JP3936435B2 - 壁状コンクリート構築物の構築方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、迅速な施工の要求される小規模ダムや重力擁壁等の壁状コンクリート構築物の構築方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
小規模なダムや重力擁壁等のような壁状コンクリート構築物の施工には、従来、例えば図6又は図7に示すような工法が採用されている。このうち、図6に示す工法では、まず(A)のように、基礎コンクリート101の上に適当な高さの木製あるいは鋼製の第一段目の型枠1021をセパレータ1031や支保工(図示省略)によって組み立て、次に(B)のように、前記型枠1021によって画成された空間S1にコンクリート104を打設する。そしてこのコンクリート104が所定の強度になるまで硬化したら、前記型枠1021を解体して、(C)のように前記コンクリート104の上に更にコンクリートを打ち継ぐための第二段目の型枠1022を、上述と同様にセパレータ1032や支保工によって組み立て、この型枠1022によって画成された空間S2にコンクリートを打設するといった作業を繰り返すことによって、(D)のような壁状コンクリート構築物104’が構築される。
【0003】
また図7に示す工法では、まず(A)のように、基礎コンクリート201の上に、プレキャストコンクリートからなる適当な高さの第一段目のPCa型板2021を鉄筋等からなる支保工2031により支保して組み立て、次に(B)のように、前記PCa型板2021によって画成された空間S1にコンクリート204を打設する。PCa型板2021は打設後経時的に硬化するコンクリート204と一体接合状態になる。コンクリート204が所定の強度になるまで硬化したら、(C)のように、その上に更にコンクリートを打ち継ぐための第二段目のPCa型板2022を上述と同様に支保工2032によって支保して組み立て、前記PCa型板2022によって画成された空間S2にコンクリートを打設するといった作業を繰り返すことによって、(D)のような壁状コンクリート構築物204’が構築される。PCa型板2021,2022・・・は硬化するコンクリート204と一体接合状態になり、壁状コンクリート構築物204’の表層部となる。
【0004】
更に、図6(D)に示す壁状コンクリート構築物104’を鉛直方向複数に分割した形状のプレキャストコンクリートブロックを積み上げて、その上下面同士をコンクリートの打設によって接合するといった工法もある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来工法においては、次のような問題が指摘される。
すなわち、例えば山間部における土石流等をくい止める砂防ダム等を構築する場合、その施工は危険な山間部の斜面での作業となるため、迅速な施工が要求されるが、図6に示すような工法では、危険な現場での型枠102の組立や解体作業に多くの時間を必要とする。そしてその点、図7に示す工法は、コンクリート成形品であるPCa型板2021,2022・・・が、後打ちされたコンクリート204と一体化されて構築物204’の表層部となるものであるため、型枠の解体作業がなくなってその分だけ工期が短縮されるが、PCa型板2021,2022,・・・ の組立・支保作業になお多くの時間がかかる。しかも、コンクリート204の養生期間中に、日照によって最上段のPCa型板2023が外側へ僅かに反ることによって、あるいは日向側と日陰側の熱膨張差によって、前記コンクリート204の天端部との間に僅かな亀裂が発生すると、そこから浸透した雨水が冬期に凍結して膨張したり、日照と夜間冷却に伴う膨張・収縮の繰り返しによって、プレキャスト部と後打ちコンクリート部が剥離してしまうといった現象をもたらす。したがって、構築物204’の天端面204aにはプレキャスト部と後打ちコンクリート部との境界に沿って目地を形成し、この目地にエポキシ樹脂等のシール材205を充填するといった防水作業も必要になる。
【0006】
また、プレキャストコンクリートブロックによる工法は、プレキャストコンクリートブロックの据え付けとその接合のためのコンクリート打設のみの作業となるが、ブロック一部材あたりの重量が大きいため、その据え付けに大型の揚重機が必要になり、このような大型機械を狭隘な山間部の斜面等に搬入するのが困難なことが多い。
【0007】
本発明は上記のような事情のもとになされたもので、その主な技術的課題は、現場での型枠の組立及び解体作業を排除して一層の工期短縮を図り、現場での施工の容易化を図ることにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上述した技術的課題は、本発明によって有効に解決することができる。
すなわち本発明に係る壁状コンクリート構築物の構築方法は、厚さ方向に互いに対向配置される一対のPCa型板を支保体を介して互いに連結した型枠を製作し、この型枠を現場に搬入して所定の施工箇所に設置し、前記両PCa型板の間の空間にコンクリートを打設してこのコンクリートと前記型枠を一体化するものである。そして前記支保体は、前記両PCa型板間に介在される枠状PCaウェブ板と、前記両PCa型板の内側面から互いに対向する方向へ突設された螺子軸と、この双方の螺子軸に螺合する螺子継手を備えるターンバックルとからなり、前記型枠を製作する工程では、前記ターンバックルの両螺子軸に対する緊張力によって前記枠状PCaウェブ板の両端面に前記両PCa型板の内側面を圧接固定させることを特徴としている。なお、ここでいう「壁状コンクリート構築物」とは、砂防ダムや小規模ダムの堤体あるいは重力擁壁等を総称するものであり、「PCa」とはプレキャストコンクリートの略称であって工場等で予め成形されたコンクリート製品をいう。
【0009】
本発明によれば、PCa型板は、コンクリート打設の際の型板であると共に、打設後経時的に硬化するコンクリートと接合一体化されてコンクリート構築物の表層部となるものであるため、コンクリート打設後に前記PCa型板を解体する必要がない。また、一対のPCa型板を支保体を介して互いに連結することによる型枠の製作は現場以外の箇所で行われるので、現場では完成した型枠を搬入・設置した後に直ちにコンクリートの打設を行うことができる。したがって本発明の構築方法は、危険な山間部での砂防ダムの構築のように、現場での滞在時間をできる限り短縮する必要がある場合に極めて有用である。
【0010】
支保体は、両側のPCa型板を所定の間隔に保持した状態に固定して後打ちコンクリートの打設空間を形成するものであり、両PCa型板間に介在される枠状PCaウェブ板と、前記両PCa型板の内側面から互いに対向する方向へ突設された螺子軸及びこの双方の螺子軸に螺合する螺子継手を備えるターンバックルとからなるため、両PCa型板間に枠状PCaウェブ板を介在させると共にターンバックルを連結し、このターンバックルの螺子継手を締め付け方向に回転させて螺子軸に緊張力を与えて、前記枠状PCaウェブ板の両端面に前記両PCa型板の内側面を圧接固定させることによって、型枠を容易に製作することができる。なお、PCaウェブ板を「枠状」としたのは、PCa型板間に打設された後打ちコンクリートがPCaウェブ板によって堰き止められることがないようにするためである。
【0011】
【0012】
また、本発明において一層好ましくは、壁状コンクリート構築物の天端部における後打ちコンクリートを、両PCa型板の上端部の上側の高さまで打設する。このようにすれば、両PCa型板の上端部が後打ちコンクリートによって上から包み込まれた接合構造となるので、日照によるPCa型板の反り及びこれに伴う後打ちコンクリートとの境界に沿った亀裂が発生せず、前記境界へ雨水が浸透することがない。
【0013】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明に係る壁状コンクリート構築物の構築方法を例えば砂防ダムの構築に適用した実施形態を工程順に示すものである。この実施形態においてはレディミクストコンクリートの打設による工法、すなわちモルタルと骨材とを予め所定の比率で混練したコンクリート(いわゆる生コン)を打設する方法を採用し、また、高さ方向にいくつかの施工リフトに分けて順次施工して行く方法を採用したものである。
【0014】
図1において、参照符号Gは山間部の斜面における砂防ダムの構築予定箇所を堆積土砂や礫の除去や地盤の切削等により略水平に整地した施工基盤、参照符号1はこの施工基盤Gに打設された基礎コンクリートである。基礎コンクリート1の上には、まず図1(A)に示すようにクレーン3によって第一段目の型枠2(21)を吊り込んで搬入し、前記山間部を堰き止めるように、図示の断面と直交する方向に延在された状態に設置する。
【0015】
型枠2は、厚さ方向に互いに対向しかつ上部ほど対向間隔が小さくなるように互いに傾斜した状態に配置された一対のPCa型板21,21と、このPCa型板21,21を互いに強固に連結している支保体22とからなる。このうち、PCa型板21,21は、工場あるいは現場近くの安全なエリアで生産され、十分な硬化・収縮が行われた板状のプレキャストコンクリート製品であって、後打ちされるコンクリートの側圧に対する十分な強度を有するものである。また支保体22としては、図2又は図3に示すような構造のものが採用される。
【0016】
【0017】
図2に示す型枠2は、支保体22が、PCa型板21,21間の水平方向中間部に略鉛直に介在される枠状PCaウェブ板222と、その両側位置で前記PCa型板21,21を互いに連結するターンバックル223とからなる。枠状PCaウェブ板222は、中央に大きな窓部22bを有する台形状に成形された板状のプレキャストコンクリート(鉄筋コンクリートあるいは無筋コンクリート)製品もしくは鋼材等で形成された製品である。また、ターンバックル223は良く知られた構造であって、PCa型板21,21の内側面からそれぞれ互いに対向する方向へ突設された螺子軸223a,223bと、両螺子軸223a,223bに螺合する螺子継手223cを備え、両螺子軸223a,223bは互いに逆螺子となっている。なお、枠状PCaウェブ板222の窓部22bは、PCa型板21,21間に打設されるコンクリートの流れが堰き止められることがないように形成されたものである。
【0018】
すなわち、PCa型板21,21は、各ターンバックル223における両螺子軸223a,223bと螺子継手223cを螺合させると共にこの螺子継手223cを締め付け方向に回転させることによって、前記PCa型板21,21の内側面が、その間に介在させたPCaウェブ板222における左右の斜辺状の両端縁に圧接・固定状態となり、これによって型枠2が組み立てられる。
【0019】
図3に示す型枠2は、基本的には図2と同様の構造であるが、支保体22が、複数の枠状PCaウェブ板222と、その間の位置でPCa型板21,21を互いに連結するターンバックル223とからなる。
【0020】
【0021】
上述したいずれの型枠2も、工場で製作されるか、あるいは現場近くの安全な場所で組み立てられてから現場に搬入され、クレーン3によって吊り込んで設置される。また、支保体22は、型枠2をクレーンで吊り上げた時に容易に変形せず、かつ後打ちされるコンクリートの側圧に対してPCa型板21,21をしっかり保持できる強度を有するように設けられる。
【0022】
説明を図1に戻すと、基礎コンクリート1の上に上述した図2又は図3のような構成を備える第一段目の型枠21を設置し適当な金具等によって簡単に固定したら、図1(B)に示すように、型枠21のPCa型板21,21間のコンクリート打設空間S1に、モルタルと骨材が適当な比率で配合され混練されたコンクリート4を、図示されていないコンクリートポンプによって、前記型枠21の上端近傍の高さまで打設する。このコンクリート4は、図示されていないバイブレータ等によって適宜に締め固める。
【0023】
打設されたコンクリート4は経時的に硬化して行き、これに伴って、基礎コンクリート1及び第一段目の型枠21と一体化される。すなわち、コンクリート4の打設時に堰板として機能するPCa型板21,21は、コンクリート4の所定の養生期間が経過した後に取り外されるものではなく、そのままコンクリート表面に残されて砂防ダム表層部となるものであるため、コンクリート4の水和反応による硬化(養生)が充分に行われる。なお、PCa型板21,21の裏面は、前記コンクリート4との接合性を向上させるために、好ましくは刷毛引きや洗い出しによる粗面加工が施され、あるいはジベル筋やコッタ等が設けられる。
【0024】
コンクリート4に適当な強度が発現されたら、図1(C)に示すように、第一段目の型枠21の上に第二段目の型枠22をクレーン3によって吊り込んで設置する。この第二段目の型枠22におけるPCa型板21,21は、第一段目の型枠21におけるPCa型板21,21と連続した斜面を形成するように、支保体22によって連結されている。そしてこの第二段目の型枠22におけるPCa型板21,21の下端部は、図4(A)又は(B)に示すような金具5及びこれに挿通されるボルト6を介して、硬化した後打ちコンクリート部41の両側の表層部21’,21’(第一段目の型枠21におけるPCa型板21,21)の上端部に仮固定される。また好ましくは図5(A)〜(C)に示すように、PCa型板21,21の上端面と、その上段に設置される型枠のPCa型板21,21の下端面のうち一方に突条21b,21bを形成し他方にこの突条と嵌合可能な溝21c,21cを形成することによって、上段の型枠をその下段の型枠に対して確実に位置決めすると共に、コンクリートの打設時の漏れ防止を図る。
【0025】
第二段目の型枠22の設置・固定が終わったら、そのPCa型板21,21の間であって硬化した後打ちコンクリート部4’の上のコンクリート打設空間S2に、図1(B)と同様にしてコンクリート4を打設する。そしてこのコンクリートは、図1(D)に示すように、打設後経時的に硬化して行くことによってその下側の後打ちコンクリート部4’と一体的に接合されると共に、第二段目の型枠22におけるPCa型板21,21と一体的に接合される。
【0026】
以下、上述のような工程を所要回数繰り返して行うことによって、後打ちコンクリート部4’とその両側の表層のプレキャスト部21’,21’からなる所定高さの砂防ダムが構築される。
【0027】
砂防ダムの天端部の施工においては、図1(D)に示すように、最上段の型枠2nにおけるPCa型板21,21の上端部外側面にこの型枠2nの上方へ突出する木製、鋼材製あるいは合成樹脂製の型板7,7を取り付け、コンクリート4を、前記型枠2nにおけるPCa型板21,21の上側の高さ、すなわち前記型板7,7間の空間に達するまで打設する。このようにすれば、PCa型板21,21の上端部が後打ちコンクリートによって上から包み込まれた接合構造となるので、砂防ダムの天端部に最上段のPCa型板21,21の反りによる亀裂が発生せず、この亀裂からの雨水の浸透による表層プレキャスト部21’の剥離が発生しない。また、最上段の型枠2nにおけるPCa型板21,21の上端部を支保体22の一部である剥離防止用の鉄筋224で互いに連結した構造とすることも、前記亀裂の発生を防止する手段として有効である。なお、型板7,7は、最上段に打設したコンクリート4が硬化した後で取り外される。
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
なお、本発明は、図示の実施形態によって限定的に解釈されるものではない。例えば、後打ちコンクリート4の打設には、プレパックドコンクリートによる方法、すなわち粗骨材の投入後にモルタルを注入するといった工法を採用することもできる。
【0034】
また、上述の実施形態は砂防ダムを構築する場合について説明したが、本発明は、このような砂防ダムのほか、小規模なダムや重力擁壁等の構築にも適用することができる。
【0035】
【発明の効果】
本発明によると、次のような効果が実現される。
(1)請求項1に係る発明によれば、型枠を現場以外の箇所で容易に組み立てることができ、この型枠を現場に設置してコンクリートを打設し、打設後は前記PCa型板を解体する必要がないので、危険な現場での作業員の滞在時間を著しく短縮して安全性を有効に高めることができる。
(2)請求項2に係る発明によれば、請求項1による効果に加え、PCa型板の上端部を後打ちコンクリートで上から包み込むことによって、PCa型板と後打ちコンクリートとの境界に沿った亀裂が発生せず、前記境界へ雨水が浸透することがないので、天端面への防水工事が不要になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る壁状コンクリート構築物の構築方法を砂防ダムの構築に適用した実施形態を工程順に示す説明図である。
【図2】 上記実施形態において使用される型枠の他の例を示す斜視図である。
【図3】 上記実施形態において使用される型枠の他の例を示す斜視図である。
【図4】 上記実施形態における上下の型枠の連結に使用される金具を例示した説明図である。
【図5】 上記実施形態における上下の型枠のPCa型板同士の嵌合構造を例示した説明図である。
【図6】 従来技術による壁状コンクリート構築物の構築方法の一例を工程順に示す説明図である。
【図7】 従来技術による壁状コンクリート構築物の構築方法の他の例を工程順に示す説明図である。
【符号の説明】
2,21〜2n 型枠
21 PCa型板
22 支保体
4 コンクリート
7 型板
Claims (2)
- 厚さ方向に互いに対向配置される一対のPCa型板を支保体を介して互いに連結した型枠を製作する工程と、
この型枠を現場に搬入して所定の施工箇所に設置する工程と、
前記両PCa型板の間の空間に後打ちコンクリートを打設してこのコンクリートと前記型枠を一体化する工程と、
からなり、
前記支保体が、前記両PCa型板間に介在される枠状PCaウェブ板と、前記両PCa型板の内側面から互いに対向する方向へ突設された螺子軸と、この双方の螺子軸に螺合する螺子継手を備えるターンバックルとからなり、
前記型枠を製作する工程では、前記ターンバックルの両螺子軸に対する緊張力によって前記枠状PCaウェブ板の両端面に前記両PCa型板の内側面を圧接固定させることを特徴とする壁状コンクリート構築物の構築方法。 - 壁状コンクリート構築物の天端部における後打ちコンクリートを、両PCa型板の上端部の上側の高さまで打設することを特徴とする請求項1に記載の壁状コンクリート構築物の構築方法。
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