JP3946614B2 - 熱可塑性樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は滑剤及びそれを含有する滑性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関する。尚、本発明で滑性に優れるとは、離型性及び溶融流動性に優れることをいう。
【0002】
【従来の技術】
ポリカーボネート樹脂は、優れた耐衝撃特性、耐熱性、電気的特性等により、OA(オフィスオートメーション)機器分野、電気・電子機器分野、自動車分野、建築分野等の分野において幅広く利用されているが、成形加工温度が高い、溶融流動性が悪いという問題点を有している。また、ポリカーボネート樹脂は、射出成形により、各種成形品に成形されているが、成形品が複写機、ファックス等のOA機器、電気・電子機器等の部分品やハウジング等の場合には、形状が複雑になること、リブやボス等の凹凸が成形品に形成されることのために、成形品を金型から脱型することが困難となる場合があり、脱型ができず、成形品に穴があいたり、脱型できても、成形品に変形を生じたり、白化や歪みが残留して、成形品の寸法精度、強度、外観が低下する等の問題点も有している。
【0003】
一方、ポリカーボネート樹脂の溶融流動性の改良のために、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS樹脂)等のスチレン系樹脂をポリカーボネート樹脂に配合した組成物が、ポリマーアロイとして、その耐熱性、耐衝撃性の特性を生かし、多くの成形品分野に用いられている。そして、このような組成物に対してもOA機器、電気・電子機器、家庭電化製品等にあってはその部分品、ハウジング等の用途で、機器の軽量化、薄肉化、あるいは形状因子、即ち、成形品にリブやボス等の細かな凹凸、格子状構造等、複雑且つ大型化等に対応できることが求められおり、このような成形品では、特に、射出成形において、成形金型からの、成形品の離型性が重要となってきている。しかし充分に満足できる離型性を有するものは得られておらず、射出成形品の薄肉化や、形状設計が制限されている。
【0004】
ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂の離型性を高めるために、離型剤を添加することはよく行われている。例えば、特許文献1には、芳香族カーボネート重合体と特定のエステルを含有する成形用組成物が開示されている。しかしながら、特許文献1の実施例に具体的に開示されている組成物は、離型性や溶融流動性においてまだ充分に満足できるものではない。
【0005】
【特許文献1】
特公昭61−41939号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂による、薄肉化、複雑化するOA機器、電気・電子機器、自動車等に用いられる成形品の成形において、良好な成形性、耐衝撃性、強度を維持しつつ、優れた滑性(離型性や溶融流動性)を有する熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ペンタエリスリトールテトラパルミチン酸エステルを90重量%以上含有する滑剤(以下本発明の滑剤という)、及び(a)熱可塑性樹脂と、(b)本発明の滑剤を含有する熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0008】
【発明の実施の形態】
[滑剤]
本発明の滑剤は、充分な溶融流動性や射出成型時の離型性を得る観点から、ペンタエリスリトールテトラパルミチン酸エステルを90重量%以上、好ましくは95重量%以上含有する。
【0009】
ペンタエリスリトールテトラパルミチン酸エステルは、ペンタエリスリトールとパルミチン酸とのエステル化反応又はエステル交換反応によって得られるが、具体的な製造法としては、例えば、ペンタエリスリトールとパルミチン酸とを、テトライソプロピルチタネート、オクチル酸スズ、ジブチルスズオキシド等の金属系触媒を、ペンタエリスリトールとパルミチン酸の合計仕込量に対し、0.01〜0.5重量%使用し、190〜240℃でエステル化反応を行う方法等が挙げられる。
【0010】
本発明の滑剤としては、ペンタエリスリトールテトラパルミチン酸エステルの含有量が90重量%以上であれば、この反応生成物をそのまま用いることも、更に精製した高純度の精製品を用いることもできる。
【0011】
本発明の滑剤は、ペンタエリスリトールテトラパルミチン酸エステル以外に、ペンタエリスリトールテトラパルミチン酸エステルの製造における未反応分であるペンタエリスリトール成分や、パルミチン酸成分、あるいはペンタエリスリトールテトラパルミチン酸エステル以外のエステル等を含有することができる。
【0012】
ペンタエリスリトールテトラパルミチン酸エステル以外のエステルとしては、ジペンタエリスリトールヘキサパルミチン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラステアリン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラミリスチン酸エステル等が挙げられる。
【0013】
[熱可塑性樹脂]
本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂及びスチレン系樹脂からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0014】
ポリカーボネート樹脂としては、2価フェノールとカーボネート前駆体との反応により製造される芳香族ポリカーボネートが好ましい。2価フェノールとカーボネート前駆体との反応は、溶液法あるいは溶融法等があり、具体的には2価フェノールとホスゲンの反応、2価フェノールとジフェニルカーボネート等とのエステル交換反応等が挙げられる。
【0015】
2価フェノールとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。この他、2価フェノールとして、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール等が挙げられる。これらの2価フェノールは、それぞれ単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。特に好ましい2価フェノールは、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系、特にビスフェノールAを主原料としたものである。
【0016】
また、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル、ハロホルメート等が挙げられ、具体的にはホスゲン、2価フェノールのジハロホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等である。
【0017】
なお、ポリカーボネート樹脂は、分岐構造を有していてもよく、分岐剤としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α’’−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、フロログリシン、トリメリット酸、イサチンビス(o−クレゾール)等が挙げられる。また、分子量の調節のためには、フェノール、p−t−ブチルフェノール、p−t−オクチルフェノール、p−クミルフェノール等が用いられる。
【0018】
また、ポリカーボネート樹脂として、ポリカーボネート部とポリオルガノシロキサン部を有する共重合体、あるいはこの共重合体を含有するポリカーボネート樹脂を用いることもできる。また、共重合体としては、テレフタル酸等の2官能性カルボン酸又はそのエステル形成誘導体等のエステル前駆体の存在下にポリカーボネートの重合反応を行うことによって得られるポリエステル−ポリカーボネート樹脂であってもよい。さらに、種々なポリカーボネート樹脂を適宜混合して使用することもできる。
【0019】
ポリカーボネート樹脂は、機械的強度及び成形性の点から、その粘度平均分子量は、10,000〜100,000のものが好ましく、特に14,000〜40,000のものが好ましい。
【0020】
本発明に用いられるスチレン系樹脂としては、スチレン、α−メチルスチレン等のモノビニル系芳香族単量体20〜100重量%、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体0〜60重量%、及びこれらと共重合可能なマレイミド、(メタ)アクリル酸メチル等の他のビニル系単量体0〜50重量%からなる単量体又は単量体混合物を重合して得られる重合体が挙げられる。これらの重合体として、ポリスチレン(GPPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)等が挙げられる。
【0021】
また、スチレン系樹脂としてゴム質重合体変性スチレン系樹脂も好ましく利用できる。この変性スチレン系樹脂としては、好ましくは、少なくともスチレン系単量体がゴム質重合体にグラフト重合した耐衝撃性スチレン系樹脂である。ゴム変性スチレン系樹脂としては、例えば、ポリブタジエン等のゴム質重合体にスチレンが重合した耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリブタジエンにアクリロニトリルとスチレンとが重合したABS樹脂、ポリブタジエンにメタクリル酸メチルとスチレンが重合したMBS樹脂等があり、ゴム変性スチレン系樹脂は、2種以上を併用することができるとともに、前記のゴム未変性であるスチレン系樹脂との混合物としても使用できる。
【0022】
ゴム変性スチレン系樹脂中のゴム質重合体の含有量は、耐衝撃性、熱安定性、溶融流動性、着色防止性等の観点から、2〜50重量%が好ましく、5〜30重量%が更に好ましい。上記ゴム質重合体の具体例としては、ポリブタジエン、アクリレート及び/又はメタクリレートを含有するゴム質重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン(SBS)ゴム、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエン・アクリルゴム、イソプレン・ゴム、イソプレン・スチレンゴム、イソプレン・アクリルゴム、エチレン・プロピレンゴム等が挙げられる。
【0023】
このうち、特に好ましいものはポリブタジエンである。ここで用いるポリブタジエンは、低シスポリブタジエン(例えば1,2−ビニル結合を1〜30モル%、1,4−シス結合を30〜42モル%含有するもの)、高シスポリブタジエン(例えば1,2−ビニル結合を20モル%以下、1,4−シス結合を78モル%以上含有するもの)のいずれを用いてもよく、またこれらの混合物であってもよい。
【0024】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の、(a)成分の熱可塑性樹脂と、(b)成分の滑剤との配合割合は、溶融流動性、射出成型時の離型性、滑剤のブリード防止性等の観点や、経済的な面から、(a)成分100重量部に対し、(b)成分を0.1〜5.0重量部、特に0.5〜2.0重量部配合するのが好ましい。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、外観改善、帯電防止、耐候性改善、剛性改善等の目的で熱可塑性樹脂に通常用いられる他の添加剤を必要により適宜配合することができるが、その配合量は5重量%以下が好ましい。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(a)成分及び(b)成分、更には他の添加剤を適当な割合で配合し、混練することにより得られる。このときの配合及び混練は、通常用いられている機器、例えばリボンブレンダー、ドラムタンブラー等で予備混合して、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等を用いる方法で行うことができる。混練の際の加熱温度は、通常240〜300℃の範囲で適宜選択される。なお、熱可塑性樹脂以外の含有成分は、あらかじめ、熱可塑性樹脂と溶融混練した、マスターバッチとして添加することもできる。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記の溶融混練成形法により得られたペレットとして、あるいはこのペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、発泡成形法等により各種成形品として製造することができる。しかし、上記溶融混練成形法により、ペレット状の成形原料を製造し、次いで、このペレットを用いて、離型性がもっとも問題となる射出成形、射出圧縮成形による射出成形品の製造に特に好適に用いることができる。なお、射出成形法としては、外観のヒケ防止のため、あるいは軽量化のためガス注入成形法を採用することもできる。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる射出成形品(射出圧縮成形品を含む)としては、複写機、ファックス、テレビ、ラジオ、テープレコーダー、ビデオデッキ、パソコン、プリンター、電話機、情報端末機、冷蔵庫、電子レンジ等のOA機器、家庭電化製品、電気・電子機器のハウジングや各種部分品等がある。
【0029】
【実施例】
製造例1
1000ml四つ口フラスコに純度96%のパルミチン酸413.6gとペンタエリスリトール57.9g、触媒として酸化スズ0.09gを秤取り、窒素吹き込み下、230±5℃の条件でエステル化を行った。途中、酸価、水酸基価を測定し、仕込み調整を行い、エステル化反応を続行した。その後、触媒の中和のため、90±5℃まで冷却し、85%リン酸0.18gを加えた。更にキョーワード600S(協和化学(株)製)1.59gで触媒残渣の吸着を行い、濾過後、純分95%のペンタエリスリトールテトラパルミチン酸エステルを得た。
【0030】
実施例1〜3及び比較例1〜4
下記の(a)成分、(b)成分及び(b’)成分を用い、各成分を表1に示す割合で、押出機(ラホブラストミル2軸押出機、東洋精機(株)製)に供給し、260℃で溶融混練し、ペレット化した。なお、すべての実施例及び比較例において、酸化防止剤としてイルガノックス1076(チバガイギー(株)製)0.2重量部及びアデカスタブC(旭電化工業(株)製)0.1重量部をそれぞれ配合した。得られたペレットを、80℃で12時間乾燥した後、成形温度260℃で射出成形して試験片を得た。得られた試験片を用い、下記方法でアイゾット衝撃強度及びスパイラルフロー長さを測定した。
【0031】
また、別途、成形品金型として上記試験片に代えて、80mm×100mm×40mm(深さ)で、肉厚:3mmであり、抜き勾配:0である、離型性の評価試験金型を用いて同様な成形条件で成形を行い、離型性を評価した。これらの評価結果を表1に示す。
なお、実施例1は参考例である。
【0032】
<(a)成分>
(a−1):ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、タフロン A1900(出光石油化学(株)製)、メルトインデックス=20g/10分(280℃、2.16kg荷重)、粘度平均分子量:19000
(a−2):耐衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、IDEMITSU PS HT44(出光石油化学(株)製)、ゴム状弾性体(ポリブタジエン)にポリスチレンがグラフト重合したもの、メルトインデックス=8g/10分(200℃、5kg荷重)
<(b)成分>
(b−1):製造例1で得られたペンタエリスリトールテトラパルミチン酸エステル
<(b’)成分(比較のエステル化合物)>
(b’−1):ペンタエリスリトールテトラステアリン酸エステル
(b’−2):ペンタエリスリトールテトララウリン酸エステル
(b’−3):ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル(脂肪酸組成:パルミチン酸50重量%、ステアリン酸50重量%)
<性能評価方法>
(1)アイゾット衝撃強度(IZOD):ASTM D256に準拠、23℃(肉厚1/8インチ)、単位:kJ/m2
(2)スパイラルフロー長さ(SFL):成形温度260℃、金型温度60℃、肉厚3mm、幅10mm、射出圧力110MPaの条件で測定、単位:cm
(3)離型性:突き出しピンの圧力を測定した。最大圧力2.9MPa、この値は小さい方が離型性がよい。
【0033】
【表1】
【0034】
表1の結果から、実施例1〜3の本発明の熱可塑性樹脂組成物は、優れた衝撃強度、溶融流動性及び離型性を有することが明らかである。また、比較例1〜4の熱可塑性樹脂組成物は、衝撃強度、溶融流動性及び離型性が不十分であり、成形品の形状、サイズ等によっては、成形が困難であったり、金型冷却時間を長くすることが必要となり、生産性が低くなる。
【0035】
【発明の効果】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、衝撃強度を維持しつつ、溶融流動性や離型性が良好であるので、複雑、薄肉化の傾向にある熱可塑性樹脂の各種成形品を、射出成形により、高い生産性で成形することができる。
Claims (2)
- (a)スチレン系樹脂、又はスチレン系樹脂とポリカーボネート樹脂の混合樹脂から選ばれる熱可塑性樹脂と、(b)ペンタエリスリトールテトラパルミチン酸エステルを90重量%以上含有する滑剤を含有する、射出成形品の製造用熱可塑性樹脂組成物。
- 滑剤が、ペンタエリスリトールテトラパルミチン酸エステルを95重量%以上含有するものである請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
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