JP3972243B2 - ピルビン酸濃度の簡易判定方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば清酒等の酵母発酵物を製造する際に生成されるピルビン酸の濃度を簡易に判定するためのピルビン酸濃度の簡易判定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
清酒等の酵母発酵物を製造する際には、ピルビン酸と呼ばれる物質が生成される。
【0003】
このピルビン酸は酵母発酵物の香りを劣化させる物質の前駆体であることが知られている。
【0004】
従って、製造者は、酵母発酵物を製造する際に該酵母発酵物中に形成されるピルビン酸を一定濃度以下にしなければならず、その為、酵母発酵物を製造する際に該酵母発酵物中にピルビン酸がどれだけの濃度(量)含まれているか測定しなければならない。
【0005】
しかし、従来から酵母発酵物中のピルビン酸の濃度を測定することは厄介であり、容易に行うことはできなかった。
【0006】
例えば、ピルビン酸濃度の測定方法として、2,4−ジニトロフェニルヒドラジンを用いた比色法、乳酸脱水素酵素(LDH)及び補酵素(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型:NADH)を用いた吸光度分析法、ピルビン酸オキシターゼ及び発色剤を用いた比色法等が知られている。
【0007】
しかし、これらの方法にはいずれも問題点がある。
【0008】
2,4−ジニトロフェニルヒドラジンを用いる比色法は、該2,4−ジニトロフェニルヒドラジンが劇物であるため、取り扱いに専門的な知識が求められ、化学薬品の取り扱いに不慣れな例えば清酒製造業者は簡便に使用することが難しいことから、専門の技術者を雇わなければならいという問題点がある。
【0009】
特に、中小企業においては、ピルビン酸濃度の測定のためだけに専門の技術者を雇うことは極めて困難であり、そのため、ピルビン酸濃度の測定は容易には行うことができない。
【0010】
また、前記2,4−ジニトロフェニルヒドラジンはピルビン酸以外の有機物にも反応を起こしてしまうため、特異性に欠け、正確なピルビン酸濃度の測定を行いづらいという問題点もある。
【0011】
また、乳酸脱水素酵素(LDH)及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)を用いた吸光度分析法は、前記乳酸脱水素酵素(LDH)等がピルビン酸に特異的に反応するため、正確なピルビン酸濃度を知ることができる点で秀れるが、該吸光度分析法は、可視光領域外の特定波長の増減によってピルビン酸濃度を定量するため、高価な分析機器が必要となり、よって、コスト高となる問題点がある。
【0012】
ピルビン酸オキシダーゼ及び発色剤を用いた比色法は、発色剤等を塗布した試験紙に、ピルビン酸を含む酵母発酵物を接触させることで該試験紙が発する可視光領域の色調の濃淡によりピルビン酸濃度の測定ができるため、高価な分析機器を用いる必要がない点で秀れるが、この比色法は、前記試験紙の発色度合いが微妙であることから、前記色調の濃淡が分かりにくく、そのため、ピルビン酸の濃度を正確に測定するには熟練を要するという問題点がある。
【0013】
よって、上記三方法で、ピルビン酸濃度を容易に測定することはできない。
【0014】
また、その他、ピルビン酸濃度の測定を行う為の種々の手段が知られているが、いずれも専門的な知識を必要としたり測定操作が厄介なものがほとんどで、誰でも簡単にピルビン酸濃度を測定できる方法は未だ提案されていない。
【0015】
本発明は、上記問題点を解決するもので、高度な実験(操作)技術や専門的知識を全く必要とせず、誰でも簡単にピルビン酸濃度を判定して該ピルビン酸濃度を簡易に測定することができる極めて実用性に秀れたピルビン酸濃度の判定技術を提供するものである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨を説明する。
【0017】
母発酵物の製造の際に生成するピルビン酸の濃度を簡易に判定する方法であって、前記酵母発酵物に、乳酸脱水素酵素及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型をえることで進行する下記(a)の機構及び下記(b)の条件を利用してフォルマザンによる発色の有無により、前記ピルビン酸が所定濃度以上であるか所定濃度未満であるかを判定することを特徴とするピルビン酸濃度の簡易判定方法に係るものである。

(a)酵母発酵物中に存在するピルビン酸が乳酸になると共にニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型がニコチンアミドアデニンジヌクレオチドに変換され、更に、前記ピ ルビン酸の酸化の際に消費されずに残存したニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型にテトラゾリウム塩及び触媒を加えることで該テトラゾリウム塩が発色性を有するフォルマザンに変換される。
(b)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型の濃度を、予め所定濃度のピルビン酸を酸化せしめる際に前記ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型が全て前記ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドに変換され得る濃度に設定する。
【0018】
また、請求項1記載のピルビン酸濃度の簡易判定方法において、前記(b)のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型の濃度は、少なくとも、低濃度、中濃度及び高濃度の3段階に設定されていることを特徴とするピルビン酸濃度の簡易判定方法に係るものである。
【0019】
また、請求項1,2いずれか1項に記載のピルビン酸濃度の簡易判定方法において、前記触媒は、ジアフォラーゼ等の酸化還元酵素若しくはフェナジンメントサルフェート等の電子キャリアが採用されていることを特徴とするピルビン酸濃度の簡易判定方法に係るものである。
【0020】
また、請求項1〜3いずれか1項に記載のピルビン酸濃度の簡易判定方法において、前記酵母発酵物は、清酒,ビール,ワイン等の製造の際に生成する酵母発酵物であることを特徴とするピルビン酸濃度の簡易判定方法に係るものである。
【0021】
【発明の作用及び効果】
清酒等の酵母発酵物に乳酸脱水素酵素(LDH)及び濃度既知のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)を加えると、該酵母発酵物中のピルビン酸が乳酸脱水素酵素(LDH)の働きにより、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)の消費を伴って乳酸に酸化され、更に、該酸化反応において消費されるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)はニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)に変換されることになる。
【0022】
この際、ピルビン酸が例えば1mol酸化される為に、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)は1mol消費されるため、該ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)の消費量からピルビン酸濃度を測定することができる。
【0023】
そして、ピルビン酸を乳酸に酸化せしめた後の溶液に、テトラゾリウム塩と触媒とを加えると、前記ピルビン酸の酸化の際に消費されずに残存したニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)により、テトラゾリウム塩が還元されて発色性を有するフォルマザンに変換され、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)となる。
【0024】
えば、このフォルマザンが呈する色の濃さを、ピルビン酸が所定濃度の際に呈する色の濃さを示す比較材と比較し、該比較材が示す色の濃さに対して前記フォルマザンが呈する色が濃いか若しくは薄いかを目視で判定(確認)することで、酵母発酵物の製造の際に生成するピルビン酸の濃度が比較材で示されるピルビン酸の所定濃度より高いか低いかを判定して酵母発酵物中のピルビン酸濃度を測定することができる。
【0025】
記ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH),前記乳酸脱水素酵素(LDH),テトラゾリウム塩及び触媒は、夫々、所定量の前記酵母発酵物中のピルビン酸濃度を測定する為に必要な量ずつ分量して使用できるように構成されているため、単に前記酵母発酵物を所定量取り出し、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH),前記乳酸脱水素酵素(LDH),テトラゾリウム塩及び触媒を、順次必要な量ずつ分量して加え、最後に目視で判定(確認)するだけで、ピルビン酸の濃度を測定することができる。
【0026】
従って、本発明によれば、高度な実験(操作)技術も専門的な知識も不要で、酵母発酵物に酵素等を必要量だけ分量して順次加えていくだけで、誰もが簡単に酵母発酵物中のピルビン酸の濃度を判定して該ピルビン酸濃度を簡易に測定することができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施例について、以下に説明する。
【0028】
本実施例は、清酒,ビール,ワイン等の酵母発酵物(醸造物等)の製造の際に生成するピルビン酸の濃度を簡易に判定する判定キットであって、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)と、乳酸脱水素酵素(LDH)と、テトラゾリウム塩と、触媒と、ピルビン酸が所定濃度の際の発色状態を示す比較材とから成り、前記ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH),前記乳酸脱水素酵素(LDH),前記テトラゾリウム塩及び前記触媒は、夫々所定量の前記酵母発酵物中のピルビン酸の濃度を測定する為に必要な量ずつに分量して使用できるように構成されているものである。
【0029】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)は、酵母発酵物中のピルビン酸が乳酸に酸化される際の補酵素として使用する。
【0030】
また、このニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)の濃度は、酵母発酵物中のピルビン酸の濃度が100mg/lの時に該ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)が全量消費される濃度、即ち、805mg/lに設定する。
【0031】
また、このニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)は、例えば錠剤状のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)を採用する。また、この錠剤状のNADHは、該錠剤1錠で、丁度ピルビン酸の濃度を1回測定できるように形成する。
【0032】
乳酸脱水素酵素(LDH)は、酵母発酵物中のピルビン酸を乳酸に酸化する酵素として使用する。
【0033】
この乳酸脱水素酵素(LDH)は、例えばウサギ筋繊維由来LDHを採用する。
【0034】
また、この乳酸脱水素酵素(LDH)の濃度は、例えば100unit/mlに設定する(尚、unitは酵素の反応速度を示す国際単位である。)。
【0035】
テトラゾリウム塩は、酵母発酵物中のピルビン酸が乳酸に酸化された後に、該酸化反応で使用されずに残存したニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)と反応して発色させる為に使用する。
【0036】
具体的には、テトラゾリウム塩と、酵母発酵物中に残存したニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)とが反応すると、該ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)はニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)に変換され、テトラゾリウム塩はフォルマザンに変換されて、該フォルマザンの濃度によって薄赤色から濃赤色に発色する。
【0037】
このテトラゾリウム塩は、例えば2−(4−iodophenyl)−3−(4−nitrophenyl)−5−phenyl−2H−tetrazoliumchloride(INT)を採用する。
【0038】
また、このテトラゾリウム塩の濃度は、例えば500mg/lに設定する。
【0039】
前記触媒は、電子キャリアーを採用している。
【0040】
具体的には、この電子キャリアーとして、例えば1−methoxy−5−methylphenazinium methylsulfate(1−methoxyPMS)を使用する。
【0041】
また、この電子キャリアーの濃度は、例えば55mg/lに設定する。
【0042】
前記比較材は、該比較材が示す色の濃さと、酵母発酵物中に含まれるピルビン酸を乳酸に酸化した後に残存するニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)にテトラゾリウム塩であるINTと電子キャリアーである1−methoxyPMSを加えて発色したもの(フォルマザンによる発色)の色の濃さとを比較して、前記比較材が示す色の濃さに対して前記フォルマザンによる発色が示す色の濃さが濃いか若しくは薄いかを目視により判定(確認)することで、前記酵母発酵物中のピルビン酸濃度を測定するために使用する。
【0043】
この比較材(図示省略)は、所定濃度のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)に電子キャリアー及びテトラゾリウム塩を加えることで形成される。この際、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)の濃度は、低濃度,中濃度,高濃度(例えば402.5,805,2415mg/l)の三種類が設けられ、各濃度のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)溶液に、上述した電子キャリアー及びテトラゾリウム塩を加えて三種類の異なる濃度の比較材を形成することで、酵母発酵物中に含まれるピルビン酸の濃度をより細かく分析することができる。尚、前述したニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)の低濃度から高濃度までの三種類の濃度は、ピルビン酸濃度が50,100,300mg/lの時に丁度反応する濃度である。
【0044】
また、ピルビン酸から乳酸への酸化反応の際に、pHの急激な変化を防止するための緩衝液も併用すると良い。この緩衝液は、例えば0.1MトリスHCl緩衝液(pH7.6)を採用する。
【0045】
また、この0.1MトリスHCl緩衝液(pH7.6)は、後述の液体ボトル2に収容され、一本の液体ボトル2に収容された緩衝液が、丁度ピルビン酸を一回定量する為に必要とされる量に設定されている。
【0046】
その他、ピンセット,スポイト,試験管,25℃の恒温槽(厳密な試験の場合に必要),タイマーを用意する。
【0047】
また、前記スポイトは、乳酸脱水素酵素(LDH)用と1−methoxy−PMS用とテトラゾリウム塩用の3本が用意されている。
【0048】
また、乳酸脱水素酵素(LDH)用のスポイトは、1滴が丁度ピルビン酸濃度の一回の測定に使用される量となるように構成されている。
【0049】
また、1−methoxy−PMS(電子キャリアー)用のスポイトは、1滴が丁度ピルビン酸濃度の一回の測定に使用される量となるように構成されている。
【0050】
また、INT(テトラゾリウム塩)用のスポイトは、5滴が丁度ピルビン酸濃度の一回の測定に使用される量となるように構成されている。
【0051】
尚、図中符号1は錠剤のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)を収納した容器、符号2は緩衝液を収容したボトル、符号3は乳酸脱水素酵素(LDH)を収容したボトル、符号4は電子キャリアーである1−methoxy−PMSを収容したボトル、符号5はテトラゾリウム塩であるINTを収容したボトルを示している。
【0052】
本実施例の判定キットの使用方法について説明する。
【0053】
先ず、ボトル2に収容された0.1MトリスHCl緩衝液(pH7.6)を全量試験管に移す。
【0054】
続いて、この試験管にピルビン酸濃度100mg/l用NADH錠剤を一錠加えよく撹拌し溶解させる。尚、ここで100mg/l用のNADH錠剤を採用したのは、ピルビン酸濃度が100mg/lとなる時点が、もろみ上槽タイミングを決める一つの目安になるからである。
【0055】
続いて、試験管に試料となる酵母発酵物を所定量加えると共に、該試験管に前記ボトル3に収容した乳酸脱水素酵素(LDH)を乳酸脱水素酵素用のスポイトを用いて一滴加えて撹拌する。
【0056】
続いて、前記試験管を25℃の温度にて10分間放置する。尚、この際にピルビン酸が反応して乳酸に酸化される。
【0057】
この放置後、前記試験管に、前記ボトル4に収容した1−methoxy−PMSを、1−methoxy−PMS用のスポイトを用いて1滴加えると共に、該試験管に、前記ボトル5に収容したINTを、INT用のスポイトを用いて5滴加え、10分間放置して発色させる。
【0058】
試料中のピルビン酸濃度が100mg/l未満の場合には、該ピルビン酸の濃度により赤色の色素が形成される。一方、ピルビン酸濃度が100mg/lを超える場合は無色のままとなる。尚、本実験例は、従来のピルビン酸オキシダーゼと発色剤を用いた方法に比し、発色剤の発色度合いが明瞭で視認し易いため、ピルビン酸濃度を正確に測定することができる。
【0059】
これにより、試料中にピルビン酸が、もろみ上槽タイミングを決める一つの目安となる100mg/lよりも多く含まれているか或いは少なく含まれているかを、目視により測定(確認)できることになる。
【0060】
この際、予め、比較材であるピルビン酸標準を例えば25mg/l,50mg/l,75mg/lの三種類(夫々色が異なる)を用意し、これら各濃度の比較材と試験管の溶液が呈する色とを比較することで、酵母発酵物中に含まれるピルビン酸の濃度をより詳しく知ることができる。よって、酵母発酵物の製造者は、該酵母発酵物にピルビン酸がどれだけ含まれているかを、高度な実験(操作)技術を要さずに、また、専門的な知識を要さずに、単にニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)等を試験管に加えて発色させ、各種濃度の比較材と比較するだけで比較的詳しく知ることができる。
【0061】
本実施例は上述のようにするから、ピルビン酸濃度を測定したい酵母発酵物(例えば清酒)に、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)等を一回のピルビン酸濃度の測定に必要な量ずつ簡単に分量して順次加えていくだけで、誰でも容易に酵母発酵物中のピルビン酸濃度を判定しておおよその濃度を測定することができる。
【0062】
即ち、高度な実験(操作)技術がなくても専門的な知識がなくても、酵母発酵物中のピルビン酸濃度を簡単に測定することができる。
【0063】
しかも、本実施例の判定キットは、予めボトル等の容器に収納した酵素等を所定量の酵母発酵物と共に加え、比較材と比較するだけで、該酵母発酵物中のピルビン酸濃度を測定できるため、高価な器具や装置を必要とせず、また、専門の技術者を雇う必要もないため、よって、安価にピルビン酸濃度を測定することができる。これにより、これまでピルビン酸濃度の測定を容易に行うことができなかった中小企業でも、ピルビン酸濃度の測定を容易且つ安価に行うことができる。
【0064】
また、本実施例では、ピルビン酸を含んだ溶液をフォルマザンの発色作用により、良好に発色させて比較材と容易に比較することができるため、ピルビン酸濃度をより簡易且つ正確に測定することができる。
【0065】
また、例えば比較材を複数用意し、これら複数の比較材と試料を含む発色させた溶液とを単に比較するだけで、酵母発酵物中のピルビン酸濃度をより詳しく知ることもできる。
【0066】
また、本実施例の簡易判定キットは、劇物等の人体に影響を与える試薬を用いないため、食品製造メーカーでも安心して使用することができる。
【0067】
また、例えば酒製造メーカーにおいては、酵母発酵物中のピルビン酸濃度を小まめに管理できるため、清酒の酒質を向上させることができる。
【0068】
次に、本実施例の簡易判定キットを用いてピルビン酸濃度を測定した際の実験例を示す。尚、ピルビン酸濃度の測定に使用する酵素等の濃度は、前述した各種酵素等の濃度を採用した。
【0069】
また、本実験例においては、以下のように調整した溶液を比較材として用いて各種実験を行った。
【0070】
先ず、試験管に蒸留水を1.9ml加えた。
【0071】
続いて、試験管に0.1MトリスHCl緩衝液を1.0ml加えた。
【0072】
続いて、錠剤ではなく、液状のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)溶液を0.1ml加えた。尚、この液状のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)溶液の濃度は、5.3mg/mlに設定した。
【0073】
続いて、乳酸脱水素酵素(LDH)溶液を0.1ml加えた。
【0074】
続いて、試料0.1mlを採取して前記試験管に加えた。
【0075】
この試験管をよく撹拌後、25℃の水浴中で10分間放置した。
【0076】
続いて、試験管に電子キャリアーである1−methoxy−PMSを0.02ml加えると共に、テトラゾリウム塩であるINTを0.5ml加えて室温で10分間放置した。
【0077】
この放置後、所定発色度合いの比較材を得た。
【0078】
第一実験例
先ず、本判定キットの定量性について調べるために検量線の作成を行った。
【0079】
標準物質としてピルビン酸ナトリウム水溶液の濃度を段階的に増加させたものを試料として使用し、各濃度における波長500nmの吸光度を測定した。
【0080】
尚、対照は蒸留水を試料として用いた。
【0081】
また、予備実験の結果、残存するニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)の量が比較的多い場合、不溶性の色素が生成されるため、n−デカン3mlを投入してよく撹拌し、n−デカン層へ色素を抽出し、この抽出液の色調により定量した。その結果を下記表1に示した。
【0082】
【表1】
Figure 0003972243
【0083】
表1によれば、標準物質の濃度の増加と吸光度の間には比例関係が認められた。また、係数もR2=0.9955と非常に高かった。
【0084】
従って、本方法には定量性があると言える。
【0085】
第二実験例
次に、既存定量キットとの相関について調べた。
【0086】
既存の定量キット(F−キットピルビン酸用、ロシュ社製)の定量値と本方法における定量値の関係について検討した。同一の標準物質を夫々の方法で測定し、その定量値をプロットしたものが下記表2である。
【0087】
【表2】
Figure 0003972243
【0088】
表2によれば、両者の定量値には、r=0.99989と非常に高い相関が認められた。
【0089】
従って、本実施例は、既存の定量キットと同様に利用することが可能であると言える。
【0090】
第三実験例
次に、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)濃度制限による発色の制御に関する検討を行った。
【0091】
これは、測定時に添加するニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)濃度を制限することによって、ピルビン酸の濃度により発色の有無を意図的に操作可能ではないかと考えられたためである。
【0092】
第一,第二実験例で使用したニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)溶液を5倍に希釈して用いた。標準物質濃度を0,70,80,90,100,110,120及び200mg/lと設定した。これらを用いて測定操作を行い500nmの吸収を測定した。その結果を下記表3に示す。
【0093】
【表3】
Figure 0003972243
【0094】
表3によれば、ピルビン酸濃度が100mg/l未満の場合には、直線的に発色が減少し、100mg/lを超える濃度では発色しないことが認められた。
【0095】
従って、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)の濃度を測定したいピルビン酸濃度ですべて消費されるように調節することで、検体中のピルビン酸濃度を試料を含んだ溶液の発色の有無により判別可能であると考えられた。
【0096】
尚、ピルビン酸濃度の90mg/lと100mg/lの発色の差異は肉眼で判別可能であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本実施例の判定キット一式を示す説明図である。

Claims (4)

  1. 母発酵物の製造の際に生成するピルビン酸の濃度を簡易に判定する方法であって、前記酵母発酵物に、乳酸脱水素酵素及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型をえることで進行する下記(a)の機構及び下記(b)の条件を利用してフォルマザンによる発色の有無により、前記ピルビン酸が所定濃度以上であるか所定濃度未満であるかを判定することを特徴とするピルビン酸濃度の簡易判定方法。

    (a)酵母発酵物中に存在するピルビン酸が乳酸になると共にニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型がニコチンアミドアデニンジヌクレオチドに変換され、更に、前記ピルビン酸の酸化の際に消費されずに残存したニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型にテトラゾリウム塩及び触媒を加えることで該テトラゾリウム塩が発色性を有するフォルマザンに変換される。
    (b)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型の濃度を、予め所定濃度のピルビン酸を酸化せしめる際に前記ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型が全て前記ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドに変換され得る濃度に設定する。
  2. 請求項1記載のピルビン酸濃度の簡易判定方法において、前記(b)のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型の濃度は、少なくとも、低濃度、中濃度及び高濃度の3段階に設定されていることを特徴とするピルビン酸濃度の簡易判定方法。
  3. 請求項1,2いずれか1項に記載のピルビン酸濃度の簡易判定方法において、前記触媒は、ジアフォラーゼ等の酸化還元酵素若しくはフェナジンメントサルフェート等の電子キャリアが採用されていることを特徴とするピルビン酸濃度の簡易判定方法。
  4. 請求項1〜3いずれか1項に記載のピルビン酸濃度の簡易判定方法において、前記酵母発酵物は、清酒,ビール,ワイン等の製造の際に生成する酵母発酵物であることを特徴とするピルビン酸濃度の簡易判定方法。
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