JP3941308B2 - 熱間加工性に優れた銅合金 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱間加工性に優れた銅合金に関し、特に、熱間加工時に割れを発生させることのないCu−Fe系銅合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、半導体装置のリードフレーム等の電子部品、あるいは端子、コネクター等の電気部品に使用される銅合金として、Feを1.5〜3量%含有し、さらに、0.01〜0.1量%のPと0.03〜1量%のZnを含有し、残りがCuおよび不可避的不純物から成る合金組成を有し、優れた強度と導電性を兼ね備えた銅合金が知られている。
【0003】
このCu−Fe系合金においては、Feの含有量が1.5〜3量%のときに優れた強度と導電性が得られるとされているが、実際には、2.3量%を超えてFeが存在するとFe系晶出物が巨大化しやすくなる性質を有しており、従って、一般には、Feの量を1.5〜2.3量%に設定するのが普通である。
【0004】
通常、この銅合金からリードフレーム等を製造するには、次の手順を経る。
まず、前記成分組成となるように素材を溶解して銅合金の溶湯を調整し、これを連続あるいは半連続的に鋳造して鋳塊を製造し、次いで、この鋳塊を800〜1050℃の高温で熱間圧延することによって熱延板を製作する。
【0005】
次に、製作された熱延板を水冷して面削加工した後、冷間圧延、時効熱処理および表面研磨加工を繰り返し行い、最終圧延加工と歪み取り焼鈍処理を施すことにより銅合金条を製造し、その後、この銅合金条にプレス加工、打ち抜き加工、曲げ加工等の金属加工を加え、メッキ処理を施すことによって所定のリードフレームあるいは端子、コネクタ等とする。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来のこの種の銅合金によると、鋳造割れや、熱間圧延の際に熱延材のエッジ部に耳割れを発生させやすい問題を有している。一旦、耳割れを発生させた熱延材は、銅合金条に加工した後にその耳割れ部を除去したとしても、熱間加工中の粒界割れを原因とした欠陥部を内蔵させていることが多く、このため、このような銅合金条を使用してリードフレームを製造すると、打ち抜き加工や曲げ加工時におけるリードの折損、あるいは熱処理段階での割れやメッキ膨れなどを多発させる恐れがある。
【0007】
従って、本発明の目的は、鋳造割れや熱間加工時の耳割れを防ぐことのできる熱間加工性に優れた銅合金を提供することにある。また、本発明の他の目的は、従来のCu−Fe系合金よりも機械的特性および耐熱性を向上させた熱間加工性に優れる銅合金を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の目的を達成するため、Feを1.8〜2.3質量%、Pを0.01〜0.1質量%、Znを0.05〜1.0質量%、Snを0.05〜0.3質量%、およびCを15〜100質量ppm含有し、残りがCuの合金から成ることを特徴とする熱間加工性に優れた銅合金を提供するものである。
【0009】
一般に、銅合金等の連続あるいは半連続鋳造においては、鋳塊表層の数mmを除いた内部は、徐々に冷却される形で凝固する。このため、凝固後の冷却過程では、限界を超えて固溶した合金元素が、結晶粒界および結晶粒内に析出するようになる。
【0010】
一方、Cu−Fe系合金の常温でのCu中へのFeの固溶は、0.3%以下であり、従って、たとえば、Cu−2.3%Fe−0.03%P−0.12%Znの銅合金の場合には、2%以下のFeが結晶粒界および結晶粒内に析出することになるが、結晶粒界にFeが多量に析出すると、高温下での粒界のすべりが起きにくくなり、このため、粒界の高温強度が悪化して熱間加工時に割れが発生するようになる。
【0011】
本発明は、特定の合金元素を特定の量のもとに添加することにより鋳造組織の結晶粒を微細化するとともに、結晶粒界へのFeの析出を抑制し、これによって粒界の中高温強度と中高温脆性を改善して熱間加工性を向上させ、さらに、機械的特性および耐熱性の面でも特性の向上を図るもので、以下、各元素の添加理由と、その添加量設定の根拠を述べる。
【0012】
Feには、Cu中に固溶および析出して強度および耐熱性を向上させる作用があり、この作用に充分なものを得るためには、少なくとも1.8量%が必要となる。また、添加量が2.3量%を超過すると、鋳造中に晶出あるいは析出するFeの粒子が巨大化し、プレス加工等の金属加工性の悪化、あるいは得られるリードフレーム等の半田付け時の劣化やメッキの膨れ等の不具合を招くようになる。従って、Feの添加量は、1.8〜2.3量%に制限される。より好ましい添加量としては、1.9〜2.2量%に設定することができる。
【0013】
Pは、銅合金を溶解させて鋳造するときの脱酸のために混入される。その添加量は、下限においては充分な脱酸作用を得るため、そして、上限においては、脱酸効果が飽和するようになることと導電率および加工性を維持する目的から、0.01〜0.1量%の範囲に設定される。より好ましい添加量は、0.02〜0.05量%である。
【0014】
Znには、脱酸および脱ガス作用と、Cuのマイグレーション形成を抑えて漏洩電流を抑制する作用があり、これらの作用を得るためには、少なくとも0.05量%が必要となる。また、その上限値としては、1.0量%に設定する必要があり、これを超えると、導電性が低下するので避ける必要がある。より好まし範囲としては、0.08〜0.2量%に設定することができる。
【0015】
Snは、Cu中に固溶しての強度および耐熱性の向上と、鋳造中におけるFe粒子晶出の分散化のために混入される。これらの目的のためには、少なくとも0.05量%が必要であり、一方、添加量が0.3量%を超過すると、混入効果が飽和するとともに導電率を低下させるようになる。より好ましいSnの含有量は、0.1〜0.2量%である。
【0016】
Cには、溶湯中のFeと反応して結晶核となるFe−C粒子を形成し、これにより鋳造組織を微細化する作用があり、この作用に適度なものを得るためには、含有量を15〜100量ppmに設定する必要がある。C量が15質量ppm以上であれば、上記の作用を有することを確認しており、しかして、100量ppmを超過するときには、0.01mm以上の粗大なFe−C粒子を形成するようになる。より好ましいC量としては、5〜50量ppmの範囲に設定することができる。
【0017】
なお、本発明による銅合金の中には、不可避的に混入する不純物は当然含まれ、また、発明の目的を阻害しないかぎり、他の成分の添加が可能である。
【0018】
【発明の実施の形態】
次に、本発明による熱間加工性に優れた銅合金の実施の形態を説明する。
電気銅をカーボン粉末で被覆することにより大気から遮断し、低周波誘導溶解炉で溶解した後、表1に示されるC以外の元素を添加することによって成分調整を行い、次いで、カーボン粉末で被覆された合金溶湯中に低周波誘導撹拌を利用して表1の量のCを含有させた。
【0019】
【表1】
Figure 0003941308
【0020】
次に、これらの溶湯を、カーボン粉末で被覆した鋳造樋を介して鋳型にそれぞれ鋳造し、厚さが150mm、幅が450mm、および長さが3500mmの銅合金鋳塊を製造した後、これらを950℃の温度下で熱間圧延することにより、厚さが11mmの熱延板を製造した。熱間圧延作業は、1パス毎の圧下率を約18%に設定し、圧延最終温度が650℃以下となるように条件を設定して行った。
【0021】
次いで、このようにして得られた熱延板の上下面を面削することによって厚さが10mmの板とし、さらに、これを冷間圧延することによって2mmの厚さまで圧延し、600℃で1時間の時効熱処理を施した。次に、熱処理した板の表面から酸化膜を除去し、2次冷間圧延を行って厚さが0.8mmのシート材とした後、圧下率75%で最終圧延を行い、厚さが0.2mmのCu−Fe系合金条を得た。
【0022】
表1に、実施例と比較例の熱間圧延時における割れの発生状況、結晶組織、および完成合金条の特性を示す。なお、割れの観察は圧延パス毎に行い、何回目のパスのときに割れが発生したかを表示した。表中の平均結晶粒径および最大Fe晶出寸法は、銅合金鋳塊の横断面における表面近傍3点と、同横断面における中央部3点の計6点(各例とも同じ)について、1点当たりの観察面積を20mm×20mmに設定して結晶組織を観察し、測定した結果を示したものである。また、軟化温度は、サンプルを所定の試験温度で5時間加熱したとき、加熱後のビッカース硬さが加熱前のビッカース硬さの90%になる試験温度とした。
【0023】
表1によれば、実施例1〜4がいずれも熱間圧延時に割れを発生させていないのに比べ、SnとCを含有しない比較例1の場合には、3回目のパスで熱延板のエッジに割れが発生しており、また、Snを含有しない比較例2の場合にも2回目のパスで割れが発生している。さらに、Cの含有量が本発明で限定する範囲よりも少ない比較例3とCを含有しない比較例4の場合には、いずれも1回目と3回目のパスでエッジ割れと表面割れが発生しているとともに、それぞれ5回目と4回目のパスで崩壊に至っている。
【0024】
これらの熱間加工性の差は、結晶組織によるものであり、熱間加工性に優れる実施例1〜4が、いずれも3mm以下の小さな平均結晶粒径と0.01mm以下の微細なFe晶出寸法を有しているのに比べ、比較例1〜4の場合には、格段に大きな数値を示しており、この結晶組織の違いが熱間加工性の差となって現れたものである。また、実施例1〜4と比較例1、2の間には、引張強さと伸びの機械的特性において大きな差が認められ、さらに、耐熱性を示す軟化温度においても顕著な差が認められる。
【0025】
SnとCを、それぞれ本発明が限定する数量を超えて含有する比較例5および6の場合には、いずれも良好な熱間加工性を示している。しかし、これらと実施例1〜4を比較すると、比較例5は、引張強さ、伸びおよび導電率において大きく劣り、一方、比較例6は、Fe晶出寸法において極端に粗大であるとともに、引張強さと伸びの機械的特性においても大きく劣り、特に、伸び特性は格段に低い。
【0026】
Fe、P、Zn、SnおよびCを同時に含み、それぞれの含有量を特定の範囲に設定することによって成立する本発明の銅合金は、表1に示されるように、3mm以下の平均結晶粒径と0.01mm以下のFe晶出寸法を有する微細な鋳造組織とすることによって熱間加工時における熱延板の割れを防止するとともに、熱間加工および冷間加工を経て得られる合金条に、530N/mm2 以上の引張強さ、4.5%以上の伸び、66%IACS以上の導電率、および430℃以上の軟化温度特性を与えるものであり、リードフレーム等の原材料として最適な特質を有している。
【0027】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明による銅合金によれば、1.8〜2.3質量%のFeと、0.01〜0.1質量%のPと、0.05〜1.0質量%のZnと、0.05〜0.3質量%のSnと、15〜100質量ppmのCと、残部Cuから成る合金組成とすることにより、熱間加工性、機械的特性および耐熱性に優れた銅合金を提供するものであり、トランジスタや集積回路のリードのような電子部品用コネクタ、端子のような電子部品用としてその有用性は大である。

Claims (3)

  1. Feを1.8〜2.3量%、Pを0.01〜0.1量%、Znを0.05〜1.0量%、Snを0.05〜0.3量% 、およびCを15〜100量ppm含有し、残りがCuおよび不可避不純物から成る組成を有することを特徴とする熱間加工性に優れた銅合金。
  2. 前記組成を有する鋳造物は、3mm以下の平均結晶粒径を有し、0.01mm以下のFe晶出寸法を有することを特徴とする請求項1項記載の熱間加工性に優れた銅合金。
  3. 前記組成を有する銅合金条は、530N/mm2 以上の引張強さ、4.5%以上の伸び、66%IACS以上の導電率、および所定の試験温度で5時間以上加熱したとき加熱後のビッカース硬さが加熱前のビッカース硬さの90%になる試験温度についていう軟化温度が430℃以上の軟化温度を有することを特徴とする請求項1項記載の熱間加工性に優れた銅合金。
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