JP3966239B2 - 定着装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子写真装置、静電記録装置等の画像形成装置に用いられ、未定着画像を定着する定着装置に好適な像加熱装置、及びこれを用いた画像形成装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の像加熱装置としては、特開平10−74007号公報、特開平7−295414号公報等に開示されているような電磁誘導を用いたものが知られている。
【0003】
特開平10−74007号公報には、電磁誘導に適用される励磁手段として、コアにコイルを巻き付けた励磁コイルが記載されている。図23に、この公報に開示された従来の像加熱装置の断面図を示す。
【0004】
図23において、600は高周波磁界を発生させるコイルであり、610は誘導加熱によって発熱すると共に、回転する金属スリーブである。また、620は金属スリーブ610の内部に設けられた内部加圧部材である。
【0005】
また、620は金属スリーブ610の外部に設けられた外部加圧部材であり、この外部加圧部材630は金属スリーブ610を介して内部加圧部材620に圧接してニップ部を形成している。外部加圧部材630は図中の矢印a方向に回転し、金属スリーブ610は外部加圧部材630の回転に伴って回転する。
【0006】
未定着のトナー像を担持した被記録材としての記録紙640は、図中の矢印で示すようにニップ部へ搬送される。そして、金属スリーブ610の熱と、両加圧部材620、630の圧力とにより、記録紙640上の未定着のトナー像が定着される。
【0007】
コイル600は、複数の分離した巻回部600a、600bを備えている。これらの巻回部600a、600bは、多数の脚部650a〜650eを備えたコア650の脚部650b、650dの周囲に図示しない絶縁部材を介して導線が複数回巻かれることによって形成されている。ここで、コア650は、磁性材料であるフェライトからなり、コイル600に印加される交流電流によって発生する磁束の磁路を形成している。
【0008】
ところで、上記特開平10−74007号公報に開示された像加熱装置においては、以下のような課題が考えられる。
【0009】
すなわち、上記励磁手段の構成においては、コア650の脚部に導線が巻き付けられているので、導線の配置はコアの脚部の位置に制約されることとなる。このため、導線の配設に当たって設計上の自由度が制約されると共に、金属スリーブ610の周方向に周面に沿って幅広く導線を配置することが困難となる。
【0010】
一方、特開平7−295414号公報には、絶縁支持体に導電コイルを渦巻状に配置した構成の励磁手段が記載されている。図24に、この公報に開示された従来の像加熱装置の断面図を示し、図25に、従来の像加熱装置に用いられている加熱コイルの斜視図を示す。
【0011】
図24に示すように、加熱ローラ660は、加圧ローラ670と接触しながら図の矢印の方向に回転駆動され、加圧ローラ670は加熱ローラ660の回転に伴って回転する。
【0012】
また、加圧ローラ670は、加熱ローラ660に押圧されて従動回転する。そして、未定着のトナー像を担持し、両ローラ660、670間に搬送されてきた記録紙680は、両ローラ660、670間で加熱加圧され、これにより記録紙680上の未定着のトナー像が定着される。
【0013】
加熱コイル690は、絶縁支持体700の内部に埋設状態で配置されている。図24、図25に示すように、加熱コイル690は、半円筒状の絶縁支持体700の彎曲面に沿って細幅の導電膜を延設し、全体として絶縁支持体700の全幅にわたって渦巻状に配設したものである。この加熱コイル690には、誘導加熱用電源から交流電流が印加される。
【0014】
そして、加熱コイル690に印加された交流電流によって交番磁束が生じて、加熱ローラ660が励磁され、加熱ローラ660中に加熱コイル690を流れる交流電流と逆向きの渦電流が発生する。この渦電流が加熱ローラ660中に発生すると、加熱ローラ660にジュール熱が発生し、加熱ローラ660が発熱する。
【0015】
この特開平7−295414号公報に記載された励磁手段の構成によれば、上記特開平10−74007号公報の励磁手段の構成に較べて、導線の配設に当たっての設計上の自由度が制約されることが少なくなり、加熱ローラ660の周方向に周面に沿って幅広く導線を配設することが可能となる。
【0016】
【特許文献1】
特開平10−74007号公報
【特許文献2】
特開平7−295414号公報
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
加熱ローラは磁性体なので、励磁コイルに通電することにより発生した磁束の磁路を形成するが、背面コアがないと磁束が外に漏れ出すので、背面コアを設けて磁路を形成し、外部への磁束の漏れを防止する。
【0018】
しかしながら、従来のようにC形コアを加熱ローラの円周方向に複数設ける構成とする場合、C形コアの部分の磁束密度が大きいのに対し、C形コアのない部分の磁束密度は小さくなるので、C形コアのない部分の加熱ローラ温度に対しC形コアがある部分のC形コア温度が過剰に上昇してその部分に過剰定着(ホットオフセット)が発生する。
【0019】
それに対し、C形コアのない部分の加熱ローラ温度は比較的低温になるので定着性が不足する。このため、C形コアのある部分とC形コアのない部分とで定着性にムラが生じ、光沢ムラなどの不具合が生じる。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本願発明は、上記課題を解決するため、C形コアの並びを加熱ローラの軸方向に対し角度を設けることにより、加熱ローラの軸と垂直な断面の面積がどの部分も概ね同じになるようにした。
【0021】
このように構成することにより、加熱ローラの軸方向における温度の高低差が少なくなり、定着ムラの発生を抑えることができる。
【0022】
また、本願発明は、定着ニップ部で記録媒体を挟持搬送し、記録媒体上の未定着トナーを溶融、加圧して当該記録媒体に定着させる定着装置であって、磁性金属部材の回転体からなる発熱部材と、発熱部材の外周面と対向配置され、表面が絶縁された線材を束ねた線束を発熱部材の回転軸方向に延伸するとともに発熱部材の周方向に沿って周回して形成されて電磁誘導によって発熱部材を発熱させる励磁コイルを備えた誘導加熱手段とを有し、励磁コイルにおける発熱部材の回転軸方向の長さである全長をL1とし発熱部材の回転軸方向の長さである全長をL2とした場合にL1>L2とされ、且つ発熱部材はその全長が励磁コイルの全長内に位置するように配置されているものである。
【0023】
これにより、発熱部材が励磁コイルの端部に生じる不安定な磁界の影響を受けることがなくなるので、誘導加熱手段により発熱部材がムラなく均一に発熱することができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて具体的に説明する。
【0025】
(実施の形態1)
(画像形成装置)
まず、本発明に係る画像形成装置の概略を説明する。図1は本発明の一実施の形態である画像形成装置の構成を示す説明図である。本実施の形態で説明しようとする画像形成装置は、電子写真方式を採用する装置の中で特にカラー画像の発色に寄与する4色の基本色トナー毎に現像装置を備え、転写体に4色画像を重ね合わせ、記録材に一括転写するタンデム方式である。しかしながら、本発明はタンデム方式の画像形成装置のみに限定されず、また現像装置の数、中間転写体の有無等に拘らず、あらゆる方式の画像形成装置に採用可能であることはいうまでもない。
【0026】
図1において、感光体ドラム10a,10b,10c,10dの周囲には、各感光体ドラム10a,10b,10c,10dの表面を一様に所定の電位に帯電させる帯電手段20a,20b,20c,20d、帯電された感光体ドラム10a,10b,10c,10d上に特定色の画像データに対応したレーザビームの走査線30K,30C,30M,30Yを照射して静電潜像を形成する露光手段3、感光体ドラム10a,10b,10c,10d上に形成された静電潜像を顕像化する現像手段40a,40b,40c,40d、感光体ドラム10a,10b,10c,10d上に顕像化されたトナー像を無端状の中間転写ベルト(中間転写体)70に転写する転写手段50a,50b,50c,50d、感光体ドラム10a,10b,10c,10dから中間転写ベルト70にトナー像を転写した後に感光体ドラム10a,10b,10c,10dに残っている残留トナーを除去するクリーニング手段60a,60b,60c,60dがそれぞれ配置されている。
【0027】
ここで、露光手段30は、感光体ドラム10a,10b,10c,10dに対して所定の傾きをもって配置されている。また、中間転写ベルト70は、図示する場合においては、矢印A方向へ回動する。なお、画像形成ステーションPa,Pb,Pc,Pdでは、それぞれブラック画像、シアン画像、マゼンタ画像、イエロー画像が形成される。そして、感光体ドラム10a,10b,10c,10dに形成された各色の単色画像が中間転写ベルト70上に順次重ね転写されてフルカラー画像が形成される。
【0028】
装置の下部には、印字用紙などのシート材90が収納された給紙カセット100が設けられている。そして、シート材90は、給紙ローラ80により給紙カセット100から1枚ずつ用紙搬送路に送り出される。
【0029】
用紙搬送路上には、中間転写ベルト70の外周面と所定量にわたって接触し、この中間転写ベルト70上に形成されたカラー画像をシート材90に転写するシート材転写ローラ110、シート材90上に転写されたカラー画像をローラの狭持回転に伴う圧力と熱とによってシート材90に定着する定着器120が配置されている。
【0030】
このような構成の画像形成装置において、まず画像形成ステーションPaの帯電手段20aおよび露光手段30により感光体ドラム10a上に画像情報のブラック成分色の潜像が形成される。この潜像は現像手段40aでブラックトナーを有する現像手段40aによりブラックトナー像として可視像化され、転写手段50aにより中間転写ベルト70上にブラックトナー像として転写される。
【0031】
一方、ブラックトナー像が中間転写ベルト70に転写されている間に、画像形成ステーションPbではシアン成分色の潜像が形成され、続いて現像手段40bでシアントナーによるシアントナー像が顕像化される。そして、先の画像ステーションPaでブラックトナー像の転写が終了した中間転写ベルト7にシアントナー像が画像ステーションPbの転写手段50bにて転写され、ブラックトナー像と重ね合わされる。
【0032】
以下、マゼンタトナー像、イエロートナー像についても同様な方法で画像形成が行われ、中間転写ベルト70に4色のトナー像の重ね合わせが終了すると、給紙ローラ80により給紙カセット100から給紙されたシート材90上にシート材転写ローラ110によって4色のトナー像が一括転写される。そして、転写されたトナー像は定着器120でシート材90に加熱定着され、このシート材90上にフルカラー画像が形成される。
【0033】
(定着装置)
図2は本発明の第1の実施の形態における像加熱装置としての定着装置を示す断面図、図3はこの定着装置の発熱部を示す一部破断した平面図である。
【0034】
図2、図3において、130は発熱部材としての発熱ローラであり、140は亜鉛メッキ鋼板からなる支持側板、150は支持側板140に固定され、発熱ローラ130を両端で回転可能に支持するベアリングである。発熱ローラ130は、図示しない装置本体の駆動手段によって回転駆動される。発熱ローラ130は、鉄・ニッケル・クロムの合金である磁性材料によって構成され、そのキュリー点が300℃以上となるように調整されている。また、発熱ローラ130は、厚さ0.3mmのパイプ状に形成されている。
【0035】
発熱ローラ130の表面には、離型性を付与するために、厚さ20μmのフッ素樹脂からなる離型層(図示せず)が被覆されている。尚、離型層としては、PTFE、PFA、FEP、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の離型性の良好な樹脂やゴムを単独であるいは混合して用いてもよい。発熱ローラ130をモノクロ画像の定着用として用いる場合には離型性のみを確保すればよいが、発熱ローラ130をカラー画像の定着用として用いる場合には弾性を付与することが望ましく、その場合にはさらに厚いゴム層を形成する必要がある。
【0036】
160は加圧手段としての加圧ローラである。この加圧ローラ160は、硬度JISA65度のシリコーンゴムによって構成され、20kgfの押圧力で発熱ローラ130に圧接してニップ部を形成している。そして、この状態で、加圧ローラ160は、発熱ローラ130の回転に伴って回転する。尚、加圧ローラ160の材料としては、他のフッ素ゴム、フッ素樹脂等の耐熱性樹脂やゴムを用いてもよい。また、耐摩耗性や離型性を高めるために、加圧ローラ160の表面には、PFA、PTFE、FEP等の樹脂あるいはゴムを単独であるいは混合して被覆することが望ましい。また、熱の放散を防ぐために、加圧ローラ160は、熱伝導性の小さい材料によって構成されることが望ましい。
【0037】
170は励磁手段としての励磁コイルである。この励磁コイル170は、表面が絶縁された外径0.2mmの銅製の線材を60本束ねた線束を、発熱ローラ130の回転軸方向に延伸し、かつ、発熱ローラ130の周方向に沿って周回して形成されている。尚、線束の断面積は線材の絶縁被覆を含めて約7mm2である。
【0038】
励磁コイル170の発熱ローラ130の回転軸に垂直な断面は、発熱ローラ130の上半分を覆うように、線束を発熱ローラ130の周方向に沿って互いに密着させて配置し、それを二重に重ねた形状となっている。この場合、発熱ローラ130の一端部から他端部に向かう線束のうち隣接する線束が密着し、発熱ローラの他端部から一端部に向かう線束のうち隣接する線束が密着するように構成されている。
【0039】
尚、発熱ローラ130の回転軸方向に延伸して周回される線束の周回順序は、周回の中心に近い方から順次である必要はなく、途中で順序が入れ替わってもよい。
【0040】
励磁コイル170は、その巻数が全体で18巻となっており、線束が表面の接着剤によって互いに接着されることにより、図2、図3に示す形状が保たれている。尚、励磁コイル170は、発熱ローラ130の外周面と約2mmの間隔を開けて対向している。励磁コイル170が発熱ローラ130の外周面と対向する範囲は、発熱ローラ130の回転軸を中心として角度が約180度の広い範囲である。
【0041】
励磁コイル170には半共振形インバータである励磁回路180から30kHzの交流電流が印加される。励磁コイル170に印加される交流電流は、発熱ローラ130の表面に設けられた温度センサ190によって得られる温度信号により、発熱ローラ130の表面が所定の定着温度である170℃となるように制御される。以下、励磁コイル170に印加された交流電流を『コイル電流』ともいう。
【0042】
本実施の形態においては、A4サイズ(幅210mm)の記録紙が最大幅の記録紙として用いられており、発熱ローラ130の回転軸方向の長さは270mm、励磁コイル170の外周部における発熱ローラ130の回転軸方向に沿った長さは230mm、励磁コイル170の内周部における発熱ローラ130の回転軸方向に沿った長さは200mmに設定されている。
【0043】
以上のように構成された定着装置に、表面にトナー220を担持した被記録材としての記録紙200が、図2の矢印の方向から挿入され、これにより記録紙200上のトナー220が定着される。
【0044】
本実施の形態においては、励磁コイル170が電磁誘導によって発熱ローラ130を発熱させる。以下、その機構について、図4を参照しながら説明する。
【0045】
励磁回路180(図3参照)からの交流電流によって励磁コイル170が発生させる磁束は、発熱ローラ130の磁性のために、図4中の破線Mで示すように、発熱ローラ130内を円周方向に貫通し、生成消滅を繰り返す。この磁束の変化によって発熱ローラ130に発生する誘導電流は、表皮効果によってほとんど発熱ローラ130の表面にのみ流れ、ジュール熱を発生させる。
【0046】
本実施の形態においては、励磁コイル170が、発熱ローラ130の一端部から他端部に向かう線束のうち隣接する線束が密着し、発熱ローラの他端部から一端部に向かう線束のうち隣接する線束が密着するように構成されているので、磁束が線束の間を通過することはない。また、励磁コイル170の中央部分には線束が無く、磁束が通過するように隙間が設けられているので、図4中の破線Mで示すように、磁束は励磁コイル170の周囲を旋回する大きなループを形成する。さらに、励磁コイル170は、発熱ローラ130の円周方向に発熱ローラ130の回転軸を中心として角度が約180度の広い範囲にわたって発熱ローラ130と対向して設けられているので、発熱ローラ130の広い範囲を磁束が円周方向に貫通することとなる。これにより、発熱ローラ130は広い範囲で発熱するので、コイル電流が小さく、発生する磁束が少なくても、発熱ローラ130に所定の電力を投入することが可能となる。
【0047】
上記したように、発熱ローラ130を貫通せずに線束の間を通過する磁束がないので、励磁コイル170に与えられた電磁エネルギーが漏れなく発熱ローラ130へ伝達される。このため、コイル電流が小さくても、発熱ローラ130に所定の電力を効率良く投入することができる。さらに、線束を密着させることにより、励磁コイル170を小型化することもできる。
【0048】
また、励磁コイル170の線束が発熱ローラ130の近傍に位置しているので、コイル電流が発生させる磁束が発熱ローラ130へ効率良く伝達される。そして、この磁束によって発熱ローラ130に生じる渦電流は、コイル電流による磁界の変化を打ち消すように流れる。この場合、コイル電流と発熱ローラ130に生じる渦電流とが近接しているので、打ち消し合う効果が大きく、全体の電流が周辺空間に生じさせる磁界が抑制される。
【0049】
また、励磁コイル170の外周からの放熱を妨げるものが無いので、蓄熱による温度上昇によって線材の絶縁被覆が溶解したり、励磁コイル170の抵抗値が上昇したりすることを防止することができる。
【0050】
図5に、励磁コイルを発熱ローラに対向させた状態における、励磁コイルと発熱ローラの等価回路を示す。図5において、rは励磁コイル170自身の抵抗、Rは励磁コイル170が発熱ローラ130と対向して電磁結合することによる抵抗、Lは回路全体のインピーダンスである。rは、励磁コイル170を発熱ローラ130から外し、励磁コイル170単体の電気抵抗を、所定の角周波数ωでLCRメータによって測定することにより得られる。Rは、励磁コイル170を発熱ローラ130に対向させた状態での電気抵抗からrを除いた値として得られる。Lは、励磁コイル170単体のインダクタンスと大差はない。この回路に電流Iが流れると、電流Iの2乗と抵抗値との積が実効電力として消費され、熱が発生する。rで消費される電力によって励磁コイル170が発熱し、Rで消費される電力によって発熱ローラ130が発熱する。この関係は、発熱ローラ130への投入電力をWとしたとき、下記(数1)によって表記される。
【0051】
W=(R+r)×I2 ・・・(数1)
また、励磁コイル170に印加される電圧をVとすると、下記(数2)の関係が成立する。
【0052】
I=V/{(R+r)2+(ωL)2} ・・・(数2)
上記(数2)から分かるように、L及びRが過大な場合、一定の電圧Vの下では十分な電流Iが得られない。従って、上記(数1)から分かるように、投入電力Wが不足し、十分な発熱量が得られない。逆に、Rが過小な場合には、電流Iが流れても実効電力が消費されず、十分な発熱量が得られない。
【0053】
また、Lが過小な場合には、半共振インバータである励磁回路180が十分に動作しない。励磁回路180から励磁コイル170に印加される交流電流の周波数が25kHzから50kHzの範囲にある場合には、Rが0.5Ω以上5Ω以下、Lが10μH以上50μH以下であればよい。
【0054】
この場合には、励磁回路180を、耐電流、耐電圧がそれほど高くない回路素子によって構成して、十分な投入電力と発熱量とを得ることができる。また、RとLの値がこの範囲内にあれば、励磁コイル170の巻数、励磁コイル170と発熱ローラ130との間隔等の、励磁コイル170の仕様を変えても同様の効果が得られる。
【0055】
尚、本実施の形態においては、上記したように、外径0.2mmの線材を60本束ねて励磁コイル170の線束が構成されている。線束の構成は、必ずしもこの構成に限定されるものではないが、外径が0.1mm以上0.3mm以下の線材を50本から200本束ねて構成されるのが望ましい。線材の外径が0.1mm未満では、機械的な負荷によって断線するおそれがある。
【0056】
一方、線材の外径が0.3mmを超えると、高周波の交流電流に対する電気抵抗(図5中のr)が大きくなり、励磁コイル170の発熱が過大となる。また、線束を構成する線材の本数が50本以下では断面積が小さいために電気抵抗が大きくなり、励磁コイル170の発熱が過大となる。
【0057】
一方、線束を構成する線材の本数が200本以上では線束が太くなるために任意の形状に励磁コイル170を巻くことが困難となり、また、所定の空間内で所定の周回数を得ることが困難となる。おおむね、線束の外径を5mm以下とすることにより、これらの条件を満たすことが可能となる。これにより、狭い空間で励磁コイル170の巻数を多くすることができるので、励磁コイル170の小型化を図りつつ、必要な電力を発熱ローラ130へ投入することが可能となる。
【0058】
周回する励磁コイル170の線束は、部分的に互いに間隔を開けて構成することもできるが、大部分を互いに密着させた方が効率が良い。また、周回する励磁コイル170の線束は、部分的に重ね方を変えて構成することもできるが、励磁コイル170の高さが低い方がより小さい電流で多くの電力を発熱ローラ130へ投入することができる。励磁コイル170の形状としては、励磁コイル170の高さ(積層した厚さ)よりも周回して並んだ幅(円周方向の長さ)が大きければよい。
【0059】
また、励磁コイル170の発熱ローラ130の回転軸方向における長さが発熱ローラ130の長さよりも長い場合には、側板140などの発熱ローラ130の端部の導電性部材を磁束が貫通することとなる。このため、周囲の構成部材が発熱し、発熱ローラ130への電磁エネルギーの伝達割合が減少してしまう。
【0060】
本実施の形態においては、発熱ローラ130の長さが励磁コイル170の発熱ローラ130の回転軸方向における長さよりも長いので、コイル電流によって生じた磁束は、側板140などの周囲の構成部材に到達することなく、ほぼ全てが発熱ローラ130へ到達する。
【0061】
これにより、励磁コイル170に与えた電磁エネルギーを効率良く発熱ローラ130へ伝達することができる。特に、発熱ローラ130の端面から回転軸方向に磁束が通過すると、発熱ローラ130の端面の渦電流密度が高くなる。この場合には、発熱ローラ130の端面における発熱が大きくなり過ぎるという課題が生じる。
【0062】
本実施の形態においては、上記したように、発熱ローラ130の回転軸方向における長さが小さい順に、励磁コイル170の内周部、最大幅の記録紙、励磁コイル170の外周部、発熱ローラ130となっており、励磁コイル170は、記録紙200が通過する部分で、発熱ローラ130の回転軸方向に平行かつ回転軸方向に均等に周回されている。このため、記録紙200が通過する部分での発熱ローラ130の発熱分布を均一にすることができる。その結果、定着部での温度分布を均一にし、安定した定着作用を得ることができる。
【0063】
(実施の形態2)
図6は本発明の第2の実施の形態における像加熱装置としての定着装置の発熱部を示す断面図、図7はこの定着装置の発熱ローラを除いた発熱部を示す底面図である。尚、上記第1の実施の形態と同一の機能を有する部材には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0064】
本実施の形態は、線束を二重に重ねることなく、発熱ローラ130の周方向に沿って周回し、励磁コイル170の背面に背面コア210を設けた点で、上記第1の実施の形態と相違している。
【0065】
背面コア210は励磁コイル170の存在しない範囲も覆っており、励磁コイル170を介さずに発熱ローラ130に対向する『対向部F』が設けられている。以下、背面コア210のうち励磁コイル170を介して発熱ローラ130に対向している部分を『透磁部T』という。尚、背面コア210の断面は、円筒を軸方向に180度の角度をもって切断した形状となっている。
【0066】
このような構成とすると、従来のコアよりも磁路を長くとることができ、更に、コイル電流によって生じた磁束が通過する透磁率の低い空気部分は、発熱ローラ130と背面コア210との間の狭い間隙部分だけとなる。このため、励磁コイル170のインダクタンスが増加して、コイル電流によって発生する磁束がほぼ完全に発熱ローラ130へ導かれる。その結果、発熱ローラ130と励磁コイル170との電磁結合がさらに良好となり、図5の等価回路におけるRがさらに大きくなる。これにより、同じコイル電流でもより多くの電力を発熱ローラ130へ投入することが可能となる。
【0067】
また、図6中の破線Mで示すように、背面コア210から発熱ローラ130へ導かれる磁束は対向部Fを通過する。発熱ローラ130の回転軸方向に沿った対向部Fの長さは背面コア210の発熱ローラ130の回転軸方向に沿った長さと同一であり、記録紙の幅よりも長い。このため、記録紙が通過する部分には対向部Fから均一に磁束が入射することになる。従って、発熱ローラ130の定着に必要な範囲を均一に加熱することができる。
【0068】
背面コア210の材料としては、例えば、比透磁率が1000〜3000、飽和磁束密度が200〜300mT、体積抵抗率が1〜10Ω・mのフェライトが用いられている。尚、背面コア210の材料としては、フェライトの他、パーマロイ等の高透磁率で抵抗率の高い材料を用いることもできる。
【0069】
背面コア210の断面は、例えば、外径36mm、厚さ5mmの円筒を軸方向に略90度の角度をもって切断した形状となっている。このため、背面コア210の断面積は243mm2となる。また、励磁コイル170の断面積は7mm2×9巻×2で126mm2となる。
【0070】
発熱ローラ130は、例えば、外径が20mm、厚さが0.3mmのパイプ状に形成されている。このため、発熱ローラ130の内部の回転軸に垂直な面の断面積は、約295mm2となる。従って、背面コア210を含めた励磁コイル170の断面積は、発熱ローラ130の内部の回転軸に垂直な面の断面積よりも大きくなる。また、背面コア210と発熱ローラ130との間隔は、例えば、5.5mmとなる。
【0071】
また、本実施の形態においては、A4サイズ(幅210mm)の記録紙が最大幅の記録紙として用いられており、発熱ローラ130の回転軸方向の長さは240mm、周回する励磁コイル170の外周部における発熱ローラ130の回転軸方向に沿った長さは200mm、励磁コイル170の内周部における発熱ローラ130の回転軸方向に沿った長さは170mm、背面コア210の発熱ローラ130の回転軸方向に沿った長さは220mmに設定されている。
【0072】
発熱ローラ130の支持部材であるベアリング150(図3参照)は磁性材料である鋼によって構成されている。このベアリング150と背面コア210との間隔は10mmであり、背面コア210と発熱ローラ130との間隔よりも大きい。
【0073】
その他の構成は上記第1の実施の形態と同様である。
【0074】
以下に、上記のように構成された定着装置の作用について説明する。
【0075】
背面コア210を設けることにより、励磁コイル170のインダクタンスが大きくなり、励磁コイル170と発熱ローラ130との電磁結合が良好となって、図5の等価回路におけるRが大きくなる。
【0076】
このため、同じコイル電流でも多くの電力を発熱ローラ130へ投入することが可能となる。従って、耐電流及び耐電圧の低い安価な励磁回路180(図3参照)を用いて、ウォームアップ時間の短い定着装置を実現することができる。
【0077】
また、図6中の破線Mで示すように、励磁コイル170の背面側の磁束がすべて背面コア210の内部を通過するため、磁束が後方へ漏れることを防止することができる。その結果、周辺の導電性部材の電磁誘導による発熱を防止することができると共に、不要な電磁波の放射を防止することができる。
【0078】
さらに、周回する線束が重ねられていないので、励磁コイル170の全ての線束が発熱ローラ130の近傍に位置する。このため、コイル電流によって発生する磁束が発熱ローラ130へさらに効率良く伝達される。
【0079】
本実施の形態においては、励磁コイル170や背面コア210が発熱ローラ130(発熱部)の外部に設置されているので、励磁コイル170等が発熱部の温度の影響を受けて昇温することを防止することができる。このため、発熱量を安定に保つことができる。
【0080】
特に、発熱ローラ130の内部の回転軸に垂直な面の断面積よりも大きな断面積を有する励磁コイル170及び背面コア210を用いるものであるため、熱容量の小さい発熱ローラ130と、巻き数の多い励磁コイル170と、適当な量のフェライト(背面コア210)とを組み合わせて用いることができる。
【0081】
このため、定着装置の熱容量を抑制しながら、所定のコイル電流で多くの電力を発熱ローラ130へ投入することが可能となる。
【0082】
本実施の形態においては、上記したように、発熱ローラ130の回転軸方向における長さが小さい順に、励磁コイル170の内周部、励磁コイル170の外周部、最大幅の記録紙、背面コア210、発熱ローラ130となっている。
【0083】
そして、このように、励磁コイル170の外周部における発熱ローラ130の回転軸方向に沿った長さを最大幅の記録紙の幅よりも小さくする一方、背面コア210の発熱ローラ130の回転軸方向に沿った長さを最大幅の記録紙の幅よりも大きくしているので、励磁コイル170の巻き方が多少不均一であっても、励磁コイル170から発熱ローラ130へ達する磁界を回転軸方向に均一にすることができる。
【0084】
従って、記録紙が通過する部分での発熱ローラ130の発熱分布を均一にすることができる。これにより、定着部での温度分布を均一にし、安定した定着作用を得ることができる。
【0085】
また、発熱ローラ130の発熱分布を均一にしながら、発熱ローラ130の回転軸方向の長さと励磁コイル170の発熱ローラ130の回転軸方向に沿った長さを短くすることができるので、装置の小型化と同時にコストの低減を図ることができる。
【0086】
さらに、背面コア210の発熱ローラ130の回転軸方向に沿った長さが発熱ローラ130の回転軸方向の長さよりも短いので、発熱ローラ130の端面の渦電流密度が高くなって発熱ローラ130の端面における発熱が大きくなり過ぎることを防止することができる。
【0087】
また、上記したように、発熱ローラ130の支持部材であるベアリング150(図3参照)としては、機械的な強度を保証するために、一般に、磁性を有する鋼が用いられる。
【0088】
このため、コイル電流によって生じた磁束はベアリング150に吸引され易く、磁束がベアリング150を貫通すると熱が発生してしまう。
【0089】
このため、発熱ローラ130への電磁エネルギーの伝達割合が減少してしまうと共に、ベアリング150の温度が上昇して寿命が短くなってしまう。
【0090】
本実施の形態においては、上記したように、ベアリング150と背面コア210の端面との間隔は、背面コア210と発熱ローラ130との対向間隔よりも大きく設定されているため、背面コア210を貫通した磁束は、ベアリング150へ導かれることなく、そのほとんどが発熱ローラ130を貫通する。
【0091】
これにより、励磁コイル170に与えた電磁エネルギーを効率良く発熱ローラ130へ伝達することができると共に、ベアリング150の発熱を防止することができる。
【0092】
ベアリング150と背面コア210との間隔(本実施の形態では10mm)は、背面コア210と発熱ローラ130との対向間隔(本実施の形態では5.5mm)よりも大きければよいが、2倍以上とすることが望ましい。
【0093】
また、背面コア210の厚さが均一であるため、背面コア210の内部に局所的に熱が蓄積することはない。さらに、背面コア210の外周からの放熱を妨げるものが無いので、蓄熱による温度上昇によって背面コア210の飽和磁束密度が低下して、全体としての透磁率が急激に減少することを防止することができる。これにより、長時間にわたって安定して発熱ローラ130を所定の温度に保つことができる。
【0094】
(実施の形態3)
次に、本実施の形態の像加熱装置としての定着装置について詳細に説明する。
【0095】
図8(a)において、薄肉の定着ベルト230は、基材がポリイミド樹脂からなる直径50mm、厚さ100μmのエンドレスのベルトである。定着ベルト230の表面には、離型性を付与するために、フッ素樹脂からなる厚さ20μmの離型層(図示せず)が被覆されている。基材の材料としては、耐熱性を有するポリイミド樹脂やフッ素樹脂等の他、電鋳で製作したニッケル等のごく薄い金属を用いることもできる。
【0096】
また、離型層としては、PTFE、PFA、FEP、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の離型性の良好な樹脂やゴムを単独であるいは混合して用いてもよい。定着ベルト230をモノクロ画像の定着用として用いる場合には離型性のみを確保すればよいが、定着ベルト230をカラー画像の定着用として用いる場合には弾性を付与することが望ましく、その場合にはさらに厚いゴム層を形成する必要がある。
【0097】
励磁手段としての励磁コイル170は、表面が絶縁された外径0.2mmの銅製の線材を60本束ねた線束を、発熱ローラ130の回転軸方向に延伸し、かつ、発熱ローラ130の周方向に沿って周回して形成されている。線束の断面積は線材の絶縁被覆を含めて約7mm2である。
【0098】
図8(a)〜図11に示すように、励磁コイル170は、発熱ローラ130に巻き付いた定着ベルト230を覆うような断面形状となっている。
【0099】
この場合、定着ベルト230の移動方向における励磁コイル170の励磁幅は、定着ベルト230と発熱ローラ130の接触範囲(巻き付き範囲)以下となっている。発熱ローラ130のうち定着ベルト230に熱を奪われない部分が発熱すると、定着ベルト230の材料の耐熱温度を超えて発熱ローラ130の温度が上昇し易いという問題がある。
【0100】
しかし、本実施の形態のように構成すれば、発熱ローラ130のうち定着ベルト230に接触する範囲のみが発熱するために、発熱ローラ130の温度が異常に上昇してしまうことを防止することができる。
【0101】
また、線束は、励磁コイル170の両端部(発熱ローラ130の回転軸方向の両端部)のみで重なっており、発熱ローラ130の周方向に沿って互いに密着した状態で9回周回している。励磁コイル170の発熱ローラ130の回転軸方向における両端部は線束が2列に重なった状態で盛り上がっている。すなわち、励磁コイル170は全体として鞍のような形状に形成されている。このため、発熱ローラ130の回転軸方向のより広い範囲を均一に加熱することができる。
【0102】
尚、励磁コイル170の両端部において重なった線束は発熱ローラ130との距離が大きくなるので、この部分に渦電流が集中して部分的に高温になり過ぎることはない。
【0103】
背面コア210は、C形コア240と中心コア250とにより構成されている。C形コア240は、幅が10mmであり、発熱ローラ130の回転軸方向に25mmの間隔を開けて6個配置されている。これにより、外部に漏れる磁束を捕捉することができるようにされている。
【0104】
また、中心コア250は、励磁コイル170の周回の中央に位置し、C形コア240に対して凸形状となっている。すなわち、中心コア250は、背面コア210の対向部Fのうち、発熱ローラ130への近接部Nとなっている(図12参照)。尚、中心コア250の断面積は3mm×10mmである。
【0105】
また、中心コア250は、フェライトを製造し易いように、発熱ローラ130の回転軸方向に数個に分割して構成してもよい。また、中心コア250は、C形コア240と一体に組み合わせた形状としてもよく、さらには、C形コア240と一体に組み合わせた形状で、かつ、発熱ローラ130の回転軸方向に数個に分割して構成してもよい。
【0106】
260はPEEK材やPPSなどの耐熱温度の高い樹脂からなる厚さ1mmの断熱部材である。断熱部材260の端部には、励磁コイル170の発熱ローラ130の回転軸方向における両端部の盛り上がった部分を保持する両端保持部34aが設けられている(図11参照)。これにより、励磁コイル170の両端の盛り上がりが崩れることを防止することができると共に、励磁コイル170の外側の位置が規制される。
【0107】
背面コア210の材料は、上記第2の実施の形態と同様である。中心コア250を除いて、C形コア240を含む断面での背面コア210の断面形状、及び発熱ローラ130の形状も、上記第2の実施の形態と同様である。従って、背面コア210を含めた励磁コイル170の断面積が発熱ローラ130の内部の回転軸に垂直な面の断面積よりも大きい点も、上記第2の実施の形態と同様である。
【0108】
励磁回路180(図3参照)から励磁コイル170に印加される交流電流は、上記第1の実施の形態と同様である。励磁コイル170に印加される交流電流は、定着ベルト230の表面に設けられた温度センサによって得られる温度信号により、定着ベルト230の表面が所定の定着温度である190℃となるように制御される。
【0109】
図8(a)に示すように、定着ベルト230は、表面が低硬度(JISA30度)の弾力性を有する発泡体であるシリコーンゴムによって構成された直径20mmの低熱伝導性の定着ローラ270と、直径20mmの発熱ローラ130とに所定の張力をもって懸架されており、矢印Bの方向に回転移動可能となっている。
【0110】
ここで、発熱ローラ130の両端には、定着ベルト230の蛇行を防止するためのリブ(図示せず)が設けられている。また、加圧手段としての加圧ローラ160は、定着ベルト230を介して定着ローラ270に対して圧接されており、これによりニップ部が形成されている。
【0111】
本実施の形態においては、A4サイズ(幅210mm)の記録紙が最大幅の記録紙として用いられており、定着ベルトの幅は230mm、発熱ローラ130の回転軸方向の長さは260mm、背面コア210の発熱ローラ130の回転軸方向における最外端間の長さは225mm、周回する励磁コイル170の外周部における発熱ローラ130の回転軸方向に沿った長さは245mm、断熱部材260の発熱ローラ130の回転軸方向に沿った長さは250mmに設定されている。
【0112】
本実施の形態においては、励磁コイル170、背面コア210及び発熱ローラ130が上記のように構成されており、励磁コイル170が電磁誘導によって発熱ローラ130を発熱させる。以下、その機構について、図12を参照しながら説明する。
【0113】
図12に示すように、コイル電流によって生じた磁束は、背面コア210の対向部Fから発熱ローラ130へ入る。この場合、コイル電流によって生じた磁束は、発熱ローラ130の磁性のために、図中の破線Mで示すように、発熱ローラ130内を円周方向に貫通する。
【0114】
そして、この磁束は、背面コア210の発熱ローラ130への近接部Nである中心コア250から透磁部Tを経て大きなループを形成し、生成消滅を繰り返す。この磁束の変化によって発生する誘導電流がジュール熱を発生させる点は、上記第1の実施の形態と同様である。
【0115】
本実施の形態においては、図9に示すように、幅の狭いC形コア240が発熱ローラ130の回転軸方向に均等な間隔を開けて複数個配置されているが、この構成だけでは、励磁コイル170の背面で円周方向に流れる磁束がC形コア240の部分に集中し、隣接するC形コア240間の空気中にはほとんど流れない。このため、発熱ローラ130に入る磁束はC形コア240が存在する部分に集中する傾向にある。
【0116】
従って、発熱ローラ130の発熱もC形コア240との対向部分で大きくなり易い。
【0117】
しかし、本実施の形態においては、励磁コイル170の周回の中央で近接部Nを形成する中心コア250が発熱ローラ130の回転軸方向に連続して設けられているので、C形コア240の対向部Fから発熱ローラ130に入った磁束は、発熱ローラ130内で回転軸方向にも流れて分布が均一化される。このため、発熱ローラ130の発熱量の不均一さが緩和される。
【0118】
透磁部Tの磁束をC形コア240の対向部Fから別の対向部Fへ導く働きは、発熱ローラ130への磁束の入射分布とは直接関係がない。このため、透磁部Tと対向部Fを分けて構成することは、背面コア210の形状の最適化に非常に有効である。透磁部Tは軸方向に均一である必要はなく、対向部Fをできるだけ軸方向に均一にすればよい。
【0119】
中心コア250をC形コア240に対して凸形状とすることによって、発熱ローラ130への近接部Nを設けているので、磁路をより多くのフェライトによって構成することができる。
【0120】
従って、コイル電流によって生じた磁束が通過する透磁率の低い空気部分は、発熱ローラ130と背面コア210との間の狭い間隙部分だけとなる。このため、励磁コイル170のインダクタンスがより増加して、コイル電流によって発生する磁束がより多く発熱ローラ130へ導かれるので、発熱ローラ130と励磁コイル170との電磁結合が良好となる。
【0121】
これにより、同じ電流でもより多くの電力を発熱ローラ130へ投入することが可能となる。特に、励磁コイル170の周回の中央にはコイル電流によって発生した磁束が必ず通過するので、この部分に発熱ローラ130の回転軸方向に連続した中心コア250からなる近接部Nを設けることにより、コイル電流によって発生した磁束を効率良く発熱ローラ130へ導くことができる。
【0122】
更に、本実施の形態では、図9に示す如く、C形コア240を発熱ローラ130の軸方向もしくは半径方向に対して所定の角度θをもって構成している。このように角度をもった形状とすると、励磁コイル170が発生させる磁束が、発熱ローラ130内をC形コア240に沿って発熱ローラ130の軸方向もしくは半径方向に対して角度θの方向に貫通するため、発熱ローラ130を回転させると、発熱ローラ130にはその回転軸方向に満遍なくジュール熱が発生する。従って、軸方向に対する発熱量のムラがより解消されるという効果を奏する。
【0123】
図10(a),(b),(c)は、図9の一点鎖線X,Y,ZでC形コア240及び発熱ローラ130を切断した断面図であり、斜線部α、β、γはそれぞれC形コア240の断面である。例えば、図9に示すように、互いに隣接するC形コア240の辺dと辺d'とを、発熱ローラ130の軸方向と垂直な方向(円周方向)において重複するような位置、もしくは一致するような位置になるよう、角度θを選択すると、発熱ローラ130を切断した断面を示す斜線部α、β、γの面積は概ね同一になる。
【0124】
このように一点鎖線X,Y,Zをどこで選んでも断面積が等しくなるように図9に示すC形コア240の角度θを選択すれば、発熱ローラ130の軸方向に対する発熱量のムラを最も効果的に解消することができる。
【0125】
但し、角度θは上記の角度に限定されず、種々の角度が可能である。また、C形コア240の角度θは全てのC形コアについて同一である必要はない。例えば、発熱ローラ130の軸方向中央部のC形コアの角度θよりも発熱ローラ130の軸方向端部のC形コアの角度θを大きくすれば、温度低下の激しい発熱ローラ130の軸方向端部の温度ムラを改善することができる。
【0126】
また、発熱ローラ130の軸方向中央部から軸方向端部に向かって徐々にC形コアの角度θを変化させる(例えば、大きくする)ことにより、同様に発熱ローラ130の軸方向の温度ムラを改善することができる。
【0127】
また、上記の実施の形態では、C形コア240の幅径を同一にしているが、C形コア240毎にその幅径を独立に設定することにより、発熱ローラ130の温度調整を制御することができる。例えば、発熱ローラ130の軸方向中央部から軸方向端部に向かって徐々にC形コアの幅径を変化させる(例えば、大きくする)ことにより、発熱ローラ130の軸方向の温度ムラを改善することができる。
【0128】
また、C形コア240は、その幅が均一で、大きな間隔を開けて発熱ローラ130の回転軸方向に複数個配置されているので、背面コア210及び励磁コイル170に熱が蓄積することはない。
【0129】
さらに、背面コア210及び励磁コイル170の外周からの放熱を妨げるものが無いので、蓄熱による温度上昇によって背面コア210のフェライトの飽和磁束密度が低下して、全体としての透磁率が急激に減少することを防止することができる。また、線材の絶縁被覆が溶解して線材同士が短絡することを防止することができる。
【0130】
これにより、長時間にわたって安定に発熱ローラ130を所定の温度に保つことができる。
【0131】
また、励磁コイル170の発熱ローラ130の回転軸方向における両端部が線束を重ねて形成されているので、より広い範囲にわたって励磁コイル170を発熱ローラ130の回転軸方向に均等に延伸することができる。これにより、発熱ローラ130の発熱分布を均一にすることができる。逆に、均一な発熱領域を確保しながら励磁コイル170の発熱ローラ130の回転軸方向における両端部の幅を小さくすることができるので、装置全体の小型化を図ることができる。
【0132】
また、本実施の形態においては、発熱ローラ130の回転軸方向における長さが小さい順に、最大幅の記録紙、背面コア210、定着ベルト230、励磁コイル170の外周部、断熱部材260、発熱ローラ130となっている。
【0133】
すなわち、断熱部材260の長さが励磁コイル170及び背面コア210の長さよりも長い。そして、断熱部材260を介して背面コア210と発熱ローラ130及び定着ベルト230とが対向しているので、背面コア210を発熱ローラ130に近接させた場合であっても、背面コア210の温度上昇を防止することができる。また、冷却気流が定着ベルト230に接触して、定着ベルト230を冷却することを防止することができる。
【0134】
また、定着ベルト230の幅が背面コア210の発熱ローラ130の回転軸方向における長さよりも長いために、定着ベルト230に接触しない部分の発熱ローラ130が加熱されることはないので、この部分の発熱ローラ130の温度が上昇し過ぎることを防止することができる。
【0135】
また、コイルカバー280(図8(a))を設けることにより、背面コア210の背面にわずかに漏れる磁束や励磁コイル170から発生する高周波の電磁波が装置内外に伝搬することを防止することができる。その結果、装置内外の電気回路が電磁ノイズによって誤動作することを防止することができる。
【0136】
また、本実施の形態においては、発熱ローラ130(発熱部)が定着ベルト230の内部に設置されている一方、励磁コイル170や背面コア210は定着ベルト230の外部に設置されているので、励磁コイル170等が発熱部の温度の影響を受けて昇温することを防止することができる。このため、発熱量を安定に保つことができる。
【0137】
特に、発熱ローラ130の内部の回転軸に垂直な面の断面積よりも大きな断面積を有する励磁コイル170及び背面コア210を用いるものであるため、熱容量の小さい発熱ローラ130と、巻き数の多い励磁コイル170と、適当な量のフェライト(背面コア210)とを組み合わせて用いることができる。
【0138】
このため、定着装置120の熱容量を抑制しながら、所定のコイル電流で多くの電力を発熱ローラ130へ投入することが可能となる。
【0139】
その結果、耐電流及び耐電圧の低い安価な励磁回路180(図3参照)を用いて、ウォームアップ時間の短い定着装置120を実現することができる。
【0140】
本実施の形態においては、励磁回路180からの交流電流が実効値電圧140V(電圧振幅500V)、実効値電流22A(ピーク電流55A)で800Wの電力を発熱ローラ130へ投入することができた。
【0141】
発熱ローラ130の外側に位置する励磁コイル170は発熱ローラ130の表面を発熱させるので、定着ベルト230は発熱ローラ130の最も発熱量の大きい部分に接触することとなる。従って、最大発熱部が定着ベルト230への熱伝達部となり、発生した熱を発熱ローラ130内での熱伝導なしに定着ベルト230へ伝達することができる。このように、熱伝達距離が小さいので、定着ベルト230の温度変動に対して応答の速い制御を行うことが可能となる。
【0142】
発熱ローラ130の定着ベルト230との接触部を通り過ぎた位置の近傍には、温度センサ(図示せず)が設けられている。この部分の温度を一定に制御することにより、定着ローラ270と加圧ローラ160とのニップ部に突入するときの定着ベルト230の温度を常に一定に保つことができる。その結果、連続して複数枚の記録紙200を定着する場合であっても、その定着を安定に行うことが可能となる。
【0143】
また、励磁コイル170及び背面コア210が発熱ローラ130の円周のほぼ半分を覆っているので、定着ベルト230と発熱ローラ130との接触部の全域が発熱することになる。このため、励磁コイル170から発熱ローラ130へ電磁誘導によって伝達される加熱エネルギーをより多く定着ベルト230へ伝達することができる。
【0144】
また、本実施の形態においては、発熱ローラ130と定着ベルト230の材質、厚さ等は各々独立して設定することができる。従って、発熱ローラ130の材質、厚さとして、励磁コイル170の電磁誘導による加熱を行うために最適な材質、厚さを選ぶことができる。また、定着ベルト230の材質、厚さとしては、定着を行うために最適な材質、厚さを選ぶことができる。
【0145】
本実施の形態においては、ウォームアップ時間を短縮するという目的を達成するために、定着ベルト230の熱容量を極力小さく設定すると共に、発熱ローラ130の厚さと外径を小さくしてその熱容量を小さく設定している。このため、投入電力800Wで、定着のための昇温の開始から約15秒で所定の温度にすることができた。
【0146】
尚、本実施の形態においては、C形コア240が発熱ローラ130の回転軸方向に均等な間隔を開けて配置されているが、この間隔は必ずしも均等である必要はない。
【0147】
放熱状況や温度センサなどの接触部材の有無などに応じて間隔を調整することにより、温度分布が均一となるように発熱分布を自由に設計することができる。
【0148】
また、本実施の形態においては、背面コア210が、発熱ローラ130の回転軸方向に間隔を開けて配置されたフェライトからなる均一厚さの複数のC形コア240と、同じくフェライトからなる中心コア250とにより構成されているが、必ずしもこの構成に限定されるものではない。
【0149】
例えば、発熱ローラ130の回転軸方向に連続した一体の背面コア210に複数の孔を設けた構成であってもよい。また、フェライトからなる複数のブロックを、励磁コイル170の背面にそれぞれ孤立して分布させた構成であってもよい。
【0150】
また、本実施の形態においては、定着ベルト230の基材が樹脂によって構成されているが、樹脂の代わりにニッケルなどの強磁性金属を用いて構成することもできる。この場合には、電磁誘導による発熱の一部がこの定着ベルト230内で発生し、定着ベルト230そのものも加熱されるので、加熱エネルギーを定着ベルト230へより有効に伝えることができる。
【0151】
また、本実施の形態においては、発熱ローラ130の両端がベアリング150によって支持された構成となっているが、図13に示すように、発熱ローラ130の両端に設けられ、ベークライト等の熱伝導性の小さい耐熱樹脂によって構成されたフランジ290と、両フランジ290を貫通する中心軸300とによって支持された構成であってもよい。この構成を採用すれば、発熱ローラ130の両端からの熱や磁束の漏れを抑制することができる。
【0152】
また、本実施の形態においては、定着ベルト230の移動方向における励磁コイル170の励磁幅を、定着ベルト230と発熱ローラ130の接触範囲(巻き付き範囲)以下に設定しているが、必ずしもこの構成に限定されるものではない。
【0153】
例えば、図8(b)に示すように、定着ベルト230の移動方向における励磁コイル170の励磁幅が定着ベルト230と発熱ローラ130の接触範囲(巻き付き範囲;境界線b)から定着ローラ270側へ延長されていてもよい。この構成によれば、図8(a)の構成に比べて、発熱ローラ130のさらに広い範囲(図8(b)中のaの範囲)まで発熱させることができるので、小さいコイル電流でも十分な発熱量を得ることができる。
【0154】
また、この場合、線束を周回して励磁コイル170を形成した後、励磁コイル170を圧縮することにより、周回する線束の断面を略四角形状として、線束同士をさらに密着させている。
【0155】
これにより、励磁コイル170の占有体積を小さくすることができるので、励磁コイル170の巻数をより多くすることができる。
【0156】
その結果、コイル電流の電流密度が大きくなるので、発熱ローラ130に生じる渦電流の密度も大きくなり、発熱量が増加する。このため、必要とされるコイル電流を小さくしたり、発熱ローラ130を小径化することが可能となる。
【0157】
さらに、背面コア210と励磁コイル170との間隔を大きくすることができるので、背面コア210の放熱を促進して、背面コア210の温度上昇を防止することができる。
【0158】
また、線束が互いに強く密着しているので、線束間の接着が強固となり、励磁コイル170単体でその形状を保持することができる。従って、定着装置120の組立工程が簡単になる。
【0159】
(実施の形態4)
図14は本発明の第4の実施の形態における像加熱装置としての定着装置の発熱部を示す断面図である。尚、上記第3の実施の形態と同一の機能を有する部材には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0160】
図14に示すように、本実施の形態においては、上記第3の実施の形態と異なり、背面コア210の対向部Fの発熱ローラ130に対向する箇所が、発熱ローラ130へ近接するように凸状に形成されている。
【0161】
その他の構成は上記第3の実施の形態と同様である。
【0162】
本実施の形態の構成によれば、磁路をほぼ完全にフェライトによって構成することができる。従って、コイル電流によって生じた磁束が通過する透磁率の低い空気部分は、発熱ローラ130と背面コア210との間の狭い間隙部分だけとなる。このため、励磁コイル170のインダクタンスがより増加して、コイル電流によって発生する磁束がほぼ完全に発熱ローラ130へ導かれる。その結果、発熱ローラ130と励磁コイル170との電磁結合が良好となり、図5の等価回路におけるRが大きくなる。
【0163】
従って、同じコイル電流でもより多くの電力を発熱ローラ130へ投入することが可能となる。本実施の形態においては、実効値電流20A(ピーク電流50A)で800Wの電力を発熱ローラ130へ投入することができた。
【0164】
また、断熱部材260を介して背面コア210と発熱ローラ130及び定着ベルト(図示せず)が対向しているので、背面コア210を発熱ローラ130に近接させた場合であっても、背面コア210の温度上昇を防止することができる。
【0165】
(実施の形態5)
図15は本発明の第5の実施の形態における像加熱装置としての定着装置の発熱部を示す断面図、図16は発熱部を図15の矢印Aの方向からみた投影図である。尚、上記第3の実施の形態と同一の機能を有する部材には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0166】
図15、図16に示すように、本実施の形態は、隣接するC形コア240の間隔を発熱ローラ130の回転軸方向に沿って変化させて構成した点で、上記第3の実施の形態と相違する。図16おいて、d1=21mm、d2=21mm、d3=18mmである。従って、d1=d2>d3の関係となる。つまり、発熱ローラ130の端部で隣接する背面コア210の間隔が狭くなっている。
【0167】
ところで、隣接する背面コア210の間隔を均等にすると、発熱ローラ130及び定着ベルトの端部の温度が低くなることがある。そして、この発熱ローラ130の回転軸方向における温度ムラは定着不良を生じさせる。
【0168】
本実施の形態においては、上記したように、発熱ローラ130の中央部よりも端部の方で隣接する背面コア210の間隔が狭くなっているので、コイル電流によって生じる磁束は、発熱ローラ130の中央部よりも端部の方で若干多くなる。このため、発熱ローラ130の端部において発熱量が多くなる。一方、発熱ローラ130の端部においては、軸受などへの熱伝導により、中央部よりも多くの熱が奪われ易い。従って、この両方の作用が相殺されて、発熱ローラ130及び定着ベルトの温度分布が均一となるので、定着不良を防止することができる。
【0169】
尚、本実施の形態においては、発熱ローラ130の端部で隣接する背面コア210の間隔を狭くすることにより、均一な温度分布が得られるようにしているが、必ずしもこの構成に限定されるものではない。例えば、隣接する背面コア210の間隔は均等にし、発熱ローラ130の端部に位置する背面コア210の幅を、発熱ローラ130の中央部に位置する背面コア210の幅よりも広くすることによっても、同様に均一な温度分布を得ることができる。
【0170】
また、例えば、隣接する背面コア210の間隔は均等にし、発熱ローラ130の端部に近い範囲にフェライトからなるブロックを孤立して配置することによっても、同様に均一な温度分布を得ることができる。
【0171】
尚、d1とd2を等しくする代わりに、d1>d2>d3としてもよい。すなわち、発熱ローラ130の軸方向中央部から軸方向端部に向かって徐々にC型コア240同士の間隔を短くする構成とすることにより、発熱ローラ130の軸方向の温度ムラを防止し、ひいては定着ムラを防止することができる。
【0172】
(実施の形態6)
図17に示すように、定着装置は、誘導加熱手段400の電磁誘導により加熱される加熱ローラ(発熱部材)410と、加熱ローラ410と平行に配置された定着ローラ420と、加熱ローラ410と定着ローラ420とに張け渡され、加熱ローラ410により加熱されるとともに少なくともこれらのいずれかのローラの回転により矢印B方向に回転する無端帯状の耐熱性ベルト(トナー加熱媒体)430と、耐熱性ベルト430を介して定着ローラ420に圧接されるとともに耐熱性ベルト430に対して順方向に回転する加圧ローラ440とから構成されている。
【0173】
加熱ローラ410はたとえば鉄、コバルト、ニッケルまたはこれら金属の合金等の中空円筒状の磁性金属部材の回転体からなり、外径をたとえば20mm、肉厚をたとえば0.3mmとして、低熱容量で昇温の速い構成となっている。
【0174】
加熱ローラ410は、図18に示すように、亜鉛メッキ鋼板からなる支持側板450に固定されたベアリング460により、その両端が回転可能に支持されている。加熱ローラ410は、図示しない装置本体の駆動手段によって回転駆動される。加熱ローラ410は、鉄・ニッケル・クロムの合金である磁性材料によって構成され、そのキュリー点が300℃以上となるように調整されている。また、加熱ローラ410は、厚さ0.3mmのパイプ状に形成されている。
【0175】
加熱ローラ410の表面には、離型性を付与するために、厚さ20μmのフッ素樹脂からなる離型層(図示せず)が被覆されている。尚、離型層としては、PTFE、PFA、FEP、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の離型性の良好な樹脂やゴムを単独であるいは混合して用いてもよい。加熱ローラ410をモノクロ画像の定着用として用いる場合には離型性のみを確保すればよいが、加熱ローラ410をカラー画像の定着用として用いる場合には弾性を付与することが望ましく、その場合にはさらに厚いゴム層を形成する必要がある。
【0176】
定着ローラ420は、たとえばステンレススチール等の金属製の芯金420aと、耐熱性を有するシリコーンゴムをソリッド状または発泡状にして芯金420aを被覆した弾性部材420bとからなる。
【0177】
そして、加圧ローラ440からの押圧力でこの加圧ローラ440と定着ローラ420との間に所定幅の定着ニップ部Nを形成するために外径を30mm程度として加熱ローラ410より大きくしている。弾性部材420bはその肉厚を3〜8mm程度、硬度を15〜50°(Asker硬度:JIS Aの硬度では6〜25°による)程度としている。この構成により、加熱ローラ410の熱容量は定着ローラ420の熱容量より小さくなるので、加熱ローラ410が急速に加熱されてウォームアップ時間が短縮される。
【0178】
加熱ローラ410と定着ローラ420とに張り渡された耐熱性ベルト430は、誘導加熱手段400により加熱される加熱ローラ410との接触部位W1で加熱される。そして、加熱ローラ410,定着ローラ420の回転によって耐熱性ベルト430の内面が連続的に加熱され、結果としてベルト全体に渡って加熱される。
【0179】
以下、定着装置に用いる耐熱性ベルトの構成について説明する。
【0180】
図19に示すように、耐熱性ベルト430は、鉄、コバルト、ニッケル等の磁性を有する金属またはそれらを基材とする合金を基材とした発熱層430aと、その表面を被覆するようにして設けられたシリコーンゴム、フッ素ゴム等の弾性部材からなる離型層430bとから構成された複合層ベルトである。
【0181】
上記複合層ベルトを使用すれば、ベルトを直接加熱できる他、発熱効率が良くなり、またレスポンスが速くなる。
【0182】
また、仮に何らかの原因で、例えば耐熱性ベルト430と加熱ローラ410との間に異物が混入してギャップが生じたとしても、耐熱性ベルト430の発熱層430aの電磁誘導による発熱で耐熱性ベルト430自体が発熱するので、温度ムラが少なく定着の信頼性が高くなる。
【0183】
なお、発熱層430aの厚さは、20μmから50μm程度が望ましく、特に30μm程度が望ましい。
【0184】
前記したように、鉄、コバルト、ニッケル等の磁性を有する金属またはそれらを基材とする合金を基材とした材料により発熱層430aを構成した場合、その厚さが50μmより大きい場合には、ベルト回転時に発生する歪み応力が大きくなり、剪断力によるクラックの発生や機械的強度の極端な低下を引き起こす。また、発熱層430aの厚さが20μmより小さい場合には、ベルト回転時の蛇行が原因で発生するベルト端部へのスラスト負荷により複合層ベルトにクラックや割れ等の破損が発生する。
【0185】
一方、離型層430bの厚さとしては、100μmから300μm程度が望ましく、特に490μm程度が望ましい。このようにすれば、シート材470上に形成されたトナー像Tを耐熱性ベルト430の表層部が十分に包み込むため、トナー像Tを均一に加熱溶融することが可能になる。
【0186】
離型層430bの厚さが100μmよりも小さい場合には、耐熱性ベルト430の熱容量が小さくなってトナー定着工程においてベルト表面温度が急速に低下し、定着性能を十分に確保することができない。また、離型層430bの厚さが300μmよりも大きい場合には、耐熱性ベルト430の熱容量が大きくなってウォームアップにかかる時間が長くなる。さらに加えて、トナー定着工程においてベルト表面温度が低下しにくくなって、定着部出口における融解したトナーの凝集効果が得られず、ベルトの離型性が低下してトナーがベルトに付着する、いわゆるホットオフセットが発生する。
【0187】
発熱層430aの内側表面は、金属の酸化防止、加熱ローラ410との接触性改良の目的で、樹脂コートしても良い。
【0188】
なお、耐熱性ベルト430の基材として、上記金属からなる発熱層430aの代わりに、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、PEEK樹脂、PES樹脂、PPS樹脂などの耐熱性を有する樹脂層を用いてもよい。
【0189】
基材が耐熱性の高い樹脂部材である樹脂層から構成されれば、耐熱性ベルト430が加熱ローラ410の曲率に応じて密着しやすくなるため、加熱ローラ410の保有する熱がこの耐熱性ベルト430に効率良く伝達される。また、樹脂とすることで割れにくくなるという効果を奏する。但し、金属層とした方が熱伝導性は高い。
【0190】
この場合、樹脂層の厚さとしては、20μmから150μm程度が望ましく、特に75μm程度が望ましい。樹脂層の厚さが20μmよりも小さい場合には、ベルト回転時の蛇行に対する機械的強度が得られない。また、樹脂層の厚さが150μmより大きい場合には、樹脂の熱伝導率が小さいため、加熱ローラ410から耐熱性ベルト430の離型層430bへの熱伝播効率が低下し、定着性能の低下が発生する。
【0191】
図17において、加圧ローラ440は、たとえば銅またはアルミ等の熱伝導性の高い金属製の円筒部材からなる芯金440aと、この芯金440aの表面に設けられた耐熱性およびトナー離型性の高い弾性部材440bとから構成されている。芯金440aには上記金属以外にSUSを使用しても良い。
【0192】
加圧ローラ440は耐熱性ベルト430を介して定着ローラ420を押圧してシート材470を挟持搬送する定着ニップ部Nを形成しているが、本実施の形態では、加圧ローラ440の硬度を定着ローラ420に比べて硬くすることによって、加圧ローラ440が定着ローラ420(及び耐熱性ベルト430)へ食い込む形となり、この食い込みにより、シート材470は加圧ローラ440表面の円周形状に沿うため、シート材470が耐熱性ベルト430表面から離れやすくなる効果を持たせている。
【0193】
この加圧ローラ440の外径は定着ローラ420と同じ30mm程度であるが、肉圧は2〜5mm程度で定着ローラ420より薄く、また硬度は20〜60°(Asker硬度:JIS Aの硬度では6〜25°による)程度で前述したとおり定着ローラ420より硬く構成されている。
【0194】
次に、誘導加熱手段400の構成について説明する。
【0195】
電磁誘導により加熱ローラ410を加熱する誘導加熱手段400は、図17に示すように、加熱ローラ410の外周面と対向配置されている。そして、図17および図20に示すように、磁界発生手段である励磁コイル480と、この励磁コイル480が巻き回されたコイルガイド板490とを有している。コイルガイド板490は、加熱ローラ410の外周面に近接配置された半円筒形状をしている。また、励磁コイル480は、表面が絶縁された線材を束ねた線束をコイルガイド板490に沿って加熱ローラ410の回転軸方向に延伸するようにして巻き付けたもので、加熱ローラ410の周方向に沿って周回して形成されている。
【0196】
なお、本実施の形態では、励磁コイル480の撚り本数は40本で、これを9巻きしている。
【0197】
ここで、図21に示すように、励磁コイル480における加熱ローラ410の回転軸方向の長さである全長をL1とし、加熱ローラ410の回転軸方向の長さである全長をL2としたならば、両者はL1>L2の寸法関係とされている。また、加熱ローラ410はその全長が励磁コイル480の全長内に位置するように配置されている。
【0198】
励磁コイル480では交番磁界が生じる。そして、この磁界は励磁コイル480の端部では不安定となるので、この不安定な磁界により加熱ローラ410に渦電流で生じたジュール熱にはムラが生じる。
【0199】
前述のように、本定着装置では、励磁コイル480の全長L1を加熱ローラ410の全長L2よりも長くし、加熱ローラ410をその全長が励磁コイル480の全長内に位置するように配置しているので、加熱ローラ410が励磁コイル480の端部に生じる不安定な磁界の影響を受けることがなくなって、誘導加熱手段400により加熱ローラ410がムラなく均一に発熱することができる。
【0200】
なお、励磁コイル480は、発振回路が周波数可変の駆動電源500に接続されている。
【0201】
励磁コイル480の外側には、フェライト等の強磁性体よりなる半円筒形状の励磁コイルコア520が、励磁コイルコア支持部材530に固定されて励磁コイル480に近接配置されている。なお、本実施の形態において、励磁コイルコア520は比透磁率が2500のものを使用している。
【0202】
加熱された耐熱性ベルト430は、図17に示す定着ニップ部Nの入口側近傍において耐熱性ベルト430の内面側に当接して配置されたサーミスタなどの熱応答性の高い感温素子からなる温度検出手段510により、ベルト内面温度が検知される。
【0203】
これにより、温度検出手段510が耐熱性ベルト430の表面を傷付けることなく定着性能が継続的に確保されるとともに、耐熱性ベルト430の定着ニップ部Nに入る直前の温度が検知される。そして、この温度情報を基に出される信号に基づいて誘導加熱手段400への投入電力を制御することにより、耐熱性ベルト430の温度がたとえば180℃に安定維持される。
【0204】
以上の説明においては、誘導加熱手段400で発熱された加熱ローラ410から耐熱性ベルト430を介して加熱される定着ローラ420で定着する構成を示したが、耐熱性ベルト430を用いず、加熱ローラ410で直接定着する構成を採用することもできる。
【0205】
すなわち、図22に示すように、誘導加熱手段400の電磁誘導により加熱される加熱ローラ410と、加熱ローラ410に圧接されるとともに加熱ローラ410に対して順方向に回転する加圧ローラ440とから構成するようにしてもよい。
【0206】
【発明の効果】
以上の通り、本願発明はC形コアの並びを加熱ローラの軸方向に対し角度を設けることにより、加熱ローラの軸と垂直な断面の面積がどの部分も概ね同じになるようにした。このように構成することにより、加熱ローラの軸方向における温度の高低差が少なくなり、定着ムラの発生を抑えることができる。
【0207】
また本発明によれば、励磁コイルの全長を発熱手段の全長よりも長くし、発熱手段をその全長が励磁コイルの全長内に位置するように配置しているので、発熱手段が励磁コイルの端部に生じる不安定な磁界の影響を受けることがなくなって、誘導加熱手段により発熱手段がムラなく均一に発熱することができるという有効な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態である画像形成装置の構成を示す説明図
【図2】本発明の第1の実施の形態における像加熱装置としての定着装置を示す断面図
【図3】本発明の第1の実施の形態における像加熱装置としての定着装置の発熱部を示す一部破断した平面図
【図4】本発明の第1の実施の形態における像加熱装置としての定着装置の発熱部を示す断面図
【図5】本発明の第1の実施の形態における像加熱装置としての定着装置の発熱部の等価回路図
【図6】本発明の第2の実施の形態における像加熱装置としての定着装置の発熱部を示す断面図
【図7】本発明の第2の実施の形態における像加熱装置としての定着装置の発熱ローラを除いた発熱部を示す底面図
【図8】Aは本発明の第3の実施の形態における像加熱装置としての定着装置を示す断面図3は本発明の第3の実施の形態における像加熱装置としての定着装置の他の例を示す断面図
【図9】図8(a)の矢印Gの方向から見た発熱部の投影図
【図10】本発明の第3の実施の形態における像加熱装置としての定着装置の発熱部を示す断面図
【図11】本発明の第3の実施の形態における像加熱装置としての定着装置の発熱ローラの回転軸と励磁コイルの中心を含む面における発熱部の断面図
【図12】本発明の第3の実施の形態における像加熱装置としての定着装置の発熱部を示す断面図
【図13】本発明の第3の実施の形態における像加熱装置としての定着装置の発熱ローラを示す断面図
【図14】本発明の第4の実施の形態における像加熱装置としての定着装置の発熱部を示す断面図
【図15】本発明の第5の実施の形態における像加熱装置としての定着装置の発熱部を示す断面図
【図16】本発明の第5の実施の形態における像加熱装置としての定着装置の発熱部を図15の矢印Aの方向からみた投影図
【図17】本発明の一実施の形態である定着装置の構成を示す説明図
【図18】図17の定着装置を構成する加熱ローラの構成を破断して示す説明図
【図19】図17の定着装置を構成する耐熱性ベルトの構成を示す説明図
【図20】図17の定着装置を構成する誘導加熱手段の一部を示す説明図
【図21】励磁コイルと加熱ローラとの寸法関係および位置関係を示す説明図
【図22】本発明の他の実施の形態である定着装置の構成を示す説明図
【図23】従来の像加熱装置の断面図
【図24】従来の像加熱装置の断面図
【図25】従来の像加熱装置に用いられている加熱コイルの斜視図
【符号の説明】
170 励磁コイル
210 背面コア
240 C形コア
250 中心コア
410 断熱部材
420 両端保持部

Claims (6)

  1. 交流電流が印加されることにより磁束を発生させる励磁部と、
    前記励磁部が発した磁束により誘導電流を発生し熱を生じる発熱部と、
    前記励磁部が発する漏洩磁束を捕捉する複数のコアを備え、
    前記複数のコアについて前記発熱部の軸方向と垂直な方向の断面をとったとき、どの断面の断面積も同一となるよう前記複数のコアを傾斜配列させたことを特徴とする定着装置。
  2. 交流電流が印加されることにより磁束を発生させる励磁部と、
    前記励磁部が発した磁束により誘導電流を発生し熱を生じる発熱部と、
    前記励磁部が発する漏洩磁束を捕捉する複数のコアを備え、
    前記複数のコアを前記発熱部の軸方向に対し徐々に変化する角度をもって傾斜して設けたことを特徴とする定着装置。
  3. 交流電流が印加されることにより磁束を発生させる励磁部と、
    前記励磁部が発した磁束により誘導電流を発生し熱を生じる発熱部と、
    前記励磁部が発する漏洩磁束を捕捉する複数のコアを備え、
    前記複数のコアを前記発熱部の軸方向もしくは半径方向に対して傾斜配列させると共に、前記複数のコアの前記発熱部の軸方向の幅径を前記発熱部の軸方向に変化させることを特徴とする定着装置。
  4. 前記複数のコアの前記発熱部の軸方向の幅径を前記発熱部の軸方向に徐々に変化させることを特徴とする請求項3記載の定着装置。
  5. 前記複数のコアの前記発熱部の軸方向の幅径が、前記発熱部の軸方向中央部より端部の方が広いことを特徴とする請求項3記載の定着装置。
  6. 請求項1から請求項5のいずれかに記載の定着装置を有することを特徴とする画像形成装置。
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