JP3966567B2 - アクティベータプロテイン−1阻害物質 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は転写因子アクティベータプロテイン−1(Activator Protein-1、以下AP-1と略記する)の阻害活性を有する新規アントラキノン化合物に関するものであり、医療の分野で利用できる。
【0002】
【従来の技術】
細胞を血清や細胞増殖因子で刺激すると、 DNA複製、核分裂、細胞分裂が起こるが、G0期から S期への移行には数多くの遺伝子の発現が必要であり、特に細胞刺激後数分以内に前初期遺伝子群の転写が一過性に活性化される。この遺伝子群の中には、プロトオンコジーンのc-Fos 、 c-Junタンパク質があるが、これらのタンパク質はAP-1という複合体を形成しある種の遺伝子の発現を調節したり、また細胞の増殖の制御に関わる転写因子として知られている(Angel P. et al., Biochim. Biophys. Acta., 1072, 129. 1991 )。
【0003】
AP-1は、遺伝子上の 5'-TGA(C/G)TCA-3'という配列を認識して結合し転写因子としての機能を発揮する。このような配列を遺伝子上に有するものとしては、コラゲナーゼ、ストロメリシン、メタロチオネイン、インターロイキン-2などのタンパク質やSV40、ポリオーマウイルスなどのウイルスが知られている(Angel P.
et al., Cell., 49, 729. 1987)。
【0004】
本発明者らはAP-1が転写段階で制御するこれらの遺伝子産物は、炎症や自己免疫疾患の進展、悪化に関与し、またウイルス性疾患の進展そのものに寄与するのではないかと予想し、AP-1の活性を抑制することができればこれらの疾患の治療剤として期待されうると考えた。これまでに、AP-1の活性を抑制するものとしては、グルココルチコイドと(Jonat. C , et al., Cell., 62, 1189. 1990)とレチノイド誘導体(Fanjul A., et al., Nature, 372, 107. 1994)が知られている。これらの物質は、それぞれの受容体と複合体を形成しこれがAP-1と会合することによりAP-1の遺伝子への結合を抑制していることがその作用機構であると考えられている。しかしながら、これらの物質は、本来生体内のホルモンやビタミンの誘導体であり、過剰に投与した場合などの副作用が大きな問題となっている。このように、生体成分以外の物質でAP-1の活性を抑制する物質は未だにないのが現状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、放線菌培養物から得られるAP-1阻害活性を有する新規化合物を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
これまで微生物代謝産物からは、各種の抗菌、抗真菌活性物質をはじめ、動物細胞の情報伝達やタンパク質、糖質、脂質等の代謝、合成及び輸送などに関わる複雑な過程を阻害、調節する物質が数多く見いだされている。
【0007】
そこで本発明者らは、医薬品として有用なAP-1とDNA の直接結合の阻害物質を発見することを目指し、放線菌培養物を鋭意スクリーニングした結果、該転写因子阻害活性を有する新規化合物を見いだし本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、一般式(1)
【0008】
【化2】
【0009】
(式中、R1 およびR3 は水酸基又はメトキシ基、R2 はカルボキシル基又はカルボキシメチル基を示す。)
で表されるアントラキノン化合物、その生理的に認容性の塩又はその水和物、該アントラキノン化合物、その生理的に認容性の塩又はその水和物を有効成分とする医薬組成物、及び該アントラキノン化合物、その生理的に認容性の塩又は水和物の製造方法に関する。
【0010】
本発明化合物は転写因子AP-1の活性を阻害することにより、AP-1認識配列を有するDNA の転写を阻害する。従ってAP-1認識配列を有する遺伝子であれば、その遺伝子に対応するタンパク質の発現を有効に阻害することが可能である。コラゲナーゼ、ストロメリシン、メタロチオネイン、インターロイキン-1、インターロイキン-2、インターロイキン-6、インターロイキン-8、インターロイキン-2受容体などのタンパク質やSV40、ポリオーマウイルスなどのウイルスの遺伝子発現を抑制することにより、これらが関連する疾患を予防、治療することができる。
【0011】
以下にその疾患を例示する。
慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、ベーチェット病、結節性動脈周囲炎、潰瘍性大腸炎、活動性慢性肝炎、糸球体腎炎などをはじめとする各種自己免疫疾患、変形性関節炎、痛風、アテローム硬化症、乾癬、アトピー性皮膚炎、肉芽腫を伴う肺疾患、各種脳炎などの炎症状態が基本になっている各種難治性疾患、エンドトキシンショック、敗血症、炎症性大腸炎、糖尿病、急性骨髄芽球性白血病、肺炎、心臓移植、脳脊髄炎、食欲不振、急性肝炎、慢性肝炎、薬物中毒性肝障害、アルコール性肝炎、ウイルス性肝炎、黄疸、肝硬変、肝不全、心房粘液腫、キャッスルマン症候群、多発性骨髄腫、レンネルトTリンパ腫、メサンギウム腎炎、癌、癌の転移、エイズなどの治療及び予防に効果を示すことが期待される。特にAP-1阻害化合物が乾癬治療剤、抗炎症剤として有効であることを本発明者らが初めて見いだしたものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明化合物の原料として放線菌が選ばれるが、代表的な菌株として、四国山地の土壌より分離された放線菌で、本発明者らが、 Mer-K1115菌株と番号を付した菌株が好ましい。この Mer-K1115菌株の菌学的性状は次の通りである。
【0013】
(1)形態
よく分岐した基菌糸より直状(straight)あるいは曲状(flexuous)の気菌糸を伸長する。成熟した気菌糸の先に50個以上の球〜楕円形の胞子からなる胞子鎖を形成する。胞子の大きさは 0.5〜0.7 × 1.0〜1.2 ミクロンくらいで、胞子の表面は平滑状(smooth)を示す。菌糸の一部に結節あるいは胞子嚢とみられる直径3ミクロン程度の球状の構造もみられるが、その実体は不明である。
【0014】
(2)各種培地における生育状態
培養はすべて28℃で行った。色調の記載はコンティナー・コーポレーション・オブ・アメリカのカラー・ハーモニー・マニュアル(Container Corporation of America のColor Harmony Manual) の( )内に示す符号で表示する。
1)イースト・麦芽寒天培地
生育は良好で、気菌糸もよく発達する。気菌糸の色は白色であるが、そのうえに灰色がかった褐色(5fe) の胞子を産生する。培養裏面は焦げ茶色である。焦げ茶色の溶解性色素を大量に産生する。
2)オートミール寒天培地
生育は良好で、気菌糸もよく発達する。培養裏面は茶色となり、溶解性色素は産生しない。
3)チロシン寒天培地
成育は良好であるが、気菌糸はつけない。培地中にメラニン性色素を生成する。
【0015】
(3)各種炭素源の同化性
プリドーハム・ゴトリープ寒天培地に各種の炭素源を加え生育を見た。
1)Lーアラビノース +
2)D−キシロース ±
3)D−グルコース +
4)D−フラクトース +
5)シュークロース +
6)イノシトール +
7)Lーラムノース +
8)ラフィノース +
9)D−マンニトール +
+は同化する、±はわずかに同化する。
【0016】
(4)細胞壁成分の性状
細胞を加水分解したものをセルロースの薄層クロマトグラフィーによって分析したところ、本菌の細胞壁成分のジアミノピメリン酸(diamino pimeric acid)の異性体型はLLー型であり、糖成分として、ガラクトース、グルコース、マンノース、リボースが検出された。
【0017】
以上の菌学的性質から本菌はストレプトミセス(Streptomyces)属の菌であることは明確であり、インターナショナル・ジャーナル・オブ・システマティック・バクテリオロジー、18巻、2号、1968(International Journal of Systematic Bacteriology,vol.18,No.2,1968) でインターナショナル・ストレプトミセス・プロジェクト(International Streptomyces Project)が承認したストレプトミセス(Streptomyces)属株の記載性状と比較したところ、ストレプトミセス・グリセオルビジノサス(Streptomyces grioseorubiginosus) の記載とは、本菌がキシロースをやや資化するのに対しストレプトミセス・グリセオルビジノサスが良く資化する点、及び本菌の培養裏面ならびに培地中の溶解性色素が 0.05N HClの添加で変色しないのに対しストレプトミセス・グリセオルビジノサスのそれは変色する点をのぞけばほぼ一致する。
本発明者は本菌をストレプトミセス・グリセオルビジノサス・エムイーアール・ケイ1115(Streptomyces griseorubiginosus Mer-K1115)として工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P-15036の番号で寄託している。
【0018】
AP-1は、発癌プロモーターのホルボールエステルや、増殖因子、サイトカイン、紫外線などにより、細胞の情報伝達機構を介して活性化されて DNAに結合する。本発明者らは、AP-1活性抑制化合物のスクリーニングとして、活性化したAP-1を含むホルボールエステルで処理した細胞から核の抽出物と、AP-1認識配列を含む二重鎖オリゴヌクレオチドとの直接結合反応に対する影響を、ゲルシフトアッセイ法を用いて検討することができる(Meyer M. et al.,EMBO J.,12,2005,1993)。
【0019】
放線菌培養物からの抽出精製法は、有機溶媒分画、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなど通常使用されている公知の方法を適宜組み合わせることにより精製することができる。
【0020】
本発明化合物は、実施例に示されるごとく、医薬として有用である。本発明化合物は経口的、局所的、静注的、筋注的もしくは皮下注的に投与する事ができるが経口投与が好ましい。投与量は 0.1〜100mg/kg、好ましくは 0.5〜20mg/kg である。製剤の形としては、錠剤、カプセル剤、粉剤、座剤などが使用でき、これら製剤の担体としては薬学的に許容される賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、分散剤など通常の医薬品に使用されているものを用いることができる。
【0021】
【実施例】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1 Mer-K1115菌株の培養
Mer-K1115菌株の斜面培地(ISP-2寒天培地)から1白金耳ずつ4本の50mlの種培地(グリセリン2%、グルコース2%、大豆粉2%、酵母エキス 0.5%、塩化マンガン0.0005%、硫酸亜鉛0.0005%、加熱殺菌前にpH7.4 に調整)を入れた500ml容のエルレンマイヤーフラスコに接種し、28℃で3日間回転振盪培養を行った。この種培養液を1mlずつ80本の50mlの本培養培地(馬鈴薯でんぷん2%、グルコース2%、大豆粉2%、酵母エキス 0.5%、塩化ナトリウム0.25%、炭酸カルシウム0.32%、硫酸銅0.0005%、塩化マンガン0.0005%、硫酸亜鉛0.0005%、加熱殺菌前にpH7.4 に調整)を入れた 500ml容のエルレンマイヤーフラスコに接種して、28℃で5日間回転振盪培養を行った。
【0023】
実施例2 アントラキノン化合物の抽出精製
実施例1により得られた培養液 4.2リットルに1-ブタノール3リットルを加え、1時間攪拌後遠心分離し、1-ブタノール層を得た。1-ブタノール層を減圧下で 0.5リットルに濃縮し、水で膨潤したダイヤイオンHP-20(三菱化成社製)0.2リットル及び脱イオン水 0.5リットルを加えさらに濃縮し、1-ブタノールを完全に留去した。残った HP-20樹脂を内径50mmのカラムに充填し、20%メタノール水 1.3リットルで活性成分を溶出させた。溶出液は減圧下濃縮乾固し、150mg の残査を得た。この残査を少量のジメチルスルホキシドに溶解し、予めアセトニトリルー10mMリン酸二水素カリウム緩衝液(pH3.5)=3:7 の混合溶媒で緩衝化しておいたYMC-GEL ODS-AM 120-S50(ワイエムシー社製)のカラム(内径30mm, 長さ500mm)に付し、同じ組成の混合溶媒 1.2リットル、さらに7:13の組成の混合溶媒 1.6リットルで洗浄した。続いて、AP-1阻害活性をモニターしながら2:3 の混合溶媒で溶出し、AP-1阻害活性を示す画分を集めた。集めた画分はアセトニトリルを減圧下留去し、1-ブタノールで抽出した。1-ブタノール層を脱イオン水で洗浄後、減圧下濃縮乾固し、残査を凍結乾燥してAP-1阻害活性を示す新規アントラキノン化合物の純粋な黄橙色粉末25mgを得た。
【0024】
実施例3 構造解析
実施例2で得られた本発明化合物の物理化学的性状は下記の通りであり、その構造は一般式(1)において、R1 及びR3 が水酸基、R2 がカルボキシル基で示される。
(1)色及び性状:黄橙色柱状晶
(2)融点:225〜258℃
(3)分子量:326[FAB-MS:m/z327(M+H)+]
(4)分子式:C18H14O6
(5)紫外吸収スペクトル:中性、酸性及びアルカリ性メタノール中でのスペクトルを図1に示す。
λmax MeOH nm( ε):
220(29,000), 282(29,200), 388(sh.,6,600), 411(7,600),
430(sh.,6,100)
λmax 0.01N NaOH-MeOH nm(ε):
252(20,900), 321(27,000), 388(4,800), 501(6,400)
(6)赤外吸収スペクトル:臭化カリウム中での拡散反射法によるスペクトルを図2に示す。
【0025】
(7)1H核磁気共鳴スペクトル:重ジメチルスルホキシド中でのスペクトルを図3及び表1に示す。
(8)13C核磁気共鳴スペクトル:重ジメチルスルホキシド中でのスペクトルを図4及び表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
実施例4 モノメチル体[一般式(1)において、R1=R3=OH、R2=COOCH3]の調製
実施例2で得られたアントラキノン化合物5mgを10%塩酸含有メタノール試薬0.5ml に溶解し、封管中6時間 100℃に加熱した。反応液を減圧下濃縮乾固した後、残渣を凍結乾燥してモノメチル体の黄色粉末5mg を得た。
【0028】
分子量:340[FAB-MS:341(M+H)+]
分子式:C19H16O6
1H−NMRスペクトル(重DMSO、δin ppm):
0.98(3H,t,J=7.2Hz), 1.56(2H,m), 2.96(2H,m), 3.85(3H,s),
7.61(1H,dd,J=8 & 1Hz), 7.63(1H,dd,J=8 & 1Hz), 7.64(1H,s),
7.72(1H,br.t,J=8Hz), 12.86(1H,s)
実施例5 ジメチル体[一般式(1)において、R1=OH,R2=COOCH3,R3=OCH3で示される化合物]の調製
実施例2で得られたアントラキノン化合物5mg をベンゼン 0.5mlの混合溶媒に溶解し、少量のトリメチルシリルジアゾメタン試薬(10%含有ヘキサン溶液)を加え、室温で1時間攪拌した。反応液を減圧下濃縮乾固した後、残渣を凍結乾燥してモノメチル体の黄色粉末5.2mg を得た。
【0029】
1H-NMRスペクトル(重クロロホルム、δin ppm):
1.07(3H,t,J=7.2Hz), 1.64(2H,m), 3.08(2H,m), 3.97(3H,s), 4.02(3H,s),
7.31(1H,dd,J=8 & 1Hz), 7.62(1H,br.t,J=8Hz), 7.77(1H,br.d,J=8Hz),
12.97(1H,s)
実施例6 トリメチル体[一般式(1)において、R1=R3=OCH3,R2=COOCH3で示される化合物]の調製
実施例2で得られたアントラキノン化合物5mg をジメチルホルムアミド 0.5mlに溶解し、フッ化セシウム20mgを加え攪拌した。この溶液にヨウ化メチル0.1ml で2回洗浄した後、酢酸エチルを減圧下留去した。残渣をセファデックスLH20(ファルマシア社製)のカラム(内径20mm、長さ430mm)に付しメタノールで溶出した。トリメチル体を含む溶出画分を集め濃縮乾固し、残渣を凍結乾燥してトリメチル体の黄色粉末 4.8mgを得た。
【0030】
分子量:368[FAB-MS:369(M+H)+]
分子式:C21H20O6
1H-NMRスペクトル(重クロロホルム、δin ppm):
1.04(3H,t,J=7.2Hz), 1.69(2H,m), 3.01(2H,m), 3.96(3H,s), 3.98(3H,s),
4.02(3H,s), 7.32(1H,dd,J=8 & 1Hz), 7.63(1H,br.t,J=8Hz), 7.63(1H,s),
7.84(1H,dd,J=8 & 1Hz)
実施例7 AP-1とオリゴヌクレオチドの結合反応に対する作用
転写因子AP-1を含む核抽出物を常法に従って、発癌プロモーターのホルボールエステルで処理したヒトT細胞株のジャーカット細胞から調製した(Dignam J. D., et al. Nucleic Acids Res., 11: 1475. 1983)。AP-1結合配列(5'-TGAGTCA-3')を含む二重鎖オリゴヌクレオチドを作製し、a-[32P]dCTP を用いてクレノウフラグメントにて放射標識した。5mgの核抽出物と0.1 ngの放射標識AP-1二重鎖オリゴヌクレオチド(70,000cpm /0.1ng)を結合反応液(10mM トリス緩衝液 pH7.9, 40mM塩化ナトリウム, 10%グリセロール, 1mM EDTA,5mM塩化マグネシウム, 3 mg/ml ポリデオキシイノシン酸-デオキシシチジル酸, 1mMジチオスレイトール)中で、サンプル存在下または非存在下、4℃、30分間反応させた。放射標識オリゴヌクレオチド-AP-1 複合体と遊離の放射標識オリゴヌクレオチドを分離するために、5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。ゲルを乾燥後、イメージプレートと6時間コンタクトさせた。このイメージプレートを、 BAS2000イメージアナライザーにて解析し、放射標識オリゴヌクレオチド-AP-1 複合体の黒化度を定量して結合反応の指標とした。サンプル非存在下で得られる放射標識オリゴヌクレオチド-AP-1 複合体の結合を 100%として、サンプル存在下で得られる結合を算出した。
サンプル存在下における放射標識オリゴヌクレオチド-AP-1 複合体の形成に対する作用を表2に示した。
【0031】
【表2】
【0032】
実施例8 ラット滑膜細胞のインターロイキン-1刺激によるコラゲナーゼ産生に対する作用
ラット滑膜細胞は、4週令のルイス系雄ラットより採取した(Hashida R. et al., Biomedical Res, 3, 506. 1982 )。細胞は 10% FBSを含むダルベッコ改変イーグル培地 (D-MEM-10 % FBS) で培養し、2回継代後、液体窒素中に凍結保存した。実験一週間前に細胞を解凍し、実験3〜4日前にトリプシン処理し 96 well plateに2-4×103 cells / 100 ml /wellの密度で細胞を播いた。実験当日に培地を新しい D-MEM-10 % FBS 100 mlに交換した。サンプルは実験当日にジメチルスルホキサイド (DMSO) で溶かし、最終濃度で 0.1 % DMSO になるように培地中に加えた。ラットリコンビナント インターロイキン-1 aを最終濃度 10ng/mlで加え、37℃、5 % CO2 インキュベーター中で48時間培養した。細胞毒性はMTT を用いた発色法を用いて判定した。培養後、上清中のコラゲナーゼを測定した。上清 25 mlに、B液(0.1M Tris-HCl (pH 7.5)(含NaCl、CaCl2 、NaN3))を25ml、1/2 濃度のB液で0.5 mg/ml に調製したトリプシンを25ml加え、25℃の水槽で10分間インキュベーションし、潜在型のコラゲナーゼを活性型に変換した。その後、 1/2濃度のB液で1.5 mg/ml に調製した大豆トリプシンインヒビターを25ml加え、25℃の水槽で10分間インキュベーションし、トリプシンの活性をブロックした。氷冷下、100ml の FITC 標識コラーゲン(50mg)加え、よく混和し、35℃の水槽で180 分間インキュベーションし、活性化したコラゲナーゼでFITC標識コラーゲンを分解させた。これに80 mM オルト-フェナントロリン/50%エタノール溶液を5ml加えてさらに35℃の水槽で60分間インキュベーションしコラゲナーゼを不活化した。氷冷後、70%エタノール(含Tris-HCl Buffer 、NaCl)を200 ml加え、よく混和し、3,000rpm、20分間、2回遠心をして未分解のコラーゲンを沈殿させた。上清の200ml を96ウェルアッセイプレート(コーニング)に採取し、サイトフルオロII(パーセプティブバイオシステムズ)を使い、励起波長は485 nm、測定波長は 530nmで蛍光強度を測定した。1unitを1分間あたり1mgのコラーゲンを分解する酵素活性として示した。
サンプル存在下におけるラット滑膜細胞のIL-1刺激によるコラゲナーゼ産生に対する作用を表3に示した。この結果、本発明化合物は抗リウマチ剤として期待される。
【0033】
【表3】
【0034】
実施例9 ヘアレスマウスのホルボールミリステートアセテート塗布によるオルニチンデカルボキシラーゼの活性化及び炎症反応に対する作用
実験は、 Brienらの方法に従って行った(Brien, T. G. O. et al., Cancer Res., 35, 1662. 1975)。9週齢の雌性SKH/hr-1マウスの背部皮膚、約6cm2 に、17nmolのホルボールミリステートアセテートと1, 3, 10mmolのサンプルを含む200ml のアセトン溶液を均一に塗布した。 4.5時間後にマウスをエーテル麻酔にて屠殺して、このアセトン溶液を塗布した皮膚組織を摘出した。皮膚組織の重量を測定し、炎症反応の指標として測定した。この皮膚組織を、55℃, 30秒間処理した後、氷冷して表皮を剥離した。この表皮に、0.4 mMピリドキサル 5-リン酸と5mMジチオスレイトールを含んだ50mMリン酸緩衝液(pH 7.2)を1ml加えてホモジナイズし、4 ℃, 30,000 gで30分間遠心して上清を得た。
上清のオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)は、L-[1-14C] オルニチンからの14CO2 の放出を指標に測定した。1 mMのL-オルニチンと0.5 mCi のL-[1-14C] オルニチンを含む50mlの上記のリン酸緩衝液と、150ml のNCS 可溶化剤を含むGF/Cフィルターを入れたバイアルに、100ml のホモジネート上清を加えてあるチューブを素早く入れて密封した。このバイアルを、37℃, 1 時間反応させた後、300 mlの2 M クエン酸溶液を加えて、さらに1時間反応させた。この反応で放出された14CO2 は、バイアル中にセットしておいた NCS可溶化剤を含むGF/Cフィルターに捕捉される。チューブを取り出した後に液体シンチレーターを加え、バイアル中の放射活性を液体シンチレーションカウンターを用いて測定した。また、別に測定しておいたホモジネート上清中のタンパク質濃度を用いて、タンパク質あたりの14CO2 放出量を算出してODC 活性とした。
ホルボールミリステートアセテートによるオルニチンデカルボキシラーゼの活性化と炎症反応に対する作用を表4に示す。この結果、本発明化合物は抗乾癬剤として期待される。
【0035】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例2で得られた化合物の中性、酸性及びアルカリ性メタノール中での紫外吸収スペクトルである。
【図2】 実施例2で得られた化合物の臭化カリウム中での拡散反射法による赤外吸収スペクトルである。
【図3】 実施例2で得られた化合物の重ジメチルスルホキシド中での1H核磁気共鳴スペクトルである。
【図4】 実施例2で得られた化合物の重ジメチルスルホキシド中での13C核磁気共鳴スペクトルである。
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