JP5068580B2 - 磁束密度の高い方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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低温スラブ加熱による製造方法として、例えば小松らは、窒化処理により形成した(Al、Si)Nをインヒビターとして用いる方法を特許文献1で開示している。また、小林らは、その際の窒化処理の方法として、脱炭焼鈍後にストリップ状で窒化する方法を特許文献2で開示しており、本発明者らも、非特許文献1で、ストリップ状で窒化する場合の窒化物の挙動を報告している。
ここで、I{111 }及びI{411 }はそれぞれ{111}及び{411}面が板面に平行である粒の割合であり、X線回折測定により板厚1/10層において測定された回折強度値を表している。
方向性電磁鋼板のキューリ点は、750℃程度であるから、それまでの温度の加熱に誘導加熱を使用したとしても、それ以上の温度への加熱には、誘導加熱に代わる、例えば通電加熱などの他の手段を用いる必要がある。
このため、急速加熱領域の終端が特許文献5に示されるような750〜900℃である場合では、誘導加熱の利点を十分に享受できないという問題があった。
請求項1に係る方向性電磁鋼板の製造方法の発明は、質量%で、Si:0.8〜7%、C:0.085%以下、酸可溶性Al:0.01〜0.065%、N:0.012%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる珪素鋼素材を、1280℃以下の温度で加熱した後に熱間圧延し、得られた熱延板を焼鈍し、次いで一回の冷間圧延または焼鈍を介して複数の冷間圧延を施して最終板厚の鋼板とし、その鋼板を脱炭焼鈍した後、焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍を施すとともに、脱炭焼鈍から仕上げ焼鈍の二次再結晶開始までの間に鋼板の窒化量を増加させる処理を施すことよりなる方向性電磁鋼板の製造方法において、前記熱延板の焼鈍過程において、脱炭前の鋼板炭素量に対して0.002〜0.02質量%脱炭することにより、焼鈍後の表面粒組織においてラメラ間隔を20μm以上に制御するとともに、前記最終板厚の鋼板を脱炭焼鈍する際の昇温過程において、鋼板温度が550℃から720℃の温度範囲内を40℃/秒以上の加熱速度で加熱することを特徴とする。
ここでラメラ組織とは、圧延面に平行な変態相、または結晶粒界に分断された層状組織を称し、ラメラ間隔とはこの層状組織の平均間隔である。表面層とは最表面から板全厚の1/5までの領域を称する。
H≦15: Ts≦550
15<H: Ts≦600
また、脱炭焼鈍する工程の昇温過程における加熱速度を高くすると、脱炭焼鈍後の鋼板の酸化量が増加し、二次再結晶が不安定になり磁束密度が低下する場合があるが、請求項5に係る発明のようにすることにより、それを防止して加熱速度を高くする効果を安定して享受することができる。
まず、熱延板焼鈍条件と仕上げ焼鈍後の試料の磁束密度B8の関係を調べた。
図1に、冷間圧延前の試料における表面粒組織のラメラ間隔と仕上げ焼鈍後の試料の磁束密度B8の関係を示す。ここで用いた試料は、質量%で、Si:3.3%、C:0.055、酸可溶性Al:0.027%、N:0.007%、Mn:0.1%、S:0.008%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなるスラブを1150℃の温度で加熱した後、2.3mm厚に熱間圧延し、その後、1100℃の温度で熱延板焼鈍を施し、その熱延試料を0.22mm厚まで冷間圧延した後、15℃/秒の加熱速度で550℃まで加熱し、40℃/秒の加熱速度で550〜720℃の温度域を加熱し、その後15℃/秒の加熱速度でさらに加熱して830℃の温度で脱炭焼鈍し、続いて、アンモニア含有雰囲気で焼鈍して鋼板中の窒素を増加させる窒化処理を行い、次いで、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布した後、仕上げ焼鈍を行ったものである。表面層のラメラ間隔の調整は、熱延板焼鈍の雰囲気ガスの水蒸気分圧を変更して、脱炭前後の炭素量の差が0.002〜0.02質量%の範囲になるように調整することによって行った。
また、B8で1.91T以上が得られた試料の脱炭焼鈍板の一次再結晶集合組織を解析した結果、全ての試料においてI{111}/I{411}の値が3以下となっているのが確認された。
熱延板焼鈍の雰囲気ガスの酸化度を調整して、表面粒組織のラメラ間隔を25μmとした図1と同様の条件に作成した冷間圧延試料を、脱炭焼鈍時の550〜720℃の温度域の加熱速度を昇温途中で種々変更して、仕上げ焼鈍後の試料の磁束密度B8を測定した。図2より、脱炭焼鈍の昇温過程における550℃から720℃の温度範囲において、この範囲内の各温度における加熱速度を、40℃/秒以上に制御すると、1.91T以上の磁束密度(B8)を有する電磁鋼板が、加熱速度を好ましくは50℃/秒以上、さらに好ましくは75〜125℃/秒の範囲に制御すると、B8が1.92T以上のさらに磁束密度の高い電磁鋼板が得られることがわかる。
まず、本発明で用いる珪素鋼素材の成分の限定理由について説明する。
本発明は、少なくとも、質量%で、Si:0.8〜7%、C:0.085%以下、酸可溶性Al:0.01〜0.065%、N:0.012%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を基本とし、必要に応じて他の成分を含有する方向性電磁鋼板用の珪素鋼スラブを素材として用いるものであり、各成分の含有範囲の限定理由は次のとおりである。
Nは、0.012%を超えると、冷延時、鋼板中にブリスターとよばれる空孔を生じるため、0.012%を超えないようにする。
Mnは、比抵抗を高めて鉄損を低減させる効果がある。また、熱間圧延における割れの発生を防止する目的のために、S及びSeの総量との関係でMn/(S+Se)≧4添加することが望ましい。しかしながら添加量が1%を超えると、製品の磁束密度が低下してしまう。
Cuは、比抵抗を高めて鉄損を低減させることに有効な元素である。添加量が0.4%を超えると鉄損低減効果が飽和するとともに、熱延時に「カッパーヘゲ」なる表面疵の原因になる。
Pは、比抵抗を高めて鉄損を低減させることに有効な元素である。添加量が0.5%を超えると圧延性に問題を生じる。
その他、SおよびSeは磁気特性に悪影響を及ぼすので総量で0.015%以下とすることが望ましい。
さらに、本発明で用いる珪素鋼素材は、磁気特性を損なわない範囲で、上記以外の元素及び/又は他の不可避的混入元素を含有していてもよい。
上記の成分組成を有する珪素鋼スラブは、転炉または電気炉等により鋼を溶製し、必要に応じて溶鋼を真空脱ガス処理し、ついで連続鋳造もしくは造塊後分塊圧延することによって得られる。その後、熱間圧延に先だってスラブ加熱がなされる。本発明においては、スラブ加熱温度は1280℃以下として、上述の高温スラブ加熱の諸問題を回避する。
珪素鋼スラブは、通常は150〜350mmの範囲、好ましくは220〜280mmの厚みに鋳造されるが、30〜70mmの範囲のいわゆる薄スラブであっても良い。薄スラブの場合は熱延板を製造する際に中間厚みに粗加工を行う必要がないという利点がある。
焼鈍は1000〜1150℃の温度範囲で行い、その後、平均5℃/秒以上、さらに15℃/秒以上の冷却速度で冷却することが好ましい。
脱炭量(脱炭前後の鋼板炭素量の差)は0.002〜0.02質量%、好ましくは0.003〜0.008質量%の範囲として表面層のラメラ間隔を制御する。脱炭量が0.002質量%未満では表面のラメラ間隔に影響がなく、0.02質量%以上だと表面部の集合組織に悪影響がでる。
この脱炭焼鈍後の一次再結晶を制御する方法としては、脱炭焼鈍工程の昇温過程における加熱速度を調整することにより制御される。本発明では、鋼板温度が550℃から720℃にある間を40℃/秒、好ましくは50℃/秒以上、さらに好ましくは75〜125℃/秒の加熱速度で加熱する点に特徴がある。
H≦15: Ts≦550
15<H: Ts≦600
脱炭焼鈍の加熱速度を高めた場合に二次再結晶をより安定的に行わせるためには、(Al,Si)Nの組成比率を調整することが望ましく、また、増加させた後の窒素量としては、鋼中のAl量:[Al]に対する窒素量:[N]の比、すなわち[N]/[Al]が、質量比として14/27以上、望ましくは2/3以上となるようにする。
その後、マグネシアを主成分とする焼鈍分離剤を塗布した後に、仕上げ焼鈍を行い{110}<001>方位粒を二次再結晶により優先成長させる。
得られた表層ラメラ間隔の異なる試料の仕上げ焼鈍後の磁気特性を表1に示す。
得られた加熱速度の異なる試料の仕上げ焼鈍後の磁気特性を表2に示す。
得られたラメラ間隔の異なる試料の仕上げ焼鈍後の磁気特性を表3に示す。
得られた窒素量の異なる試料の仕上げ焼鈍後の磁気特性を表4に示す。
得られた一次再結晶粒径の異なる試料の仕上げ焼鈍後の磁気特性を表5に示す。
仕上げ焼鈍後の試料の磁気特性を表6に示す。なお、試料の記号は、加熱速度と100℃/秒の加熱速度開始温度との組合せを示す。低温域の加熱速度を速めることにより、100℃/秒で加熱する開始温度を600℃に高めても良好な磁気特性が得られることが分かる。
Claims (8)
- 質量%で、Si:0.8〜7%、C:0.085%以下、酸可溶性Al:0.01〜0.065%、N:0.012%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる珪素鋼素材を、1280℃以下の温度で加熱した後に熱間圧延し、得られた熱延板を焼鈍し、次いで一回の冷間圧延または焼鈍を介して複数の冷間圧延を施して最終板厚の鋼板とし、その鋼板を脱炭焼鈍した後、焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍を施すとともに、脱炭焼鈍から仕上げ焼鈍の二次再結晶開始までの間に鋼板の窒素量を増加させる処理を施すことよりなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
前記熱延板の焼鈍過程において、脱炭前の鋼板炭素量に対して0.002〜0.02質量%脱炭することにより、焼鈍後の表面粒組織においてラメラ間隔を20μm以上に制御するとともに、
前記最終板厚の鋼板を脱炭焼鈍する際の昇温過程において、鋼板温度が550℃から720℃にある間を40℃/秒以上の加熱速度で加熱することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。 - 前記鋼板を脱炭焼鈍する際の昇温過程において、鋼板温度が550℃から720℃にある間を75〜125℃/秒の加熱速度で加熱することを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記鋼板を脱炭焼鈍する際の前記鋼板温度が550℃から720℃にある間の加熱を、誘導加熱で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記鋼板を脱炭焼鈍する際、その昇温過程において前記加熱速度で加熱する温度範囲をTs(℃)から720℃としたときに、室温から500℃までの加熱速度H(℃/秒)に応じて以下のTs(℃)から720℃までの範囲とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
H≦15: Ts≦550
15<H: Ts≦600 - 前記脱炭焼鈍を、770〜900℃の温度域で、雰囲気ガスの酸化度(PH2O/PH2)が0.15超1.1以下の範囲の条件の下で、焼鈍後の鋼板の酸素量が2.3g/m2以下となるとともに一次再結晶粒径が15μm以上となるような温度および時間幅で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記窒素量を増加させる処理を、鋼板の窒素量[N]が、鋼板の酸可溶性Alの量[Al]に応じて、式:[N]≧14/27[Al]を満足するように行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記鋼板の窒素量[N]を、鋼板の酸可溶性Alの量[Al]に応じて、式:[N]≧2/3[Al]を満足するように増加させることを特徴とする請求項6に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記珪素鋼素材が、さらに、質量%で、Mn:1%以下、Cr:0.3%以下、Cu:0.4%以下、P:0.5%以下、Sn:0.3%以下、S:0.015%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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