JP3971338B2 - α型結晶構造主体のアルミナ皮膜の製造方法、α型結晶構造主体のアルミナ皮膜で被覆された部材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐磨耗性に優れた立方晶窒化硼素(以下、「cBN」と略記することがある)焼結体を基材とし、この基材上に耐酸化性にすぐれたα型結晶構造を主体とするアルミナ皮膜を製造するための有用な方法、およびこうした皮膜を形成して耐磨耗性・耐酸化性に優れたものとした表面被覆部材、およびこのような表面被覆部材の製造するための有用な方法等に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
切削工具には優れた耐摩耗性や耐熱性が要求されるのであるが、こうした切削工具に用いられる素材としては、超硬合金、高速度鋼、cBN等が知られており、こうした素材(基材)の表面に更に各種硬質皮膜を形成したものも切削工具として広く使用されている。
【0003】
上記した各種の素材のうちで、cBNは他の素材に比べて強度や耐摩耗性の点で優れているといわれているが、こうしたcBNを用いるものとして、例えば特許文献1のような技術が知られている。この技術では、TiCやTiN或はTiCN、更にはAl2O3やWC、TiB2等で構成されたセラミックス結合相が20〜50体積%を占め、残りが実質的にcBN分散相からなる組成を有するcBN焼結体基材の表面に、物理蒸着法(PVD法)や化学蒸着法(CVD法)を適用して、Tiの炭化物、窒化物、炭・窒化物、炭酸化物および炭窒酸化物、並びに酸化アルミニウムのうちの1種の単層または2種以上の複層からなる硬質被覆層を5〜20μmの平均層厚で形成してなる表面被覆cBN基セラミックス製切削工具が提案されており、この工具は高硬度焼入鋼や鋳鉄などの切削加工に用いられている。
【0004】
切削工具の特性は工具基材とその表面に形成される硬質皮膜との適切な組み合わせによって決定されるといえるが、こうした観点からcBN焼結体を基材としたときの被覆材料として最も魅力的であるのは、酸化アルミニウム(Al2O3:アルミナ)皮膜である。これは、高温下での耐塑性変形性に優れたcBN焼結体を基材とし、化学的安定性に優れるAl2O3皮膜を密着力良く被覆することによって、高温・高負荷下での耐摩耗性、特に耐クレータ性に優れる被覆部材が構成でき、こうした特性が要求される切削工具等への適用に適していると考えられるからである。
【0005】
こうした観点から、これまでにもcBN焼結体基材へのアルミナ皮膜形成に関する技術が様々提案されている。例えば特許文献2には、鉄系材料の高硬度難削材切削および高速・高能率切削において、耐摩耗性、特に耐クレーター摩耗性に優れる切削工具を提供する目的において、cBN焼結体基材における切削に関与する表面の少なくとも一部に1層以上のAl2O3層を形成した工具が提案されている。この焼結体基材はcBN分散相を20〜99体積%、平均粒径1μm以下のAl2O3を結合相として1.0〜10体積%未満を含み、その基材上にアルミナ皮膜が厚さ0.5〜50μm程度で形成されたものである。また、Al2O3皮膜は、厚さが0.5〜25μmの場合には、平均結晶粒径を0.01〜4μmに、厚さが25超〜50μmの場合には、平均結晶粒径を0.01〜10μmに制御するのが有効であることも開示されている。
【0006】
一方、金属加工のためのコーティングされたcBN切削工具に関する技術として、例えば特許文献3には、焼結炭化物支持体を伴うまたは伴わない1若しくは複数のcBN焼結体からなる工具であって、コーティングは1または複数の耐熱性化合物の層で構成されており、この層のうちの少なくとも1つの層は、粒度が0.1μm未満の微粒結晶質γ相アルミナからなっているものが開示されている。そしてこのアルミナ層は、450〜700℃の基材温度において、2極パルスDMS(デュアルマグネトロンスパッタリング)技術によって堆積させるものである。
【0007】
或は、同様のcBN切削工具に関する技術として、例えば特許文献4には、同様の構成の工具であるが、皮膜としてのγ相アルミナは、プラズマ活性化化学気相堆積(PACVD)で堆積させることを特徴とするものが開示されている。そしてこの技術では、コーティングする工具基材を固定して電気的に接続した2つの電極の間に2極パルス直流電圧を適用することによって、プラズマをもたらしている。
【0008】
【特許文献1】
特開昭59−8679号公報 特許請求の範囲等
【特許文献2】
特開2000−44370号公報 特許請求の範囲等
【特許文献3】
特表2002−543993号公報 特許請求の範囲等
【特許文献4】
特表2002−543997号公報 特許請求の範囲等
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
アルミナ皮膜形成について、これまで提案された各種技術においても以下のような問題がある。即ち、上記特許文献3、4の技術で形成されるアルミナ皮膜はγ型結晶構造を有するアルミナ(γアルミナ)であるが、このγアルミナは、各種の結晶形態が存在するアルミナの中で準安定な結晶形態であるので、皮膜が高温環境に曝されると本質的に安定なα型結晶構造のアルミナ(αアルミナ)に変態することがあり、この変態に伴って皮膜に亀裂が生じたり皮膜剥離が発生したりする恐れがある。こうしたことから、高速切削化の傾向にある近年の切削加工には十分に対応できない。
【0010】
これに対して、特許文献2に示された技術では、形成されるアルミナ皮膜としてα型結晶構造を有するアルミナも含まれており、この結晶形態であれば前記のような問題は生じない。しかしながら、この技術では皮膜を形成するcBN焼結体中の結合相の組成が限定されることになる。また、この技術でαアルミナ皮膜を形成する方法としては、CVD法が示されているが、こうした方法では皮膜形成時の基板温度は1000℃を超える高温雰囲気となり、このような高温では基材のcBN焼結体が過熱されて、hBN相へ変態する可能性があり、好ましくない事態を招くことになる。
【0011】
本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、cBN焼結体基材へのα型結晶構造を主体とするアルミナ皮膜を、CVD法のような高温によることなく、またcBN焼結体の組成を特定しなくても形成可能とするアルミナ皮膜の製造方法、およびこうしたアルミナ皮膜を被覆した部材、並びに該アルミナ被覆部材を製造するための有用な方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るα型結晶構造主体のアルミナ皮膜の製造方法とは、TiC,TiN,TiCN,AlN,TiB 2 およびAl 2 O 3 よりなる群から選ばれる1種以上を含む結合相と、立方晶窒化硼素分散相からなるcBN焼結体基材上に、α型結晶を主体とするアルミナ皮膜を製造する方法であって、cBN焼結体基材表面を酸化処理し、その後にアルミナ皮膜を形成する点に要旨を有するものである。
【0013】
また前記酸化処理は酸化性ガス酸化雰囲気下で基材温度を650〜800℃に保持して行うことが好ましく、前記α型結晶構造を主体とするアルミナ膜の形成は、基材温度を650〜800℃としてPVD法を適用して行うことが好ましい。
【0014】
一方、上記目的を達成し得た本発明の被覆部材とは、TiC,TiN,TiCN,AlN,TiB 2 およびAl 2 O 3 よりなる群から選ばれる1種以上を含む結合相と、立方晶窒化硼素分散相からなるcBN焼結体基材上に、α型結晶を主体とするアルミナ皮膜を被覆した被覆部材であって、cBN焼結体基材とアルミナ皮膜との界面には、前記cBN焼結体基材表面を酸化させてできた酸化物含有層が介在されたものである点に要旨を有するものである。こうした被覆部材においては、前記結合相は、焼結体全体に対して1〜50体積%含むものであることが好ましい。
【0015】
こうした被覆部材の表面に形成されたα型結晶構造を主体とするアルミナ皮膜は、圧縮の残留応力を有するものとなる。
【0016】
上記のような部材と製造するに当たっては、cBN焼結体基材の表面を酸化処理する工程と、α型結晶構造を主体とするアルミナ皮膜を形成する工程を、同一成膜装置内で順次実施することが好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、α型結晶構造を主体とするアルミナ皮膜をcBN焼結体基材上へ被覆するに際して、CVDのような高温によることなく、且つcBN焼結体の組成を特定しなくても実現し得る技術について様々な角度から検討した。その結果、cBN焼結体の表面を酸化性ガス雰囲気下に暴露して酸化処理した後、基材温度を650〜800℃としてPVD法によって成膜処理してやれば、cBN焼結体基材表面にα型結晶構造を主体とするアルミナ皮膜ができることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
また本発明によると、耐磨耗性に優れたcBN焼結体基板上に、耐酸化性に優れたα型結晶構造主体のアルミナ皮膜を効果的に形成することができ、耐磨耗性および耐酸化性に優れた表面被覆部材が実現できることになる。しかも、該表面被覆部材を製造するに際して、CVD法を適用するときのような高温雰囲気に曝すことなく、またcBN焼結体の組成上の制約を受けることもないのである。
【0019】
上記の様な効果が発揮される理由については、その全てを解明し得た訳ではないが、おそらく次の様に考えることができる。即ち、cBN焼結体は結合相としてTiC,TiN,TiCN,AlN,TiB2、Al2O3などを含有しており、皮膜を形成する表面層にもその一部が露出した状態となっているが、このような焼結体基材を高温で酸化雰囲気に暴して酸化処理すると、前記結合相のうち非酸化物結合相は表面に露出している部分から酸化されることになる。また、Al2O3のような酸化物の結合相であっても微視的にはその表面が炭化水素等の汚染物が付着物状態であり、高温で酸化雰囲気に暴して酸化処理することによって、こうした汚染物が除去されその表面には純粋な酸化物の表面が露出するものと考えられる。このようにして酸化処理工程を経過した後は、cBN焼結体の表面には、結合相が酸化した酸化物、あるいは元々酸化物の結合相にあっては表面が純粋な酸化物状態となって、酸化物含有相が存在する部位が基板表面全域に亘って分散した状態となったと考えられる。また焼結体中のcBN自体も表面に酸化物を形成している可能性もある。こうしたことから、cBN焼結体基板の表面全体に亘ってαアルミナの結晶成長に好適な領域となる酸化物層が形成されており、こうした領域を起点として、αアルミナの結晶成長が起こるためα型結晶構造主体のアルミナ皮膜が比較的低い成膜温度で形成できるものと考えられる。
【0020】
本発明で基材として用いるcBN焼結体中に含まれる結合相としては、特定の種類に限定されるものではなく、TiC,TiN,TiCN,AlN,TiB2およびAl2O3よりなる群から選ばれる1種以上を少なくとも含有しているものが採用できるが、これ以外にも周期律表4a、5a、6a族の金属若しくはAl、Si等の金属の窒化物、炭化物、硼化物およびこれらの相互固溶体や、金属(例えば、Al,Ti,Cr,Fe若しくはこれらを含む合金)を含むものも利用できる。尚、本発明による酸化処理による効果を考慮すると、結合相としての化合物は非酸化物系のものを少なくとも含んでいることが好ましい。
【0021】
cBN焼結体中の結合相の含有量としては、焼結体全体に対して1〜50体積%であることが好ましい。結合相の含有量が1体積%未満では所望の強度を確保できず、その含有量が50体積%を越えると基材の耐磨耗性が低下することになる。
【0022】
本発明ではcBN焼結体基材の表面を酸化して、その表面(即ち、cBN焼結体とアルミナ皮膜との界面となる部分)に酸化物含有層を形成するものである。この酸化処理工程は、被覆部材を効率良く製造するという観点から、次の工程で成膜するアルミナ皮膜を形成する成膜装置内で行うことが望ましく、酸化性ガスの雰囲気中で基材温度を高めて行う熱酸化が好ましい方法である。このときの酸化性ガス雰囲気としては、例えば酸素、オゾン、H2O2等の酸化性ガスを含有する雰囲気が挙げられ、その中には大気雰囲気も勿論含まれる。
【0023】
また前記酸化は、基材温度を650〜800℃に保持して熱酸化を行うことが望ましい。基材温度が低過ぎると十分に酸化が行われないからであり、好ましくは700℃以上に高めて行うのが良い。基材温度を高めるにつれて酸化は促進されるが、基材温度の上限は、本発明の目的に照らして1000℃未満に抑えることが必要である。本発明では、800℃以下でもα型結晶構造主体のアルミナ皮膜の形成に有用な酸化物含有層を形成することができる。
【0024】
本発明では、上記酸化処理のその他の条件について格別の制限はなく、具体的な酸化方法として、上記熱酸化の他、例えば酸素、オゾン、H2O2等の酸化性ガスをプラズマ化して照射する方法を採用することも勿論有効である。
【0025】
上記のような酸化物含有層を形成すれば、その表面にα型結晶構造主体のアルミナの膜を確実に形成することができるのである。尚、このα型結晶構造が70%以上のものが優れた耐熱性を発揮するので好ましく、より好ましくはα型結晶構造が90%以上のものであり、最も好ましくはα結晶構造が100%のものである。
【0026】
α型結晶構造を主体とするアルミナ皮膜の膜厚は、0.1〜20μmとすることが望ましい。該アルミナ皮膜の優れた耐熱性を持続させるには、0.1μm以上確保することが有効だからであり、好ましくは1μm以上である。しかしα型結晶構造主体アルミナ皮膜の膜厚が厚すぎると、該アルミナ皮膜中に内部応力が生じて亀裂等が生じ易くなるので好ましくない。従って、前記膜厚は20μm以下とするのがよく、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下である。
【0027】
本発明ではα型結晶構造主体のアルミナ皮膜の形成手段は特に限定されないが、CVD法では1000℃以上の高温で行う必要があるので好ましくなく、比較的低温域で成膜することのできるPVD法を採用することが望ましい。こうしたPVDのうち、スパッタリング法特に反応性スパッタリング法では、安価なメタルターゲットを用いて高速成膜が実現できるので好適である。またアルミナ皮膜を形成するときの温度は特に限定されないが、前工程の酸化処理からの連続性を考慮すると、酸化処理工程のときと同レベルであることが好ましく、650〜800℃が好適である。またこの温度範囲では、α型結晶構造主体のアルミナ皮膜が形成されやすくなる上でも好ましい。
【0028】
上記のようにしてα型主体アルミナ皮膜を基板表面に形成することによって、基板、中間層、酸化物含有層およびα型主体のアルミナ皮膜が順次形成されたアルミナ皮膜被覆部材が実現でき、こうした部材は、耐摩耗性および耐熱性に優れたものとなり、切削工具等の素材として有用である。
【0029】
α型結晶構造主体のアルミナ皮膜はPVD法、より好ましくは反応性スパッタリング法で形成されるので、被覆する条件の選択により圧縮の残留応力を付与することができ、これは、被覆部材全体の強度を確保する上で好ましい。また、反応性スパッタリング法で形成したα型結晶構造主体のアルミナ皮膜には、AlおよびO以外にArが微量含有されたものとなる。
【0030】
上記のようにしてα型結晶構造主体のアルミナ皮膜をcBN焼結体基材表面に形成することによって、基材上に酸化物含有層およびαアルミナ皮膜が順次形成されたアルミナ皮膜被覆部材が実現でき、こうした部材は、耐摩耗性および耐熱性に優れたものとなり、切削工具等の素材として有用である。またこうした部材を製造するに当たっては、前記酸化物含有層およびαアルミナ皮膜の各形成工程を、同一装置内で行うことが生産性向上の観点から好ましい。
【0031】
【実施例】
以下、実施例挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0032】
本発明ではアルミナ皮膜を形成する基材として、市販のcBN焼結体切削工具を用いた。図1に示すPVD装置(真空成膜装置)を用いて、該基材上へのアルミナ皮膜の形成を行った。まず、試料(基材)2を装置内1の遊星回転治具4にセットし、装置1内をほぼ真空状態となるまで排気した後、装置内部の側面と中央に配置したヒータ5で試料を750℃まで加熱した。試料が750℃になった時点で、装置1内に酸素ガスを流量300sccm、圧力約0.75Paで導入し、20分間表面の酸化処理を行った。
【0033】
次に、2台のアルミターゲットを装着したスパッタリングカソード6を、アルゴンと酸素の混合雰囲気中で、約2.5kWのパルスDC電力を投入してスパッタを行い、前記酸化温度とほぼ同じ温度条件(750℃)で、アルミナ皮膜の形成を行った。アルミナ皮膜の形成に当たっては、放電電圧制御とプラズマ発光分光を利用して、放電状態をいわゆる遷移モードに保ち、約2μmのアルミナ皮膜を形成した。尚、このアルミナ皮膜の形成では、前記図1に示した回転テーブル3を回転(公転)させるとともに、その上に設置した遊星回転治具も回転させながら行った。
【0034】
処理完了後の各実施例のサンプルについては、薄膜X線回折により分析を行い、その結晶組織の特定を行った。図2は、cBN焼結体基材上に形成したアルミナ皮膜の薄膜X線回折結果を示したグラフである。図2には、基材のcBN焼結体からの回折ピークも含め、多くの回折ピークが観察されたため、まず基板単独でX線回折を行った結果との対比で、皮膜からの回折ピークと基材からの回折ピークを分別した。図2では基板からの回折ピークには三角形の印をつけ、このうちcBNによる回折ピークを「▽」、cBN以外からの回折ピークには「▼」をつけ区別した。また、皮膜からの回折ピークには丸の印をつけ、このうちα型結晶構造のアルミナからの回折ピークには「○」、それ以外のピークには「●」をつけ区別した。
【0035】
図2から判るように、基材とするcBN焼結体はcBN以外にも多くの回折ピークが観察されるが、これは結合相からの回折ピークである。結合相と思われる回折ピークの幾つかは六方晶のAlNに合致する角度に観察されたので、結合相は少なくともAlNを含むと考えられる。皮膜からの回折ピークは、図からも判るようにその殆どはαアルミナからのものであり、極わずかであるがγアルミナからの回折に一致する位置に非常に弱いピークが観察された。
【0036】
併せて、この皮膜をXPS(X線光電子分光法)により組成分析した結果では、微量(1原子%程度)のArを含有するが、これを除けば皮膜組成はAl:Oが2:3の割合で含有しているものである。
【0037】
これらの結果から、cBN焼結体基材上に形成された皮膜は、α型結晶構造を主体とするアルミナ皮膜と特定でき、cBN焼結体基材上にα型結晶構造を主体とするアルミナ皮膜を被覆した被覆部材が製造できていると判断できた。
【0038】
このようにして製作した被覆部材は、硬度に優れたcBN焼結体基材上に、耐酸化性にすぐれたアルミナ皮膜を、特に熱的な安定性が良いα型の結晶構造を主体として形成できているため、たとえば切削工具に適用した場合に、高硬度材を高速切削する等の用途に適しており、優れた性能が期待できる。
【0039】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、cBN焼結体基材へのα型結晶構造を主体とするアルミナ皮膜を、CVD法のような高温によることなく、またcBN焼結体の組成を特定しなくても形成可能とするアルミナ皮膜の製造方法が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施に用いる装置例を示す概略説明図(上面図)である。
【図2】cBN焼結体基材上に形成したアルミナ皮膜の薄膜X線回折結果を示したグラフである。
【符号の説明】
1 装置
2 試料(基板)
3 回転テーブル
4 遊星回転治具
5 ヒータ
6 スパッタリングカソード
Claims (7)
- TiC,TiN,TiCN,AlN,TiB 2 およびAl 2 O 3 よりなる群から選ばれる1種以上を含む結合相と、立方晶窒化硼素分散相からなるcBN焼結体基材上に、α型結晶を主体とするアルミナ皮膜を製造する方法であって、cBN焼結体基材表面を酸化処理し、その後にアルミナ皮膜を形成することを特徴とするα型結晶構造主体のアルミナ皮膜の製造方法。
- 前記酸化処理は酸化性ガス酸化雰囲気下で基材温度を650〜800℃に保持して行う請求項1に記載の製造方法。
- 前記α型結晶構造を主体とするアルミナ膜の形成を、基材温度を650〜800℃で物理蒸着法を適用して行う請求項1または2に記載の製造方法。
- TiC,TiN,TiCN,AlN,TiB 2 およびAl 2 O 3 よりなる群から選ばれる1種以上を含む結合相と、立方晶窒化硼素分散相からなるcBN焼結体基材上に、α型結晶を主体とするアルミナ皮膜を被覆した被覆部材であって、cBN焼結体基材とアルミナ皮膜との界面には、前記cBN焼結体基材表面を酸化させてできた酸化物含有層が介在されたものであることを特徴とするα型結晶構造主体のアルミナ皮膜で被覆された部材。
- 前記結合相は、焼結体全体に対して1〜50体積%含むものである請求項4に記載の部材。
- 前記α型結晶構造を主体とするアルミナ膜は、圧縮の残留応力を有するものである請求項4または5に記載の部材。
- TiC,TiN,TiCN,AlN,TiB 2 およびAl 2 O 3 よりなる群から選ばれる1種以上を含む結合相と、立方晶窒化硼素分散相からなるcBN焼結体上に、α型結晶を主体とするアルミナ皮膜を被覆した被覆部材を製造するに当たり、cBN焼結体の表面を酸化処理する工程と、α型結晶構造を主体とするアルミナ皮膜を形成する工程を、同一成膜装置内で順次実施することを特徴とするα型結晶構造を主体とするアルミナ皮膜で被覆された部材の製造方法。
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