JP3973490B2 - 繊維製の静音面ファスナーと同面ファスナーが取着された製品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は多数の雄係合素子と雌係合素子同士が押圧と剥離により係脱可能な繊維製の面ファスナーとその面ファスナーが取着された各種製品に関し、特に剥離時の発生音を低減させた繊維製の静音面ファスナーと同静音面ファスナーを取着した各種の製品に関する。
【0002】
【従来技術】
繊維製の面ファスナーは、各種の繊維糸条を織成し又は編成して得られる基材に、合成樹脂製の太い繊維状のモノフィラメントや細い多数の繊維状フィラメント群(マルチフィラメント)を一本の糸条として織り込み或いは編み込み、基材の片面にそれぞれループを形成する。モノフィラメントのループは、その一部を切断してフック状の雄係合素子を形成し、マルチフィラメントのループは、そのループ形態のままで雌係合素子を構成する。これらの雄係合素子と雌係合素子とは、押圧により係合し、両者を離間方向に力を加えれば係合が外れて剥離する。こうした構造をもつ繊維製面ファスナーは、特に雄雌の係合素子の係合を外す剥離時に、バリバリという耳障りな大きな音を発生させる。
【0003】
従来も、こうした音の発生を抑制する繊維製面ファスナーの提案が数多くなされている。それらの静音構造が開示された例として、例えばUSP4,776,068号明細書、USP4,884,323号明細書などがある。
USP4,776,068号明細書に開示された繊維製面ファスナーの消音構造は、前記面ファスナー部材に、平板状基材から周囲の空間に発せられる雑音振動の複合を減少させる手段を備えている。この手段により、面ファスナー部材を相手方の接合面から急速に引き離す際に発生する音が減少する。そして、その手段として、係合面に対して基材を大容積とすること、平板状の大容積補助基材を前記基材に接合されること、基材に柔軟な大容積材料を組み入れること、基材と係合面とを別個としてその結合を複数のポイントで行うこと、基材を格子構造として周囲を取り巻く空間に引き起こされる振動の伝達能力を低くさせることなどを挙げている。
【0004】
具体的には、基材に周囲を取り巻く空間に引き起こされる低い振動の伝達能力を有する間隙率が50%以上の格子構造を採用して、面ファスナーのファスナー部材同士を引き離す際に生じる複合の雑音振動を減少させている。また、こうした面ファスナーであって、その分離領域から1フィート離れた位置において測定される音量の値を所定以下とする。あるいは、各平板状基材の各係合面を分離させて延設するとともに、裏面に空気密度をもつ層を形成して容積を増すことにより、前記面ファスナーを引き離す際に音プレッシャーレベルを4.2dB 以下に十分減少させることができるというものである。
【0005】
一方、上記USP4,884,323号明細書によれば、面ファスナー部材が取着された製品に関し、一面に係合素子をもつ平板状基材の背面を、製品が基材から離間するように取着させている。これにより、係合した面ファスナー部材同士を引き離す際に、基材から製品に伝えられる雑音の発生エネルギー量を減少させて、製品から発生させる雑音量を少なくすることができる。あるいは、製品の裏面に大容積材料を取り付けて、雑音のエネルギーが部材に伝えられたとしても、製品の裏面に取り付けられた大容積材料によって、そのエネルギーが減衰される。すなわち、このUSP4,884,323号の面ファスナーの取付けシステムによれば、前記基材と製品との間に中間部材を介装させるか、あるいは基材に取り付けられる製品の裏面に密度の低い大容積部材を取り付ける。中間部材の場合、基材及び製品への中間部材の取付けは、それぞれの縁部同士を結合させる。前記基材としては、上記USP4,776,068号と同様の構造をもつ格子状基材を採用することもできる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記USP4,776,068号の静音面ファスナーにあっては、その接合する面ファスナー部材の基材は、双方ともに格子状でなければならず、多様な分野に使用されるこの種の面ファスナーとしては、その接合相手も多様である必要がある。例えば、格子状の基材であれば、当然にその一面に形成される係合面を構成する係合素子も格子状に配されることになり、それだけ係合率も係合強度も必然的に低下することになる。さらには、基材を格子構造とする場合には、基材自体の強度を犠牲とするだけでなく、高い縫製精度が要求される。
【0007】
また、上記USP4,884,323号の面ファスナーの取付けシステムによれば、面ファスナーは縁部のみで取り付けられ、その中央部には生地と面ファスナーを固定する要素がないため、広幅の面ファスナーの取り付けには適さない。また、大容積材料を面ファスナーの基材と生地との間に介装するには、縫製方法が複雑になり工程が増える欠点がある。この方法で十分な効果を得るには振動吸収剤の容量を十分に大きくしなければならず、製品のファスナー取付部を厚手とせざるを得ない。
【0008】
面ファスナーを剥離するときに発生する比較的大きな異音は基材が振動することにより発する音である。上述の明細書に開示された静音構造は、基材の振動面積を減じて、基材からが空気に放射される振動量自体を低下させようとするものである。この構造では、面ファスナーが製品に取り付けられたときには、その振動が製品に直接伝播され、製品自体の振動による複合振動が空気中に伝播されて大きな音を発生させることになるため、十分な効果が得られない。また、背面に別個に中間部材や振動吸収材を設ける場合には、縫製や接着などの手間が2重となり、コストの増加を招く。
【0009】
本発明はかかる問題を解決すべくなされたものであり、具体的には基材自身が振動の吸収又は減衰機能を有し、しかも雄雌係合素子同士の係合が全係合面で均等になされて、所要の係合強度が確保され、取着対象に対する取着にも格別に制限されず、剥離時の異音の発生が効果的に抑制される繊維製面ファスナーと、同面ファスナーを取着した各種の製品を提供する。
【0010】
【課題を解決するための手段及び作用効果】
本発明にあっても、基材の振動面積を可能な限り小さくするとともに、特に面ファスナーから生地などの取着物品に伝播する振動特性を制御することにより、その剥離時の異音の発生を抑制する。
すなわち、本発明に係る繊維製の静音面ファスナーの基本構成は、繊維構造材からなる平板状基材の表裏いずれかの表面に多数の繊維製係合素子を有する接合面を備えた面ファスナーであって、接合相手となる各繊維製面ファスナー部材の基材同士の見掛け比重が、それぞれ0.5g/cm3 以下であり、一方の面ファスナー部材の少なくとも平板状基材が、全面にわたって略均等な繊維密度を有していることを特徴の一部としている。ここで略均等な繊維密度を有する平板状基材とは、経緯糸密度又はコース密度とウェール密度とが織物又は編物の全面にわたって均等である各種の織編物、或いは繊維の空隙率が略均等に分散する各種の不織布などをいう。
【0011】
また本発明にあっては、少なくとも一方の面ファスナー部材の基材を接結糸を介して多層に織編成された多重織編構造とすることもでき、この場合には各層間に間隙を作って接結糸をもって接結させればよい。更に、前記多重織編構造の係合素子が立ち上がる基層を含む少なくとも一層の見掛け比重を0.5g/cm3 以下とすることを特徴としている。勿論、多重織編構造からなる基材の全体の見掛け比重を0.5g/cm3 以下としてもよい。
【0012】
本発明者らの実験及び検討の結果、面ファスナーからの異音の発生は、雄雌の係合素子が係合した面ファスナー部材の各基布が、雄係合素子および雌係合素子により強く引っ張られ、次いで係合が外れたときに引き寄せられて元の状態へと瞬時に復元するために発生することが分かった。このとき、スピーカーコーンのように振動が空気に伝達され、音として伝わると考えられる。USP4,776,068号明細書が開示する基材の格子状構造は、丁度スピーカーコーンに穴をあけることに相当し、空気への振動の伝達効率を低く抑えている。
【0013】
本発明における静音原理の一つは、基材の単位容積あたりの重量、すなわち見掛け比重を低くし、基材自体の振動伝達能力を低くすることにより、基材の振動する面積を小さくし、振動が空気へ伝わる効率を低下させる、つまりスピーカーコーンを小さくすることにより振動が空気へ伝達される効率を低く抑えることにある。基材の振動伝達率を低減させる具体的な手段として、織編組織の糸を直線的とせず、屈曲した組織とする方法が効果的である。また、基材の密度を低くし、特に見掛け比重を0.5g/cm3 以下と低くした場合に効果が現れる。
【0014】
さらに、本発明にあっては基材そのもの、或いは基材の一部の層の見掛け比重を低く抑えるために、上記USP4,776,068号のごとく面接合する面ファスナー部材の双方を格子構造とせずに、その少なくとも一方の面ファスナー部材の織編密度を小さくして、基材の全面にわたって空隙を均等に分散させるようにしている。従って、基材がそのほぼ全面にわたって均等な繊維密度を有している。こうすることで、例えば一方の面ファスナー部材の基材が格子状に構成されていたとしても、他方の面ファスナー部材の基材が全面にわたり略均等な繊維密度を有するがため、それらの面ファスナー部材同士を係合させて接合したとき、その接合部の形態が安定する。特に、基材の全面にわたって繊維密度がほぼ均等である場合には、その面ファスナー部材の係合面全体に係合素子を均質に分散して配することができるため、たとえ相手方の目ファスナー部材の基材が格子状に構成されているとしても、その相手方の係合素子との係合率は増加し、必然的に係合強度も増加することになる。勿論、全面にわたって繊維密度がほぼ均等な基材であっても、その係合面を構成する係合素子を全面で均一に分散させる必要はなく、ある一群の係合素子ごとに分離させて非係合面を形成することもできる。
【0015】
前記繊維製面ファスナー部材が雄面ファスナー部材である場合には、前記係合素子が合成樹脂製の一本の太い繊維状のモノフィラメントからなる雄係合素子から構成される。この雄係合素子は、通常、基材を製織又は製編するとき、同時にモノフィラメントをループを形成しながら織込みまたは編込んだ後で熱セットやバックコーティングを施す。そのあとで、ループの一部を切断して、フック状の係合頭部を有する雄係合素子を形成し、或いは切断後の起立するモノフィラメントの上端を溶融させてきのこの傘状係合頭部を有する雄係合素子を形成している。
【0016】
また、前記繊維製面ファスナー部材が雌面ファスナー部材である場合には、前記繊維製係合素子が合成樹脂製の多数の細い繊維群のマルチフィラメントからなるループ状の雌係合素子から構成される。この雌係合素子の形成は、基材を製織又は製編するとき、上記雄係合素子と同様に、同時にマルチフィラメントをループを形成しながら織込みまたは編込んみ、そのあとでバフィング処理を行って、各単繊維からなるループに多方面性を与える。
【0017】
前記繊維製面ファスナー部材が雄雌混合面ファスナー部材である場合には、前記繊維製係合素子が、合成樹脂製の一本の太い繊維からなるモノフィラメントの雄係合素子と、合成樹脂製の多数の細い繊維群のマルチフィラメントからなる雌係合素子とが多数混在して構成される。この雄雌混合面ファスナー部材は、上記雄雌の係合素子の形成と同様の手順により製造される。
【0018】
本発明にあっては、前記面ファスナーの一方の面ファスナー部材の基材が格子構造を有し、他方の面ファスナー部材の基材が非格子構造であって何ら問題は生じない。要は、両方の面ファスナー部材とも上記見掛け比重を満足しさえすればよい。
【0019】
基材の振動は、横波と縦波に分けて考えることができる。横波は糸の長手方向に対して直角方向の振動である。この振動は周囲の糸、バックコーティング材との摩擦により容易に減衰する。また、制振材等を設けた場合にはさらに効率良く減衰させることができる。一方、縦波は糸の長手方向に振動する波である。この波の伝播速度は糸の貯蔵弾性率によって決まり、減衰は糸の損失弾性率によってきまる。貯蔵弾性率と損失弾性率の比は室温では通常10:1程度であり、室温下における減衰は大きくない。縦波を減衰させるには糸を屈曲させる方法が有効である。この屈曲により、縦波のエネルギーの一部は横波へと変換され、縦波は屈曲のたびに急速に減衰する。減衰効果を高めるためには屈曲の角度が90°以上とすることが望ましい。
【0020】
平織組織のように糸の屈曲が小さい組織の場合、振動は減衰せずに広い範囲に拡散する。一方、編構造のように糸が多く屈曲する組織では糸の屈曲により振動は減衰し、狭い範囲の振動にとどまる。しかして、織編組織の見かけ比重が0.5g/cm3 以下である場合には、両者ともにその効果は大きい。
【0021】
特に嵩高糸の場合には、その効果が顕著となる。嵩高糸や捲縮糸を用いてバルキーな基材を形成すると、音響振動が伝わるときの損失が大きくなり、音が伝播する範囲が小さくなり、音の発生が抑制される。基材の構成糸として、粘弾性、特にタンデルタの大きな材料からなる繊維を混紡した糸を用いることによっても、基材を伝わる音波が減衰し、振動範囲が狭くなるため、音の発生が抑制される。
【0022】
本発明にあって、ファスナー部材の基材が編構造を有する場合には、その編みのウェール密度NW(ウェール数/cm)とコース密度NC(コース数/cm)が、5.9≦NW+NC≦29.0の関係を満足している必要がある。もし、基材が編構造が接結糸を介して多重に編成されたものである場合には、その係合素子を有する基層以外の少なくとも1層が上記関係を満足すればよい。また、前記面ファスナー部材の基材が織構造を有する場合には、その経糸密度が37.5(本/cm)以下、緯糸密度が18.0(本/cm)以下であり、経糸及び緯糸の太さが140〜300デニールであることが望ましい。基材の織構造が多重織構造である場合には、係合素子を有する基層以外の少なくとも1層が前記関係を満足すればよい。前記基材を織編構造のレース地で構成することもできる。
【0023】
さらに、本発明における面ファスナー部材の基材として、通常の織編構造の他に、不織布構造を挙げることができる。この場合、前記係合素子が前記不織布の構成繊維の一部であって、同基材から表面に突出するループ状繊維である。なお、基材として不織布を使い、係合素子としてモノフィラメントを使って、フック状などの雄係合素子を形成することも可能である。すなわち、例えば不織布の一面からモノフィラメントのループを形成するように、モノフィラメントを不織布に植え付け、所要の工程を経て雄係合素子を形成すればよい。不織布の各繊維は多数の箇所で大きく屈曲しており、振動の減衰率も極めて大きくなる。
【0024】
本発明にあっては、更に係合素子が立ち上がる前記基材自体又は基材の背面に、面ファスナーの取着対象物との間に空隙を形成するための空隙形成手段をもたせることもできる。この空隙形成手段としては、例えば基材自体を加熱加圧などにより3次元構造とし、或いは基材の背面からループや線状体などを突出させる。これらの3次元構造、或いはループや線状体は、基材の織編成時に同時に成形し或いは織編込んで一体とすることが可能である。更に、基材と取着対象物との間で点接触又は線接触する接触手段、例えば合成樹脂からなる微小突起を基材の背面に一体に形成し、或いはバックコーティング材に微小なビーズ類を混入する。
【0025】
上述の基本構成を備えた静音面ファスナーを取着対象となる物品に取り付けるにあたり、面ファスナーの基材と物品との間に、振動の伝達を抑制する振動吸収手段を介装させることができる。この振動吸収手段、すなわち吸振手段としては、例えば振動吸収性能に優れた不織布や嵩高生地などの見掛け比重の低い繊維構造体や発泡樹脂材料、或いは各種ゴム材料がある。こうした吸振手段は別途製作しておき、上記面ファスナーの製造後に連続して基材の背面に添着一体化することもでき、或いは前記物品と一体に形成することができ、そのときの吸振手段の見掛け比重も0.5g/cm3 以下とすることが望ましい。さらには、物品自体の見掛け比重を0.5g/cm3 以下とすれば、剥離時において発生する音の大きさを、より小さくすることができる。
【0026】
【発明の実施形態】
以下、本発明の好適な実施形態を図示実施例に基づき具体的に説明する。
表1は繊維製面ファスナーの基材構造の相違による発生音の違いを示した。この表中の「音の大きさ」は、マイクロホンを面ファスナーから65mm離れたところに設置し、面ファスナーの剥離時の発生音を測定した結果である。試料の基材構造は、通常の目の詰まった平織製品(I)、表に示すウェール密度(個/cm)及びコース密度(個/cm)の経編製品、表に示す経緯糸密度(本/cm)をもつ平織テープ(II)とした。平織製品(I)の見掛け比重は0.55(g/cm3 )、経編製品の見掛け比重は0.45(g/cm3 )、平織製品(II)の見掛け比重は0.50(g/cm3 )であった。
【0027】
ここでウェール密度とは、図1に示すように、コース方向の単位長さ(1cm)当たりのウェール数であり、コース密度とはウェール方向の単位長さ(1cm)当たりのコース数である。また、経糸密度とは、図2(A)に示すように、織物の幅方向の単位長さ(1cm)当たりの経糸本数であり、緯糸密度とは、図2(B)に示すように、織物の長さ方向の単位長さ(1cm)当たりの緯糸本数、すなわち緯糸の打ち込み回数である。
【0028】
【表1】
【0029】
表1から明らかなように、通常の平織製品(I)からなる基材では、音の大きさが94(dB)と、他の通常の編密度からなる製品や低密度の平織製品(II)と比較して一段と大きいことが理解できる。このことから、面ファスナーの基材として織物を使う場合には、織密度を小さくすることが剥離時の異音の発生が抑制でき、また編物を使うと概して音の発生が抑制できることが分かる。この編物の場合、構成糸が大きく屈曲していることが剥離時における異音の発生を抑える原因であると考えられる。従って、基材として編組織を採用することで、見掛けの密度と糸の屈曲の効果が現れ、発生音が小さくなるであろうことが予測できる。
【0030】
基材の振動部分における振動の大きさは、次のような方法によっても簡易的に求めることがてきる。雌雄の面ファスナーの基材上における1対の係合素子のみを残し、他の係合素子を全て取り除く。基材裏面に炭酸カルシウムの粉末を塗布し、残した1対の係合素子を係合後、剥離する。基材の振動した部分は炭酸カルシウムが弾き飛ばされるため、目視により振動した部分の大きさが確認できる。この方法によって、上記各製品を基材とする実験を行ったところ、通常の平織製品では炭酸カルシウムの弾き飛ばされた部分の直径はφ4mmであった。一方、上記低織密度の織物製品の場合には炭酸カルシウムの弾き飛ばされた部分はφ3mmであった。このことからも、基材の織編組織を粗くする方法が有効であることが分かる。
【0031】
編物製品を基材とする場合、図1に示すように、単位長さ当たりのウェールの繰返し回数(個数)をNWとし、単位長さ当たりのコースの繰返し回数(個数)をNC/cmとするとき、数多くの実験の結果、NW+NCが5.9以上29.0以下とすると、剥離音を効果的に低下させることができることを知った。また、織物を基材として用いる場合には、織の密度を緯糸密度を18.0本/cm以下、縦糸密度37.5本/cm以下とし、同時に緯糸太さを140〜300デニール、経糸太さを140〜300デニールとし、さらに係合素子の構成糸条であるループ糸450デニールとすることにより前記条件を満たすことができる。また、構成糸条の嵩高さを調整して密度を下げることも有効であり、捲縮糸を用いることもできる。捲縮糸は糸そのものが嵩高さを持っており、織編物が嵩高くなり、密度が低下する。
【0032】
糸としての貯蔵弾性率と損失弾性率の比は混紡により改善できる。特にウレタン繊維等のような室温付近でタンデルタのピークをもつ材質の繊維を混紡すると、糸としての損失弾性率が著しく高くなる。また、低級ポリエチレン(LDPE)のようにガラス転移点が低く、結晶化度の小さな材料も有効である。前述のように損失弾性率を高くすると振動の伝播する範囲が狭くなり、スピーカーコーンを小さくする効果がある。また、基材をレース状組織とすると、振動を伝える糸が多重に屈曲され、さらに振動を伝達する糸の本数そのものが減り、見掛けの密度が低下するためにさらに効果的である。
【0033】
図3は、本発明に係る繊維製の静音面ファスナー部材を、その取着対象である布帛に取り付けた状態を模式的に示している。なお、以下の実施例の説明では、基材や雄雌の係合素子のように機能的に区別が不要な実質的に同一部分として取り扱える部分には同一符号を付している。面ファスナー部材は雄雌の区別なく符号10を、基材には織編みの区別なく共通の符号11を、係合素子には雄雌を区別することなく共通の符号12を使っている。
【0034】
図4に示す実施例に係る静音面ファスナー部材10は、基材11の織成と同時にループを形成しながらモノフィラメントを織り込んだあとで、前記ループの一部を切断してフック状の雄係合素子12を一体に形成した織物からなる。前記基材11は上下二層からなる2重織物であり、その二層11a,11bともに平織組織により構成されており、経糸の一部に接結糸13を使って、上下両層11a,11bは前記接結糸13をもって連結されている。このとき、本実施例では前記接結糸13に僅かに余裕をもたせて、上層11aと下層11bとの間に空隙が形成されるようにしている。なお、図示例では基材11を2重織物にて構成しているが、3重織物であっても、さらには多重編物であってもよい。
【0035】
さらに、より振動の伝達を制限する方法として、多重織り、多重編みにおいて、係合素子12が形成されている基層をも含めて少なくとも1層の見掛け比重を0.5g/cm3 以下に小さくすれば、係合素子12の近傍で発生した振動は生地14にさらに伝達されにくくなる。この実施例でも、当然に基材11の全体の見掛け比重を0.5g/cm3 以下に設定してもよい。このときの見掛け比重は、単位体積(cm3 )当たりの重量の他にも、基材11の厚さと基材の構成糸の材質(比重)に基づいて容易に算出することができる。
【0036】
このように基材11を2重織物から構成するとともに、その見掛け比重を0.5g/cm3 以下に設定することにより、基材11自体に振動に対する高い減衰能力を備えさせることができるようになるばかりでなく、生地14を縫糸によって縫い付けたときも、相手方の図示せぬ雌面ファスナー部材との係合を外すとき(剥離時)に上層11aに発生する振動は下層に伝達される間に大きく減衰されて生地14に伝わるため、剥離時に発生する振動は基材11自体のもつ減衰能力と生地14に伝達される振動の小ささとが相まって、全体としての複合振動が大きく低減される結果、異音の空気中への放射量が極めて小さくなる。
【0037】
特に本発明にあっては、前述の雄面ファスナー部材10と係合させる相手方の雌面ファスナーについても、その見掛け比重を0.5g/cm3 以下に設定することが肝心であり、この組合せにより剥離時の発生音は更に大きく抑制される。
【0038】
図5は、見掛け比重(g/cm3 )の異なる第1〜第3の雌面ファスナー部材FF1〜FF3と(0.71、0.65、0.33)、見掛け比重(g/cm3 )の異なる2種類の雄面ファスナー部材MF1及びMF2(0.68、0.42)とを、その組合せを変えて係合・剥離を繰り返したときの音圧レベル(dB)の差異を示している。
【0039】
この図から理解できるように、見掛け比重がいずれも0.5g/cm3 を越える雄雌の面ファスナー部材MF1及びFF1,FF2の組合せでは、剥離時に発生する音圧レベルは93dBを越えており、極めて耳障りで大きな音である。一方、雄雌の面ファスナー部材の一方の見掛け比重を0.5g/cm3 以下として、他方の面ファスナー部材の見掛け比重を0.5g/cm3 よりも大きい、面ファスナー部材(MF2とFF1、MF2とFF2、MF1とFF3)の組合せでも、低くて86dBの音圧レベルであるのに対して、雄雌の見掛け比重が双方ともに5.0g/cm3 以下である面ファスナー部材MF2とFF3とを組合せると、その剥離時に発生する音圧レベルは74dBと大幅に低下し、耳障りとはならない低い音の発生でしかなかった。
【0040】
さらに本実施例にあっては、生地14に前記静音面ファスナー部材10を取り付けるにあたり、「すくい縫いミシン(ヤマトミシン (株) 製)」と呼ばれる特殊な縫製機を使い、図3に示すように、基材11の上層11aを直接縫製せず、下層11bと生地14との間のみを縫製するようにすれば、上層11aと下層11bとの間の空隙が減じられることなく、上層11aは縫糸20による固着の影響がなくなるため、上層11aに生じた振動が下層11bに伝達される間に大きく減衰する。前記縫製機の縫製機構を簡単に述べると、曲進針と呼ばれる湾曲針を使い、生地の厚さの途中までをすくいながら縫製する。このときのすくう深さは適宜調整する。
【0041】
なお、生地14に対する静音面ファスナー部材10の取付けの仕方は、図3に示す態様の他にも、例えば静音面ファスナー部材10が小さければ、通常の縫製と同様に、その縁部に沿って上層11aをも含めて縫着させてもよいし、静音面ファスナー部材10が大きい場合には、所定の間隔をもって格子状に上層11aをも含めて縫着させてもよい。
【0042】
面ファスナーの剥離時に発生する音は、面ファスナーのみから出ているのではなく、取り付けられた物品へ振動が伝達されると、物品からも発生する。そのため、剥離時における面ファスナーの音を小さくしただけでは不充分であって、更に製品への取付け構造にも考慮が必要である。USP4,884,323号では、面ファスナーと生地の間に空気を含む大容積の材料を介装することが開示されている。本発明にあっても、図4に示すごとく、面ファスナー部材10と生地14との間に、例えば不織布15などを介装する場合もある。図示例では、生地14の面ファスナー取着面に予め不織布15を縫製などにより固着しておき、その不織布15の表面に雄面ファスナー部材10を取り付けている。このとき、雄面ファスナー部材10と生地14との固着は、図3に示した縫着手段が採用でき、或いは雄面ファスナー部材10の周縁又は格子状に縫着することも可能である。
【0043】
また、本発明にあっては面ファスナー部材の背面に、剥離時に発生する振動が生地に伝達されることを遮断するための空隙を形成することをも含んでいる。この空隙形成手段は改めて縫製工程などの増加を伴わうことなく基材に一体に形成でき、しかも剥離時に発生する音を小さく抑制できる面ファスナーを提供する。本発明における面ファスナー部材の背面側の空隙形成手段としては、面ファスナー部材の基材の製織、製編時に三次元的に成形する。または、製織後や製編後のバックコーティング剤の固化時に同バックコーティング層の背面側を凹凸に成形する。さらには、面ファスナーの縁部のみ多重織りにしたり、縁部の構成糸の太さを太くして、縁部の厚みを増加させる。あるいは、縁部を折り返すなどして、さらにはこれらを組み合わせることにより、静音効果を一層高めることができる。
【0044】
図6〜図8は、本発明の代表的な他の実施例を示している。これらの実施例では、面ファスナー部材10を織成または編成したのち、図示せぬ金型による加熱加工により基材11を波打ち形状としたり(図6)、基材11の耳部11cだけをジグザグ状に屈曲成形し(図7)、或いは基材11の耳部11cを基材11の背面側に90°湾曲する形状に成形している(図8)。かかる形態の面ファスナー部材10を図示せぬ生地に取り付ければ、面ファスナー部材10と生地14との間に空隙が形成されて、上述のごとく面ファスナーの剥離時に発生する音の大きさが効果的に低減する。なお、図8に示す面ファスナー部材10の係合素子12は、多数の連続繊維の集まりであるマルチフィラメントを一本の糸条として基材11にループを形成しながら織り込んでおり、これらのループは切断されることなく、この形態のままで以降にバフィング処理がなされて、雌係合素子として使われる。
【0045】
さらに、本発明にあっては面ファスナー部材10と生地14との接触を点状または線状とすることにより、振動が伝達される際の伝達効率を低下させることができる。具体的な方法として、図9及び図10に示すように、製織時または製編時に基材11の一面に係合素子12を形成するとともに、その背面にもループを形成し、そのループの頂点部や側部を切断して、端部に頭部を有する直立柱状突出部16又はループを切断しないで用いるパイル状突出部17を形成する。或いは、図11及び図12に示すように、面ファスナー10の基材11裏面に点状又は線状に樹脂18を押出し、添着一体化する。使用する樹脂18としては特に制限するものではないが、柔軟性や加工性を考慮すると低温加硫型のゴム系樹脂が適する。または、用途によっては酢酸ビニル等を主原料とする低温加工可能な樹脂も使用できる。更には各種の発泡樹脂を使うこともできる。
【0046】
さらには、図13〜図15に示すように、面ファスナー部材10の係合素子12が形成されていない背面に、例えば綿糸又は綿紐、あるいはパイプ線状などの線状体19を、基材11に一体に取り付けるようにしてもよい。その取付けは、縫製によってもよいが、基材11の織成または編成時に同時に織り込みまたは編み込む方が手間がかからず工程増にもつながらないため好ましい。かかる構成によっても、面ファスナー部材10を生地14に取り付けると、剥離時に基材11に発生して生地14に伝わる振動が大幅に低減され、著しい静音効果が得られる。
【0047】
以上の説明においては、面ファスナー10の構成部材である雄雌の面ファスナー部材の一方を例示して、図示を省略しているが、本発明にあっては面ファスナー部材10の同一基材11の一面に雄の係合素子と雌の係合素子を混在させる場合もある。また、本発明にとって重要な点は、既述したとおり組となる面ファスナー部材同志が、いずれも本発明の条件、すなわち各面ファスナー部材の見掛け比重が共に0.5g/cm3 以下であることと、少なくとも一方の面ファスナー部材10の基材11が全面にわたりほぼ均等な繊維密度を有していることの2つの条件を満足していなければならない。かかる構成により、静音効果に加えて、面ファスナー10の全面にて均等な係合率と係合強度が得られるとともに、面ファスナー部材10同士を接合したとき、その接合部の形態が安定する。
【0048】
さらに、本発明に係る静音面ファスナーは、図示を省略したが、面ファスナー部材にバックコーティングを行う際に、バックコーティング剤が固化する前にビーズ状樹脂を添着し、バックコーティング剤を介して面ファスナー裏面にビーズ状樹脂などを接着してもよい。ビーズ状樹脂の形態は特に定めるものではなく、球状、線状など、さまざまな形状を採用することが可能である。これらビーズ状樹脂を予めバックコーティング剤に混ぜておき、これを面ファスナー部材の背面に塗布するようにしてもよい。
【0049】
表2は、面ファスナー部材10の基材11として経編構造を採用し、同面ファスナー部材10を各種の生地14に縫い付け、剥離したときの音の大きさを示している。同表中、「見掛け比重」は各種生地14の単位容積当たりの重量を測定した値を示し、「面ファスナー部材の見掛け比重」は、基材11の単位容積あたりの重量を測定した値を示している。音の大きさの測定値は、各生地に25mm幅の経編物を基材とする面ファスナーを取り付け、面ファスナーの接合領域から65mmの距離に置いてマイクロホンを配し、剥離時の発生音を測定した値である。
【0050】
【表2】
【0051】
表2からも明らかなように、剥離時の音は生地の見掛けの比重に強く依存しており、見掛けの比重が0.5g/cm3 以下の場合には発生音が小さくなる。このことは見かけ生地の見掛け比重が0.5g/cm3 以下であれば、面ファスナーの剥離時の発生音を更に抑えることができることを示している。
さらに、見掛け比重が0.5g/cm3 以下のファスナー基材を使い、見掛け比重が0.5g/cm3 以下のパイル編物や不織布などの布帛を介して、取着対象である生地に取り付けても、発生音が抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】編物製基材のウェール密度とコース密度の説明図である。
【図2】織物製基材の経緯糸密度の説明図である。
【図3】本発明の代表的な実施例である繊維製の静音面ファスナー部材が取り付けられた製品の部分断面図である。
【図4】本発明の代表的な他の実施例である繊維製の静音面ファスナー部材が取り付けられた製品の部分断面図である。
【図5】基材の見掛け比重の異なる面ファスナー部材同志の離脱時における発生音の大きさの比較図である。
【図6】本発明の代表的な更に他の実施例である繊維製の静音面ファスナー部材の一例を示す部分断面図である。
【図7】本発明の代表的な更に他の実施例である繊維製の静音面ファスナー部材の一例を示す部分断面図である。
【図8】本発明の代表的な更に他の実施例である繊維製の静音面ファスナー部材の一例を示す部分断面図である。
【図9】本発明の代表的な更に他の実施例である繊維製の静音面ファスナー部材の一例を示す部分断面図である。
【図10】本発明の代表的な更に他の実施例である繊維製の静音面ファスナー部材の一例を示す部分断面図である。
【図11】本発明の代表的な更に他の実施例である繊維製の静音面ファスナー部材の一例を示す部分断面図である。
【図12】本発明の代表的な更に他の実施例である繊維製の静音面ファスナー部材の一例を示す部分断面図である。
【図13】本発明の代表的な更に他の実施例である繊維製の静音面ファスナー部材の一例を示す部分断面図である。
【図14】本発明の代表的な更に他の実施例である繊維製の静音面ファスナー部材の一例を示す部分断面図である。
【図15】図13に示す面ファスナー部材の背面側から見た斜視図である。
【符号の説明】
10 繊維製静音面ファスナー部材
11 基材
11a 上層
11b 下層
11c 耳部
12 (雄又は雌の)係合素子
13 接結糸
14 生地
15 不織布
16 柱状突出部
17 パイル状突出部
18 樹脂
19 線状体
20 縫製糸
Claims (11)
- 繊維構造材からなる平板状基材の表裏面のいずれかに多数の繊維製係合素子を有する接合面を備えた面ファスナーであって、
接合相手となる各繊維製面ファスナー部材の基材同士の見掛け比重が、それぞれ0.5g/cm3 以下であり、
一方の面ファスナー部材の少なくとも平板状基材が、全面にわたって略均等な繊維密度を有してなり、
前記面ファスナー部材の基材が編構造を有し、その編みのウェール密度NW(ウェール数/cm)とコース密度NC(コース数/cm)が、次式(1)を満足してなる、
ことを特徴とする繊維製の静音面ファスナー。
5.9≦NW+NC≦29.0 …… (1) - 繊維構造材からなる平板状基材の表裏面のいずれかに多数の繊維製係合素子を有する接合面を備えた面ファスナーであって、
接合相手となる各繊維製面ファスナー部材の基材同士の見掛け比重が、それぞれ0.5g/cm 3 以下であり、
一方の面ファスナー部材の少なくとも平板状基材が、全面にわたって略均等な繊維密度を有してなり、
前記面ファスナー部材の基材が織構造を有し、その経糸密度が37.5(本/cm)以下、緯糸密度が18.0(本/cm)以下であり、経糸及び緯糸の太さが140〜300デニールである、
ことを特徴とする繊維製の静音面ファスナー。 - 繊維構造材からなる平板状基材の表裏面のいずれかに多数の繊維製係合素子を有する接合面を備えた面ファスナーであって、
接合相手となる少なくとも一方の繊維製面ファスナー部材の基材が、接結糸を介して多層に織編成された多重織編構造を有するとともに、各層間に間隙を有してなり、
接合相手となる他方の繊維製面ファスナー部材の基材の見掛け比重が0.5g/cm3 以下であり、
前記多重織編構造を有する一方の繊維製面ファスナー部材の係合素子が立ち上がる基層を含む少なくとも1層の見掛け比重が0.5g/cm3 以下である、
ことを特徴とする繊維製の静音面ファスナー。 - 前記多重織編構造からなる基材が編構造を有し、その基層以外の少なくとも1の編物層におけるウェール密度NW(ウェール数/cm)とコース密度NC(コース数/cm)とが、次式(1)を満足してなる請求項3記載の静音面ファスナー。
5.9≦NW+NC≦29.0 …… (1) - 前記多重織編構造からなる基材が織構造を有し、その基層以外の少なくとも1の織物層における経糸密度が37.5(本/cm)以下、緯糸密度が18.0(本/cm)以下であり、経糸及び緯糸の太さが140〜300デニールである請求項3記載の静音面ファスナー。
- 前記基材の構成糸条がウレタン繊維又は低級ポリエチレンを含んでなる請求項1〜3のいずれかに記載の静音面ファスナー。
- 前記基材の構成糸が嵩高糸である請求項1〜3のいずれかに記載の静音面ファスナー。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の静音面ファスナーが取着された物品と前記面ファスナーとの間に吸振手段を有してなることを特徴とする製品。
- 前記吸振手段が、見掛け比重が0.5g/cm3 以下の各種布帛類である請求項8記載の製品。
- 前記吸振手段が、発泡樹脂である請求項8記載の製品。
- 前記物品の見掛け比重が0.5g/cm3 以下である請求項10記載の製品。
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