JP3935025B2 - カーボン・フェノール樹脂複合成形材料及び燃料電池用セパレータ - Google Patents

カーボン・フェノール樹脂複合成形材料及び燃料電池用セパレータ Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気・電子機器用の部品の成形や、固体高分子電解質型の燃料電池のセパレータの成形などに用いられるカーボン・フェノール樹脂複合成形材料及び、このカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を成形して得られる燃料電池用セパレータに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電気・電子機器用の部品として、また固体高分子電解質型の燃料電池に用いられるセパレータとして、樹脂成形品で形成したものが種々用いられている。そしてこれらの成形品は、高い導電性、高い放熱性、高い強度を要求されることが多い。このような導電性、熱伝導性、及び高強度の各性能が要求される樹脂成形品としては、カーボン粉末とフェノール樹脂からなる成形材料を成形したものが従来から知られている。
【0003】
このカーボン粉末とフェノール樹脂からなる成形材料としては、フェノール樹脂とカーボン粉末を混合してこれを造粒することによって粒状にしたものを用いるのが一般的である。そしてこのような粒状のカーボン・フェノール樹脂複合成形材料は、従来から一般に次のようにして製造されている。まずフェノール類とアルデヒド類とを反応触媒の存在下で反応させてフェノール樹脂を調製し、これを脱水する。次にこのフェノール樹脂をそのまま、あるいは溶剤を加えて希釈し、これをカーボン粉末に添加してニーダー等で混練し、この混練物を押出した後に乾燥し、これを粉砕することによって、カーボンとフェノール樹脂との混合粒体であるカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を得ることができるものであり、この粒状のカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を成形金型に充填して加熱・加圧することによって、成形品を成形することができる。
【0004】
ここで、上記のようにして得られた粒状のカーボン・フェノール樹脂複合成形材料は、フェノール樹脂を30〜40質量%程度含有しているのが一般的である。これは、フェノール樹脂とカーボン粉末は分散性が悪く、フェノール樹脂の量が少ないと、カーボン粉末の表面をフェノール樹脂で十分に被覆することができなくなり、カーボン粉末を均一に分散させた成形品を得ることができなくなるために、フェノール樹脂の量を30〜40質量%程度と多く配合するようにしているのである。
【0005】
しかし、このようにフェノール樹脂の量を多くすることによって、成形品の曲げ強さなどの強度を確保することができるが、フェノール樹脂の量が多くなると相対的にカーボン粉末の量が少なくなるので、成形品の導電性や熱伝導性が低下するという問題があった。
【0006】
一方、固体高分子電解質型の燃料電池に用いられるセパレータは、ガス不透過性でかつ高い導電性を有するものであることが要求される。このような要求を満たすものとして、特開2000−348740号公報、特開2001−250566号公報、特開2002−25571号公報などにみられるように、カーボン粉末とフェノール樹脂からなる成形材料を成形したものをセパレータとして用いることが行なわれている。
【0007】
燃料電池用のセパレータではこのように高い導電性が要求されるので、カーボン粉末を75質量%以上配合してカーボン・フェノール樹脂複合材料を調製するようにしている。しかしこのようにカーボン粉末の量を多くすると、そのぶんフェノール樹脂の量が少なくなり、カーボン・フェノール樹脂複合材料を成形して得られるセパレータの曲げ強度やガス不透過性が低下することになる。つまり、カーボン粉末の量が多くなってそのぶんフェノール樹脂の量が少なくなると、カーボン・フェノール樹脂複合材料の成形の際の流動性が不足し、セパレータを成形する際にカーボン粉末間の空隙をフェノール樹脂で十分に充填することができず、この結果、セパレータの曲げ強度やガス不透過性が低下するのである。
【0008】
そこで、カーボン粉末間の空隙にフェノール樹脂を充填させるために、高い圧力をかけて成形を行なうようにしているが、このような高圧の成形で得られるセパレータには、部分的に厚みのムラや歪が生じ易い。燃料電池においてセパレータは数十枚〜数百枚を重ねて組み込まれるが、上記のようにセパレータの曲げ強度が低く、しかもセパレータに厚みのムラや歪があると、燃料電池を組み立てるために多数のセパレータを重ねて締め付ける際に割れ等が容易に発生し、また燃料電池の使用時の振動、衝撃、温度変化による伸縮によって亀裂等が容易に発生するという問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、高い導電性、熱伝導性、ガス不透過性を有すると共に高い撓み性を有する成形品を得ることができるカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を提供することを目的とするものであり、また高い導電性、熱伝導性、ガス不透過性を有すると共に高い撓み性を有する燃料電池用セパレータを提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に係るカーボン・フェノール樹脂複合成形材料は、フェノール類と植物油脂とを触媒の存在下反応させて得られる油−フェノール類付加物と、アルデヒド類とを、触媒とカーボン粉末の存在下、水中で攪拌しつつ反応させて調製されたものであることを特徴とするものである。
【0011】
また請求項2の発明は、請求項1において、油−フェノール類付加物として、フェノール類と芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂と植物油脂とを触媒の存在下反応させて得られるものを用いることを特徴とするものである。
【0012】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、カーボン粉末の含有量が75質量%以上であることを特徴とするものである。
【0013】
また請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、油−フェノール類付加物とアルデヒド類とを反応させる触媒として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、あるいは第三級アミンから選ばれるものを用いることを特徴とするものである。
【0014】
また本発明の請求項5に係る燃料電池用セパレータは、請求項1乃至4のいずれかに記載のカーボン・フェノール樹脂複合成形材料によって、所定の流路パターンを備えた薄板状成形体に成形されたものであることを特徴とするものである。
【0015】
また請求項6の発明は、請求項5において、カーボン・フェノール樹脂複合成形材料中の油変性フェノール樹脂に含まれる窒素成分量が0.3質量%以下であることを特徴とするものである。
【0016】
また請求項7の発明は、請求項5又は6において、JIS K 7171「プラスチック−曲げ特性の試験方法」に準拠して、長さ100mm、幅13mm、厚さ7mmの試験片を支点間距離80mmで試験するにあたって、たわみの最大量が0.5mm以上であることを特徴とするものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
本発明においてフェノール類としては、フェノールの他にフェノールの誘導体を用いることができる。フェノール誘導体としては、例えばm−クレゾール、レゾルシノール、3,5−キシレノールなど3官能性のもの、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ジヒドロキシジフェニルメタンなどの4官能性のもの、o−クレゾール、p−クレゾール、p−ter−ブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、2,4−又は2,6−キシレノールなどの2官能性のo−又はp−置換のフェノール類などを挙げることができ、さらに塩素又は臭素で置換されたハロゲン化フェノールなどを用いることもできる。フェノール類としてはこれらから1種を選択して用いる他、複数種のものを混合して用いることもできる。
【0019】
また本発明において植物油脂としては、乾性油、半乾性油あるいは不乾性油のいずれでも用いることができるものであり、桐油、カシュー油、アマニ油、ヒマシ油、リノレン油、リノール油、アサ油、菜種油、エノ油、サフラワー油、ゴマ油、綿実油、大豆油、トール油、オイチシカ油、エポキシ化植物油などを例示することができる。植物油脂はこれらから1種を選択して用いる他、複数種のものを混合して用いることもできる。
【0020】
そして、フェノール類と植物油脂とを反応触媒下で反応させる。触媒としては、シュウ酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、塩酸、硫酸などの酸触媒を用いることができものである。触媒の量は植物油脂に対して0.05〜2質量%の範囲が好ましく、60〜100℃の温度で30分〜4時間程度反応させることによって、フェノール類に植物油脂が付加した油−フェノール類付加物を得ることができる。
【0021】
ここで、植物油脂の添加量は、フェノール類に対して5〜50質量%の範囲が好ましく、より好ましくは10〜40質量%の範囲である。植物油脂の量が10質量%未満、特に5質量%未満であると、植物油脂を付加することによる可撓性の付与が不十分になり、逆に40質量%を超えると、特に50質量%を超えると、植物油脂が過多になって反応性が低下し、また得られた成形品の耐熱性が低下するおそれがある。
【0022】
また、油−フェノール類付加物としては、上記のようにフェノール類と植物油脂とを反応させて得られるものの他に、フェノール類と芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂と植物油脂とを触媒の存在下反応させて得られるものを用いることもできる。この芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂は、メタキシレン、トルエン、メシチレン、プソイドキュメンなどの芳香族炭化水素とホルムアルデヒドとを反応させて得られる含酸素オリゴマーであり、代表例としてキシレン樹脂を挙げることができる。そしてフェノール類とこの芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂と植物油脂とを触媒の存在下反応させることによって、フェノール類に植物油脂が付加すると共に、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂のメトキシ基などが酸素の箇所で切断されてこの箇所にフェノール類が付加し、油−フェノール類付加物を得ることができるものである。このようにフェノール類と芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂と植物油脂を反応させて得られる油−フェノール類付加物は、上記のフェノール類と植物油脂とを反応させて得られる油−フェノール類付加物よりも分子鎖が長く、これにアルデヒド類を反応させて得られるフェノール樹脂の分子鎖も長くなる。このために、得られた成形品のフェノール樹脂の架橋密度が小さくなって、可撓性をより向上させることができるものである。
【0023】
フェノール類と芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂の配合比率は、フェノール類に対して芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂が3〜50質量%になるように設定するのが好ましく、より好ましくは5〜40質量%である。フェノール類に対して芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂が5質量%未満、特に3質量%未満であると、可撓性を高める効果を十分に得ることができない。またフェノール類に対して芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂が40質量%を超えると、特に50質量%を超えると、硬化性から植物油脂の量を減らさなければならなくなり、却って可撓性を低下させてしまう結果になるおそれがある。また触媒の使用量は、フェノール類に対して0.01〜4.0質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜3.0質量%である。
【0024】
次に、上記のようにして得た油−フェノール類付加物とアルデヒド類とを、触媒の存在下、カーボン粉末と混合しつつ反応させる。ここで、本発明においてアルデヒド類としては、ホルムアルデヒドの水溶液の形態であるホルマリンが最適であるが、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンのような形態のものを用いることもでき、その他アルデヒドの一部あるいは大部分をフルフラールやフルフリルアルコールに置き換えたものを用いることも可能である。
【0025】
また油−フェノール類付加物とアルデヒド類を付加縮合反応させる上記の触媒としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の酸化物や水酸化物や炭酸塩、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物や炭酸塩、第三級アミンを用いるのが好ましく、これらのうち1種のものを単独で用いる他、2種以上のものを併用することもできる。具体例を挙げれば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7などがある。
【0026】
これらのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩は、いずれも窒素成分を全く含有せず、また第三級アミンは窒素成分を含有するが第三級アミンではこの窒素成分はメチロール基に付加するようなことがないものであり、窒素成分がフェノール樹脂の分子中に取り込まれるようなことなく、フェノール樹脂を調製することができるものである。
【0027】
さらに本発明においてカーボン粉末としては、炭素質の粉末であれば特に制限されることなく使用することができるものであり、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、キッシュ黒鉛、膨張黒鉛、カーボンブラック、メソフェースカーボン、コークス粉、木炭粉、籾殻炭、炭素繊維の粉末などを用いることができ、さらにこれらを加工した球状化黒鉛や塊状化黒鉛などを用いることができる。カーボン粉末はこれらから1種を選択して用いる他、複数種のものを混合して用いることもできる。またカーボン粉末の粒径は特に限定されるものではいが、1〜200μm程度が好ましい。
【0028】
そして、上記の油−フェノール類付加物とアルデヒド類と反応触媒を反応釜などの反応容器にとり、さらに反応容器にカーボン粉末、その他必要に応じて添加される滑剤、繊維、カップリング剤などの成分を投入し、これらの存在下で油−フェノール類付加物とアルデヒド類を反応させるものである。この反応は反応系を攪拌するに足る量の水中で、攪拌しつつ行なわれるものであり、反応の当初では反応系は粘稠なマヨネーズ状であって攪拌に伴って流動する状態であるが、反応が進むにつれて次第に、カーボン粉末を含む油−フェノール類付加物とアルデヒド類との縮合反応物が系中の水と分離し始め、反応生成される油変性フェノール樹脂とカーボン粉末とが凝集した複合粒子が突然に反応容器の全体に分散された状態になる。そしてさらに所望する程度に油変性フェノール樹脂の反応を進めて冷却したのちに攪拌を停止すると、この複合粒子は沈殿して水と分離される。この複合粒子は微小な含水顆粒状物となっており、反応容器から取り出して濾過することによって水から容易に分離することができものであり、これを乾燥することによって成形に適した粒状にすることができる。
【0029】
ここで、油−フェノール類付加物に対するアルデヒド類の量は、モル比で油−フェノール類付加物1モルに対してアルデヒド類0.8〜2.0モルの範囲が好ましい。アルデヒド類の量が0.8モル未満であると、未反応の油−フェノール類付加物が増加し、逆に2.0モルを超えると、未反応のアルデヒド類が多く残って臭気が強く発生するおそれがある。また触媒量は、触媒の種類によって大きく異なるが、油−フェノール類付加物体にして0.05〜5質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜3質量%である。
【0030】
上記のようにして得られる粒体は、カーボン粉末を含むカーボン・フェノール樹脂複合成形材料であり、カーボン粉末と油変性フェノール樹脂とが凝集されたものであるために、各粒子においてカーボン粉末と油変性フェノール樹脂の割合が同一であり、またバインダーである油変性フェノール樹脂は粒子の表面に極めて薄く均一に被覆されるため、油変性フェノール樹脂の量が少ないカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を容易に得ることができるものである。従って、バインダーである油変性フェノール樹脂の含有量が少ないと共にカーボン粉末の含有量が多く、カーボン粉末と油変性フェノール樹脂とが均一に分散されたカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を容易に得ることができるものである。
【0031】
ここで本発明において、カーボン・フェノール樹脂成形材料はカーボン粉末の含有量が75質量%以上になるように調製するのが好ましい。カーボン粉末の含有量が多い程、カーボン・フェノール樹脂複合成形材料を成形して得られる成形品の導電性や熱伝導性を高めることができるものであり、このような性能を十分高く得るためにはカーボン・フェノール樹脂複合成形材料中のカーボン粉末の含有量が75質量%以上であることが望ましいのである。しかし、カーボン粉末の含有量が極端に多いとバインダーである油変性フェノール樹脂の含有量が極端に少なくなり、成形して得られた成形品の強度を確保できなくなるおそれがあるので、カーボン・フェノール樹脂複合成形材料中のカーボン粉末の含有量は97質量%未満であることが好ましい。
【0032】
またこのようにして得られるカーボン・フェノール樹脂複合成形材料において、油−フェノール類付加物とアルデヒド類を付加縮合反応させる触媒として、上記のように、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、あるいは第三級アミンを用いることによって、変性フェノール樹脂には窒素成分が含有されないようにすることができるものであり、このカーボン・フェノール樹脂成形材料を成形して得られる成形品に窒素成分が取り込まれることを防ぐことができるものである。電気・電子機器用の成形品に窒素成分が多量に取り込まれていると、窒素成分の溶出によって、電気・電子機器に腐食などの問題が発生するおそれがある。また燃料電池用セパレータに窒素成分が多量に取り込まれていると、燃料電池の運転時に生成される水分によってアンモニア等として溶出し、出力が低下するおそれがある。従ってカーボン・フェノール樹脂成形材料の油変性フェノール樹脂中に含有される窒素成分の量は少ないほど望ましく、窒素成分の含有量は理想的には0%であるが、窒素含有量を0.3質量%以下に制限することによって、窒素成分による問題の発生を実質的に防ぐようにするのが望ましい。
【0033】
そして、上記のようにして得たカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を成形することによって、電気・電子機器などの部品や、固体高分子電解質型の燃料電池に用いられるセパレータを製造することができるものである。成形は、カーボン・フェノール樹脂複合成形材料を金型に充填し、加熱・加圧することによって行なうことができる。このときの加熱は、金型の温度を130〜250℃の範囲に設定して行なうのが好ましく、加圧は、10〜200MPaの範囲の面圧で行なうのが好ましい。
【0034】
また成形は、このように一段階で行なう他に、二段階で行なうようにしてもよい。二段階で成形を行なう場合には、まずカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を予備成形する。予備成形は、成形物としての最終形状に近似する形状に成形するものである。最終形状に近似する形状に予備成形をするので、加圧は5〜25MPaの範囲の低い面圧で行なえばよい。また加熱は不要であって室温で行なえばよく、加熱を行なうにしても100℃以下の温度に設定する必要がある。次に、このように予備成形して得られた予備成形体を、加熱した金型内にセットし、加圧して最終形状に成形するものである。この最終の成形の際の加熱は、金型を130〜250℃の温度に設定して行なうものであり、この加熱によって予備成形体を完全硬化させることができる。また加圧は10〜200MPa、より好ましくは25〜200MPaの面圧で行なうものであり、この加圧によって成形品の最終形状に成形することができる。カーボン粉末含有量が多く油変性フェノール樹脂含有量が少ないカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を用いる場合のように、カーボン・フェノール樹脂複合成形材料の成形の際の流動性が悪くても、上記のように予備成形で大まかな形状に成形した後に、最終成形で高圧で成形することによって、金型内の隅々まで成形材料を行き渡らせることができ、金型内に均一に充填した状態で成形を行なうことができるものである。
【0035】
図1は上記の成形によって得られた成形品の一例である、燃料電池用セパレータ4を示すものであり、所定の流路パターンで形成されるガス流路5,6を片面に設けて形成してある。そしてフッ素系樹脂などでイオン交換膜として形成される電解質膜1の両面に、カーボンクロスやカーボンペーパーなどによって形成されるアノード2とカソード3を配置し、さらにアノード2とカソード3の外側にそれぞれセパレータ4を配置することによって、固体高分子電解質型の燃料電池のセルを形成することができるものであり、アノード2とセパレータ4の間のガス流路5に水素を含有する燃料ガスを、カソード3とセパレータ4の間のガス流路6に空気を供給するようになっている。
【0036】
ここで、本発明に係るカーボン・フェノール樹脂複合成形材料は上記のようにカーボン粉末の含有率を高くしてもカーボン粉末と油変性フェノール樹脂を均一に分散させることができ、カーボン粉末の含有率が高い成形品を容易に成形することができると共に、カーボン粉末の粒子間に油変性フェノール樹脂を良好に充填させることができるものであり、導電性や熱伝導性が高く、且つガス不透過性が高い成形品を得ることができるものである。
【0037】
またフェノール樹脂は油変性によって可撓性が高められており、得られた成形品の可撓性を向上することができるものであり、成形品に割れや亀裂等が発生することを防ぐことができるものである。ここで、成形品が上記のような燃料電池用セパレータである場合、セパレータは数十枚〜数百枚を重ねて燃料電池に組み込まれるために強い力で締め付けられ、また燃料電池の使用時に振動、衝撃、温度変化による伸縮が作用し易い。このため、燃料電池用セパレータとして使用する場合には可撓性が一層高く要求されるものであり、本発明ではJIS K 7171「プラスチック−曲げ特性の試験方法」(1994年)に準拠した試験でたわみの最大量が0.5mm以上を示す可撓性を有することが好ましい。すなわち、、長さ100.0±2.0mm、幅13.0±0.2mm、厚さ7.0±0.2mmの試験片10を作製し、図2のようにこの試験片10を支点間距離L=80mmの支持台11,11の上にセットし、圧子12で加圧して曲げ試験を行ない、たわみSを測定するにあたって、たわみSの最大量、つまり試験片10が曲げ破壊されるときのたわみ量が0.5mm以上であることが好ましい。たわみSの最大量が0.5mm以下であると、燃料電池用セパレータの可撓性が不足し、セパレータを多数枚重ねて燃料電池に組み込む際の締め付け力で割れ等が発生するおそれがあり、また燃料電池の使用時の振動、衝撃、温度変化による伸縮の作用で亀裂等が発生するおそれがある。たわみSの最大量の上限は特に設定されないが、実用上は10mm程度を上限とするのが望ましい。
【0038】
【実施例】
以下本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0039】
(実施例1)
反応容器にフェノール1200質量部、パラトルエンスルホン酸3質量部、桐油300質量部をとり、混合しながら80℃まで昇温して、そのまま3時間反応させることによって、桐油でフェノールを変性した油−フェノール類付加物を得た。
【0040】
次に、反応容器にこの油−フェノール類付加物を365質量部、37質量%ホルマリンを547質量部、トリエチルアミンを7.7質量部仕込み、さらに平均粒径が6μmの鱗片状黒鉛粉末を2107質量部及び水を2500質量部仕込んだ。そしてこれを攪拌しながら60分を要して90℃まで昇温し、そのまま3時間反応を行なった。次に20℃まで冷却した後、反応容器の内容物をヌッチェによりろ別することによって、含有水分25質量%の含水顆粒状物を得た。この含水顆粒状物を、ステンレス製バットに敷いたポリエチレンシートの上に約2cmの厚さに広げて48時間乾燥し、さらにこれを真空乾燥機中40℃で乾燥することによって、含有水分0.4質量%のサラサラとした、粒状のカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を得た。このカーボン・フェノール樹脂複合成形材料中の黒鉛の含有量は80.2質量%、油変性フェノール樹脂の含有量は19.8質量%であり、油変性フェノール樹脂中の窒素の含有量は0.02質量%、油変性フェノール樹脂の桐油変性率は14.0質量%であった。尚、窒素の含有量の測定は、カーボン・フェノール樹脂複合成形材料にアセトンを加えてフェノール樹脂を抽出し、アセトンを留去した後、ケルダー法によって行なった。
【0041】
(実施例2)
実施例1において、油−フェノール類付加物を274質量部、37質量%ホルマリンを410質量部、トリエチルアミンを6質量部用いるようにした他は、実施例1と同様にして反応及び乾燥を行ない、粒状のカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を得た。このカーボン・フェノール樹脂複合成形材料の含有水分率は0.3質量%、カーボン・フェノール樹脂複合成形材料中の黒鉛の含有量は85.2質量%、油変性フェノール樹脂の含有量は14.8質量%であり、油変性フェノール樹脂中の窒素の含有量は0.02質量%、油変性フェノール樹脂の桐油変性率は14.0質量%であった。
【0042】
(実施例3)
反応容器にフェノール1200質量部、パラトルエンスルホン酸3質量部、桐油600質量部をとり、混合しながら80℃まで昇温して、そのまま3時間反応させることによって、桐油でフェノールを変性した油−フェノール類付加物を得た。
【0043】
この油−フェノール類付加物を用いるようにした他は、実施例1と同様にして反応及び乾燥を行ない、粒状のカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を得た。このカーボン・フェノール樹脂複合成形材料の含有水分率は0.35質量%、カーボン・フェノール樹脂複合成形材料中の黒鉛の含有量は79.9質量%、油変性フェノール樹脂の含有量は20.1質量%であり、油変性フェノール樹脂中の窒素の含有量は0.02質量%、油変性フェノール樹脂の桐油変性率は22.7質量%であった。
【0044】
(実施例4)
実施例3で得た油−フェノール類付加物を用いるようにした他は、実施例2と同様にして反応及び乾燥を行ない、粒状のカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を得た。このカーボン・フェノール樹脂複合成形材料の含有水分率は0.35質量%、カーボン・フェノール樹脂複合成形材料中の黒鉛の含有量は84.9質量%、油変性フェノール樹脂の含有量は15.1質量%であり、油変性フェノール樹脂中の窒素の含有量は0.02質量%、油変性フェノール樹脂の桐油変性率は24.1質量%であった。
【0045】
(実施例5)
反応容器にフェノール370質量部、キシレン樹脂(リグナイト(株)製「リグノールH」、含酸素量10.5質量%)40質量部、パラトルエンスルホン酸0.5質量部、桐油200質量部をとり、混合しながら90℃まで昇温して、そのまま3時間反応させることによって、キシレン樹脂にフェノールを反応させると共に桐油でフェノールを変性した油−フェノール類付加物を得た。
【0046】
この油−フェノール類付加物を用いるようにした他は、実施例2と同様にして反応及び乾燥を行ない、粒状のカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を得た。このカーボン・フェノール樹脂複合成形材料の含有水分率は0.3質量%、カーボン・フェノール樹脂複合成形材料中の黒鉛の含有量は84.9質量%、油変性フェノール樹脂の含有量は15.1質量%であり、油変性フェノール樹脂中の窒素の含有量は0.02質量%、油変性フェノール樹脂の桐油変性率は24.1質量%であった。
【0047】
(比較例1)
粒径74μm以下に粉砕したアルカリレゾール型フェノール樹脂を200質量部とり、これにメタノールを加えてスラリー状にし、これに平均粒径が100μmで固定炭素が95.3質量%の鱗片状黒鉛粉末を800質量部加え、ニーダーで攪拌した。さらにこれを60℃で乾燥した後、ステアリン酸マグネシウムを微量添加してミキサーで粉砕混合することによって、カーボン・フェノール樹脂複合成形材料を得た。このカーボン・フェノール樹脂複合成形材料中の黒鉛の含有量は80質量%、フェノール樹脂の含有量は20質量%であり、成形材料中の窒素の含有量は0.02質量%であった。
【0048】
(比較例2)
反応容器にフェノールを274質量部、37質量%ホルマリンを410質量部、ヘキサメチレンテトラミンを30質量部仕込み、さらに平均粒径が6μmの鱗片状黒鉛粉末を2107質量部及び水を2500質量部仕込んだ。そしてこれを攪拌しながら60分を要して90℃まで昇温し、そのまま3時間反応を行なった。次に20℃まで冷却した後、反応容器の内容物をヌッチェによりろ別することによって、含有水分25質量%の含水顆粒状物を得た。この含水顆粒状物を、ステンレス製バットに敷いたポリエチレンシートの上に約2cmの厚さに広げて48時間乾燥し、さらにこれを真空乾燥機中40℃で乾燥することによって、含有水分0.35質量%のサラサラとした、粒状のカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を得た。このカーボン・フェノール樹脂複合成形材料中の黒鉛の含有量は84.7質量%、フェノール樹脂の含有量は15.3質量%であり、フェノール樹脂中の窒素の含有量は4.1質量%であった。
【0049】
上記のようにして実施例1〜5及び比較例1〜2で得たカーボン・フェノール樹脂複合成形材料について、成形の際の流れ、疎充填かさ密度、粒度を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
ここで、流れの測定は、試料量を10g、荷重を39.2kN、加圧時間を2分に設定して、JIS K 6911「成形材料(円板式流れ)」に準拠して行なった。
【0051】
また疎充填かさ密度の測定は、筒井理化学機械(株)製の「ABD粉体物性測定器」を用い、測定円台に100cmの試料容器を載せ、これに試料を上部のホッパから供給し、試料容器が一杯になった時点で山になった部分をヘラですり取り、試料容器内の試料の全量を測定することによって行ない、次の式から疎充填かさ密度を算出した。
疎充填かさ密度(g/cm)=(試料の重量:g)/(試料容器の容量:100cm
また粒度の測定は、(株)飯田製作所製の振動ふるい器を用いて行なった。
【0052】
【表1】
Figure 0003935025
【0053】
また、実施例1〜5及び比較例1〜2で得たカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を、予め160℃に加熱した金型に充填し、約25MPaの面圧で加圧しながら3分間加熱して成形することによって、成形品を得た。そしてこの成形品を試験片として、曲げ強さ、曲げ弾性率、たわみの最大量、抵抗率、ロックウェル硬さ、気体透過度、電気伝導度を測定した。結果を表2に示す。
【0054】
ここで、曲げ強さ、曲げ弾性率、たわみの最大量の測定は、長さ100mm×幅13mm×厚さ7mmの試験片を用い、JIS K 7171に準拠して行なった。また抵抗率の測定は、板厚2mmの試験片を用いてJIS K 7194に準拠して、ロックウェル硬さの測定は、JIS K 7202に準拠して行なった。
【0055】
気体透過度の測定は、試験片の片面に窒素ガスにより0.1MPaの圧力をかけた際の、窒素ガスの透過量を求めることによって行なった。また電気伝導度の測定は、厚さ2mmの成形品から切り出した4.0gの試験片を350mlの純水にいれ、これを90℃で500時間加熱した後に行なった。
【0056】
【表2】
Figure 0003935025
【0057】
表2にみられるように、各実施例のものは、たわみの最大量が比較例1,2のものより大きく、可撓性が高いことが確認される。また各実施例の気体透過度は比較例1のものよりも小さく、各実施例の電気伝導度は比較例1のものよりも低いことが確認される。
【0058】
【発明の効果】
上記のように本発明の請求項1に係るカーボン・フェノール樹脂複合成形材料は、フェノール類と植物油脂とを触媒の存在下反応させて得られる油−フェノール類付加物と、アルデヒド類とを、触媒とカーボン粉末の存在下、水中で攪拌しつつ反応させて調製されたものであるので、油−フェノール類付加物とアルデヒド類とを触媒の存在下でカーボン粉末と混合しつつ反応させることによって、高いカーボン含有量のカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を、油変性フェノール樹脂とカーボン粉末の分散性が良好な状態で得ることができるものであり、カーボン粉末を均一に分散させた成形品を成形することができるものであって、強度を確保しつつ導電性、熱伝導性、ガス不透過性などの性能が高い成形品を得ることができるものである。しかもカーボン・フェノール樹脂複合成形材料中の、油−フェノール類付加物とアルデヒド類とを反応させて得られる油変性フェノール樹脂は、油変性によって可撓性が高められており、このカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を成形して得られた成形品の可撓性を向上することができるものであり、成形品に割れや亀裂等が発生することを低減することができるものである。
【0059】
また請求項2の発明は、請求項1において、油−フェノール類付加物として、フェノール類と芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂と植物油脂とを触媒の存在下反応させて得られるものを用いるようにしたので、油−フェノール類付加物とアルデヒド類とを反応させて得られる油変性フェノール樹脂の可撓性をより高めることができるものである。
【0060】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、カーボン粉末の含有量が75質量%以上であるので、カーボン含有量が多く、導電性や熱伝導性などの性能が高い成形品を得ることができるものである。
【0061】
また請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、油−フェノール類付加物とアルデヒド類とを反応させる触媒として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、あるいは第三級アミンから選ばれるものを用いるようにしたので、窒素成分の含有が少ないカーボン・フェノール樹脂複合成形材料を得ることができるものであり、窒素成分の少ない成形品を成形することができるものである。
【0062】
また本発明の請求項5に係る燃料電池用セパレータは、請求項1乃至4のいずれかに記載のカーボン・フェノール樹脂複合成形材料によって、所定の流路パターンを備えた薄板状成形体に成形されたものであるので、高含有率でカーボン粉末を均一に分散させた状態で、強度を確保しつつ導電性やガス不透過性などが高い燃料電池用セパレータを得ることができるものであり、しかもカーボン・フェノール樹脂複合成形材料中の、油−フェノール類付加物とアルデヒド類とを反応させて得られる油変性フェノール樹脂は、油変性によって可撓性が高められており、燃料電池用セパレータに割れや亀裂等が発生することを低減することができるものである。
【0063】
また請求項6の発明は、請求項5において、カーボン・フェノール樹脂複合成形材料中の油変性フェノール樹脂に含まれる窒素成分量が0.3質量%以下であるので、窒素成分による悪影響を未然に排除した燃料電池用セパレータを得ることができるものである。
【0064】
また請求項7の発明は、請求項5又は6において、JIS K 7171「プラスチック−曲げ特性の試験方法」に準拠して、長さ100mm、幅13mm、厚さ7mmの試験片を支点間距離80mmで試験するにあたって、たわみの最大量が0.5mm以上であるので、燃料電池用セパレータは高い可撓性を有するものであり、燃料電池用セパレータに割れや亀裂等が発生することを低減することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】燃料電池のセルを示す概略断面図である。
【図2】曲げ特性の試験方法を示す概略図である。
【符号の説明】
1 電解質膜
2 アノード
3 カソード
4 セパレータ
5 ガス流路
6 ガス流路

Claims (7)

  1. フェノール類と植物油脂とを触媒の存在下反応させて得られる油−フェノール類付加物と、アルデヒド類とを、触媒とカーボン粉末の存在下、水中で攪拌しつつ反応させて調製されたものであることを特徴とするカーボン・フェノール樹脂複合成形材料。
  2. 油−フェノール類付加物として、フェノール類と芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂と植物油脂とを触媒の存在下反応させて得られるものを用いることを特徴とする請求項1に記載のカーボン・フェノール樹脂複合成形材料。
  3. カーボン粉末の含有量が75質量%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボン・フェノール樹脂複合成形材料。
  4. 油−フェノール類付加物とアルデヒド類とを反応させる触媒として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、あるいは第三級アミンから選ばれるものを用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のカーボン・フェノール樹脂複合成形材料。
  5. 請求項1乃至4のいずれかに記載のカーボン・フェノール樹脂複合成形材料によって、所定の流路パターンを備えた薄板状成形体に成形されたものであることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
  6. カーボン・フェノール樹脂複合成形材料中の油変性フェノール樹脂に含まれる窒素成分量が0.3質量%以下であることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池用セパレータ。
  7. JIS K 7171「プラスチック−曲げ特性の試験方法」に準拠して、長さ100mm、幅13mm、厚さ7mmの試験片を支点間距離80mmで試験するにあたって、たわみの最大量が0.5mm以上であることを特徴とする請求項5又は6に記載の燃料電池用セパレータ。
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