JP3952570B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、磁束密度が高く被膜特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性けい素鋼板は、変圧器や発電機等の鉄心として使用されるもので、磁気特性として、磁束密度(磁化力が800A/mにおける磁束B8 値で示される。)が高く、かつ鉄損(最大磁束密度:1.7 Tおよび周波数:50Hzにおける1kg当たりの鉄損値W17/50 で示される) が低いことが要求される。
【0003】
近年、方向性けい素鋼板の磁気特性、中でも鉄損の低減に対して、鋼板表面に局部的に歪みを導入したり、溝を形成して、磁区を細分化する技術が開発され、これによって大幅な鉄損の改善が可能となった。特に、この技術は磁束密度の高い鋼板に適用すると極めて有効であり、その結果、鉄損の低減が磁束密度の向上に併せて達成されるようになった。
【0004】
方向性けい素鋼板の磁束密度を向上させるには、製品の結晶方位を(110)〔001〕方位いわゆるゴス方位に高度に集積させる必要があり、このゴス方位の結晶粒は、最終仕上げ焼鈍における二次再結晶現象によって得られる。
従って、二次再結晶では、(110)〔001〕方位からずれた結晶粒の成長を抑制するインヒビターの添加が不可欠である。このインヒビターは、鋼中に析出分散相を形成し、二次再結晶の直前まで一次再結晶粒の成長(正常粒成長)を抑制することによって、磁束密度の向上に寄与するものである。
しかしながら、実際の製造過程では、しばしば結晶方位が(110)〔001〕方位からずれた粒が二次再結晶し、磁束密度の劣化した鋼板が製造される場合があった。
【0005】
上記の問題について、発明者らが行った調査によれば、その原因は、二次再結晶焼鈍(最終仕上げ焼鈍)において鋼板表面が酸化し、鋼板表層部のインヒビターを分解そして消失するために、二次再結晶前に鋼板表層部における正常粒成長抑制力が不足した結果であることが判明した。
【0006】
このような最終仕上げ焼鈍中における鋼板表層部でのインヒビターの分解・消失を抑制するためには、最終仕上げ焼鈍の前工程である脱炭焼鈍において鋼板表面に形成される酸化物層(サブスケール)を利用することが考えられる。すなわち、鋼板表面に酸化物層が存在する場合、この酸化物層が、O,MnおよびAl等の元素の拡散に対する障害物となれば、これらの元素の酸化が抑えられ、その結果インヒビターの分解・消失を抑制することができる。このように、インヒビターの劣化を抑制することによって、圧延方向に高度に集積したゴス方位を発達させることができる。
【0007】
一方、脱炭焼鈍中に生成される酸化物層は、脱炭焼鈍後、 MgOを主成分とする焼鈍分離剤を鋼板上にスラリー状で塗布し、乾燥させた後、コイルに巻き取り、還元または非酸化性雰囲気にて二次再結晶焼鈍することによって下式の反応でフォルステライト被膜へと変化する。
2MgO + SiO2 → Mg2SiO4
このようにして形成された被膜は、厚みわずか数μm のセラミック薄膜絶縁体として均一で欠陥のないことが要求される。また剪断、打ち抜きおよび曲げ加工等に耐え得る密着性に優れたものでなければならない。さらに平滑で、鉄心として積層したときに高い占積率を示すものでなければならない。
【0008】
またフォルステライト質絶縁被膜は、1μm 前後の微細結晶が緻密に集積したセラミックス被膜であり、上述したように脱炭焼鈍において鋼板表層に生成した酸化物を一方の原料物質として、その鋼板上に生成するものであるから、この酸化物の種類、量および分布等はフォルステライトの核生成や粒成長挙動に関与すると共に、被膜結晶粒の粒界や粒そのものの強度にも影響を及ぼし、ひいては仕上げ焼鈍後の被膜品質にも多大な影響を及ぼす。
例えば酸化層中の鉄酸化物分が多すぎると、フォルステライト被膜が局所的に剥離する欠陥が出やすくなったり、あるいはフォルステライト粒子の粗大化が起こる。
また、酸化物の量が少なすぎると、薄くて脆弱な、ところどころ地鉄が露出した被膜になり易い。逆に酸化物の量が多すぎる場合は、フォルステライト被膜が厚くなりすぎて密着性の劣化を招くと共に、鋼板中の非磁性部分の増大により、鉄心に組み立てた場合の占積率の低下を招く。
【0009】
方向性けい素鋼板の脱炭焼鈍に関しては、脱炭焼鈍前にSi, OまたはSi, O,Hを含有するけい素化合物を付着せしめる方法(例えば特公昭58-46547号公報)、雰囲気の酸化度を脱炭の前半では0.15以上とし、後半では0.75以下でかつ前半よりも低くする方法(例えば特公昭57−1575号公報)、さらには脱炭焼鈍後に非酸化性雰囲気中にて 850〜1050℃の温度で熱処理を行う方法(例えば特開平2−240215号公報や特公昭54-24686号公報)等が知られている。
しかしながら、これらの方法では、それなりの効果は認められるものの、必ずしも十分なものではなく、ストリップの長手方向、幅方向で磁気特性や被膜の密着性、被膜性あるいは均一性が劣化する場合が往々にして生じ、昨今の厳しい品質要求や高歩留り要求に対しては依然として改善の余地を残していた。
【0010】
また、これらを改善する方法として、特開平4−202713号公報には、鋼板最表面のサブスケールの組成としてファイヤライトとシリカとの比を一定範囲に制御する技術が開示されている。
しかしながら、この技術によっても磁気特性の安定化は十分とはいえず、磁束密度の高い方向性けい素鋼板の安定生産は望み得なかった。
この理由は、脱炭焼鈍に供する鋼板表面の適正な履歴および状態が十分に解明されてなく、また脱炭焼鈍自体も工業的な生産では連続焼鈍炉が使用されることもあって、焼鈍雰囲気が十分に制御できていない点にあると考えられる。
【0011】
この点について、いま少し詳細に説明すると、方向性けい素鋼板を脱炭する際、脱炭焼鈍炉内では、次式(1), (2)で示される酸化脱炭反応が生じ、水蒸気が消費されて水素(H2)と一酸化炭素(CO)が発生する。
C+H2O →CO+H2 --- (1)
Si+2H2O→SiO2+2H2 --- (2)
このような脱炭反応、酸化反応の進行は、焼鈍雰囲気中に含有される H2O分圧とH2分圧との比である酸化度P(H2O)/P(H2)によって定められるが、この酸化度の値は、かかる反応が進行する際に発生するH2や、消費されるH2O によって変動する。従って、良好なサブスケールを得るためには、酸化度を所定の値に的確に制御することが必要であるのに対し、上記した従来の方法では、十分な制御ができていなかったのである。
【0012】
炉内雰囲気を制御する方法に関し、特開平1−263216号公報では、特に露点を一定に制御するために、炉内に供給するガスにつき、乾燥ガスと一定量の水蒸気を混合して露点を一定化した後、供給する方法を提案している。
しかしながら、炉内で消費される H2Oの量および発生するH2の量は、上述の反応(1), (2)の進行速度によって定まり、連続焼鈍炉の場合、これらの進行速度が加熱帯と均熱帯等の炉長方向で異なるため、所定のP(H2O)/P(H2)値に制御することができない。
【0013】
また、特開平5−148534号公報には、炉内に供給するガスのH2流量とこのガスを加湿するための水蒸気流量との比を制御したのち、炉内に供給する方法が提案されているが、やはり前述の特開平1−263216号公報と同様な問題があった。
【0014】
さらに、特開平5−247529号公報では、連続焼鈍炉の炉長方向に複数に分割された各ゾーンの H2O分圧を制御する方法を提案しているが、仮に各ゾーンのH2O 分圧が一定になったとしても、各ゾーンではH2が種々の値で発生しているため、P(H2O)/P(H2)を一定値に揃えることはできず、また炉長方向における変動量を小さくすることもできない。しかも、反応によって発生するCOガスが反応(1), (2)へ悪影響を及ぼすことも問題となる。
【0015】
その他、特開平8-53712号公報では、炉内炉長方向の露点の分布を、供給するガスの露点および供給するガス量の2つを調整することによって制御する方法を提案している。この方法では、前段の露点を監視することによって、ガス流量と露点を決定するが、前段の露点が下がってから制御を開始するため、長手方向で被膜品質を一定にすることが極めて難しかった。
【0016】
以上、述べたとおり、従来の方法ではいずれも、磁束密度の高い方向性けい素鋼板を安定して製造することが難しく、このため磁束密度に優れた方向性けい素鋼板の安定生産を可能ならしめる新しい脱炭焼鈍方法の開発が望まれていたのである。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、上述した実情に鑑み開発されたもので、工業的生産において問題となる製品の磁束密度の劣化を有利に解決し、磁束密度の高い材料の安定生産を可能ならしめる脱炭焼鈍方法を基本とする方向性けい素鋼板の新規な製造方法を提案することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に述べる知見を得た。
すなわち、
(1) 操業中における連続焼鈍炉内の雰囲気酸化度を一定に維持するには、連続焼鈍炉の後部にいくほど供給する雰囲気の酸化度を高くする必要があり、そのための手段としては、鋼板の進行方向と対抗する向きに雰囲気ガスを流すのが有
利であること、
(2) また、脱炭焼鈍にて生成する表層の酸化物の組成は、最終冷間圧延板の化学組成特にNiに依存し、しかもこれら冷間圧延板の組成と脱炭焼鈍時の雰囲気分布が非常に密接に関係し、これらによって表面の酸化物組成および酸化物の量が決定されること
を新たに見出したのである。
この発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0019】
すなわち、この発明の要旨構成は次のとおりである。
1.C: 0.020 〜 0.10wt %、
Si : 1.0 〜 5.0 wt %および
Mn : 0.04 〜 2.5 wt %
を含み、かつインヒビター成分として
Al : 0.005 〜 0.06wt %、
Sn : 0.005 〜 0.20wt %、
Sb : 0.005 〜 0.10wt %、
Se : 0.005 〜 0.06wt %および
S: 0.005 〜 0.06wt %
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、残部は Fe および不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、熱間圧延したのち、1回または中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚とし、ついで脱炭焼鈍後、MgO を主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を施すことからなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
上記脱炭焼鈍の際、均熱温度に達するまでの昇温過程における雰囲気の酸化度P(H2O)/P(H2)を 0.5未満とすること、均熱温度に達したのちの雰囲気の酸化度P(H2O)/P(H2)を0.30〜0.50の範囲とし、さらに下記式に従い、かつ連続焼鈍炉の後部にいくほど酸化度が高くなるように変動させることおよび焼鈍時間を少なくとも鋼板の残留C量が30ppm 以下となる時間とすることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法(第1発明)。
記
0.30+t×5×10-4<P(H2O)/P(H2)<0.45+t×5×10-4
ここでt:均熱温度に達してからの時間(秒)
【0020】
2.上記した第1発明において、均熱処理に引き続き、酸化度P(H2O)/P(H2):0.3 以下で、 800〜900 ℃、30秒以内の短時間焼鈍処理を施すことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法(第2発明)。
【0021】
3.上記した第1発明または第2発明において、鋼スラブが、さらに
Ni:0.02〜2.0 wt%
を含有する組成になることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法(第3発明)。
4.上記した第1発明ないし第3発明のいずれかにおいて、鋼スラブが、さらに
Cu : 0.5wt %以下、
Mo : 0.4wt %以下、
As : 0.4wt %以下、
Te : 0.4wt %以下、
Bi : 0.4wt %以下、
P: 0.4wt %以下および
B: 0.4wt %以下
のうちから選んだ少なくとも1種を含有する組成になることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法(第4発明)。
【0022】
5.上記した第1発明ないし第4発明のいずれかにおいて、連続焼鈍炉での均熱処理に際し、鋼板の進行方向と対抗する方向に雰囲気ガスを流し、鋼板との相対速度を 90m/min以上 1000m/min以下の範囲に制御することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法(第5発明)。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体的に説明する。
まず、この発明の基礎となった実験結果について説明する。
実験1
C:0.065 wt%, Si:3.40wt%, Mn:0.065 wt%, Al:0.023 wt%, Se:0.016 wt%, Sn:0.025 wt%, Sb:0.050 wt%, Ni:0.15wt%およびN:0.0090wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になる鋼スラブ(厚み:235 mm)を、1400℃に加熱し、熱延終了温度:990 ℃の条件で熱間圧延を施して 2.4mm厚の熱延板としたのち、500 ℃で巻取った。ついで、昇温速度:6℃/sで1000℃まで昇温したのち30秒間保持する熱延板焼鈍を施し、酸洗後、冷間圧延によって 1.7mmの厚みとしたのち、50%N2と50%H2の雰囲気中(露点:60℃)にて1050℃の温度に70秒間保持する中間焼鈍を施した。ついで、酸洗後、170 ℃の温度で冷間圧延を施して最終厚みである0.22mmに仕上げたのち、酸化度P(H2O)/P(H2):0.31、昇温速度:12℃/sの条件で 820℃まで昇温し、ついで均熱温度を 820℃として、図1に示すように雰囲気の酸化度を種々に変更しながら脱炭焼鈍を施した。
【0024】
その後、6wt%のTiO2を含有するMgO を焼鈍分離剤として鋼板表面に塗布してから、コイル状に巻き取ったのち、最終仕上げ焼鈍として、 800℃まではN2雰囲気で20℃/hの昇温速度で昇温したのち 800℃で20時間の保定処理を行い、ついで10℃/hの昇温速度で 800〜1050℃までは25%のN2と75%のH2の混合雰囲気で、また1050〜1150℃まではH2雰囲気で加熱し、さらにH2雰囲気中にて1150℃で5時間の均熱処理を行ったのち、降温は 800℃まではH2中で強制冷却し、 800℃以下についてはN2中で冷却する熱サイクルと雰囲気を採用した。
ついで、未反応焼鈍分離剤を除去した後、50%のコロイダルシリカとリン酸マグネシウムからなる張力コートを被成して製品とした。
【0025】
得られた各製品より圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を切り出し、800 ℃で3時間の歪取焼鈍を施したのち、 1.7Tの磁束密度における鉄損値W17/50 および磁束密度B8 を測定した。また、製品に含まれるC量および占積率も測定した。さらに、被膜欠陥(100 m当たりの被膜欠陥部の長さ比率)についても調査した。
得られた結果を整理して表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
表1に示した結果より、脱炭焼鈍の均熱中の酸化度(P(H2O)/P(H2))の分布によって磁気特性、C量および被膜特性は異なり、均熱温度に入ってからの酸化度には適正な範囲があること、また酸化度分布が後部にいくほど高くなる場合に磁気特性、脱炭性および被膜特性は向上することが明らかになった。
この結果は、従来の知見である、均熱温度においてある一定範囲の酸化度範囲で磁気特性が良好になるといった知見とは異なり、均熱中においても時間が進むにつれて酸化度をあげていった方が良好な被膜外観および高い磁束密度が得られるという新しい知見が得られた。
【0028】
この理由については、次のように考えられる。
加熱中、もしくは均熱の初期にサブスケール被膜が生成するのであるが、このサブスケールが酸素の拡散を阻害し脱炭反応が抑制される。脱炭反応速度の低下を少なくするためには、均熱中の酸化度を均熱中に徐々にあげて行くことが肝要で、サブスケール中を拡散できる酸素量を増加させる必要がある。
しかしながら、むやみに酸化度を高くするとかえってサブスケール被膜の生成量の増加を招き、酸素の拡散を阻害する。また、このとき局部的に被膜の厚みを増加させることで、点状の被膜欠陥が生じる。従って、ある一定の範囲で均熱中の酸化度を上げていくことにより、被膜性と脱炭性との両者を確保できる。
一方、磁気特性は、被膜と密接な関係があり、良好なサブスケール被膜を形成することにより、インヒビターの分解・消失を適切に抑制することができ、その結果、二次再結晶組織がより先鋭化する。
【0029】
上記の実験結果を基に、最適の焼鈍雰囲気条件について検討したところ、均熱温度に達するまでの昇温過程における雰囲気の酸化度P(H2O)/P(H2)については0.5 未満とし、均熱温度に達したのちの雰囲気の酸化度P(H2O)/P(H2)については0.30〜0.50の範囲とし、さらに下記式に従い、かつ連続焼鈍炉の炉長方向で後部にいくほど酸化度が高くなるように変動させることが、極めて有効であることが明らかとなった。
記
0.30+t×5×10-4<P(H2O)/P(H2)<0.45+t×5×10-4
ここでt:均熱温度に達してからの時間(秒)
上記の範囲は、図1中、破線で挟まれた領域である。
【0030】
次に、脱炭焼鈍後、より低酸化度で熱処理した場合についても、その効果を確認する実験を行った。
実験2
C:0.075 wt%, Si:3.63wt%, Mn:0.065 wt%, Al:0.023 wt%, Se:0.013 wt%, Sn:0.040 wt%, Sb:0.020 wt%およびN:0.0090wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になる鋼スラブ(厚み:200 mm)を、1400℃に加熱し、熱延終了温度:990 ℃の条件で熱間圧延を施して 2.0mm厚の熱延板としたのち、500 ℃で巻取った。ついで、50%N2と50%H2の雰囲気中(露点:60℃)にて、昇温速度:6℃/sで1120℃まで昇温したのち、30秒間保持する熱延板焼鈍を施した。ついで、酸洗後、180 ℃の温度で冷間圧延を施して最終厚みである0.22mmに仕上げたのち、圧延直角方向に対し15°の角度で深さ:20μm 、幅:120 μm の溝を圧延方向に対し3mmのピッチで電解エッチングにより形成した。
【0031】
その後、酸化度P(H2O)/P(H2):0.35、昇温速度:22℃/sの条件で 850℃まで昇温し、ついで均熱温度を 850℃として、図2に示すように雰囲気の酸化度を種々に変更しながら脱炭焼鈍を施した。
引き続き、酸化度P(H2O)/P(H2)を0.15とし、 860℃で20秒以内の短時間焼鈍を施した。
その後、3%のTiO2を含有するMgO を焼鈍分離剤として鋼板表面に塗布してから、コイルに巻き取ったのち、最終仕上げ焼鈍として、 800℃まではN2雰囲気で20℃/hの昇温速度で昇温したのち、 800℃で40時間の保定処理を行い、ついで10℃/hの昇温速度で 800〜1050℃までは25%のN2と75%のH2の混合雰囲気で、また1050〜1150℃まではH2雰囲気で加熱し、さらにH2雰囲気中にて1150℃で15時間の均熱処理を行ったのち、降温は 800℃まではH2中で強制冷却し、 800℃以下についてはN2中で冷却する熱サイクルと雰囲気を採用した。
ついで、未反応焼鈍分離剤を除去したのち、50%のコロイダルシリカとリン酸マグネシウムからなる張力コートを被成して製品とした。
【0032】
得られた各製品より圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を切り出し、800 ℃で3時間の歪取焼鈍を施したのち、 1.7Tの磁束密度における鉄損値W17/50 および磁束密度B8 を測定した。また、製品に含まれるC量および占積率も測定した。さらに、被膜欠陥(100 m当たりの被膜欠陥部の長さ比率)についても調査した。
得られた結果を整理して表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
表2の結果より、脱炭焼鈍に引き続き、酸化度(P(H2O)/P(H2))を下げた焼鈍を追加した場合においても、均熱処理における酸化度の分布によって、磁気特性、C量および被膜特性が異なることが明らかになった。すなわち、従来から言われていたように脱炭焼鈍の後期に酸化度を下げた方が良いとされる場合であっても、均熱温度に入ってからの酸化度には適正な範囲があること、また酸化度分布を後部にいくほど高くした場合に磁気特性、脱炭性および被膜特性が向上することが明らかになった。
上記の結果は、従来の知見である脱炭焼鈍の後期において酸化度を下げた方が良いといった単純な知見とは異なり、均熱中においては時間が進むにつれて酸化度を上げて行き、脱炭が終了してから酸化度を下げた方が、良好な被膜外観および高磁束密度を得るには良いという新たな知見が得られた。
【0035】
次に、成分組成を変更した場合について、その影響を調査した。
実験3
C:0.060 wt%, Si:3.43wt%, Mn:0.065 wt%, Al:0.022 wt%, S:0.021 wt%, Sn:0.06wt%およびN:0.0090wt%をベースとし、これにNiを表3に従って種々の量含有させ、残部は実質的にFeの組成になる鋼スラブ(厚み:240 mm)を、1400℃に加熱し、熱延終了温度:940 ℃の条件で熱間圧延を施して 2.6mm厚の熱延板としたのち、 580℃で巻取った。ついで、50%N2と50%H2の雰囲気中(露点:60℃)にて、昇温速度:7℃/sで1150℃まで昇温したのち、60秒間保持する熱延板焼鈍を施した。ついで、酸洗後、冷間圧延により 1.8mmの厚に圧延したのち、50%N2と50%H2の雰囲気中(露点:60℃)にて1020℃に60秒間保持する中間焼鈍を施し、さらに酸洗後、 230℃の温度で冷間圧延を施して最終厚みである0.26mmに仕上げた。
【0036】
その後、酸化度P(H2O)/P(H2):0.40、昇温速度:15℃/sの条件で 850℃の均熱温度まで昇温し、この温度での均熱処理中、酸化度を0.40から 100秒後に0.45になるように徐々に上げていった。
引き続き、酸化度P(H2O)/P(H2)を0.10とし、 870℃で20秒以内の短時間焼鈍を施した。
ついで、5%のTiO2を含有するMgO を焼鈍分離剤として鋼板表面に塗布してから、コイルに巻き取ったのち、最終仕上げ焼鈍として、 830℃まではN2雰囲気で20℃/hの昇温速度で昇温したのち、 830℃で20時間の保定処理を行い、ついで10℃/hの昇温速度で、 830〜1050℃までは25%のN2と75%のH2の混合雰囲気で、また1050〜1150℃まではH2雰囲気で加熱し、さらにH2雰囲気中にて1150℃で15時間の均熱処理を行ったのち、降温は 800℃まではH2中で強制冷却し、 800℃以下についてはN2中で冷却する熱サイクルと雰囲気を採用した。
その後、未反応焼鈍分離剤を除去したのち、50%のコロイダルシリカとリン酸マグネシウムからなる張力コートを被成して製品とした。
【0037】
得られた各製品より圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を切り出し、800 ℃で3時間の歪取焼鈍を施したのち、 1.7Tの磁束密度における鉄損値W17/50 および磁束密度B8 を測定した。また、製品に含まれるC量および占積率も測定した。さらに、被膜の強度を表す指標として曲げ剥離径(円柱に鋼板を巻き付けた際、被膜剥離が生じない最小の径(mm))を調査した。
得られた結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
同表に示すように、Niを0.02wt%以上添加すると、磁気特性が大幅に向上すると共に、曲げ剥離特性が格段に向上する。
しかしながら、Niの添加量が 2.0wt%を超えると、磁束密度が低下するだけでなく、占積率が悪化することが判明した。
【0040】
次に、雰囲気ガスと鋼板の相対速度と炉内雰囲気ガスの酸化度との関係について検討した。というのは、雰囲気ガス中を鋼板が進行する際、雰囲気ガスと鋼板の間に相対速度が生じ、これによって炉内の酸化度分布に変化が生じる可能性があるからである。
均熱炉の後方から雰囲気ガスを鋼板の進行方向に対して逆に流してみたところ、鋼板表面で被膜の形成反応と脱炭反応が生じているため、雰囲気ガスの酸化度は次第に低下しき、その結果、均熱帯の前半における酸化度が低下した。
この現象は、この発明の目的を達成する上で非常に有利に働く。
【0041】
そこで、次に、この発明で規定した範囲で酸化度を徐々に上げて行くために好適な鋼板と雰囲気ガスとの相対速度について調査したところ、相対速度を90mpm 以上とすれば、良好な結果が得られることが判明した。
とはいえ、鋼板と雰囲気ガスとの相対速度が 1000m/minを超えると、鋼板を安定して走行させるのが極めて困難になるので、相対速度の上限は 1000m/minとするのが望ましい。
【0042】
次に、この発明の対象鋼種である方向性けい素鋼板の成分組成範囲について説明する。
C:0.020 〜0.10wt%
C量が 0.020wt%よりも少ないと良好な結晶組織ひいては十分満足の行く磁気特性が得られず、一方0.10wt%より多いと脱炭性が劣化するので、C量は0.020〜0.10wt%とする。
Si:1.0 〜5.0 wt%
Siは、鋼の電気抵抗を高め、製品の渦電流損の改善に有効に寄与するが、そのためには 1.0wt%以上を必要とし、一方 5.0wt%を超えると冷間圧延時の脆化が著しくなるので、Si量は 1.0〜5.0 wt%とする。
Mn:0.04〜2.5 wt%
Mnは、鋼の熱間圧延性を改善するために有用な元素であるが、含有量が0.04wt%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 2.5wt%を超えると脱炭性が阻害されるので、Mn量は0.05〜2.5 wt%とする。
【0043】
この他に、インヒビター成分としてAl, Sn, Sb, SeおよびSのうちから選ばれる1種または2種以上を含有させる必要がある。
この目的のためには、インヒビター成分として 0.005wt%以上の含有が必要であるが、0.06wt%を超えると、Al, Se, Sの場合は析出物の粗大化が生じてインヒビター作用の低下を招くので 0.005 〜 0.06wt %とした。またSn ,Sbの場合は冷間圧延性の劣化を招くので、インヒビター成分としてはSn は 0.005 〜 0.20wt %、 Sb は 0.005〜0.10wt%の範囲で含有させることにした。
なお、インヒビター成分としてAlを使用する場合には、Nを鋼中に添加または純化焼鈍前の工程において窒化あるいは両者を組み合わせて 0.005〜0.020 wt%の範囲で含有させることが望ましい。
【0044】
また、この発明では、Niの添加が非常に有用であり、磁気特性の向上と共に被膜特性の有利な改善を実現できる。しかしながら、含有量が0.02wt%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 2.0wt%を超えて添加すると飽和磁束密度の低下を招くので、Niを含有させる場合には0.02〜2.0 wt%とすることが好ましい。
【0045】
その他、従来公知の有効成分、例えばCuを 0.5wt %以下の範囲で、またMo, As, Te, Bi, PまたはBを 0.4wt%以下の範囲で適宜含有させることができる。
なお、これらの成分について、上限値を上記の範囲に限定したのは、この上限値を超えて含有させた場合には、二次再結晶が抑制され、磁気特性の劣化を招くからである。
【0046】
次に、この発明に従う製造方法について具体的に説明する。
上記のような好適成分組成に調整された溶鋼を、従来公知の製鋼法で溶製したのち、連続鋳造または造塊−分塊法によってスラブとし、ついで必要に応じて再圧延を行ったのち、熱間圧延によって熱延コイルとする。かかる熱延コイルは、1回または中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延によって最終板厚とする。かような冷間圧延において、公知のパス間時効や温間圧延などが有利に利用できるのはいうまでもない。
【0047】
冷間圧延後は脱炭焼鈍を施すが、その前に鉄損低減のための磁区細分化処理として、鋼板表面に溝を設ける処理を施すことも可能である。
また、冷間圧延終了後、2次再結晶前までの間に、微細結晶粒を生成するための点状の局所的熱処理や化学的処理を人工的に行うこともできる。
【0048】
冷間圧延後は鋼板に脱脂処理を施したのち、脱炭焼鈍を行う。
この脱炭焼鈍が、この発明の最も重要な要件である。
すなわち、脱炭焼鈍の際、均熱温度に達するまでの昇温過程における雰囲気の酸化度P(H2O)/P(H2)を 0.5未満とし、均熱温度に達したのちの雰囲気の酸化度P(H2O)/P(H2)を0.30〜0.50の範囲とし、さらに下記式に従い、かつ連続焼鈍の炉長方向で後部にいくほど酸化度が高くなるように変動させるのである。
0.30+t×5×10-4<P(H2O)/P(H2)<0.45+t×5×10-4
ここでt:均熱温度に達してからの時間(秒)
【0049】
上記の焼鈍処理において、昇温過程における雰囲気の酸化度P(H2O)/P(H2)を 0.5未満に限定したのは、酸化度Pを 0.5以上に高くすると昇温中にサブスケール層が成長しすぎ、脱炭反応が阻害されるからである。なお、昇温速度は5〜30℃/s程度とするのが好ましい。
また、均熱処理における雰囲気の酸化度P(H2O)/P(H2)を0.30〜0.50の範囲に限定したのは、P(H2O)/P(H2)が0.30に満たないと脱炭反応が進まず、一方P(H2O)/P(H2)が0.50を超えるとサブスケール生成量が増加し、脱炭反応を阻害するからである。
さらに、均熱処理時に、上掲式の範囲を満足した上で、連続焼鈍炉の後部にいくほど酸化度が高くなるように変動させることにした理由は、前掲図1で得られた結果に基づいてである。
【0050】
さらに、上記の焼鈍処理工程において、焼鈍時間は少なくとも鋼板の残留C量が30ppm 以下となる時間とすることが必要である。
というのは、残留C量が30ppm を超えると、トランスに使用した場合にカーバイトが析出して、鉄損の悪化と共に、時効劣化が生じ易くなるからである。
【0051】
この発明において、均熱帯における酸化度を上記したように効果的に変動させるためには、焼鈍炉内において鋼板の進行方向と対抗する向きに雰囲気ガスを流し、鋼板との相対速度を 90m/min以上とすることが好適である。
しかしながら、相対速度が 1000m/minを超えると鋼板の安定した走行が極めて困難になるのは前述したとおりである。
【0052】
さらに、上記の脱炭焼鈍処理に引き続き、酸化度P(H2O)/P(H2)が 0.3以下の範囲で 800〜900 ℃, 30秒以内の短時間焼鈍を行うことが好ましく、かかる短時間焼鈍処理によって被膜の安定性を一層向上させることができる。
【0053】
その後、鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布してから、コイルに巻いて最終仕上げ焼鈍に供する。この時、鋼板表面に被膜を形成するか否かによって公知の各種焼鈍分離剤を選択することが可能である。すなわち、鋼板表面にフォルステライト質の被膜を形成するためには MgOを主成分とした焼鈍分離剤が用いられ、一方鋼板の表面を鏡面化したい場合などには、多くの場合Al2O3 系の焼鈍分離剤が用いられる。その他、公知の焼鈍分離剤を適用することが可能であることはいうまでもない。
【0054】
最終仕上げ焼鈍工程は、高温のH2雰囲気中で行われる。すなわち、H2ガスは最終仕上げ焼鈍の昇温時に鋼板表層の結晶粒を粒成長させる作用があり、このため方位の劣る2〜8mmサイズの二次再結晶粒の発達を抑制し、方位集積度を効果的に高めて鉄損を低減することができ、さらにH2ガスは鋼中のS,Se, OおよびNなどの不純物を除去する作用も有する。
また、この最終仕上げ焼鈍では、特に二次再結晶工程の 500〜900 ℃の平均昇温速度を25℃/h以下と極めて低く抑えることが重要で、25℃/hより昇温速度が速くなると粒径は大きいものの方位の劣った二次粒が生成し、鉄損の劣化を招く。従って、 500℃から 900℃の範囲の低温度保持処理を行うことが最も好ましく、この場合昇温速度は 500℃から900 ℃に達する時間を用いて算出する。
【0055】
最終仕上げ焼鈍後は、鋼板表面の未反応焼鈍分離剤を除去したのち、必要に応じてさらに絶縁コーティングを塗布・焼き付け、平坦化焼鈍を施して製品とされる。この時、絶縁コーティングとして張力コーティングを用いることが鉄損の向上にはより有利である。
最終焼鈍以降の鋼板には、公知の磁区細分化処理、すなわちプラズマジェットやレーザー照射を線状に施したり、突起ロールによる線状のへこみ領域を設けたりする処理を施して、鉄損を低減することもできる。また、最終仕上げ焼鈍時に被膜を形成させない場合には、その後鋼板をさらに鏡面化したり、NaCl電解などで粒方位選別処理を施したりすることができ、その後さらに、張力コーティングを施して製品とする方法が、製品の鉄損を最も低減する上で有効である。
【0056】
【実施例】
実施例1
C:0.065 wt%, Si:3.40wt%, Mn:0.06wt%を基本成分として含み、さらに表4に示す各成分を含有させ、残部は実質的にFeの組成になる鋼スラブ(厚み:210 mm)を、1450℃に加熱し、熱延終了温度:920 ℃の条件で熱間圧延を施して2.5 mm厚の熱延板としたのち、 610℃で巻き取った。ついで、50%N2と50%H2の雰囲気中(露点:60℃)にて、昇温速度:7℃/sで 980℃まで昇温したのち、40秒間保持する熱延板焼鈍を施した。ついで、酸洗後、冷間圧延によって1.7 mm厚の中間厚に圧延したのち、50%N2と50%H2の雰囲気中(露点:60℃)にて1020℃に60秒間保持する中間焼鈍を施し、さらに酸洗後、 230℃の温度で冷間圧延を施して最終厚みである0.22mmに仕上げた。
【0057】
引き続く脱炭焼鈍において、雰囲気ガスの酸化度:0.42、昇温速度:15℃/sの条件で 850℃の均熱温度まで昇温し、引き続き酸化度を0.42から 100秒後に0.46になるように徐々に上げつつ、均熱時間:100 秒間の均熱処理を施した。
この時、鋼板の進行方向と対向する向きに雰囲気ガスを流し、鋼板との相対速度が 150m/min となるように調整した(焼鈍▲1▼)。また、比較例として、均熱温度に達したときに酸化度が0.51となり、かつ 100秒後に0.35となるように炉の均熱帯の前部から後部にかけてガスを流す実験も併せて行った(焼鈍▲2▼)。
【0058】
その後、鋼板を室温まで冷却したのち、7%のTiO2を含有するMgO を焼鈍分離剤として鋼板表面に塗布してから、コイル状に巻き取ったのち、最終仕上げ焼鈍として、 860℃まではN2雰囲気で10℃/hの昇温速度で昇温したのち、 860℃で20時間の保定処理を行い、ついで15℃/hの昇温速度で 860〜1050℃までは25%のN2と75%のH2の混合雰囲気で、また1050〜1190℃まではH2雰囲気で加熱し、さらにH2雰囲気中にて1190℃, 15時間の均熱処理を行ったのち、降温は 800℃まではH2中で強制冷却し、 800℃以下についてはN2中で冷却する熱サイクルと雰囲気を採用した。
ついで、未反応焼鈍分離剤を除去したのち、50%のコロイダルシリカとリン酸マグネシウムからなる張力コートを被成して製品とした。
【0059】
得られた各製品より圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を切り出し、 800℃で3時間の歪取焼鈍を施したのち、 1.7Tの磁束密度における鉄損値W17/50 および磁束密度B8 を測定した。また、製品に含まれるC量、占積率および被膜欠陥率(100 m当たりの被膜欠陥部の長さ比率)についても調査した。
得られた結果を表5に示す。
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
表5に示したとおり、すなわちこの発明の従う条件で均熱処理を施した場合(焼鈍▲1▼)には、磁気特性および被膜特性とも格段に向上している。特に、Niを添加した場合には、この効果が顕著に現れ、曲げ剥離特性および磁束密度の一層の向上が認められた。
【0063】
実施例2
C:0.072 wt%, Si:3.40wt%, Mn:0.08wt%を基本成分として含み、さらに表6に示す各成分を含有させ、残部は実質的にFeの組成になる鋼スラブ(厚み:240 mm)を、1410℃に加熱し、熱延終了温度:920 ℃の条件で熱間圧延を施して2.0 mm厚の熱延板としたのち、 610℃で巻き取った。ついで、50%N2と50%H2の雰囲気中(露点:60℃)にて、昇温速度:7℃/sで1100℃まで昇温した後、100 秒間保持する熱延板焼鈍を施した。ついで、酸洗後、 160℃の温度での冷間圧延を施して最終厚みである0.22mmに仕上げたのち、圧延直角方向に対し15°の角度で深さ:20μm 、幅:120 μm の溝を圧延方向に対し3mmピッチで電解エッチングにより形成した。
【0064】
その後、雰囲気ガスの酸化度:0.42、昇温速度:15℃/sの条件で 850℃の均熱温度まで昇温し、引き続き酸化度を0.42から 100秒後に0.46になるように徐々に上げつつ 100秒間の均熱処理を行う、脱炭処理を施した。この時、鋼板の進行方向と対向する向きに雰囲気ガスを流し、鋼板との相対速度が 250m/min となるように調整した。かかる脱炭焼鈍終了後、引き続いて 890℃まで昇温し、酸化度P(H2O)/P(H2):0.15の条件で20秒間の短時間焼鈍処理を施した(焼鈍▲3▼)。
また、比較例として、雰囲気酸化度:0.42、昇温速度:15℃/sの条件で 850℃の均熱温度まで昇温し、引き続き酸化度を0.42から 100秒後に0.36になるように徐々に下げつつ 100秒間の均熱処理を行う、脱炭処理を施した。この時、鋼板の進行方向と同じ方向に雰囲気ガスを流し、鋼板との相対速度が 20m/minとなるように調整した。かかる脱炭焼鈍終了後、引き続いて 890℃まで昇温し、酸化度P(H2O)/P(H2):0.15の条件で20秒間の短時間焼鈍処理を施した(焼鈍▲4▼)。
【0065】
その後、鋼板を室温まで冷却したのち、2%のTiO2と2%のSrSO4 とを含有するMgO を焼鈍分離剤として鋼板表面に塗布してから、コイル状に巻き取ったのち、最終仕上げ焼鈍として、 810℃まではN2雰囲気で15℃/hの昇温速度で昇温したのち、 810℃で20時間の保定処理を行い、ついで15℃/hの昇温速度で 810〜1100℃までは30%のN2と70%のH2の混合雰囲気で、また1100〜1200℃まではH2雰囲気で加熱し、さらにH2雰囲気中にて1200℃, 15時間の均熱処理を行ったのち、降温は 800℃まではH2中で強制冷却し、 800℃以下についてはN2中で冷却する熱サイクルと雰囲気を採用した。
ついで、未反応焼鈍分離剤を除去したのち、50%のコロイダルシリカとリン酸マグネシウムからなる張力コートを被成して製品とした。
【0066】
得られた各製品より圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を切り出し、 800℃で3時間の歪取焼鈍を施したのち、 1.7Tの磁束密度における鉄損値W17/50 および磁束密度B8 を測定した。また、製品に含まれるC量、占積率および被膜欠陥率についても調査した。
得られた結果を表7に示す。
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
【0069】
表5に示したとおり、この発明に従い、均熱温度に達したのち、酸化度が連続焼鈍の炉長方向で後部に行くに従って高くなるように変動させた場合(焼鈍▲3▼)には、磁気特性および被膜特性が格段に向上した。
これに対し、焼鈍▲4▼のように均熱帯の後部に行くに従い酸化度を下げた場合には、磁気特性および被膜特性とも劣化した。
【0070】
【発明の効果】
かくして、この発明に従い、脱炭焼鈍工程の均熱処理時に、所定の雰囲気酸化度の範囲内で、しかもこの雰囲気酸化度を連続焼鈍の炉長方向で後部に行くに従って高くなるように変動させることにより、磁束密度および被膜特性に優れた方向性電磁鋼板を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】脱炭焼鈍の均熱温度に達してからの時間に対する酸化度の変化を示した図である。
【図2】脱炭焼鈍の均熱温度に達してからの時間に対する酸化度の変化を示した図である。
Claims (5)
- C: 0.020 〜 0.10wt %、
Si : 1.0 〜 5.0 wt %および
Mn : 0.04 〜 2.5 wt %
を含み、かつインヒビター成分として
Al : 0.005 〜 0.06wt %、
Sn : 0.005 〜 0.20wt %、
Sb : 0.005 〜 0.10wt %、
Se : 0.005 〜 0.06wt %および
S: 0.005 〜 0.06wt %
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、残部は Fe および不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、熱間圧延したのち、1回または中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚とし、ついで脱炭焼鈍後、MgO を主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を施すことからなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
上記脱炭焼鈍の際、均熱温度に達するまでの昇温過程における雰囲気の酸化度P(H2O)/P(H2)を 0.5未満とすること、均熱温度に達したのちの雰囲気の酸化度P(H2O)/P(H2)を0.30〜0.50の範囲とし、さらに下記式に従い、かつ連続焼鈍炉の後部にいくほど酸化度が高くなるように変動させることおよび焼鈍時間を少なくとも鋼板の残留C量が30ppm 以下となる時間とすることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
記
0.30+t×5×10-4<P(H2O)/P(H2)<0.45+t×5×10-4
ここでt:均熱温度に達してからの時間(秒) - 請求項1において、均熱処理に引き続き、酸化度P(H2O)/P(H2):0.3 以下で、 800〜900 ℃、30秒以内の短時間焼鈍処理を施すことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
- 請求項1または2において、鋼スラブが、さらに
Ni:0.02〜2.0 wt%
を含有する組成になることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。 - 請求項1〜3のいずれかにおいて、鋼スラブが、さらに
Cu : 0.5wt %以下、
Mo : 0.4wt %以下、
As : 0.4wt %以下、
Te : 0.4wt %以下、
Bi : 0.4wt %以下、
P: 0.4wt %以下および
B: 0.4wt %以下
のうちから選んだ少なくとも1種を含有する組成になることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。 - 請求項1〜4のいずれかにおいて、連続焼鈍炉での均熱処理に際し、鋼板の進行方向と対抗する方向に雰囲気ガスを流し、鋼板との相対速度を90 m/min以上 1000m/min以下の範囲に制御することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
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