JP3956467B2 - 新規セルロース生産菌 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な諸特性を有するセルロース生産菌、及び該菌を培養することから成るバクテリアセルロースの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
セルロース生産菌を培養することによって製造されるバクテリアセルロース(BC)は、木材パルプ等から製造されるセルロースに較べてフィブリル(又は微細繊維)の断面幅が2ケタ程度小さいことを特徴とする。
従って、この構造的特徴に基づいて、高分子、特に、水系高分子用補強剤としての各種産業用途がある。例えば、かかるバクテリアセルロースの離解物を紙状シート又は固型形状に固化した物質は高い引っ張り弾性率を示すので、フィブリルの構造的特徴に基づく優れた機械特性が期待され、各種産業用素材として利用されている。或いは、製紙工程における填料歩留まり剤としても使用されている。
また、バクテリアセルロースは可食性であり、無味無臭であるために、食品分野で多く利用される他、水系分散性に優れているので、食品、化粧品、又は塗料等の粘度の保持、食品原料生地の強化、水分の保持、食品安定性の向上、低カロリー添加物又は乳化安定化補助剤としての産業上の利用価値がある。
【0003】
【本発明が解決しようとする課題】
さて、BCはグルコース1リン酸とUTPから生合成されるUDP−グルコース−G(UDP−G)を前駆体として合成される。従って、UDP、UTP又はUDP−Gの菌体内濃度を上げることが出来ればBCの生産性を向上させることが可能となる。
一方、UTPはピリミジン生合成の最初の段階で働くカルバモイルリン酸合成酵素(Carbamoyl-phosphate synthetase:CPS)の活性をフィードバック阻害していることが知られている。
本発明者はこのような特質を有するセルロー生産菌を見出すべく鋭意研究の結果、本発明を完成させた。
【0004】
【課題を解決する為の手段】
即ち、本発明は、UDP、UTP又はUDP−Gの菌体内濃度が高いセルロース生産菌に係わる。
具体的には、本発明のセルロース生産菌に於いて、培養中のUDP、UTP又はUDP−Gの菌体内濃度は、従来のものに比べて有意な程度、例えば約1.5倍ないし約4倍程度も高くなっている。
更に、本発明は、カルバモイルリン酸合成酵素の活性が有意な程度、例えば約10%〜約50%程度増加したセルロース生産菌、及びUTPによるカルバモイルリン酸合成酵素のフィードバック阻害が有意な程度に抑制されているセルロース生産菌にも係わる。
このようにカルバモイルリン酸合成酵素の活性が増加しているか、又は/及び該酵素のフィードバック阻害(アロステリック効果)が抑制されていることが、UDP、UTP又はUDP−Gの菌体内濃度が増加する原因の一つであろう。
【0005】
本発明の新規な菌体は、以下に述べるような従来公知のセルロース生産菌に、NTG等の従来公知の変異剤を使用して突然変異を誘発させ、こうして得られた突然変異株のUTP及びUDP−Gの菌体内濃度等の性質を調べることによって、当業者であれば容易に得ることが出来る。
また、当業者には周知の方法によって、土壌等の自然界から探索することによっても、容易に取得することができる。
【0006】
本発明の菌体の好適例として、以下の実施例に詳しく記載したように、アセトバクター・キシリナム・サブスピーシーズ・ノンアセトオキシダンス(A.xylinum subsp. nonacetoxidans)に属する757−3−5−11株を突然変異処理して得られたU−35株を挙げることが出来る。
この株は、1998年1月16日付で通産省工業技術院生命工学工業技術研究所特許微生物寄託センターに寄託され、受託番号FERM P−16584を付されている。
尚、757−3−5−11株の取得方法及び菌学的性質は、PCT/JP97/00514に詳しく記載されており、該株は1996年4月12日付で通産省工業技術院生命工学工業技術研究所特許微生物寄託センターに寄託され(受託番号FERM P−15564)、その後、1997年2月10日付で特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づく寄託(受託番号FERM BP−5815)に移管されている。
【0007】
更に、本発明は、本発明のバクテリアセルロース生産菌を培養し、培地中に蓄積したバクテリアセルロースを回収することから成る本発明に係わるバクテリアセルロースの製造方法に係わる。
バクテリアセルロース生産菌の培養自体は、以下に述べるように、当業者には公知の方法で行うことが出来る。
【0008】
本発明における新規なセルロース生産菌の創製の為に使用される公知のセルロース生産菌は、例えば、BPR2001株に代表されるアセトバクター・キシリナム・サブスピーシーズ・シュクロファーメンタンス(Acetobacter xylinum subsp. sucrofermentans)、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum )ATCC23768、アセトバクター・キシリナムATCC23769、アセトバクター・パスツリアヌス(A. pasteurianus )ATCC10245、アセトバクター・キシリナムATCC14851、アセトバクター・キシリナムATCC11142及びアセトバクター・キシリナムATCC10821等の酢酸菌(アセトバクター属)、その他に、アグロバクテリウム属、リゾビウム属、サルシナ属、シュードモナス属、アクロモバクター属、アルカリゲネス属、アエロバクター属、アゾトバクター属及びズーグレア属並びにそれらをNTG(ニトロソグアニジン)等を用いる公知の方法によって変異処理することにより創製される各種変異株である。
【0009】
尚、BPR2001株は、平成5年2月24日に通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所特許微生物寄託センターに寄託され(受託番号FERM P−13466)、その後1994年2月7日付で特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づく寄託(受託番号FERM BP−4545)に移管されている。
【0010】
NTG等の変異剤を用いての化学的変異処理方法には、例えば、Bio Factors, Vol. l, p.297−302 (1988)及び J. Gen. Microbiol, Vol. 135, p.2917−2929 (1989) 等に記載されているものがある。従って、当業者であればこれら公知の方法に基づき本発明で用いる変異株を得ることができる。また、本発明で用いる変異株は他の変異方法、例えば放射線照射等によっても得ることができる。
【0011】
培養に用いる培地の組成物中、炭素源としてはシュクロース、グルコース、フラクトース、マンニトール、ソルビトール、ガラクトース、マルトース、エリスリット、グリセリン、エチレングリコール、エタノール等を単独或いは併用して使用することができる。更にはこれらのものを含有する澱粉水解物、シトラスモラセス、ビートモラセス、ビート搾汁、サトウキビ搾汁、柑橘類を始めとする果汁等をシュクロースに加えて使用することもできる。 また、窒素源としては硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸塩、尿素等有機或いは無機の窒素源を使用することができ、或いはBacto−Peptone、Bacto−Soytone、Yeast−Extract、豆濃などの含窒素天然栄養源を使用してもよい。有機微量栄養素としてアミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、2,7,9−トリカルボキシ−1Hピロロ〔2,3,5〕−キノリン−4,5−ジオン、亜硫酸パルプ廃液、リグニンスルホン酸等を添加してもよい。
【0012】
生育にアミノ酸等を要求する栄養要求性変異株を使用する場合には、要求される栄養素を補添することが必要である。無機塩類としてはリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩、コバルト塩、モリブデン酸塩、赤血塩、キレート金属類等が使用される。
更に、イノシトール、フィチン酸、ピロロキノリンキノン(PQQ)(特公平5−1718号公報;高井光男,紙パ技協誌,第42巻,第3号,第237〜244頁)、カルボン酸又はその塩(特開平7−39386号公報)、インベルターゼ(特開平7−184677号公報)及びメチオニン(特開平7−184675号公報)等のセルロース生成促進因子を適宜培地中に添加することもできる。
例えば、本発明の培養に際しては、例えば、培養のpHは3ないし7に、好ましくは5付近に制御する。培養温度は10〜40℃、好ましくは25〜35℃の範囲で行う。培養装置に供給する酸素濃度は1〜100%、望ましくは21〜80%であれば良い。これら培地中の各成分の組成割合及び培地に対する菌体の接種等は培養方法に応じて当業者が適宜選択し得るものである。
本発明方法では、従来より、微生物を培養する培養形式として公知の形式、即ち、静置、振盪もしくは通気攪拌培養等、また、培養操作法として公知の、いわゆる回分発酵法、流加回分発酵法、反復回分発酵法及び連続発酵法等を用いることができる。
尚、攪拌手段としては、例えばインペラー(攪拌羽根)、エアーリフト発酵槽、発酵ブロスのポンプ駆動循環、及びこれら手段の組合せ等が使用されている。
【0013】
尚、攪拌培養とは、培養液を攪拌しながら行なう培養法であり、当該攪拌培養中に受ける攪拌作用によって、バクテリアセルロースの構造が、例えば、結晶化指数が低下して非晶部が増すように変化する。
攪拌手段としては、例えばインペラー、エアーリフト発酵槽、発酵ブロスのポンプ駆動循環、及びこれら手段の組合せ等を使用することができる。
培養操作法としては、いわゆる回分発酵法、流加回分発酵法、反復回分発酵法及び連続発酵法等がある。
更に、本出願人名義の特開平8−33494号公報に記載された培養装置と分離装置の間で菌体を含む培養液を循環させるセルロース性物質の製造方法であって、該分離装置に於いて、生産物であるセルロース性物質を菌体及び培養液から分離することを特徴とする前記方法や、同じく、本出願人名義の特開平8−33495号公報に記載されたセルロース生産菌を培養してセルロース性物質を製造する方法であって、培養期間中、培養系からの培養液の引き抜き及び該引き抜き量とほぼ等容量の新たな培養液の供給を連続的に行なうことによって、培養中の培養液に於けるセルロース性物質の濃度を低く維持することを特徴とする前記製造方法がある。
【0014】
前記攪拌培養を行なうための槽としては、例えば、ジャーファーメンター及びタンク等の攪拌槽、並びにバッフル付きフラスコ、坂口フラスコ及びエアーリフト型の攪拌槽が使用可能であるがこの限りではない。
本発明でいう攪拌培養においては、攪拌と同時に、必要に応じて、通気を行なっても良い。ここでいう通気とは、例えば空気等の酸素を含有するガス、並びに例えばアルゴン及び窒素等の酸素を含有しないガスのいずれを通気しても良く、これらガスは培養系の条件に合わせて当業者により適宜、選択されよう。
例えば、嫌気性の微生物の場合は、不活性ガスを通気をすれば、その気泡によって培養液を攪拌することができる。
好気性の微生物の場合には、酸素を含有するガスを通気することで微生物の成育に必要な酸素を供給すると同時に、培養液を攪拌することができる。
【0015】
攪拌培養により得た本発明バクテリアセルロースは遠心分離法又は濾過法等により培養液から分離した後に、菌体と一緒に回収してもよく、さらに本物質中に含まれる菌体を含むセルロース性物質以外の不純物を取り除く処理を施すことが出来る。
不純物を取り除くためには、水洗、加圧脱水、希酸洗浄、アルカリ洗浄、次亜塩素酸ソーダ及び過酸化水素などの漂白剤による処理、リゾチームなどの菌体溶解酵素による処理、ラウリル硫酸ソーダ、デオキシコール酸などの界面活性剤による処理、常温から200℃の範囲の加熱洗浄などを単独及び併用して行い、セルロース性物質から不純物をほぼ完全に除去することができる。
【0016】
尚、BC蓄積量(g/l)は、培養終了後、培養液中の固形物を集積し、水洗して培地成分を除去した後、0.2N NaOH水溶液中で80℃、20分間処理して菌体を除去した。さらに、洗浄液が中性付近になるまで生成セルロースを水洗した後、80℃で12時間真空乾燥して乾燥重量を測定することで求めた。又、糖濃度は当業者には公知の方法でHPLCによって測定した。(消費糖)収率(%)は以下のようにして求めた。
【0017】
【数1】
消費糖収率(%)の計算
BC=BC/(RCMF−RCBF)*100
BC :対消費糖収率(%)
BC :BC蓄積量(g/l)
RCMF:培地の糖濃度(g/l)
RCBF:培養後の培地の糖濃度(g/l)
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明を、以下の実施例を参照しながら詳しく説明する。かかる実施例が本発明の範囲を何等制限するものでないことは、当業者には周知のことである。
【0019】
【実施例】
実施例1:U−35株の取得
使用菌株 757−3−5−11株
U−35株の取得方法
(1)757−3−5−11株の変異処理
菌体をCSL−Suc培地(1%セルラーゼ含有)で28℃、3時間培養し、この培養液を集菌後10mM燐酸緩衝液(pH6.0)で洗浄した。得られた菌体を40μg/mlNTG(10mM燐酸緩衝液(pH6.0))中で30℃、30分間処理した。変異処理した菌体を集菌し、前記のように洗浄しCSL−Suc培地(1%セルラーゼ含有)で28℃、一夜培養し変異を固定した。
(2)U−35株の取得
変異処理した757−3−5−11株を以下のAAS培地プレートで塗抹培養(28℃、7日間)し、得られたコロニーの各菌について、以下の通り、UDP、UTP及びUDP−Gの菌体内濃度を測定した。
【0020】
【表1】
AAS培地組成
シュクロース 5%、KH2 PO4 0.3%、
MgSO4 ・7H2 O 0.24%、硫安 0.1%、
総合アミノ酸 0.5%、50%フィチン酸 0.02%、
pH5.0、寒天2%
【0021】
UDP、UTP及びUDP−Gの菌体内濃度の測定
CSL−Suc培地(1%セルラーゼ含有)で28℃、24時間、150rpmで振盪培養して得られた菌体を集菌し、これを50mM燐酸緩衝液(pH7.0)で洗浄後に、同緩衝液に再懸濁した。得られた懸濁液をフレンチプレスで破砕し、遠心分離にかけ、遠心上清を菌体破砕液として調製した。
こうして得られた遠心上清に等量のアセトニトリルを添加し、再び遠心分離にかけて除蛋白を行い、それを測定用試料とした。
UDP、UTP及びUDP−Gの実際の測定はHPLCを用いて当業者には公知の方法で実施した。
試験した菌体のなかで、UDP、UTP及びUDP−Gの菌体内濃度が従来の菌に比べて有意に高かった株の中からU−35株を選択し、その結果を表2に示した。尚、表2中の各濃度は菌体破砕液中総蛋白質濃度当たりで示した。
【0022】
【表2】
Figure 0003956467
【0023】
実施例2:UTPによるCPSのフィードバック阻害
CSL−Suc培地(1%セルラーゼ含有)で28℃、24時間、150rpmで振盪培養して得られた菌体を集菌し、これを50mM燐酸緩衝液(pH7.0)で洗浄後に、同緩衝液に再懸濁した。得られた懸濁液を超音波処理し、遠心分離し、遠心上清を酵素液として調製した。
CPSの活性測定は、T. J. Paulus等の方法(J. Bacteriol Vol. 187, p82-91 (1979))に従って実施した。
【0024】
【表3】
Figure 0003956467
【0025】
【表4】
培地組成
CSL−Suc培地
シュクロース 4.0 (%)
KH2 PO4 0.1
MgSO4 ・7H2 O 0.025
(NH4 2 SO4 0.33
ビタミン混合液 1.0
塩類混合液 1.0
CSL(コーンステープリカー) 4.0
pH 5.0
【0026】
【表5】
Figure 0003956467
【0027】
【表6】
Figure 0003956467
【0028】
実施例3:フラスコ培養方法
前培養:菌保存液0.5mlを50mlCSL−Suc培地(250ml容量ルーフラスコ)に植菌し、28℃、3日間静置培養した。
本培養:前培養の菌液7.5mlを68mlCSL−Suc培地(300ml容量三角フラスコ)に植菌し、28℃、4日間、150rpmで振盪培養した。
得られた結果を表7に示す。
【0029】
【表7】
Figure 0003956467
【0030】
【発明の効果】
以上の結果から、本発明の新規セルロース生産菌は、バクテリアセルロースの生産性が高いことが判った。

Claims (2)

  1. U−35株(FERM P−16584)である、セルロース生産菌。
  2. 請求項1記載のセルロース生産菌を培養し、培地中に蓄積したバクテリアセルロースを回収することから成る、バクテリアセルロースの製造方法。
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