランク(含水フェノール)が粘度計を通過する時間
t:サンプルを溶解させた含水フェノール溶液が粘度計を通過する時間
【0122】
(3)EVOH(A)及びEVOH(F)中の酢酸の含有量の定量
試料とするEVOHの乾燥ペレット20gをイオン交換水100mlに投入し、95℃で6時間加熱抽出した。抽出液をフェノールフタレインを指示薬として、1/50規定のNaOHで中和滴定し、酢酸の含有量を定量した。
【0123】
(4)EVOH(A)、変性EVOH(C)及びEVOH(F)中のNaイオン、Kイオン、Mgイオン及びCaイオンの定量
試料とするEVOH又は変性EVOH(C)の乾燥ペレット10gを0.01規定の塩酸水溶液50mlに投入し、95℃で6時間撹拌した。撹拌後の水溶液をイオンクロマトグラフィーを用いて定量分析し、Na、K、Mg、Caイオンの量を定量した。カラムは、(株)横河電機製のICS−C25を使用し、溶離液は5.0mMの酒石酸と1.0mMの2,6−ピリジンジカルボン酸を含む水溶液とした。なお、定量に際してはそれぞれ塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液及び塩化カルシウム水溶液で作成した検量線を用いた。
【0124】
(5)EVOH(A)、変性EVOH(C)及びEVOH(F)中のリン酸イオン及びトリフルオロメタンスルホン酸イオンの定量
試料とするEVOH又は変性EVOH(C)の乾燥ペレット10gを0.01規定の塩酸水溶液50mlに投入し、95℃で6時間撹拌した。撹拌後の水溶液をイオンクロマトグラフィーを用いて定量分析し、リン酸イオン及びトリフルオロメタンスルホン酸イオンの量を定量した。カラムは、(株)横河電機製のICS−A23を使用し、溶離液は2.5mMの炭酸ナトリウムと1.0mMの炭酸水素ナトリウムを含む水溶液とした。なお、定量に際してはリン酸二水素ナトリウム水溶液及びトリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム水溶液で作成した検量線を用いた。
【0125】
(6)変性EVOH(C)中の亜鉛イオン及びイットリウムイオンの定量
試料とする変性EVOH(C)乾燥ペレット10gを0.01規定の塩酸水溶液50mlに投入し、95℃で6時間撹拌した。撹拌後の水溶液をICP発光分析により分析した。装置はパーキンエルマー社のOptima4300DVを用いた。測定波長は亜鉛イオンの測定においては206.20nmを、イットリウムイオンの測定においては360.07nmをそれぞれ用いた。なお、定量に際しては市販の亜鉛標準液及びイットリウム標準液をそれぞれ使用して作成した検量線を用いた。
【0126】
(7)EVOH(A)、変性EVOH(C)及びEVOH(F)の融点
EVOH及び変性EVOH(C)の融点は、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量計(DSC)RDC220/SSC5200H型を用い、JIS K7121に基づいて測定した。但し、温度の校正にはインジウムと鉛を用いた。
【0127】
(8)EVOH(A)、変性EVOH(C)及びEVOH(F)のメルトフローレート(MFR):
メルトインデクサーL244(宝工業株式会社製)を用いて測定した。具体的には、測定する樹脂{EVOH(A)、変性EVOH(C)、EVOH(F)、あるいは樹脂組成物}のチップを、内径9.55mm、長さ162mmのシリンダーに充填し、190℃で溶融した後(実施例10は210℃で溶融)、溶融した樹脂に対して、重さ2160g、直径9.48mmのプランジャーによって均等に荷重をかけ、シリンダーの中央に設けた径2.1mmのオリフィスより押出された樹脂の流出速度(g/10分)を測定し、これをメルトフローレート(MFR)とした。
【0128】
合成例1
亜鉛アセチルアセトナート一水和物28重量部を、1,2−ジメトキシエタン957重量部と混合し、混合溶液を得た。得られた前記混合液に、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸15重量部を添加し、触媒(D)を含む溶液を得た。すなわち、亜鉛アセチルアセトナート一水和物1モルに対して、トリフルオロメタンスルホン酸1モルを混合した溶液を調製した。
【0129】
エチレン含有量32モル%、ケン化度99.6%、固有粘度0.0882L/gのエチレン−ビニルアルコール共重合体からなる含水ペレット(含水率:130%(ドライベース))100重量部を、酢酸0.1g/L、リン酸二水素カリウム0.044g/Lを含有する水溶液370重量部に、25℃で6時間浸漬・攪拌した。得られたペレットを105℃で20時間乾燥し、乾燥EVOHペレットを得た。前記乾燥EVOHペレットのカリウム含有量は8ppm(金属元素換算)、酢酸含有量は53ppm、リン酸化合物含有量は20ppm(リン酸根換算値)であり、アルカリ土類金属塩(Mg塩又はCa塩)含有量は0ppmであった。また、前記乾燥ぺレットのMFRは8g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。このようにして得られたEVOHを、EVOH(A)として用いた。また、分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)としてエポキシプロパンを用いた。
【0130】
東芝機械社製TEM−35BS押出機(37mmφ、L/D=52.5)を使用し、図1に示すようにスクリュー構成及びベント及び圧入口を設置した。バレルC1を水冷し、バレルC2〜C15を200℃に設定し、スクリュー回転数250rpmで運転した。C1の樹脂フィード口から上記EVOH(A)を11kg/hrの割合で添加し、ベント1を内圧60mmHgに減圧し、C8の圧入口1からエポキシプロパンが1.5kg/hrの割合で、また上記の方法で作製した触媒(D)溶液が0.22kg/hrの割合で添加されるように、両者を混合してからフィードした(フィード時の圧力:3MPa)。ついで、ベント2から、常圧で未反応のエポキシプロパンを除去した後、触媒失活剤(E)として、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム三水和物8.2重量%水溶液を、C13の圧入口2から0.11kg/hrの割合で添加した。
【0131】
上記溶融混練操作における、一価エポキシ化合物(B)の混合割合は、EVOH(A)100重量部に対して13.6重量部であった。EVOH(A)の重量に対する金属イオンのモル数で2μmol/gの触媒(D)が添加された。触媒(D)に含まれる金属イオンのモル数に対する触媒失活剤(E)のモル数の比(E/D)は1であった。
【0132】
ベント3を内圧20mmHgに減圧し、水分を除去して、変性EVOH(C)を得た。得られた変性EVOH(C)のMFRは7g/10分(190℃、2160g荷重下)であり、融点は132℃であった。また、亜鉛イオン含有量は120ppm(1.9μmol/g)であり、アルカリ金属塩含有量は金属元素換算で138ppm(5.9μmol/g)[ナトリウム:130ppm(5.7μmol/g)、カリウム:8ppm(0.2μmol/g)]であり、トリフルオロメタンスルホン酸イオンの含有量は280ppm(1.9μmol/g)であった。アルカリ金属イオンの含有量は、トリフルオロメタンスルホン酸イオンの含有量の3.1倍(モル比)であった。
【0133】
こうして得られた、エポキシプロパンで変性された変性EVOH(C)の化学構造については、以下の手順に従って変性EVOH(C)をトリフルオロアセチル化した後にNMR測定を行うことによって求めた。
【0134】
上記作製した変性EVOH(C)を粒子径0.2mm以下に粉砕した後、この粉末1gを100mlナスフラスコに入れ、塩化メチレン20g及び無水トリフルオロ酢酸10gを添加し、室温で攪拌した。攪拌開始から1時間後、前記変性EVOH(C)は完全に溶解した。前記変性EVOH(C)が完全に溶解してからさらに1時間攪拌した後、ロータリーエバポレーターにより溶媒を除去した。得られたトリフルオロアセチル化された変性EVOH(C)を2g/Lの濃度で重クロロホルムと無水トリフルオロ酢酸の混合溶媒(重クロロホルム/無水トリフルオロ酢酸=2/1(重量比))に溶解し、テトラメチルシランを内部標準として500MHz1H-NMRを測定した。NMR測定チャートを図2に示す。
【0135】
エポキシプロパン変性された変性EVOH(C)中の化学構造について、以下の各構造単位の含有量を求めた。
w:エチレン含有量(モル%)
x:未変性のビニルアルコール単位の含有量(モル%)
y:下記式(XVI)で表される構造単位(モル%)
z:下記式(XVII)で表される構造単位(モル%)
【0136】
【化14】
【0137】
【化15】
【0138】
上記w〜zの間で、下記式(1)〜(4)で示される関係が成り立つ。
4w+2x+5y+5z=A (1)
3y+2z=B (2)
2z=C (3)
x+y=D (4)
ただし、上記式(1)〜(4)中、A〜Dは、それぞれ変性EVOH(C)の1H-NMR測定における下記範囲のシグナルの積分値である。
A:δ1.1〜2.5ppmのシグナルの積分値
B:δ3.1〜4ppmのシグナルの積分値
C:δ4.1〜4.6ppmのシグナルの積分値
D:δ4.8〜5.6ppmのシグナルの積分値
【0139】
上記式(1)〜(4)から、変性EVOH(C)のエチレン含有量が以下のように求められる。
変性EVOH(C)のエチレン含有量(モル%)
={w/(w+x+y+z)}×100
={(2A−2B−3C−4D)/(2A−2B+C+4D)}×100
同様に、変性EVOH(C)の構造単位(I)の含有量が以下のように求められる。
変性EVOH(C)の構造単位(I)の含有量(モル%)
={(y+z)/(w+x+y+z)}×100
={(8B+4C)/(6A−6B+3C+12D)}×100
本合成例1で作製した変性EVOH(C)のエチレン含有量は32モル%であり、構造単位(I)の含有量は5.5モル%であった。
【0140】
実施例1
合成例1で得られた変性EVOH(C)を、n−プロピルアルコール/水(混合重量比65/35)に溶解させ、変性EVOH(C)を15重量%含有する溶液を調製した。調整後20℃、65%RHの環境下に1日間放置しておいた溶液以下の塗工試験に使用した。
【0141】
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに、バーコーターを使用し、ポリエステル系アンカーコート剤(製造会社:東洋モートン株式会社、銘柄AD−335A)を固形分量で1g/m2塗布した。引き続き上記変性EVOH(C)溶液をバーコーターで塗布してから、60℃の熱風乾燥機で3分間乾燥した。得られた変性EVOH(C)層の厚みは5μmであった。得られたコートフィルムは白化や曇りがなく、非常に透明で美麗であった。
【0142】
上記変性EVOH(C)溶液の放置安定性を以下に示す方法にしたがって評価した。また、得られたコートフィルムの酸素透過速度を以下に示す方法にしたがって測定した。
【0143】
(9)溶液の放置安定性
溶液を20℃、65%RHの環境下に放置した。放置した溶液の400nmにおける透過率を、日立製作所製スペクトロフォトメーター228Aを使用して測定し、実質的に透過率が0%となるまでの日数を評価した。
【0144】
(10)コートフィルムの酸素透過速度
コートフィルムを、20℃、65%RHの環境下で5日間、調湿した。調湿後のコートフィルムの酸素透過速度を、モダンコントロール社製 MOCON OX−TRAN2/20型を用い、20℃、65%RHの条件下で、JIS K7126(等圧法)に記載の方法に準じて測定した。測定に際しては、2枚の試料を準備して、その平均値を、コート層の厚み20μm換算の値として(cc・20μm/m2・day・atm)を求めた。なお、基材のポリエチレンテレフタレートフィルムの酸素透過速度は変性EVOH(C)あるいはEVOH(F)と比べてはるかに大きいので、無視することが可能である。
【0145】
本実施例の変性EVOH(C)溶液は、10日以上の間実質的に透過率が0%とならなかった。また、酸素透過速度は1.5cc・20μm/m2・day・atmであり、良好なガスバリア性を示した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0146】
実施例2
合成例1で得られた変性EVOH(C)と、エチレン含有量32モル%、ケン化度99.9%、メルトフローレート(190℃、2160g荷重)1.6g/10分、融点183℃のEVOH(F)をn−プロピルアルコール/水(混合重量比65/35)に溶解させ、変性EVOH(C)を3重量%とEVOH(F)を12重量%含有する溶液を調製した。変性EVOH(C)とEVOH(F)の重量比(C/F)は20/80である。
【0147】
得られた溶液を用いて、実施例1と同様にコートフィルムを作製したところ、白化や曇りがなく非常に透明で美麗なコートフィルムが得られた。溶液の放置安定性とコートフィルムの酸素透過速度を実施例1と同様に評価した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0148】
実施例3
合成例1で得られた変性EVOH(C)と、実施例2で使用したEVOH(F)をn−プロピルアルコール/水(混合重量比65/35)に溶解させ、変性EVOH(C)を7.5重量%とEVOH(F)を7.5重量%含有する溶液を調製した。変性EVOH(C)とEVOH(F)の重量比(C/F)は50/50である。
【0149】
得られた溶液を用いて、実施例1と同様にコートフィルムを作製したところ、白化や曇りがなく非常に透明で美麗なコートフィルムが得られた。溶液の放置安定性とコートフィルムの酸素透過速度を実施例1と同様に評価した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0150】
比較例1
実施例2で使用したEVOH(F)のみをn−プロピルアルコール/水(混合重量比65/35)に溶解させ、EVOH(F)を15重量%含有する溶液を調製した。
【0151】
得られた溶液を用いて、実施例1と同様にコートフィルムを作製したところ、曇りが認められて外観が不良であった。溶液の放置安定性とコートフィルムの酸素透過速度を実施例1と同様に評価した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0152】
【表1】
【0153】
表1に示されるように、変性EVOH(C)を含有する実施例1〜3の溶液は、放置安定性に優れ、外観の良好塗膜を形成でき、しかもそのガスバリア性も良好であった。これに対し、未変性のEVOH(F)のみを含有する比較例1の溶液は、放置安定性、外観及びガスバリア性のいずれについても劣っている。実施例1〜3において、未変性のEVOH(F)の配合量が増加するにしたがって放置安定性が低下し、ガスバリア性が向上する傾向が認められるので、要求性能に応じて適宜調整することが可能である。
【0154】
【発明の効果】
本発明の溶液は放置安定性が良好で、得られる塗膜のガスバリア性や外観も良好である。当該溶液は、コーティング剤として好適に使用することができ、該コーティング剤を基材上に塗布してなる多層構造体は、各種の包装材料などに好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】合成例1において変性EVOH(C)を製造するために使用した押出機の構成の模式図である。
【図2】合成例1で得られた変性EVOH(C)の1H−NMRチャートを示す図である。
Claims (7)
- 構造単位(I)の含有量が0.3〜25モル%である請求項1記載のコーティング剤。
- 変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)の含有量が1〜50重量%である請求項1又は2記載のコーティング剤。
- 溶媒がアルコールと水の混合溶媒である請求項1〜3のいずれか記載のコーティング剤。
- さらに、上記構造単位(I)を含有しないエチレン含有量5〜55モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(F)を含んでなる請求項1〜4のいずれか記載のコーティング剤。
- 変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)及びエチレン−ビニルアルコール共重合体(F)の合計含有量が1〜50重量%である請求項5記載のコーティング剤。
- 請求項1〜6のいずれか記載のコーティング剤を基材上に塗布してなる多層構造体。
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