JP3975676B2 - SiGe多結晶 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱電素子材料として好適に用いられるシリコンゲルマニウム(SiGe)結晶及び該SiGe結晶を用いる熱電素子に関する。
【0002】
【背景技術】
P型半導体材料とN型半導体材料を2ヶ所で接合させ、その2ヶ所の接合部位の間に温度差を与えると、いわゆるゼーベック効果によって、この2ヶ所の接合部位の間に熱起電力が発生する。
この原理を応用した熱電素子は、可動部分が無く構造が簡単であるため、これを用いて、信頼性が高く又高寿命かつ保守の容易なエネルギー直接変換システムを構成しうる可能性が高い。そのために、従来から種々の熱電素子材料が製造開発されてきている。
【0003】
その中でもSiGeは化学的に安定で代表的な熱電素子材料として知られており、その性能の改良や製造法について従来より多くの提案がなされている。〔特許文献1(特許文献2、特許文献3)、特許文献4、特許文献5〕。
【0004】
熱電素子の性能の指標である性能指数Zは次の式(1)で与えられる。
Z=α2 σ/K.........(1)
〔式(1)中、α:ゼーベック係数、σ:電気伝導度、K:熱伝導度である。〕
【0005】
各種の熱電素子材料の性能指数Zは、温度との関係で、図7のように表わされる。図7から明らかなように、従来の製造法によって得られたSiGe多結晶体の場合は、実用温度領域といわれる200℃以上、特に600℃迄の領域では、例えば、テルル系材料のBi2 Te3 やPbTeに比較して性能指数Zが劣ることが実用上の弱点であった。
【0006】
このため、この性能指数Zを向上させるために材料中の伝導電子やホールの濃度を上げて電気伝導度を高めるためにP型材料にはB、Al、Ga等のIII 族の元素を、N型材料はP、As、Sb等のV族の元素をドーパーントとして添加することや又特許文献1特許文献4に開示されるように、Pb、Sn、Fe、Ni、Cr等の金属やこれらの硅化物を添加することが試みられてきた。
【0007】
これらの改良によって、SiGeの性能指数Zは向上したが、実用化のためにはさらに一段の性能指数の向上が求められている。
【0008】
この他、従来のSiGeインゴットは、構成成分となるSiとGe及びドーパント等の添加物の所定量を混合後溶解してできるだけ均一な組成とした後冷却する鋳込法又はブリッジマン法や、混合物を粉末焼結法によって製造するため、得られるインゴットは結晶粒子の集合凝結体である。
【0009】
このため、本格的な実用化を防げる次のような障害(1)〜(3)が生じていた。(1)結晶粒界におけるキャリヤの散乱が避けられず電気伝導度の向上が妨げられる。(2)実用温度域である200℃以上、特に500℃以上の高温度熱源に近い部分において粒界偏析が生じ、特性が時間と共に劣化する。(3)組成の局所的な不均質が避けられないため、このことによる特性の一層の低下が生じたり、加工中、使用中におけるクラックの発生も起こり易い。
【0010】
【特許文献1】
特開昭61−149453号公報
【特許文献2】
米国特許第4711971号
【特許文献3】
欧州特許第185499号
【特許文献4】
特開平8−56020号公報
【特許文献5】
特許第2623172号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、上記した従来の製造法による多結晶状のSiGeの問題点に鑑み、鋭意研究を重ねたところ、SiGe結晶ブロックを構成する結晶粒子の大きさを増大させることによって、上記した問題点を解決し実用化可能なSiGe熱電素子を実現できることを着想し、その方法を実際に種々検討した結果、チョクラルスキー法によってSix Ge1-x (0<x<1)のxのほぼ全域に亘って結晶粒子の大きさが5×10-5mm3 以上のSiGe結晶インゴットを作成することに成功し、本発明に到達した。
本発明は、熱電素子としての性能指数の向上と加工性に優れ、使用中における特性劣化やクラックの生じないSiGe結晶材料を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明のSiX Ge1-X (0<x<1)結晶の第1の態様は、結晶を構成する結晶粒の大きさが5×10-5mm3 以上及びゼーベック係数の値の絶対値が100〜700μV/Kの範囲であることを特徴とする。
【0013】
本発明のSiX Ge1-X (0<x<1)結晶の第2の態様は、結晶を構成する結晶粒の大きさが5×10-5mm3 以上及び熱伝導度の値が1〜20W/m・Kの範囲であることを特徴とする。
【0014】
本発明のSiX Ge1-X (0<x<1)結晶の第3の態様は、結晶を構成する結晶粒の大きさが5×10-5mm3 以上及び電気伝導度の値が101〜105 /Ω・mの範囲であることを特徴とする。
【0015】
本発明のSiX Ge1-X (0<x<1)結晶の第4の態様は、結晶を構成する結晶粒の大きさが5×10-5mm3 以上、ゼーベック係数の値の絶対値が100〜700μV/Kの範囲、熱伝導度の値が1〜20W/m・Kの範囲及び電気伝導度の値が101〜105 /Ω・mの範囲であることを特徴とする。
【0016】
上記したSiX Ge1-X (0<x<1)結晶は、引上法によって作成されるのが好適である。
【0017】
上記SiX Ge1-X (0<x<1)結晶において、xの値が0.6以上0.8以下であるのが好適である。
【0018】
上記SiX Ge1-X (0<x<1)の結晶に対して、B、Al又はGaのうちのいずれかの元素を添加することによってP型熱電材料とすることができる。
【0019】
上記SiX Ge1-X (0<x<1)の結晶に対して、P、As又はSbのいずれかの元素を添加することによってN型熱電材料とすることができる。
0020
本発明の熱電素子は、上記したSiX Ge1-X (0<x<1)の結晶を用いることを特徴とするものである。
0021
Six Ge1-x (0<x<1)結晶インゴットを構成する結晶の粒度を増大させると、強度が向上し、特に熱電素子を使用する高温において高い強度が維持されるため、素子の使用環境下においても機械的に安定で、したがって、素子の劣化を抑制することが出来る。
0022
【発明の効果】
以上述べたごとく、本発明のSiX Ge1-X (0<x<1)の結晶によれば、熱電素子としての性能指数の向上を図ることができ、かつ加工性に優れ、使用中における特性劣化やクラックの発生もないという大きな効果が達成される。
0023
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施例をあげて説明するが、これらの実施例は、例示的に示されるもので限定的に解釈されるものでないことはいうまでもない。
0024
(実施例1)
結晶引上装置を用い、SiとGe及びドーパントを石英ルツボ内で溶解し、Si単結晶を種結晶としてアルゴンガス(1気圧)気流中で1〜10mm/Hrの引上速度でSiGe結晶を引上げた。このSiGe結晶としては、Six Ge1-x のxの値を0.01から0.99の間で変化させて表1に示した7種類の結晶を引上げた。各結晶の結晶粒の大きさは5×10-5mm3 以上(平均粒径は約50μm以上)であった。なお、試料No.5においては、P−型結晶を得る目的でGaをドープした。
0025
【表1】
Figure 0003975676
0026
熱伝導度の測定
引上げた結晶から直径10mm厚さ1mmの円板状試料を切り出し、これを用いて熱伝導度をレーザーフラッシュ法によって測定した。レーザーフラッシュ法は、試料の表面にレーザーを瞬時照射し、裏面での温度変化によって熱伝導度を評価する方法である。
0027
試料No.1〜No.7の組成の異なるSix Ge1-x 結晶の熱伝導度の値と温度との関係を図1に示した。SiやGeに比して、混晶では熱伝導度がいずれの温度においても小さいことがわかる。
0028
図2は、Six Ge1-x 結晶の熱抵抗率(熱伝導度の逆数)がxの値によって変化する様子を接合点の低温側温度と高温側温度の代表例として20℃と600℃の場合について示しているが、xが0.6付近で最大値となる。これはフォノン散乱に起因すると考えられる。Gaの添加は若干熱抵抗率を上昇させている(図2において、黒丸及び黒三角)。Gaの高濃度の添加はさらに大きくなることが期待される。比熱はSi成分の増加と共に大きくなる。
0029
電気伝導度の測定
引上げた結晶から3×1×10mm3 の試料を作製して電気伝導度を4探針法によって測定した。4探針法は、一直線上に並べられた4本の針の外側2本から電流を流し、内部2本の針間に生ずる電位差を測定する方法である。
0030
温度に対する電気伝導度の変化を図3に示した。大部分の試料は100〜200℃以上で電気伝導度の値が温度とともに指数的に増大している。Ga添加試料は高温までほぼ一定の伝導度を示す。より高濃度のGaの添加はその伝導度が高温まで高く、一定となることが期待される。
0031
図4には600℃における固有電気伝導度の組成による変化を示した。Geリッチほどその電気伝導度は大きいことがわかる。しかし、不純物を高濃度添加すればSiリッチでも大きな電気伝導度を得ることができる。バンドギャップの組成に対する依存性も示す。
0032
ゼーベック係数の測定
引上げた結晶から直径10mm厚さ1mmの円板状試料を切り出し、これを用いてゼーベック係数を温度差法によって測定した。温度差法は、温度の異なる熱ブロックで挟んだ試料の両接触面に生じた熱起電力を測定する方法である。
0033
図5はゼーベック係数の温度に対する変化を示す。無添加の結晶では組成が0.6〜0.8の試料で正の値(P型半導体)から負の値(N型半導体又は真性半導体領域) に著しく変化し、それぞれ大きな値を持つ。Ga添加試料では単調に増加する。
0034
図6は600℃におけるゼーベック係数の組成に対する依存性を示す。組成が0.8付近で大きな絶対値が期待される。ゼーベック係数はGa不純物濃度に対してはその濃度が大きくなるほど小さくなるので、実用上はその最適濃度の検討が必要である。組成0.1〜0.5付近では電子とホールの移動度の差が小さくなるため大きなゼーベック係数を期待できない。
0035
性能指数Z
高い性能指数を得るためには、熱伝導度としては低く、電気伝導度とゼーベック係数は高いことが望ましいが、Six Ge1-x 結晶についてのこれらの値は本発明者らの測定によって初めて明らかとなったもので、素子の使用条件(温度領域)を考慮し、性能指数Zの値ができるだけ大きくなるようにSix Ge1-x の組成(xの値)やドーパントの濃度を決定すればよい。
0036
ドーパントの添加量によって電気伝導度は変化し、その濃度と共にほぼ比例して増大する。一方、ゼーベック係数はドーパント濃度と共に低下し、理論的には1019/cm3 近辺を中心として1018〜1020(/cm3 )の領域が高い性能指数Zを得るために好ましいことが知られており、このレベルのドーパント濃度を有するSiGe結晶が実用面からみて好ましい素材である。
0037
実験例1
ドーパントであるGaの濃度を変化させて、表2に示す4種類のSiGe結晶を引上げ、実施例1と同一の測定法により、600℃における電気伝導度とゼーべック係数を測定し、図8に記載した。
0038
尚、試料Bと試料Dの多結晶の平均粒径はそれぞれ約50μm、約200μmであり、これらの粒子形状を球体と仮定するとその体積はそれぞれ約6.5×10-5mm3、約4.2×10-3mm3となる。
0039
【表2】
Figure 0003975676

【図面の簡単な説明】
【図1】組成の異なるSix Ge1-x 結晶の熱伝導度の値と温度との関係を示すグラフである。
【図2】Six Ge1-x 結晶の熱抵抗率がxの値によって変化する様子を接合点の低温側温度(20℃)と高温側温度(600℃)の場合について示すグラフである。
【図3】Six Ge1-x 結晶の温度に対する電気伝導度の変化を示すグラフである。
【図4】Six Ge1-x 結晶の600℃における固有電気伝導度とバンドギャップエネルギーの組成による変化を示すグラフである。
【図5】Six Ge1-x 結晶のゼーベック係数の温度に対する変化を示すグラフである。
【図6】Six Ge1-x 結晶の600℃におけるゼーベック係数の組成に対する依存性を示すグラフである。
【図7】各種の熱電素子材料の性能指数と温度との関係を示すグラフである。
【図8】Six Ge1-x 結晶の600℃におけるゼーベック係数と電気伝導度との関係を示すグラフである。

Claims (9)

  1. 結晶を構成する結晶粒の大きさが5×10-5mm3以上及びゼーベック係数の値の絶対値が100〜700μV/Kの範囲であることを特徴とするSiX Ge1-X (0<x<1)の結晶。
  2. 結晶を構成する結晶粒の大きさが5×10-5mm3以上及び熱伝導度の値が1〜20W/m・Kの範囲であることを特徴とするSiX Ge1-X (0<x<1)の結晶。
  3. 結晶を構成する結晶粒の大きさが5×10-5mm3以上及び電気伝導度の値が101〜105 /Ω・mの範囲であることを特徴とするSiX Ge1-X (0<x<1)の結晶。
  4. 結晶を構成する結晶粒の大きさが5×10-5mm3以上、ゼーベック係数の値の絶対値が100〜700μV/Kの範囲、熱伝導度の値が1〜20W/m・Kの範囲及び電気伝導度の値が101〜105 /Ω・mの範囲であることを特徴とするSiX Ge1-X (0<x<1)の結晶。
  5. 引上法によって作成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のSiX Ge1-X (0<x<1)の結晶。
  6. xの値が0.6以上0.8以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のSiX Ge1-X (0<x<1)の結晶。
  7. B、Al又はGaのいずれかの元素を添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のSiX Ge1-X (0<x<1)の結晶。
  8. P、As又はSbのいずれかの元素を添加することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項記載のSiX Ge1-X (0<x<1)の結晶。
  9. 請求項1〜のいずれか1項記載のSiX Ge1-X (0<x<1)の結晶を用いることを特徴とする熱電素子。
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