JP3937683B2 - トルクスプリット式四輪駆動車における四輪駆動装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、モード切換えスイッチの操作に応じて、副変速機の機能として高速と低速との間で駆動モードを切り換えると共に、クラッチの機能として四輪駆動と二輪駆動との間で駆動モードを切り換えるトルクスプリット式四輪駆動車における四輪駆動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、トルクスプリット式四輪駆動車に適用される四輪駆動装置においては、二輪駆動と四輪駆動とを切り換えられる所謂パートタイム方式のものが広く普及に至っている。この型式の四輪駆動装置は、通常、エンジンからの駆動力を複数のギヤポジションから選択されたギヤポジションで変速して出力する変速機、及び変速機からの変速された出力が入力される入力軸と、入力軸の回転を四輪駆動モードと二輪駆動モードとを含む複数の駆動モードに切り換えて出力軸に出力する切換え機構と、駆動モードに応じて制御されて前後輪に駆動力を分配するクラッチとを備えたトランスファ装置から構成されている。また、トランスファ装置においては、手動操作等によって低速駆動モードが選択されるときには、前後輪を機械的に直結する所謂メカニカルロック方式が採用されている。
【0003】
図5は、従来のトルクスプリット式四輪駆動車に適用されている四輪駆動装置を示す概略図である。四輪駆動車は、図中左側に位置する前輪1、右側に位置する後輪2、及び後輪2を常時直接的に駆動するエンジン3を備えている。即ち、この四輪駆動車は後輪駆動(FR)ベースとなっている。
【0004】
四輪駆動装置5は、エンジン3からの駆動力を複数のギヤポジションから選択されたギヤポジションで変速して出力する変速機4と、変速機4から出力された駆動力或いはトルクが入力されて前後輪1,2に各々出力するためのトランスファ装置6とを有する。変速機4は、マニュアルトランスミッションであっても、オートマチックトランスミッションであってもよい。トランスファ装置6は、主として、セレクタレバー7の手動操作によって高速段(以下ハイモード(H)という)及び低速段(以下ローモード(L)という)を切り換えるための切換え機構8と、切換え機構8からの入力を実質的に分配するためのクラッチ9とから構成されている。
【0005】
切換え機構8は、入力軸10に同軸に設けられた入力スプライン11及び入力ギヤ12と、サンギヤとしての入力ギヤ12及び固定ギヤ13間で歯合回転するプラネタリギヤ14と、プラネタリギヤ14の回転に伴って入力軸10回りを回転する円筒状ギヤ15とを有する。入力スプライン11及び円筒状ギヤ15に付属したスプラインは、それぞれ、セレクタレバー7の操作により、スライド可能なシフトスリーブ18を介して後輪駆動軸16の入力端の駆動スプライン16aに選択的に接続される高速用スプライン又は低速用スプラインである。
【0006】
図示例においては、ハイモード(H)にあるときに、シフトスリーブ18は、入力スプライン11と駆動スプライン16aとを接続して、入力軸10を後輪駆動軸16に直結する。入力軸10の駆動力はそのままシフトスリーブ18を介して後輪駆動軸16に伝達され、後輪駆動軸16を高速駆動する。このとき、後述するクラッチ9をオン状態にすると、後輪2を駆動すると共に、前輪駆動軸33を介して前輪1を駆動する高速四輪駆動モード(4H)が選択される。クラッチ9をオフ状態にすると、後輪2のみを駆動する高速二輪駆動モード(2H)が選択される。一方、ローモード(L)が選択されると、シフトスリーブ18は、遊星回転する円筒状ギヤ15と駆動スプライン16aとを接続して、後輪駆動軸16を減速回転させる。このとき、後述するシフトスリーブ29もシフトして直結用スプライン27,28を直結し、クラッチ9の作動状態に関わらず、前輪1と後輪2とを駆動する四輪駆動状態となる。なお、高速四輪駆動モード(4H)は、通常の雪道、ぬかるみ等の路面状況で選択され、低速四輪駆動モード(4L)は、急坂、極悪路、けん引等の比較的高い駆動力を要する状況で選択される。シフトスリーブ18は、エンジン3からの駆動力がそのまま伝達される高速用スプラインである入力スプライン11と、エンジン3からの駆動力が減速回転されて伝達される円筒状ギヤ15のスプラインとに対して選択的に係合可能なH−L切換え用シフトスリーブである。また、シフトスリーブ29は、出力軸を構成する前輪駆動軸33と後輪駆動軸16とを直結又は分離可能に係合可能なメカニカルロック用シフトスリーブである。
【0007】
後輪駆動軸16の出力端には、終減速装置17の一部をなす小ギヤ16bが設けられており、小ギヤ16bは、デファレンシヤルケース19に一体に設けられた大ギヤ20を駆動する。大ギヤ20は、左右の差動小ギヤ21及び後輪車軸22を介して後輪2をそれぞれ駆動する。なお、後輪駆動軸16において、そのトランスファ装置6から延出する部分は、後輪側プロペラシャフト16cによって形成されている。
【0008】
クラッチ9は、後輪駆動軸16に列設された複数のインナプレート23と、インナプレート23間に配置されたアウタプレート24との摩擦接続により駆動力を分配する湿式多板式のクラッチである。インナプレート23は後輪駆動軸16に、またアウタプレート24はクラッチハウジング25にそれぞれスプライン嵌合されており、両プレート23,24は、後輪駆動軸16又はクラッチハウジング25にそれぞれ軸方向にはスライド移動可能であるが、回転方向には移動不能である。クラッチハウジング25は、後輪駆動軸16の回りを回転可能である。インナプレート23とアウタプレート24とは、その近傍に固定されたアクチュエータ即ち電磁ソレノイド26が発生させる電磁力によりスライド移動して圧着を行う。クラッチ9においては、電磁ソレノイド26への通電を制御することで、インナプレート23とアウタプレート24との接触状態或いは当たり具合を制御することにより、前後輪1,2への分配トルクを車両の走行状態に応じて制御することができる。四輪駆動車は、クラッチ9の締結力を制御することにより、クラッチ9から0:100〜50:50(前輪:後輪)の分配トルクを常時連続的に得ることができる、トルクスプリット型四輪駆動車として機能する。
【0009】
クラッチハウジング25と後輪駆動軸16とには、上記の直結用スプライン27,28がそれぞれ設けられている。直結用スプライン27,28は、ローモード(L)が選択されたとき、スライド可能なシフトスリーブ29によって互いに接続される。シフトスリーブ29による接続状態では、クラッチハウジング25は後輪駆動軸16に直結され、クラッチ9の作動状態に関係なくメカニカルロックが達成され、クラッチ9による分配トルク制御はされない。しかしながら、クラッチ9の作動系統が故障したときでも、四輪駆動状態が確保される。
【0010】
クラッチハウジング25にはスプロケット30が設けられており、スプロケット30に入力された前輪駆動力は、チェーン31及び駆動スプロケット32を介して前輪駆動軸33に伝達される。前輪駆動軸33の出力軸には終減速装置34の一部をなす小ギヤ35が設けられ、小ギヤ35は大ギヤ36、デファレンシヤルケース37、差動小ギヤ38及び前輪車軸39を介して前輪1をそれぞれ駆動する。なお、前輪駆動軸33において、そのトランスファ装置6から延出する部分は前輪側プロペラシャフト33aによって形成されている。
【0011】
トランスファ装置6において、後輪駆動軸16と前輪駆動軸33とには速度検出のための突起付ディスク41,42がそれぞれ設けられている。突起付ディスク41,42は、その周縁部に等間隔且つ複数の突起を有する。突起付ディスク41,42の近傍には、ホール素子を用いた無接触近接式の速度センサ43,44が設けられている。速度センサ43,44は、回転するディスク41,42の突起が通過する毎にパルス信号を出力する。
【0012】
速度センサ43,44は、クラッチ9の電子制御等を行うためのコンピュータ式のコントローラ45に電気的に接続されている。コントローラ45は、速度センサ43,44からの信号及び他の信号等を入力する入力部46と、入力部46からの入力信号に基づき演算処理を行う演算処理部47と、演算処理部47で得られた出力値に基づき作動電流を出力する出力部48とから構成されている。出力部48からの作動電流は、具体的にはパルス電圧によるデューティ比の変化により増減される。作動電流が電磁ソレノイド26に送出されることにより、クラッチ9の電子制御が達成される。コントローラ45は、セレクタレバー7の選択モードを示すスイッチ信号や、後述する断続機構40の接続状態を示す信号等も受信して、四輪駆動装置5を一括して制御する。
【0013】
通常の高速四輪駆動モード(4H)において、演算処理部47は、速度センサ43,44からのパルス信号を読み取り、時間当たりの回転位相から各軸16,33の回転速度、更にはそれらを補正して後輪速度Vr及び前輪速度Vfを算出する。これら両速度間に速度差がある場合、例えば発進加速等においてVr>Vfの場合には、その速度差を打ち消すように前輪1側にトルクを分配させる。具体的には、電磁ソレノイド26に与える作動電流を増大して、インナプレート23とアウタプレート24との押付けを強くする。一方Vr≒Vfの場合は、それらプレート23,24の押付けを逆に弱くする。このように、コントローラ45は、速度センサ43,44からパルス信号が送出される瞬間毎に、インナプレート23とアウタプレート24との圧着を行い、クラッチ9の制御を行っている。
【0014】
ところで、四輪駆動装置5では、セレクタレバー7の操作により、上記ハイモード(4H)及びローモード(4L)に加え高速二輪駆動モード(2H)を選択することが可能である。高速二輪駆動モード(2H)では、シフトスリーブ18,29が占める位置は高速四輪駆動モード(4H)の場合の位置に等しく、クラッチ9は断たれた状態にあり、締結力制御はされない。
【0015】
高速二輪駆動モード(2H)のとき、一方即ち左側の前輪車軸39は、その中間位置において、接続・分断を行うための断続機構40によって分断される。具体的に、前輪車軸39は分割車軸39a,39bからなり、分割車軸39a,39bは、高速四輪駆動モード(4H)のときには接続スリーブ40aを介して接続される一方、高速二輪駆動モード(2H)のときには接続スリーブ40aのスライド移動により分断される。ここで接続スリーブ40aの移動は、セレクタレバー7の操作と同期して、アクチュエータ40bによる空気圧制御によって自動的になされる。分断された状態では、左右の前輪1,1はフリーに回転することができ、走行中の前輪1,1の回転による前輪駆動軸33からクラッチハウジング25に至る前輪駆動系の駆動が防止される。前輪駆動系は四輪駆動車が走行中であっても静止状態に保持されるので、燃費の悪化を防止することができる。
【0016】
四輪駆動装置5におけるモード切換えは、上記のように、セレクタレバー7の操作によって行われているが、このモード切換えをシフトモータによって行うことが提案されている。図3は、トランスファ装置6におけるモード切換えをシフトモータによって行う四輪駆動装置の切換え機構に繋がるシフト機構を示す斜視図である。図3に示すシフト機構においては、図5に示す四輪駆動装置に示した構成要素と同等の構成要素には同じ符号を付すことにより再度の説明を省略する。トランスファ装置6には、シフト機構のモード切換え用にシフトモータ50が設けられている。シフトモータ50の回転出力は、後輪駆動軸16上に配置されたシフトスリーブ18,29をシフト操作するため、適宜の変換機構を介して、シフトスリーブ18,29を後輪駆動軸16に沿って移動させる軸方向変位に変換される。
【0017】
図3に示すシフト機構によれば、H−L切換え用のシフトスリーブ18とメカニカルロック用のシフトスリーブ29とは、シフトモータ50が出力する回転駆動力によってシフト操作される。シフトモータ50の出力軸51にはウォーム52が設けられており、ウォーム52は、出力軸51と直交配置されたシフトシャフト53の一端上に固定的に設けられたウォームホイール54と噛み合っている。シフトシャフト53の他端には、シフトカム55がシフトシャフト53に対して回転自在に配置されており、シフトカム55とシフトシャフト53との間には、巻上げスプリング56が設けられており、シフトシャフト53が回転するときに、巻上げスプリング56のばね力を介してシフトカム55が回転される。
【0018】
シフトシャフト53と後輪駆動軸16との間には、平行にシフトロッド57が配設されている。シフトロッド57には、シフトカム55にカム係合するシフトフォーク58とメカニカルロック用のシフトアーム59とが摺動可能に配置されている。シフトフォーク58は、後輪駆動軸16上に摺動可能に配置されたシフトスリーブ18と係合しており、シフトシャフト53の図示する回転方向(H[High]又はL[Low])に応じてシフトカム55のカム作用によりシフトロッド57上を摺動する。シフトフォーク58がシフトロッド57上をシフトする方向に対応して、シフトスリーブ18は、切換え機構8におけるサンギヤとしての入力ギヤスプライン11に係合させて変速機4の出力を高速回転で後輪駆動軸16に伝達する高速四輪駆動モード(4H)、又はシフトスリーブ18を、切換え機構8におけるプラネタリギヤ14と共に回転する円筒状ギヤ15に係合させて変速機4の出力を低速回転で後輪駆動軸16に伝達する低速四輪駆動モード(4L)に選択的にシフトする。
【0019】
メカニカルロック用のシフトアーム59は、後輪駆動軸16上に摺動可能に配置されたメカニカルロック用のシフトスリーブ29に係合しており、シフトシャフト53の回転方向に応じてシフトロッド57上を摺動することにより、メカニカルロック状態とメカニカルロックフリー状態とのいずれかに選択される。シフトアーム59は、シフトフォーク58が低速四輪駆動モード(4L)を選択する側にシフトするときには、シフトスリーブ29を直結用スプライン27,28に接続させて、後輪駆動軸16とクラッチハウジング25とをメカニカルロックする。シフトアーム59が高速二輪駆動モード(2H)を選択する側にシフトする場合、シフトスリーブ18,29の位置は、それぞれ高速四輪駆動ハイモード(4H)の場合と同様である。シフトアーム59は、シフトロッド57上にトランスファ装置のケーシングとの間において配置されたリターンスプリング60によって、高速二輪駆動モード(2H)にシフトする方向に付勢されている。
【0020】
ウォームホイール54に関連して、エンコーダ61が取り付けられている。エンコーダ61は、シフトモータ50の駆動によってウォームホイール54と共に回転するエンコーダポジションプレート62と、エンコーダポジションプレート62に対向して配置された非回転のセンサプレート63とから構成されている。エンコーダポジションプレート62の一側の端面には、半径の異なる位置に、それぞれ周方向に異なる範囲にわたって弧状の検出用ストラップ(図示せず)が配置されており、ケースに固定されているセンサプレート63には、複数(この実施例では、4個)の検出端子64が径方向に並べて配設されている。ウォームホイール54の回転に伴ってエンコーダポジションプレート62が回転するとき、検出端子64が検出用ストラップを検出した検出信号の組合せによって、シフトモータ50の出力軸51の回転位置(モータポジション)を特定することができる。検出端子64によるポジションコードの検出は、各検出端子64とGND端子との導通のオンーオフを読み取ることにより行われる。
【0021】
エンコーダ61の4個の検出端子64が検出した検出状態とモータポジションとの対応関係が、図4に表の形式で示す「モータポジションとエンコーダポジションコード一覧」に掲載されている。図4に示すように、ハイ側終端、ハイ側終端手前及びハイポジションから成るハイポジション領域I〜III、中間ゾーン1、中間ゾーン2、ニュートラルポジション及び中間ゾーン3から成る中間ポジション領域IV〜VII、並びに、ローポジション及びロー側終端から成るローポジション領域VIII〜IXの合計9つのモータポジションに応じて、それぞれ、ポジション1〜4に配置されているエンコーダの検出信号のONとOFFとが対応している。
【0022】
乗用車においては、居住性の向上を目指してエンジンをフロントに配置し前輪を駆動する、所謂、FF車が主流であり、また燃費の向上を目指して車体を軽量に製作すると共に、トランスミッションやトランスファのギヤ耐久性を高めることが考慮されている。乗用車を四輪駆動車として構成する場合、低速駆動モードでは、後輪へトルクを伝達するためのクラッチの締結率を高くして四輪駆動モードとして走行させ、スリップを生じ難くして発進性を向上させており、高速駆動モードでは、後輪へのトルク伝達のためのクラッチの締結率を低くして実質的に二輪駆動モードとして走行させ、ギヤ耐久性を向上させることが図られている。
【0023】
上記のような、走行状態に応じてクラッチの締結率を変更するため、入力トルク(エンジン出力)と変速比とに応じて無段変速装置(ベルト式の無段変速装置CVT)とセンタデファレンシャルとの伝達トルク容量を制御することが提案されている(特開昭62−258819号公報)。低速走行時に四輪駆動モードとすると、ステアリングを大きく操作したとき所謂、タイトコーナ状態となることがあるが、そうした状態のときには、クラッチの締結率を別に補正して、締結率を下げ、操舵性の低下の防止が図られている。また、エンジンからクラッチを介して動力が伝達される伝達駆動輪へのトルク伝達量の制御に際して、トルクに見合ったクラッチ圧力を出力して、1速や後進のような低速段ではトルク伝達量を大きく設定し、2速以上の高速段ではトルク伝達量を小さく設定して、ギヤの歯元応力を軽減してギヤ耐久性を向上した四輪駆動車のトルク伝達量制御装置が提案されている(特開平6−92156号公報)。上記各公報に記載されているような自動変速機と、四輪駆動及び二輪駆動を区分けるトルクスプリット制御との組合せでは、変速機のギヤポジションに関わらず、スロットル開度と車速からなる制御マップに従って、イニシャルトルクが設定されているのみである。
【0024】
【発明が解決しようとする課題】
ギヤポジションの選択が行われる変速機とトルクスプリット制御を行うトランスファ装置とが組み合わされてなるトルクスプリット式四輪駆動車における四輪駆動装置では、一つの同じ制御マップを用いるのでは、変速機で選択されるギヤポジションが変更される毎に運転者が感じるフィーリングが異なり、違和感が感じられる。そこで、上記トランスファ装置において高速四輪駆動駆動モードが選択されている四輪駆動装置において、変速機で選択されているギヤポジションを考慮して最適なトルクスプリット制御を行うことで、ギヤポジションが変更される際のフィーリングを良好にし、走行安定性を向上する点で解決すべき課題がある。
【0025】
特に、車両のスポーツ性の向上を目指した車両(SUV)では、悪路の走行に対応するため車体の強度を高めて頑丈に構成する必要がある。悪路やカーブの多い走路をも難なく走行させるには、そのような走路では低速で駆動されることに着目して、低速駆動モードではタイトコーナ現象が生じるのを防止することが望ましい。また、高速駆動モードでは、伝達駆動輪へのトルクを伝達するクラッチの締結率をある程度高めておいて操舵性を向上させることが望ましい。
【0026】
【課題を解決するための手段】
この発明の目的は、上記課題を解決することであり、変速機と組み合わされるトランスファ装置を備えたトルクスプリット式四輪駆動車における四輪駆動装置において、変速機のギヤポジションが変更されても、ギヤポジションに応じた最適なマップ制御を行うことでフィーリングを良好に維持することを可能にするトルクスプリット式四輪駆動車における四輪駆動装置を提供することである。
【0027】
この発明は、エンジンからの駆動力を複数のギヤポジションから選択された前記ギヤポジションで変速して出力する変速機、前記変速機からの変速された出力が入力される入力軸と、前記入力軸の回転を少なくとも高速四輪駆動モードを含む四輪駆動モードと二輪駆動モードとを含む複数の駆動モードに切り換えて出力軸に出力する切換え機構と、前記駆動モードに応じて制御されて前後輪に駆動力を分配するクラッチとを備えたトランスファ装置、前記駆動モードを切り換えるために操作され且つ選択された前記駆動モードに対応した指令信号を出力するモード切換えスイッチ、及び前記モード切換えスイッチからの前記指令信号に応答して前記クラッチを断接させると共に前記切換え機構を対応した前記駆動モードに切り換えるための出力信号を出力するコントローラを具備し、
前記コントローラは、前記トランスファ装置において、前記高速四輪駆動モードに対応して予め用意され且つ車速に応じて前記クラッチの締結率が定められた複数の制御マップの中から、前記変速機において選択された前記ギヤポジションに対応して前記制御マップを選択し、選択された当該制御マップに基づいて前記クラッチの締結率を前記車速に応じて制御し、更に、前記変速機において選択された前記ギヤポジションが中立位置であることに対応して、前記制御マップとして、前記クラッチの締結率が前記車速に対して略比例しているフリーランマップを選択することから成るトルクスプリット式四輪駆動車における四輪駆動装置に関する。
【0028】
この発明によるトルクスプリット式四輪駆動車における四輪駆動装置では、コントローラは、トランスファ装置の切換え機構において切り換えられた高速四輪駆動モードについて、変速機において選択されたギヤポジションに応じてトランスファ装置のクラッチの締結率に関して車速に応じた複数の制御マップを予め用意しており、選択されたギヤポジションに対応して、クラッチの締結率制御を行う際に基づくべき制御マップが切り換えられ、切り換えられた制御マップに基づいてクラッチの車速に応じた締結率制御が行われる。従って、トランスファ装置の切換え機構において選択された高速四輪駆動モードでの運転中に、変速機においてギヤポジションが切り換えられたとき、そのギヤポジションに応じて選択された制御マップに基づいてトランスファ装置のクラッチの締結率が最適に制御されるので、変速機のギヤポジションの切換えが行われたときに感じられる違和感が解消される。即ち、変速機の各ギヤポジションの切換えが検出されたときに、最適な制御マップが選択され、その制御マップに基づいてクラッチの締結率、特にイニシャルトルクが車速に応じて制御される。特に、運転者の操作によってギヤポジションが選択される手動変速機において、切換え時の走行のフィーリングの悪化が防止される。
【0029】
このトルクスプリット式四輪駆動車における四輪駆動装置では、トランスファ装置の切換え機構において選択された高速四輪駆動モードでの運転中に、更に、変速機において選択された前記ギヤポジションが中立位置であることに対応して、前記高速四輪駆動モードに対応して予め用意された複数の前記制御マップの中から前記制御マップとして、前記クラッチの締結率が前記車速に対して略比例しているフリーランマップを選択しているので、変速機からの駆動力がトランスファ装置に入力されない中立状態の場合でも、トランスファ装置のクラッチが車速に略比例して締結されることにより、前輪と後輪とがある程度締結され、車両の走行安定性を向上することができる。
【0030】
上記トルクスプリット式四輪駆動車における四輪駆動装置において、トランスファ装置の切換え機構において選択された高速四輪駆動モードでの運転中に、前記コントローラは、前記変速機において選択された前記ギヤポジションが後進段、又は所定前進段未満のギヤポジションであることに対応して、前記高速四輪駆動モードに対応して予め用意された複数の前記制御マップの中から前記制御マップとして、所定車速未満での前記クラッチの前記締結率が前記フリーランマップにおける前記締結率よりも低い低速駆動用マップを選択することができる。変速機におけるギヤポジションが所定前進段未満の低速段に選択されているときには、所定車速未満でフリーランマップの場合よりもクラッチの締結率を更に低くするので、前輪と後輪との拘束性が一層低下し、悪路を頻繁にステアリングを大きく切って走行する場合等では、タイトコーナ現象を生じることなく車両のステアリング操作性を向上させることができる。所定前進段未満のギヤポジションとしては、例えば、第1速又は第2速とすることができる。低速駆動用マップとしては、車速の極低速域では締結率がフリーランマップにおける締結率よりも更に低く、その分、車速の増加領域では締結率の増加率を大きくすることができる。
【0031】
上記トルクスプリット式四輪駆動車における四輪駆動装置において、トランスファ装置の切換え機構において選択された高速四輪駆動モードでの運転中に、更に、前記コントローラは、前記変速機において選択された前記ギヤポジションが所定前進段以上のギヤポジションであることに応答して、前記高速四輪駆動モードに対応して予め用意された複数の前記制御マップの中から前記制御マップとして、所定車速以下での前記クラッチの前記締結率が前記フリーランマップにおける前記締結率よりも高い高速駆動用マップを選択することができる。変速機におけるギヤポジションが所定前進段以上の高速段に選択されているときには、所定車速以下でフリーランマップの場合よりもクラッチの締結率を更に高くするので、前輪と後輪との拘束性が高められ、4輪駆動の走行性を向上させることができる。所定前進段以上のギヤポジションとしては、例えば、第3速以上とすることができる。高速駆動用マップとしては、車速の極低速域では締結率がフリーランマップにおける締結率よりも高く、その分、締結率の車速に応じた増加率を小さくすることができる。
【0032】
この四輪駆動装置において、前記トランスファ装置で選択される前記駆動モードは、前記クラッチを切断した状態の高速二輪駆動モード、若しくは前記クラッチを接続した高速四輪駆動モード又は低速四輪駆動モードである。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照しつつ、この発明によるトルクスプリット式四輪駆動車における四輪駆動装置の実施例を説明する。図1はこの発明によるトルクスプリット式四輪駆動車における四輪駆動装置のコントローラによるクラッチ制御内容の一例を示すフローチャート、図2は図1に示すコントローラによる制御内容に対応したクラッチの締結率に関する制御マップの一例を示すグラフである。図2には、トランスファ装置の切換え機構において高速四輪駆動モードが選択されている場合に、変速機の複数のギヤポジションにそれぞれ対応して、車速に対するクラッチの締結率の変化としての複数の制御マップが、重ねて示されている。トランスファ装置の構造については、図3〜図5に示したトランスファ装置6の構造と同じであるので、再度の説明を省略する。
【0034】
図1において、この発明による四輪駆動装置におけるマップ切換え制御がスタートすると、操作されたモード切換えスイッチ90によって選択され(ステップ1)、選択された駆動モードに従ってトランスファ装置6の駆動モードが切り換えられる。以下、切り換えられた駆動モードにおいて、変速機4のシフト操作により選択されるギヤポジションに応じて、クラッチ9の締結率制御が行われる。車両においてエンジンとトランスミッションとの間に配設されているクラッチの断接状態、即ち、接続状態であるか切断状態であるかの確認が行われる(ステップ2)。ステップ2の確認に基づいて上記クラッチが接続しているか否かが判断される(ステップ3)。ステップ3の判断結果が是、即ち、エンジンとトランスミッションとの間に配設されているクラッチが接続状態である場合には、変速機のギヤポジション(ギヤポジション)が確認される(ステップ4)。次いで、変速機4のギヤポジションがニュートラル(中立位置)か否かが判断される(ステップ5)。
【0035】
ステップ3においてエンジンとトランスミッションとの間に配設されているクラッチが切断状態であると判断される場合、及びステップ5において変速機4のギヤポジションがニュートラルであると判断される場合には、クラッチ9の締結率に関する制御マップは、フリーランマップへ切り換えられる(ステップ6)。トランスファ装置6に入力される駆動力(トルク)がゼロであっても、前輪1と後輪2とを互いに自由に回転させるのではなく、ある程度、前後輪1,2を拘束した状態で回転させる方が車両の走行が安定するので、フリーランマップは、ゼロでない締結率を定めている。
【0036】
変速機4のギヤポジションがニュートラルでない場合には、変速機4のギヤポジションが後進(Rev)、ファースト(1st)、又はセカンド(2nd)のギヤポジションであるか否かが判断される(ステップ7)。変速機4のギヤポジションがRev、1st又は2ndのギヤポジションである場合には、低速段用の制御マップに切り換えられる(ステップ8)。変速機4のギヤポジションがRev、1st及び2ndのどれでもない(3rd以上)場合には、高速段用マップに切り換えられる(ステップ9)。図2には、トランスファ装置の切換え機構において高速四輪駆動モードが選択されている場合に、車速V(横軸)と、クラッチ9の締結率f(縦軸)との関係が示されている。図2の(A)は、フリーランマップであり、車速Vの殆どの領域で極低い締結率が設定されている。フリーランマップにおいては、極低速域では締結率fは低い値であり、クラッチの締結率fは車速Vに対して略比例している。図2の(B)は、低速段用(低速駆動用)の制御マップであり、所定車速未満でのクラッチの締結率fがフリーランマップ(A)における締結率よりも低く設定されている。即ち、車速Vが速くなるに従って上昇する増加率が大きく且つ極低速域のみ低い値に抑えられた締結率が設定されている。このような低速段用の制御マップを設定することにより、悪路を頻繁にステアリングを大きく切って走行する際には、車両は、タイトコーナ現象を生じることなく、軽快に走行可能である。図2の(C)は、高速段用(高速駆動用)の制御マップであり、所定車速以上でのクラッチの締結率fがフリーランマップ(A)における締結率よりも高く設定されている。即ち、低速段用の制御マップより低速域での締結率が高く、且つ車速Vが速くなるに従って低速段用の制御マップと同等となるように車速Vに対する増加率が小さい締結率が設定されている。このような締結率の設定により、車両の高速走行時における走行安定性が確保される。
【0037】
ステップ8で低速段用マップに切り換えられた後、ステップ9で高速段用マップに切り換えられた後、及びステップ6でフリーランマップに切り換えられた後には、エンジンとトランスミッションとの間に設けられているクラッチ又は変速機4のシフト操作が行われたか否かが判断される(ステップ10)。ステップ10において、エンジンとトランスミッションとの間に設けられているクラッチ又は変速機4のシフトを操作を行ったと判断されるときには、ステップ2に戻って上記フローが再度、実行される。ステップ10において、エンジンとトランスミッションとの間に設けられているクラッチ又は変速機4のシフト操作を行っていないと判断される場合には、トランスファ装置6の駆動モードが切り換えられたか否かが判断される(ステップ11)。トランスファ装置6の駆動モードが切り換わっていればこの制御フローは終了し、トランスファ装置6の駆動モードが切り換わっていなければステップ10に戻って、エンジンとトランスミッションとの間に設けられているクラッチ又は変速機4のシフト操作の有無が判断される。
【0038】
【発明の効果】
この発明によるトルクスプリット式の四輪駆動装置によれば、コントローラは、変速機のギヤポジションに応じてトランスファ装置のクラッチの締結率に関して予め用意した複数の制御マップの中から、変速機のギヤポジションに対応した制御マップに切り換えられて、切り換えられた制御マップに基づいてトランスファ装置のクラッチ制御が行われる。変速機においてギヤポジションが切り換えられたとき、そのギヤポジションに応じて切り換えられた制御マップに基づいてトランスファ装置のクラッチ締結率が高速四輪駆動モード運転に応じて最適に制御されるので、運転者等の違和感が解消され、運転上の良好なフィーリングが維持される。更に、このトルクスプリット式の四輪駆動装置に変速機においては、高速四輪駆動モード運転中に、選択されたギヤポジションが中立位置であることに対応して、制御マップとしてクラッチの締結率が車速に対して略比例しているフリーランマップを選択している。したがって、高速四輪駆動モード運転中には、変速機からの駆動力がトランスファ装置に入力されない中立状態の場合でも、トランスファ装置のクラッチが車速に略比例して締結され、前輪と後輪とがある程度締結されることによって、車両の走行安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明によるトルクスプリット式四輪駆動車における四輪駆動装置のコントローラによるクラッチ制御内容の一例を示すフローチャートである。
【図2】図1に示すコントローラによる制御内容に対応したクラッチの締結率に関する制御マップの一例を示すグラフであり、(A)はフリーランマップ、(B)は低速用の制御マップ、(C)は高速用の制御マップである。
【図3】この発明によるトランスファ装置に用いられるシフト機構の一実施例を示す斜視図である。
【図4】図3に示すシフト機構に用いられるシフトモータのモータポジションとエンコーダポジションコードとの一覧を示す図である。
【図5】従来の四輪駆動車に適用されている四輪駆動装置を示す概略図である。
【符号の説明】
1 前輪
2 後輪
3 エンジン
4 変速機(トランスミッション)
5 四輪駆動装置
6 トランスファ装置
8 切換え機構
9 クラッチ
10 入力軸
16 後輪駆動軸(出力軸)
18 シフトスリーブ(H−L切換え用)
27,28 直結スプライン
29 シフトスリーブ(メカニカルロック用)
45 コントローラ
50 シフトモータ
55 シフトカム
57 シフトロッド
58 シフトフォーク(H−L切換え用)
59 シフトアーム(メカニカルロック用)
61 エンコーダ
62 エンコーダポジションプレート
63 センサプレート
64 検出端子
90 モード切換えスイッチ
V 車速
f 締結率
Claims (3)
- エンジンからの駆動力を複数のギヤポジションから選択された前記ギヤポジションで変速して出力する変速機、前記変速機からの変速された出力が入力される入力軸と、前記入力軸の回転を少なくとも高速四輪駆動モードを含む四輪駆動モードと二輪駆動モードとを含む複数の駆動モードに切り換えて出力軸に出力する切換え機構と、前記駆動モードに応じて制御されて前後輪に駆動力を分配するクラッチとを備えたトランスファ装置、前記駆動モードを切り換えるために操作され且つ選択された前記駆動モードに対応した指令信号を出力するモード切換えスイッチ、及び前記モード切換えスイッチからの前記指令信号に応答して前記クラッチを断接させると共に前記切換え機構を対応した前記駆動モードに切り換えるための出力信号を出力するコントローラを具備し、
前記コントローラは、前記トランスファ装置において、前記高速四輪駆動モードに対応して予め用意され且つ車速に応じて前記クラッチの締結率が定められた複数の制御マップの中から、前記変速機において選択された前記ギヤポジションに対応して前記制御マップを選択し、選択された当該制御マップに基づいて前記クラッチの締結率を前記車速に応じて制御し、更に、前記変速機において選択された前記ギヤポジションが中立位置であることに対応して、前記制御マップとして、前記クラッチの締結率が前記車速に対して略比例しているフリーランマップを選択することから成るトルクスプリット式四輪駆動車における四輪駆動装置。 - 前記コントローラは、前記変速機において選択された前記ギヤポジションが後進段、又は所定前進段未満のギヤポジションであることに対応して、前記高速四輪駆動モードに対応して予め用意された複数の前記制御マップの中から前記制御マップとして、所定車速未満での前記クラッチの前記締結率が前記フリーランマップにおける前記締結率よりも低い低速駆動用マップを選択することから成る請求項1に記載のトルクスプリット式四輪駆動車における四輪駆動装置。
- 前記コントローラは、前記変速機において選択された前記ギヤポジションが所定前進段以上のギヤポジションであることに応答して、前記高速四輪駆動モードに対応して予め用意された複数の前記制御マップの中から前記制御マップとして、所定車速以下での前記クラッチの前記締結率が前記フリーランマップにおける前記締結率よりも高い高速駆動用マップを選択することから成る請求項2に記載のトルクスプリット式四輪駆動車における四輪駆動装置。
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