以下、図面を参照しながら、本発明におけるマイクロストリップアンテナの実施の形態について説明する。図1は、複数のアンテナ電極を備えた一般的なマイクロストリップアンテナの斜視図である。
図1において、絶縁性の基板1の表面には、同じサイズで同じ矩形状のAアンテナ電極2とBアンテナ電極3が、形状的及び位置的に線対称の関係をもって、配置され、基板1の裏面にはほぼ全面に接地電極4が配置されている。そして、Aアンテナ電極2及びBアンテナ電極3のそれぞれの同じ側の縁の中央点に設けられた給電点P、Pには、給電線路10を通じて、例えば、10.525GHzの高周波電圧Vfが印加される。接地電極4は接地されてグランドレベルを提供する。Aアンテナ電極2とBアンテナ電極3への給電線路10の長さは同じである。なお、給電点P、Pは、アンテナ電極2、3の縁ではなく、アンテナ電極2、3の縁から内奥へ或る距離だけ入った位置に配置される場合もある。このような構成によって、Aアンテナ電極2及びBアンテナ電極3からは、それぞれ、同一電界強度の電波ビーム7、8が基板1に対して垂直な指向方向で送信される。
ところが、発明者らの実験結果によると、複数のアンテナ電極のうち何れかのアンテナ電極の或る箇所を接地電極に接続すると、接地電極に接続されたアンテナ電極を伝搬する高周波信号の位相と接地電極に接続されないアンテナ電極を伝搬する高周波信号の位相との間に位相ズレが生じるために、複数のアンテナ電極から送信される統合的な電波ビームの指向方向が傾くことが確認された。なお、接地電極に接続されたアンテナ電極の接地電極に接続されないアンテナ電極に対する位相ズレは、アンテナ電極における接地電極の接続位置やアンテナ電極の形状などによって、進む場合も遅れる場合もあり得る。位相ズレの量も、アンテナ電極における接地電極の接続位置やアンテナ電極の形状などによって異なる。
例えば、アンテナ電極がある形状である場合には、接地電極に接続されたアンテナ電極を伝搬する高周波信号の位相が接地電極に接続されないアンテナ電極を伝搬する高周波信号の位相より進むために、複数のアンテナ電極から出力される電波のビームを合わせた統合的な電波は、接地電極に接続されていないアンテナ電極側(つまり、位相の遅れたアンテナ電極側)へ傾くことが分かった。以下、接地電極に接続されたアンテナ電極を伝搬する高周波信号の位相が、そうでないアンテナ電極を伝搬する高周波信号の位相より進む場合を例にとり、本発明の実施形態について説明する。
図2は、本発明のマイクロストリップアンテナの一実施形態を示す平面図である。図3は、図2のA−A断面図である。
図2、3に示すマイクロストリップアンテナは、図1に示したものと同じ基本的構成、すなわち、基板1とAアンテナ電極2とBアンテナ電極3と接地電極4と給電線路10を有する。Aアンテナ電極2とBアンテナ電極3とは形状的及び位置的に線対称の関係にある。これに加えて、一方の電極、例えばAアンテナ電極2、の或る一箇所2Aが接地電極4に接続される。すなわち、Aアンテナ電極2の上記一箇所2Aに対応する基板1の箇所を導電体性の接続部材(以下、「スルーホール」という)5が貫通しており、このスルーホール5は、一端にてAアンテナ電極2の上記一箇所に結合され、他端にて接地電極4に結合される。このように、Aアンテナ電極2の上記一箇所2Aは、スルーホール5を介して接地電極4に接続されている。このように接地電極4に接続される(又は、後に説明されるように、スイッチやその他の電気回路により所望時に接地にされ得るようになった)アンテナ電極の箇所を、「接地点」と呼ぶ。図2に示すように、アンテナ電極2、3の図中下側の給電点P、Pから反対側の縁(終端縁)までのアンテナ電極2、3の長さLは、高周波信号の基板1での半波長λg/2と同じかやや小さく設計されている。ここで、λgは、基板1を伝搬する高周波信号の波長である。また、真空中における高周波信号電波の波長をλ、基板1の誘電率をεrとすると、λ=εr1/2・λgである。図2に示す例では、Aアンテナ電極2の接地点2Aは、給電点Pがある縁とは反対側の終端縁の1箇所に配置されている。Aアンテナ電極2から発射される電波のビームは、Bアンテナ電極3から発射される電波のビームより位相が若干進み、結果として、両ビームをあわせた統合的な電波ビームの指向方向は、図2で矢印に示すようにBアンテナ電極3の側へ傾く。
図2に示す構成において、Aアンテナ電極2の接地点2Aの位置を変えると、統合的な電波ビームの指向方向の傾き角度が変化する。図4は、アンテナ電極2、3が或る形状である場合において実験的に得られた、接地点2Aの位置と統合的な電波ビームの指向方向の基板面に垂直な方向に対する傾き角度との関係を示す特性図である。図4において、横軸はAアンテナ電極2の給電点Pを原点0とした場合の図2に示した長さLの方向における接地点2Aの位置を示し、縦軸は統合的な電波ビームの傾き角度を示している。
図4から分かるように、長さLの方向における給電点Pから接地点2Aまでの距離がほぼ0(つまり、接地点2Aが給電点Pと同じ縁上)またはほぼ半波長λg/2(つまり、接地点2Aが給電点Pと反対側の終端縁上)であるときに、統合的な電波ビームの傾き角度が最大となり、逆に、その距離がほぼ4分の1波長λg/4(つまり、接地点2Aが長さL方向の中央位置上)であるときに、統合的な電波ビームの傾き角度が最小(ほぼ0)となる。なお、図には示してないが、接地点2Aの位置を長さL方向とは直交する方向に変えた場合には、統合的な電波ビームの傾き角度に目立った変化はない。例えば、図2において、Aアンテナ電極2の上左端(図4中でλg/2の位置)にある接地点2Aを、上側の縁に沿って右方向へ移動させても、統合的な電波ビームの傾き角度に目立った変化はない。これに対し、上左端の接地点2Aを、左側の縁に沿って下方へ移動させると、傾き角度は低下して中央点(図4中でλg/4の位置)で最小となり、次に上昇して下側の縁(図4中で0の位置)に到達すると再び最大となる。
従って、図5に示すように、Aアンテナ電極2の接地点2Aを終端縁よりやや中間位置側に配置した場合、統合的な電波ビームの傾きは、図2に示す場合よりやや小さくなる。図2と図5に示した2つの接地点2Aの位置の双方にスルーホール5を設け、それらのスルーホール5にそれぞれスイッチ(図示せず)を設けて、それらのスルーホール5を個別に開閉できるようにすると、それらのスイッチのすべてがオフか、いずれかひとつにスイッチがオンであるかにより、統合的な電波ビームの方向を3通りに切り替えることができる。
図6は、本発明のマイクロストリップアンテナの第2の実施形態の平面図である。また、図7は、図6のB−B断面図である。
図6及び図7に示すように、Aアンテナ電極2及びBアンテナ電極3の終端縁が基板1の縁に沿って配置される。Aアンテナ電極2の終端縁が、基板1の縁の側面に配置された接続部材6によって、接地電極4に接続される。このようにしてAアンテナ電極2の終端縁が接地電極4に接続されることによって、図2の場合と同様に、マイクロストリップアンテナから送信される統合的な電波ビームが、図6の矢印のようにBアンテナ電極3の方向へ傾く。
図8は、本発明のマイクロストリップアンテナの第3の実施形態の平面図である。
図8に示すように、Aアンテナ電極7及びBアンテナ電極8の給電点P、Pが、それぞれのアンテナ電極7、8の内奥の位置(伝送線路10のインピーダンスとアンテナインピーダンスとが一致する点)に配置されている。Aアンテナ電極7の終端縁の左端に接地点7Aがあり、これが図示しないスルーホールによって背面の接地電極に接続される。それにより、統合的な電波ビームは例えば図8の矢印に示すようにBアンテナ電極3の方向へ傾く。
図8の実施形態において、Aアンテナ電極7の接地点7Aを例えば図9に示すように終端縁の右端に変えると、統合的な電波ビームは例えば図9の矢印に示すようにAアンテナ電極2方へ傾く。図8と図9に示した2つの接地点7Aの位置の双方にスルーホールを設け、それらのスルーホールにそれぞれスイッチ(図示せず)を設けて、それらのスルーホールを個別に開閉できるようにすると、それらのスイッチのすべてがオフか、いずれかひとつにスイッチがオンであるかにより、統合的な電波ビームの方向を3通りに切り替えることができる。図8、9に示す構成では、片側のアンテナ電極にはスルーホールをまったく配置していないため製造上のばらつきによる(インピーダンス不整合)伝達損失を片側に集約でき、出力特性の良いアンテナを提供できる。
図10は、本発明のマイクロストリップアンテナの第4の実施形態の平面図である。
図10に示すように、基板1にAアンテナ電極11、Bアンテナ電極12、Cアンテナ電極13、及びDアンテナ電極14の4枚のアンテナ電極が2×2のマトリクス状に配置される。Aアンテナ電極11とBアンテナ電極12は形状的及び位置的に線対称の関係にあり、Cアンテナ電極13とDアンテナ電極14も形状的及び位置的に線対称の関係にある。Aアンテナ電極11とBアンテナ電極12の電極パターンと、Cアンテナ電極13とDアンテナ電極14のパターンは、形状において基本的に同一である。Aアンテナ電極11、Bアンテナ電極12、Cアンテナ電極13及びDアンテナ電極14への給電線路の長さは同一である。基板1のほぼ中央にある大本の給電点P0からの給電ライン10の分岐方向(図中左右の方向)と、個々の電極11〜14を励振する方向(給電点Pから終端縁への方向で、図中縦方向)とは、直交していて、一致してはいない。Aアンテナ電極11の終端縁上の1箇所に接地点11Aが設けられ、Cアンテナ電極13の終端縁上の一箇所にも接地点13Aが設けられる。これにより、例えば図10の右向きの矢印のように、統合的な電波ビームの指向方向がA、Cアンテナ電極11、13からB、Dアンテナ電極12、14へ向かう方向へ傾く。
また、この実施形態において、図11に示すように、Aアンテナ電極11とBアンテナ電極12の終端縁上にそれぞれ接地点11A、12Aが設けられると、例えば図11に示す下向きの矢印のように、統合的な電波ビームの指向方向がA、Bアンテナ電極11、12からC、Dアンテナ電極13、14へ向かう方向へ傾く。
また、この実施形態において、図12に示すように、Aアンテナ電極11にのみ接地点11Aが設けられると、例えば図12に示す右斜め下向きの矢印のように、統合的な電波ビームの指向方向がAアンテナ電極11からDアンテナ電極14へ向かう方向へ傾く。
また、この実施形態において、図13に示すように、Aアンテナ電極11とBアンテナ電極12とCアンテナ電極13の終端縁上にそれぞれ接地点11A、12A、13Aが設けられると、例えば図13に示す右斜め下向きの矢印のように、統合的な電波ビームの指向方向がAアンテナ電極11からDアンテナ電極14へ向かう方向へ、図12の場合より大きく傾く。接地点11A−13Aに接続されたスルーホール(図示せず)にそれぞれスイッチ(図示せず)を設けて、それらスイッチを選択的に有効/無効にすることで、図10から図13に示したようなバリエーションが選択できる。
図14は、本発明のマイクロストリップアンテナの第5の実施形態を示す平面図である。
図14に示すように、Aアンテナ電極11、Bアンテナ電極12、Cアンテナ電極13、及びDアンテナ電極14の4枚のアンテナ電極が2×2のマトリクス状に配置される。Aアンテナ電極11とBアンテナ電極12は形状的及び位置的に線対称の関係にあり、Cアンテナ電極13とDアンテナ電極14も形状的及び位置的に線対称の関係にある。Aアンテナ電極11とBアンテナ電極12の電極パターンと、Cアンテナ電極13とDアンテナ電極14のパターンは、形状において基本的に同一である。Aアンテナ電極11、Bアンテナ電極12、Cアンテナ電極13及びDアンテナ電極14への給電線路の長さは同一である。Aアンテナ電極11とBアンテナ電極12の終端縁が基板1の上縁に沿って配置される。そして、Aアンテナ電極11の終端縁上の2つの箇所が、それぞれ、その2箇所に対応した基板1の上縁の側面に配置された2つの接続部材6A、6Bによって、基板1の裏面の接地電極(図示せず)に接続される。同様に、Bアンテナ電極12の終端縁上の2つの箇所が、それぞれ、その2箇所に対応した基板1の上縁の側面に配置された2つの接続部材6C、6Dによって、基板1の裏面の接地電極(図示せず)に接続される。これによって、例えば図14に示す下向きの矢印のように、統合的な電波ビームの指向方向がCアンテナ電極13及びDアンテナ電極14の方向へ傾く。接続部材6A、6B、6C、6Dにそれぞれスイッチ(図示せず)を設けて、それらスイッチにより接続部材6A、6B、6A、6B、6C、6Dを開閉することで、統合的な電波ビームの指向方向や角度を変化させることができる。
図15は、本発明のマイクロストリップアンテナの第6の実施形態を示す配置断面図である。
図15に示すように、基板1は、A基板1A、B基板1Bのような積層された複数の基板からなる多層基板であり、A基板1AとB基板1Bの間に接地電極4が挟み込まれている。つまり、基板1の内部に接地電極4が配置される。Aアンテナ電極2及びBアンテナ電極3は例えば図2の実施形態と同様に配置される。Aアンテナ電極2は、例えば終端縁の一箇所の接地点2Aにて、A基板1Aを貫くスルーホール5によって接地電極4に接続される。図2の実施形態と同様に、統合的な電波ビームの指向方向がBアンテナ電極3の方向へ傾く。スルーホール5にスイッチ(図示せず)を設けて、そのスイッチによりスルーホール5を開閉することで、統合的な電波ビームの指向方向を変化させることができる。
図16は、上述したスイッチの一例を示す断面図である。
図16に示すように、Aアンテナ電極2に接続されたスルーホール5と接地電極4とが間の接続される箇所にスイッチ9が設けられ、スイッチ9はこのスルーホール5と接地電極4間の接続を開閉する。スイッチ9は、Aアンテナ電極2を平面視した場合にAアンテナ電極2の領域内に入る場所に配置されている。スイッチ9は、高周波信号を良好に通せる特性を持つ必要はないから、高周波スイッチである必要はない。スイッチ9は、機械的なスイッチでもよいし半導体スイッチでもよい。
図17は、本発明のマイクロストリップアンテナの第7の実施形態を示す断面図である。
この実施形態の平面図は図10から図13に示したものと同様である。図17に示すように、Aアンテナ電極11は、接地点11Aにて、スルーホール5Aによって接地電極4に接続される。一方、Bアンテナ電極12は、Aアンテナ電極11の接地点11Aと対称の位置にある点12Aにて、スルーホール5Bに接続されているものの、このスルーホール5Bは基板1を完全に貫いておらず接地電極4には接続されていない。つまり、スルーホール5Bは、スルーホールとして機能しないダミーのスルーホールである。従って、Bアンテナ電極12は接地電極4に接続されていない。このAアンテナ電極11とBアンテナ電極12と同様の構成が、Cアンテナ電極13とDアンテナ電極14にも適用されている。従って、図10の場合と同様に、Aアンテナ電極11とCアンテナ電極13だけが接地電極4に接続されるので、統合的な電波ビームの指向方向は図10の場合と同様に傾く。それに加えて、接地電極4へ接続されないBアンテナ電極12やDアンテナ電極14にもダミーのスルーホール5Bが接続されることにより、全てのアンテナ電極11−14がほぼ同じ形状に構成されることになり、アンテナ電極11−14の整合性がよくなる。
図18は、本発明のマイクロストリップアンテナの第8の実施形態を示す平面図である。図19は、図18のC−C断面図である。
図18において、アンテナ電極21の給電点Pから終端縁(上側の縁)までの長さLは、高周波信号の半波長λg/2よりやや大きく設定されている。そのため、アンテナ電極21は高周波信号に対して2次共振周波数モードで動作し、その結果、図19に示すようにアンテナ電極21から2つの方向へスプリットした電波ビーム22、23が出力される。アンテナ電極21が、或る位置(例えば、終端縁の左端)に配置された接地点21Aにて、スルーホール5Aを通じて接地電極4に接続されると、2つの電波ビーム22、23の間の位相がずれる(例えば、接地点21A側の電波ビーム22の位相が進む)ために、電波ビーム22、23を合わせた統合的な電波ビームの指向方向は例えば接地点21Aがない側(図中右側)に傾く。アンテナ電極21が、別の位置(例えば、終端縁の右端)に配置された接地点21Bにて、スルーホール5Bを通じて接地電極4に接続されると、統合的な電波ビームの指向方向は別の方向(例えば、左側)へ傾く。スルーホール5A、5Bをそれぞれスイッチ9A、9Bによって開閉して接地点の位置を変化させれば、統合的な電波ビームの指向方向が変化する。
図20は、本発明のマイクロストリップアンテナの第9の実施形態を示す平面図である。図21は、同実施形態の背面図である。図22は、図20のD−D断面図である。図23は、図21におけるスルーホールと接地電極との接続箇所Sの拡大図である。
図20および図22に示すように、基板1の表面には複数のアンテナ電極11、12、13、14がマトリックス状に配置される。アンテナ電極11と12は形状的及び位置的に線対称の関係にあり、アンテナ電極13と14も形状的及び位置的に線対称の関係にある。アンテナ電極11と12の電極パターンと、アンテナ電極13と14のパターンは、形状において基本的に同一である。アンテナ電極11、12、13、14への給電線路の長さは同一である。アンテナ電極11、12、13、14の各々は、異なる位置に配置された複数の接地点11A−11C、12A−12C、13A−13C、14A−14Cにて複数のスルーホール5、5、…と接続されている。図21に示すように、基板1の裏面には実質的に全面に亘って接地電極4が配置されている。図22および図23に示すように、各スルーホール5は基板1を貫通して裏面側で円形の島状の電極(以下、ランドという)31を形成している。図23に示すように、接地電極4の各ランド31に対応する箇所には、ランド31と同心のより大きい円形の隙間が開いており、よって、ランド31と接地電極4の間には絶縁スペース33が存在する。接続線32が、絶縁スペース33を跨いで、ランド31と接地電極4の間をつないでいる。接続線32は、スイッチ機能をもち、ランド31と接地電極4を電気的に接続したり、切り離したりすることができる。各接続線32の開閉により、上述した複数の接地点11A−11C、12A−12C、13A−13C、14A−14Cのうちのどれを接地電極4に接続するかを選択することにより、統合的な電波ビームの指向方向を変化させることができる。
なお、各アンテナ電極における接地点の個数や配置には様々なバリエーションが考えられる。例えば、統合的な電波ビームの指向方向を、基板から垂直方向を中心にして反対方向(例えば、上下や左右)へ振ることができ、かつ、各方向において指向方向の傾き角の大きさを所望数の段階に変えられるようなるような複数箇所に接地点を配置することができる。
ところで、上述したすべての実施形態において、スイッチが、アンテナ電極と接地電極との間をオン(接続)とオフ(切断)の2段階に単純に切り替えている。しかし、変形例として、アンテナ電極と接地電極との電気的な結合の度合い、換言すれば、アンテナ電極と接地電極との間の高周波信号に対するインピーダンスZ(=R+jωL−j・1/ωC)を、連続的または段階的に調節することにより、統合的な電波ビームの指向方向を連続的または段階的に変化させるようにすることもできる。例えば、図23に示した例では、接続線32の幅dm(換言すれば断面積)や絶縁スペースの距離dsなどが、ランド31(つまり、アンテナ電極)と接地電極4との間のインピーダンスに影響を与える。従って、図23に示した例において、接続線32の幅dmまたは絶縁スペースの距離dsを連続的または段階的に可変とする構成を導入することにより、アンテナ電極と接地電極4との間のインピーダンスを変え、それにより、統合的な電波ビームの指向方向の傾きの大きさを可変制御することができる。ことができる。例えば、接続線32の幅dmを変えることによって、接続線32のインピーダンス(抵抗値)を変えることができる。また、アンテナ電極から接地電極に接続されるスルーホールの長さを変えることで、アンテナ電極と接地電極との間のインピーダンスを変えることもできる。
以下では、このようにアンテナ電極と接地電極との間のインピーダンスを変えるようにした実施形態について説明する。
図24は、本発明のマイクロストリップアンテナの第10の実施形態を示す断面図である。
図24に示す実施形態では、スルーホール5の長さを変えることによってアンテナ電極2と接地電極4との間のインピーダンスが可変制御される。すなわち、多層基板34の表面にはアンテナ電極2が配置され、そのアンテナ電極2に接続されたスルーホール5が多層基板34を裏面側まで貫いている。スルーホール5は、その長さによってそのインピーダンスが有意に変わるような材質又は細さに形成されている。多層基板34の裏面には接地電極4が配置されている。さらに、多層基板34の各層間に中間電極35A、35B、35C、35Dがそれぞれ配置されており、これらの中間電極35A、35B、35C、35Dのすべてにスルーホール5が接続されている。そして、各中間電極35A、35B、35C、35Dは、それぞれ、スイッチSW1、SW2、SW3、SW4によって裏面の接地電極4に接続されるように構成されている。
ここで、スイッチSW1をONすると、接地電極4は実質的に中間電極25Aの位置になるので、スルーホール5の実効長さは最も短くなり、アンテナ電極2と接地電極4との間のインピーダンスは最も小さくなる。また、スイッチSW4をONすると、接地電極4は実質的に中間電極35Dの位置になるので、スルーホール5の実効長さは最も長くなり、アンテナ電極2と接地電極4との間のインピーダンスは最も大きくなる。このようにして、各スイッチSW1、SW2、SW3、SW4を切替えることによって、スルーホール5の実効長さを変えることにより、アンテナ電極2と接地電極4との間のインピーダンスが変わるので、統合的な電波ビームの指向方向が変わる。
図25は、本発明のマイクロストリップアンテナの第11の実施形態におけるスルーホール5と接地電極4と接続箇所の部分を示す平面図である。
この実施形態において、スルーホール5とランド31と接地電極4とは図23に示したものと同様の構成になっている。図25(a)から(c)に示すように、接続線32Aは先端に行く置くほど連続的に細くなる(断面積が小さくなる)形状を有する。接続線32Aは、アクチュエータ41により、一定角度範囲で回転移動するようになっている。図25(a)に示すように、接続線32Aの先端の最も細い部分がランド31と接地電極4を接続する場合、接続線32Aのインピーダンス(すなわち、アンテナ電極と接地電極4との間のインピーダンス)が最も大きくなる。図25(b)および図25(c)に示すように、接続線32Aのより太い部分がランド31と接地電極4を接続する場合、接続線32Aのインピーダンス(すなわち、アンテナ電極と接地電極4との間のインピーダンス)はより小さくなる。統合的な電波ビームの傾き角度は、上記インピーダンスの大きさに対応した角度となる。このようにしてインピーダンスの大きさが連続的に変わることにより、統合的な電波ビームの傾きが連続的に変わる。
図26は、本発明のマイクロストリップアンテナの第12の実施形態におけるスルーホール5と接地電極4と接続箇所の部分を示す平面図である。
図26(a)から(c)に示すように、先端に行くほど連続的に細くなる(断面積が小さくなる)形状の接続線32Bが、アクチュエータ42によってある距離範囲で直線的に移動するようになっている。図25の実施形態と同等の作用効果が得られる。
図27は、本発明のマイクロストリップアンテナの第13の実施形態におけるスルーホール5と接地電極4と接続箇所の部分を示す平面図である。
図27に示すように、先端に行くほど段階的に細くなる(断面積が小さくなる)形状の接続線32Cが、アクチュエータ42によってある距離範囲で直線的に移動するようになっている。これにより、統合的な電波ビームの傾きを段階的に変えることができる。
図28は、本発明のマイクロストリップアンテナの第14の実施形態におけるスルーホール5と接地電極4と接続箇所の部分を示す断面図である。
図28(a)に示す状態では、可動電極45が、バネ44の反発力によって、接地電極4とランド31から離れており、ランド31と接地電極4との間(つまり、アンテナ電極と接地電極4との間)のインピーダンスZは最大である。図28(b)に示す状態では、可動電極45がバネ44に抗してランド31と接地電極4に完全に接触し、ランド31と接地電極4との間(つまり、アンテナ電極と接地電極4との間)のインピーダンスZは最小である。このようにして、アンテナ電極と接地電極4との間のインピーダンスが2段階に切り替わる。これに応じて、統合的な電波ビームの指向方向が2段階に変わる。
図29は、本発明のマイクロストリップアンテナの第15の実施形態におけるスルーホール5と接地電極4との接続箇所の部分を示す断面図である。
図29(a)に示すように、可動電極47が、バネ46の反発力によって、接地電極4とランド31から所定の最大距離だけ離れている。このとき、接続板45を介したランド31と接地電極4との間の静電容量(C)は最小であり、よって、ランド31と接地電極4との間(つまり、アンテナ電極と接地電極4との間)のインピーダンスZは最大である。図29(b)に示すように、可動電極47がバネ46に抗って、ランド31と接地電極4に若干近づくと、ランド31と接地電極4との間の静電容量(C)はより大きくなり、ランド31と接地電極4との間(つまり、アンテナ電極と接地電極4との間)のインピーダンスZはより小さくなる。図29(c)に示すように、可動電極47がバネ46に抗って、ランド31と接地電極4に更に近づくと、ランド31と接地電極4との間の静電容量(C)は更に大きくなり、ランド31と接地電極4との間(つまり、アンテナ電極と接地電極4との間)のインピーダンスZは更に小さくなる。このようにして、アンテナ電極と接地電極4との間のインピーダンスは連続的に変化する。これに応じて、統合的な電波ビームの指向方向が連続的に変わる。
上述した本発明に従うマイクロストリップアンテナは、物体の検知などのための高周波センサに応用できる。そのような高周波センサは、マイクロストリップアンテナを用いた送信アンテナと、送信アンテナから出力された電波の物体からの反射波又は透過波を受信するための受信アンテナと、受信アンテナからの電気信号を受けて処理する処理回路とを備えたる。ここで受信アンテナは送信アンテナとは別に設けることができるが、特に反射波を受信する場合には、送信アンテナを受信アンテナとしても用いることができる。
次に、本発明に従うマイクロストリップアンテナの特性に関して説明する。
実験によれば、アンテナ電極への給電点の位置およびアンテナ電極の間隔によって、同じ共振周波数でも、最適なアンテナの形状(つまり縦横の寸法)が異なる。アンテナの形状が変わると、接地点の配置が同じでも、位相がどの程度進むか遅れるかが変わり、その結果、電波の放射角度が異なる。
図30から図32は、10GHzにて励振するアンテナの構造のバリエーションを示しており、図30ではアンテナ電極2、3の端縁に給電(信号の伝送線10との接続箇所)Pが配置され、図31と図32ではアンテナ電極2、3の内部に給電点Pが配置されている。アンテナ電極2、3の間隔は図30と図31では15mm、図32では10mmである。これらの図において、(a)の平面図における白丸と黒丸の印は接地点2A、2Bの位置を示し、(b)のグラフにおける横軸は接地点2A、2Bの給電点Pからの矢印方向の位置、縦軸は統合された電波の放射角度、点線の曲線は白丸の接地点2Aの場合の実験で得られた放射角度の変化、実線の曲線は黒丸の接地点2Bの場合の実験で得られた放射角度の変化を示す。なお、ここで言う(以降の説明でも同様)放射角度とは、アンテナ電極の面に垂直な方向(つまり、接地点が無いときの放射方向)を角度ゼロとしたときの、この角度ゼロ方向に対する放射方向の傾き角度である。
図30では、図30(a)に示すように接地点2A、2Bをアンテナ電極2の図中左上(白丸)または中央上(黒丸)のいずれに配置した場合でも、接地点2A、2Bの位置を矢印のように下方へ変化させたとき、統合された電波の放射角度は、図30(b)に示すように同様の傾向で変化した。
図31、図32では、アンテナ電極の中央上(黒丸)に接地点2Bを配置した場合、図30と同様の変化を示した。しかし、アンテナ電極の左上(白丸)に接地点2Aを配置した場合、λg/4の位置について対称に+方向から−方向へ放射角度が変化する。そして、図31と図32を対比して分かるように、アンテナ電極2、3の間隔が狭くなるほど、位相が進む側の放射角度が大きくなり、その変化量も大きかった。
図33、図43及び図44は、それぞれ、上述した図30、図31及び図32と同じ構造のアンテナにおいて、各図(a)に示すように、アンテナ電極2の接地点2Aの位置を給電点P側の縁とは反対側の終端縁の近傍に置き、これを矢印のように終端縁に沿って図中左端から右端まで横方向(給電点Pから終端縁へ向かう方向に直行する方向)へ移動させた場合に、実験的に得られた接地点2Aの位置と統合された電波の放射角度との関係を示している(各図(b))。なお、各図(b)において、横軸の接地点位置の原点0は、各図(a)で接地点2Aが位置している左端位置(他方のアンテナ電極3から最も遠い位置)に対応し、また、Wは、アンテナ電極2の上述した横方向の寸法(幅)を示している。
図33のアンテナ(図30と同じ構造)の場合、放射角度は接地点2Aの位置にかかわらず一定角度であった。図43のアンテナ(図31と同じ構造)の場合、接地点2Aの位置が中央位置(W/2)より左側では一定角度(図33のアンテナの最大放射角度より大きい)であったが、接地点2Aが中央位置(W/2)より右側では右方向へ行くほど低下した。図44のアンテナ(図32と同じ構造)の場合、接地点2Aが中央位置(W/2)にあるとき放射角度は最大のピーク(図33、図34のアンテナの最大放射角度より大きい)となり、接地点2Aが左右両側へ移動すると急激に低下した。
このように、アンテナ構造によって放射角度変化の特性が異なる。どのアンテナ構造を採用するか、用途に応じて取捨選択することができる。しかし、上記の考察からわかることは、多くのアンテナ構造において、アンテナ電極2の終端縁近傍の幅W方向の中央位置(W/2)に1つの接地点を設けることで、最大の放射角度が得られることである。よって、その終端縁の中央位置の接地点の有効/無効(つまり、接地されているか、否か)をスイッチなどで切り替えることにより、それぞれのアンテナ構造における最大の放射角度変化を得ることができる。また、終端縁の中央位置以外のもっと小さい放射角度が得られる位置にも別の接地点を設け、それら複数の接地点の有効/無効をスイッチなどで選択することで、よりデリケートな放射方向制御ができる。
ここでは、励振周波数が10GHzにて説明しているが、励振周波数がより高いまたはより低い場合であってアンテナ電極2、3の形状や間隔が10GHzの場合とは異なる場合であっても、上述と同様の傾向があった。
複数の接地点の中から1以上の接地点を選択して電波の放射角度を切替る場合、図23で説明したように、各接地点のスルーホールと接地電極の間にスペースを設けて両者を電気的に分離する構造が採用できる。
図34は、実験により得られた、スルーホールの直径(横軸)と統合電波の放射角度(縦軸)との関係を示している。アンテナの励振周波数は10GHzである。
図34から分かるように、スルーホールの直径を小さくし過ぎるとスルーホールを伝播する高周波信号の伝播量が少なくなるため、放射角度の変化が小さくなる。理由は、スルーホールの直径が小さくなると、スルーホールを伝播する高周波信号の伝播量が少なくなるためと考えられる。
逆に、スルーホールの直径を大きくしていくと放射角度が大きくなるが、(励振周波数が例えば10GHzの場合)直径が例えばφ0.3mm付近で放射角度は飽和状態に至った。また、スルーホールの外周がアンテナにおけるλ/2の位置に近くなるほど放射角度が小さくなった。従って、(励振周波数が例えば10GHzの場合)スルーホールの直径はφ10〜φ500mmが望ましく特に有効なのはφ100〜φ300μmであり、複数のスルーホールを構成し電波の放射角度を切り替えるにはφ100〜φ200mmを採用し、1つのスルーホールと接地電極間のインピーダンス変化で放射角度を切り替えるには、基板の穴あけ加工実績の高いφ300mmを採用するのが好適である。
なお、アンテナの励振周波数に応じてスルーホールの最適な直径は変化し、励振周波数が高くなるほどスルーホールの直径を小さくした方が良い。その理由は、周波数が高くなるとマイクロストリップライン(MSL)が細くなる原理と同様と考えられる。
電波の放射角度を制御する方法としては、上述した種々の実施形態のように、任意の放射角度となるアンテナ電極面の一部にスルーホールを配置し、(例えば、放射角度が最大となるアンテナ電極の位置、つまり例えば先端部中央、にスルーホールを配置し、)そして、図25から図27の実施形態のように、スルーホールと接地電極間を短絡するライン幅を変更することにより放射角度を制御するようにした構造が採用でできる。図35は、このようにした場合において、実験的に得られた、ライン幅(横軸)と放射角度(縦軸)の関係を示す。
あるいは、次のような方法で、スルーホールと接地電極間を短絡させる面積を電気的または機械的に制御することによりアンテナの放射角度を段階的に制御することもできる。すなわち、スルーホールまたはスルーホールに接続されたランド上と接地電極との間に例えば10〜100μm程度の幅(太さ)の板状または針状の電極を複数本配置して、それら電極の中から、スルーホールと接地電極間を短絡させる電極を選択するような構造が採用できる。
あるいは、各アンテナ電極に複数の接地点を配置して、それらを選択することで放射角度を段階的に制御することもできる。その場合、接地点の中心点間に少なくとも基板の厚み以上またはスルーホールの直径以上の間隔を設けることが必要である。そこで、接地点の位置がアンテナ電極の幅方向で若干変化しても電波の放射角度が変化しないような場合には、例えば図36に示すように、アンテナ電極11、12、13、14の各々上の蛇行する複数位置(白丸印)にそれぞれ接地点を配置すれば、放射角度より細かく段階的に制御できる。
図37に示すアンテナは、各アンテナ電極11、12、13、14に接続される給電線路10の長さが同じであるため、電力が均等に分配される。
図38と図39にそれぞれ示すアンテナは、図中下方2枚のアンテナ電極13、14同士間、及び上方2枚のアンテナ電極11、12同士間では、伝播される高周波信号の位相は同じだが、上方2枚のアンテナ電極11、12に接続される給電線路10の長さより下方2枚のアンテナ電極13、14のそれの方が短いため、上方2枚のアンテナ電極11、12よりも下方2枚のアンテナ電極13、14の方が放射電力が大きい。図38に示すアンテナでは、放射電力のより小さい方のアンテナ電極11、12に接地点11A、12Aが配置され、これに対し、図39に示すアンテナでは、放射電力のより大きい方の下方のアンテナ電極13、14に接地点13A、14Aが配置される。アンテナ電極に接地点を配置して接地電極に接続することにより放射電力が小さくなるが、図38に示すように、放射電力のより小さい方のアンテナ11、12に接地点11A、12Aを配置することにより、接地点11A、12Aによる放射電力の低下を抑制できる。
また、図37〜図39の3種類のアンテナに関して、それらのアンテナ電極の間隔が等しい場合、それぞれのアンテナからの放射電力の大きさを比較すると、
図39(例えば0.28mW) < 図37(例えば0.48mW) < 図38(例えば0.68mW)
となる。一方、放射角度の変化の大きさを比較すると
図38(例えば39°) < 図37(例えば45°) < 図39(例えば57°)
となる。よって放射パワー重視の場合と角度変化重視の場合とで、上記3種の構造を使い分けることができる。
微細加工技術を用いて、アンテナ上に誘電体凹凸レンズや反射ミラーを構成することで、アンテナの特性を一層高めることができる。
図40に示す実施形態では、本発明の原理に従って統合電波の放射角度が変えられるようにしたアンテナ電極51、52、53、54のそれぞれの正面に、誘電体凸レンズ55、56、57、58が配置される。それぞれの誘電体凸レンズ55、56、57、58の屈折率が適切に設定されている。アンテナ電極51、52、53、54から放射される電波ビームが矢印のように集光され、分解能があがる。なお、誘電体凸レンズ55、56、57、58それ自体には、公知の構成のものが採用できる。
また、図41に示す実施形態では、本発明の原理に従って統合電波の放射角度が変えられるようにしたアンテナ電極51、52、53、54のそれぞれの正面に、誘電体凹レンズ55、56、57、58が設けられる。それぞれの誘電体凹レンズ55、56、57、58の屈折率が適切に設定されている。この場合は、矢印で示すように広角に電波が放射される。なお、誘電体凹レンズ55、56、57、58それ自体には、公知の構成のものが採用できる。
また、図42に示す実施形態では、本発明の原理に従って統合電波の放射角度が変えられるようにしたアンテナ電極51、52、53、54のそれぞれの正面に、微細なビーム方向切替スイッチ65、66、67、68が配置される。ビーム方向切替スイッチ65、66、67、68は、電波反射ミラー(又はレンズ)を使って電波ビームの方向を切り替えることができるものであり、それ自体には公知の構成のものが採用できる。例えば、各ビーム方向切替スイッチ65、66、67、68は、図示のように静電力発生部71と電波反射ミラー(又はレンズ)72とを有し、静電力発生部71が発生する静電力によってその姿勢(傾き)が例えば2段階に切り替わる。各ビーム方向切替スイッチ65、66、67、68の切替により、本発明の原理に従がう電波ビーム走査の中心を、基板に対して垂直方向からある一定の角度(例えば45度)傾けることができるため、ある狭いエリアだけのスキャニングだけでなく、より広いエリア(例えば180度全方位)のスキャニングが可能である。
上述のことから分かるように、複数のアンテナ電極の内の一部のアンテナ電極と設置電極とを接続するスルーホールを通るマイクロ波信号の伝達量(つまり、スルーホールのインピーダンス)を変化させることにより、そのアンテナ電極でのマイクロ波信号の位相量が変化し、それにより、複数のアンテナ電極から放射される統合的な電波ビームの指向方向の傾き角度が変化する。上記信号伝達量を多段階又は連続的に制御することにより、種々の角度へ電波ビームを放射することができる。スルーホールの信号伝達量を制御する方法として、上述したいくつかの実施形態で採用された方法の他に、例えば、
(1) スルーホールによる接続を開閉するためのスイッチとして半導体スイッチ、例えばFETを用い、そして、そのFETのゲート電圧を制御することにより、ソース‐ドレイン間の信号伝達量を調節すること、或いは、
(2) 同じアンテナ電極に、信号伝達量が飽和レベルより小さく制限されているスルーホールを複数接続し、それらのスルーホールの中から任意の個数と位置にあるスルーホールを選択してオンすること、
などが採用できる。
図45は、上述の(2)の方法が採用された本発明の第23の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナのアンテナ電極の平面図である。図46は、図45のマイクロストリップアンテナにおいて、スルーホールの直径と信号伝達量と電波ビームの傾き角度との関係の一例を示す図である。図45において、傾き角度は、基板表面に垂直な方向を0度としている。
図45に示すように、基板1の表面上に、形状的及び位置的に線対称な2つのアンテナ電極2、3があり、一方のアンテナ電極2は複数(例えば9個)の接地点2A、2A、…にて複数(例えば9個)のスルーホール(図示せず)に接続されている。図示の例では、9個の接地点2A、2A、…がアンテナ電極2の終端縁の付近に集中して、3×3のマトリックス状に配置されているが、これは一つの例示であり、接地点の個数や配置には様々な変形例が採用し得る。図示省略してあるが、基板1の裏面の接地電極と9個のスルーホールとの接続箇所には、それらのスルーホールをオン/オフするための9個のスイッチが設けられている。それらのスイッチを制御することで、1以上のスルーホールを任意に選択してオンすることができ、それにより、スルーホールを通る信号の伝達量が変化し、電波ビームの指向方向が変化する。
図46には、図45のような構成のマイクロストリップアンテナにおいて、スルーホールの直径が0.05mm、0.2mm及び0.3mmのそれぞれである場合に1個のスルーホール5だけをオンにしたときと、スルーホールの直径が0.05mmである場合に9個のスルーホールを全部オンにしたときにおける、オンにしたスルーホールを通る信号伝達量(アンテナ電極に供給された全信号エネルギーに対するスルーホールを通過した信号エネルギーの比率)と電波ビームの傾き角度の具体例が示されている。
図45から分るように、1個のスルーホールだけがオンされている状態であっても、スルーホールの直径が0.2mm以上になると、スルーホールの信号伝達量は飽和値に達する。一方、スルーホール5の直径が0.1mm以下である場合には、1個のスルーホール5の信号伝達量は飽和値の数分の1以下であり、よって、オンするスルーホールの個数を変えることで、信号伝達量を数段階以上に変化させ、電波ビームの傾き角度を数段階以上に変化させることができる。
図47は、図45のマイクロストリップアンテナでスルーホールの直径を0.05mmとした場合における、オンされるスルーホールの選択と電波ビームの傾き角度(基板表面に垂直な方向が0度)、指向性及びゲインとの関係の具体例を示す。図47において、黒丸はオンされたスルーホールの接地点を示し、白丸はオフされたスルーホールの接地点を示す。
図47から分るように、オンされるスルーホールの個数を変えることで、電波ビームの傾き角度が変化する。一般的な傾向として、オンされるスルーホールの個数が多くなるほど、傾き角度が大きくなる。オンされるスルーホールの個数が同じであっても、それらのスルーホールの位置によって、傾き角度が異なる。また、電波ビームの指向性やゲインも、オンされるスルーホールの選択に応じて変化する。オンされるスルーホールの選択が異なっても、ほぼ同じ傾き角度が得られる場合があり、その場合でも、スルーホールの選択によって指向性やゲインは異なる。所望の傾き角度が得られる何通りかのスルーホールの選択肢の中から、より望ましい指向性やゲインが得られるものを使用すればよい。
図48は、本発明の第24の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナのアンテナ電極の平面図である。
図48に示すように、基板1の表面上に、複数、例えば4つの電極グループ70、80、90、100が、2×2のマトリックス状に配置される。第1の電極グループ70は、複数、例えば4つのアンテナ電極71、72、73、74から構成され、これらのアンテナ電極71、72、73、74は2×2のマトリックス状に配置される。アンテナ電極71と73は形状的及び位置的に線対称であり、アンテナ電極72と74も形状的及び位置的に線対称である。アンテナ電極71と73の電極パターンと、アンテナ電極72と74の電極パターンは実質的に同一である。アンテナ電極71、72、73、74への給電線路10の長さは同一である。
第2の電極グループ80も、例えば4つのアンテナ電極81、82、83、84から構成され、第3の電極グループ90も、例えば4つのアンテナ電極91、92、93、94から構成され、第4の電極グループ100も、例えば4つのアンテナ電極101、102、103、104から構成され、それぞれの電極パターンは、第1の電極グループ70の電極パターンと同じである。基板1のほぼ中央にある大本の給電点200からの給電ライン10の分岐方向(矢印Aで示す方向)と、個々のアンテナ電極71〜74、81〜84、91〜94、101〜104の励振の方向(代表的に電極72で示すように、各アンテナ電極の給電点から終端縁への矢印Bで示す方向)とは、直交しており、一致してはいない。全てのアンテナ電極には、図48中で黒円印で示されるように、給電点と反対側の終端縁に接地点が設けられている。それらの接地点にはそれぞれ図示しないスルーホールが接続されており、それらのスルーホールには、それをオン/オフするスイッチがそれぞれ接続されている。それらのスイッチは独立して制御することができる。
このマイクロストリップアンテナは、複数の電極グループ70、80、90、100を選択的に用いて、統合的な電波ビームの指向方向を、平面視で縦と横の2方向に変化させることができる。図49〜図52は、電波ビームの指向方向を縦と横に変化させるための具体的な方法の具体例を示す。図49〜図52において、ハッチングが付されたアンテナ電極は、それに接続さられたスルーホールがオンされていることを意味し、ハッチングが付されていないアンテナ電極は、それに接続されたスルーホールがオフされていることを意味する。
図49と図50に示すように、図中横方向の端に位置するアンテナ電極を用いて電波ビームの指向方向を図中横方向に変化させることができる。すなわち、図49に示すように、左端に配置されたアンテナ電極71、72、91、92のスルーホールだけをオンすると統合的な電波ビームは矢印で示すように右側に傾く。逆に図50に示すように右端に配置されたアンテナ電極83、84、103、104のスルーホールだけをオンすると統合的な電波ビームは矢印で示すように左側に傾く。
また、図51と図52に示すように、図中縦方向の端に位置するアンテナ電極を用いて電波ビームの指向方向を図中縦方向に変化させることができる。すなわち、図51に示すように、上端に配置されたアンテナ電極72、74、82、84のスルーホールだけをオンすると統合的な電波ビームは矢印で示すように下側に傾く。逆に図52に示すように下端に配置されたアンテナ電極91、93、101、103のスルーホールだけをオンすると統合的な電波ビームは矢印で示すように上側に傾く。
図53〜図55は、図48に示すマイクロストリップアンテナで電波ビームの傾き角度の大きさを調節する方法の例を示す。図53〜図55において、ハッチングが付されたアンテナ電極は、それに接続されたスルーホールがオンされていることを意味し、ハッチングが付されていないアンテナ電極は、それに接続されたスルーホールがオフされていることを意味する。
図53〜図55に示す例では、電波ビームは図49に示した例と同様に右側に傾くが、しかし、スルーホールがオンされるアンテナ電極の数が異なるため、傾き角度の大きさが異なる。スルーホールがオンされるアンテナ電極の数は図53の例で最少の1枚、図54の例で2枚、図55の例で3枚であり、図49の例では最大の4枚であり、このように枚数が増えるに伴って、傾き角度も大きくなる。このように、スルーホールがオンされるアンテナ電極の数を変化させることで、傾き角度の大きさを変化させることができる。
図48に示すように、基板1上に複数のアンテナ電極が配置され、発振器(図示せず)から給電される大本の給電点200での給電ライン10の分岐方向(図48、矢印A)とアンテナ電極の励振方向(図48、矢印B)とが一致していない(又は、後述する図57の例のように2方向で一致している)構造、要するに、上記分岐方向と励振方向とが一方向でのみ一致するようにはなっていない構造のマイクロストリップアンテナにおいては、上述した図49〜図55に示された方法を応用することで、電波ビームの指向方向を上下左右に様々な大きさの角度で振ることで、2次元範囲を電波ビームでスキャンすることが可能である。
なお、図48〜図55に示したマイクロストリップアンテナでは、電極グループの個数が4つで、一つの電極グループに含まれるアンテナ電極の個数も4つであるが、これは一例にすぎず、電極グループの個数又は電極グループのアンテナ電極の個数は、上記とは別の個数であってもよい。また、電極の配置パターンも、図48〜図55に示したものとは別のパターンであってもよく、例えば、図56又は図57に示すような配置も可能である。いずれにしても、複数のアンテナ電極のそれぞれにスルーホールが接続されていて、それらスルーホールがそれぞれスイッチでオン/オフできるようになったマイクロストリップアンテナを採用することができる。このような構成のマイクロストリップアンテナでは、統合的な電波ビームの指向方向を異なる方向に傾けたり、その傾き角度の大きさを変化させたりすることができる。ところで、図56に示すアンテナ電極の配置では、発振器からの給電点205での給電の分岐方向(矢印A)とアンテナ電極の励振方向(矢印B)が一方向(矢印A、Bで示す横方向)でのみ一致している。このような場合、発明者らの実験によると、統合的な電波ビームの方向は図中横方向にしか傾かない。しかしながら、横方向へ傾く角度の大きさは、スルーホールがオンされるアンテナの枚数に依存して変わるので、細かく制御することが可能である。一方、図57に示すアンテナ電極の配置では、給電点210での給電の分割方向(矢印Aと矢印C)とアンテナ電極での励振方向(矢印Bと矢印D)が、2方向(矢印A、Bの横と、矢印C、Dの縦)で一致しており、よって、一方向でのみ一致するようにはなってない。このような場合、発明者らの実験によると、横と縦の2方向のいずれにも統合的な電波ビームを傾けることができる。
図48〜図55に示すアンテナ電極を用いた場合、それぞれのアンテナ電極グループ70、80、90、100内で内側に位置するアンテナ電極73、81、94、102は、電波ビームの指向方向を可変する目的では操作される必要は無いので、この点ではスルーホール及びスイッチを設ける必要は無いが、電波ビームの指向角度を絞る目的では、これを操作することが効果的である。例えば、図58に示すように電波方向を図中右側に傾ける場合、上述のように左端のアンテナ電極71、72、91、92のスルーホールがオンされるが、加えて、個々のグループ内で内側且つ左側にあるアンテナ電極81、82、101、102のスルーホールもオンすると、統合的な電波ビームの指向角度がより狭く絞られる(つまり、指向性が向上する)。このように指向角度を広角と狭角に変える(指向性を変える)には内側の前記4枚のアンテナ電極の中でそのスルーホールがオンされる電極の枚数を変えればよく、オンする枚数が多いほど指向角度が狭くなる。尚、下方向に傾けた電波ビームの指向角度を絞るには、図59に示すようにこのグループ内で内側且つ上側にあるアンテナ電極92、94、102、104のスルーホールをオンすればよい。その他の方向に関しても上述に準じて行えばよい。
図60は、上述した様々な実施形態の個々のアンテナ電極に採用することができる電極構造の変形例を示す。
図60Aに示すアンテナ電極110は、1枚の連続して導体膜からなるものであり、この構造は上述した様々な実施形態の各アンテナ電極に採用されている。図60Bに示すアンテナ電極111は、給電点Pから終端縁へ向かう方向へ伸びた複数のストライプ電極112、112、…に分割されている。また、図60Cに示すアンテナ電極113も、給電点Pから終端縁へ向かう方向へ伸びた複数のストライプ電極114、114、…に分割されているが、その分割は図60Bの電極11よりも細かい。
図60A、B、Cに示す異なる構造のアンテナ電極110、111、113を、それぞれ同じ位置に設けた接地点110A、111A、113Aにて、スルーホール(図示せず)に接続した場合、それぞれのスルーホールがオンのときとオフのときの電波ビームの指向性とゲインが図60A、B、Cの右側に示されている。これから分るように、図60Aのような連続的なアンテナ電極よりも、図60B、Cのようなストレイプ電極に分割されたアンテナ電極の方が、電波ビームの指向性とゲインが高い。このように、アンテナ電極を分割する(換言すれば、給電点Pから終端縁へ向かう方向へスリットを入れる)と、電波ビームの指向性とゲインが改善される。その理由は、アンテナは給電方向に平行な端面で電界が集中し、内部ではほとんど発生しない為、スリットを入れることで、内部の無駄な領域が制限され、中央のアンテナで発生した電界がとなりの無給電素子に影響を与え、その無給電素子の両端部に電解が発生し、更にそのとなりの無給電素子に影響を与える為、アンテナ電極と無給電素子に発生する電界強度の総和が増え放射強度が向上するからであると推測される。おそらく、上述した様々なマイクロストリップアンテナの実施形態において、全てのアンテナ電極、又は接地点をもつアンテナ電極を含む一部のアンテナ電極に、図60B、Cのような分割された構造を適用することにより、そのマイクロストリップアンテナから放射される電波ビームの指向性とゲインが改善されるが、反面、スルーホールの作用による電波ビームの傾き角度の大きさは小さくなるであろう。従って、この分割されたアンテナ電極を用いたマイクロストリップアンテナは、電波ビームを振らせる角度範囲はそれ程大きくなくてよいが、電波ビームを遠くまで到達させたいような用途、例えば、自動車の衝突防止用のレーダなど、において有用である。
図61は、上述した様々な実施形態に採用することができる基板表面の構造の変形例を示す。
図61に示すように、基板1の表面上には、基板1の比誘電率より大きい比誘電率をもった誘電体材料による誘電体膜116が形成されており、この誘電体膜116がアンテナ電極115、115、…を覆っている。誘電体膜116の比誘電率が高いほど、また、誘電体膜116の厚みが厚いほど、アンテナ電極115でのマクロ波信号の波長が短縮される。この波長短縮作用の結果として、アンテナ電極をより小型化して、より高密度に集積することが可能になる。ずなわち、図62Aに示すマイクロストリップアンテナでは、アンテナ電極117が空気に触れるようになっており、図示のようなサイズであるのに対して、図62Bに示すマイクロストリップアンテナでは、アンテナ電極115を上述した誘電体膜116が覆っているため、波長が短縮した分だけ、アンテナ電極115のサイズ及び間隔がより縮小され、よって、同じサイズと同じ電波放射効率のマイクロストリップアンテナであっても、アンテナ電極の集積度が向上する。その結果として、図62Aのマイクロストリップアンテナでは、電波ビームの傾き角度を調節できる角度分解能が図63Aに示すような値θ1であるのに対して、図62Bのマイクロストリップアンテナでは、集積度が上がった分だけ、角度分解能も図63Bに示すようにより細かい値θ2に向上する。
なお、誘電体膜116の比誘電率が高いほど、上述した波長短縮効果が高い。そのため、誘電体膜116の比誘電率が高いほど、同程度の波長短縮効果を得るために必要な誘電体膜116の厚さは薄くなる。よって、マイクロストリップアンテナの薄型化が要求される場合、比誘電率が大きい誘電体材料を使用することが好ましく、また、その方が誘電体の製膜時間の短縮化が図れ、製造コストの削減もできる。
図64は、上述した様々な実施形態に採用することができる基板表面の構造の別の変形例を示す。
図64に示すように、基板1の表面上のアンテナ電極118、118、…の端部に接するように、アンテナ電極118、118、…の間の隙間の領域に、基板1の比誘電率より大きい比誘電率をもった誘電体材料による誘電体層119、119、…が設けられている。よって、アンテナ電極118、118、…同士は、誘電体層119、119、…によって隔てられている。アンテナ電極118、118、…の端部の電界が誘電体層119、119、…に影響を与え、誘電体層119、119、…から電波を放射する為、放射強度は向上する。しかしながら、アンテナ電極118、118、…相互間の干渉は制限される為、実質的にアンテナ電極118、118、…間距離が伸びた状態になり、電波の傾斜角度は抑制される。従って、一般のアンテナ設計では、給電ラインの分岐点から見た一側のアンテナ電極が他側のアンテナ電極のインピーダンス変化の影響を受けないようにするために、分岐点にウイルキンソンカプラを挿入するのが通常であるが、本発明の上記実施形態では、アンテナ相互干渉を利用して、ビームを傾けている為、前記カプラは望ましくない。
図65は、図64の構造の変形例を示す。
図65の構造では、アンテナ電極118、118、…の端部に接するように、その端部の近傍に誘電体120、120、…が配置される。図64のものと同様、アンテナ電極118、118、…の端部の電界が誘電体120、120、…に効率よく励起して放射強度を向上させる。
図66は、また別の変形例を示す。
図66の構造では、基板1のアンテナ電極118、118、…間の部分にキャビティ構造121、121、…が設けられる。キャビティ構造121、121、…によりアンテナ電極118、118、…相互の干渉が強くなるため、スルーホールのスイッチがオフの時は放射強度は低下するが、スイッチがオンの時には最大強度を確保することができる。その結果として、基板1に対し垂直方向の電界強度と傾斜させた時の電界強度が略同等化または傾斜時のほうが大きくなるため、電波ビームを物体検知に用いる用途では、基板1に対し垂直方向の検知精度と傾いた時の検知精度が同等になり、あらゆる方向の物体を検知するのに好都合のアンテナ装置が提供できる。
図67〜図69は、別の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナを示す。
図67に示すマイクロストリップアンテナは、基板1上に二次元マトリックス配置された多数の電極が存在する。それらの電極のうち、中央の4つの電極11、12、13、14が、例えば図10に示した構造のように高周波の給電を受けるアンテナ電極であり、その周囲近傍に配置された多数の電極(ハッチングを付して示したもの)122、122、…は、給電を受けない無給電電極である。アンテナ電極11、12、13、14に黒丸で図示したようなスルーホールがあり、スルーホールは基板1裏面の接地電極(図示せず)に、高周波電力の通過量が制御可能なスイッチ、例えばFET、介して結合されている。無給電電極122、122、…は、アンテナ電極11、12、13、14から出る統合的な電波ビームの指向性を改善する(つまり、ビームを狭く鋭くする)作用効果を有する。上記FETのソース・ドレインの通過量を調節することで、統合的な電波ビームの指向方向を種々に変化させることができる。例えば、図68に一点鎖線で示すように、例えば8方向に統合的な電波ビームの指向方向を切り替えることができる。また、図69に点線、破線及び一点鎖線で示すように、電波ビームの指向方向の傾き角度の大きさを変化させることができる。このように電波ビームの指向方向を多彩に変化させるために、必要なスイッチ(例えばFET)の個数は4個のような少数であり、低コストである。
図70は、更にまた別の実施形態にかかるマイクロストリップアンテナの平面構成を示す。図71は、図70のE−E線に沿った断面図を示す。
図70と図71に示すマイクロストリップアンテナは、アンテナ電極11、12、13、14へ高周波を供給するための給電線130が、基板1のアンテナ電極11、12、13、14とは反対側の背面に設けられている。図71に示されるように、アンテナ電極11、12の給電点11B、12Bは、それぞれスルーホール132、134を介して給電線130に接続され、アンテナ電極13、14の給電点13B、14Bも同様に、それぞれスルーホール(図示されてない)を介して給電線130に接続されている。また、基板1の背面に、給電線130の給電点130Aに高周波を印加する発振回路136が設けられる。さらに、基板1の背面に、アンテナ電極11、12、13、14の接地点11A、12A、13A、14Aに接続されたスルーホール144、146、…を接地電極138に接続するためのスイッチ140、144、…が設けられる。アンテナ電極11、12、13、14の各々の励振方向(図70の上下方向)の長さLは、使用される高周波の基板1上での波長λgの約2分の1である。
図4を参照して既に説明したように、図2に示されたマイクロストリップアンテナの場合、アンテナ電極2の励振方向でのλg/4(つまりL/2)の位置に接地点2Aを配置しても、電波ビームを傾けることができない。しかし、このことが必ずしも、全ての構造のマイクロストリップアンテナにおいて真であるわけではない。例えば、図70と図71に示したマイクロストリップアンテナの場合には、図70に示すようにアンテナ電極11、12、13、14の励振方向でのλg/4(つまりL/2)の位置に接地点11A、12A、13A、14Aを配置しても、接地点11A、12A、13A、14Aを選択的に接地することで、電波ビームを傾けることが可能である。この理由は、給電線130が基板1のアンテナ電極11、12、13、14とは反対側の面に設けられていると構造にあるのかもしれないが、明確には分かっていない。とにかく、このように、マイクロストリップアンテナの構造により、電波ビームを傾けるための接地点の配置は異なってくる。
図72Aと図72Bは、上述した種々の構造のマイクロストリップアンテナにおいてスルーホールをオンオフするために採用可能なスイッチの構造例を示す。
図72Aと図72Bに示されたスイッチ216は、アンテナ電極212に接続されたスルーホール222と、接地電極214との間を開閉するための、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術によるスイッチ(以下、MEMSスイッチという)である。図72Aは、MEMSスイッチ216のOFF状態を示しており、図72Bは、ON状態を示している。注目すべき点は、図72Aに示されるOFF状態では勿論であるが、図72Bに示されるON状態においてさえ、MEMSスイッチ216内の固定電気接点220と可動電気接点218の間が機械的に開いており接触していない点である。すなわち、図72Bに示されるON状態では、2つの電気接点218と220間には小さいギャップがあり、図72Aに示されるOFF状態では、そのギャップが更に大きくなる。このような構造のMEMSスイッチ216の採用により、1G〜数百GHzという高周波帯において良好なON状態とOFF状態を作り出すことができる。
この原理を図73〜図74を参照して説明する。
図73Aと図73Bはそれぞれ、従来型のMEMSスイッチの電気接点230、232の名目上のOFF状態とON状態を示す。また、図74Aと図74Bはそれぞれ、図72A、Bに示したMEMSスイッチ216の電気接点218、220の名目上のOFF状態とON状態を示す。
図73Aと図73Bに示すように、従来型のMEMSスイッチでは、電気接点230、232は、名目上のOFF状態では離れて両者間に僅かなギャップG1が開き、名目上のON状態で機械的に接触する。しかし、図73Aに示す僅かなギャップG1は、低周波帯では実質的にOFF状態であるが、高周波帯では実質的にON状態である。これに対し、図74Aと図74Bに示されたMEMSスイッチ216では、電気接点218、220は、名目上のOFF状態では、十分に大きなギャップG2をもって離れており、名目上のON状態では、僅かなギャップG3を間にもって離れている。図74Aに示すように電気接点218、220間にある十分に大きなギャップG2が、高周波帯においても実質的なOFF状態を形成する。また、図74Bに示すように電気接点218、220間に僅かなギャップG3があっても、これは高周波帯においては実質的なON状態である。
電波ビームの傾きを制御するという目的のためには、スイッチがどれだけ真のON状態に近い状態を作り出せるかよりも、むしろ、スイッチがどれだけ真のOFF状態に近い状態を作り出せるかということの方が重要である。その理由は、スルーホールを通る高周波の伝達量の変化に対する電波ビームの傾き角度の変化の感度は、スルーホールを通る高周波の伝達量が小さいほど大きいからである。従って、高周波に対して実質的なOFF状態を作り出せる上述のスイッチ216は、電波ビームの傾きを制御する用途に適している。
図75Aと図75Bは、電波ビームの傾きを制御する用途に適したスイッチの電気接点の変形例を示す。図75AはOFF状態を示し、図75BはON状態を示す。
図75Aと図75Bに示すように、電気接点218、220間に、シリコン酸化膜のような誘電材料又は絶縁材量の薄膜214が設けられる。図75Aに示すように、この絶縁薄膜214により、電気接点218、220間に小さいギャップG4があるだけでも、高周波に対して実質的なOFF状態が作り出される。図75Bに示す状態では、電気接点218、220間のギャップG4がなくなることで、絶縁薄膜214があっても、高周波に対して実質的なON状態が作り出される。
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は本発明の説明のための例示にすぎず、本発明の範囲をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱することなく、その他の様々な態様でも実施することができる。