駆動力源としては、少なくとも回転機を備えていれば良く、回転機のみを有する電動車両や、回転機およびエンジン(内燃機関)を有するハイブリッド型車両が対象となる。回転機は、電動モータおよび発電機として選択的に用いることができるモータジェネレータで、電動モータとして用いられることにより駆動力源として機能し、発電機として用いられることにより回生ブレーキを付与することができる。駆動力分配装置は、例えば駆動力分配用クラッチの係合トルクに応じて分配率を連続的に変化させることができる電子制御式トランスファや、差動制限クラッチ付きのセンターディファレンシャル装置などが適当である。駆動力分配用クラッチや差動制限クラッチは、例えば係合トルクに応じて分配率を連続的に調節できるものでも良いし、噛合いクラッチ等により2段階で分配率を調節するものでも良いなど、種々の態様が可能である。
制御装置は、例えば運転者のブレーキペダル操作等による要求制動力に応じて回生ブレーキを付与するように構成されるが、アクセルOFF等の要求駆動力が0の惰性走行時に所定の回生ブレーキを付与するものでも良い。制御装置は、例えばタイトコーナーブレーキング現象に起因して生じるブレーキトルク(タイトコーナーブレーキトルク)の大きさに応じて、タイトコーナーブレーキトルクが大きい場合は小さい場合に比較して回生ブレーキの制限量を大きくするように構成され、例えば4輪駆動車両全体の総ブレーキトルクが変化しないようにタイトコーナーブレーキトルクと同じ大きさだけ回生ブレーキトルクを小さくすることが望ましい。タイトコーナーブレーキトルクに応じて回生ブレーキトルクを段階的に制限しても良い。また、タイトコーナーブレーキング現象が発生した場合には、そのタイトコーナーブレーキトルクの大きさと関係無く、回生ブレーキトルクを一律に制限するだけでも良い。すなわち、必ずしもタイトコーナーブレーキトルクを求める必要はなく、タイトコーナーブレーキング現象が発生するか否かを判定するだけでも良いし、そのタイトコーナーブレーキング現象に起因して生じるタイトコーナーブレーキトルクの大きさを段階的に判定するだけでも良い。
タイトコーナーブレーキトルクは、例えば駆動力分配装置による駆動力の分配率、ハンドル切れ角、前後加速度、左右加速度、前後左右の車輪速等を用いて求める(推定する)ことができる。分配率を調節可能な場合は、分配率によってタイトコーナーブレーキトルクが変化するため、少なくとも分配率を用いて算出することが望ましい。例えば、分配率と、ハンドル切れ角等のタイトコーナーを示すパラメータと、を用いて予め定められたマップ等からタイトコーナーブレーキトルクを求めることができる。分配率を用いることなく、例えば車両の減速度(前後加速度)および制動トルク等に基づいてタイトコーナーブレーキトルクを求めることもできる。
回生ブレーキの一律制限は、一定トルクだけ低減したり、一定割合だけ低減したり、一定の回生ブレーキトルクに制限したり、回生ブレーキを中止したりするなど、種々の態様が可能である。回生ブレーキを中止するなど、回生ブレーキの制限によって総ブレーキトルクが不足する場合は、その不足分をホイールブレーキによって補完することが望ましい。左右前輪および左右後輪にそれぞれ設けられる4つのホイールブレーキは、例えば左右前輪および左右後輪の各ブレーキトルクを電気的に独立に制御できることが望ましいが、前輪と後輪とで独立に制御できるものでも良いなど、種々の態様が可能である。
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用された4輪駆動車両10の駆動系統を説明する骨子図で、4輪駆動車両10における各種制御の為の制御機能の要部を併せて示した図である。この4輪駆動車両10は、前置エンジン後輪駆動方式(FR)を基本とする前後輪駆動(4輪駆動)のハイブリッド型車両である。図1において、4輪駆動車両10は、エンジン12、エンジン12に連結されたHV用伝動装置20、HV用伝動装置20に連結されたトランスファ22を備えている。トランスファ22には、フロントプロペラシャフト24およびリヤプロペラシャフト26が連結されており、エンジン12およびHV用伝動装置20からトランスファ22へ伝達された駆動力は、トランスファ22を介してフロントプロペラシャフト24およびリヤプロペラシャフト26に分配され、フロントプロペラシャフト24からは、前輪用差動歯車装置28および左右の前輪ドライブシャフト32l、32rを介して左右の前輪14l、14r(以下、特に区別しない場合は前輪14という。)に伝達される。また、リヤプロペラシャフト26からは、後輪用差動歯車装置30および左右の後輪ドライブシャフト34l、34rを介して左右の後輪16l、16r(以下、特に区別しない場合は後輪16という。)に伝達される。後輪16は、2輪駆動(2WD)走行中および4輪駆動(4WD)走行中の場合に共に駆動輪となる主駆動輪で、前輪14は、2WD走行中のときに従動輪となり且つ4WD走行中のときに駆動輪となる副駆動輪である。エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関で、走行用の駆動力源として用いられる。トランスファ22は、前輪14および後輪16に駆動力を分配する駆動力分配装置に相当する。
図2は、HV用伝動装置20の具体例を説明する骨子図である。図2において、HV用伝動装置20は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース140(以下、ケース140という。)内において共通の第1軸線C1上に配設された電気式差動部142と、その電気式差動部142に伝達部材148を介して連結された変速部144とを備えている。電気式差動部142は、TM入力軸38を介してエンジン12のクランク軸に直接に或いは図示しないダンパー等を介して間接的に連結されている。なお、電気式差動部142、および変速部144は、第1軸線C1に対して略対称的に構成されているため、図2の骨子図においては下側半分が省略されている。
電気式差動部142は、差動機構146と、差動機構146に動力伝達可能に連結されて差動機構146の差動状態を制御する第1回転機M1と、伝達部材148と一体的に回転するようにその伝達部材148に連結されている第2回転機M2とを備えている。第1回転機M1および第2回転機M2は、電気エネルギーから機械的な駆動力を発生させる電動モータとしての機能、および機械的な駆動力から電気エネルギーを発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータである。第2回転機M2は、主駆動力源であるエンジン12の代替として、或いはそのエンジン12と共に走行用の駆動力を発生させる駆動力源(副駆動力源)として機能する。すなわち、第2回転機M2は、4輪駆動車両10の駆動力源として用いられる回転機である。
差動機構146は、エンジン12に動力伝達可能に連結された差動歯車装置であって、具体的にはシングルピニオン型の遊星歯車装置が用いられており、TM入力軸38に入力されたエンジン12の出力を機械的に第1回転機M1および伝達部材148に分配する動力分配機構である。この差動機構146は、差動部サンギヤS0、差動部ピニオンギヤP0を自転及び公転可能に支持している差動部キャリアCA0、および差動部ピニオンギヤP0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0の3つの回転要素を備えている。差動部キャリアCA0はTM入力軸38すなわちエンジン12に連結され、差動部サンギヤS0は第1回転機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材148に連結されている。このように構成された差動機構146では、各回転要素がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が働く差動状態とされることで、エンジン12の出力が第1回転機M1と伝達部材148とに分配されると共に、分配されたエンジン12の出力の一部で第1回転機M1から発生させられた電気エネルギーで第2回転機M2が回転駆動される。第2回転機M2は、図示しない蓄電装置から電気エネルギーを供給して回転駆動させることもできる。また、第1回転機M1の回転速度が制御されることにより、エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)Neに拘わらず伝達部材148の回転速度を連続的に変化させることが可能で、電気式差動部142の変速比γ0〔=TM入力軸38の回転速度(入力回転速度)Nin/伝達部材148の回転速度(中間回転速度)Ntr〕が連続的に変化させられる。すなわち、電気式差動部142は、電気的な無段変速機としても機能する。なお、入力回転速度Ninはエンジン回転速度Neと同じであり、中間回転速度Ntrは第2回転機M2の回転速度(M2回転速度)Nm2と同じである。
変速部144は、伝達部材148の回転速度である中間回転速度Ntrを段階的に変化させてTM出力軸154に伝達する。変速部144は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置150およびシングルピニオン型の第2遊星歯車装置152を備えており、変速比γt〔=中間回転速度Ntr/TM出力軸154の回転速度(出力回転速度)Nout 〕が異なる複数のギヤ段が機械的に成立させられる有段の自動変速機である。第1遊星歯車装置150は、第1サンギヤS1、第1ピニオンギヤP1を自転及び公転可能に支持している第1キャリアCA1、および第1ピニオンギヤP1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1の3つの回転要素を備えている。第2遊星歯車装置152は、第2サンギヤS2、第2ピニオンギヤP2を自転及び公転可能に支持している第2キャリアCA2、および第2ピニオンギヤP2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2の3つの回転要素を備えている。
上記第1遊星歯車装置150および第2遊星歯車装置152において、第1サンギヤS1は、第3クラッチC3を介して伝達部材148に選択的に連結されると共に、第1ブレーキB1を介してケース140に選択的に連結される。第1キャリアCA1は第2リングギヤR2と一体的に連結されており、その第1キャリアCA1および第2リングギヤR2は、第2クラッチC2を介して伝達部材148に選択的に連結されると共に、第2ブレーキB2を介してケース140に選択的に連結される。第1キャリアCA1および第2リングギヤR2はまた、一方向クラッチF1を介して非回転部材であるケース140に連結されており、エンジン12と同方向の回転が許容され逆方向の回転が禁止されている。第1リングギヤR1は第2キャリアCA2と一体的に連結されており、その第1リングギヤR1および第2キャリアCA2はTM出力軸154に連結されている。第2サンギヤS2は、第1クラッチC1を介して伝達部材148に選択的に連結される。第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す。)は、油圧アクチュエータによって係合させられる油圧式摩擦係合装置であり、図3に示す係合作動表に従って各クラッチCおよびブレーキBが係合させられることにより、前進4速のギヤ段「1st」~「4th」が成立させられるとともに、後進1速のギヤ段「Rev」が成立させられる。また、クラッチCおよびブレーキBが総て解放されることにより、動力伝達を遮断するニュートラル「N」となる。
図4は、前記トランスファ22の具体例を説明する骨子図である。このトランスファ22は、前輪14に対する駆動力の分配率(トルク配分)Rf(=前輪14の駆動力/前輪14および後輪16の合計駆動力)を連続的に電気的に制御できる電子制御式トランスファである。トランスファ22は、非回転部材としてのトランスファケース40(以下、ケース40という。)を備えている。ケース40は、前記HV用伝動装置20のケース140と一体的に連結されている。トランスファ22は、ケース40により回転可能に支持されたTF入力軸42、後輪16へ駆動力を出力する後輪側出力軸44、前輪14へ駆動力を出力するスプロケット状のドライブギヤ46、TF入力軸42の回転を変速して後輪側出力軸44へ伝達する副変速機としてのハイロー変速機構48、後輪側出力軸44からドライブギヤ46へ伝達する伝達トルクを調節する、すなわち後輪側出力軸44の駆動力の一部をドライブギヤ46に伝達する前輪駆動用クラッチ50、後輪側出力軸44およびドライブギヤ46を一体的に連結するドグクラッチとしての4WDロック機構58を、共通の第1軸線C1上に備えている。TF入力軸42および後輪側出力軸44は、相互に同心で相対回転可能に、それぞれ第1支持ベアリング71、第2支持ベアリング(出力軸支持ベアリング)73等を介してケース40によって支持されており、ドライブギヤ46は、後輪側出力軸44に相対回転可能に同心に第3支持ベアリング75を介して支持されている。すなわち、TF入力軸42、後輪側出力軸44、ドライブギヤ46は、それぞれ第1軸線C1まわりに回転可能にケース40によって支持されている。また、後輪側出力軸44のフロント側(図4における左側)の端部はベアリング77によって回転可能に支持されている。上記TF入力軸42は、変速部144のTM出力軸154にスプライン等の継手を介して相対回転不能に連結される。
ハイロー変速機構48は、ハイギヤ段(変速比が小さい高速側変速段)Hおよびローギヤ段(変速比が大きい低速側変速段)Lの何れかを成立させて、TF入力軸42の回転を変速して後輪側出力軸44に伝達する。後輪側出力軸44は、リヤプロペラシャフト26に図示しない継手を介して連結された主駆動軸である。トランスファ22は、ケース40内において、前輪側出力軸52と、前輪側出力軸52に一体的に設けられたスプロケット状のドリブンギヤ54とを、第1軸線C1と平行な共通の第2軸線C2上に備えている。前記ドライブギヤ46とドリブンギヤ54との間には前輪駆動用チェーン56が巻き掛けられており、前記後輪側出力軸44からドライブギヤ46、前輪駆動用チェーン56、およびドリブンギヤ54を介して前輪側出力軸52に駆動力が伝達される。前輪側出力軸52は、フロントプロペラシャフト24に図示しない継手を介して連結された副駆動軸である。
このように構成されたトランスファ22は、ドライブギヤ46へ伝達する伝達トルクを前輪駆動用クラッチ50により調整して、ハイロー変速機構48から伝達された駆動力を後輪16のみへ伝達したり、或いは前輪14に分配したりする。また、トランスファ22は、4WDロック機構58によりリヤプロペラシャフト26とフロントプロペラシャフト24との間の回転差を発生させない4WDロック状態(直結状態)とそれらの間の回転差を許容する4WD非ロック状態(解放状態)とのいずれかに切り替える。つまり、トランスファ22は、前輪駆動用クラッチ50を介した伝達トルクが零とされ且つ4WDロック機構58が解放された状態では、後輪側出力軸44から前輪側出力軸52への動力伝達は行われない一方で、前輪駆動用クラッチ50を介してトルクが伝達されるか或いは4WDロック機構58が直結された状態では、後輪側出力軸44からドライブギヤ46、前輪駆動用チェーン56、およびドリブンギヤ54を介して前輪側出力軸52へ動力伝達が行われる。
上記ハイロー変速機構48は、シングルピニオン型の遊星歯車装置60と、ハイロースリーブ62とを備えている。遊星歯車装置60は、第1軸線C1まわりに相対回転不能にTF入力軸42に連結されたサンギヤSと、サンギヤSに対して同心に配置され、第1軸線C1まわりに回転不能にケース40に連結されたリングギヤRと、これらサンギヤSおよびリングギヤRに噛み合う複数のピニオンギヤPを自転可能且つサンギヤSまわりに公転可能に支持しているキャリアCAとを有している。このため、サンギヤSの回転速度はTF入力軸42に対して等速であり、キャリアCAの回転速度はTF入力軸42に対して減速される。また、サンギヤSの内周面にはハイ側ギヤ歯64が設けられ、キャリアCAにはハイ側ギヤ歯64と同径のロー側ギヤ歯66が設けられている。ハイ側ギヤ歯64は、TF入力軸42と等速の回転を出力するハイギヤ段Hの成立に関与するスプライン歯である。ロー側ギヤ歯66は、TF入力軸42よりも低速の回転を出力するローギヤ段Lの成立に関与するスプライン歯である。ハイロースリーブ62は、後輪側出力軸44に対して第1軸線C1方向(第1軸線C1と平行な方向)に相対移動可能で且つ第1軸線C1まわりに相対回転不能にスプライン嵌合されているとともに、フォーク連結部62aと、フォーク連結部62aと隣接して一体的に設けられた外周歯62bとを備えている。外周歯62bは、ハイロースリーブ62が第1軸線C1方向へ移動させられることにより、ハイ側ギヤ歯64およびロー側ギヤ歯66に択一的に噛み合わされる。ハイ側ギヤ歯64と外周歯62bとが噛み合うことで、TF入力軸42の回転と等速の回転が後輪側出力軸44へ伝達され、ロー側ギヤ歯66と外周歯62bとが噛み合うことで、TF入力軸42の回転に対して減速された回転が後輪側出力軸44へ伝達される。ハイ側ギヤ歯64およびハイロースリーブ62は、ハイギヤ段Hを形成するハイギヤ段用クラッチとして機能し、ロー側ギヤ歯66およびハイロースリーブ62は、ローギヤ段Lを形成するローギヤ段用クラッチとして機能する。
4WDロック機構58は、ドライブギヤ46の内周面に設けられたロック歯68と、後輪側出力軸44に対して第1軸線C1方向に相対移動可能で且つ第1軸線C1まわりに相対回転不能にスプライン嵌合されているロックスリーブ70とを備えている。ロックスリーブ70の外周面には、ロックスリーブ70が第1軸線C1方向へ移動させられることによりロック歯68に噛み合う外周歯70aが設けられており、その外周歯70aとロック歯68とが噛み合う4WDロック機構58の直結状態では、後輪側出力軸44とドライブギヤ46とが一体的に回転させられる4WDロック状態が形成される。この4WDロック状態では、前輪14に対する駆動力の分配率Rf≒50%、すなわち前輪14へ伝達される駆動力と後輪16へ伝達される駆動力との割合が略50:50である。
ハイロースリーブ62およびロックスリーブ70は、ハイロー変速機構48とドライブギヤ46との間の空間に、第1軸線C1方向においてロックスリーブ70がドライブギヤ46側となる位置関係で互いに隣接して別体に設けられている。これ等のハイロースリーブ62とロックスリーブ70との間には、それぞれに当接してハイロースリーブ62とロックスリーブ70とを相互に離間させる側へ付勢する予圧状態の第1スプリング72が配設されている。また、ドライブギヤ46とロックスリーブ70との間には、後輪側出力軸44のばね受け突部44aとロックスリーブ70とに当接してロックスリーブ70をロック歯68から離すフロント側へ付勢する予圧状態の第2スプリング74が配設されている。第1スプリング72および第2スプリング74は何れも圧縮コイルスプリングで、第1スプリング72の付勢力は第2スプリング74よりも大きく設定されている。ばね受け突部44aは、ドライブギヤ46の径方向内側の空間において外周側へ突出して設けられた後輪側出力軸44の鍔部である。ハイ側ギヤ歯64は、第1軸線C1方向においてロー側ギヤ歯66よりもロックスリーブ70から離れたフロント側位置に設けられている。ハイロースリーブ62の外周歯62bは、ハイロースリーブ62がロックスリーブ70から離間するフロント側のハイギヤ位置へ移動させられることによりハイ側ギヤ歯64と噛み合わされてハイギヤ段Hが成立させられ、ハイロースリーブ62がロックスリーブ70に接近するリヤ側(図4における右側)のローギヤ位置へ移動させられることにより、ロー側ギヤ歯66と噛み合わされてローギヤ段Lが成立させられる。ロックスリーブ70の外周歯70aは、ロックスリーブ70がドライブギヤ46に接近するリヤ側にてロック歯68と噛み合わされる。ロックスリーブ70は、ハイロースリーブ62がリヤ側のローギヤ位置へ移動させられるのに伴い、第1スプリング72の付勢力に従ってリヤ側のロック位置へ移動させられ、外周歯70aがロック歯68と噛み合わされて4WDロック機構58が直結状態(4WDロック状態)とされる。また、ハイロースリーブ62がフロント側のハイギヤ位置へ移動させられるのに伴い、第2スプリング74の付勢力に従ってフロント側のロック解除位置へ移動させられ、外周歯70aとロック歯68との噛合が解除されて4WDロック機構58が解放状態とされる。
前輪駆動用クラッチ50は、後輪側出力軸44に相対回転不能に連結されたクラッチハブ76と、ドライブギヤ46に相対回転不能に連結されたクラッチドラム78と、クラッチハブ76とクラッチドラム78との間に配設されて両者を選択的に断接する摩擦係合要素80と、摩擦係合要素80を押圧するピストン81と、を備える多板の摩擦クラッチである。前輪駆動用クラッチ50は、第1軸線C1方向においてドライブギヤ46を挟んで4WDロック機構58と反対側すなわちリヤ側に配設されており、ドライブギヤ46側(フロント側)へ移動するピストン81によって摩擦係合要素80が押し付けられて摩擦係合させられる。すなわち、前輪駆動用クラッチ50は、ピストン81が押圧側であるフロント側へ移動させられ、摩擦係合要素80に当接する状態では、ピストン81の移動量に応じて伝達トルク(トルク容量)を調整可能なトルク可変接続状態、または完全接続状態となる。一方、ピストン81がドライブギヤ46から離間する非押圧側であるリヤ側へ移動させられ、摩擦係合要素80に当接しない状態では、解放状態(遮断状態)となる。
前輪駆動用クラッチ50が遮断状態で且つロックスリーブ70の外周歯70aとロック歯68とが噛み合っていない4WDロック機構58の解放状態では、後輪側出力軸44とドライブギヤ46との間の動力伝達が遮断されて、HV用伝動装置20から伝達された駆動力を後輪16のみへ伝達する2WD状態となる。この2WD状態で、ハイロー変速機構48がハイギヤ段Hとされることにより、ハイギヤ2輪(H2)走行モードが成立させられる。また、ハイロー変速機構48がハイギヤ段Hで、4WDロック機構58が解放状態で、且つ前輪駆動用クラッチ50がトルク可変接続状態または完全接続状態になると、ハイギヤ段の4WD状態すなわちハイギヤ4輪(H4)走行モードが成立させられる。このH4走行モードは更に、前輪駆動用クラッチ50のトルク可変接続状態では、後輪側出力軸44とドライブギヤ46との間の差動回転が許容されて、差動状態(4WD非ロック状態)が可能であり、前輪駆動用クラッチ50の伝達トルクが制御されることで、前輪14に対する駆動力の分配率Rfを連続的に変更することができるハイギヤ4輪オート(H4A)走行モードとなる。この場合の分配率Rfの制御範囲は、例えば0%~50%程度の範囲、すなわち前輪14へ伝達される駆動力と後輪16へ伝達される駆動力との割合では0:100~50:50程度の範囲である。また、前輪駆動用クラッチ50の完全接続状態では、後輪側出力軸44とドライブギヤ46とが一体的に回転させられる4WDロック状態となり、ハイギヤ4輪ロック(H4L)走行モードとなる。一方、ハイロー変速機構48がローギヤ段Lで、前輪駆動用クラッチ50が遮断状態で、且つ4WDロック機構58が直結状態(4WDロック状態)とされると、ローギヤ4輪ロック(L4L)走行モードが成立させられる。上記H4L走行モードおよびL4L走行モードにおける駆動力の分配率Rfは何れも略50%である。
トランスファ22は、ハイロー変速機構48、前輪駆動用クラッチ50、および4WDロック機構58を作動させて走行モードを切り替えるモード切替装置82を備えている。モード切替装置82は、電動モータ84と、電動モータ84の回転運動を直線運動に変換するねじ機構86と、ねじ機構86の直線運動を前輪駆動用クラッチ50に伝達する第1伝達機構87と、ねじ機構86の直線運動をハイロー変速機構48および4WDロック機構58へ伝達する第2伝達機構88とを有する。
ねじ機構86は、前輪駆動用クラッチ50に対してドライブギヤ46とは反対側すなわちリヤ側に、第1軸線C1と同心に配置されており、互いに螺合させられたねじ軸部材92およびナット部材94を備えている。ねじ軸部材92は、第1軸線C1方向に移動不能且つ第1軸線C1まわりに回転可能にケース40に配設されており、減速機構として機能するウォームギヤ90を介して電動モータ84によって回転駆動される。ウォームギヤ90は、電動モータ84のモータシャフトに一体的に連結されたウォーム98と、ねじ軸部材92に一体的に固設されたウォームホイール100とを備えた歯車対で、電動モータ84の回転はウォームギヤ90を介してねじ軸部材92へ減速されて伝達される。ナット部材94は、第1軸線C1方向に移動可能且つ第1軸線C1まわりに回動不能に配設されているとともに、複数のボール96を介してねじ軸部材92と螺合させられており、ねじ軸部材92が電動モータ84により回転駆動されることによりナット部材94は第1軸線C1方向に直線移動させられる。
第1伝達機構87は、前輪駆動用クラッチ50のピストン81とナット部材94との間に介在されたスラストベアリング101を備えており、ピストン81はスラストベアリング101を介して第1軸線C1方向に相対移動不能且つ第1軸線C1まわりに相対回転可能にねじ機構86のナット部材94に連結されている。これによって、ねじ機構86におけるナット部材94の直線運動が、ピストン81を介して前輪駆動用クラッチ50に伝達され、前輪駆動用クラッチ50の摩擦係合要素80が摩擦係合させられる。ピストン81は、摩擦係合要素80を摩擦係合させる押圧部材に相当する。前輪駆動用クラッチ50は、ナット部材94の軸方向位置に応じて遮断状態、トルク可変接続状態、および完全接続状態に切り替えられる。具体的には、ナット部材94が第1軸線C1方向のリヤ側に位置する状態では、ピストン81が摩擦係合要素80から離間して前輪駆動用クラッチ50が解放状態とされ、ナット部材94がフロント側へ移動させられると、ピストン81が摩擦係合要素80に当接させられるようになり、前輪駆動用クラッチ50がトルク可変接続状態とされる。ナット部材94が更にフロント側へ移動させられると、前輪駆動用クラッチ50が完全接続状態とされる。前輪駆動用クラッチ50が完全接続状態とされた場合の分配率Rfは略50%であり、トルク可変接続状態の場合の分配率Rfは、前輪駆動用クラッチ50の係合トルクに応じて例えば0%~50%程度の範囲で調節可能である。すなわち、ピストン81がフロント側へ移動させられるに従って前輪駆動用クラッチ50の係合トルクは大きくなり、前輪14に対する駆動力分配率Rfが高くなる。前輪駆動用クラッチ50は駆動力分配用クラッチで、前輪14および後輪16に対する駆動力の分配率Rfを調節できる分配調節部に相当する。
第2伝達機構88は、第1軸線C1と平行な別の第3軸線C3上に配設されて、ナット部材94に連結されたフォークシャフト102と、フォークシャフト102に固設されて、ハイロースリーブ62に連結されたシフトフォーク104とを備えている。第2伝達機構88は、ねじ機構86におけるナット部材94の直線運動力を、フォークシャフト102およびシフトフォーク104を介してハイロー変速機構48のハイロースリーブ62へ伝達する。ハイロースリーブ62とロックスリーブ70とは第1スプリング72を介して相互に力が付与され、且つロックスリーブ70は第2スプリング74を介して後輪側出力軸44のばね受け突部44aから力を付与されている。したがって、第2伝達機構88は、ねじ機構86におけるナット部材94の直線運動力を、フォークシャフト102からハイロースリーブ62を介して4WDロック機構58のロックスリーブ70へ伝達する。
フォークシャフト102は、ケース40内において第3軸線C3方向(第3軸線C3と平行な方向)に移動可能に配設されている。このフォークシャフト102は、待ち機構106を介してナット部材94に連結されており、ナット部材94の直線往復移動に伴って機械的に第3軸線C3方向へ直線往復移動させられる。待ち機構106は、フォークシャフト102に対して第3軸線C3方向に摺動可能に第3軸線C3上に配置されるとともに、一端部に設けられた鍔どうしが相対する一対の鍔付円筒部材108a、108bと、一対の鍔付円筒部材108a、108bの間に介在させられた円筒状のスペーサ110と、スペーサ110の外周側に予圧状態で配置されたばね部材(圧縮コイルスプリング)112と、一対の鍔付円筒部材108a、108bと係合させられて第3軸線C3方向へ移動させる把持部材114と、把持部材114とナット部材94とを一体的に連結する連結部材116と、を備えている。把持部材114は、鍔付円筒部材108a、108bの鍔に当接することで鍔付円筒部材108a、108bをフォークシャフト102上で摺動させる。鍔付円筒部材108a、108bの鍔が共に把持部材114と当接した状態における鍔間の長さは、スペーサ110の長さよりも長くされている。従って、鍔が共に把持部材114と当接した状態は、ばね部材112の付勢力によって形成される。また、待ち機構106は、鍔付円筒部材108a、108bの各々の第3軸線C3方向の離間を制限するようにフォークシャフト102に設けられたストッパ118a、118bを備えている。ストッパ118a、118bにより鍔付円筒部材108a、108bの離間が制限されることで、ナット部材94の直線運動力を、把持部材114を介してフォークシャフト102に伝達することができる。このフォークシャフト102は切替シャフトに相当する。
フォークシャフト102には、シフトフォーク104が一体的に設けられている。シフトフォーク104は、ハイロースリーブ62に設けられた前記フォーク連結部62aに連結されており、フォークシャフト102の直線往復移動に伴ってハイロースリーブ62が機械的に第1軸線C1方向へ直線往復移動させられることにより、ハイロー変速機構48のギヤ段が切り替えられる。すなわち、例えば図4に示すようにハイロースリーブ62の外周歯62bがハイ側ギヤ歯64と噛み合ってハイギヤ段Hが成立している状態から、フォークシャフト102がリヤ側へ移動されられると、ハイロースリーブ62がドライブギヤ46側へ移動させられ、外周歯62bがロー側ギヤ歯66と噛み合わされてローギヤ段Lが成立させられる。また、ローギヤ段Lが成立している状態から、フォークシャフト102がフロント側へ移動されられると、ハイロースリーブ62がドライブギヤ46から離れる側へ移動させられ、外周歯62bがハイ側ギヤ歯64と噛み合わされてハイギヤ段Hが成立させられる。
第2伝達機構88は、前記第1スプリング72および第2スプリング74を備えて構成されており、上記ハイロー変速機構48のギヤ段の切替に連動して4WDロック機構58の作動状態を機械的に切り替える。すなわち、図4に示すようにハイロー変速機構48がハイギヤ段Hとされた状態では、4WDロック機構58は解放状態であり、ハイロースリーブ62がドライブギヤ46側へ移動させられてローギヤ段Lに切り替えられると、ロックスリーブ70が第1スプリング72の付勢力に従ってリヤ側のロック位置へ移動させられ、外周歯70aがロック歯68と噛み合わされて4WDロック機構58が直結状態(4WDロック状態)となる。また、その4WDロック状態から、ハイロースリーブ62がドライブギヤ46から離れるフロント側へ移動させられてハイギヤ段Hに切り替えられると、ロックスリーブ70が第2スプリング74の付勢力に従ってフロント側へ移動させられ、外周歯70aとロック歯68との噛合が解除されて4WDロック機構58が解放状態となる。フォークシャフト102は、第3軸線C3方向において、ハイロー変速機構48がハイギヤ段Hで且つ4WDロック機構58が解放状態となるハイギヤ位置と、ハイロー変速機構48がローギヤ段Lで且つ4WDロック機構58が4WDロック状態となるローギヤ位置との間を移動させられる。
前記前輪駆動用クラッチ50のピストン81は、電動モータ84によってねじ軸部材92が一方向(ナット部材94をフロント側へ移動させる回転方向)へ回転させられ、フォークシャフト102がローギヤ位置からハイギヤ位置へ移動させられる際に、ねじ軸部材92の回動に伴うナット部材94の軸方向移動に伴ってフロント側へ移動させられるが、摩擦係合要素80を押圧することはない。すなわち、前輪駆動用クラッチ50は、フォークシャフト102がローギヤ位置およびハイギヤ位置の何れに移動させられた場合も、ピストン81による押圧が解除された遮断状態に保持される。これにより、フォークシャフト102がローギヤ位置へ移動させられると前記L4L走行モードが成立させられ、フォークシャフト102がハイギヤ位置へ移動させられると前記H2走行モードが成立させられる。
一方、フォークシャフト102がハイギヤ位置とされた状態から、ねじ軸部材92が電動モータ84によって更に一方向へ回動させられると、ナット部材94のフロント側への移動に伴ってピストン81が摩擦係合要素80に当接させられ、前輪駆動用クラッチ50が前輪14側へ動力を伝達する接続状態になり、H4走行モードが成立させられる。このH4走行モードでは、ナット部材94の軸方向位置に応じて、前輪駆動用クラッチ50がトルク可変接続状態すなわち差動回転が許容されるH4A走行モードと、前輪駆動用クラッチ50が完全接続されるH4L走行モードが成立させられる。
すなわち、本実施例のモード切替装置82は、ねじ軸部材92の回動位置に応じて、L4L走行モード⇔H2走行モード⇔H4A走行モード⇔H4L走行モードに、その順番で切り換えられるのである。言い換えれば、電動モータ84によってねじ軸部材92が予め定められた回動位置L4L、H2、H4A、H4Lへ回動させられることにより、それぞれL4L走行モード、H2走行モード、H4A走行モード、H4L走行モード、が成立させられる。前輪駆動用クラッチ50の係合トルクに対応する電動モータ84のモータトルクの制御でH4L位置やH4A位置が定められても良い。待ち機構106は、H4L走行モード⇔H4A走行モード⇔H2走行モードの切換時のナット部材94の軸方向移動、すなわちフォークシャフト102に対する相対移動、を許容するように構成されている。
トランスファ22は、フォークシャフト102をハイギヤ位置またはローギヤ位置に位置決めするシャフト位置決め機構120を備えている。シャフト位置決め機構120は、フォークシャフト102が摺動するケース40の内周面に形成された収容孔122と、収容孔122に収容されたロックボール124と、収容孔122に収容されてロックボール124をフォークシャフト102側へ付勢するロック用スプリング126と、フォークシャフト102の外周面に形成された一対の凹所128hおよび128lとを備えている。そして、ロックボール124が凹所128hと係合させられることにより、フォークシャフト102がハイギヤ位置に位置決めされ、ロックボール124が凹所128lと係合させられることにより、フォークシャフト102がローギヤ位置に位置決めされる。シャフト位置決め機構120により、その各ギヤ位置において電動モータ84からの出力を停止してもフォークシャフト102の各ギヤ位置が保持される。
トランスファ22は、フォークシャフト102のローギヤ位置を検出するローギヤ位置検出スイッチ130を備えている。ローギヤ位置検出スイッチ130は、例えばボール型の接触スイッチで、ローギヤ位置へ移動させられたフォークシャフト102と接触させられることにより、ローギヤ位置へ移動させられたことを検出する。ローギヤ位置検出スイッチ130によってローギヤ位置であることが検出されると、例えばL4L走行モードであることを運転者に知らせる為のインジケータが点灯される。このインジケータは、例えばインストルメントパネル等に配置される表示装置240に設けられる。
図1に戻って、4輪駆動車両10はまた、ホイールブレーキ駆動装置242を備えている。ホイールブレーキ駆動装置242は、前輪14l、14r、および後輪16l、16rにそれぞれ設けられたホイールブレーキ36fl、36fr、36rl、36rr(以下、特に区別しない場合はホイールブレーキ36という。)のブレーキトルクすなわちブレーキ油圧を、電子制御装置200から供給されるホイールブレーキ制御信号Sbに従って電気的に制御する。ホイールブレーキ駆動装置242は、前輪14l、14r、および後輪16l、16rの各ブレーキトルクを独立に制御することができるように、各ホイールブレーキ36fl、36fr、36rl、36rrに対応して4つの油圧制御弁等を備えて構成される。
このような4輪駆動車両10は、エンジン12、HV用伝動装置20、トランスファ22等の各部の作動を制御するためのコントローラとして電子制御装置200を備えている。電子制御装置200は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより各種の制御を実行する。必要に応じてエンジン制御用、回転機M1、M2の制御用、変速部144の変速制御用、走行モード切替制御用、等に分けて構成される。
電子制御装置200には、4輪駆動車両10に設けられた各種のセンサから制御に必要な種々の情報が供給される。すなわち、前記ローギヤ位置検出スイッチ130の他、エンジン回転速度センサ202、M1回転速度センサ204、M2回転速度センサ205、アクセル開度センサ206、要求制動力センサ208、ハンドル切れ角センサ210、加速度センサ212、車輪速センサ214、モータ回転角度センサ216、ハイギヤ段Hとローギヤ段Lとを切り替える為に運転者によって操作されるハイロー切替スイッチ230、4WD状態を選択する為に運転者によって操作される4WD選択スイッチ232、4WDロック状態を選択する為に運転者によって操作される4WDロック選択スイッチ234、運転者によって操作されるシフトレバー220の操作位置Pshを検出するシフトポジションセンサ222等から、ローギヤ位置Plg、エンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、第1回転機M1の回転速度であるM1回転速度Nm1、第2回転機M2の回転速度であるM2回転速度Nm2、アクセルペダルの踏込み操作量に対応するアクセル開度θacc 、ブレーキペダルの踏込み操作力に対応する要求制動力B、ステアリングホイールの回転操作量に相当するハンドル切れ角Φ、4輪駆動車両10の前後加速度Ga、4輪駆動車両10の左右加速度Gb、前輪14l、14r、および後輪16l、16rの各車輪速Nwfl 、Nwfr 、Nwrl 、Nwrr 、トランスファ22の電動モータ84の回転角度であるモータ回転角度θmo、ハイロー切替スイッチ230によって選択されたギヤ段Shl、4WD選択スイッチ232が操作されたことを示す信号である4WDon、4WDロック選択スイッチ234が操作されたことを示す信号である4LOCKon、シフトレバー220の操作位置Pshなどを表す信号がそれぞれ供給される。車輪速Nwfl 、Nwfr 、Nwrl 、Nwrr に基づいて車速Vを求めることができる。
電子制御装置200からは、例えばエンジン12の電子スロットル弁や燃料噴射装置、点火装置等を介してエンジン出力を制御するためのエンジン制御信号Se、回転機M1、M2のトルク(力行トルクおよび回生トルク)を制御するための回転機制御信号Sm1、Sm2、変速部144のギヤ段を切り替えるための変速指令信号Ssh、走行モードを切り替えるために電動モータ84の回転角度θmoを制御するモード切替信号Smo、ホイールブレーキ36のブレーキトルク(ホイールブレーキトルク)Tbwを制御するためのホイールブレーキ制御信号Sbなどが、エンジン12、回転機M1、M2のトルクを制御するインバータ、変速部144の変速用油圧制御回路、電動モータ84、ホイールブレーキ駆動装置242などへそれぞれ出力される。また、インストルメントパネル等に配置される表示装置240に対して、例えば前記L4L走行モードであることを知らせる表示信号Siを出力する。
電子制御装置200は、機能的にモード切替制御部250、ホイールブレーキ制御部254、回生ブレーキ制御部256を備えており、モード切替制御部250は更に分配制御部252を備えている。電子制御装置200は、4輪駆動車両の制御装置に相当する。
モード切替制御部250は、ハイロー切替スイッチ230、4WD選択スイッチ232、4WDロック選択スイッチ234の操作や4輪駆動車両10の運転状態等に基づいて前記走行モードH4L、H4A、H2、L4Lを切り替える。この中、L4L走行モードは河川敷や岩場、急斜面等のオフロードを大トルクで低速走行する場合に好適に選択される走行モードで、ハイロー切替スイッチ230の操作によってローギヤ段LすなわちL4L走行モードが選択された場合に、一定の条件下でモード切替装置82の電動モータ84を制御してL4L走行モードへ切り替える。また、ハイロー切替スイッチ230の操作でハイギヤ段Hが選択されると、H2走行モードとなるように電動モータ84の回転角度θmoを制御し、その状態で4WD選択スイッチ232が操作されるとH4A走行モードとなるように電動モータ84の回転角度θmoを制御し、4WDロック選択スイッチ234が操作されるとH4L走行モードとなるように電動モータ84の回転角度θmoを制御する。
モード切替制御部250が機能的に備えている分配制御部252は、上記H4A走行モードでの走行時に、前輪駆動用クラッチ50の係合トルクすなわち前輪14に対する駆動力の分配率Rfを制御する。この分配率Rfの制御は運転状態や車両状態、走行条件等に応じて行なわれ、例えば車速Vが所定値以下の車両発進時や路面の摩擦係数μが小さい低μ路では、前輪14に対する分配率Rfが高くなるように、前輪駆動用クラッチ50の係合トルクを大きくする。前輪駆動用クラッチ50の係合トルクは、電動モータ84の回転角度θmoやモータトルクによって制御することができる。また、後輪16のスリップを検出した場合には、前輪14に対する分配率Rfが高くなるように、前輪駆動用クラッチ50の係合トルクを大きくする。この他、ハンドル切れ角Φ、道路勾配、前後加速度Ga、左右加速度Gbなどを用いて駆動力分配率Rfを制御することもできる。
ホイールブレーキ制御部254は、ホイールブレーキ駆動装置242を介してホイールブレーキ36fl、36fr、36rl、36rrにより4輪駆動車両10に付与されるホイールブレーキトルクTbwを制御するホイールブレーキ制御を実行する。ホイールブレーキ制御は、基本的には要求制動力Bに応じて目標ブレーキトルクTb*を算出し、その目標ブレーキトルクTb*が得られるようにホイールブレーキ駆動装置242を制御する。4つのホイールブレーキ36fl、36fr、36rl、36rrの各ブレーキトルクは同じでも良いが、必要に応じて前輪側ホイールブレーキ36fl、36frと後輪側ホイールブレーキ36rl、36rrとで別々に、或いは各ホイールブレーキ36fl、36fr、36rl、36rr毎に別々に、ブレーキトルクを制御することができる。例えば運転状態や車両状態、走行条件等に応じてホイールブレーキ36fl、36fr、36rl、36rrの各ブレーキトルクを適切に制御することができる。ホイールブレーキトルクTbwは、4つのホイールブレーキ36fl、36fr、36rl、36rrのブレーキトルクの合計である。
回生ブレーキ制御部256は、第2回転機M2を回生制御することにより4輪駆動車両10に回生ブレーキトルクTbgを付与する回生ブレーキ制御を実行する。この回生ブレーキ制御では、H2走行モードでは後輪16のみに回生ブレーキトルクTbgが付与され、4輪駆動となるH4A走行モード、H4L走行モード、およびL4L走行モードでは、トランスファ22を介して前輪14および後輪16に対して回生ブレーキトルクTbgが付与される。回生ブレーキ制御部256は、例えば運転者のブレーキペダル操作による要求制動力Bに応じて回生ブレーキトルクTbgを付与するように構成される。すなわち、要求制動力Bに応じて算出される目標ブレーキトルクTb*の一部または全部を、前記ホイールブレーキ36の代わりに第2回転機M2による回生ブレーキトルクTbgで分担するのである。例えば、要求制動力Bが所定値以下の弱制動時などの一定の条件下では、目標ブレーキトルクTb*の全部を第2回転機M2による回生ブレーキトルクTbgで得られるようにする。また、ホイールブレーキ36と併用して、目標ブレーキトルクTb*の一部を第2回転機M2による回生ブレーキで分担するようにしても良い。トランスファ22の分配率Rfに応じて回生ブレーキを制限したり分担割合を変更したりしても良い。アクセルOFFすなわち要求駆動力が0で、且つ要求制動力Bが0の惰性走行時にも、一定の条件を満たす場合に第2回転機M2により所定の回生ブレーキトルクTbgが付与されるようにしても良い。
ここで、4輪駆動走行を行なうH4A走行モード、H4L走行モード、およびL4L走行モードでは、第2回転機M2による回生ブレーキトルクTbgがトランスファ22を介して分配率Rfに応じて前輪14および後輪16に伝達される。このように前輪14および後輪16に回生ブレーキトルクTbgが分配される場合、旋回走行時に前輪14および後輪16に回転速度差が生じると、駆動系の回転が制動されるタイトコーナーブレーキング現象が発生する可能性がある。タイトコーナーブレーキング現象が発生すると、4輪駆動車両10の総ブレーキトルクTbは、第2回転機M2による回生ブレーキトルクTbgと合わせて運転者が意図した以上の大きさとなり、ドライバビリティが悪化する可能性がある。前記回生ブレーキ制御部256は、このようなタイトコーナーブレーキング現象に起因するドライバビリティの悪化を抑制するため、図5のフローチャートのステップS1~S5(以下、ステップを省略して単にS1~S5という。他のフローチャートも同じ。)に従って信号処理を実行し、タイトコーナーブレーキング現象が発生した場合に第2回転機M2による回生ブレーキトルクTbgを制限する回生ブレーキ制限制御を実行するようになっている。
図5のS1では、ユーザー(運転者)による制動要求時か否かを判断する。制動要求時か否かは、例えば要求制動力Bが0より大きい正か否か、或いは0に近い所定値以上か否かによって判断できる。アクセルペダルの踏込み操作が解除されたアクセルOFF時も、運転者が制動を希望していると見做すことができる場合など一定の条件下で制動要求時と判断しても良い。新たに制動要求が為された場合だけでなく、既に制動要求に従って第2回転機M2による回生ブレーキ等が付与されている場合でも良い。そして、制動要求時でなければそのまま終了するが、制動要求時と判断した場合はS2以下を実行する。
S2では、タイトコーナーブレーキング現象に起因して生じるブレーキトルク(タイトコーナーブレーキトルク)Tbtを算出する。タイトコーナーブレーキトルクTbtは、例えば前記分配率Rf、ハンドル切れ角Φ、前後加速度Ga、左右加速度Gb、および前後左右の車輪速Nwfl 、Nwfr 、Nwrl 、Nwrr 、の中の2つ以上のパラメータを用いて算出することができる。車輪速Nwfl 、Nwfr 、Nwrl 、Nwrr の代わりに車速Vを用いることもできる。具体的には、分配率Rfと、タイトコーナーを示すハンドル切れ角Φおよび左右加速度Gbの何れか一方と、をパラメータとして予め実験やシミュレーション等によって定められたマップや演算式などから、実際の分配率Rfおよびハンドル切れ角Φ或いは左右加速度Gbに応じてタイトコーナーブレーキトルクTbtを算出することができる。ハンドル切れ角Φと左右加速度Gbとを比較してタイトコーナーブレーキトルクTbtを求めることもできる。この他、作動中のホイールブレーキトルクTbwおよび回生ブレーキトルクTbgと前後加速度Gaとを比較してタイトコーナーブレーキトルクTbtを算出することもできる。道路勾配を考慮して求めても良い。前後輪の車輪速差と、左右輪の車輪速差とを比較して、タイトコーナーブレーキトルクTbtを求めることもできるなど、種々の態様が可能である。
S3では、タイトコーナーブレーキング現象が発生しているか否かを、S2で求めたタイトコーナーブレーキトルクTbtに基づいて判断する。例えば、タイトコーナーブレーキトルクTbtが予め定められた判定値以上か否かを判断する。タイトコーナーブレーキトルクTbtは推定値であり、タイトコーナーブレーキング現象が発生しているか否かは、タイトコーナーブレーキング現象が発生していると予想される場合や、発生すると予想される場合を含む。そして、タイトコーナーブレーキング現象が発生していると判定した場合は、S4を実行して回生ブレーキトルクTbgを制限する一方、タイトコーナーブレーキング現象が発生していると判定できなかった場合は、ユーザーの制動要求に基づく通常の回生ブレーキ制御を実行する。なお、回生ブレーキ制御の実行中でない場合はそのまま終了する。すなわち、ユーザーの制動要求に伴って回生ブレーキ制御が実行される場合だけS2以下が実行されるようにしても良い。
S4では、タイトコーナーブレーキトルクTbtの大きさに応じて、そのタイトコーナーブレーキトルクTbtが大きい場合は小さい場合に比較して回生ブレーキトルクTbgの制限量を大きくする。具体的には、全体の総ブレーキトルクTbが変化しないように、タイトコーナーブレーキトルクTbtと同じ大きさだけ回生ブレーキトルクTbgを小さくする。
図6および図7は、何れも図5のフローチャートに従って回生ブレーキの制限制御が実行された場合の各部の作動状態の変化を示したタイムチャートの一例である。図6および図7において、時間t1は、ブレーキペダルが踏込み操作されてS1の判断がYES(肯定)になり、S2以下の実行が開始された時間である。これ等のタイムチャートは、要求制動力Bに応じて算出された目標ブレーキトルクTb*の全部を第2回転機M2による回生ブレーキトルクTbgで分担する場合で、当初は直線走行等でタイトコーナーブレーキトルクTbt=0であるため、S3に続いてS5の通常の回生ブレーキ制御が実行され、回生ブレーキトルクTbgが目標ブレーキトルクTb*と一致するように制御される。
時間t2になると、旋回走行によってタイトコーナーブレーキング現象が発生し、S3の判断がYESになり、S4が実行されることにより回生ブレーキトルクTbgが制限される。すなわち、総ブレーキトルクTbが目標ブレーキトルクTb*を維持するように、回生ブレーキトルクTbgがタイトコーナーブレーキトルクTbtだけ小さくされる。なお、時間t2以後の破線は、タイトコーナーブレーキング現象が発生していない場合である。
その後、図6では時間t3でタイトコーナーブレーキトルクTbtが低下するが、その分だけ回生ブレーキトルクTbgが増加させられることにより、総ブレーキトルクTb≒目標ブレーキトルクTb*が維持される。また、時間t4でタイトコーナーブレーキトルクTbt=0になると、S3に続いてS5の通常の回生ブレーキ制御が実行されるようになり、回生ブレーキトルクTbgが目標ブレーキトルクTb*と一致するように制御される。時間t5は、ユーザーの要求制動力B=0になり、それに伴って回生ブレーキトルクTbg=0とされて、図5のフローチャートに従う回生ブレーキ制御が終了した時間である。
図7は、タイトコーナーブレーキトルクTbtは略一定で、時間t3でユーザーの要求制動力Bが低下した場合である。要求制動力Bの低下に伴って回生ブレーキトルクTbgが減少させられることにより、総ブレーキトルクTb≒目標ブレーキトルクTb*が維持される。また、時間t4で要求制動力B=0になると、S4による回生ブレーキトルクTbgの制限により、タイトコーナーブレーキトルクTbt分だけ先に回生ブレーキトルクTbg=0になり、総ブレーキトルクTbとしてタイトコーナーブレーキトルクTbtが残る。これにより、図5のフローチャートに従う回生ブレーキ制御は終了し、時間t5でタイトコーナーブレーキトルクTbt=0になると、総ブレーキトルクTbが0になる。
このように、本実施例の4輪駆動車両10においては、タイトコーナーブレーキング現象が発生しているか否かを判定し、タイトコーナーブレーキング現象が発生していると判定した場合には(S3の判断がYES)、S4を実行して回生ブレーキトルクTbgを制限するため、タイトコーナーブレーキング現象に起因して総ブレーキトルクTbが運転者が意図した以上の大きさになることによりドライバビリティが悪化することが抑制される。
また、タイトコーナーブレーキング現象の発生に起因して生じるタイトコーナーブレーキトルクTbtの大きさに応じて、タイトコーナーブレーキトルクTbtが大きい場合は小さい場合に比較して回生ブレーキの制限量が大きくされるため、タイトコーナーブレーキング現象に起因するドライバビリティの悪化が一層適切に抑制される。特に、本実施例では回生ブレーキトルクTbgがタイトコーナーブレーキトルクTbtだけ小さくされ、全体の総ブレーキトルクTbがユーザーの要求制動力Bに応じて定められる目標ブレーキトルクTb*に維持されるため、タイトコーナーブレーキング現象の発生に拘らず運転者に違和感を生じさせる恐れがない。
また、分配率Rf、ハンドル切れ角Φ、前後加速度Ga、左右加速度Gb、および前後左右の車輪速Nwfl 、Nwfr 、Nwrl 、Nwrr 、の少なくとも一部を用いてタイトコーナーブレーキトルクTbtを算出し、そのタイトコーナーブレーキトルクTbtに基づいてタイトコーナーブレーキング現象が発生しているか否かを判定するため、タイトコーナーブレーキング現象の発生を高い精度で判定して回生ブレーキトルクTbgを制限することによりドライバビリティの悪化を適切に抑制できる。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
図8は、前記回生ブレーキ制御部256により前記図5のフローチャートの代わりに実行されるフローチャートである。図8のS1~S3およびS5は図5と同じであり、S4の代わりにS4-1およびS4-2が設けられている点が相違する。すなわち、タイトコーナーブレーキング現象が発生していると判定されてS3の判断がYESになった場合には、S4-1においてタイトコーナーブレーキトルクTbtの大きさに拘らず回生ブレーキトルクTbgを一律に制限する。本実施例では回生ブレーキトルクTbg=0とする。そして、次のS4-2では、回生ブレーキトルクTbg=0とされることによる総ブレーキトルクTbの不足分、すなわち目標ブレーキトルクTb*からタイトコーナーブレーキトルクTbtを差し引いた分(Tb*-Tbt)が、ホイールブレーキ36によって補完されるようにする補完指令を、前記ホイールブレーキ制御部254に対して出力する。ホイールブレーキ制御部254は、この補完指令に従ってホイールブレーキトルクTbw=(Tb*-Tbt)が4輪駆動車両10に付与されるようにホイールブレーキ駆動装置242を制御する。この時のホイールブレーキトルクTbwの前後輪配分や左右輪配分は、トランスファ22の分配率Rfとは関係無く、4輪駆動車両10の運転状態や車両状態等に応じて適切に制御できる。
図9は、図8のフローチャートに従って回生ブレーキの制限制御が実行された場合の各部の作動状態の変化を示したタイムチャートの一例で、時間t1は、ブレーキペダルが踏込み操作されてS1の判断がYESになり、S2以下の実行が開始された時間である。当初は直線走行等でタイトコーナーブレーキトルクTbt=0であるため、S3に続いてS5の通常の回生ブレーキ制御が実行され、前記図6、図7と同様に、要求制動力Bに応じて算出された目標ブレーキトルクTb*の全部を第2回転機M2による回生ブレーキトルクTbgで分担する。時間t2になると、旋回走行によってタイトコーナーブレーキング現象が発生し、S3の判断がYESになり、S4-1が実行されることにより回生ブレーキトルクTbgが制限されてTbg=0とされる。また、S4-2が実行されることによりホイールブレーキ駆動装置242が作動させられ、総ブレーキトルクTbの不足分(Tb*-Tbt)がホイールブレーキ36によって補完されることにより、総ブレーキトルクTbが目標ブレーキトルクTb*に維持される。
その後、時間t3でタイトコーナーブレーキトルクTbtが低下してタイトコーナーブレーキング現象が解消すると、S5の通常の回生ブレーキ制御に復帰し、目標ブレーキトルクTb*の全部を第2回転機M2による回生ブレーキトルクTbgで分担するようになり、ホイールブレーキトルクTbw=0とされる。時間t4は、ユーザーの要求制動力B=0になり、それに伴って回生ブレーキトルクTbg=0とされて、図8のフローチャートに従う回生ブレーキ制御が終了した時間である。
本実施例においても、タイトコーナーブレーキング現象が発生しているか否かを判定し、タイトコーナーブレーキング現象が発生していると判定した場合には(S3の判断がYES)、S4-1を実行して回生ブレーキを制限するため、タイトコーナーブレーキング現象に起因して総ブレーキトルクTbが運転者が意図した以上の大きさになることによりドライバビリティが悪化することが抑制される。
また、本実施例では回生ブレーキトルクTbgが一律に制限されてTbg=0とされ、その制限による総ブレーキトルクTbの不足分(Tb*-Tbt)がホイールブレーキ36によって補完されるため、タイトコーナーブレーキング現象に起因するドライバビリティの悪化が適切に抑制される。特に、左右前輪14および左右後輪16の各ホイールブレーキ36fl、36fr、36rl、36rrのブレーキトルクを個別に制御できるため、回生ブレーキに比較して簡便に且つ車両状態等に応じて適切に制御することが可能で、4輪駆動車両10の総ブレーキトルクTbを適切に制御することができる。
図10は、駆動力分配装置の別の例を説明する骨子図である。すなわち、前記実施例ではセンターディファレンシャル装置が無い電子制御式のトランスファ22が用いられていたが、図10に示すように、差動制限クラッチCLが設けられたセンターディファレンシャル装置160を駆動力分配装置として採用することもできる。センターディファレンシャル装置160は、第1軸線C1上に配設されたシングルピニオン型の遊星歯車装置162を主体として構成されている。遊星歯車装置162は、第3サンギヤS3、第3ピニオンギヤP3を自転及び公転可能に支持している第3キャリアCA3、および第3ピニオンギヤP3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3の3つの回転要素を備えている。上記第3キャリアCA3はTF入力軸42に連結されており、第3リングギヤR3は後輪側出力軸44に連結されている。また、第3サンギヤS3にはドライブギヤ164が設けられており、前輪駆動用チェーン56およびドリブンギヤ54を介して前輪側出力軸52に動力伝達可能に連結されている。このようなセンターディファレンシャル装置160によれば、遊星歯車装置162の各回転要素S3、R3、CA3がそれぞれ相互に相対回転可能となる差動状態とされることで、HV用伝動装置20からTF入力軸42を介して第3キャリアCA3に入力された駆動力が、第3サンギヤS3と第3リングギヤR3とに分配される。この分配率Rfは、遊星歯車装置162のギヤ比ρに応じて定まり、例えばギヤ比ρ(=サンギヤの歯数:リングギヤの歯数)が3:7の場合、前輪側出力軸52に対する駆動力の分配率Rfは30%となる。なお、センターディファレンシャル装置160は、第1軸線C1に対して略対称的に構成されているため、図10の骨子図においては第1軸線C1よりも下側半分が省略されている。
差動制限クラッチCLは、遊星歯車装置162の第3キャリアCA3とドライブギヤ164とを選択的に連結するものである。この差動制限クラッチCLは、前記変速部144のクラッチCやブレーキBと同じような油圧式摩擦係合装置であって、例えば、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型のものである。そして、差動制限クラッチCLが完全係合させられると、遊星歯車装置162が一体的に回転させられるようになり、後輪側出力軸44および前輪側出力軸52に対して略均等に駆動力が分配されるようになる。すなわち、この場合の駆動力の分配率Rfは約50%となる。また、差動制限クラッチCLのトルク容量すなわち差動制限トルクを変化させると、前輪側出力軸52に対して伝達される駆動力が変化させられ、分配率Rfを30%~50%の間で段階的或いは連続的に制御することができる。差動制限クラッチCLは、分配率Rfを調節する分配調節部に相当する。
このようなセンターディファレンシャル装置160を、前記トランスファ22の代わりに備えた4輪駆動車両10においても、前記実施例と同様に、分配制御部252、ホイールブレーキ制御部254、回生ブレーキ制御部256を有する電子制御装置200を用いて分配制御やホイールブレーキ制御、回生ブレーキ制御を行なうことが可能で、前記実施例と同様の作用効果が得られる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。