JP3952900B2 - リクライニング装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として車両用シートのリクライニング装置に関し、特にシートバックを一定の傾動範囲においてアンロック状態に保持するフリーゾーンの設定に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種のリクライニング装置としては、例えば特許文献1に開示された技術が知られている。この技術では、車両用シートのシートクッション側とシートバック側とに個別に固定される両ハウジングの内部に、スライドポールおよびカムが組み込まれている。スライドポールは、カムの回転制御によって径方向へ摺動するようになっている。このスライドポールが、シートバック側ハウジングの内周に形成されているラチェットに噛み合うことで、リクライニング装置はロック状態になる。
【0003】
スライドポールには、その幅方向の中央部付近において第1,第2の突起が径方向に間隔をもって設けられている。これらの突起のうち、第1の突起が両ハウジングの相対的な回転に基づいてシートバック側ハウジングに形成された円弧状の軌道によるカム作用を受け、所定のフリーゾーンにおいてスライドポールとラチェットとの噛み合いを解除する。これにより、リクライニング装置がフリーゾーンにおいてアンロック状態に保持される。
なお第2の突起は、カムと一体的に回転する作動プレートの作用を受けてスライドポールをラチェットから後退させた位置に保持する。
【0004】
スライドポールの歯部とラチェットとは、互いに同心の円弧上に沿って形成されているのに対し、スライドポールは径方向へ直線的に摺動することでラチェットに噛み合う。このため、スライドポールにおける幅方向の中央部付近では、スライドポールの歯部がラチェットに対して真っ直ぐに進入して噛み合う。これに対してスライドポールにおける幅方向の両端部付近では、スライドポールの歯部がラチェットに対して斜め方向から進入していくような格好で噛み合うこととなる。
【0005】
したがって、クライニング装置がフリーゾーンからロック状態に切り替わるとき、スライドポールの歯部をラチェットに対して狙いどおりの位置に噛み合わせるには、スライドポールにおける両端部付近の歯部の噛み合いタイミングをコントロールすることが重要となる。
【0006】
【特許文献1】
特開平9−183327号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来は、フリーゾーンからロック状態に切り替わるとき、スライドポールにおける幅方向の中央部付近に位置する第1の突起により、ラチェットに対するスライドポールの噛み合いタイミングをコントロールしている。このため、両ハウジングの相対的な回転方向によっては、スライドポールにおける両端部付近の歯部の噛み合いタイミングをコントロールすることが難しく、狙った箇所から1〜2歯ずれた箇所で噛み合うといった、いわゆる“歯飛び”が生じやすい。
本発明は前記課題を解決しようとするもので、その目的は、スライドポールの歯部がラチェットに噛み合う際の“歯飛び”を解消することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は前記目的を達成するためのもので、以下のように構成されている。
請求項1に記載の発明は、相対的に回転できるように組み付けられた一方側ハウジングと他方側ハウジングとの内部に、複数個のスライドポールと、カム部材と、アンロック部材とがそれぞれ収容されている。前記各スライドポールは、前記一方側ハウジングに対して周方向の移動が規制され、かつ径方向へは摺動できるように配置されている。前記カム部材は、その回転操作により前記各スライドポールを摺動させて前記他方側ハウジングに形成されているラチェットに噛み合わせ、あるいは噛み合いを解除することができる。前記アンロック部材は、前記両ハウジングの相対的な回転角度の範囲内における所定のフリーゾーンにおいて、前記各スライドポールのうち、少なくとも一つのスライドポールを前記ラチェットとの噛み合いが解除された位置に保持することができる。
このような形式のリクライニング装置において、前記アンロック部材に設けられたカム溝と、少なくとも一つの前記スライドポールに設けられて前記カム溝内に位置させたカム突起とを備えている。カム溝は小幅部分と、その両側に位置する大幅部分とをそれぞれ有する。カム突起は一つの前記スライドポールにおける幅方向の両端部付近に基準端面をそれぞれ有する。
前記両ハウジングの相対的な回転による前記カム突起と前記カム溝との相対的な移動に基づいて、一つの前記スライドポールがフリーゾーンからラチェットに噛み合い可能なロック位置に切り替えられるとき、両ハウジングの相対的な回転によってアンロック部材が時計回り方向に回転しているときは、カム溝における一方の大幅部分が一方の基準端面に倣いつつカム突起と重なって小幅部分がカム突起から外れ、アンロック部材が反時計回り方向に回転しているときは、他方の大幅部分が他方の基準端面に倣いつつカム突起と重なって小幅部分がカム突起から外れるように設定されている。
【0009】
このように、リクライニング装置がフリーゾーンからロック状態に切り替わるときのラチェットに対する一つのスライドポールの動きを、このスライドポールにおける幅方向の両端部付近に設けた基準端面とアンロック部材のカム溝とによって制御することにより、一つのスライドポールにおける両端部付近の歯部の噛み合いタイミングを容易にコントロールできる。したがって、スライドポールの歯部がラチェットに噛み合う際の“歯飛び”を解消できる。また、スライドポールの両基準端面が個別に、かつ同じ機能を果たすので、両ハウジングの相対的な回転が何れの方向であっても、フリーゾーンからロック状態に切り替わるタイミングが同じになる。
なおフリーゾーンにおいて、少なくとも一つのスライドポールをラチェットとの噛み合いが解除された位置に保持することにより、結果としてはカム部材を介して残る全てのスライドポールも噛み合い解除位置に保持される。
【0010】
また請求項2に記載の発明は、請求項1に記載されたリクライニング装置であって、少なくとも一つのスライドポールに設けられたカム突起が、スライドポールの幅方向に関して二つに分けられ、これらのカム突起が個々に基準端面を備えている。
これにより、先に説明した作用効果に加え、スライドポールの必要部位にのみカム突起を形成すればよく、スライドポールの基本的な機能に対する支障を抑え、かつ軽量化も可能となる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は車両用シートのリクライニング装置の縦断面図であって、図3のI−I矢視方向の断面に対応している。図2はリクライニング装置を分解して表した斜視図である。図3および図4はリクライニング装置において一部の構成部材を取外した状態の正面図である。本実施の形態におけるリクライニング装置10は、その外殻が個々に円盤形状をした固定側ハウジング11と回転側ハウジング12とによって構成されている。両ハウジング11,12は互いに対向して嵌め合わされ、かつ相互の外周部に回転側ハウジング12側から組み付けられるセットプレート22をカシメることにより相対的な回転可能に結合されている。
【0012】
固定側ハウジング11は車両用シートのシートクッション側に取付けられ、回転側ハウジング12は車両用シートのシートバック側に取付けられる。両ハウジング11,12の内部に構成された収容空間には、4個のスライドポール15(15A,15B,15C,15D)、回転カム16、操作アーム17、作動プレート18、アンロックプレート19、およびスパイラルスプリング21が収容されている。また支持軸13の両端部は両ハウジング11,12の外に出ており、一方の端部に操作レバー14が取付けられている(図1)。
【0013】
図2で示すように固定側ハウジング11は、その内側に段付きの円形凹所11bを備えている。円形凹所11b内には、十字状に交差して縦横に延びる組付溝11cが形成されている。組付溝11cは、円形凹所11bよりも一段と深く形成されている。また組付溝11cにおける交差部の四箇所の外側角部は略三角形状を呈する受承壁部11dとなっている。なお円形凹所11bの中央部には、貫通孔11eと掛止溝11fとが形成されている。
【0014】
図2で示すように回転側ハウジング12は、その内側に段付きの円形凹所12bを備えている。円形凹所12bの外側大径部である円環状の全周面には内歯が形成されていて、環状のラチェット12cを構成している。回転側ハウジング12の外径は、固定側ハウジング11に接合された際に、固定側ハウジング11の円形凹所11bにちょうど嵌まり合う大きさである。円形凹所12bの中央部には、貫通孔11eと同軸線上で対向する貫通孔12dが形成されている。また円形凹所12bには4個の係合突起部12eが形成されている。
【0015】
各スライドポール15(15A,15B,15C,15D)は、その主要構成部は全て同一の形状をしているが、スライドポール15Aは特定の機能においてのみ他のスライドポール15B,15C,15Dと相違する。そこで以下の各スライドポール15の説明において、スライドポール15Aの特定の機能を説明する場合は、このスライドポール15Aは他の各スライドポール15B,15C,15Dと区別して説明される。しかし、それ以外の場合においては、各スライドポール15A,15B,15C,15Dを総称してスライドポール15として説明される。
【0016】
スライドポール15は、図2〜図4で示すように略アーチ形状をしており、その頂部(組み付けた状態では径の外方側に位置する部分)に回転側ハウジング12のラチェット12cに噛み合うことが可能な歯部15bを備えている。スライドポール15は、その頂部とは反対側(組み付けた状態では径の内方側に位置する部分)に左右一対の脚部15c,15dを備えている。また両脚部15c,15dの間の略中間部には内側面部15fが形成されている。
【0017】
図5はスライドポール15Aと他のスライドポール15B〜15Dの一つとをそれぞれ拡大して表した正面図である。図5(a)で示すように、スライドポール15Aは一対の(二つの)カム突起15g,15hを備えている。また図5(b)で示すように、スライドポール15Aを除く他のスライドポール15B〜15Dはそれぞれ一つのカム突起15eを備えている。これらのカム突起は、それぞれ略四角柱状に形成されているとともに、スライドポール15を組み付けた状態において作動プレート18側へ突出する。そしてスライドポール15Aの両カム突起15g,15hについては、他のスライドポール15B〜15Dのカム突起15eに比較して突出量が長く設定されている。両カム突起15g,15hの突出量は等しい。
【0018】
スライドポール15Aのカム突起15gは、後で説明するように他のカム突起15eと同じ機能を有する。またスライドポール15Aの両カム突起15g,15hは、さらに別の機能を有する。両カム突起15g,15hは、スライドポール15Aの図5(a)で示す左右の中間部を境とした両側に振り分けて配置されている。両カム突起15g,15hにおいて、相対向している側面(内側面)とは反対側の側面(外側面)がそれぞれの基準端面15g-1,15h-1となっている。このように左右に振り分けた一対のカム突起15g,15hにおいて、個々の外側面を基準端面15g-1,15h-1とすることで、それぞれの基準端面15g-1,15h-1と、それにつづく個々の外方面15g-2,15h-2との間の角度および円弧形状を同じに設定できる。
【0019】
回転カム16は略円形状のプレートである。図2〜図4で示すように回転カム16は、その外周縁において受承カム部16b,16c,16dを一組とするカム部を周方向に同一間隔で4組備えている。回転カム16の中央部には、操作アーム17と略同一形状で、この操作アーム17が嵌まり合う嵌合孔16eが形成されている。また回転カム16の回転中心を中心とする円周上には、3個の係合突起部16fが一定の間隔をもって形成されている。これらの係合突起部16fは、回転カム16を組み付けた状態において作動プレート18側へ突出する。
【0020】
操作アーム17は、図2〜図4に示すように筒状部分17aと、その外周部から外方へ突出するアーム部分17bとを備えている。この操作アーム17は、回転カム16の嵌合孔16eと略同一形状をしており、すでに述べたようにこの嵌合孔16eに嵌まり合う。
【0021】
作動プレート18は円形状のプレートである。この作動プレート18は、図2で示すように中央部に円形状の貫通孔18bを備えている。作動プレート18の回転中心を中心とする円周上には、3個の係合孔18cが形成されている。また作動プレート18には、周方向に一定間隔をもって位置する4個のカム溝18dが形成されている。これらのカム溝18dは作動プレート18の両面に貫通した窓形状をしている。そして各カム溝18dのうち、一つのカム溝18d-aにおける外方側は略弓形状の弧をなしており、他のカム溝18dにおける外方側は互いに同一の円弧形状をなしている。一つのカム溝18d-aにおける弧の一部と、他のカム溝18dの弧とは同じ形状に設定されている。なおカム溝18d-aは、スライドポール15Aにおける一対のカム突起15g,15hに対向して位置している。
【0022】
アンロックプレート19は円形状のプレートである。このアンロックプレート19は、図2〜図4に示すように中央部に貫通孔19bを備えている。アンロックプレート19の外周寄りには、その外周縁に沿って延びる円弧状のカム溝19cが形成されている。このカム溝19cは、アンロックプレート19の両面に貫通した環状の開口部であって、大幅部分19c-1、小幅部分19c-2、大幅部分19c-3によって構成されている。両大幅部分19c-1,19c-3は小幅部分19c-2の両側に位置している。両大幅部分19c-1,19c-3の長さと幅は互いに等しい。小幅部分19c-2の外周側の径は、両大幅部分19c-1,19c-3の外周側の径よりも小さく形成されている。
【0023】
なおカム溝19cは、スライドポール15Aにおける一対のカム突起15g,15hに対向して位置している。またアンロックプレート19には4個の係合孔19dが形成されている。各係合孔19dのうちの2個はカム溝19cにおける両大幅部分19c-1,19c-3の溝端に連通して形成されている。
【0024】
スパイラルスプリング21は、組み付けられた状態において固定側ハウジング11と操作アーム17との間でトーションバネとして機能する。図2で示すようにスパイラルスプリング21の内端部21aは方形状に巻かれ、外端部21bは外方へ突出させた格好に曲げられている。そして内端部21aは、操作アーム17における筒状部分17aの外周面(方形状)に嵌まる寸法に設定され、外端部21bは固定側ハウジング11における掛止溝11fのいずれか一方に係合するように設定されている。
【0025】
これらの各構成部材は、例えば次の順序で組み付けられて図1で示す構造のリクライニング装置10が構成される。まず固定側ハウジング11の円形凹所11bにスプリング21を装着する。このスプリング21の内端部21aに操作アーム17の筒状部分17aをはめ込み、これを固定側ハウジング11の貫通孔11eに挿通させる。そして操作アーム17のアーム部分17bに回転カム16を組み付けた後、各スライドポール15を固定側ハウジング11における個々の組付溝11cに組み付ける。
【0026】
次いで、回転カム16に作動プレート18を組み付け、アンロックプレート19が予め取り付けられた回転側ハウジング12を組み合わせる。最後にセットプレート22を、すでに説明したように回転側ハウジング12の側から組み付けて固定側ハウジング11の外周縁部にカシメることで、リクライニング装置10が完成する。なお支持軸13は、完成したリクライニング装置10における両ハウジング11,12の貫通孔11e,12dおよび操作アーム17に挿通させることで組み付けられる。
【0027】
この組み付け状態において、スパイラルスプリング21の外端部21bは固定側ハウジング11における掛止溝11fの一方に係合されている。操作アーム17の筒状部分17aは、スパイラルスプリング21の内端部21aに係止されている。操作アーム17のアーム部分17bは、回転カム16の嵌合孔16eに嵌まり合っている。また各スライドポール15は、固定側ハウジング11の各組付溝11c内において受承壁部11dにより周方向の移動を規制され、かつ径方向へは摺動できるように位置している。各スライドポール15において、それぞれの各脚部15c,15dは、回転カム16の各受承カム部16c,16bに当接している。また各スライドポール15の内側面部15fは、回転カム16の受承カム部16dに当接している。この状態での各スライドポール15は、図3に示すように、その歯部15bが回転側ハウジング12のラチェット12cの対向する各部位に噛み合っている。
【0028】
同じく組み付け状態において、作動プレート18は各スライドポール15および回転カム16に対向して位置しているとともに、回転側ハウジング12の円形凹所12b内に位置している。回転カム16の各係合突起部16fは作動プレート18の各係合孔18cに係合している。これにより、作動プレート18は回転カム16と連結され、回転カム16と一体的に回転する。スライドポール15Aにおける一対のカム突起15g,15hは、作動プレート18のカム溝18d-aに臨んでいる。また他のスライドポール15B〜15Dのカム突起15eは、個々に対応するカム溝18dに臨んでいる。これにより、各スライドポール15と作動プレート18との間においては、各スライドポール15をラチェット12cから後退させる方向へ移動させるカム機構が構成されている。
【0029】
同じく組み付け状態において、アンロックプレート19は、作動プレート18を挟んで各スライドポール15に対向して位置し、かつ回転側ハウジング12の円形凹所12b内に位置している。この状態でのアンロックプレート19は、各係合孔19dが回転側ハウジング12の各係合突起部12eに係合している。したがってアンロックプレート19は回転側ハウジング12に連結されており、周方向へ一体的に回転する。またアンロックプレート19のカム溝19cには、スライドポール15Aの一対のカム突起15g,15hが、作動プレート18のカム溝18d-aを通じて臨んでいる。スライドポール15Aのカム突起15g,15hとアンロックプレート19のカム溝19cとにより、スライドポール15Aをラチェット12cから後退させる方向へ移動させるカム機構が構成されている。
【0030】
このように構成されたリクライニング装置10において、スライドポール15Aは本発明における「少なくとも一つのスライドポール」に相当する。また回転カム16および作動プレート18は本発明におけるカム部材に相当し、アンロックプレート19は本発明におけるアンロック部材に相当する。
【0031】
つづいてリクライニング装置10の作動について説明する。
図3では、各スライドポール15が回転側ハウジング12のラチェット12cに噛み合って両ハウジング11,12の相対的な回転を規制(ロック)した状態が示されている。これに対して図4では、操作レバー14の回動操作によって各スライドポール15とラチェット12cとの噛み合いが解除され、両ハウジング11,12の相対的な回転を許容した状態が示されている。
【0032】
図6〜図10はリクライニング装置10における一部の構成部材を省略した状態の正面図であって、回転側ハウジング12のラチェット12c、各スライドポール15、アンロックプレート19の動作の関連を表している。つまり、これらの部材以外の構成部材は省略されている。また図11は車両用シートの概略を表した側面図である。
【0033】
リクライニング装置10において、図1で示す操作レバー14を操作していないときには、図3に示すように各スライドポール15の脚部15c,15dおよび内側面部15fは、回転カム16の各受承カム部16c,16b,16dに当接している。そして各スライドポール15は、ラチェット12cの対向する部位に噛合している。回転カム16には、操作アーム17を介してスパイラルスプリング21のバネ力が図面で反時計回り方向へ作用しており、この回転カム16は各スライドポール15に対して前記の当接状態を保つ角度に保持される。この結果、各スライドポール15とラチェット12cとの噛み合い状態が保持されている。この噛み合いにより、先に述べたように固定側ハウジング11に対する回転側ハウジング12の相対的な回転が規制される。したがってリクライニング装置10としては、図11のシートクッションS1に対するシートバックS2の前後方向への傾動を規制したロック状態に保持されている。
【0034】
シートクッションS1に対するシートバックS2の傾動規制を解除すべく、操作レバー14を操作すると、支持軸13を介して操作アーム17が図3の時計回り方向へ回転し、回転カム16が同じ方向へ所定量だけ回転する。その結果、回転カム16の受承カム部16b,16c,16dと各スライドポール15の脚部15d,15cおよび内側面部15fとの当接がそれぞれ外れる。これにより、回転カム16の各スライドポール15に対する保持が解除され、各スライドポール15は径方向に関してフリー状態になる。そして作動プレート18は回転カム16と一体に回転するので、各カム溝18dの外径側の弧面によりスライドポール15Aにおけるカム突起15gと、他の各スライドポール15B〜15Dにおける個々のカム突起15eとが径内方へ押される。この結果、各スライドポール15はラチェット12cから退行し、相互の噛み合いが解除される(図4)。
【0035】
各スライドポール15のラチェット12cに対する噛み合いが解除された状態では、両ハウジング11,12は図面の時計回り方向および反時計回り方向へ回転自在である。すなわち、リクライニング装置10はロック解除の状態にあり、シートバックS2をシートクッションS1に対して前後方向へ傾動させることができる。このシートバックS2の傾動については、前方(図11の仮想線)へ倒したり、後方へ略水平状態になるまで倒すことができる。
【0036】
つづいてシートバックS2を図11の実線で示す位置から仮想線で示す位置まで前方へ倒す手順を主として図6〜図10を用いて説明する。
まず操作レバ−14を回動操作して回転カム16および作動プレート18を図面の時計回り方向へ所定量回転させる。これにより、先に説明したように各スライドポール15がラチェット12cから退行して相互の噛み合いが解除され、両ハウジング11,12の相対的な回転が可能になる。そこでシートクッションS1に対してシートバックS2を前方へ傾動させることにより、回転側ハウジング12がアンロックプレート19と一体に反時計回り方向へ回転する。このアンロックプレート19が図6から図7の状態まで回転することにより、カム溝19cの小幅部分19c-2がスライドポール15Aにおける一方のカム突起15hに重なる位置まで移動する。
【0037】
図7の状態においては、小幅部分19c-2の外径側の内周面によってカム突起15hはラチェット12c側への進行が妨げられ、スライドポール15Aはラチェット12cに対して退行した状態に保持される。そしてスライドポール15Aの脚部15c,15dが回転カム16の受承カム部16c,16bそれぞれに当接しているため、この回転カム16はスパイラルスプリング21のバネ力による反時計回り方向への回転が阻止されている。この回転カム16と共に作動プレート18も回転できない。この結果、すでに説明したように作動プレート18の各カム溝18dにより径内方向へ押されている他のスライドポール15B〜15Dについても、ラチェット12cに対して退行した状態で保持される。この状態で操作レバー14の操作が解除されても、全てのスライドポール15はラチェット12cに対する噛み合いが解除された状態に保持されている。したがってリクライニング装置10は、シートクッションS1に対するシートバックS2のロックが解除されたフリー状態になる。
【0038】
そこでシートバックS2を前方へ傾動させると、図8で示すようにアンロックプレート19がさらに反時計回り方向へ回転する。これに伴ってカム溝19cの小幅部分19c-2がスライドポール15Aにおける一方のカム突起15hに引き続き重なっているとともに、他方のカム突起15gにも重なる。この状態においても小幅部分19c-2の外径側の内周面によってカム突起15h,15gのラチェット12c側への進行が妨げられ、スライドポール15Aはラチェット12cに対して退行した状態に保持される。したがって、この状態におけるリクライニング装置10も、シートクッションS1に対するシートバックS2のロックが解除されたフリー状態に保たれている。
【0039】
シートバックS2を図11の仮想線で示す状態の直前位置まで傾動させると、アンロックプレート19は図9で示す位置に回転する。この状態での小幅部分19c-2は、スライドポール15Aにおける一方のカム突起15hから外れているものの、他方のカム突起15gに対して未だ重なっている。このためスライドポール15Aはラチェット12cに対して退行した状態に保持されており、リクライニング装置10はシートクッションS1に対するシートバックS2のロックが解除されたフリー状態に保たれている。
【0040】
最終的に図11の仮想線で示す位置までシートバックS2を傾動させると、図10で示すようにカム溝19cの小幅部分19c-2はスライドポール15Aにおけるカム突起15gからも外れる。このとき、カム溝19cの大幅部分19c-3がスライドポール15Aの両カム突起15g,15hと重なっている。つまり両カム突起15g,15hは、大幅部分19c-3によって開放されるため、各スライドポール15はラチェット12cに対して進行が許容される。ここで回転カム16および作動プレート18が、スパイラルスプリング21のバネ力によって反時計回り方向へ回転復帰する。この結果、各スライドポール15はラチェット12cに対して進行し、互いに噛み合う。これにより、両ハウジング11,12の相対的な回転が規制され、シートバックS2はシートクッションS1に対して図11の仮想線で示す位置でロックされる。
【0041】
このようにシートクッションS1上に重ねた状態に倒したシートバックS2を図11の実線で示す起立状態に復帰させるには、操作レバー14の操作によって回転カム16および作動プレート18を時計回り方向へ所定量だけ回転させる。これにより図10で示す噛み合い状態にある各スライドポール15が、すでに説明したようにラチェット12cから後退して噛み合いが解除される。そこでシートバックS2を後方へ所定量傾動させた後、操作レバー14の操作を解除してシートバックS2をさらに後方へ傾動させる。このとき、アンロックプレート19におけるカム溝19cの小幅部分19c-2がスライドボール15Aのカム突起15gと重なる。この状態は図9に相当し、各スライドポール15はラチェット12cに対して退行した状態に保持される。したがってリクライニング装置10は、シートクッションS1に対するシートバックS2のロックが解除されたフリー状態に保たれ、シートバックS2の後方への傾動を許容する。
【0042】
シートバックS2をさらに後方へ傾動させることにより、図8および図7に相当する状態を経て図6の状態に戻る。図6の状態では、アンロックプレート19におけるカム溝19cの小幅部分19c-2がスライドポール15Aにおける両カム突起15g,15hから外れている。つまり、この場合はカム溝19cの大幅部分19c-1が両カム突起15g,15hと重なっている。したがって各スライドポール15はラチェット12cに対して進行が許容され、かつ回転カム16および作動プレート18はバネ力によって反時計回り方向へ回転する。この結果、各スライドポール15がラチェット12cに向かって進行し、相互に噛み合う。これにより、リクライニング装置10における両ハウジング11,12の相対的な回転が規制され、シートバックS2は図11の実線で示す起立位置でロックされる。
【0043】
このようにリクライニング装置10には、シートクッションS1に対してシートバックS2を図11の実線と仮想線との間で前後に傾動させたとき、固定側ハウジング11に対して回転側ハウジング12を自由に回転させることが可能なフリーゾーンが設定されている。つまりこのフリーゾーンでは、カム溝19cの小幅部分19c-2によってラチェット12cに対するスライドポール15Aの噛み合いが解除された状態に保持される。そして小幅部分19c-2の両側にある大幅部分19c-1,19c-3では、スライドポール15Aがラチェット12cに噛み合い可能なロック位置に切り替えられる。
【0044】
図12はスライドポール15Aがフリーゾーンからロック位置に切り替わる直前の状態を表した模式図である。なお図12(a)はシートバックS2を図11の仮想線から実線の位置に向けて後方へ傾動させている状態であり、図12(b)はシートバックS2を図11の実線から仮想線の位置に向けて前方へ傾動させている状態である。
【0045】
シートバックS2の傾動方向に応じて、リクライニング装置10における固定側ハウジング11に対する回転側ハウジング12(アンロックプレート19)の回転方向も時計回り方向あるいは反時計回り方向となる。そして回転側ハウジング12の回転方向に応じて、スライドポール15Aがフリーゾーンからロック位置に切り替えられるときの態様も二種類になる。一つは図12(a)で示すように、スライドポール15Aにおける一方のカム突起15hに対し、アンロックプレート19におけるカム溝19cの小幅部分19c-2が外れて左側の大幅部分19c-1が重なる場合である。他の一つは図12(b)で示すように、他方のカム突起15gに対し、カム溝19cの小幅部分19c-2が外れて右側の大幅部分19c-3が重なる場合である。
【0046】
すでに説明したようにスライドポール15における幅方向の中央部付近では、その歯部15bがラチェット12cに対して真っ直ぐに進入して噛み合う。これに対してスライドポール15の両端部付近では、歯部15bがラチェット12cに対して斜め方向から進入していくような格好で噛み合う。このためスライドポール15Aがフリーゾーンからロック位置に切り替わるときのラチェット12cに対する歯部15bの相対的な移動軌跡が、見かけ上はスライドポール15Aの中央部付近と両端部付近とで相違することとなる。
【0047】
そこでスライドポール15Aにおける両端部付近の歯部15bの移動軌跡とほとんど同じような動きをする部位に位置するカム突起15g,15hの外方面15g-2,15h-2により、ラチェット12cに対する歯部15bの噛み合いタイミングをコントロールすることで“歯飛び”を防止できる。そしてカム突起15g,15hの基準端面15g-1,15h-1と外方面15g-2,15h-2との間の角度や円弧形状、カム溝19cの大幅部分19c-1,19c-3と小幅部分19c-2との間の角度や円弧形状を調整することで、スライドポール15Aにおける両端部付近の歯部15bの移動軌跡を細やかにコントロールできる。
【0048】
またスライドポール15Aの両カム突起15g,15hは、それぞれの基準端面15g-1,15h-1と外方面15g-2,15h-2との間の角度および円弧形状が同じに設定されている。したがってスライドポール15Aがフリーゾーンからロック位置に切り替えられるときの二態様のタイミングが同じになって安定する。これを具体的に見てみると、図12(a)で示すように回転側ハウジング12(アンロックプレート19)が時計回り方向に回転しているときは、一方のカム突起15hの外方面15h-2からカム溝19cの小幅部分19c-2が外れて左側の大幅部分19c-1が基準端面15h-1に倣いつつカム突起15hと重なる。これに対し、図12(b)で示すようにアンロックプレート19が反時計回り方向に回転しているときは、他方のカム突起15gの外方面15g-2からカム溝19cの小幅部分19c-2が外れて右側の大幅部分19c-3が基準端面15g-1に倣いつつカム突起15gと重なる。
【0049】
このように両ハウジング11,12の相対的な回転の方向に応じてカム突起15g,15hが個別に機能する。この結果、両ハウジング11,12の相対的な回転の方向に関係なく、スライドポール15Aがフリーゾーンからロック位置へ切り替わるタイミングを同じに設定することができる。したがって二種類の切り替え動作が、いずれも安定して行われ、その後のラチェット12cに対するスライドポール15の噛み合いも安定する。
【0050】
なおシートバックS2を図11の実線で示す状態から後方へ倒す手順については、先に説明した場合と同様に、まず操作レバー14を操作して回転カム16および作動プレート18を時計回り方向へ所定量回転させる。これにより、各スライドポール15はラチェット12cから退行して相互の状態が解除される。そこでシートクッションS1に対してシートバックS2を後方へ傾動させれば、回転側ハウジング12が時計回り方向に回転する。そして操作レバー14の操作を解除すると、支持軸13および操作アーム17はスパイラルスプリング21のバネ力で反時計回り方向へ回転する。このため、回転カム16が反時計回り方向へ回転し、各スライドポール15がラチェット12cに対し、相互に噛み合う。この結果、両ハウジング11,12の相対的な回転が規制され、シートバックS2は所望の傾斜角度でロックされる。
【0051】
この操作中におけるリクライニング装置10は、両ハウジング11,12の相対的な回転範囲においてアンロックプレート19のカム溝19cがスライドポール15Aの両カム突起15g,15hに重なる。そしてカム溝19cの大幅部分19c-1,19c-3が両カム突起15g,15hに重なる範囲では、これらのカム突起15g,15hのラチェット12cに向かう方向への進行が許容されている。すなわち各スライドポール15のラチェット12cに対する進行が許容され、各スライドポール15をラチェット12cに噛み合わせることができる。この噛み合い状態を操作レバー14の操作により解除させることで、シートバックS2の傾斜角度を任意に調整することができる。
【0052】
以上のように、少なくとも一つのスライドポール15Aとラチェット12cとの噛み合いが解除されるフリーゾーンを備えた形式のリクライニング装置10において、フリーゾーンからロック位置に切り替わるときの噛み合いタイミングを容易にコントロールでき、いわゆる“歯飛び”を解消できる。
【0053】
以上は本発明の好ましい実施の形態を図面に関連して説明したが、この実施の形態は本発明の趣旨から逸脱しない範囲で容易に変更または変形できるものである。
例えばスライドポール15Aに設けられている二つのカム突起15g,15hは、二つを連続させた一体型の形状に代えてもよい。要はスライドポール15Aにおける幅方向の両端部付近に基準端面15g-1,15h-1が位置しておればい。ただし、カム突起15g,15hを一体型にした場合でも、スライドポール15Aにおける内側面部15fの仕上げ精度を維持するように配慮する必要がある。なぜなら、すでに述べたようにラチェット12cに噛み合った状態の各スライドポール15は、回転カム16の受承カム部16dに当接する個々の内側面部15fの精度によって位置決めされているからである(図3)。
またリクライニング装置10の形式、例えばスライドポール15の個数は4個に限るものではなく、2個あるいは3個の場合もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】リクライニング装置の縦断面図(図3のI−I矢視方向の断面図)
【図2】リクライニング装置を分解して表した斜視図
【図3】リクライニング装置において一部の構成部材を取外した状態の正面図
【図4】リクライニング装置において一部の構成部材を取外した状態の正面図
【図5】スライドポールを拡大して表した正面図
【図6】リクライニング装置における一部の構成部材を省略した状態の正面図
【図7】リクライニング装置における一部の構成部材を省略した状態の正面図
【図8】リクライニング装置における一部の構成部材を省略した状態の正面図
【図9】リクライニング装置における一部の構成部材を省略した状態の正面図
【図10】リクライニング装置における一部の構成部材を省略した状態の正面図
【図11】車両用シートの概略を表した側面図
【図12】一つのスライドポールがフリーゾーンからロック位置に切り替わる直前の状態を表した模式図
【符号の説明】
10 リクライニング装置
11 固定側ハウジング
12 回転側ハウジング
12c ラチェット
15 スライドポール
15g カム突起
15h カム突起
15g-1 基準端面
15h-1 基準端面
16 回転カム(カム部材)
18 作動プレート(カム部材)
19 アンロックプレート(アンロック部材)
19c カム溝

Claims (2)

  1. 相対的に回転できるように組み付けられた一方側ハウジングと他方側ハウジングとの内部に、複数個のスライドポールと、カム部材と、アンロック部材とがそれぞれ収容され、
    前記各スライドポールは、前記一方側ハウジングに対して周方向の移動が規制され、かつ径方向へは摺動できるように配置され、
    前記カム部材は、その回転操作により前記各スライドポールを摺動させて前記他方側ハウジングに形成されているラチェットに噛み合わせ、あるいは噛み合いを解除することができ、
    前記アンロック部材は、前記両ハウジングの相対的な回転角度の範囲内における所定のフリーゾーンにおいて、前記各スライドポールのうち、少なくとも一つのスライドポールを前記ラチェットとの噛み合いが解除された位置に保持することができる形式のリクライニング装置であって、
    前記アンロック部材に設けられたカム溝と、少なくとも一つの前記スライドポールに設けられて前記カム溝内に位置させたカム突起とを備え、
    カム溝は小幅部分と、その両側に位置する大幅部分とをそれぞれ有し、
    カム突起は一つの前記スライドポールにおける幅方向の両端部付近に基準端面をそれぞれ有し、
    前記両ハウジングの相対的な回転による前記カム突起と前記カム溝との相対的な移動に基づいて、一つの前記スライドポールがフリーゾーンからラチェットに噛み合い可能なロック位置に切り替えられるとき、両ハウジングの相対的な回転によってアンロック部材が時計回り方向に回転しているときは、カム溝における一方の大幅部分が一方の基準端面に倣いつつカム突起と重なって小幅部分がカム突起から外れ、アンロック部材が反時計回り方向に回転しているときは、他方の大幅部分が他方の基準端面に倣いつつカム突起と重なって小幅部分がカム突起から外れるように設定されているリクライニング装置。
  2. 請求項1に記載されたリクライニング装置であって、
    少なくとも一つのスライドポールに設けられたカム突起が、スライドポールの幅方向に関して二つに分けられ、これらのカム突起が個々に基準端面を備えているリクライニング装置。
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