JP3952556B2 - 分子線エピタキシ装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、超高真空に保持された本体チャンバ内に分子線を供給し、前記本体チャンバ内に配置された基体上に半導体等の結晶を成長させる分子線エピタキシ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、半導体結晶の成長方法の1つとして、超高真空チャンバ内で分子線により半導体結晶を成長させるようにした分子線エピタキシ(MBE)装置が知られている。
この分子線エピタキシ装置では、通常分子線を得るための蒸着源セルとしては、クヌーセン型セル(Kセル)を用いている。
これはまず、原材料を充填する例えばBN(窒化ボロン)製のルツボを、例えばタンタル線により抵抗加熱法で加熱することにより、所望の蒸気圧を得る。そして、この蒸気圧を、成長する基板方向に分子線として飛散させることにより、基板上に結晶の成長を得るようになっている。
【0003】
しかしながら、蒸気圧が比較的高い、砒素(As)、隣(P)、アンチモン(Sb)などのV族元素用や、イオウ(S)、セレン(Se)などのVI族元素用としては上記のKセルではなく、クラッキングゾーンを設けたクラッキングセルが用いられることが多い。
すなわち、上述のような元素は、通常のKセルで加熱すると、例えばAsはAs4 という多重原子分子という形で分子線ビームとなり、成長基板まで飛散して、成長に係わることになるが、この多重分子原子は結晶面への付着係数が低いために、原材料としての効率が悪い。この結果、原材料の充填のためのメンテナンスがそれだけ余計に必要となるので、超高真空を利用したMBEでは稼働効率が悪化してしまうからである。
また、このような原材料の浪費は、そのまま真空度の悪化につながり、さらには成長膜への不純物の混入の原因にもなるからである。
【0004】
そこで、たとえばAs4 をAs2 に分解するクラッキングを行えるようにしたのがクラッキングセルである。なお、クラッキングセルは、上述のAsだけでなく、P、Sb、S、Seなどでも使用できる。
また、このようなクラッキングセルを設けた構成に加え、さらに、クラッキング領域の温度による蒸気圧のコントロールより、分子線ビーム量をより高精度に制御できるようにしたバルブド・クラッキングセルが用いられることも多い。
【0005】
図2は、従来のバルブド・クラッキングセルを用いた分子線エピタキシ装置の構成を簡単に示す断面図である。
この図2において、バルブド・クラッキングセル50は、上述した成長基体(図示せず)を配置した本体チャンバ40に接続されており、原材料60を貯蔵する貯蔵部52と、この貯蔵部52に貯蔵された原材料60からの分子線を分解して本体チャンバ40に供給するクラッキング(分解)部54と、貯蔵部52とクラッキング部54との間を区切る分子線量制御バルブ56を具備している。
【0006】
例えば貯蔵部52にSを入れて120℃に加熱し、クラッキング部54を260°Cに加熱することにより、Sを含んだ化合物半導体である、例えばZnSSeやZnMgSSeが、組成の制御性、再現性よく成長することができる。
また、バルブド・クラッキングセル50の分子線量制御バルブ56は、マイクロメータが付加されたものであり、非常に正確な分子線量の調整を行えることが特徴となっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述のような構成の分子線エピタキシ装置において、チャンバ内の超高真空を得る必要がある。これは、貯蔵部52側に設けた吸引装置(図示せず)により、貯蔵部52、分子線量制御バルブ56、クラッキング部54を介して本体チャンバ40内の真空吸引を行ったり、原材料表面やチャンバ内壁からの不純物ガスの脱離を促進するガス出し作業等を行うことによって実現できる。
【0008】
しかしながら、分子線量制御バルブ56は、分子線量を正確に制御することが本来の役割であるため、開口径はかなり小さく、排気容量の小さいものである。このため、上述した真空吸引やガス出しを、分子線量制御バルブ56を介して行うと、排気効率が極めて悪いため、作業時間が長くなり、装置の稼働効率がかなり悪化するという問題がある。
【0009】
そこで本発明の目的は、バルブド・クラッキングセルを用いた分子線エピタキシ装置において、本体チャンバの真空吸引やガス出し作業を効率よく行え、作業時間の短縮と装置の稼働率の改善を図ることを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は前記目的を達成するため、分子線によって結晶を成長させるための基体を配置する本体チャンバと、前記本体チャンバに接続され、前記本体チャンバ内に分子線を供給する分子線源セルと、前記分子線源セルを通して前記本体チャンバ内の吸引を行う吸引装置とを有し、前記分子線源セルが、原材料を貯蔵する貯蔵部と、前記貯蔵部に貯蔵された原材料からの分子線を分解して前記本体チャンバに供給する分解部と、前記貯蔵部と前記分解部との間を区切る分子線量制御バルブとを具備したバルブド・クラッキングセルより構成される分子線エピタキシ装置において、前記貯蔵部と前記本体チャンバとをつなぐ排気通路を設け、前記吸引装置により、前記貯蔵部及び前記排気通路を通して前記本体チャンバを直接吸引排気するようにしたことを特徴とする。
【0011】
本発明の分子線エピタキシ装置では、本体チャンバの吸引排気作業時には、貯蔵部、分子線量制御バルブ、分解部を通る従来の排気経路に加えて、貯蔵部と本体チャンバを直接つなぐ排気通路を設けたことで、排気容量が大幅に拡大することになる。よって、大きな排気容量により、効率よく吸引排気を行うことができるので、真空吸引やガス出し作業を行う場合に、所望の真空状態を得るための時間を大幅に短縮でき、装置の稼働率も改善できる。
特に、真空吸引およびガス出し作業は、一連の作業工程の中で最も時間がかかる工程であるが、上述のような貯蔵部と本体チャンバとを直接つなぐ排気専用の通路を設けることで、工程時問が大幅に短縮できる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による分子線エピタキシ装置の実施の形態について説明する。なお、以下に述ベる実施の形態は、本発明の好適な具体例であり、技術構成上好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において、本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0013】
図1は、本発明のバルブド・クラッキングセルを用いた分子線エピタキシ装置の構成例を簡単に示す断面図である。
この図1において、バルブド・クラッキングセル20は、上述した成長基体(図示せず)を配置した本体チャンバ10に接続されており、原材料30を貯蔵する貯蔵部22と、この貯蔵部22に貯蔵された原材料30からの分子線を分解して本体チャンバ10に供給するクラッキング(分解)部24と、貯蔵部22とクラッキング部24との間を区切る分子線量制御バルブ26と、貯蔵部22と本体チャンバ10とをつなぐ排気通路を構成する排気管28を具備している。
【0014】
また、排気管28には、貯蔵部22と本体チャンバ10とをつなぐ排気通路を開閉する排気通路開閉バルブ12が設けられている。この排気通路開閉バルブ12は、例えば、電磁式のゲートバルブ等であり、超高真空のチャンバ間を分割するような、内通リークに強いバルブが採用されている。
一方、貯蔵部22とクラッキング部24との間を区切る分子線量制御バルブ26は、マイクロメータ付きで分子線量を正確にコントロールするためのバルブであり、排気容量の小さいものとなっている。
【0015】
図3は、本例において、原材料30を貯蔵部22に充填した後の吸引排気工程における各バルブ12、26の開閉状態を示す説明図である。
まず、原材料30を充填後に、バルブ12、26を両方開けて、速やかに真空引きを行う。分子線量制御バルブ26に加えて、排気通路開閉バルブ12を開放して吸気を行うことにより、短時間で例えば1.33×10 −5 Pa(10 −7 Torr)の超高真空を得ることができる。
【0016】
次に、ベーキングを行う。これは空気中に露出したチャンバの内壁に付着した不純物、例えば、水、酸素、炭素に関連した不純物を、例えば150°Cでチヤンバ全体を加熱しながら真空引きする工程である。例えば、48時間のベーキングによって、1.33×10 −7 Pa(10 −9 Torr)の超高真空を得ることができる。排気通路開閉バルブ12を具備した排気管28を設けたことで、より短時間で目的の超高真空を得ることが可能である。
次に、ベーキングを停止して、液体窒素などで冷却してチヤンバの内壁に不純物を付着させることにより、例えば1.33×10 −8 Pa(10 −10 Torr)の超高真空が得ることができる。排気通路開閉バルブ12を具備した排気管28を設けたことで、より短時間で目的の超高真空を得ることが可能である。
【0017】
次に、原材料のガス出しを行う。これは本発明による最大の効果を得ることができる工程である。例えば、貯蔵部及びクラッキング部の温度を、通常の成長に用いる場合の温度より20°C高い温度までゆっくりと上昇させる。例えばSでは、貯蔵部22を140°Cまで温度を上げ、クラッキング部24は280°Cまで温度を上げる。
【0018】
この際、従来の分子線量制御バルブ26だけでは、最大に開いていても、不純物ガスの排気の効率が悪いので、作業時間が例えば24時間もかかるが、排気通路開閉バルブ12を具備した排気管28を設けたことで、排気通路開閉バルブ12を開いた状態で同じ工程を行うと、6時問程度で、原材料30からの分子線を飛散した状態で、1.33×10 −8 Pa(10 −10 Torr)の超高真空を維持することができる。
【0019】
また、この時、QMA(4重極質量分析計、Quadrapole MassAnalyzer)によると、残留不純物である、水(18)や酸素(32)や二酸化炭素(44)などは、ほとんど検出されず、水素(2)だけが、なお残留していることがわかる。
この後、通常の結晶成長工程では、排気通路開閉バルブ12を閉じて作業を行う。
【0020】
以上のように、特に時間のかかる真空吸引およびガス出し作業において、上述のような貯蔵部22と本体チャンバ10とを直接つなぐ排気専用の通路を設けることで、工程時問を大幅に短縮できる。
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述した実施の形態に挙げた数値や構造は、あくまでも一例に過ぎず、必要に応じて、これと異なる数値や構造などを用いてもよい。例えば、ベーキングの温度や到達真空度の数値については、あくまでも一例に過ぎない。
【0021】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の分子線エピタキシ装置では、バルブド・クラッキングセルにおいて、貯蔵部と本体チャンバとをつなぐ排気通路を設け、吸引装置により、貯蔵部及び排気通路を通して本体チャンバを直接吸引排気するようにした。
したがって、本体チャンバの真空排気作業時に排気容量の大きい排気通路を用いることができ、例えば真空引き及びガス出し工程において大幅な工程時間の短縮を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例によるバルブド・クラッキングセルを用いた分子線エピタキシ装置の構成例を簡単に示す断面図である。
【図2】従来のバルブド・クラッキングセルを用いた分子線エピタキシ装置の構成例を簡単に示す断面図である。
【図3】図1に示す分子線エピタキシ装置の吸引排気工程における各バルブの開閉状態を示す説明図である。
【符号の説明】
10……本体チャンバ、12……排気通路開閉バルブ、20……バルブド・クラッキングセル、22……貯蔵部、24……クラッキング部、26……分子線量制御バルブ、28……排気管、30……原材料。
Claims (5)
- 分子線によって結晶を成長させるための基体を配置する本体チャンバと、前記本体チャンバに接続され、前記本体チャンバ内に分子線を供給する分子線源セルと、前記分子線源セルを通して前記本体チャンバ内の吸引を行う吸引装置とを有し、
前記分子線源セルが、原材料を貯蔵する貯蔵部と、前記貯蔵部に貯蔵された原材料からの分子線を分解して前記本体チャンバに供給する分解部と、前記貯蔵部と前記分解部との間を区切る分子線量制御バルブとを具備したバルブド・クラッキングセルより構成される分子線エピタキシ装置において、
前記貯蔵部と前記本体チャンバとをつなぐ排気通路を設け、前記吸引装置により、前記貯蔵部及び前記排気通路を通して前記本体チャンバを直接吸引排気するようにした、
ことを特徴とする分子線エピタキシ装置。 - 前記排気通路を開閉する排気通路開閉バルブを設けたことを特徴とする請求項1記載の分子線エピタキシ装置。
- 前記排気通路開閉バルブは電磁式ゲートバルブであることを特徴とする請求項2記載の分子線エピタキシ装置。
- 前記排気通路開閉バルブは前記本体チャンバの吸引排気作業時及び真空解除時に開き、結晶成長工程においては閉じるようにしたことを特徴とする請求項2記載の分子線エピタキシ装置。
- 前記分子線量制御バルブはマイクロメータ付きバルブであることを特徴とする請求項1記載の分子線エピタキシ装置。
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