JP3939893B2 - 圧延機のパススケジュール設定方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術の分野】
本発明は,圧延機のパススケジュール設定方法及び装置に係り,詳しくは,複数パス圧延される被圧延材について目標寸法及び目標形状が得られるように設定した基準パススケジュールを用いる圧延機のパススケジュール設定方法及び装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば特開平7−178424号公報や特開平9−57316号公報などには,厚板に対して可逆式圧延機などにより複数パスの圧延を行う場合に,各パスの圧下量などを規定するパススケジュールを圧延開始前に予め設定するための技術が記載されている。
前記両公報に記載されているのは,最終パスの圧延機出側において目標板クラウンと目標板厚と(目標形状と目標寸法と)が得られるように,あるパスの出側板クラウンと出側板厚とに基づいてその一つ前のパスの出側板クラウン(前記あるパスの入側板クラウン)と出側板厚(前記あるパスの入側板厚)とを定める処理を,目標板クラウンと目標板厚とを初期値として最終パスから始めて繰り返し,その繰り返しの途中で荷重制約やトルク制約を満足しなくなると,各制約を満足するように前記入側板クラウンと前記入側板厚とを再調整するものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
前記公報に記載の技術により設定したパススケジュールに従えば,所望の寸法及び形状を有した被圧延材が得られるものの,材質は規定されない。被圧延材の材質が均質であると,被圧延材の需要家が機械加工を施しやすくなるため,被圧延材の材質は,寸法及び形状と並んで重要な品質項目である。各パスの温度や圧延時間を操業条件として与えることにより,材質の管理を行うことは可能であるが,材質のばらつきを十分に抑えることは困難である。
この点に関し,特開平5−69020号公報や特開平5−237507号公報などには,各パス毎に予定板温度を定めて,材質を制御することを図った圧延機のパススケジュール設定方法が記載されている。
しかしながら,各パス毎に温度を定めて温度管理を厳格に行っても,モデル誤差や操業ばらつきから温度にはずれが生じやすい。この温度のずれは,最終的に材質のばらつきとして現れるため,必ずしも被圧延材の材質を保証することはできなかった。
前記パススケジュールの設定と公知の材質予測モデルとを組み合わせて,目標材質を得ようとすることも不可能ではないが,そのためには各変数の変化範囲に応じた繰り返し計算が必要となり,また各変数は相互に関連しているため,目標寸法,形状,及び材質の全てを満足する解を求めるには,膨大な時間が必要になってしまう。従って,特にオンライン時のように計算時間が限られている場合には,目標寸法,形状,及び材質に対して必要とする精度を確保することは難しく,有効性に欠ける。
また,仮に目標寸法,形状,及び材質の全てを満足する解の幾つかが制限時間内に見つかることがあっても,生産時間が長くなるようなパススケジュールであれば,実際の操業に適さない。
本発明は,このような従来の技術における課題を解決するために,圧延機のパススケジュール設定方法及び装置を改良し,複数パス圧延される被圧延材について目標寸法及び目標形状が得られるように設定した基準パススケジュールに対し,前記基準パススケジュールから予測した前記被圧延材の予測材質と目標材質とを一致させるようなパス間時間の修正量の線形結合について,前記パス間時間の修正量の総和を抑えるような,前記パス間時間の修正量の適値を定めて修正を施すことにより,目標寸法,形状,及び材質を精度良く満足しながら短い計算時間でしかも生産時間を抑えるようなパススケジュールを得ることが可能な圧延機のパススケジュール設定方法及び装置を提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために,請求項1に係る発明は,複数パス圧延される被圧延材について目標寸法及び目標形状が得られるように設定した基準パススケジュールを用いる圧延機のパススケジュール設定方法であって,前記基準パススケジュールから予測した前記被圧延材の予測材質と目標材質とを一致させるようなパス間時間の修正量の線形結合に対して,前記パス間時間の修正量の総和を抑えるような,前記パス間時間の修正量の適値を定め,前記パス間時間の修正量の適値に基づいて前記基準パススケジュールを修正してなる圧延機のパススケジュール設定方法として構成されている。
また,請求項2に係る発明は,前記請求項1に記載の圧延機のパススケジュール設定方法において,圧延開始前に,前記パス間時間の修正量の適値を,次式(A1)について, ラグランジェの未定乗数法を用いることにより定めてなることをその要旨とする。
φ=Σwn Δtn 2 +λ(ΔX−Σ(∂X/∂tn )Δtn ) (A1)
ただし,φは評価関数(ラグランジェ関数),Σは1パス目から最終パスまでの和,tn はnパス目のパス間時間,Δtn は基準パススケジュールに対するnパス目のパス間時間の修正量,wn は重み係数,λはラグランジェ乗数,Xは被圧延材の材質,ΔXは基準パススケジュールから予測した被圧延材の予測材質と目標材質との偏差を表す。
また,請求項3に係る発明は,前記請求項1に記載の圧延機のパススケジュール設定方法において,圧延開始後の任意パスm以降のパスに対する前記パス間時間の修正量の適値を,前記任意パスmまでに実測された実績パス間時間を用いた次式(A2)について, ラグランジェの未定乗数法を用いることにより定めてなることをその要旨とする。
ただし,φは評価関数(ラグランジェ関数),Σ1mは1パス目から前記任意パスmまでの和,ΣmLは(m+1)パス目から最終パスまでの和,tn はnパス目のパス間時間,Δtn は1パス目からmパス目までの各パスについての実績パス間時間と基準パススケジュールのパス間時間との誤差又は(m+1)パス目から最終パスまでの各パスについての基準パススケジュールに対するパス間時間の修正量,wn は重み係数,λはラグランジェ乗数,Xは被圧延材の材質,ΔXは基準パススケジュールから予測した被圧延材の予測材質と目標材質との偏差である。
また,前記請求項4に係る発明は,複数パス圧延される被圧延材について目標寸法及び目標形状が得られるような基準パススケジュールを設定する基準パススケジュール設定手段を具備した圧延機のパススケジュール設定装置であって,前記基準パススケジュール設定手段により設定された前記基準パススケジュールから前記被圧延材の材質を予測する材質予測手段と,前記材質予測手段により予測された前記被圧延材の予測材質と目標材質とを一致させるようなパス間時間の修正量の線形結合に対して,前記パス間時間の修正量の総和を抑えるような,前記パス間時間の修正量の適値を定める修正適値決定手段と,前記修正適値決定手段により定められた前記パス間時間の修正量の適値に基づいて前記基準パススケジュールを修正するパススケジュール修正手段とを具備してなるパススケジュール設定装置である。
【0005】
前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明では,まず目標寸法及び目標形状が得られるような基準パススケジュールが設定される。この基準パススケジュールは,目標寸法及び目標形状を満足し得るものの,材質を保証するものではない。そこで,基準パススケジュールのパス間時間に対して修正を施し,目標とする材質を満足し得るようにする。前記基準パススケジュールが得られたら,前記基準パススケジュールから前記被圧延材の材質が予測される。次に,予測した前記被圧延材の予測材質と目標材質とを一致させるようなパス間時間の修正量の線形結合に対して,前記パス間時間の修正量の総和を抑えるような,前記パス間時間の修正量の適値が定められる。そして,前記パス間時間の修正量の適値に基づいて前記基準パススケジュールが修正される。
前記パス間時間の修正量の線形結合を用いて,前記パス間時間の修正量の適値を定めるには,各パス間時間の修正量にかかる係数(影響係数)が必要となるが,この影響係数は基準パススケジュールから簡単に求めることが可能であり,また前記パス間時間の修正量の適値を定める際の繰り返し計算もほとんど必要ないから,前記パス間時間の修正量の適値を短い時間で定めることができる。また,定めた前記パス間時間の修正量の適値は,材質を基準とした精度の良いものであり,前記パス間時間の修正量の総和を抑えるようなものでもある。
このような前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明によれば,目標寸法,形状,及び材質を精度良く満足しながら短い計算時間でしかも生産時間を抑えるようなパススケジュールを得ることが可能な圧延機のパススケジュール設定方法を提供することができる。
前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧延機のパススケジュール設定方法のうち,前記請求項2に記載のものは,ラグランジェの未定乗数法を用いて,圧延開始前に前記パス間時間の修正量の適値を定め,前記基準パススケジュールを修正しておくものである。圧延開始直前のわずかな時間に前記パス間時間の修正量の適値を定めるのに好適である。また,前記請求項3に記載のものは,ラグランジェの未定乗数法を用いて,圧延を開始してから任意パスm以降のパスに対する前記パス間時間の修正量の適値を定め,圧延途中で当該パスm以降のパスに対して設定された基準パススケジュールを修正するものである。圧延途中のわずかな時間に前記パス間時間の修正量の適値を定めるのに好適である。
また,前記請求項4に記載の発明によれば,目標寸法,形状,及び材質を精度良く満足しながら短い計算時間でしかも生産時間を抑えるようなパススケジュールを得ることが可能な圧延機のパススケジュール設定装置を提供することができる。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下,添付図面を参照して,本発明の実施の形態につき説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態は,本発明の具体的な例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
本発明の実施の形態に係る圧延機のパススケジュール設定方法は,例えば複数パス圧延される厚板(被圧延材に相当)について目標板厚(目標寸法に相当)及び目標板クラウン(目標形状に相当)が得られるように設定した基準パススケジュールを用いる可逆式圧延機のパススケジュール設定方法として具体化されるものであって,その特徴とするところは,図1に示す如く,前記基準パススケジュールを設定した(S1)後,前記基準パススケジュールから厚板の材質を予測し(S2),予測した前記厚板の予測材質と目標材質とを一致させるようなパス間時間の修正量の線形結合に対して,前記パス間時間の修正量の総和を抑えるような,前記パス間時間の修正量の適値を,圧延開始前に,次式(A1)について, ラグランジェの未定乗数法を用いることにより定め(S3),前記パス間時間の修正量の適値に基づいて,前記基準パススケジュールを修正する(S4)点である。
φ=Σwn Δtn 2 +λ(ΔX−Σ(∂X/∂tn )Δtn ) (A1)
ただし,φは評価関数(ラグランジェ関数),Σは1パス目から最終パスまでの和,tn はnパス目のパス間時間,Δtn は基準パススケジュールに対するnパス目のパス間時間の修正量,wn は重み係数,λはラグランジェ乗数,Xは被圧延材の材質,ΔXは基準パススケジュールから予測した厚板の予測材質と目標材質との偏差を表す。
また,本実施の形態に係る圧延機のパススケジュール設定装置は,例えば前記圧延機のパススケジュール設定方法の手順に対応したプログラムを実行したコンピュータとして具体化されるものであって,図2に示す如く,複数パス圧延される厚板について目標板厚及び目標板クラウンが得られるような基準パススケジュールを設定する基準パススケジュール設定部1と,前記基準パススケジュール設定部1により設定された前記基準パススケジュールから厚板の材質を予測する材質予測部2と,前記材質予測部2により予測された厚板の予測材質と目標材質とを一致させるようなパス間時間の修正量の線形結合に対して,前記パス間時間の修正量の総和を抑えるような,前記パス間時間の修正量の適値を定める修正適値決定部3と,前記修正適値決定部3により定められた前記パス間時間の修正量の適値に基づいて前記基準パススケジュールを修正するパススケジュール修正部4とを具備する。
【0007】
以下,本実施の形態に係る圧延機のパススケジュール設定方法及び装置の詳細について説明する。
複数パス圧延される厚板に対して,目標板厚及び目標板クラウンを満足するように,各パス毎の圧下率などを含むパススケジュールを定めるには,例えばクラウンモデル,荷重予測モデル,温度予測モデル,トルク予測モデルなどが必要となる。これらの各モデルは,例えば特開平11−169929号公報(クラウンモデル),特開平5−50128号公報(温度予測モデル),特開平8−243619号公報(荷重予測モデル)などに記載された公知のものを用いることができる。
これらのモデルを用いて,パススケジュールを計算する際の手順は,例えば特開平7−178424号公報や特開平9−57316号公報,特開平11−169929号公報などに記載されたものに準じる。
即ち,最終パスの圧延機出側において目標板クラウンと目標板厚とが得られるように,あるパスの出側板クラウンと出側板厚に基づいてその一つ前のパスの出側板クラウン(前記あるパスの入側板クラウン)と出側板厚(前記あるパスの入側板厚)とをクラウンモデルにより逆計算する処理を,目標板クラウンと目標板厚とを初期値として最終パスから始めて開始パス方向に繰り返し,その繰り返しの途中で荷重予測モデルから予測した荷重制約やトルク予測モデルから予測したトルク制約を満足しなくなると,各制約を満足するように前記入側板クラウンと前記入側板厚とを再調整し,厚板が圧延機に移送されてくるときの移送厚を前記入側板厚が満足すれば,各パスについて出側板厚が定められることになる。各パスの温度は,各パスの出側板厚とパス間時間から温度予測モデルに基づいて求められる。
前記基準パススケジュールはこのようにして定められる(S1)。
尚,前記クラウンモデル,荷重予測モデル,温度予測モデル,トルク予測モデルの計算式とその係数などを保持し,前記目標板クラウンと目標板厚とから上述の手順で前記基準パススケジュールの計算を行うコンピュータの演算装置が,本発明における基準パススケジュール設定部1の具体例である。
上述の通りに定められた基準パススケジュールには,各パス毎の圧下ひずみや,パス間時間,温度が含まれる。これらは,例えば引っ張り強度や降伏強度など前記厚板の材質に関係する。
【0008】
前記厚板の材質(の評価指標)Xを予測する材質予測モデルについては,冶金的知識や実績データに基づく回帰式を用いたもの(例えば特開平5−107243号公報に記載のもの)など,多くの提案がなされているが,各パス毎の圧下ひずみεn や,パス間時間tn ,温度Tn (n=1,2,…,L;Lは最終パス)を用いれば,前記材質Xは一般的に次式のように表すことができる。
即ち,各パスの圧下ひずみεn ,パス間時間tn ,温度Tn を定めれば,それに対応した前記厚板の材質を予測することができる。
従って,前記パススケジュール計算によって定まった圧下ひずみ,パス間時間,温度(基準パススケジュール)をεIn,tIn,TInとすれば,これらから予測される予測材質XI は,次式(2)の通りとなる。
ただし,前記パススケジュールに従って各パス毎に温度を管理したとしても,前記厚板の材質が目標としている目標材質になるとは限らず,前記予測した予測材質XI と前記目標材質との間には差が生じる。
前記基準パススケジュールが定められた後,上式(2)に基づいて厚板の材質が予測される(S2)。
尚,前記材質予測モデルの計算式,係数などを保持し,前記基準パススケジュール設定部1から供給された各パスの圧下ひずみ,パス間時間,温度から厚板の材質の計算をプログラムに従って行うコンピュータの演算装置が,本発明における材質予測部2に相当する。
前記予測した予測材質XI と前記目標材質との偏差は,前記パススケジュール計算によって定めた前記パス間時間tInを修正することによって減少させ得る。
今,前記予測材質XI と前記目標材質との偏差をΔX,前記パス間時間tInの修正量をΔtn と表すと,目標材質XI +ΔXは,次式(3)の通りとなる。
そして,上式(3)を前記予測材質XI の周りでテイラー展開して,2次以上の偏微分項を無視する(線形化する)と,次式(4)が得られる。
ただし,Σは1パス目から最終パスまでの和を表す。
【0009】
このとき,前記予測材質XI と前記目標材質との偏差ΔXは,前記パス間時間の修正量Δtn を用いて,次式(5)の通りに表すことができる。
ΔX=Σ(∂X/∂tn )Δtn (5)
即ち,上式(5)を満たすような前記パス間時間の修正量Δtn を定めれば,前記予測材質XI と前記目標材質との偏差ΔXを抑制することができる。上式(5)における(∂X/∂tn )は,上式(1)から定め得る係数(以下,影響係数という)であり,次式(6)のように表すことができる。
(∂X/∂tn )=(X′−XI )/Δ (6)
ここで,X′は前記パススケジュール計算によって定めたnパス目のパス間時間tInのみに対してΔだけ修正を行った場合について上式(1)に従って計算した材質である。
前記影響係数は,nパス目のパス間時間tn の修正が材質Xに与える影響を定めることを意味し,上式(6)の通り,前記予測材質XI が求められていれば,各パスについて簡単に算出することができる(S21)。
ところで,前記パス間時間の修正量Δtn をいたずらに設定すると,生産時間が増加してしまい,操業上好ましくない。
このため,上式(5)を満たすような前記パス間時間の修正量Δtn のうち,前記生産時間が長くなるのを防止するような前記パス間時間の修正量Δtn の適値が,ラグランジェの未定乗数法(等式制約付き最適化手法)を用いた次式(7)(請求項2における式(A1)と同一)の評価関数(ラグランジェ関数)φから求められる(S3)。
φ=Σwn Δtn 2 +λ(ΔX−Σ(∂X/∂tn )Δtn ) (7)
ただし,wn は重み係数を,λはラグランジェ乗数をそれぞれ表す。
この重み係数wn を全パスのうちの前段ほど小さく,後段ほど大きく設定すれば,前段で温調がかかるように設定ができるが,全て1としてもよい。
上式(7)の右辺第1項の関数は,最適化の対象となる関数であって,重み付きのパス間時間tn の総和が極小となる,即ち生産時間が長くなるのを防止することを意味し,右辺第2項の関数は,上式(5)を用いた等式制約であり,上述の通り前記パス間時間tn の修正により前記予測材質XI と前記目標材質との偏差ΔXとを一致させることを意味する。
上式(7)について,前記パス間時間の修正量Δtn が適値のとき,次式(8)を満たす。
(∂φ/∂Δtn )=0 ,(∂φ/∂λ)=0 (8)
ただし,n=1,2,…,Lである。
上式(8)の必要条件を上式(7)に適用すると,nパス目の前記パス間時間の修正量Δtn の適値Δtonが,次式(9)により求められる。
上式(9)による前記パス間時間の修正量の適値Δtonは,モデルの線形性がある程度保証される場合には1回の計算で求まる。非線形性の影響がある場合には,数回の繰り返し計算を行う必要がある。また,パス回数は,ロールの磨耗状態やサーマルプロフィールによって変化するが,この影響でも多少の繰り返しが必要となることがある。
【0010】
上式(9)のΔtonを用いて,修正適値ベクトルΔto を,
Δto =(Δto1,Δto2,…,Δton,…,ΔtoL)T
とする。
このとき,(N+1)回の繰り返し計算の後のパス間時間のベクトルtN+1 は,次式(10)の通りに表される。
tN+1 =tN +Δto (10)
即ち,修正適値ベクトルΔto を適用して前記基準パススケジュールを修正しても,修正後のパススケジュールから厚板の材質を予測し(S41),修正後の予測材質と前記目標材質とが一致しなければ(S42),修正を施したtN を前記基準パススケジュールとして(S43),修正後の予測材質と前記目標材質とが一致するまで,上述の処理(前記パス間時間の修正量の適値Δtonの算出)を繰り返すのである。
繰り返すといっても,前記パススケジュールと材質予測モデルとを単純に組み合わせた場合と較べれば,その繰り返し回数はずっと少ない。また,前記影響係数の計算は簡単であり,最終的なパススケジュールを計算するのに要する時間は極めて短くなる。また,前記パススケジュールによって得られる目標板厚,目標形状についてだけでなく,目標材質についての保証も得られる。
尚,前記基準パススケジュール設定部1から供給される各パスの圧下ひずみ,パス間時間,温度,前記材質予測部2から供給される前記予測材質に基づき,前記影響係数を演算し,上式(9)から前記パス間時間の修正量の適値をプログラムに従って演算するコンピュータの演算装置が,本発明における修正適値決定部3に相当する。また,前記パス間時間の修正量の適値に基づいて,例えば上記手順(S4,S41,S42,S43)のように,前記基準パススケジュールを修正する演算を行うコンピュータの演算装置が,本発明におけるパススケジュール修正部4に相当する。
具体的な計算結果を図3に示す。図3における横軸はパス(回数)を示し,縦軸はTOM(圧延荷重なしの時間)を示す。
YRの目標値が90%で与えられている場合に,前記パススケジュール計算では,TS=603N/mm2 ,YR=94.2%となっていた。
これに対して上述のようなパス間時間の修正を行った。最適化計算は1回で収束した。修正後には,6〜8パスでの空冷時間が長くなり,材質を造り込むための温度調整が行われている。その結果,TS=611.5N/mm2 ,YR=89.9%という目標通りの材質が得られた。尚,目標板厚,目標形状は,前記パススケジュール計算によって得られている。
このように,本発明の実施の形態に係る圧延機のパススケジュール設定方法及び装置では,複数パス圧延される被圧延材について目標寸法及び目標形状が得られるように設定した基準パススケジュールに対し,前記基準パススケジュールから予測した前記被圧延材の予測材質と目標材質とを一致させるようなパス間時間の修正量の線形結合について,前記パス間時間の修正量の総和を抑えるような,前記パス間時間の修正量の適値が定められ,前記パス間時間の修正量の適値に基づいて基準パススケジュールが修正されるため,目標寸法,形状,及び材質を精度良く満足しながら短い計算時間でしかも生産時間を抑えるようなパススケジュールを得ることができる。
【0011】
【実施例】
前記実施の形態では,圧延開始直前でパス間時間の修正を行い,厚板の材質を目標材質に制御するようにしたが,圧延開始後の任意パスmから次のパス(m+1)までの間に,前記任意パスm以降のパスに対する前記パス間時間を修正して,厚板の材質を目標材質に制御するようにすることも可能である。
圧延開始後の任意パスm以降のパスに対する前記パス間時間の修正量の最適値を,上式(7)に代え,前記任意パスmまでに実測された実績パス間時間を用いた次式(11)(請求項3における式(A2)と同一)について, ラグランジェの未定乗数法を用いることにより定めればよい。
ただし,Σ1mは1パス目から前記任意パスmまでの和,ΣmLは(m+1)パス目から最終パスまでの和,tn はnパス目のパス間時間(1パス目からmパス目までの各パスについての実績パス間時間を含む),Δtn は1パス目からmパス目までの各パスについての実績パス間時間と基準パススケジュールのパス間時間との誤差又は(m+1)パス目から最終パスまでの各パスについての基準パススケジュールに対するパス間時間の修正量である。
【0012】
【発明の効果】
以上説明した通り,前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明によれば,目標寸法,形状,及び材質を精度良く満足しながら短い計算時間でしかも生産時間を抑えるようなパススケジュールを得ることが可能な圧延機のパススケジュール設定方法を提供することができる。
前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧延機のパススケジュール設定方法のうち,前記請求項2に記載のものは,圧延開始直前のわずかな時間に前記パス間時間の修正量の適値を定めるのに好適である。また,前記請求項3に記載のものは,圧延途中のわずかな時間に前記パス間時間の修正量の適値を定めるのに好適である。
また,前記請求項4に記載の発明によれば,目標寸法,形状,及び材質を精度良く満足しながら短い計算時間でしかも生産時間を抑えるようなパススケジュールを得ることが可能な圧延機のパススケジュール設定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態に係るパススケジュール設定方法を説明するためのフローチャート。
【図2】 本発明の実施の形態に係るパススケジュール設定装置の概略構成を示す図。
【図3】 本発明によってパス間時間の計算を行った具体例と従来通りの計算例とを比較して示す図。
【符号の説明】
1…基準パススケジュール設定部
2…材質予測部
3…修正適値決定部
4…パススケジュール修正部
S1…基準パススケジュールの計算を行う手順
S2…基準パススケジュールから厚板の材質を予測する手順
S3…パス間時間の修正量の適値を計算する手順
S4…基準パススケジュールを修正する手順
Claims (4)
- 複数パス圧延される被圧延材について目標寸法及び目標形状が得られるように設定した基準パススケジュールを用いる圧延機のパススケジュール設定方法であって,
前記基準パススケジュールから予測した前記被圧延材の予測材質と目標材質とを一致させるようなパス間時間の修正量の線形結合に対して,前記パス間時間の修正量の総和を抑えるような,前記パス間時間の修正量の適値を定め,
前記パス間時間の修正量の適値に基づいて前記基準パススケジュールを修正してなる圧延機のパススケジュール設定方法。 - 圧延開始前に,前記パス間時間の修正量の適値を,次式(A1)について, ラグランジェの未定乗数法を用いることにより定めてなる請求項1に記載の圧延機のパススケジュール設定方法。
φ=Σwn Δtn 2 +λ(ΔX−Σ(∂X/∂tn )Δtn ) (A1)
ただし,φは評価関数(ラグランジェ関数),Σは1パス目から最終パスまでの和,tn はnパス目のパス間時間,Δtn は基準パススケジュールに対するnパス目のパス間時間の修正量,wn は重み係数,λはラグランジェ乗数,Xは被圧延材の材質,ΔXは基準パススケジュールから予測した被圧延材の予測材質と目標材質との偏差を表す。 - 圧延開始後の任意パスm以降のパスに対する前記パス間時間の修正量の適値を,前記任意パスmまでに実測された実績パス間時間を用いた次式(A2)について, ラグランジェの未定乗数法を用いることにより定めてなる請求項1に記載の圧延機のパススケジュール設定方法。
ただし,φは評価関数(ラグランジェ関数),Σ1mは1パス目から前記任意パスmまでの和,ΣmLは(m+1)パス目から最終パスまでの和,tn はnパス目のパス間時間,Δtn は1パス目からmパス目までの各パスについての実績パス間時間と基準パススケジュールのパス間時間との誤差又は(m+1)パス目から最終パスまでの各パスについての基準パススケジュールに対するパス間時間の修正量,wn は重み係数,λはラグランジェ乗数,Xは被圧延材の材質,ΔXは基準パススケジュールから予測した被圧延材の予測材質と目標材質との偏差である。 - 複数パス圧延される被圧延材について目標寸法及び目標形状が得られるような基準パススケジュールを設定する基準パススケジュール設定手段を具備した圧延機のパススケジュール設定装置であって,
前記基準パススケジュール設定手段により設定された前記基準パススケジュールから前記被圧延材の材質を予測する材質予測手段と,
前記材質予測手段により予測された前記被圧延材の予測材質と目標材質とを一致させるようなパス間時間の修正量の線形結合に対して,前記パス間時間の修正量の総和を抑えるような,前記パス間時間の修正量の適値を定める修正適値決定手段と,
前記修正適値決定手段により定められた前記パス間時間の修正量の適値に基づいて前記基準パススケジュールを修正するパススケジュール修正手段とを具備してなるパススケジュール設定装置。
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