JP3939834B2 - 孔版印刷装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、印刷時と印刷後において用紙の搬送速度が異なる孔版印刷装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
特開平9−24604号には、版胴と、これに対して接離可能に設けたプレスローラとが対向する印刷部で印刷を終えた用紙を、帯電手段で帯電させた静電吸着ベルトの静電吸着作用によって版胴から剥離分離して排紙部に向かって搬送する孔版印刷装置が提案されている。この孔版印刷装置では、静電吸着ベルトを一定の搬送速度で回転駆動して、静電吸着した用紙を排紙部に設けた排紙トレイ上に順次排紙している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
このような孔版印刷装置では、印刷を終えた用紙が排紙されてその先端から排紙トレイに順次積載されるため、用紙の先端が、排紙トレイに積載された用紙の上で滑らず排紙性に問題を残している。特に腰の弱い用紙の場合には、この問題が顕著である。
本発明は、静電吸着ベルトで吸着搬送される印刷後の用紙のスムーズな排紙性を得られる孔版印刷装置を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで請求項1記載の発明は、版胴と、これに対して接離可能に設けた押圧手段とが対向する印刷部を通過して設けられた静電吸着ベルトで用紙を静電吸着し、上記印刷部よりも用紙搬送方向の下流側に配置された排紙部に向かって搬送する孔版印刷装置において、印刷後の用紙を印刷時の搬送速度よりも増速して上記排紙部に排出する加速搬送手段を有するので、印刷後の用紙が加速搬送手段で加速されて排紙部に向かって勢い良く排出される。
【0005】
加速搬送手段が、静電吸着ベルトと排紙部との間に配置された搬送ベルトと、この搬送ベルトを静電吸着ベルトの搬送速度よりも速い速度で移動させる駆動部と、搬送ベルトの搬送面に吸引力を発生させる吸引手段とを有するので、印刷後の用紙が静電吸着ベルトから搬送ベルトに搬送されると、この搬送ベルト上に作用する吸着力によって同搬送ベルト上に吸着されつつ加速されて排紙部に向かって勢い良く排出される。
【0006】
加速搬送手段が、静電吸着ベルトを回転駆動する駆動部と、この駆動部を用紙の印刷後に加速制御する制御手段とを有すると、印刷後の用紙が加速されて排紙部に向かって勢い良く排出される。このため、搬送ベルトやその駆動部及び吸引手段を設けなくて済むので、小型化、低コスト化を図りながら静電吸着ベルトで吸着搬送される印刷後の用紙のスムーズな排紙性を得られる。
【0007】
また請求項1記載の発明は、静電吸着ベルトが版胴の外周長よりも長い全長に形成され、該静電吸着ベルトの初期位置を検知するベルト検知手段と、押圧手段と版胴との接触状態を検知する押圧検知手段とを有し、制御手段が、ベルト検知手段による初期位置の検出に基づいて静電吸着ベルトの搬送速度を減速した後、押圧手段による接触を開始し、該接触を終了して、押圧検知手段による検知信号の出力がなくなったことに基づいて、静電吸着ベルトの搬送速度を増速し、その後に上記ベルト検知手段により初期位置を検出するまで静電吸着ベルトの増速した状態を保持するように、静電吸着ベルトの駆動部を制御するので、押圧手段と版胴との接触状態中(印刷時)は、静電吸着ベルトの搬送速度が一定に保持されて安定した印刷が行われ、接触状態を過ぎてベルト検知手段から検知信号が出力されるまでの間では、静電吸着ベルトが加速状態となり印刷を終えた用紙が加速されて排紙部に向かって搬送される。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の孔版印刷装置において、印刷部よりも用紙搬送方向の上流側に静電吸着ベルトを帯電させる帯電手段を配置し、印刷部よりも用紙搬送方向の下流側に印刷部を通過した用紙と静電吸着ベルトを除電する除電手段を配置したので、用紙は帯電手段で帯電された静電吸着ベルトに十分に静電吸着されて印刷部へ搬送され、印刷部を通過した用紙と静電吸着ベルトは、除電手段で除電されて静電吸着力を奪われる。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明にかかる孔版印刷装置は、開孔部と非開孔部とが設けられ外周面に製版済みマスタを巻装され、巻装された製版済みマスタにインキを供給するインキ供給装置を備えた版胴に対して、インキ供給装置に対向する位置で押圧手段を接離可能に設け、版胴と押圧手段とが対向する間を印刷部とし、版胴の開孔部と押圧手段とが対向する時に押圧手段を版胴に対して圧接させて用紙に印刷を行うものである。この孔版印刷装置では、用紙を静電吸着し、版胴の回転と同期して回転駆動される静電吸着ベルトを印刷部を通過させて配置し、印刷後の用紙を印刷時の搬送速度よりも増速して排紙部に排出する加速搬送手段を備えている。このため、印刷後の用紙に対する搬送力が大きくなり、この用紙は排紙部に向かって加速されて搬送され、排紙部に設けた排紙トレイに積載された用紙上での用紙の滑りが良くなる。
【0010】
静電吸着ベルトを、印刷部を境に用紙の給紙部と排紙部との間に印刷部を通過させて掛け渡して配置すると、静電吸着ベルトで給紙部から印刷部を経て排紙部まで到る用紙の搬送経路が形成される。これは、給紙部から給紙される用紙を印刷部に到達するまでに静電吸着ベルトへ十分に静電吸着させることができ、印刷部に対する用紙の搬送性や進入性が安定するので好ましい。用紙が用紙搬送方向に向かって搬送されると、静電吸着ベルトと用紙の吸着面がその搬送に伴い拡大し、用紙と静電吸着ベルトとの静電吸着力が大きくなり、印刷部における用紙と版胴との分離性が良くなる。
【0011】
静電吸着ベルトとしては、絶縁体と中抵抗の2種類がある。絶縁体の静電吸着ベルトは、体積抵抗が1013Ωcm以上で、材質はポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリアセタール、ポリプロピレン、塩化ビニル、スチロール、ウレタン、ポリエチレン、ポリカーボネイト、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂及び、これら樹脂の表面に導電性金属を蒸着させるか、もしくは接着材で接着させることにより形成したもの等でも良い。絶縁体の静電吸着ベルトでは、電圧の印加により+または−のどちらか一方の電荷が注入されることにより誘電分極が起き、用紙と静電吸着ベルトは、それぞれ+と−に帯電して吸着される。あるいは、印加電圧の極性を変えて+、−の電荷の注入を交互に行い、絶縁体の静電吸着ベルト上に+、−電荷の交互する静電パターンを構成することにより不平等電界を構成し、この電界中に絶縁体である用紙を近づけることで、電場のエネルギーを減少させてこの時発生する吸着する力で絶縁体の用紙を吸着するようにしても良い。
【0012】
中抵抗の静電吸着ベルトは、体積抵抗が107〜1012Ωcmで、材質はクロロプレンゴムまたはエチレンプロピレンゴム(EPDM)等の弾性体にフッ素(ポリフッ化ビニリデン)コーティング等を施したものが挙げられる。フッ素(ポリフッ化ビニリデン)コーティングを施す理由としては、静電吸着ベルトの外周面が弾性体よりも高抵抗となるので、高温高湿時にベルトや用紙の低抵抗化が進んで静電吸着ベルト上の電荷が用紙へ移動して抵抗値変化の少ない版胴の外周面上の製版済みマスタと用紙との間での吸着力の発生を抑え、用紙の版胴への巻き付きや版胴からの分離不良を防止するのに効果的であるためである。もう1つの理由は、摩擦係数μが低下するので静電吸着ベルトの外周面に接触する部材と、静電吸着ベルトとの接触抵抗が減り、静電吸着ベルトの駆動部への負荷トルクが低減するためである。
【0013】
加速搬送手段としては、吸引手段による吸引力が作用し駆動部で静電吸着ベルトの搬送速度よりも速い速度で移動する搬送ベルトを、静電吸着ベルトと排紙部との間に配置すると、静電吸着ベルトに静電吸着されて印刷部を通過した用紙が搬送ベルトに受け渡さると、増速されて排紙部に向かって搬送されるので、用紙のしわを伸ばしながら十分な搬送力をもって排紙されるので好ましい。
【0014】
また、加速搬送手段を、静電吸着ベルトを回転駆動する駆動部と、この駆動部を用紙の印刷後に加速制御する制御手段とから構成すると、搬送ベルトやその駆動部及び吸引手段を用いなくても印刷後の用紙を加速して排紙部に向かって搬送できるので、孔版印刷装置の小型化や低コスト化を図れるので好ましい。
【0015】
静電吸着ベルトの全長は版胴の外周長よりも長い方が良く、この静電吸着ベルトの初期位置をベルト検知手段で検知し、押圧手段と版胴との接触状態を押圧検知手段で検知する。そして、制御手段で、ベルト検知手段から検知信号が発せられると静電吸着ベルトの搬送速度を減速し、押圧検知手段から検知信号が出力されている間は静電吸着ベルトの搬送速度を一定とし、押圧検知手段から検知信号の出力がなくなると静電吸着ベルトの搬送速度を増速するように駆動部を制御すると、印刷を安定して行いながら、印刷後の用紙を加速して排紙部に向かって搬送できるので好ましい。
【0016】
押圧検知手段としては、フォトインタラプタと遮蔽板とからなるものが挙げられる。遮蔽板は、版胴の外周面の非開孔部が印刷部を通過している間フォトインタラプタの間を通過するように版胴やその回転軸や押圧手段の接離動作と連動する部材に設けたり、あるいは、遮蔽板を押圧手段の接離動作を行う電磁ソレノイド等のアクチュエータに取付け、このアクチュエータが駆動されて版胴の外周面の非開孔部が印刷部を通過している間だけ、フォトインタラプタの間に位置させるようにしても良い。
【0017】
ベルト検知手段としては、反射型あるいは透過型の光学センサが挙げられる。使用するセンサに応じて静電吸着ベルトに開口やバーコード等の初期位置検知部を設けるのが、静電吸着ベルトの初期位置を求める上で望ましい。
【0018】
搬送ベルトを用いて印刷後の用紙を加速搬送する場合、静電ベルト搬送装置の静電吸着ベルトの駆動部と版胴の駆動部とが共通化されていても問題はないが、静電吸着ベルトの駆動部を制御して印刷後の用紙を加速させて排出する場合には、版胴及び静電吸着ベルトの駆動部を個別にしてそれぞれ独立して制御するのが好ましい。
【0019】
製版済みマスタを巻装する版胴を複数設ける場合には、給紙部と排紙部との間に各版胴を用紙搬送方向に沿って直列に配置し、各版胴に異なる色のインキを供給すると多色印刷が可能となる。この場合には、最下流側に位置する版胴と押圧手段の間の印刷部で印刷を終えた後に、静電吸着ベルトの速度を増速させたり、排紙部と静電吸着ベルトの間に吸引作用の働く搬送ベルトを配置し、この搬送ベルトを静電吸着ベルトよりも速い速度で回転駆動するようにしても良い。
【0020】
静電吸着ベルトを帯電するための帯電手段としては、コロトロン方式やスコロトロン方式に代表される放電部材に放電ワイヤを用いてコロナ放電を行う帯電器を用いる非接触式のものや、ローラ帯電方式や導電性ブラシ方式などの放電部材にローラやブラシを用いた接触式のものがある。
【0021】
非接触式の帯電手段は、放電電流が放電ワイヤを支持するケーシング側に流れて放電効率は余り良いとはいえないが、電流密度が高いので安定した帯電が得られる点で好ましい。放電効率のことを考慮すると静電吸着ベルトに接触させて電荷注入を行う接触式の方が好ましいといえる。接触式の帯電手段を用いると空気中での放電によるオゾンの発生が極めて少ないので、オフィス環境を良くする点でも好ましいといえる。
【0022】
放電部材への電荷の供給は、定電圧電源や定電流電源等の高圧電源から行われる。定電圧電源は、放電電圧が一定であるので電源及び放電部材の耐電圧設計を行い易い点で好ましい。定電流電源は、気圧や湿度等の放電環境の変動があっても定電圧電源のように放電電流がほとんど変化しないので、静電吸着ベルトの表面電位の安定化を図る点で好ましい。また、非接触式の帯電手段を用いる場合、高圧電源側の電流や電圧を一定に制御しても静電吸着ベルトの帯電ムラになることがあるので、この場合には、静電吸着ベルトの帯電状態(表面電位)を検出して高圧電源へフィードバック制御すると良い。これら各帯電手段は、印刷部よりも給紙部側に設けて静電吸着ベルトを帯電させると、給紙部から給紙された用紙を印刷部に到達する前に十分に静電吸着ベルトに静電吸着することができるので好ましい。
【0023】
印刷を終えた用紙を静電吸着ベルトから分離させるには、印刷部よりも排紙部側に、印刷後の用紙と静電吸着ベルトとの帯電(電荷)を除去する除電手段を設けると良い。除電手段としては、帯電手段で説明した高圧電源から電荷供給を受けてコロナ放電を起こす非接触式のものや、帯電ローラを用いる接触式を用いても良いが、非接触式のものの方が用紙の印刷面との接触がなく印刷画像の擦れがないので好ましい。除電手段からは、帯電手段で帯電された静電吸着ベルト上の帯電(電荷)を中和する電荷が放電するように構成する。
【0024】
押圧手段としては、例えば、特開平9−104158号公報に記載の周知の圧胴や、天然ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、シリコンゴム等からなるプレスローラが挙げられる。プレスローラの硬度は、ゴム硬度20〜70度(JIS−A硬度計による)の範囲のものが適当である。
【0025】
版胴に対するプレスローラや圧胴等の接離動作は、版胴の回転と同期して回転駆動されるカムを用いてメカ的に行う接離機構や、印刷時にだけ駆動される電磁ソレノイドに代表されるアクチュエータを用いて電気的に制御する接離機構で行うと良い。
【0026】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面を参照して順次詳細に説明するが、各実施例において、同一の機能および構成を有するものには、同一符号を付加するに留め重複説明をできるだけ省略する。
【0027】
(第1実施例)
本発明が適用された製版、印刷一体型のデジタル孔版印刷装置の基本的動作を説明し、その後、各部の構成と作用について詳細に説明する。孔版印刷装置は、図6に示す操作部となる操作パネル70に設けた製版スタートキー73が押されると、以前に使用された使用済みマスタを図1に示す版胴3の外周面3aから剥離する排版工程と、これと並行して製版給版工程が行われる。
【0028】
製版給版工程では、装置上部に設けた原稿読み取り装置1で読み込まれる原稿画像に対応して製版給版装置2でマスタを製版かつ版胴3に向かって給版し、製版済みマスタ5の先端を版胴3の外周面3a上に配置したクランパ4でクランプし、版胴3を時計回り方向に回転駆動して版胴3の外周面3a上に巻装する。
【0029】
排版工程では、図示しない排版剥離搬送部が駆動され、かつ版胴3が反時計回りに回転され、この回転する版胴3に巻装された図示しない使用済みマスタの後端を排版剥離搬送部で徐々にすくい上げて版胴3の外周面3aから剥離し、所定のタイミングでクランパ4を開いて排版装置18内に収納して圧縮する。
【0030】
孔版印刷装置は、給紙部6から給紙装置8で給紙される用紙19を、帯電手段13で帯電される静電ベルト搬送装置9の静電吸着ベルト14に静電吸着させ、版胴3の外周面3aと、これに対して接離可能に設けた押圧手段となるプレスローラ10とが対向する印刷部11を通過させて排紙部12に向かって搬送する。孔版印刷装置は印刷部11において、静電吸着ベルト14で搬送されてくる用紙19をプレスローラ10と版胴3とで挟み、版胴3の内部からインキを製版済みマスタ5の開孔からしみ出させて用紙19に転移して画像の印刷を行う。孔版印刷装置は、この印刷された用紙19を静電吸着ベルト14で静電吸着したまま排紙部12に向かって搬送し、その途中で除電手段15によって静電吸着を解除して静電吸着ベルト14から用紙19を分離する。孔版印刷装置は、静電吸着ベルト14から分離された用紙19を排紙部12側に設けた加速搬送手段16を用いて排紙トレイ17に排紙する。
【0031】
原稿読み取り装置1は、原稿から画像を読み取るいわゆる縮小光学系になっていて、図示しない光源から原稿へ照射された光を複数のミラー群で反射させて画像信号へと変換する周知の構成を採っている。
【0032】
製版給版装置2は、原稿読み取り装置1からの画像信号を基に図示しないサーマルヘッドで未製版のマスタに穿孔画像を形成し、この穿孔画像を形成されたマスタを図示しないカッターで所定の長さに切断し、一版の製版済みマスタ5としてクランパ4に向かって給版する周知の構成を採っている。
【0033】
排版装置18は、版胴3に巻装された図示しない使用済みマスタの後端を図示しない排版剥離搬送部ですくい上げて版胴3の外周面3aから剥離して装置内に収納し、この収納した使用済みマスタを図示しない圧縮板を用いて圧縮する周知の構成を採っている。
【0034】
版胴3は、製版済みマスタ5をその外周面3aに巻装するもので、図2に示すようにステンレスの薄板により円筒状に形成されていて、インキを通過させるために多数の開孔部3bと、非開孔部3cとを設けた多孔性薄板で支持体を構成し、多孔性薄板の外周に図示しない化学繊維を織ったメッシュスクリーンからなる多孔質弾性体層を巻装している。版胴3は、図1に示すようにインキ供給軸43周りに回転可能に支持されて孔版印刷装置の中央部に配置されている。版胴3は、後述する版胴駆動部94により正逆両方向に回転可能となっている。図5に示すように、版胴3の外周面3aの全長L1は、用紙19の使用可能な全長よりも幾分長く設けられていて、版胴3が1回転すると、1枚の用紙19に対する印刷を終えられるようになっている。
【0035】
版胴3の内部には、版胴3の内周面にインキを供給するインキローラ41と、これに僅かな間隙を置いて平行に配置されインキローラ41との間にインキ溜まり44を形成するドクタローラ42とを有するインキ供給装置40が配置されている。インキ溜まり44には、印刷用のインキが供給される。インキ溜まり44のインキは、インキローラ41の外周面に沿って流れて版胴3の内周面に最適量供給される。インキ溜まり44に供給されるインキは、その量を図示しないインキ量測定手段により測定され、図示しないインキポンプによってインキ圧送量をコントロールされている。実施例中で使用されるインキには、エマルジョンインキが使用される。インキローラ41は、アルミ等の金属で形成され、図示しないギア列によって版胴3と共に時計回り方向に回転するように構成されている。インキローラ41と版胴3との周速度の比は、所定の値に設定されている。
【0036】
版胴3の非開孔部3cに位置する外周面3aには、図2に示すように製版済みマスタ5の先端をクランプするクランパ4が設けられている。クランパ4は、クランパ軸39を中心に図示しない機構により版胴3の外周面3aに対して開閉自在に設けられている。クランパ4は、版胴3の回転時には閉位置を占め、排版時や製版済みマスタ5を巻装するときに開閉動作する。版胴3は、製版済みマスタ5の先端がクランパ4に保持されると、時計回り方向に回転駆動され製版済みマスタ5を版胴3の外周面3aに巻装するようになっている。
【0037】
給紙装置8は、図1に示すように、印刷部11よりも給紙トレイ7側、すなわち、矢印aで示す正回転時の用紙搬送方向(以下「用紙搬送方向a」と記す)の上流側に配置されている。給紙装置8は、給紙トレイ7上に積載した用紙19を印刷部11に送出するもので、呼び出しコロ50、給紙ローラ対51、サバキ板52、レジストローラ対53を備えている。呼び出しコロ50と給紙ローラ対51の給紙ローラ上51aとは、操作パネル70に設けたテンキー71により希望印刷枚数の数値が入力されて印刷スタートキー72が押下されると、後述する給紙系駆動部98で所定のタイミングで時計回り方向へ回転され、給紙ローラ上51a、給紙ローラ下51b、サバキ板52との協働により給紙トレイ7上に積載された最上位の用紙19を一枚分離してレジストローラ対53に向かって送り込む。レジストローラ対53は、図示しない機構を介して版胴駆動部94と連結されて回転駆動されるレジストローラ上53aと、これに当接して対向配置されたレジストローラ下53bとから構成されている。レジストローラ対53は、印刷部11において製版済みマスタ5に形成された穿孔画像の領域の先端と用紙19の先端とを一致させるタイミングで回転駆動される。
【0038】
静電ベルト搬送装置9は、印刷部11よりも排紙部12側に設けた駆動ローラ59と、レジストローラ対53の近傍に配設した従動ローラ60と、テンションローラ28及び従動ローラ29とに、静電吸着ベルト14を印刷部11を通過するようにテンションを掛けて巻きかけている。静電吸着ベルト14は、中抵抗(体積抵抗107〜1012Ωcm)の材料の1枚のフィルム材の両端部を互いに溶着した無端状のベルトであって、帯電手段13及び除電手段15で容易に帯電、除電がなされるようになっている。
【0039】
テンションローラ28、従動ローラ29は、同一直径の太鼓状のローラ部材からなり、静電吸着ベルト14の位置ずれを防止している。テンションローラ28は、駆動ローラ59の下方に配置され、従動ローラ29は従動ローラ60の下方に配置されている。駆動ローラ59と従動ローラ29、テンションローラ28と従動ローラ60とは、それぞれ対角線上に配置され、静電吸着ベルト14を四角形状に巻きかけている。駆動ローラ59と従動ローラ60とは、その外周面の水平方向に向かう接線が同一接線G上となるように配置されている。
【0040】
駆動ローラ59は、プーリとベルト等からなる周知の動力伝達機構を介して版胴駆動部94と接続している。静電吸着ベルト14は、その搬送速度となる外周面14aの周速度Vが、版胴3の外周面3aの周速度と同一となるように動力伝達機構と版胴駆動部94とによって駆動されるようになっている。周速度Vとは、印刷速度である。
【0041】
プレスローラ10は、図3に示すように軸55を中心に揺動自在に設けられたプレスローラアーム56の一方の揺動端56aに、中心軸10aで回転自在に支持されて版胴3の外周面3aに接離可能に設けられている。プレスローラ10は、プレスローラアーム56の他方の揺動端側56bに設けた引っ張りバネ58により版胴3の外周面3aに向かって付勢されている。プレスローラアーム56の揺動端56bには、カムフォロワ57が設けられている。カムフォロワ57は、版胴3と同期して回転する扇状のプレスローラカム54の輪郭周面に引っ張りバネ58の作用で圧接している。
【0042】
プレスローラカム54は、レジストローラ対53からの用紙19の給紙タイミングおよび版胴3の回転と同期して回転されるようになっている。プレスローラカム54は、レジストローラ対53から用紙19が給紙されないときには、その大径部をカムフォロワ57に対向させており、プレスローラ10を版胴3から離間させている。プレスローラカム54は、レジストローラ対53から用紙19が給紙されると回転してその小径部をカムフォロワ57に対向させ、プレスローラ10を図3において時計回り方向に揺動させて版胴3に向かって上昇させ、用紙19の後端が印刷部11を通過するタイミングで下降せるようになっている。
【0043】
このような構成により静電吸着ベルト14は印刷部11において、常時その内周面14bにプレスローラ10の外周面が圧接されて版胴3の外周面3aへ向けて凸の形となって駆動ローラ59と従動ローラ60との間に掛け渡され、印刷部11側に位置する外周面14aで用紙19の搬送経路を構成している。
【0044】
帯電手段13は、図1に示すように、帯電器65と、帯電用の高圧電源66と、対向電極を構成する対向ローラ106とから主に構成されていて、図2にも示すように、用紙19が静電吸着ベルト14に吸着される吸着部Aよりも用紙搬送方向aの上流側に配置されている。帯電器65は、静電吸着ベルト14の外周面14aの近傍に配置されている。帯電器65には、コロナ放電を行う非接触方式のコロトロン方式のものが採用されている。高圧電源66には、帯電器65に対して帯電バイアスを供給する直流電源が用いられている。対向ローラ106は、帯電器65と対向する位置で回転自在にされていて、その外周面106aを静電吸着ベルト14の内周面14bに接触させている。
【0045】
除電手段15は、図1に示すように、除電器67と除電用の高圧電源68とから主に構成されている。除電器67は、駆動ローラ59の外周面の近傍であり、かつ用紙19が駆動ローラ59の曲率と自身のコシとによって静電吸着ベルト14から分離する分離部Bよりも用紙搬送方向aの上流側に配置されている。除電器67には、コロナ放電を行うコロトロン方式のものが採用されている。高圧電源68には、除電器67に対して帯電バイアスと逆極性の除電バイアスを供給する直流電源が用いられている。また、高圧電源68には、両極性の交流電源を用いても良い。
【0046】
加速搬送手段16は、図1に示すように、静電吸着ベルト14に吸着されて搬送される印刷後の用紙19を排紙トレイ17に排出するもので、排紙トレイ17と静電吸着ベルト14との間に配置されている。加速搬送手段16は、排紙トレイ17側に設けた駆動ローラ82と分離部B側に設けた従動ローラ83との間に掛け渡された多孔性の搬送ベルト84と、吸引手段としての吸引用ファン85と、搬送ベルト84を駆動する駆動部となるベルト駆動モータ62とから主に構成されている。駆動ローラ82の軸82aには、プーリ61が固定されている。プーリ61には、ベルト駆動モータ62の出力軸62aに固定された駆動プーリ63との間で駆動ベルト64が巻きかけられている。
【0047】
搬送ベルト84は、その搬送速度となる搬送面84aの周速度V1が、静電吸着ベルト14の外周面14aの周速度Vよりも速くなるように、ベルト駆動モータ62によって図中反時計回り方向へ回転駆動される。この実施例では、静電吸着ベルト14の外周面14aの周速度Vを1とした時、搬送ベルト84の搬送面84aの周速度V1が1.2倍となるようにベルト駆動モータ62の回転を制御して速度設定を行っている。ベルト駆動モータ62の回転を制御するのではなく、プーリ61とプーリ63との比率で搬送ベルト84の搬送面84aの周速度V1を調整しても良い。吸引用ファン85は、後述するファン駆動部100によって加速搬送手段16と同期して回転駆動され、搬送ベルト84の搬送面84aに吸引力を与えている。
【0048】
従動ローラ83と駆動ローラ59との間には、分離爪86が静電吸着ベルト14に近接して設けられている。分離爪86は、図2に示すように静電吸着ベルト14の外周面14aに対して僅かに隙間を持って配置されていて、分離部Bにおける用紙19の分離を補助すると共に、搬送されてくる用紙19の巻き込みを防止している。
【0049】
排紙トレイ17側に位置する搬送ベルト84の上方には、図1に示すようにジャンプ台87が搬送ベルト84の搬送面84aに近接配置されている。ジャンプ台87は、搬送ベルト84に吸着される印刷後の用紙19を排紙トレイ17の上方にコシを与えながら案内するもので、用紙19の厚さに合わせて図示しない高さ調整機構によって、搬送面84aまでの距離を調整できるようになっている。
【0050】
図6に示すように、操作パネル70には、印刷枚数を設定するためのテンキー71と、印刷工程に至る各動作の起動を設定するための印刷スタートキー72と、原稿の画像の読み取りから製版、給版、試し刷りとしての版付けに至るまでの各動作を起動するための製版スタートキー73と、印刷工程等に至る各動作を停止するためのストップキー74と、テンキー71で設定された印刷枚数等を表示するためのLEDからなる表示装置75と、孔版印刷装置のマスタや用紙19のジャムなどを表示するためのLCDからなる表示装置76と、テンキー71で設定された印刷枚数等を解消するためのクリアキー77と、印刷動作を最初から行わせるリセットキー78とが設けられている。
【0051】
帯電用の高圧電源66と除電用の高圧電源68とは、電源制御部69を介して制御手段89を構成するCPU(中央演算処理装置)91に電気的に接続されている。制御手段89は、電源90と接続されるCPU91、図示しないI/O(入出力)ポート及びROM(読み出し専用記憶装置)92、RAM(読み書き可能な記憶装置)93等を備え、それらが図示しない信号バスによって接続された構成を有する周知のマイクロコンピュータからなる。CPU91には、操作パネル70の各種キー及び各表示装置が電気的に接続されていて、これらとの間で指令信号及び/又はオン/オフ信号やデータ信号を送受信している。制御手段89では、CPU91での演算結果をRAM93に一時的に記憶させたり、適時その情報を読み出すようになっている。
【0052】
CPU91には、版胴3を回転駆動させるモータを含む版胴駆動部94、製版給版装置2を駆動する製版給版系駆動部95、排版装置18を駆動する排版系駆動部96、給紙装置8を駆動する給紙系駆動部98、吸引用ファン85を駆動するファン駆動部100、及び駆動回路102を介してベルト駆動モータ62がそれぞれ電気的に接続されている。CPU91は、これらとの間で指令信号及び/又はオン/オフ信号やデータ信号を送受信して、孔版印刷装置の前記各部の装置や駆動部の起動、停止及びタイミング等の動作全体のシステムを制御している。
【0053】
ROM92には、前記装置及び各駆動部の起動、停止及びタイミング等の動作に必要なデータが予め記憶されている。具体的には、製版スタートキー73が押下されると、製版、排版工程や、版付けを行うと共に、テンキー71で印刷枚数が設定され印刷スタートキー72が押下されると、版付けと同様の工程で、給紙、印刷および分離排紙の各工程が設定された印刷枚数分繰り返して行われる一連の印刷動作プログラムが記憶されている。この印刷動作プログラムでは、製版スタートキー73や印刷スタートキー72が押下されて版胴3が回転駆動されると、高圧電源66と高圧電源68及びベルト駆動モータ62を駆動する。
【0054】
第1実施例の動作を説明するが、製版給版と排版動作については、冒頭で説明しているので省略し、ここでは、版付けを含めた用紙19の給紙から排紙までの動作について説明する。
【0055】
印刷スタートキー72が押下されると、各駆動部が駆動される。具体的には、版胴駆動部94が駆動されて版胴3が時計回り方向に回転され、かつ静電吸着ベルト14が反時計回り方向に版胴3の周速度と同一な周速度で回転移動する。版胴3が回転すると、電源制御部69が駆動されて帯電器65から静電吸着ベルト14に帯電バイアスが供給されて静電吸着ベルト14が帯電される。帯電器65には、対向電極となる対向ローラ106が対向配置されているので、帯電器65からの帯電バイアスが対向電極の作用によって静電吸着ベルト14側に引き付けられて安定したベルト帯電が行われる。版胴3が回転するとベルト駆動モータ62が駆動されて搬送ベルト84が静電吸着ベルト14よりも1.2倍程度速く反時計回り方向に回転駆動されると共に、ファン駆動部100が駆動されて吸引用ファン85が回転し、搬送ベルト84の搬送面84aに吸引力が発生する。
【0056】
給紙装置8では、給紙系駆動部98によって版胴3の回転と同期して呼び出しコロ50と給紙ローラ上51aとが図の時計回り方向へ回転され、給紙ローラ対51とサバキ板52との協働により給紙トレイ7上に積載された用紙19を一枚ずつ分離して、回転停止しているレジストローラ対53へ送出する。レジストローラ対53では、用紙19の先端と、版胴3の外周面3aに巻装された製版済みマスタ5に形成された穿孔画像の先端とが印刷部11において一致する所定のタイミングで用紙19を印刷部11に向かって給紙する。
【0057】
図2に示すように、給紙された用紙19が吸着部A近傍まで搬送されると、既に帯電器65で帯電された静電吸着ベルト14上の電荷による静電気力により吸い寄せられつつ静電吸着ベルト14の外周面14a上に静電吸着され、印刷部11に向かって搬送される。静電吸着された用紙19は、静電吸着ベルト14の移動で印刷部11に向かって搬送されるが、この搬送に伴い静電吸着ベルト14の外周面14a上に吸着される吸着面積が次第に拡大していく。このため、用紙19の印刷部11への搬送が進む程に用紙19と静電吸着ベルト14との静電吸着力が大きくなり、用紙19の吸着状態が安定する。
【0058】
図3に示すように、用紙19の先端が印刷部11近くまで搬送されると、版胴3の外周面3aから2点鎖線で示す離間位置に置かれていたプレスローラ10が、版胴3と同期して回転するプレスローラカム54とカムフォロワ57との協働により、版胴3の外周面3aに向かって押し上げられ実線で示す押圧位置を占める。用紙19は、印刷部11を通過して配置された静電吸着ベルト14に十分に静電吸着されているため、印刷部11への進入がスムーズに行われる。
【0059】
プレスローラ10は、版胴3の外周面3aから離間した離間位置にあっても常に、静電吸着ベルト14の内周面14bに圧接して設けられているため、静電吸着ベルト14が回転を開始すると、同方向に同一の周速度で回転する。このため、プレスローラ10が上昇しても、プレスローラ10と静電吸着ベルト14の周速度に変化がなく、静電吸着ベルト14の弛みや振動の発生が防止される。
【0060】
印刷部11へ用紙19が進入すると、図4に示すように、版胴3の内周面にインキローラ41によって供給されたインキが、プレスローラ10の押圧によって版胴3の開孔部3bを通り図示しないメッシュスクリーンにより拡散し、製版済みマスタ5の多孔質支持体によって均一に拡散されて製版済みマスタ5のマスタフィルムの開孔から用紙19の印刷面19aへ転移される。これにより製版済みマスタ5の穿孔画像に対応する画像の印刷が用紙19に行われる。印刷された用紙19は、さらに用紙搬送方向aの下流側に向かって搬送されるが、この時、用紙19は、プレスローラ10が常時内周面14bに圧接されることで弛みや振動が低減されている静電吸着ベルト14に十分に静電吸着されている。また、印刷部11を通過した静電吸着ベルト14は、プレスローラ10と駆動ローラ59との位置関係から印刷部11から離れるように傾斜している。このため、印刷部11を通過した用紙19は、版胴3近傍に分離爪がなくとも版胴3の外周面3aの製版済みマスタ5に巻き付くことなく、静電吸着ベルト14にしっかりと静電吸着されて用紙搬送方向aの下流側に搬送され、分離爪による爪跡等のない良好な印刷が行われる。
【0061】
印刷部11を通過した用紙19の先端が、図7に示すように静電吸着ベルト14の回転に伴い除電器67の直下に到達すると、これの除電作用により静電吸着ベルト14と用紙19との静電吸着力が解消される。このため、用紙19や静電吸着ベルト14が除電器67の下を順次通過することで、用紙19全面及び静電吸着ベルト14全面に除電作用が働く。
【0062】
除電器67によって、除電された用紙19が分離部Bに達すると、静電吸着ベルト14が駆動ローラ59の直径による曲率に沿って屈曲しているので、静電吸着ベルト14の外周面14a上にある用紙19は自身の腰の強さ(印刷用紙弾性)により静電吸着ベルト14の屈曲に反して同ベルトから剥離する。さらに、この剥離された用紙19の先端は、分離爪86によって案内されて用紙搬送方向aの下流側にある加速搬送手段16の搬送ベルト84上に受け渡される。
【0063】
搬送ベルト84上に受け渡された用紙19は、反時計回り方向に回転している搬送ベルト84の搬送面84aに作用している吸引力と、用紙19と搬送ベルト84との摩擦力によって搬送面84aに吸着されて搬送される。搬送ベルト84は、静電吸着ベルト14の外周面14aの周速度Vより速い周速度V1で反時計回りに回転移動している。したがって、用紙19は、その後端部19bが印刷部11を抜けると、搬送ベルト84の搬送面84aの周速度V1に増速されて排紙トレイ17に向かって搬送される。このため、印刷を終えて静電吸着ベルト14から剥離分離された用紙19は、吸引用ファン85の吸引力が作用する搬送ベルト84の搬送面84aで吸着搬送されてジャンプ台87へ案内され、ジャンプ台87によって搬送ベルト84から分離されて排紙トレイ17上に勢い良く排紙される。排紙された用紙19は、図1に2点鎖線で示すように排紙トレイ17のエンドプレート17aに衝突し、その進行が止められて自由落下して排紙トレイ17上に順次積載される。
【0064】
このように、静電吸着ベルト14と排紙トレイ17との間に、静電吸着ベルト14の外周面14aの周速度Vよりも速い周速度V1で移動する搬送ベルト84を有する加速搬送手段16を設けることで、印刷後の用紙19を加速して排紙トレイ17に向かって排紙することができ、腰の弱い用紙であっても十分な搬送速度でジャンプ台87へ案内されて腰付けされるので、排紙性が向上する。印刷後の用紙19が加速して排紙されると排紙時間が短くなるので、印刷時間の短縮も図れる。
【0065】
(第2実施例)
第2実施例は、第1実施例における加速搬送手段16を用いずに、静電吸着ベルト14の外周面14aを、印刷時よりも印刷後に速くして印刷後の用紙19を加速して排紙トレイ17に向かって搬送するようにしたものである。
【0066】
図8に示すように、加速搬送手段190は、静電吸着ベルト14を駆動ローラ59と従動ローラ29,60及びテンションローラ28との間に巻きかけている。駆動ローラ59は、静電吸着ベルト14の駆動源となる正逆回転可能なベルト駆動モータ162と接続していて、版胴3と個別に回転可能となっている。駆動ローラ59の軸59aには、図9に示すように、プーリ161が固定されている。プーリ161には、ベルト駆動モータ162の出力軸162aに固定された駆動プーリ163との間で駆動ベルト164が巻きかけられている。ベルト駆動モータ162は、通常、用紙19の給紙タイミングで版胴3の回転と同期して駆動されて静電吸着ベルト14の外周面14aの周速度Vが版胴3の外周面3aの周速度と同一となる速度(印刷速度)となるように静電吸着ベルト14を回転駆動し、1枚の用紙19に対する印刷が終了する毎に、静電吸着ベルト14の外周面14aを印刷時の周速度Vよりも1.2倍程度速い周速度V2まで増速するようになっている。排紙トレイ17は、この例では、分離爪86の直後に配置されている。また、静電吸着ベルト14には、開口部105がその幅方向一側端に形成されている。
【0067】
帯電器65の下方には、静電吸着ベルト14の初期位置を検知するベルト検知手段となるベルトHPセンサ103が配置されている。ベルトHPセンサ103は光透過型のセンサであって、静電吸着ベルト14に設けた開口部105を検知すると検知信号を出力するようになっている。
【0068】
プレスローラ10の近傍には、図10に示すようにプレスローラ10と版胴3とが接触している状態を検知する押圧検知手段となるフォトインタラプタからなる印圧検知センサ107が、孔版印刷装置の図示しない基部に固定されて配置されている。印圧検知センサ107の近傍には、プレスローラ10の接離動作と連動して回動する軸109が図示しないブラケットで回動自在に支持されている。この軸109には、印圧検知センサ107のスリット107aに進入する遮蔽板108が固定されている。
【0069】
軸109は、プレスローラ10が図3に2点鎖線で示す離間位置にあるときには、遮蔽板108を図10に実線で示すようにスリット107a内に位置させ、プレスローラ10が図3に実線で示す押圧位置に向かって移動すると、図10に2点鎖線で示すように遮蔽板108をスリット107a内から退避させるようにプレスローラ10の接離動作と連動して回転するようになっている。印圧検知センサ107では、スリット107aから遮蔽板108が退避すると、印圧検知信号を出力するようになっている。
【0070】
図9に示すように、ベルト駆動モータ162の出力軸162aには、スリット板111が固定されている。ベルト駆動モータ162の近傍には、スリット板111の回転から駆動モータ162の回転数を検出するベルト速度検知センサ110が配置されている。このベルト速度検知センサ110は、周知のロータリエンコーダから構成されている。
【0071】
ベルトHPセンサ103と印圧検知センサ107とベルト速度検知センサ110は、図11に示す制御手段189の要部を成すCPU191にそれぞれ電気的に接続している。CPU191には、ROM192とRAM193と電源90及び駆動回路102を介してベルト駆動モータ162がそれぞれ接続している。この他、CPU191には、第1実施例と同様、操作パネル70、版胴駆動部94、製版給版系駆動部95、排版系駆動部96、給紙系駆動部98、及び電源制御部69を介して各種高圧電源66,68がそれぞれ接続されている。CPU191では、これらとの間で指令信号及び/又はオン/オフ信号やデータ信号を送受信して、孔版印刷装置の前記各部の装置や駆動部の起動、停止及びタイミング等の動作全体のシステムを制御している。特にここでは、ベルト速度検知センサ110からの検知信号、すなわち、ベルト駆動モータ162の回転数から静電吸着ベルト14の外周面14aの周速度を測定している。
【0072】
ROM192には、前記装置及び各駆動部の起動、停止及びタイミング等の動作に必要なデータが予め記憶されている。具体的には、製版スタート73キーが押下されると、製版、排版工程や、版付けを行うと共に、テンキー71で印刷枚数が設定され印刷スタートキー72が押下されると、版付けと同様の工程で、給紙、印刷および分離排紙の各工程が設定された印刷枚数分繰り返して行われる一連の印刷動作プログラムが記憶されている。この印刷動作プログラムでは、製版スタートキー73や印刷スタートキー72が押下されて版胴3が回転駆動されると、高圧電源66と高圧電源68を駆動し、静電吸着ベルト14の外周面14aが周速度Vで反時計回り方向に移動するようにベルト駆動モータ162を回転駆動する。また、ベルト駆動モータ162の駆動中に、印圧検知センサ107から印圧検知信号が出力されると、その間は静電吸着ベルト14の外周面14aが周速度Vで移動するようにベルト駆動モータ162の回転数を一定に保持し、印圧検知センサ107から印圧検知信号の出力がなくなると静電吸着ベルト14の外周面14aが周速度V2で移動するようにベルト駆動モータ162の回転数を増加して加速制御し、ベルトHPセンサ103から検知信号が出力されると、静電吸着ベルト14の外周面14aの周速度V2が周速度Vとなるまでベルト駆動モータ162の回転数を減らして減速制御する。
【0073】
このように、印刷工程の後の次の印刷工程までの間に静電吸着ベルト14を加減速制御する関係上、図5に示すように静電吸着ベルト14の全長Lは、版胴3の外周面3aの全長L1よりも長くしておく必要がある。
【0074】
第2実施例の動作を説明するが、製版給版と排版動作については、第1実施例で説明しているので省略し、ここでは、版付けを含めた用紙19の給紙から排紙までの動作について説明する。
【0075】
印刷スタートキー72が押下されると、版胴駆動部94とベルト駆動モータ162とが駆動され、版胴3が時計回り方向に回転すると共に、静電吸着ベルト14が反時計回り方向に周速度Vで回転移動する。版胴3が回転すると電源制御部69が駆動して帯電器65から静電吸着ベルト14に帯電バイアスが供給されて静電吸着ベルト14が帯電される。
【0076】
給紙装置8は、給紙系駆動部98によって第1実施例同様に駆動され、給紙トレイ7上に積載された用紙19を一枚ずつ分離して、レジストローラ対53へ送出する。レジストローラ対53では、用紙19の先端と、版胴3の外周面3aに巻装された製版済みマスタ5の穿孔画像の先端とが印刷部11において一致する所定のタイミングで用紙19を印刷部11に向かって給紙する。
【0077】
図9に示すように、給紙された用紙19が吸着部A近傍まで搬送されると、既に帯電器65で帯電された静電吸着ベルト14上の電荷による静電気力により吸い寄せられつつ静電吸着ベルト14の外周面14a上に静電吸着され、印刷部11に向かって搬送される。静電吸着された用紙19は、静電吸着ベルト14の移動で印刷部11に向かって搬送されるが、この搬送に伴い静電吸着ベルト14の外周面14a上に吸着される吸着面積が次第に拡大していく。このため、用紙19の印刷部11への搬送が進む程に用紙19と静電吸着ベルト14の静電吸着力が大きくなり、用紙19の吸着状態が安定する。
【0078】
図3に示すように、用紙19の先端が印刷部11近くまで搬送されると、版胴3の外周面3aから2点鎖線で示す離間位置に置かれていたプレスローラ10が、版胴3と同期して回転するプレスローラカム54とカムフォロワ57との協働により、版胴3の外周面3aに向かって押し上げられ実線で示す押圧位置を占める。すると、図10に示す軸109が時計回り方向に回転されて遮蔽板108がスリット107aから退避し印圧検知信号が出力される。用紙19は、印刷部11を通過して配置された静電吸着ベルト14に十分に静電吸着されているため、印刷部11への進入がスムーズに行われる。
【0079】
印圧検知信号が出力されると、ベルト駆動モータ162の回転はそのままに保たれ静電吸着ベルト14の外周面14aが印刷速度である周速度Vに維持されたまま用紙搬送方向aに移動する。印刷部11へ用紙19が進入すると、図4に示すように、版胴3の内周面に供給されたインキが、プレスローラ10の押圧によって版胴3の開孔部3b、図示しないメッシュスクリーン、製版済みマスタ5のマスタフィルムの開孔から用紙19の印刷面19aへ転移される。これにより製版済みマスタ5の穿孔画像に対応する画像の印刷が用紙19に行われる。印刷された用紙19は、さらに用紙搬送方向aの下流側に向かって搬送される。
【0080】
印刷部11を通過した静電吸着ベルト14は、プレスローラ10と駆動ローラ59との位置関係から印刷部11から離れるように傾斜している。このため、印刷部11を通過した用紙19は、版胴3近傍に分離爪がなくとも、版胴3の外周面3aの製版済みマスタ5に巻き付くことなく、静電吸着ベルト14にしっかりと静電吸着されて用紙搬送方向aの下流側に搬送され、分離爪による爪跡等のない良好な印刷を行われる。
【0081】
印刷が進んで、版胴3のクランプ4が印刷部11にさしかかると、プレスローラ10は、実線で示す押圧位置から2点鎖線で示す離間位置に向かって下降し、これに伴い図10に示す遮蔽板108がスリット107a間に挿入される。すると、印圧検知センサ107からの印圧検知信号の出力が無くなり、CPU191では、図12に示すように、ベルト駆動モータ162の回転数をあげて静電吸着ベルト14の外周面14aが周速度V2となるまで加速制御される。静電吸着ベルト14の外周面14aが周速度V2になると、その速度はベルトHPセンサ103が静電吸着ベルト14の開口部105を検知するまで保持される。つまり、1枚の用紙19に対する印刷が終了して図13に示すように用紙19の後端19bが印刷部11を通過すると、この印刷後の用紙11は増速された静電吸着ベルト14によって加速されながら用紙搬送方向aの下流側に向かって搬送される。
【0082】
そして、図12に示すようにベルトHPセンサ103から検知信号が出力されると、ベルト駆動モータ162の回転数が低下され、周速度V2(図12では排紙速度と表わす)で移動している静電吸着ベルト14の外周面14aが周速度V(印刷速度)となるまで減速制御される。
【0083】
すなわち、プレスローラ10と版胴3とが接触している印刷時間中は、静電吸着ベルト14の外周面14aを一定の周速度Vで移動して安定した印刷を行い、印刷時間を過ぎると、静電吸着ベルト14の外周面14aを周速度V2まで加速して静電吸着されている印刷後の用紙19に対して強い搬送力を与えて用紙搬送方向aに向かって加速搬送する。
【0084】
なお、図12では、静電吸着ベルト14の外周面14aが排紙速度である周速度V2となるまで加減速制御したあと、周速度V2の定速領域を設けてあるように図示しているが、ベルトHPセンサ103が検出されるまでの間に、ちょうど周速度V2になるように加減速制御し、加速されながらの状態で用紙19を排紙するようにしても良い。
【0085】
印刷部11を通過した用紙19の先端が、図13に示すように静電吸着ベルト14の移動に伴い除電器67の直下に到達すると、これの除電作用により静電吸着ベルト14と用紙19との静電吸着力が解消される。このため、用紙19や静電吸着ベルト14が除電器67の下を順次通過することで、用紙19全面及び静電吸着ベルト14全面に除電作用が働く。除電器67によって除電された用紙19が分離部Bに達すると、静電吸着ベルト14が駆動ローラ59の直径による曲率に沿って屈曲しているので、用紙19が自身の腰の強さ(印刷用紙弾性)によって静電吸着ベルト14の屈曲に反して同ベルトから剥離する。剥離された用紙19の先端は、分離爪86によって排紙トレイ17の上方に案内される。したがって、静電吸着ベルト14の外周面14a上にある、除電された印刷後の用紙19は、加速状態のまま排紙トレイ17に向かって勢い良く排出される。
【0086】
排紙された用紙19は、図13に2点鎖線で示すように排紙トレイ17のエンドプレート17aに衝突し、その進行が止められて自由落下して排紙トレイ17上に順次積載される。
【0087】
このように、静電吸着ベルト14の駆動部となるベルト駆動モータ162を印刷後に加速制御することで、静電吸着ベルト14の外周面14aの周速度を印刷時よりも速くでき、印刷後の用紙19を加速して排紙トレイ17に向かって排紙することができ排紙性が向上する。また、腰の弱い用紙でも静電吸着ベルト14に除電器67直下まで吸着された状態で十分加速されて排紙されるので、用紙の先端が先に落ちて裏返しになったりして排紙揃えが悪くなるようなことがない。
【0088】
印刷後の用紙19が加速して排紙されると排紙時間が短くなるので、印刷時間の短縮も図れる。また、第1実施例のように搬送ベルト84やその駆動源となるベルト駆動モータ62及び吸引用ファン85を静電吸着ベルト14と排紙トレイ17との間に設けなくて済むので、孔版印刷装置が小型化、低コストとなる。
【0089】
【発明の効果】
本発明によれば、印刷後の用紙が加速搬送手段で加速されて排紙部に向かって勢い良く排出されるので、静電吸着ベルトで吸着搬送される印刷後の用紙のスムーズな排紙性を得られる。
【0091】
本発明によれば、押圧手段と版胴とが接触状態中は、静電吸着ベルトの搬送速度が一定に保持され、接触状態を過ぎてベルト検知手段から検知信号が出力されるまでの期間では静電吸着ベルトが加速状態となり印刷を終えた用紙が加速されて排紙部に向かって搬送されるので、小型化、低コスト化を図りながら静電吸着ベルトで吸着搬送される印刷後の用紙のスムーズな排紙性を維持しつつ安定した印刷を行える。
【0092】
本発明によれば、用紙が帯電手段で帯電された静電吸着ベルトに十分に静電吸着されて印刷部へ搬送され、印刷部を通過した用紙と静電吸着ベルトが除電手段で除電されて静電吸着力を奪われるので、用紙の搬送性や版胴との分離性と共に静電吸着ベルトとの分離性も良くなり、上記請求項記載の発明の効果に加えて、安定した印刷を行いながら、よりスムーズな排紙性を得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例を示す孔版印刷装置の概略構成図である。
【図2】静電ベルト搬送装置の周部の概略構成を示す拡大図である。
【図3】プレスローラの接離機構とその動作、及び印刷部への用紙の進入前の状態を示す拡大図である。
【図4】印刷部通過時の用紙の状態を示す拡大図である。
【図5】版胴の外周長と静電吸着ベルトの全長の関係を示す図である。
【図6】第1実施例の制御手段の構成を示すブロック図である。
【図7】第1実施例における加速搬送手段の構成と作用を示す拡大図である。
【図8】本発明の第2実施例を示す孔版印刷装置の概略構成図である。
【図9】第2実施例における加速搬送手段の構成を示す拡大図である。
【図10】押圧検知手段の構成と動作を示す拡大図である。
【図11】第2実施例の制御手段の構成を示すブロック図である。
【図12】第2実施例の制御手段による用紙の加速と減速を示すタイミングチャートである。
【図13】第2実施例の加速制御手段の作用を示す拡大図である。
【符号の説明】
3 版胴
10 押圧手段
11 印刷部
12 排紙部
13 帯電手段
14 静電吸着ベルト
15 除電手段
16,190 加速搬送手段
19 用紙
62,162 駆動部
84 搬送ベルト
84a 搬送ベルトの搬送面
85 吸引手段
89,189 制御手段
103 ベルト検知手段
107 押圧検知手段
a 用紙搬送方向
L 静電吸着ベルトの全長
L1 版胴の外周長
Claims (2)
- 版胴と、これに対して接離可能に設けた押圧手段とが対向する印刷部を通過して設けられた静電吸着ベルトで用紙を静電吸着し、上記印刷部よりも用紙搬送方向の下流側に配置された排紙部に向かって搬送する孔版印刷装置において、
上記静電吸着ベルトが上記版胴の外周長よりも長い全長に形成され、
この静電吸着ベルトを回転駆動する駆動部と、この駆動部を用紙の印刷後に加速制御する制御手段とを有し、印刷後の用紙を印刷時の搬送速度よりも増速して上記排紙部に排出する加速搬送手段と、
上記静電吸着ベルトの初期位置を検知するベルト検知手段と、
上記押圧手段と上記版胴との接触状態を検知する押圧検知手段とを備え、
上記制御手段は、上記ベルト検知手段による初期位置の検出に基づいて上記静電吸着ベルトの搬送速度を減速した後、上記押圧手段による接触を開始し、該接触を終了して、上記押圧検知手段による検知信号の出力がなくなったことに基づいて、上記静電吸着ベルトの搬送速度を増速し、その後に上記ベルト検知手段により初期位置を検出するまで静電吸着ベルトの増速した状態を保持するように、上記駆動部を制御する孔版印刷装置。 - 請求項1記載の孔版印刷装置において、
上記印刷部よりも用紙搬送方向の上流側に配置され上記静電吸着ベルトを帯電させる帯電手段と、上記印刷部よりも用紙搬送方向の下流側に配置され該印刷部を通過した用紙と静電吸着ベルトを除電する除電手段とを備えた孔版印刷装置。
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