JP3937633B2 - テトラヒドロ葉酸の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、テトラヒドロ葉酸の製造法及びテトラヒドロ葉酸産生能を有する微生物に関する。テトラヒドロ葉酸は、母豚の繁殖効率を改善する作用を有し、母豚用飼料添加物及び飼料添加物を配合した飼料等に用いることができる。また、テトラヒドロ葉酸から得られる誘導体は、医薬等にも有用である。
【0002】
【従来の技術】
葉酸は、一般的には化学合成法により製造されるが、この化学合成葉酸は酸化型であって、そのままでは補酵素として作用しない。通常生体内へ吸収後、ジヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼにより7,8−ジヒドロ葉酸に変換され、さらにこれが酵素的に還元されて還元型のテトラヒドロ葉酸(THF)や5−メチルテトラヒドロ葉酸(5MF)となって補酵素としての作用を発現する。
【0003】
テトラヒドロ葉酸の製造方法としては、葉酸にジアステレオ選択的に水素添加する方法が知られている。例えば、葉酸をテトラヒドロ葉酸にジアステレオ選択的に水素添加する方法において、固定された光学的に活性な有機ジホスフィンのロジウム(I)錯体の存在下でpH3〜12の緩衝水溶液中で20バール以上のH2圧力及び60℃を越える温度にて葉酸の水素添加を行うことを特徴とする、葉酸をテトラヒドロ葉酸にジアステレオ選択的に水素添加する方法が開示されている(特開平6−9635号公報)。
【0004】
また、微生物を用いたテトラヒドロ葉酸の製造法としては、コリネバクテリウム属、バチルス属、ラクトコッカス属に属する微生物を用いる方法が知られている(特開平7-147911号公報)。これらの方法によって、複数の段階を必要とする化学合成に比べて工程を簡略化することができるが、効率は十分とはいえない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記観点からなされたものであり、発酵法によりテトラヒドロ葉酸を効率よく製造する方法及び同方法に用いることのできる微生物を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、葉酸アナログに耐性を示す微生物が高いテトラヒドロ葉酸産生能を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、葉酸アナログ耐性を有し、かつ、テトラヒドロ葉酸産生能を有する微生物を培地に培養し、テトラヒドロ葉酸を前記微生物の菌体中に生成蓄積させることを特徴とするテトラヒドロ葉酸の製造法である。
【0008】
前記微生物としては、コリネ型細菌に属する微生物が挙げられる。また、本発明において前記葉酸アナログとしては、トリメトプリム、サルファグアニジン又はこれらの両者が挙げられる。
【0009】
本発明の方法に用いる微生物としては、例えばトリメトプリム耐性遺伝子が導入された形質転換体が挙げられる。
【0010】
前記微生物としては、トリメトプリム耐性遺伝子が導入された形質転換体が挙げられる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる微生物は、葉酸アナログ耐性を有し、かつ、テトラヒドロ葉酸産生能を有する微生物である。ここで「葉酸アナログ耐性」とは、本発明の微生物を野生株が増殖できない濃度の葉酸アナログを含む培地で培養したときに、増殖することができる能力をいう。例えば、600〜900μg/mlのトリメトプリムを含む培地で、31.5℃、3〜7日間培養したときにコロニーを形成する微生物は、トリメトプリムに対する耐性を有する。また、400〜500μg/mlのサルファグアニジンを含む培地で、31.5℃、3〜7日間培養したときにコロニーを形成する微生物は、サルファグアニジンに対する耐性を有する。
【0012】
また、「テトラヒドロ葉酸産生能」とは、本発明の方法に用いる微生物が、同微生物と分類学上同等の微生物であって葉酸アナログ耐性を有しない微生物よりも多くのテトラヒドロ葉酸を、好ましくは、乾燥菌体100g当たり15mg以上、より好ましくは20mg以上蓄積する能力をいう。
【0013】
テトラヒドロ葉酸産生能を有する微生物は、テトラヒドロ葉酸を産生するものであればいずれでもよが、例えばコリネ型細菌、バチルス属、ラクトコッカス属、サッカロマイセス属、カンジダ属、アスペルギルス属等に属する微生物が挙げられる。これらのなかでは、コリネ型細菌が好ましい。コリネ型細菌は、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが現在コリネバクテリウム属に統合された細菌を含み(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255 (1981))、またコリネバクテリウム属と非常に近縁なブレビバクテリウム属細菌を含む。
上記微生物として具体的には、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum(旧Brevibacterium lactofermentum) ATCC13869など)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium (旧Brevibacterium)ammoniagenes ATCC6871など)、ブレビバクテリウム・フラブム(Brevibacterium flavum ATCC13826など)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum ATCC13032、ATCC13060など)、バチラス・サチリス(Bacillus subtilis ATCC13952、IFO3009、IFO13169など)、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis subsp. cremoris ATCC19257など)等の細菌;サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae IFO2044、IFO2375など)、カンジダ・ウチルス(Candida (旧Torulopsis) utilis ATCC9226など)等の酵母;およびアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae IFO30104など)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger IFO4414など)等の糸状菌;を挙げることができる。
【0014】
葉酸アナログ耐性を有する微生物は、微生物細胞を変異処理し、葉酸アナログ、例えばトリメトプリムもしくはサルファグアニジン又はこれらの両者を含む培地に接種し、生育する変異株を分離することにより、取得することができる。変異処理は、紫外線照射により、またはN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは亜硝酸等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理することにより、行うことができる。培地に添加する葉酸アナログの好適な濃度は、例えば、変異処理した細胞を種々の濃度で葉酸アナログ耐性を有する平板培地に塗布し、少数のコロニーが出現する条件を選択することによって、決定することができる。具体的には、トリメトプリムであれば600〜900μg/ml程度、サルファグアニジンであれば400〜500μg/ml程度の濃度が好ましい。
【0015】
上記のようにして得られる葉酸アナログ耐性変異株のテトラヒドロ葉酸生産性は、例えば、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)ATCC8081株を用いたマイクロバイオアッセイにより分析することができる。すなわち、葉酸アナログ耐性株を最少培地プレートに接種し、コロニーを生育させた後に、テトラヒドロ葉酸要求性のペディオコッカス・アシディラクティシ ATCC8081株の培養液を含む軟寒天最少培地を重層し、ハローの有無及びその大きさにより、テトラヒドロ葉酸生産性及び生産量を調べることができる。
【0016】
また、葉酸アナログ耐性を有する微生物は、微生物を葉酸アナログ耐性を表現する遺伝子を含む組換えDNA、好ましくは多コピーベクターで形質転換することによっても取得することができる。葉酸アナログ耐性を表現する遺伝子としては、例えば、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム由来のトリメトプリム耐性遺伝子が知られている(特開昭61−152289号公報)。同遺伝子を含む変異型多コピー数プラスミドベクターpAJ226copを保有するブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムAJ12296はFERM P-8821として通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている。pAJ226copでコリネ型細菌を形質転換すれば、トリメトプリム耐性株が得られる。
【0017】
組換えDNAをコリネ型細菌に導入するには、これまでに報告されている形質転換法に従って行えばよい。例えば、エシェリヒア・コリ K−12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel,M.and Higa,A.,J. Mol. Biol., 53, 159 (1970))があり、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法( Duncan,C.H.,Wilson,G.A.and Young,F.E., Gene, 1, 153 (1977))がある。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang,S.and Choen,S.N.,Molec. Gen. Genet., 168, 111 (1979);Bibb,M.J.,Ward,J.M.and Hopwood,O.A.,Nature, 274, 398 (1978);Hinnen,A.,Hicks,J.B.and Fink,G.R.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 1929 (1978))も応用できる。また、電気パルス法(特開平2−207791号公報参照)も有効である。
【0018】
本発明の微生物を培養するのに使用する培地は、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地である。
炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトースやでんぷんの加水分解物などの糖類、グリセロールやソルビトールなどのアルコール類、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類を用いることができる。
【0019】
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。
【0020】
有機微量栄養源としては、ビタミンB1、ビオチンなどの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じて、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
【0021】
なお、培地にパラアミノ安息香酸、酸化型葉酸または/および核酸を添加することにより、培養して得る微生物菌体中に生成するテトラヒドロ葉酸の量を増やすことができることがある。核酸としては、グアノシン、イノシン、キサンチン、5’−グアニル酸、5’−イノシン酸、5’−キサンチル酸、グアノシン−5’−二リン酸、グアノシン−5’−三リン酸等が挙げられる。これらの添加物の添加量は、これらを添加しなかった場合に比較してテトラヒドロ葉酸の菌体内産生量が増大する量であって、例えば、1mg/L〜1g/L、好ましくは10〜100mg/Lである。添加量が少なすぎると添加の効果が現れず、多過ぎると微生物の生育を阻害することがあるからである。
【0022】
培養の方法としては、通常、これらの微生物の培養に採用される条件をそのまま採用することができ、例えば、栄養培地のpHを4.0〜9.5の範囲で20〜40℃で12時間〜5日間好気的に微生物を培養すればよい。
【0023】
培養物からのテトラヒドロ葉酸の採取は、公知の発酵法によるテトラヒドロ葉酸の製造と同様に行えばよく、具体的にはリゾチーム、パハイン等の酵素処理、熱水処理等の方法によって、菌体破砕物又は菌体抽出物から採取することができる。
【0024】
また、テトラヒドロ葉酸を豚用飼料として用いる場合は、本発明の微生物を培養して得た菌体含有培養液をそのまま、もしくは適宜の方法で分離された菌体をスプレードライ等の方法により乾燥した得られる乾燥物をそのまま経口投与しても良い。また、本発明の微生物を培養して得た菌体は、適宜の方法で菌体を培養液から一旦分離した後に破砕処理もしくは抽出処理をするが、培地成分込みで豚に経口投与しても差支えなくかつ破砕処理もしくは抽出処理にも差支えなければ、培養液をそのまままたは濃縮して破砕処理もしくは抽出処理に付することもできる。また、破砕処理もしくは抽出処理する菌体は、生菌体および殺菌処理物のいずれであってもよい。
【0025】
破砕する方法も、方法自体には特別の制限はなく、例えば、従来公知の機械的方法および酵素を利用する方法のいずれによることもできる。機械的方法としては、方法自体は従来のものによることができ、例えば、「ビーズビーター」(バイオスペック社製)を用いてガラスビースにより菌体の破砕を行ってもよく、圧力で菌体の破砕を行なってもよく、または超音波破砕機などを用いて細胞の破砕を行ってもよい。酵素を用いて微生物細胞を破砕する場合も、方法自体は従来のものによることができ、例えば、培養菌体をそのまま加熱殺菌処理した後にこれに細胞壁溶解酵素を添加して、菌体の細胞壁を分解する。この際用いる酵素は、細胞壁を分解破砕する能力のあるものであればいかなるものでもよく、そのような能力を有するものとしては従来公知のリゾチーム、プロテアーゼ、ザイモリアーゼなどを代表例として挙げることができる。酵素処理条件は、もちろん、公知の方法に従うことができる。
【0026】
微生物菌体を抽出処理する方法も特別の制限はなく、例えば、自己消化あるいは90℃ないし120℃の温度で熱水中にて当該菌体を加熱することにより抽出を行うことができる。
【0027】
このようにして調製した菌体破砕物もしくは菌体抽出物は、そのままでまたは適宜濃縮もしくは乾燥してあるいは適当な添加物を加えた形態で母豚に経口投与する。また、葉酸は細胞壁にはほとんど存在しないので、菌体破砕物から残存細胞壁の断片を除去してもよい。
【0028】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0029】
【実施例1】
葉酸アナログ耐性変異株の取得
表1に示したCM-2G培地で培養したブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869株の細胞を、N−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解した溶液(250μg/ml)で10分間処理した。変異処理した細胞を、600μg/mlのトリメトプリム、もしくは500μg/mlのサルファグアニジン、又はこれらの両方を含む最小寒天培地(組成を表2に示す)に塗布した。31.5℃で3〜7日間培養し、生育したコロニーを釣菌、分離した。これらの変異株を、No.5株、No.6株及びNo.7株と命名した。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
上記のようにして分離された葉酸アナログ耐性変異株のトリメトプリム及びサルファグアニジンに対する耐性度を親株と比較した。
上記変異株を、CM-2G培地(表1の組成を有する)で31.5℃、24時間培養し、得られた菌体を滅菌水に懸濁し、その懸濁液を表3及び表4に示す濃度のトリメトプリム又はサルファグアニジンを含有する最小寒天平板培地(表2の組成を有する)に接種し、31.5℃で72時間培養した後の生育の程度を表3、4に示す。表中の記号は以下のとおりである。+:よく生育する。±:生育する。−:生育しない。
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
【実施例2】
テトラヒドロ葉酸の製造
<1>葉酸アナログ耐性変異株の培養
500ml容坂口フラスコに表5に示す組成の培地を50mlづつ分注し、熱殺菌し、実施例1で得られた葉酸アナログ耐性変異株No.5株、No.6株及びNo.7を接種し、30℃で24時間振盪培養した。得られた種培養液40mlを、表6に示す組成の生産用培地400mlを含む1L容小型発酵槽に接種し、30℃、1000rpm、通気量200ml/分で24時間培養した。培養中のpHの調製及び窒素源の供給は、アンモニア水を用いて行い、pHは4.5〜7.5に維持した。培養後、遠心分離によって菌体を集め、凍結乾燥して粉末とした。
【0036】
【表5】
【0037】
【表6】
【0038】
上記のようにして得られた乾燥菌体粉末100g当たりに含まれるテトロヒドロ葉酸の量を、ペディオコッカス・アシディラクティシ ATCC8081を用い、表7に示した培地で培養し、以下に示すバイオアッセイによって葉酸含量を定量した。各変異株を培養した得た菌体を凍結乾燥し、2%アスコルビン酸を含む0.2M K2HPO4に懸濁し、120℃で5分間熱処理した後、Bacto chiken pancreas toluene(Difco社)を用いて37℃で24時間酵素処理した。次に、これを120℃で5分間処理した後、2%アスコルビン酸溶液で希釈し、定量用培地(Folic Acid Casei Medium(Difco社))を加えて120℃で5分間滅菌した。これにペディオコッカス・アシディラクティシATCC8081を接種し、31.5℃で18時間インキュベートし、562nmの吸光度を測定することによって、葉酸を定量した。標準には、5-CHO-テトラヒドロ葉酸を用いた。
その結果を表8に示す。この結果から明らかなように、葉酸アナログ耐性変異株は、野生株に比べて2〜3倍のテトラヒドロ葉酸を産生する。
No.5株、No.6株及びNo.7株は、それぞれ順にブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムAJ13545、AJ13546及びAJ13547と命名され、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託され、それぞれ順にFERM P-17127、FERM P-17128、及びFERM P-17129の受託番号が付与されている。
【0039】
【表7】
【0040】
【表8】
【0041】
【発明の効果】
本発明により、効率よく発酵法によりテトラヒドロ葉酸を製造することができる。
Claims (3)
- トリメトプリム、サルファグアニジン又はこれらの両者である葉酸アナログに耐性を有し、かつ、テトラヒドロ葉酸産生能を有するコリネ型細菌を培地に培養し、テトラヒドロ葉酸を前記コリネ型細菌の菌体中に生成蓄積させることを特徴とするテトラヒドロ葉酸の製造法。
- 前記コリネ型細菌がコリネバクテリウム・グルタミカムである請求項1記載の製造法。
- 前記コリネ型細菌が、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム FERM P-17127 、 FERM P-17128 、および FERM P-17129 から選択されるコリネ型細菌である請求項1または2記載の製造法。
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