JP3965879B2 - 車軸用軸受装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車輪が装着される車軸用軸受装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の車軸用軸受装置の一例を図13に示している。ここでは、駆動輪側に用いられる車軸用軸受装置を例に挙げる。図中、1は車軸用軸受装置、2はハブホイール、3は複列外向きアンギュラ玉軸受、4はドライブシャフト、5はディスクブレーキ装置のディスクロータ、6はナックル、7はブレーキパッドである。
【0003】
なお、ディスクロータ5は、ハブホイール2のフランジ10の外端面に対してあてがわれた状態で取り付けられる。このディスクロータ5は、フランジ10の円周数カ所に設けられる貫通孔11に貫通状態で非分離に嵌入されるボルト12によって、固定される。
【0004】
そもそも、ディスクロータ5の取り付けは、車軸用軸受装置1をドライブシャフト4に対して取り付けた後で行われるために、フランジ10の貫通孔11に対してボルト12を予め取り付けておかなくてはならないし、また、車軸用軸受装置1単品を取り扱う段階において、前述したボルト12が脱落すると困るので、ボルト12を貫通孔11に対して非分離に取り付けるようにしている。
【0005】
従来では、前述したボルト12を貫通孔11に対して非分離とするために、ボルト12のねじ軸部において頭部側の領域にのみセレーション13を形成しており、ボルト12のセレーション13を、貫通孔11の円形内周面に対して食い込ませるように嵌入装着する形態になっている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来例では、ボルト12を貫通孔11に対して非分離に装着するために、ボルト12のセレーション13を貫通孔11に対して食い込ませているが、それによって、貫通孔11が塑性変形により微小ながら拡径することになって、フランジ10の外端面が周方向ならびに径方向で微小ながら波打つなど、面精度が低下することがある。詳しくは、ボルト12を貫通孔11に対して装着するときに、図14に示すように、貫通孔11の内径がμm単位ながらも膨張する。この膨張による肉部の流動によって前述したような面精度の低下が起こる。
【0007】
このようにフランジ10の外端面の面精度が低下すると、このフランジ10に対してディスクロータ5を密着させることができなくなるので、ディスクロータ5が傾いてその回転精度が低下することになりかねない。
【0008】
このような事情に鑑み、本発明は、車軸用軸受装置において、ハブホイールに対するディスクロータの取付姿勢を安定させることを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本願の請求項1に係る発明は、ハブホイールの径方向外向きのフランジの外端面にディスクブレーキ装置のディスクロータがあてがわれた状態で取り付けられる車軸用軸受装置であって、前記フランジの円周数カ所に貫通孔が設けられ、この貫通孔に車輪取付用のボルトが貫通状態でかつボルトの頭側に設けられるセレーションを食い込ませる形態で嵌入されており、前記貫通孔の内周面に、ボルトのセレーションの食い込み量を減らすための環状溝が設けられており、前記環状溝が、前記貫通孔の内周面における少なくともセレーション食い込み領域の軸方向数カ所に独立して設けられるものである、ことを特徴とする。
本願の請求項2に係る発明は、ハブホイールの径方向外向きのフランジの外端面にディスクブレーキ装置のディスクロータがあてがわれた状態で取り付けられる車軸用軸受装置であって、前記フランジの円周数カ所に貫通孔が設けられ、この貫通孔に車輪取付用のボルトが貫通状態でかつボルトの頭側に設けられるセレーションを食い込ませる形態で嵌入されており、前記貫通孔の内周面に、ボルトのセレーションの食い込み量を減らすための環状溝が設けられており、前記環状溝が、前記貫通孔の内周面における少なくもセレーション食い込み領域に螺旋状に連続して形成されるものである、ことを特徴とする。
【0011】
この場合、貫通孔にボルトを装着したときに貫通孔の内周面に対するボルトのセレーションの食い込み量を可及的に減らせるから、塑性変形による肉部の流動を抑制できるようになる。
【0012】
本願の請求項3に係る発明は、ハブホイールの径方向外向きフランジの外端面にディスクブレーキ装置のディスクロータがあてがわれた状態で取り付けられる車軸用軸受装置であって、前記フランジの円周数カ所に貫通孔が設けられ、この貫通孔に車輪取付用のボルトが貫通状態でかつボルトの頭側に設けられるセレーションを食い込ませる形態で嵌入されており、前記貫通孔の周辺に、貫通孔に対するボルト装着時において当該貫通孔が塑性変形により拡径する現象を許容するための脆弱部が設けられている、ことを特徴とする。
【0013】
なお、前記脆弱部としては、フランジにおいて貫通孔の外周部に該貫通孔と同心円状に車両アウタ側またはインナ側から凹まされた環状凹部により形成される形態、あるいはフランジにおいて貫通孔の外径側と内径側とにフランジと同心円状で車両アウタ側またはインナ側から凹まされた環状凹部により形成される形態などが考えられる。
【0014】
この場合、貫通孔にボルトを装着したときに貫通孔周辺の脆弱部で塑性変形による肉部の流動が起こるものの、この肉部の流動が脆弱部で吸収される形態で発生してフランジの外端面にまで波及しにくくなるから、フランジの外端面が変形しにくくなる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の詳細を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0016】
図1および図2に本発明の一実施形態を示している。図1は、車軸用軸受装置におけるハブホイールの要部拡大図、図2は、図1においてボルトを装着する前の状態を示す図である。
【0017】
この実施形態での車軸用軸受装置の全体構成については従来例で提示した図13と同一とするので、参照されたい。
【0018】
この実施形態では、ハブホイール2のフランジ10の貫通孔11に対してボルト12を装着するときにフランジ10の外端面が波打つことを抑制するために、以下のような工夫が施されている。
【0019】
すなわち、図示するように、フランジ10の貫通孔11の内周面に、環状溝14が軸方向隣り合わせに複数形成されている。なお、環状溝14は、貫通孔11の全長範囲に形成する必要はなく、貫通孔11において少なくともボルト12のセレーション13が食い込む領域に形成していればよい。また、環状溝14の個数も任意に設定される。
【0020】
そして、図2に示すように、貫通孔11の環状溝14の最小径部分の内径寸法R1をボルト12のセレーション13の外径寸法R2より小さく設定することにより、食い込み代を管理している。この食い込み代は、0.5mm以下、好ましくは0.3mm以下に規定するのがより好ましい。これにより、貫通孔11からボルト12が簡単に抜け出ずに保持されるとともに回り止めされることになる。
【0021】
以上説明した実施形態では、貫通孔11にボルト12を装着したときに貫通孔11の内周面に対するボルト12のセレーション13の食い込み量を可及的に減らすことができるから、貫通孔11の周辺における塑性変形による肉部の流動を少なくできる。これにより、貫通孔11周辺での肉部の流動がフランジ10の外端面に対して波及することを抑制できるので、フランジ10の外端面を平滑に保つうえで有利となる。
【0022】
したがって、ボルト12を非分離としたフランジ10の外端面に対してディスクロータ5を密着させることが可能になり、ディスクロータ5が従来例のように傾くことを防止できるようになるから、ディスクロータ5の回転精度の向上に貢献できるようになる。
【0023】
なお、本発明は上記実施形態のみに限定されるものではなく、種々な応用や変形が考えられる。
【0024】
(1)上記実施形態での環状溝14について、例えば図3や図4に示すように、貫通孔11の内周面において螺旋状に連なって形成されるものとすることができる。なお、参考例として例えば図5や図6に示すように、環状溝14を単一として軸方向寸法を大きくして断面ほぼ凹形に形成したものとすることができる。図5や図6に示す環状溝14の軸方向寸法Xについては、ボルト12のセレーション13領域の軸方向寸法Yに対して、X≦0.8Yの関係に設定することが好ましい。なお、これらいずれのものでも、上記実施形態と同様の作用、効果が得られる。但し、図5や図6に示す例の場合には、貫通孔11に対するボルト12の装着時におけるセレーションの食い込みに伴い貫通孔11周辺の肉部が若干ながらも流動する現象が起こるものの、この肉部の流動が環状溝14の内壁を変形させる形態で発生することになって、フランジ10の外端面に対して波及しなくなるから、フランジ10の外端面を平滑に保つうえでより有効となる。
【0025】
(2)上記実施形態では、貫通孔11の内周面に対するボルト12のセレーション13の食い込み量を可及的に減らす形態としたが、貫通孔11の周辺に、貫通孔11に対するボルト12装着時において当該貫通孔11が塑性変形により拡径する現象を許容するための脆弱部を設けるようにしてもよい。具体的に、図7ないし図9に示すように、フランジ10において貫通孔11の外周部に同心状に車両アウタ側から凹まされた環状凹部15を形成している。この環状凹部15が脆弱部となる。この脆弱部の他の例としては、図10に示すように、フランジ10において貫通孔11の外径側と内径側とにフランジ10と同心状で車両アウタ側から凹まされた環状凹部16a,16bを形成したものとすることができる。この場合の断面形状は、図7および図8と同一となる。
【0026】
これらいずれの例でも、貫通孔11に対するボルト12の装着時におけるセレーション13の食い込みに伴い、貫通孔11の周辺で肉部が流動して貫通孔11が拡径するものの、この肉部の流動が広域に波及することを、環状凹部15,16a,16bが遮って吸収することになるので、フランジ10の外端面が波打つ現象を抑制できるようになって、そこの平滑性が保たれることになる。換言すれば、環状凹部15,16a,16bによって貫通孔11の外周に鍔片が存在することになるので、前述した貫通孔11周辺での肉部の流動に伴い前記鍔片が撓むことになって他部位への波及を遮って吸収することになる。ところで、上記環状凹部15,16a,16bについては、車両インナ側から凹まされたものも本発明に含む。
【0027】
(3)上記実施形態では、フランジ10の側に種々な対策を施した例を挙げているが、例えば図11に示すように、ボルト12の中心に全長に及んで貫通する孔17を設けたり、あるいは、図12に示すように、ボルト12の頭側からセレーション13存在領域を越える所要位置までに及ぶ有底の穴18を設けるようにしてもよい。この場合、ボルト12が脆弱になるので、フランジ10の貫通孔11に対するボルト12の装着時におけるセレーション13の食い込みに伴い、当該貫通孔11周辺で肉部が流動するだけでなく、ボルト12自身も縮径するようになる。このように貫通孔11の外周とボルト12とに対して変形を分担させることにより、フランジ10の貫通孔11の周辺における肉部の流動量を減少させることができるので、この肉部の流動がフランジ10の外端面にまで波及することを抑制できて、フランジ10の外端面の平滑性が保たれることになる。
【0028】
(4)上記実施形態では、図13に示すようにハブホイール2に複列外向きアンギュラ玉軸受3の一方内輪を兼用させた構造としているが、図示しないが、前記一方内輪をハブホイール2と別体にした構造のものにも本発明を適用できる。
【0029】
(5)上記実施形態では、駆動輪に用いる車軸用軸受装置1を図13に例示したが、図15に示すような周知の従動輪に用いるタイプでも本発明を適用できる。図15の従動輪に用いる車軸用軸受装置では、ハブホイール2の内周に複列外向きアンギュラ玉軸受3などの複列転がり軸受を配設した構成である。ここでのハブホイール2は、複列外向きアンギュラ玉軸受3の外輪として利用されており、2列の玉31と、2つの保持器32,33と、2つの内輪34,35と備えている。そして、このような場合にも、詳細に図示していないが、上述した各実施形態で示した特徴構成が適用される。
【0030】
【発明の効果】
請求項1ないし4の発明では、フランジの貫通孔に対するボルトの装着時におけるセレーションの食い込みに伴う貫通孔周辺の肉部の流動量を減少させるように工夫しているから、この肉部の流動がフランジの外端面へ波及しにくくなって、そこを平滑に保つうえで有利となる。
【0031】
請求項5ないし7の発明では、フランジの貫通孔に対するボルトの装着時におけるセレーションの食い込みに伴う貫通孔周辺の肉部の流動をフランジの外端面へ波及させずに遮って吸収させるように工夫しているから、フランジの外端面を平滑に保つうえで有利となる。
【0032】
このように本発明では、フランジの外端面の平滑性を確保できるから、フランジの外端面に対してディスクロータを傾くことなく適正な姿勢で取り付けることが可能になるなど、ディスクロータの回転精度の向上に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態の車軸用軸受装置におけるハブホイールの要部拡大図
【図2】図1においてボルトを装着する前の状態を示す図
【図3】本発明の他実施形態に係る車軸用軸受装置におけるハブホイールの要部拡大図
【図4】図3においてボルトを装着する前の状態を示す図
【図5】参考例の実施形態に係る車軸用軸受装置におけるハブホイールの要部拡大図
【図6】図5においてボルトを装着する前の状態を示す図
【図7】本発明の他実施形態に係る車軸用軸受装置におけるハブホイールの要部拡大図
【図8】図7においてボルトを装着する前の状態を示す図
【図9】図8のフランジ内端面側を示す平面図
【図10】図9に示す実施形態の変形例にかかり、図9に対応する図
【図11】本発明の他実施形態に係る車軸用軸受装置におけるハブホイールの要部拡大図
【図12】本発明の他実施形態に係る車軸用軸受装置におけるハブホイールの要部拡大図
【図13】従来例の駆動輪用の車軸用軸受装置を示す縦断側面図
【図14】従来例の不具合を指摘するための説明図
【図15】本発明の適用しうる従動輪用の車軸用軸受装置の上半分を示す縦断側面図
【符号の説明】
1 車軸用軸受装置
2 ハブホイール
3 ドライブシャフト
5 ディスクロータ
10 ハブホイールのフランジ
11 フランジの貫通孔
12 ボルト
13 ボルトのセレーション
14 貫通孔の環状溝

Claims (5)

  1. ハブホイールの径方向外向きのフランジの外端面にディスクブレーキ装置のディスクロータがあてがわれた状態で取り付けられる車軸用軸受装置であって、
    前記フランジの円周数カ所に貫通孔が設けられ、この貫通孔に車輪取付用のボルトが貫通状態でかつボルトの頭側に設けられるセレーションを食い込ませる形態で嵌入されており、前記貫通孔の内周面に、ボルトのセレーションの食い込み量を減らすための環状溝が設けられており、
    前記環状溝が、前記貫通孔の内周面における少なくともセレーション食い込み領域の軸方向数カ所に独立して設けられるものである、ことを特徴とする車軸用軸受装置。
  2. ハブホイールの径方向外向きのフランジの外端面にディスクブレーキ装置のディスクロータがあてがわれた状態で取り付けられる車軸用軸受装置であって、
    前記フランジの円周数カ所に貫通孔が設けられ、この貫通孔に車輪取付用のボルトが貫通状態でかつボルトの頭側に設けられるセレーションを食い込ませる形態で嵌入されており、前記貫通孔の内周面に、ボルトのセレーションの食い込み量を減らすための環状溝が設けられており、
    前記環状溝が、前記貫通孔の内周面における少なくもセレーション食い込み領域に螺旋状に連続して形成されるものである、ことを特徴とする車軸用軸受装置。
  3. ハブホイールの径方向外向きフランジの外端面にディスクブレーキ装置のディスクロータがあてがわれた状態で取り付けられる車軸用軸受装置であって、
    前記フランジの円周数カ所に貫通孔が設けられ、この貫通孔に車輪取付用のボルトが貫通状態でかつボルトの頭側に設けられるセレーションを食い込ませる形態で嵌入されており、前記貫通孔の周辺に、貫通孔に対するボルト装着時において当該貫通孔が塑性変形により拡径する現象を許容するための脆弱部が設けられている、ことを特徴とする車軸用軸受装置。
  4. 請求項の車軸用軸受装置において、
    前記脆弱部が、前記フランジにおいて前記貫通孔の外周部に該貫通孔と同心円状に車両アウタ側またはインナ側から凹まされた環状凹部により形成される、ことを特徴とする車軸用軸受装置。
  5. 請求項の車軸用軸受装置において、
    前記脆弱部が、前記フランジにおいて前記貫通孔の外径側と内径側とにフランジと同心状で車両アウタ側またはインナ側から凹まされた環状凹部により形成される、ことを特徴とする車軸用軸受装置。
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